特許第6129298号(P6129298)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三井化学株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6129298-シクロヘキサノン化合物の製造方法 図000005
  • 特許6129298-シクロヘキサノン化合物の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129298
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】シクロヘキサノン化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/00 20060101AFI20170508BHJP
   C07C 49/403 20060101ALI20170508BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20170508BHJP
   B01J 23/58 20060101ALI20170508BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   C07C45/00
   C07C49/403 A
   B01J23/44 Z
   B01J23/58 Z
   !C07B61/00 300
【請求項の数】7
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-510097(P2015-510097)
(86)(22)【出願日】2014年4月1日
(86)【国際出願番号】JP2014059646
(87)【国際公開番号】WO2014163080
(87)【国際公開日】20141009
【審査請求日】2015年8月4日
(31)【優先権主張番号】特願2013-79802(P2013-79802)
(32)【優先日】2013年4月5日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】松浦 陽
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 拓朗
【審査官】 緒形 友美
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04203923(US,A)
【文献】 米国特許第03305586(US,A)
【文献】 英国特許出願公告第01063357(GB,A)
【文献】 特開平11−035513(JP,A)
【文献】 特開平06−199714(JP,A)
【文献】 特開平04−013644(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/056768(WO,A1)
【文献】 特開2002−226459(JP,A)
【文献】 特開2007−204407(JP,A)
【文献】 特開昭62−144749(JP,A)
【文献】 特開2000−117104(JP,A)
【文献】 特開昭54−019493(JP,A)
【文献】 特開昭47−006858(JP,A)
【文献】 特開昭47−014085(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/073233(WO,A1)
【文献】 特開昭55−155746(JP,A)
【文献】 米国特許第02891096(US,A)
【文献】 蘭国特許出願公開第7704346(NL,A)
【文献】 特開昭57−122046(JP,A)
【文献】 特公昭52−003371(JP,B2)
【文献】 大野桂二,パラジウム活性炭素−エチレンジアミン複合体[Pd/C(en)],有機合成化学協会誌,2007年 4月,Vol.65, No.4,p.379-381
【文献】 Sajiki H,The formation of a novel Pd/C-ethylenediamine Complex Catalyst,The Journal of Organic Chemistry,1998年,vol.63, no.22,p.7990-7992
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/00
B01J 23/44
B01J 23/58
C07C 49/403
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
担体に担持されたパラジウム触媒の存在下で、気相にてフェノールの水素付加反応を行いシクロヘキサノンを得る方法において、
前記パラジウム担持触媒が、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムから選択される少なくとも1種の金属元素を含んでおり、
前記パラジウム担持触媒が、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物が担持されていないパラジウム担持触媒を、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムから選択される少なくとも1種の金属元素の水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、または炭酸塩の水溶液に含浸させた後、乾燥、または焼成することにより得られ、
トリエチルアミンまたはトリメチルアミンである窒素化合物の共存下で該水素付加反応を進めることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項2】
水素付加反応前に前記窒素化合物を前記パラジウム触媒と接触させることにより、触媒表面上に窒素化合物を付着させることを特徴とする請求項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項3】
