特許第6129285号(P6129285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6129285ポリイミド樹脂、それの製造方法及びそれを含む薄膜
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129285
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ポリイミド樹脂、それの製造方法及びそれを含む薄膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/10 20060101AFI20170508BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C08G73/10
   C08J5/18
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-231245(P2015-231245)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-19986(P2017-19986A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2015年11月27日
(31)【優先権主張番号】104121999
(32)【優先日】2015年7月7日
(33)【優先権主張国】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】506021156
【氏名又は名称】律勝科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100113398
【弁理士】
【氏名又は名称】寺崎 直
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 堂傑
(72)【発明者】
【氏名】鄭 思齊
【審査官】 久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】 台湾特許第000490274(TW,B)
【文献】 特開2016−089142(JP,A)
【文献】 特開2006−137881(JP,A)
【文献】 特開2004−252373(JP,A)
【文献】 特開2004−182757(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0059527(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/00−73/26
C08J 5/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド樹脂であって、次の成分から誘導されて成り、
(a)P−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)で構成される群より選択された少なくとも2種類の二無水物単量体であって、前記少なくとも2種類の二無水物単量体はP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)を含み且つその含有量が前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数の80〜95%を占め、
(b)少なくとも2種類のジアミン単量体であって、そのうち1種類のジアミン単量体が、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、かつその含有量が前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数の70〜90%を占め、残りのジアミン単量体が、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ジフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンで構成される群より選択され、かつその含有量が前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数の10〜30%を占め、
そのうち、前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数と前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数比が0.85〜1.15であり、かつ前記ポリイミド樹脂の誘電正接が0.007より小さく、線熱膨張係数が15〜35ppm/Kであることを特徴とする、ポリイミド樹脂。
【請求項2】
前記少なくとも2種類の二無水物単量体が4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物を含み、かつその含有量が多くとも前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数の15%を占めることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項3】
前記少なくとも2種類の二無水物単量体が4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)を含み、かつその含有量が多くとも前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数の15%を占めることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項4】
前記残りのジアミン単量体が非直線構造のジアミン単量体であることを特徴とする、請求項1に記載のポリイミド樹脂。
【請求項5】
ポリイミド樹脂の製造方法であって、
