特許第6129277号(P6129277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6129277低誘電のリン含有ポリエステル化合物の組成及びその調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129277
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】低誘電のリン含有ポリエステル化合物の組成及びその調製方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/692 20060101AFI20170508BHJP
   C08G 59/40 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C08G63/692
   C08G59/40
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-220356(P2015-220356)
(22)【出願日】2015年11月10日
(65)【公開番号】特開2016-94603(P2016-94603A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2015年11月10日
(31)【優先権主張番号】201410631613.5
(32)【優先日】2014年11月11日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514156471
【氏名又は名称】江蘇雅克科技股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100102185
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 繁範
(74)【代理人】
【識別番号】100129399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】謝 東穎
(72)【発明者】
【氏名】沈 ▲埼▼
(72)【発明者】
【氏名】呂 榮哲
(72)【発明者】
【氏名】游 帝凱
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−251133(JP,A)
【文献】 特開2008−019311(JP,A)
【文献】 特開2003−105058(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145950(WO,A1)
【文献】 特許第5814431(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63/00−63/91
C08G59/00−59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物、(B)m−塩化フタロイル、p−塩化フタロイルから選ばれる1種またはそれらの組み合わせ、及び(C)末端封鎖剤とする単官能芳香族フェノール系化合物が縮合重合反応により調製される低誘電のリン含有ポリエステル化合物であって、
前記リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物が、下記の化合物(A‐1)〜(A‐2)の1種又は多種の組み合わせから選ばれる低誘電のリン含有ポリエステル化合物。
[化合物(A‐1)
【化1】
ただし、
【化2】
【化3】
であり、異なる構造単位において同じ又は異なってもよく、
【化4】
であり、ただし、異なる構造単位において同じ又は異なってもよく、
p=0〜2、q=0〜2、p+qが≧1の整数であり、aが≧0の整数であり、
化合物(A‐2)
【化5】
ただし、X、p、qの定義が上記と同じであり、
kが≧0の整数である。
【請求項2】
前記リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、以下の構造を有する請求項に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物。
【化6】
(ただし、i=0〜2、j=0〜2、i+jが≧1の整数である)
【請求項3】
前記リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、以下の構造を有する請求項に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物。