前記窒素化合物が、原料フェノールとともに添加される前記窒素化合物であることを特徴とする請求項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項4】
前記窒素化合物の供給量が、フェノールのフィード量を100重量%とすると、0.005〜0.05重量%である請求項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項5】
前記窒素化合物の供給量が、フェノールのフィード量を100重量%とすると、0.01〜0.05重量%である請求項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項6】
前記担体が多孔質アルミナであることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【請求項7】
水存在下で反応を行うことを特徴とする請求項のいずれか一項に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気相においてフェノール化合物の水素付加反応を行うことによってシクロヘキサノン化合物を効率よく製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノールをパラジウム触媒存在下に水素付加反応を行うことにより、シクロヘキサノンとシクロヘキサノールを含有する混合物が得られることは既に知られている(特許文献1、2)。カプロラクタムを製造する際の原料としてシクロヘキサノンを使用する場合、シクロヘキサノン中のシクロヘキサノールは所望されない不純物である。シクロヘキサノールは例えば、酸化銅/酸化亜鉛系の触媒を用いて脱水素することによりシクロヘキサノンに変換することが可能である(特許文献3)。しかしながら、フェノールの水素付加反応により得られる、シクロヘキサノンとシクロヘキサノールを含有する混合物からのシクロヘキサノン(沸点156.4℃)とシクロヘキサノール(沸点161.1℃)との分離や、シクロヘキサノールの脱水素に必要な追加コストを考慮すると、フェノールの水素付加反応においては可能な限りシクロヘキサールの副生を抑制することが望まれる。
【0003】
一方、シクロヘキサノールはシクロヘキサノンの水素付加反応によって生成するので、フェノールの転化率を低くするとシクロヘキサノールの副生量を抑制することが出来る。しかしながら、シクロヘキサノンとフェノール、並びにシクロヘキサノールとフェノールは最高共沸混合物を形成するため、転化率が低いと、生成物であるシクロヘキサノンおよびシクロヘキサノールと未反応のフェノールとの分離に必要な経済的なコストが著しく増加するという新たな問題が発生する。従って、フェノールの転化率を出来るだけ高くすることが望まれる。
【0004】
さらに、フェノールの水素付加反応においては、シクロヘキサノール以外にも、主成分としてシクロヘキシルシクロヘキサノンを含む高沸点の化合物が副生する。一般に、これらの副生物は、シクロヘキサノールの脱水素によりシクロヘキサノンを得る場合とは異なり、経済的に見合う方法でシクロヘキサノンに変換することが困難である。したがって、シクロヘキシルシクロヘキサノンの副生量の増加は即ち、シクロヘキサノンの収率の低下につながり、経済性の悪化を招く。
【0005】
したがって、工業的な観点からは、高いフェノール転化率と高いシクロヘキサノン選択率を両立させることが経済的に有利にシクロヘキサノンを製造する上で重要である。気相でのフェノールの水素付加反応によるシクロヘキサノンの製造は、一般的には、アルミナ担体に担持されたパラジウム触媒に、フェノールと水素との混合ガスを流通させることにより行われるが、短時間で触媒が活性の低下をきたす場合が多かったため、工業的規模での使用に耐え得るものではなかった。
【0006】
このような問題に対して、例えば、アルミナとアルカリ土類金属水酸化物とを混合することにより調製した担体に担持したパラジウム触媒を使用することにより、γ−アルミナを担体として使用した場合と比較して、活性の低下が抑制され、シクロヘキサノンの選択率を向上することが既に報告されている(特許文献4)。しかしながら、このような方法により成型される担体は、一般に機械的強度が低いという欠点がある。さらに、フェノールの水素付加反応において大過剰の水素を使用している上に、触媒活性も工業的規模での使用という点からは満足いくものとは言い難い。
【0007】
この問題を回避する方法として、アルミナスピネルを担体として使用することが報告されている(特許文献5)。これによれば、高い機械的強度と持続的な触媒活性を実現することが出来る。しかし、このような方法においては、通常のアルミナの場合と比較して、担体の製造工程が複雑になる上に、高価な原料を使用するため、必然的に担体の製造コストが高くなるという欠点がある。
【0008】
上記の観点から、より低コストかつ簡便な手法で、高いシクロヘキサノン収率を実現できる製造法の出現が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】US3305586
【特許文献2】US3076810
【特許文献3】US4918239
【特許文献4】GB1063357
【特許文献5】US5395976
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、上記の従来技術における課題を鑑み、経済的かつ高効率のシクロヘキサノン等のシクロヘキサノン化合物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明者らは、前記課題を解決する為に鋭意検討した結果、気相において担体に担持されたパラジウム触媒を用いたフェノール等のフェノール化合物の水素付加反応によりシクロヘキサノン等のシクロヘキサノン化合物を製造する方法において、特定の窒素化合物を共存させて水素付加反応を進めることによって触媒活性が向上すること、副生物の生成が抑制され、シクロヘキサノン等のシクロヘキサノン化合物の選択率が向上すること、ならびに触媒活性の低下を抑制することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