(a)溶媒を使用し、少なくとも2種類の二無水物単量体及び少なくとも2種類のジアミン単量体を溶解する工程であって、前記少なくとも2種類の二無水物単量体が、P−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物および4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)で構成される群より選択され、前記少なくとも2種類の二無水物単量体はP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)を含み且つその含有量が前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数の80〜95%を占め、前記少なくとも2種類のジアミン単量体のうち1種類が2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、残りのジアミン単量体が、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ジフェニルおよび2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンで構成される群より選択される工程と、
(b)溶解を経た前記少なくとも2種類の二無水物単量体と、溶解を経た前記少なくとも2種類のジアミン単量体を混合し、重合反応を行ってポリアミド酸樹脂を形成し、前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数と前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数比が0.85〜1.15である工程と、
(c)前記ポリアミド酸樹脂をイミド化し、前記ポリイミド樹脂を形成する工程と、
を含むことを特徴とする、ポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項6】
2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンの含有量が、前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数の70〜90%を占めることを特徴とする、請求項5に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記溶媒が非プロトン性溶媒であることを特徴とする、請求項5に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項8】
前記溶媒が、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドおよびN−メチル−2−ピロリドンより構成される群より選択されることを特徴とする、請求項7に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項9】
前記少なくとも2種類のジアミン単量体、前記少なくとも2種類の二無水物単量体及び前記溶媒の総重量を基礎として、前記少なくとも2種類のジアミン単量体及び前記少なくとも2種類の二無水物単量体の重量が5〜40wt%を占めることを特徴とする、請求項5に記載のポリイミド樹脂の製造方法。
【請求項10】
請求項5に記載のポリイミド樹脂の製造方法で製造されたポリイミド樹脂であって、前記ポリイミド樹脂の誘電正接が0.007より小さく、線熱膨張係数が15〜35ppm/Kであることを特徴とする、ポリイミド樹脂。
【請求項11】
請求項1に記載のポリイミド樹脂を含むことを特徴とする、薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリイミド樹脂、それの製造方法及びそれを含む薄膜に関し、特に、低誘電正接及び線熱膨張係数を有するポリイミド樹脂であって、高周波プリント基板の絶縁層に用いることができる、ポリイミド樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
フレキシブルプリント配線板(Flexible Printed Circuit Board、FPCB)は、その可撓性により、高密度化、軽量小型化及び高性能化されたモバイル通信及び携帯型電子機器等で広く用いられている。無線伝送の高周波化とデータ伝送の高速化に伴い、高周波プリント基板が将来的な発展の重点になりつつある。高周波プリント基板に対する要求の1つは、高周波高速伝送下でデータ信号の完全性を保つことであり、伝送過程で信号損失を生じたり、干渉を受けたりしてはならない。
【0003】
ポリイミド(Polyimide)のフレキシブル銅張積層板(Flexible Copper Clad Laminate、FCCL)は、優れた寸法安定性、耐熱性、熱膨張係数、機械強度、電気絶縁性を具備しているため、すでに電子産業において大量に運用されている。しかし、ポリイミドは高い比誘電率、高い誘電正接等の特性を備えているため、高周波プリント基板の絶縁層に用いるには適さない。現在よく見受けられる高周波フレキシブル基板は多くが液晶ポリマーフィルム(Liquid Crystal Polymer、LCP)を銅箔にプレスして成る。
【0004】
しかしながら、LCPの独特の分子構造特性は配向性が強くなりすぎやすく、横方向の機械性質が優れず、LCPフィルムの加工及び製品応用が重大な制限を受ける。また、LCPの独特の分子構造特性によって、その高分子ガラス転移温度(Tg)と融点(Tm)が近いため、これを応用したフレキシブル銅張積層板の熱プレス工程で寸法安定性の制御が難しい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の問題に鑑み、本発明は、ポリイミド樹脂材料自体の良好な寸法安定性、耐熱性、熱膨張係数、機械強度と電気絶縁性等の特性を保ちながら、同時に低誘電正接の特性を具備し、高周波プリント基板への応用に適した、ポリイミド樹脂、その製造方法と薄膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に基づき提供されるポリイミド樹脂は、次の成分から誘導されて成る。
【0007】
(a)P−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物および4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)で構成される群より選択された少なくとも2種類の二無水物単量体、及び
(b)少なくとも2種類のジアミン単量体であって、そのうちの1種類のジアミン単量体が2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンで、かつ少なくとも2種類のジアミン単量体成分の総モル数に占めるその含有量が70〜90%であり、残りのジアミン単量体が4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ジフェニルおよび2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンで構成される群より選択される。
