【文献】
F. KADIRGAN et al.,Preparation and characterization of nano-sized Pt-Pd/C catalysts and comparison of their electro-activity toward methanol and ethanol oxidation,International Journal of Hydrogen Energy,2009, 34, 4312-4320.,Abstract, 2. Experimental, 3. Results and discussion, Figures, Tables.
【文献】
W. LI et al.,Liquid-solid heterogeneous synthesis of highly dispersed and PdPt surface enriched PdPtCu/C as methanol tolerant oxygen reduction reaction catalysts,Applied Catalysis B: Environmental,2013, 129, 426-436.,Abstract, 2. Experimental, 3. Results and discussion, Figures, Table 1. Available online 5 October 2 2012
【文献】
Z.-Z. JIANG et al.,Effects of anatase TiO2 with different particle sizes and contents on the stability of supported Pt catalysts,Journal of Power Sources,2011, 196, 8207-8215.,Abstract, 2. Experimental, 3. Results and discussion, Figures.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定される、前記触媒粒子に含まれる白金およびパラジウムの合計量を100原子%としたときの、前記触媒粒子に含まれるパラジウムの割合(原子%)から、前述した、前記触媒粒子の表面のパラジウムの割合(原子%)を差し引いた値が、25原子%以下である請求項1に記載の燃料電池電極用担持型触媒粒子。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、化学エネルギーを直接に電気エネルギーに転換するエネルギー変換装置であり、少なくとも、固体または液体の電解質、ならびに所望の電気化学反応を誘起する2つの電極であるアノードおよびカソードから構成される。
【0003】
燃料電池には、使用する電解質の種類に応じて様々な種類が存在し、その中の1つである固体高分子形燃料電池(PEFC: Polymer Electrolyte Fuel Cell)には、電解質膜として固体高分子電解質膜が用いられ、起動が早く、運転温度も80−100℃と低いというメリットがあり、定置用電源および自動車用電源として注目されている。
【0004】
固体高分子形燃料電池の1種である直接メタノール形燃料電池(DMFC: Direct Methanol Fuel Cell)等の直接液体形燃料電池は、メタノール等の液体を燃料として使用するものであり、体積エネルギー密度が高いため、小型の可搬型または携帯型の電源としての使用を期待されている。
【0005】
直接メタノール形燃料電池のカソード触媒としては、酸素還元活性が高い白金触媒が使用されているが、白金の供給量の制限およびその高価格が、直接メタノール形燃料電池の実用化・普及において問題となっている。
【0006】
さらに、直接メタノール形燃料電池においては、アノードに液体燃料であるメタノールを直接供給し、カソードに酸素を供給することにより、アノードではメタノールが酸化され、カソードでは酸素が還元されて外部に電気エネルギーを取り出すことができるが、直接メタノール形燃料電池を運転する際には、メタノールが高分子電解質膜を透過してアノードからカソードに移動し(“メタノールのクロスオーバー”)、カソードに達したメタノールがカソードで直接酸化されるという現象が生じる。その結果、カソード上のメタノールを酸化させる部位は、もはや酸素による電気化学還元には利用できなくなる。そのため、カソードの総活性が減少し、カソードの電気化学ポテンシャルが減少し、燃料電池のエネルギー変換効率が著しく低下するという問題が生じる。このため、直接メタノール形燃料電池に使用されるカソード触媒には、メタノールの酸化という点で不活性であることないし活性が低いことが望まれる。
【0007】
DMFCに使用されるカソード触媒に関しては、特許文献1において、Pt、Pd等から選ばれる2種以上の合金からなる触媒粒子の水素結合力および酸素結合力の計算結果が示され、この計算結果に基づき、この触媒粒子が高い酸素還元活性を有しつつ、低いメタノール酸化活性を有すると述べられている。また、各金属成分の割合は好ましくは10〜90atomic%であると記載されている。
【0008】
特許文献2にも、PtとPdとの合金を含む触媒が開示され、この触媒粒子が高い酸素還元活性を有しつつ、低いメタノール酸化活性を有することが記載されている。