【0013】
〔1〕 担体に担持されたパラジウム触媒の存在下で、気相にてフェノール化合物の水素付加反応を行い対応するシクロヘキサノン化合物を得る方法において、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物の共存下で該水素付加反応を進めることを特徴とするシクロヘキサノン化合物の製造方法。
【0014】
〔2〕 担体に担持されたパラジウム触媒の存在下で、気相にてフェノールの水素付加反応を行いシクロヘキサノンを得る方法において、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物の共存下で該水素付加反応を進めることを特徴とするシクロヘキサノンの製造方法。
【0015】
〔3〕 前記窒素化合物が、窒素原子に水素原子が結合した構造を有さないことを特徴とする〔2〕に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0016】
〔4〕 前記窒素化合物が、第三級アミン構造を有するアミン化合物であることを特徴とする〔3〕に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0017】
〔5〕 前記窒素化合物が、水素原子、炭素原子および窒素原子のみから構成されることを特徴とする〔4〕に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0018】
〔6〕 前記窒素化合物が、水素付加反応前に前記パラジウム触媒との接触により触媒表面上に付着された前記窒素化合物であることを特徴とする〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0019】
〔7〕 前記窒素化合物が、原料フェノールとともに添加される前記窒素化合物であることを特徴とする〔2〕〜〔5〕のいずれかに記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0020】
〔8〕 前記窒素化合物の供給量が、フェノールのフィード量を100重量%とすると、0.005〜0.05重量%である〔7〕に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0021】
〔9〕 前記窒素化合物の供給量が、フェノールのフィード量を100重量%とすると、0.01〜0.05重量%である〔7〕に記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0022】
〔10〕 前記担体が多孔質アルミナであることを特徴とする〔2〕〜〔9〕のいずれかに記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0023】
〔11〕 前記担体に担持されたパラジウム触媒が、さらにリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムから選択される少なくとも1種の金属元素を含む〔2〕〜〔10〕のいずれかに記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0024】
〔12〕 水存在下で反応を行うことを特徴とする〔2〕〜〔11〕のいずれかに記載のシクロヘキサノンの製造方法。
【0025】
〔13〕 〔2〕〜〔12〕のいずれかに記載の製造方法により製造されたシクロヘキサノンを用いることを特徴とするカプロラクタムの製造方法。
【0026】
〔14〕 担体に担持されたパラジウム触媒に、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物を接触させることにより得られる、表面に前記窒素化合物が付着した触媒。
【発明の効果】
【0027】
本発明のシクロヘキサノン化合物の製造方法は、特に生産コストの点で優れるので、目的とするシクロヘキサノン化合物をプロセス上および経済的に優位に製造可能である。
【0028】
また、本発明のシクロヘキサノンの製造方法は、次の効果を有し特に生産コストの点で優れるので、目的とするシクロヘキサノンをプロセス上および経済的に優位に製造可能である。
【0029】
(1)シクロヘキサノールの副生量が抑制されることにより、シクロヘキサノンとシクロヘキサノールとの分離負荷が小さくなるため精製コストを低減できる。また、シクロヘキサノールの脱水素によりシクロヘキサノンを回収する場合は、脱水素反応設備を小型化することが出来る。
【0030】
(2)高沸点成分の副生量が抑制されることにより、シクロヘキサノン原単位を改善できる。
【0031】
(3)触媒活性が向上することにより水素と触媒使用量の削減ができるので、水素付加反応器の小型化や触媒コストの削減が可能となる。
【0032】
(4)触媒活性の経時低下が抑制できるので、触媒再生周期が長くなり、再生期間中の生産ロスを低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明の実施例において用いた反応装置の概略図である。
図2】本願実施例および比較例に記載された水素付加反応における1.5時間、3.5時間および5.5時間後のフェノール転化率の経時変化をプロットした図面である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のシクロヘキサノン化合物の製造方法は、担体に担持されたパラジウム触媒の存在下で、気相にてフェノール化合物の水素付加反応を行い対応するシクロヘキサノン化合物を得る方法において、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物の共存下で該水素付加反応を進めることを特徴としている。以下、その詳細を説明する。