【0008】
前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数と前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数比は、0.85〜1.15であり、かつこのポリイミド樹脂の誘電正接は0.007未満、線熱膨張係数は15〜35ppm/Kである。
【0009】
本発明の別の一態様に基づき提供されるポリイミド樹脂の製造方法は、次の工程を含む。
【0010】
(a)溶媒を使用して少なくとも2種類の二無水物単量体及び少なくとも2種類のジアミン単量体を溶解させる。前記少なくとも2種類の二無水物単量体は、P−フェニレンビス(トリメリテート無水物)、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物および4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)で構成される群より選択される。前記少なくとも2種類のジアミン単量体のうち1種類は2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンであり、残りのジアミン単量体は、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ジアミノベンズアニリド、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ジフェニルおよび2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンで構成される群より選択される。
(b)溶解を経た前記少なくとも2種類の二無水物単量体と溶解を経た前記少なくとも2種類のジアミン単量体を混合し、重合反応を実施してポリアミド酸樹脂を形成する。前記少なくとも2種類の二無水物単量体の総モル数と前記少なくとも2種類のジアミン単量体の総モル数比は0.85〜1.15である。
(c)ポリアミド酸樹脂をイミド化してポリイミド樹脂を形成する。
【0011】
本発明のさらに別の一態様に基づき、前述の製造方法で成るポリイミド樹脂を提供する。
【0012】
本発明のまた別の一態様に基づき、前述のポリイミド樹脂を含む薄膜を提供する。
【0013】
本発明の上述及びその他の態様についてよりはっきりと示すため、以下で実施例を挙げ、図面を参照しながら詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】実施例1のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。
図1B】実施例1のポリイミド樹脂のDSC(Differential Scanning Calorimeter、示差走査熱量計)グラフである。
図2A】実施例2のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。
図2B】実施例2のポリイミド樹脂のDSCグラフである。
図3A】実施例3のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。
図3B】実施例3のポリイミド樹脂のDSCグラフである。
図4A】実施例4のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。
図4B】実施例4のポリイミド樹脂のDSCグラフである。
図5A】実施例5のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。
図5B】実施例5のポリイミド樹脂のDSCグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の提供するポリイミド樹脂は、まず二無水物単量体とジアミン単量体を重合してポリアミド酸樹脂(ポリイミド樹脂の前駆体)とした後、ポリアミド酸樹脂のイミド化プロセスを実施して形成される。
【0016】
重合の方法は、溶媒を用いて二無水物単量体とジアミン単量体を溶解させ、溶解を経た二無水物単量体とジアミン単量体を混合して反応させると、ポリアミド酸樹脂(ポリイミド樹脂前駆体)を得ることができる。
【0017】
上述の溶媒は、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の非プロトン性溶媒とすることができるが、これらに限定されず、その他適した非プロトン性溶媒を使用してもよい。
【0018】
一実施例の重合反応において、ジアミン単量体、二無水物単量体、溶媒の総重量を基礎とし、ジアミン単量体及び二無水物単量体の重量は約5〜40wt%を占める。
【0019】
イミド化の方法は、高温キュアを使用することができ、例えば、連続または区分してポリアミド酸樹脂(ポリイミド樹脂前駆体)を加熱する。ポリイミド樹脂を薄膜または絶縁層にするときは、ポリアミド酸樹脂(ポリイミド樹脂前駆体)を基材上に塗布してから、基材全体をオーブンに送り、加熱してキュアを行うことができる。また、従来のイミド化方法を使用してもよく、本発明はこれに対する制限はない。
【0020】
本発明のポリイミド樹脂に使用する二無水物単量体は芳香族二無水物単量体であり、分子量が好ましくは400〜600の間である。分子量が比較的小さい(約200〜350)の芳香族二無水物単量体(例えば、ピロメリット酸無水物(PMDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)等)は、ポリイミド樹脂の極性イミド基の密度含有量がより高く、その比誘電率特性が高くなる。
【0021】
本発明に使用する芳香族二無水物単量体は、次の構造を含むことができる。
【0022】
TAHQ:P−フェニレンビス(トリメリテート無水物)/p−phenylenebis(trimellitate anhydride)
【化1】
【0023】
6FDA:4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物/4,4’−(hexafluoroisopropylidene)diphthalic anhydride
【化2】
【0024】