【化7】
(ただし、i=0〜2、j=0〜2、i+jが≧1の整数である)
【請求項4】
前記リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、以下の構造を有する請求項に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物。
【化8】
(ただし、r=0〜2、s=0〜2、r+sが≧1の整数である)
【請求項5】
前記リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、以下の構造を有する請求項に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物。

【化9】
(ただし、t=0〜2、v=0〜2、t+vが≧1の整数である)
【請求項6】
前記末端封鎖剤とする単官能芳香族フェノール系化合物は、フェノール、o‐クレゾール、m‐クレゾール、p‐クレゾール、o‐フェニルフェノール、m‐フェニルフェノール、p‐フェニルフェノール、2,6‐ジメチルフェノール、2,4‐ジメチルフェノール、α‐ナフトール及びβ‐ナフトールから選ばれる1種又はそれらの組み合わせである請求項1に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物。
【請求項7】
請求項1に記載の低誘電のリン含有ポリエステル化合物を単独に、又は通常のエポキシ樹脂硬化剤と混合してから、エポキシ樹脂と高温で反応させて調製されることを含む調製方法であって、形成された難燃エポキシ樹脂硬化物をプリント回路基板の基材樹脂及び半導体パッケージ材料に用いられるリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項8】
リンの質量含有量は、0.5〜10%の範囲にある請求項に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項9】
前記通常のエポキシ樹脂硬化剤は、フェノール樹脂(phenol‐formaldehyde novolac)、o‐クレゾール‐ホルムアルデヒド樹脂(cresol‐formaldehyde novolac)、ビスフェノールAフェノール樹脂(bisphenol A‐formaldehyde novolac)、ジシアンジアミド(dicyandiamide)、メチレンジアニリン(methylenedianiline)、ジアミノジフェニルスルホン(diaminodiphenyl sulfone)から選ばれる1種又はそれらの組み合わせである請求項に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項10】
前記エポキシ樹脂は、ビスフェノールA(bisphenol A)エポキシ樹脂、ビスフェノールF(bisphenol F)エポキシ樹脂、ビスフェノールS(bisphenol S)エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール(biphenol)エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂(phenol novolac epoxy)、o‐クレゾールホルムアルデヒドエポキシ樹脂(cresol novolac epoxy)、ビスフェノールAエポキシ樹脂(bisphenol A novolac epoxy)、α‐ナフトールフェノールエポキシ樹脂、β‐ナフトールフェノールエポキシ樹脂とジシクロペンタジエンとフェノールの重合体のエポキシ樹脂から選ばれる1種又はそれらの組み合わせである請求項に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項11】
前記リン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法は、リン含有難燃エポキシ樹脂硬化物が硬化促進剤の存在で調製される請求項に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項12】
前記硬化促進剤の重量は、全部のエポキシ樹脂と硬化剤との総重量の0.01〜2.5%である請求項11に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【請求項13】