【0035】
本発明に用いられるフェノール化合物は、例えばフェノール、クレゾール、ブチルフェノール、その他のモノアルキルフェノール、ジアルキルフェノールが挙げられる。フェノール化合物としては、1分子あたりの炭素数が6〜12のものが好ましい。
【0036】
本発明のシクロヘキサノン化合物の製造方法では、前記フェノール化合物を水素化することにより、対応するシクロヘキサノン化合物が得られる。対応するシクロヘキサノン化合物とは、原料として用いたフェノール化合物が有するベンゼン環が水素化され、シクロヘキサン環となり、且つフェノール化合物中のC−OHの構造が、カルボニル(C=O)となった化合物を意味する。フェノール化合物としてフェノールを用いた場合には、対応するシクロヘキサノン化合物はシクロヘキサノンであり、フェノール化合物としてクレゾールを用いた場合には、対応するシクロヘキサノン化合物はメチルシクロヘキサノンである。
【0037】
本発明のシクロヘキサノン化合物の製造方法としては、フェノール化合物がフェノールであり、シクロヘキサノン化合物がシクロヘキサノンであることが好ましい。
【0038】
すなわち、本発明のシクロヘキサノン化合物の製造方法は、シクロヘキサノンの製造方法であることが好ましい。本発明のシクロヘキサノンの製造方法は、担体に担持されたパラジウム触媒の存在下で、気相にてフェノールの水素付加反応を行いシクロヘキサノンを得る方法において、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物の共存下で該水素付加反応を進めることを特徴としている。
【0039】
以下、シクロヘキサノンの製造方法を中心に詳細を説明する。
【0040】
(触媒)
本発明においては、担体に担持されたパラジウム触媒が水素付加反応用の触媒として使用される(以下の説明では、当該触媒を単に「パラジウム担持触媒」と呼ぶ場合がある)。
【0041】
担体としては、該水素付加反応に不活性な担体であれば特に制限なく用いることが可能であり、例えば、シリカ、アルミナ、シリカ−アルミナ、マグネシア、チタニア、ジルコニア等の金属酸化物が挙げられる。これらの中ではアルミナが好ましく、特に多孔質アルミナが好ましい。多孔質アルミナの平均孔径としては、10〜500nmが好ましい。多孔質アルミナの重量当りの平均孔容積としては、0.2〜3ml/g程度が好ましい。多孔質アルミナの重量当りの比表面積としては、10〜200m2/g程度が好ましい。
【0042】
これらの担体に金属パラジウムを担持させる方法としては公知の方法を制限なく用いることが出来る。例えば、担体をテトラクロロパラジウム(II)酸ナトリウムなどのパラジウム化合物の水溶液に含浸させた後、ヒドラジンなどの還元剤と接触させることにより金属パラジウムを担持する方法を挙げることが出来る。担体に担持されるパラジウムの、触媒100重量部に占める割合は、通常、0.1〜10.0重量部、好ましくは0.1〜3.0重量部の範囲である。
【0043】
パラジウム担持触媒の形状は特に制限は無く、球状、ペレット状、押し出し成型品、不定形の破砕状等のいずれでもよいが、特に球状が好ましい。球状の場合、平均粒径は通常、1〜10mm、好ましくは2〜5mmの範囲である。
【0044】
上記のパラジウム担持触媒には、さらにアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物が担持されていてもよい。すなわち、パラジウム担持触媒は、さらにアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物を含む触媒であってもよく、より具体的には、さらにリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウムから選択される少なくとも1種の金属元素を含んでいてもよい。
【0045】
パラジウム担持触媒に、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物を担持させる方法としては公知の方法を用いることが出来る。例えば、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物が担持されていないパラジウム担持触媒を、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム等の水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩等の水溶液に含浸させた後、乾燥、または焼成することにより担持することが出来る。触媒に担持されるアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属の、触媒全体を100重量部とした際に占める割合は、通常、0.1〜10.0重量部、好ましくは0.2〜5.0重量部の範囲である。上記のアルカリ金属およびアルカリ土類金属化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
(窒素化合物)
本発明においては、気相でフェノールの水素付加反応を行うに際して、パラジム担持触媒に加えて、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物の共存下で水素付加反応を進めることを特徴としている。シクロヘキサノンの製造に従来用いられてきたアルカリ金属および/またはアルカリ土類金属化合物は、それらを触媒に担持させて用いる必要があるが、本願における窒素化合物は担持を必要とせず、簡便な方法で触媒表面の酸性を制御できるため有用である。
【0047】
なお、本発明において「アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の窒素化合物」を、単に「窒素化合物」とも記す。
【0048】
前記窒素化合物は単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0049】