PBADA:4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)/4,4’−(4,4’−isopropylidenediphenoxy)bis(phthalic anhydride)
【化3】
【0025】
本発明のポリイミド樹脂に使用するジアミン単量体は芳香族ジアミン単量体であり、例えば次の構造とすることができる。
【0026】
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン/2,2−bis[4−(4−aminophenoxy)phenyl]propane
【化4】
【0027】
TPE−R:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン/1,3−bis(4−aminophenoxy)benzene
【化5】
【0028】
PDA:p−フェニレンジアミン/p−phenylenediamine
【化6】
【0029】
TFMB:2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン/2,2’−bis(trifluoromethyl)benzidine
【化7】
【0030】
4,4’−オキシジアニリン/4,4’−oxydianiline
【化8】
【0031】
4,4’−ジアミノジフェニルメタン/4,4’−methylenedianiline
【化9】
【0032】
4,4’−ジアミノジフェニルスルホン/4,4’−diaminodiphenylsulfone
【化10】
【0033】
4,4’−ジアミノベンズアニリド/4,4’−diaminobenzanilide
【化11】
【0034】
4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ジフェニル/m−tolidine
【化12】
【0035】
2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン/2,2−bis[4−(4−aminophenoxy)phenyl]hexafluoropropane
【化13】
【0036】
本発明は2種類以上(2種類を含む)の二無水物単量体及び2種類以上のジアミン単量体を使用し、重合して成るポリイミド樹脂であることに特に注意が必要である。
【0037】
本発明のポリイミド樹脂中、二無水物単量体成分の総モル数とジアミン単量体成分の総モル数比は約0.85〜1.15である。
【0038】
一実施例において、二無水物単量体の成分がP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)を含むとき、その含有量は二無水物単量体成分の総モル数の80〜95%を占める。
【0039】
一実施例において、二無水物単量体の成分が4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物を含むとき、その含有量は二無水物単量体成分の総モル数の最大15%を占める。
【0040】
一実施例において、二無水物単量体の成分が4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)を含むとき、その含有量は二無水物単量体成分の総モル数の最大15%を占める。
【0041】
一実施例において、ジアミン単量体の成分が2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジンを含むとき、その含有量はジアミン単量体成分の総モル数の70〜90%を占める。
【0042】
上述で特定された2種類以上のジアミン単量体及び2種類以上の二無水物単量体を、特定の割合で混合して得たポリイミド樹脂は、その誘電正接が0.007より小さく、かつ線熱膨張係数が15〜35ppm/Kである。
【実施例】
【0043】
以下、複数の実施例を挙げて本発明のポリアミド酸樹脂及びその製造方法を説明するとともに、その特性を測定する。
【0044】
ポリアミド酸溶液(ポリイミド樹脂前駆体)の作製
【0045】
[実施例1]
24.20g(0.076モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、1.85g(0.017モル)のp−フェニレンジアミン(PDA)、2.36g(0.008モル)の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)及び244.37gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れる。30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、41.75g(0.091モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)及び2.83g(0.005モル)の4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(PBADA)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、実施例1のポリアミド酸溶液が得られる。本実施例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約23wt%[(24.20+1.85+2.36+41.75+2.83)/(24.20+1.85+2.36+41.75+2.83+244.37)×100%=23%]を占める。
【0046】
[実施例2]
26.28g(0.082モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、3.74g(0.009モル)の2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)及び215.78gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、39.88g(0.087モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)及び2.02g(0.005モル)の4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、実施例2のポリアミド酸溶液が得られる。本実施例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約25wt% [(26.28+3.74+39.88+2.02)/(26.28+3.74+39.88+2.02+215.78)×100%=25%]を占める。