前記硬化促進剤は、2‐メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール、2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、1‐ベンジル‐2‐メチルイミダゾール、2‐ヘプタデシル、2‐ウンデシルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフェートとトリエチルホスフェートから選ばれる1種又はそれらの組み合わせである請求項11に記載のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物技術分野に属し、(A)リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物と、(B)二官能芳香族アクリル塩化物と、(C)末端封鎖剤とする単官能芳香族フェノール系化合物とがある条件で縮合重合反応により調製され、エポキシ樹脂の硬化剤として使用されるリン含有ポリエステル化合物の組成及びその調製方法に関する。前記新規のリン含有ポリエステル化合物とエポキシ樹脂のエポキシ基との反応により、環境に優しく、低誘電特性、低誘電損率、耐熱性が優れたハロゲンフリー難燃エポキシ樹脂硬化物が得られる。なお、前記硬化物は、高い架橋密度があり、架橋点のエステル結合が加水分解しても低分子量のカルボン酸が遊離しなく、高湿度でも低誘電損率が示される。このため、集積回路基板及び半導体のパッケージ材料に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その自身の化学構造によって、反応性、強靭性、柔軟性等において何れも優れた性能を有し、且つ良好な機械性能、電気性能及び寸法安定性を有しており、異なる基材に対して、その密着性も非常に優れ、硬化後のエポキシ樹脂が、基材の本来の特性を保つことができるだけではなく、更に水、気体及び化学物質へのバリア性を有し、且つ軽質、コストが低い等のメリットを有するため、電子及び航空宇宙産業、特に半導体パッケージ材とプリント回路基板等の分野に幅広く適用されている。一方、科技が日進月歩で発展するに伴って、数多くのコンピュータ情報産業、通信業及び消費電子製品の変化は非常に速い。電子産業全体を総合的に見ると、その発展は、以下の特色を有する。
1.使用頻度がますます高くなる。
2.製造技術のレベルがますます高くなる。
【0003】
プリント回路基板について、低誘電、低熱膨張、多層化、高耐熱化等の方向へ発展するとともに、環境に優しい要求を満たすために、電子、通信製品も軽薄短小で、高信頼性、多機能化と環境保護を要求する傾向にある。その中、ワイヤレス・ネットワーク、通信機材の使用が高周波化となることに伴って、高周波基板に対するニーズも必然的に今後の傾向となる。簡単に言うと、高周波通信基板に使用される材料に対する要求としては、データを快速に伝送し、伝送中にデータの損失又は障害が生じないことにほかならないため、高周波通信器材を選択し製造する場合に、以下のような基本的な特性を有しなければならない。
(1)誘電率が小さく安定である。
(2)誘電損率が必ず小さい。
(3)低吸水率。
(4)耐薬品性が優れる。
(5)耐熱性がよい。
【0004】
このため、高周波基板材料を発展させるために、難燃及び耐熱性に加え、低誘電率及び低誘電損率等の優れた電気特性等のニーズもが既に当業者が克服しなければならない重要な課題となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記高周波基板材料の発展は、難燃及び耐熱性に加え、低誘電率及び低誘電損率等の優れた電気特性等のニーズという問題がある。本発明は、上記の問題に鑑みて、低誘電率及び優れた耐熱性を主な特徴とするとともに、難燃等の特徴を兼ねて有する低誘電リン含有ポリエステル化合物を提供することを課題とする。前記低誘電リン含有ポリエステル化合物がエポキシ樹脂と反応する時に、エポキシ樹脂硬化による高極性ヒドロキシと反応して脂質構造を形成し、誘電率を効果的に低下させるため、高周波通信器材の分野に適用されることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、低誘電率及び優れた耐熱性を主な特徴とするとともに、難燃等の特徴を兼ねて有する低誘電リン含有ポリエステル化合物を主に提供する。この低誘電リン含有ポリエステル化合物がエポキシ樹脂と反応する時に、エポキシ樹脂硬化による高極性ヒドロキシと反応して脂質構造を形成し、誘電率を効果的に低下させるため、高周波通信器材の分野に適用されることができる。
【0007】