前記窒素化合物は、分子内に窒素原子を有する化合物であり、アンモニア、アミン化合物およびヘテロ芳香族化合物から選択される少なくとも1種の化合物である。
【0050】
前記アミン化合物とは、アンモニアの水素原子を炭化水素基で置換した構造の物質であり、ヘテロ芳香族化合物とは、芳香族性を持つ複素環式化合物である。
【0051】
前記窒素化合物としては、窒素原子に水素原子が結合した構造を有さないことが好ましい。窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物は、副生する高沸点の化合物の副生量が抑制される傾向があるため好ましい。
【0052】
なお、窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物としては、分子内に一つまたは複数のアミン構造を有し、かつすべてのアミン構造が第三級アミン構造を有する第三級アミン(A)や、ピリジン等が挙げられる。また、窒素原子に水素原子が結合した構造を有する窒素化合物としては、アンモニアや、分子内に第一級アミン構造や、第二級アミン構造を有するアミンが挙げられる。
【0053】
前記窒素化合物としては、反応条件において、フェノールや水素、および生成するシクロヘキサノン、シクロヘキサノールに対して出来るだけ不活性であることが望ましいという点から窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物が好ましい。窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物の使用が好ましい理由を次に詳しく述べる;本発明者らは、フェノール転化率やシクロヘキサノン選択率等の反応成績向上に寄与する真の窒素化合物は窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物であると予想している。窒素原子に水素原子が結合した構造を有する窒素化合物は本発明に係わる反応条件においては原料シクロヘキサノンと脱水縮合を生起してイミンやエナミンを中間態として一旦生成すると考えているが、これらは反応条件化で水素付加を受けて最終的に窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物に変換される結果、本願発明の水素付加反応に効果を発現すると予想している。ただし、所望の生成物であるシクロヘキサノンが窒素原子に水素原子が結合した構造を有する窒素化合物との脱水縮合によって一部消費される分、シクロヘキサノン選択率が低下してしまう。すなわちフェノール転化率の向上のみを目的とする場合は、窒素原子に水素原子が結合した構造を有する窒素化合物と、窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物とは同列に使用しうるが、フェノール転化率に加えてシクロヘキサノン選択率の向上も同時に所望する場合は窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物を使用することが好ましいのである。
【0054】
前記窒素化合物としては、第三級アミン構造を有するアミン化合物であることが好ましい。第三級アミン構造を有すると、前記パラジウム担持触媒を構成する担体の酸点との相互作用が強い傾向があるため好ましい。
【0055】
前記窒素化合物としては、水素原子、炭素原子および窒素原子のみから構成されることが好ましい。水素原子、炭素原子および窒素原子以外の原子が存在すると、反応中に分解し、不純物を生成する恐れがあるため、窒素化合物としては、前記窒素化合物としては、水素原子、炭素原子および窒素原子のみから構成されることが好ましい。
【0056】
前記窒素化合物としては、具体例としてアンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N",N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモリホリン、N,N'−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、キノリン、ピラジン、トリアジン、N,N,N',N'−テトラメチルグアニジン、ジエチルアミノプロピルアミン、イミダゾール、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、n−ブチルアミン、n−ペンチルアミン、イソアミルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、トルイジン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、プロピレンジアミン、N−メチルプロピルアミン、N−メチル−n−ブチルアミン、N−メチルドデシルアミン、N−メチル−n−オクタデシルアミン、N−エチル−n−ブチルアミン、N−エチルドデシルアミン、N−エチル−n−オクタデシルアミン、ピペリジン、ピペラジン、モルホリンが挙げられる。
【0057】
これらの窒素化合物の中でも、窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物である、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N",N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモリホリン、N,N'−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、ピリジン、キノリン、ピラジン、トリアジンが好ましい。
【0058】