これら以外にも、直接メタノール形燃料電池のカソード用に特化した触媒ではないが、PtおよびPdを含む燃料電池用電極触媒が従来知られている。たとえば、特許文献3には、白金とパラジウム等との合金、ならびに該合金を担持する導電性カーボンを有する固体高分子形燃料電池用カソード触媒が開示され、優れた酸素還元活性を示す観点から白金とパラジウム等との原子比が好ましくは50:50〜90:10であることなどが記載されている([0012]、[0020]など)。
【0009】
特許文献4には、導電性担体に白金粒子が担持されてなる電極触媒と、導電性担体に白金合金粒子が担持されてなる電極触媒とを少なくとも含む燃料電池用電極触媒が開示され、前記白金合金粒子として、パラジウム等の金属と白金との合金粒子などが挙げられ、前記白金合金粒子の組成は、白金が30〜90原子%、金属が10〜70原子%とするのがよいと記載されている([0012]、[0019]など)。
【0010】
特許文献5には、メタノール燃料電池のメタノール極に使用される触媒として、
CxDy
(式中、C及びDはPt、Pd等から選択される貴金属であり、C≠Dであり、20at%≦x≦80at%であり、20at%≦y≦80at%である。)
で示される組成を有する二元系合金微粒子が開示され、その具体例として、Pt48Pd52で示される組成を有する二元系合金微粒子が開示されている([0009]、[0044]など)。
【0011】
また、特許文献6には、炭素系支持体、金属酸化物粒子及び触媒金属粒子が順次に積層された層状構造を有する燃料電池用の担持触媒が開示され、前記触媒金属粒子として、Pt等の主金属触媒とPd等の補助触媒金属との合金の粒子が挙げられ、Pt等の主金属触媒とPd等の補助触媒金属との原子比は望ましくは9:1〜1:9であると記載されている([0009]、[0024]−[0026]など)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、燃料電池用カソード触媒として用いることのできる、PtおよびPdを含む触媒粒子において、メタノール酸化活性を低く抑えつつ酸素還元活性をさらに高めることを課題とする。
【0014】
すなわち本発明は、酸素還元活性が極めて高くかつメタノール酸化活性は低い、PtおよびPdを含む触媒粒子、該触媒を担持してなる担持型触媒粒子などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、鋭意研究したところ、導電性粒子に担持された、PtおよびPdを含む触媒粒子の表面におけるPtとPdとの比率が特定の範囲にあると、この触媒粒子の酸素還元活性が特異的に高く、かつメタノール酸化活性は低いことを見い出し、本発明を完成させた。
【0016】
本発明は、たとえば以下の[1]〜[23]に関する。
[1]
白金およびパラジウムを含む触媒粒子であって、X線光電子分光法(XPS)により測定される該粒子の表面のパラジウムの割合が、白金およびパラジウムの合計量100原子%に対して45〜55原子%である触媒粒子。
【0017】
[2]
上記[1]に記載の触媒粒子であって、
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定される、該触媒粒子に含まれる白金およびパラジウムの合計量を100原子%としたときの、該触媒粒子に含まれるパラジウムの割合(原子%)から、前述した、該触媒粒子の表面のパラジウムの割合(原子%)を差し引いた値が、25原子%以下である触媒粒子。
【0018】
[3]
平均粒子サイズが1〜20nmである上記[1]または[2]に記載の触媒粒子。
[4]
上記[1]〜[3]のいずれか一つに記載の触媒粒子と、該触媒粒子を担持する担体とを含む担持型触媒粒子。
【0019】
[5]
前記触媒粒子および前記担体の合計量を100質量%としたとき、前記触媒粒子の含有量が1〜80質量%である上記[3]に記載の担持型触媒粒子。
【0020】
[6]
前記担体が、導電性粒子である上記[4]または[5]に記載の担持型触媒粒子。
[7]
前記担体が、導電性カーボンおよび金属炭窒酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種からなる上記[4]〜[6]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子。
【0021】
[8]
前記金属炭窒酸化物の組成をMCxNyOzと表すと(Mは金属元素である。)、0.01≦x≦2、0.01≦y≦2、0.01≦z≦3である上記[7]に記載の担持型触媒粒子。
【0022】
[9]
前記金属炭窒酸化物がチタン炭窒酸化物である上記[7]または[8]に記載の担持型触媒粒子。
【0023】
[10]
上記[4]〜[6]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子であって、
前記担体が、導電性カーボンと金属酸化物を含み、
前記金属酸化物が、Cu−Kα線を用いた粉末XRD測定において観測される、ピーク高さが最大のピークに基づいてシェラーの式:D=Kλ/Bcosθ(Dは結晶子サイズ(nm)、定数Kは0.89、λはCu−Kα線の波長(nm)、Bは前記ピークの半値幅、θは前記ピークの回折角(゜)である。)により算出される、20〜500nmの結晶子サイズを有する粒子であり、