プリント回路基板材料の電気特性は、(i)樹脂、(ii)充填材及び(iii)補強材の基板の3つの主要な組合せ材料の種類により定める。樹脂体系について、現在の汎用のエポキシ樹脂(例えば、アジア南部NPEB454A80)とガラス繊維(E glass)から組み合わせたFR‐4(Tg140℃)基板規格、その誘電率(Dk)の値がただ4.6のレベルに達すため、高周波伝送分野の要求に満たさなく、続々と異なる樹脂体系(例えば、ビスマレイミドトリアジン樹脂(BismaleimideTriazine resin,BT)、シアネートエステル樹脂(Cyanate ester resin)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(Polytetrafluoroethylene;PTFE)等が開発されるが、新たに開発された樹脂体系のプロセス及び加工の条件が現行の基板加工プロセスの条件と差異が大きく、現行の設備を使用できないことが多いため、広く適用されることができない。
【0008】
しかしながら、エポキシ樹脂は、プリント回路基板に適用される場合、難燃性が不足という問題があり、従来は、難燃の要求を満たすためにエポキシ樹脂にハロゲン系難燃剤を添加するようになった。従来、エポキシ樹脂にハロゲン系難燃剤を添加して難燃の要求を満たす。しかしながら、ハロゲン系難燃剤は、燃焼時にダイオキシン(dioxin)、ベンゾフラン(benzofuran)及び刺激性と腐食性のある有害ガスを発生し、また小分子難燃剤が常に機械性能の低下及び光分解作用を起こし、材料を劣化させてしまい。同時に、移行と揮発という問題があって、材料性能の低下及び難燃効果が理想的ではなくなる。従って、ハロゲン化難燃剤の代わりに有機リン系化合物難燃剤を熱硬化性エポキシ樹脂組成物に用いた、例えば、特許EP A 0384939、EP A 0384940、EP A 0408990、DE A 4308184、DE A 4308185、DE A 4308187、WO A 96/07685及びWO A 96/07686に記載の発明が絶えず提案されており、また、プリント回路の積層板について、環境保護意識の向上に伴って、現在、国際規範が何れも鉛フリープロセス(Lead free)を要求するため、基板の加工性能に対する要求が非常に厳しくなり、特に材料のガラス転移点(Tg)及び基板の半田ポットにおける耐熱性等の性能が既に当業者が克服しなければならない重要な課題となっている。
【0009】
本発明は、正にエポキシ樹脂硬化に適用でき、且つ効率的な難燃効果を付与する新規の低誘電のリン含有ポリエステル化合物を提供することにある。活性エステル基を導入することによって、誘電率を効果的に低下させ、別に環境に優しい有機リン系基を引き入れることで、本来のエポキシ樹脂の優れた特性を保持することができる以外、また効率的な難燃の要求を満たすことができる。纏めて言うと、本発明に提供するエステル基改質のリン含有フェノール樹脂化合物は、エポキシ樹脂硬化剤の機能を務めることができる。エポキシ樹脂と反応して得られたエポキシ樹脂硬化物は、低誘電率、高難燃性、高材料のガラス転移点(Tg)及び耐熱性等の特徴を備えることで、前記硬化体系を見事に高周波率の電子材料分野に適用できるようにする。
【0010】
この新規の低誘電のリン含有ポリエステル化合物は、(A)リン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物、(B)二官能芳香族アクリル塩化物、(C)末端封鎖剤とする単官能芳香族フェノール系化合物が、ある条件で縮合重合反応により調製されるものである。
【0011】
本発明の調製方法に使用されるリン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物は、下記の化合物(A‐1)〜(A‐4)の1種又は多種の組み合わせから選ばれる。
【0012】
化合物(A‐1)
【化1】
ただし、
【化2】
であり、
【化3】
であり、ただし、異なる構造単位において同じ又は異なってもよく、
【化4】
ただし、異なる構造単位において同じ又は異なってもよく、
p=0〜2、q=0〜2、p+qが≧1の整数であり、aが≧0の整数である。
【0013】
化合物(A‐2)
【化5】
ただし、X、p、qの定義が上記と同じであり、kが≧0の整数である。
【0014】
化合物(A‐3)
【化6】
【0015】
化合物(A‐4)
【化7】
【0016】
上記のリン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、