これらの窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない窒素化合物の中でも、第三級アミン構造を有するアミン化合物である、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N",N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチルピペリジン、N−メチルモリホリン、N,N'−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンが好ましい。
【0059】
これらの窒素原子に水素原子が結合した構造を有さない、第三級アミン構造を有するアミン化合物の中でも、水素原子、炭素原子および窒素原子のみから構成される化合物である、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N",N"−ペンタメチルジエチレントリアミン、N−メチルピペリジン、N,N'−ジメチルピペラジン、キヌクリジン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ヘキサメチレンテトラミン、N,N−ジメチルアミノピリジン、1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]−5−ノネン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセンが好ましい。
【0060】
本発明に用いられる窒素化合物としては、目的とするシクロヘキサノンから容易に除去できるという観点からは、シクロヘキサノンとの沸点の差が大きいアミンが好ましく、分子内に窒素原子を1〜3個有するアミン化合物が好ましく、1個有するアミン化合物がより好ましい。
【0061】
また、本発明に用いられる窒素化合物の分子量としては、目的とするシクロヘキサノンから容易に除去できるという観点からは、シクロヘキサノンとの沸点の差が大きいアミンが好ましく、分子量が50〜500であることが好ましく、50〜400であることがより好ましい。
【0062】
本発明に用いられる窒素化合物としては、目的とするシクロヘキサノンから容易に除去できるという観点からは、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンが特に好ましい。
【0063】
なお、窒素化合物としては、一般的な蒸留操作により、目的とするシクロヘキサノンから容易に除去できるという観点からは、シクロヘキサノンとの沸点の差が大きいアミンが望ましいが、蒸留での分離が困難な場合は、吸着などの方法で除去してもよい。
【0064】
本発明の製造方法では、前記窒素化合物の共存下で水素付加反応が行われるが、該窒素化合物は、原料フェノールとともに添加される前記窒素化合物であってもよく、水素付加反応前に前記パラジウム触媒との接触により触媒表面上に付着された前記窒素化合物であってもよい。なお、窒素化合物が水素付加反応前に前記パラジウム触媒との接触により触媒表面上に付着された前記窒素化合物であることが好ましい。
【0065】
パラジウム担持触媒とともに、窒素化合物を本反応系に共存させる方法としては、特に制限はないが、主に以下に示す3つの方法が例示でき、使用される窒素化合物の沸点、溶媒への溶解性などの性質により適切に選択される。これらの方法は単独で行ってもよいし、2種以上の方法を併用してもよい。
(1)液状窒素化合物と接触処理したパラジウム担持触媒を、フェノールの水素付加反応触媒として用いる方法。窒素化合物が液状の場合は溶媒を用いることなくそのまま接触させることができ、また粘稠液体や固体の場合は適宜溶媒に溶解させた溶液の形態で使用してもよい。
【0066】
液状アミンを触媒に接触させる方法としては、バッチ操作により触媒を液状アミンに含浸させる、または固定床反応器に充填した触媒に連続的に液状アミンを流通接触させるなどの方法が好ましい。接触後の触媒は液状アミンと分離後、窒素気流、減圧、加熱などの適切な方法で乾燥させてもよい。
【0067】
窒素化合物の使用量に特に制限はないが、触媒量に対して0.5〜10重量倍の範囲が好ましい。これより小さい範囲では、触媒が窒素化合物と十分に接触しないことがあり、触媒性能を改善するのに十分な効果が得られないことがある。接触時間は通常、1分〜10時間の範囲、好ましくは10分〜5時間の範囲である。処理温度は通常、0〜200℃の範囲、好ましくは20〜100℃の範囲である。
(2)ガス状の窒素化合物と接触処理したパラジウム担持触媒を、フェノールの水素付加反応触媒として用いる方法。ガス状アミンをパラジウム担持触媒に接触させる方法としては、固定床反応器に充填した触媒に、操作条件における沸点以上に加熱することによりガス化させた窒素化合物を流通させる方法が好ましい。この際、ガス状アミンは、例えば窒素、メタン、エタンなどの不活性ガスと共に供給しても構わない。
【0068】
窒素化合物の使用量に特に制限はないが、触媒量に対して0.1〜10重量倍の範囲が好ましい。接触時間は通常、1分〜10時間の範囲、好ましくは10分〜5時間の範囲である。処理温度は使用する窒素化合物がガス状である限り特に制限はないが、通常、0〜300℃の範囲、好ましくは50〜200℃の範囲である。
【0069】
上記(1)、(2)のように、パラジウム担持触媒に、窒素化合物を接触させることにより、パラジウム担持触媒表面に窒素化合物が付着した触媒を調製することができる。
(3)フェノールの水素付加反応を行いながら、同時に窒素化合物を連続的に反応器に供給する方法。この場合、窒素化合物は、水素付加反応条件下において、ガス状であることが望ましい。窒素化合物は原料フェノール中に溶解した状態で、または独立して反応器に供給してもよい。独立して反応器に供給する場合は、無溶媒または適宜の溶媒に溶解させた溶液のどちらの状態でもよい。窒素化合物の供給量に特に制限はないが、フェノールのフィード量を100重量%とすると、0.005〜10重量%の範囲が好ましく、0.005〜0.05重量%の範囲がより好ましく、0.01〜0.05重量%の範囲がさらにより好ましい。これより小さい範囲では、触媒性能を改善するのに十分な効果が得られないことがある。また、これより大きい範囲では、生成するシクロヘキサノンとの分離にかかるコストが大きくなることがある。