【0047】
[実施例3]
29.13g(0.091モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、1.84g(0.017モル)のp−フェニレンジアミン(PDA)、1.66g(0.006モル)の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)及び271.31gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、47.12g(0.102モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)及び5.92g(0.011モル)の4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(PBADA)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、実施例3のポリアミド酸溶液が得られる。本実施例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約24wt% [(29.13+1.84+1.66+47.12+5.92)/(29.13+1.84+1.66+47.12+5.92+271.31)×100%=24%]を占める。
【0048】
[実施例4]
23.56g(0.074モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、1.49g(0.014モル)のp−フェニレンジアミン(PDA)、1.89g(0.005モル)の2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)及び260.06gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、38.10g(0.083モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)及び4.09g(0.009モル)の4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、実施例4のポリアミド酸溶液が得られる。本実施例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約21wt%[(23.56+1.49+1.89+38.10+4.09)/(23.56+1.49+1.89+38.10+4.09+260.06)×100%=21%]を占める。
【0049】
[実施例5]
25.00g(0.078モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)、1.49g(0.014モル)のp−フェニレンジアミン(PDA)及び244.32gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、35.94g(0.078モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)、4.08g(0.009モル)の4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)及び2.39g(0.005モル)の4,4’−(4,4’−イソプロピリデンジフェノキシ)ビス(フタル酸無水物)(PBADA)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、実施例5のポリアミド酸溶液が得られる。本実施例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約22wt% [(25.00+1.49+35.94+4.08+2.39)/(25.00+1.49+35.94+4.08+2.39+244.32)×100%=22%]を占める。
【0050】
以下にさらに比較例1〜3を示す。比較例と実施例の違いは、比較例では1種類の二無水物単量体と1種類のジアミン単量体のみを使用して反応を行っている点である。上述の実施例1〜5はいずれも2種類以上の二無水物単量体と2種類以上の二無水物単量体を使用して反応を行っている。
【0051】
比較例1
31.25g(0.098モル)の2,2’−ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)及び227.16gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、44.47g(0.097モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、比較例1のポリアミド酸溶液が得られる。この比較例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約25wt% [(31.25+44.47)/(31.25+44.47+227.16)×100%=25%]を占める。
【0052】
比較例2
13.78g(0.127モル)のp−フェニレンジアミン(PDA)及び250.58gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、56.90g(0.124モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、比較例2のポリアミド酸溶液が得られる。この比較例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約22wt% [(13.78+56.90)/(13.78+56.90+250.58)×100%=22%]を占める。
【0053】
比較例3