【化8】
であってもよく、ただし、i=0〜2、j=0〜2、i+jが≧1の整数である。
【0017】
上記のリン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、
【化9】
であってもよく、ただし、i=0〜2、j=0〜2、i+jが≧1の整数である。
【0018】
上記のリン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、
【化10】
であってもよく、ただし、r=0〜2、s=0〜2、r+sが≧1の整数である。
【0019】
上記のリン含有多官能芳香族ヒドロキシ化合物(A‐1)は、
【化11】
であってもよく、ただし、t=0〜2、v=0〜2、t+vが≧1の整数である。
【0020】
本発明の調製方法に使用される二官能芳香族アクリル塩化物は、m‐塩化フタロイル、p‐塩化フタロイルから選ばれる1種又はそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0021】
本発明の調製方法に使用される末端封鎖剤とする単官能芳香族フェノール系化合物は、フェノール、o‐クレゾール、m‐クレゾール、p‐クレゾール、o‐フェニルフェノール、m‐フェニルフェノール、p‐フェニルフェノール、2,6‐ジメチルフェノール、2,4‐ジメチルフェノール、α‐ナフトール及びβ‐ナフトールから選ばれる1種又はそれらの組み合わせであることが好ましい。
【0022】
本発明は、上記新規の低誘電のリン含有ポリエステル化合物を単独に、又は通常のエポキシ樹脂硬化剤と混合してから、エポキシ樹脂と高温で反応させて調製されるリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物の調製方法を同時に提供する。前記ハロゲンフリー難燃エポキシ樹脂組合物がガラス繊維に含浸され、更に加熱硬化を経た後、難燃銅張積層板を形成し、集積回路基板及び半導体のパッケージ材料として使用されることができ、即ち、形成された難燃性エポキシ樹脂硬化物がプリント回路基板の基材樹脂及び半導体パッケージ材料とされることができる。
【0023】
本発明に使用される通常のエポキシ樹脂硬化剤は、フェノール樹脂(phenol‐formaldehyde novolac)、o‐クレゾール‐ホルムアルデヒド樹脂(cresol‐formaldehyde novolac)、ビスフェノールAフェノール樹脂(bisphenol A‐formaldehyde novolac)、ジシアンジアミド(dicyandiamide)、メチレンジアニリン(methylenedianiline)、ジアミノジフェニルスルホン(diaminodiphenyl sulfone)又はそれらの組み合せであってもよい。
【0024】
本発明に使用されるエポキシ樹脂は、ビスフェノールA(bisphenol A)エポキシ樹脂、ビスフェノールF(bisphenol F)エポキシ樹脂、ビスフェノールS(bisphenol S)エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール(biphenol)エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂(phenol novolac epoxy)、o‐クレゾールホルムアルデヒドエポキシ樹脂(cresol novolac epoxy)、ビスフェノールAエポキシ樹脂(bisphenol A novolac epoxy)、α‐ナフトールフェノールエポキシ樹脂、β‐ナフトールフェノールエポキシ樹脂とジシクロペンタジエンとフェノールの重合体のエポキシ樹脂における1種又は組み合わせであってもよい。特に、上記のジシクロペンタジエンとフェノールの重合体を含むエポキシ樹脂を使用する場合、耐熱性と低誘電損率に加え、また優れた耐湿性を有し、半導体パッケージ材料分野とプリント回路基板用途での耐クラック性が良好である。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂組合物は、上記エポキシ樹脂及び低誘電のリン含有ポリエステル化合物に加え、反応を効果的に促進するために、硬化促進剤を同時に使用してもよい。硬化促進剤を使用する重量が全部のエポキシ樹脂と硬化剤との総重量の0.01〜2.5%の範囲にある。好適な硬化促進剤は、例えば、2‐メチルイミダゾール、2‐フェニルイミダゾール又は2‐エチル‐4‐メチルイミダゾール、1‐ベンジル‐2‐メチルイミダゾール、2‐ヘプタデシル、2‐ウンデシルイミダゾール、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートにおける1種又は組み合わせ等であってもよい。