【0070】
(水素付加反応)
本発明のシクロヘキサノンの製造方法では、通常はパラジウム担持触媒と窒素化合物の共存下で、反応器にフェノールと水素との混合物をガス状で供給し、気相にて水素付加反応を行う。
【0071】
本発明のフェノールの水素付加反応を行う温度は通常、100℃〜300℃の範囲であるが、好ましくは150〜250℃の範囲である。反応温度が低過ぎると反応速度が低下することがある。一方、反応温度が高すぎると、望ましくない副反応によりシクロヘキサノンの選択率が低下する、副反応に起因する触媒上への高沸点物質の蓄積により触媒活性が低下するなどの不具合を生じることがある。
【0072】
反応に使用する水素のフェノールに対するモル比はフェノール1に対して通常、2〜10の範囲であるが、より好ましくは2.5〜8、さらに好ましくは3.0〜5.0の範囲である。
【0073】
また、本発明に使用するパラジウム担持触媒の量は特に限定されないが、例えば、原料(フェノール)の時間あたりの供給量(重量)を触媒の重量(パラジウム担持触媒の重量)で割った値、即ちWHSVで示すと、0.01〜10h-1の範囲であることが好ましく、0.05〜5.0h-1の範囲がより好ましい。
【0074】
水素は、反応に不活性なガス、たとえばメタン、エタン、窒素などのガスを含有していてもかまわない。一方、炭酸ガス、一酸化炭素などは、触媒活性を阻害する可能性があるので出来る限り含有させないことが好ましい。
【0075】
反応圧力は、通常、0.08〜0.8MPaAの範囲であるが、原料フェノールと水素の混合物はガス状で反応器に供給する必要があることや、反応装置の耐圧仕様などを考慮すると、常圧〜0.3MPaAの範囲に設定するのが好ましい。
【0076】
本反応は気相で行われるため、必ずしも溶媒を使用する必要はないが、例えば原料を供給する工程においてフェノールと混合することにより固化温度を下げ、取扱いを容易にする、あるいはフェノールと水素との混合物のガス化温度を下げるなどの目的で、必要に応じて溶媒を用いてもよい。特に、フェノールの溶解性が高く、かつ反応および後段の精製を阻害しないものが好ましく、例えば、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンなどの炭化水素化合物が挙げられる。これらの溶媒は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0077】
また、本発明の製造方法では、水存在下で反応をおこなってもよい。水存在下で反応が行われる場合に、該水は、水素付加反応前に前記パラジウム触媒と水とを接触させ触媒表面に付着された水であってもよく、フェノールと水素とに加えて、さらに水を供給してもよい。
【0078】
なお、触媒と水との接触と、触媒と窒素化合物との接触は同時に行うこともできる。この場合には、例えば窒素化合物の水溶液、あるいは窒素化合物の水分散液を用いて、前述の窒素化合物を本反応系に共存させる方法の(1)または(2)に記載された方法を行うことにより、触媒と水との接触と、触媒と窒素化合物との接触は同時行うことができる。この場合には、窒素化合物と水との合計100重量%あたり、窒素化合物が通常は0.1〜50重量%となる範囲で、窒素化合物および水が用いられる。
【0079】
フェノールと水素とに加えて、さらに水を供給する場合における水の供給量は、フェノールのフィード量を100重量%とすると、10%以下、好ましくは0.5〜2.0重量%以下である。
【0080】
なお、水の形態としては、特に限定は無く、液体状で供給してもよく、ガス状で供給してもよいが、ガス状で供給されることが好ましい。すなわち、水蒸気として供給されることが好ましい。
【0081】
水が供給されると、フェノール転化率が向上する傾向があり好ましい。
【0082】
本発明の製造方法の目的物であるシクロヘキサノンは、反応液から蒸留・抽出・吸着などの公知の方法によって分離される。また、未反応原料や溶媒は回収して、再び反応系へリサイクルして使用することもできる。
【0083】
(反応装置)
フェノールの水素付加反応は、大きな発熱を伴う反応である為、反応の進行に伴い、反応熱を連続的に除去する必要があり、また、本発明においては、固定床触媒上で気相にて反応を行わせるという特徴上、熱交換器と反応器が一体となった多管式反応器またはラジアルフロー型反応器を使用することが好ましい。
【0084】
本発明の製造方法で得られるシクロヘキサノンは、従来からシクロヘキサノンが用いられてきた各種用途に用いることが可能である。本発明の製造方法では、経済的かつ高効率でシクロヘキサノンを製造できるため、例えばカプロラクタムの製造に用いることが好ましい。すなわち、本発明のカプロラクタムの製造方法は、前記シクロヘキサノンの製造方法により製造されたシクロヘキサノンを用いることを特徴とする。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例、比較例により詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
(シクロヘキサノンの連続合成反応)
図1に示した反応装置を用い、下記の様な方法でフェノールの水素付加反応を行った。図1の反応装置は、供給配管1,2、触媒を充填した固定床型反応器3、気液分離槽4から成る設備を有している。供給配管1から水素あるいは窒素5を、供給配管2からフェノールあるいはアミン6を、反応器3に連続的に供給した。フェノールおよびアミンはポンプにて供給した。
【0087】
反応器には、シリコーンオイルを熱媒体11とするジャケット(内径18.4mm、長さ600mmのSUS304製オイルジャケット)を備えた外径18mm、内径15mm、長さ600mmのSUS316製反応管(外径3.18mmの温度計鞘管)からなる固定床反応器を用いた。反応生成物は、反応器出口に設置した熱交換器で冷媒体12を用いて冷却して凝縮させ、余剰の水素等のベントガス10と分離した後、反応生成物13をサンプリングした。反応液(反応生成物)のガスクロマトグラフィー分析により、反応液中に含まれる成分を定量し、フェノール転化率と各成分の選択率を計算した。