25.74g(0.088モル)の1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)及び260.28gのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を三ツ口フラスコ内に入れ、30℃下で完全に溶解するまで撹拌した後、39.33g(0.085モル)のP−フェニレンビス(トリメリテート無水物)(TAHQ)を加え、続いて撹拌を続け、25℃下で24時間反応させると、比較例3のポリアミド酸溶液が得られる。この比較例において、二無水物単量体及びジアミン単量体の重量は反応溶液総重量の約20wt%[(25.74+39.33)/(25.74+39.33+260.28)×100%=20%]を占める。
【0054】
ポリイミド樹脂特性測定
上述の実施例及び比較例のポリアミド酸溶液の組成成分と比割合を下の表1にまとめて示す。実施例及び比較例のポリアミド酸溶液(ポリイミド樹脂前駆体)をイミド化してポリイミド薄膜とした後、そのIRスペクトル図、比誘電率(Dk)、誘電正接(Df)、線熱膨張係数(CTE)、ガラス転移温度(Tg)、結晶温度(Tc)を測定した。図1A図2A図3A図4A図5Aはそれぞれ実施例1〜5のポリイミド樹脂のIRスペクトル図である。図1B図2B図3B図4B図5Bはそれぞれ実施例1〜5のポリイミド樹脂のDSC(Differential Scanning Calorimeter、示差走査熱量計)図である。またデータの測定結果を下の表2にまとめて示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
表2中の各特性は、ポリアミド酸溶液を薄膜とした後、次の方法で測定した。
【0058】
比誘電率(dielectric constant、Dk):
測定器(メーカー:Agilent;型番:HP4291)を使用し、10GHzの条件下で、IPC−TM−650−2.5.5.9標準方法を採用して測定を行った。
【0059】
誘電正接(dissipation factor、Df):
測定器(メーカー:Agilent;型番:HP4291)を使用し、10GHzの条件下で、IPC−TM−650−2.5.5.9標準方法を採用して測定を行った。
【0060】
線熱膨張係数(Coefficient of thermal expansion、CTE):
熱機械分析により、負荷3g/膜厚20μm、昇温速度10℃/分中で、試験片の延伸から、50〜200℃の範囲における平均値を計算し、線熱膨張係数とした。線熱膨張が比較的低い材料は、回路板製造の加熱ベーキングプロセスで過度の変形を回避し、生産ラインの高い歩留まりを維持することができる。
【0061】
ガラス転移温度(glass transition temperature、Tg)及び結晶温度(Tc):
SII Nano Technology製の示差走査熱量計(DSC−6220)を使用して測定した。窒素ガス環境下で、ポリイミド樹脂に次の条件の熱履歴を受けさせた。熱履歴の条件は、第1回昇温(昇温速度10℃/分)の後冷却(冷却速度30℃/分)、その後第2回昇温(昇温速度10℃/分)である。本発明のガラス転移温度は、第1回昇温、または第2回昇温で観測された値を読み取り、決定された。結晶化温度は第1回降温で観測された放熱ピークのピーク値を読み取り、決定された。
【0062】
高周波回路のニーズの意味は、信号伝送の速度と品質であり、これら2項目に影響を与える主要な要因は、伝送材料の電気特性、即ち、材料の比誘電率(Dk)と誘電正接(Df)であるが、以下の信号伝送の公式で説明される。
【0063】
【数1】
αd:伝送損失(transmission loss)
εR:比誘電率(Dk)
GHz:周波数(frequency)
tanδ:誘電正接(Df)
【0064】
上述の公式から分かるように、Dfの影響はDkより大きいため、Df値が低いほど、その伝送損失が小さくなり、高周波材料により適している。
【0065】
表1、表2から分かるように、本発明の実施例1〜5は2種類以上の二無水物単量体及び2種類以上のジアミン単量体を使用して成るポリイミド樹脂であり、比較例の1種類の二無水物単量体及び1種類のジアミン単量体を使用して成るポリイミド樹脂と比較して、誘電正接(Df)と線熱膨張係数(CTE)がより低い。これは、単一の二無水物単量体(例えばTAHQ)の芳香族エステル官能基とイミド官能基が巨大な平面共振構造を形成し、この巨大な平面構造がポリアミド酸溶液(ポリイミド樹脂前駆体)の形成するポリイミド高分子の排列状況に影響して、排列がより不規則になり、結晶度がより低くなる。相対的に、本実施例はTAHQを主要な二無水物単量体として用いるほか、さらに分子量400〜600のその他二無水物単量体も導入し、一方で樹脂中のイミド基含有量を維持し、比誘電率が高くなることを防止するとともに、さらに芳香族ポリエステル官能基の排列を誘導し、形成されるポリイミド樹脂の結晶性を高め、誘電正接がより低いポリイミド樹脂が得られる。実験結果から見ると、比較例1〜3は6FDAとPBADAなどその他二無水物単量体を使用しない状況下で、その形成するポリイミド薄膜が非結晶性の透明膜である。但し、実施例1〜5に適量の6FDAとPBADAを加えた後、その高分子のTgとTcはより大きな変化を生じ、且つ製造されるポリイミド薄膜はいずれも結晶性半透明膜となる。
【0066】
また、比較例から異なるジアミン単量体のポリイミド樹脂特性に対する影響を分析することができる。比較例1と実施例を比較すると、そのCTEの差は大きくないが、実施例のDf値はより低い。比較例2はPDAジアミン単量体を使用しており、そのCTEは明らかにより小さいが、Df値はより高い。比較例3はTPE−Rジアミン単量体を使用しており、Dfはより低いが、実施例1〜5の結晶性高分子には及ばない。これは、TPE−R、BAPP等の非直線構造のジアミン単量体はその結合角の回転構造変化の障害が比較的小さく、より低いDf値を有するが、CTE値はより高い。PDA、TFMB等直線構造のジアミン単量体は、Dfがより高いが、CTE値がより低い。本発明の実施例は2種類以上のジアミン単量体を混合しており(例えば直線構造と非直線構造のジアミン単量体を混合できる)、低Df値と低CTE両者の間でバランスを見つけ、高周波プリント基板への応用に適したポリイミド樹脂を得ることができる。
【0067】
本発明について実施例を挙げて上で説明してきたが、これらの実施例は本発明を限定するために用いない。本発明の技術分野において通常の知識を有する者が、本発明の技術要旨と範囲内から逸脱せずに、これら実施例に対して同等効果を備えた実施または変更を加えることが可能であるため、本発明の保護範囲はその後附する特許請求の範囲に準じる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B