【0026】
本発明のエポキシ樹脂組合物に含まれるエポキシ樹脂と低誘電のリン含有ポリエステル化合物の配合量は、エポキシ樹脂における1molのエポキシ基に対して、リン含有ポリエステル化合物におけるエステル基が0.15〜5molの配合量であることが好ましく、0.5〜2.5molの配合量であることが更に好ましい。リン含有ポリエステル化合物の配合量が前記範囲外にある場合、リン含有ポリエステル化合物とエポキシ樹脂との反応が不足となり、誘電損率及びガラス転移点への影響の効果もそれに伴って不足となる。
【0027】
本発明のエポキシ樹脂組合物において、用途に応じて無機充填材料を配合してもよい。上記無機充填材料としては、溶融二酸化ケイ素、結晶性二酸化ケイ素、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等であってもよい。上記無機充填材料の配合量が非常に大きい場合、溶融二酸化ケイ素を使用することが好ましい。上記溶融二酸化ケイ素は、破砕状、球状を使用してもよいが、溶融二酸化ケイ素の配合量を向上させ成形材料の熔融粘度の向上を抑制するために、主に球状を使用することが好ましい。なお、球状二酸化ケイ素の配合量を向上させるために、好適に球状二酸化ケイ素の粒度分布を調整することが好ましい。
【0028】
本発明のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物において、エポキシ樹脂と硬化剤は、同じ当量を使用し、150℃よりも高い温度条件で硬化反応をさせて得られる。
【0029】
UL94のV‐0難燃レベルに達するために、本発明のリン含有難燃エポキシ樹脂硬化物(エポキシ樹脂+リン含有ポリエステル化合物+他の助剤)において、レシピ組成と各成分の具体的な構造は多種の変更形式があるが、最終の硬化物におけるリンの含有量を0.5〜10%の質量範囲内に制御すればよい。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本開示内容の記述をより詳細化し充実させるためには、下記で本発明の実施態様と具体的な実施例について、説明的な記述を提出するが、これは本発明を実施し又は運用する唯一の形式ではない。以下で開示される各実施例を、更なる記載又は説明なしに、有益な場合で互いに組み合わせ又は取り替わってもよいし、一実施例に他の実施例を付加してもよい。以下の記述において、読者に以下の実施例を十分に理解させるように、数多くの特定な細部を詳しく説明する。しがしながら、これらの特定の細部がなくても本発明の実施例を実施することができる。
【0031】
下記実施例によって、本発明がさらに理解される。ここでは、以下の実施例は、単に説明するためのものであり、本発明の範囲を制限するためのものではない。
【0032】
一、リン含有ポリエステル化合物の調製方法
【0033】
合成例1
【0034】
反応釜に520gのビスフェノールA、324gのホルムアルデヒド水溶液(質量濃度37%)及び24gの水酸化ナトリウムを投入し、攪拌し始め、温度を40℃に加熱し、3時間保持した。次に、65℃に昇温させ、3時間保持した後、1480gのn‐ブタノールを加え、12時間還流させた。材料の温度を55〜60℃に低下させ、減圧蒸留によって約1000gのn‐ブタノールを除去して、中間物を得た。
【0035】
中間物に1080gのDOPO(9,10‐ジヒドロ‐9‐オキサ‐10‐ホスファフェナントレン‐10‐オキシド)を加え、2時間内に材料の温度を80℃から徐々に180℃に昇温させ、n‐ブタノールを適時に反応系から排出できるように、120℃の時点で体系を減圧した。180℃で1時間保持してから、材料の温度を130℃に低下させ、完成品を排出し、リン系フェノール樹脂P‐1を得た。
【0036】
合成例2
【0037】
反応釜に490gのビスフェノールF、324gのホルムアルデヒド水溶液(質量濃度37%)及び24gの水酸化ナトリウムを投入し、攪拌し始め、温度を40℃に加熱し、3時間保持した。次に、65℃に昇温させ、3時間保持した後、1480gのn‐ブタノールを加え、12時間還流させた。材料の温度を55〜60℃に低下させ、減圧蒸留によって約1000gのn‐ブタノールを除去して、中間物を得た。
【0038】