【0088】
(ガスクロマトグラフィー(GC)分析)
装置名:GC-2010(島津製作所製)
キャリピラリーカラム:TC-WAX(GL Science製、内径0.32mm×長さ60m)
キャリアガス:窒素(1.4mL/min)
測定温度条件:100℃から5℃/分で昇温させ、240℃に達した後12分間保持して終了とした。
【0089】
注入口温度:240℃
FID検出器温度:240℃
注入量:1.0μL
(反応液中に含まれる成分の定量)
絶対検量線法によりフェノール、シクロヘキサノン、シクロヘキサノール、シクロヘキシルシクロヘキサノン、シクロヘキサンおよびベンゼンについてのGC検量線を予め作成しておく。これらの情報と、前記GC測定結果とから常法により、反応液中に含まれる各成分の含有量を定量した。
【0090】
[実施例1]
反応管内には、0.5重量%パラジウムアルミナペレット(NEケムキャット社製:HD−101)を4.0g充填し、触媒充填層8とした。触媒充填層の上部及び下部には、直径2〜4mmのガラスビーズをそれぞれ60g及び15gを充填し(触媒充填層7、9)、各境界には触媒と混合しないようにSUS製の網を敷いた。
【0091】
アミンによる触媒の前処理操作として、ジャケット内のオイルの温度は180℃にて、トリエチルアミン0.5mL/minおよび窒素150mL/minを反応管の上部から下部へダウンフローで流通させた。トリエチルアミンは触媒充填層の上部のガラスビーズを充填した予熱層にて気化し、ガス状で触媒充填層へ供給される。5分後にトリエチルアミンの供給を停止し、さらに窒素を1時間流通させ、前処理操作を終了した。
【0092】
水素供給量を4.3NL/hr、フェノール供給量を6.0g/hrとし(水素/フェノールのモル比は4、WHSVは1.5h-1)、反応管の上部から下部へダウンフローで流通させてフェノールの水素付加反応を行った。フェノールは予熱層にて気化し、ガス状で触媒充填層へ供給される。触媒層のホットスポット温度が180℃となるよう、ジャケット内のオイルの温度を調節した。この時、反応管入口部および出口部の圧力は0.00MPaGであった。反応液のガスクロマトグラフィー分析により、反応液中に含まれる成分を定量し、フェノール転化率と各成分の選択率を計算した。フェノール転化率の経時変化を表1および図2、さらにフェノール流通後1.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表2に記す。
【0093】
[実施例2]
アミンをジエチルアミンとしたこと以外は、実施例1と同様にしてフェノールの水素付加反応を行った。フェノール転化率の経時変化を表1および図2、さらにフェノール流通後1.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表2に記す。
【0094】
[実施例3]
アミンをn−ブチルアミンとしたこと以外は、実施例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール転化率の経時変化を表1および図2、さらにフェノール流通後1.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表2に記す。
【0095】
[実施例4]
アミンをピリジンとしたこと以外は、実施例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール転化率の経時変化を表1および図2、さらにフェノール流通後1.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表2に記す。
【0096】
[比較例1]
アミン前処理操作を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール転化率の経時変化を表1および図2に記す。
【0097】
[比較例2]
水素供給量を2.9NL/hr、フェノール供給量を4.0g/hr(水素/フェノールのモル比=4、WHSV=1.0h-1)とした以外は、比較例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール転化率の経時変化を表1および図2、さらにフェノール流通後1.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表2に記す。
【0098】
【表1】
【0099】
【表2】
【0100】
[実施例5]
0.5重量%パラジウムアルミナペレット4.0gを、0.5重量%カリウム・0.5重量%パラジウムアルミナペレット5.0gとしたこと以外は、実施例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール流通後11時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表3に記す。
【0101】
[実施例6]
0.5重量%パラジウムアルミナペレットを、0.5重量%カリウム・0.5重量%パラジウムアルミナペレットとし、トリエチルアミンを、30重量%トリメチルアミン水溶液としたこと以外は、実施例1と同様にして、フェノールの水素付加反応を行った。フェノール流通後3.5時間後のフェノール転化率および各成分の選択率を表3に記す。
【0102】
【表3】
【符号の説明】
【0103】
1・・・供給配管
2・・・供給配管
3・・・反応器
4・・・気液分離器
5・・・水素あるいは窒素
6・・・フェノールあるいはアミン
7・・・ガラスビーズ層
8・・・触媒充填層
9・・・ガラスビーズ層
10・・・ベントガス
11・・・熱媒体
12・・・冷媒体
13・・・反応生成物(反応液)
図1
図2