中間物に1080gのDOPO(9,10‐ジヒドロ‐9‐オキサ‐10‐ホスファフェナントレン‐10‐オキシド)を加え、2時間内に材料の温度を80℃から徐々に180℃に昇温させ、n‐ブタノールを適時に反応系から排出できるように、120℃の時点で体系を減圧した。180℃で1時間保持してから、材料の温度を130℃に低下させ、完成品を排出し、リン系フェノール樹脂P‐2を得た。
【0039】
合成例3
【0040】
反応釜に372gのビスフェノール、324gのホルムアルデヒド水溶液(質量濃度37%)及び24gの水酸化ナトリウムを投入し、攪拌し始め、温度を40℃に加熱し、3時間保持した。次に、65℃に昇温させ、3時間保持した後、1480gのn‐ブタノールを加え、12時間還流させた。材料の温度を55〜60℃に低下させ、減圧蒸留によって約1000gのn‐ブタノールを除去して、中間物を得た。
【0041】
中間物に1080gのDOPO(9,10‐ジヒドロ‐9‐オキサ‐10‐ホスファフェナントレン‐10‐オキシド)を加え、2時間内に材料の温度を80℃から徐々に180℃に昇温させ、n‐ブタノールを適時に反応系から排出できるように、120℃の時点で体系を減圧した。180℃で1時間保持してから、材料の温度を130℃に低下させ、完成品を排出し、リン系フェノール樹脂P‐3を得た。
【0042】
合成例4
【0043】
反応釜に542gのビスフェノールF、324gのホルムアルデヒド水溶液(質量濃度37%)及び24gの水酸化ナトリウムを投入し、攪拌し始め、温度を40℃に加熱し、3時間保持した。次に、65℃に昇温させ、3時間保持した後、1480gのn‐ブタノールを加え、12時間還流させた。材料の温度を55〜60℃に低下させ、減圧蒸留によって約1000gのn‐ブタノールを除去して、中間物を得た。
【0044】
中間物に1080gのDOPO(9,10‐ジヒドロ‐9‐オキサ‐10‐ホスファフェナントレン‐10‐オキシド)を加え、2時間内に材料の温度を80℃から徐々に180℃に昇温させ、n‐ブタノールを適時に反応系から排出できるように、120℃の時点で体系を減圧した。180℃で1時間保持してから、材料の温度を130℃に低下させ、完成品を排出し、リン系フェノール樹脂P‐4を得た。
【0045】
合成例5
【0046】
反応釜に372gのジシクロペンタジエンフェノール樹脂(台湾金隆化学K‐DPP‐85、軟化点85℃)、324gのホルムアルデヒド水溶液(質量濃度37%)及び24gの水酸化ナトリウムを投入し、攪拌し始め、温度を40℃に加熱し、3時間保持した。次に、65℃に昇温させ、3時間保持した後、1480gのn‐ブタノールを加え、12時間還流させた。材料の温度を55〜60℃に低下させ、減圧蒸留によって約1000gのn‐ブタノールを除去して、中間物を得た。
【0047】
中間物に1080gのDOPO(9,10‐ジヒドロ‐9‐オキサ‐10‐ホスファフェナントレン‐10‐オキシド)を加え、2時間内に材料の温度を80℃から徐々に180℃に昇温させ、n‐ブタノールを適時に反応系から排出できるように、120℃の時点で体系を減圧した。180℃で1時間保持してから、材料の温度を130℃に低下させ、完成品を排出し、リン系フェノール樹脂P‐5を得た。
【0048】
合成例6〜13:
【0049】
リン系フェノール樹脂、単官能芳香族フェノール系化合物をトルエンに溶解させ、また予めトルエンに溶解した二官能芳香族アクリル塩化物溶液を加え、攪拌し80℃に昇温させた。次に水酸化カリウム水溶液を滴下させ、60℃にて3時間反応させ、反応終了に静置して分離させ、下層の塩水を除去し、また水洗を3回し、水層を除去して、樹脂溶液を得た。更に80℃にて乾燥させ、乾燥された樹脂がトルエンに溶解し、完成品の樹脂溶液を得た。詳しい原料比例は、表1に示す。
【0050】
合成例14〜15:
【0051】
ジシクロペンタジエンフェノール樹脂(台湾金隆化学K‐DPP‐85、軟化点85℃)(8eq)、単官能芳香族フェノール系化合物をトルエンに溶解させ、また予めトルエンに溶解した二官能芳香族アクリル塩化物溶液を加え、攪拌し80℃に昇温させた。次に水酸化カリウム水溶液を滴下させ、60℃にて3時間反応させ、反応終了に静置して分離させ、下層の塩水を除去し、また水洗を3回し、水層を除去して、樹脂溶液を得た。更に80℃にて乾燥させ、乾燥された樹脂がトルエンに溶解し、完成品の樹脂溶液を得た。詳しい原料比例は、表1に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
二、リン含有ポリエステル化合物の銅張積層板への適用のテスト結果
【0054】
実施例1〜8:
【0055】
リン含有ポリエステル化合物(B‐1〜B‐8)、通常の硬化剤、ビスフェノールA型フェノールエポキシ樹脂(Bisphenol A novolac epoxy resin;BNE)、o‐クレゾールホルムアルデヒドエポキシ樹脂(Cresol formaldehyde novolac epoxy resin;CNE)とフェノールエポキシ樹脂(phenol novolac epoxy;PNE)を、表2の重量比で水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素及びイミダゾール(imidazole)系硬化促進剤と適量の溶剤により均一に混合して、小型含浸機によってガラス繊維布で含浸した後、170℃で150秒加熱してから、切り取って小型ホットプレスの中で185℃×25kg/cmで2時間硬化させ、ハロゲンフリー銅張積層板を得た。
【0056】
比較例1〜2:
【0057】
ポリエステル化合物(C‐1〜C‐2)、ビスフェノールA型フェノールエポキシ樹脂(Bisphenol A novolac epoxy resin;BNE)、o‐クレゾールホルムアルデヒドエポキシ樹脂(Cresol formaldehyde novolac epoxy resin;CNE)とフェノールエポキシ樹脂(phenol novolac epoxy;PNE)を、表2における重量比で水酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、イミダゾール(imidazole)系硬化促進剤及びリン酸エステル難燃剤PX‐200(日本大八株式会社(DAIHACHI CHEMICAL INDUSTRY CO., LTD.)製品規格)と適量の溶剤により均一に混合して、小型含浸機によってガラス繊維布で含浸した後、170℃で150秒加熱してから、切り取って小型ホットプレスの中で185℃×25kg/cmで2時間硬化させ、ハロゲンフリー銅張積層板を得た。
【0058】
1.ワニスゲル化時間(sec):
【0059】
0.3mlの樹脂ワニスを取って170℃の加熱板に置いて、そのゲル化時間を測定した。
【0060】
2.ガラス転移点(℃):
【0061】
昇温速率=20℃/minの示差走査熱量測定器(DSC)を用いてテストを行った。
【0062】
3.難燃性:
【0063】
試験片を0.5in×4.7inの長方形に裁断し、火炎高さ2cmの青い炎で10秒燃焼した後で遠ざけて、合計2回燃焼した後、炎を遠ざけた後の自己消火時間を記録した。
【0064】
4.吸水率(%):
【0065】
サンプルを120℃、2atmの圧力鍋で30分間加熱した。
【0066】
5.誘電損失(1GHz):
【0067】
試験片を5×5の正方形に裁断し、且つ板の3点を取って板厚を測定した後で更に誘電分析装置に挟んで測定し、完了した後でその平均値を取った。
【0068】
6.誘電率(1GHz):
【0069】
エッチングされた基板を5cmの正方形の試験片に裁断し、105℃のオーブン内で2hrベーキングした後、取り出して板厚測定機器によって試験片の3箇所の板厚を測定した。更に試験片を誘電測定機器に挟んで、3点のデータを測定した後で平均値を取った。
【0070】
本発明を上記具体的な実施例によって説明したが、当業者であれば、上記説明に基づいて多種の変更を行うことができる。本発明の範囲は、下記特許請求の範囲やその精神内に指定される各種の変化を含む。
【0071】
表2は、銅張積層板のテスト結果を示す。
【表2-1】
【表2-2】
【0072】
上表から、実施例1〜8において、本発明に係るリン含有ポリエステル化合物を使用する場合、難燃の点については、何れもUL94V‐0の効果を達成できることに対して、比較例1〜2において、別に難燃剤が加えられたが、UL94V‐1のレベルしか達成できないことが判明された。ガラス転移点の点では、本発明のリン含有ポリエステル化合物の何れも、170℃以上のレベルを達成できるが、比較例1〜2では、160℃しか達成できない。誘電率の点では、1GHzの場合、何れも3.9以下を達成でき、また、誘電損失因素の点では、1GHzの場合も全部0.005以下のレベルを達成でき、シート材料の難燃と耐熱の何れもIPC規範の要求にも合致するため、ハイエンドのリン含有銅張積層板材料製造の分野には好適に用いられる。
【0073】
本発明の実施形態を前述の通りに開示したが、これは、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲から逸脱しない限り、多様の変更や修正を加えることができ、したがって、本発明の保護範囲は、後の特許請求の範囲で指定した内容を基準とする。