前記担持型触媒粒子が、150〜1000m
2/gのBET比表面積を有する
担持型触媒粒子。
【0024】
[11]
前記金属酸化物の金属元素が周期表第4族、第5族、第14族の元素およびアルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも一種の金属元素である上記[10]に記載の担持型触媒粒子。
【0025】
[12]
前記金属元素がチタンである上記[11]に記載の担持型触媒粒子。
[13]
前記導電性カーボンのBET比表面積が150〜2000m
2/gである上記[7]〜[12]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子。
【0026】
[14]
前記担持型触媒粒子から前記触媒粒子を除いた部分に占める導電性カーボンの割合が50〜90質量%である上記[4]〜[13]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子。
【0027】
[15]
燃料電池用カソード触媒である上記[4]〜[14]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子。
【0028】
[16]
上記[4]〜[15]のいずれか一つに記載の担持型触媒粒子を含む燃料電池触媒層。
[17]
上記[16]に記載の燃料電池触媒層と多孔質支持層とを有する電極。
【0029】
[18]
カソードとアノードと前記カソードおよび前記アノードの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体であって、前記カソードが上記[17]に記載の電極である膜電極接合体。
【0030】
[19]
上記[18]に記載の膜電極接合体を備える燃料電池。
[20]
固体高分子形燃料電池である上記[19]に記載の燃料電池。
【0031】
[21]
直接液体形燃料電池である上記[20]に記載の燃料電池。
[22]
直接メタノール形燃料電池である上記[21]に記載の燃料電池。
【0032】
[23]
発電機能、発光機能、発熱機能、音響発生機能、運動機能、表示機能および充電機能からなる群より選ばれる少なくとも一つの機能を有する物品であって、上記[19]〜[22]のいずれか一つに記載の燃料電池を備えることを特徴とする物品。
【発明の効果】
【0033】
本発明に係る触媒粒子ないし担持型触媒粒子を用いることにより、酸素還元活性が極めて高くかつメタノール酸化活性は低い、燃料電池のカソード等を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[触媒粒子および担持型触媒粒子]
<触媒粒子>
本発明に係る触媒粒子は、白金およびパラジウムを含む酸素還元反応用の触媒粒子であって、該触媒粒子の表面の白金およびパラジウムの合計量を100原子%としたとき、パラジウムの割合が45〜55原子%、好ましくは47〜54原子%であることを特徴としている。ただし、触媒粒子の表面の白金およびパラジウムの量は、X線光電子分光法(XPS)により測定する。XPSは、その測定原理から触媒表面(表面から数nm)に存在する原子を感知することが可能であり、本発明における「触媒粒子の表面の白金およびパラジウムの量」とは、X線光電子分光法(XPS)により測定される値を示す。
【0036】
白金およびパラジウムを含む触媒粒子の酸素還元活性は、
図1に示されるように該触媒粒子の表面のパラジウムの割合が増えるにつれて低下する傾向にある。しかし、該触媒粒子は、パラジウムの割合が上記範囲にあると特異的に高い酸素還元活性を示す。したがって、本発明に係る触媒粒子は、白金の使用量を抑えつつ、白金のみからなる触媒粒子に迫る高い酸素還元活性を実現できるため、コスト面での利点を有する。
【0037】
また、本発明に係る触媒粒子は、高い酸素還元活性を有するものの、メタノール酸化活性は低い。このため、本発明に係る触媒粒子をDMFC等の直接液体形燃料電池、特に直接メタノール形燃料電池のカソード用の触媒として用いれば、メタノールのクロスオーバーによるカソードの活性の低下を抑えつつ、カソードの高い酸素還元活性を実現することができる。なお、パラジウムの割合が少ない触媒粒子(すなわち、白金の割合が100原子%付近の触媒粒子)は、高い酸素還元活性を示すものの、高いメタノール酸化活性も示す。
【0038】
前記触媒粒子表面は、実質的に白金およびパラジウムのみから構成され、前記触媒粒子表面を構成する白金およびパラジウム以外の元素の割合は、触媒粒子表面を構成するすべての元素の合計100原子%に対して、好ましくは0〜0.2原子%である。
【0039】
上記の触媒粒子表面の各元素の割合は、後述する実施例で採用したX線光電子分光法(XPS)または同等の方法で測定された場合の割合である。
また、誘導結合プラズマ発光分光分析(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectroscopy、以下「ICP−AES」と記載する。)により測定される、前記触媒粒子全体に含まれる白金およびパラジウムの合計量を100原子%としたときの、前記触媒粒子全体に含まれるパラジウムの割合(原子%)と、前述した、前記触媒粒子の表面のパラジウムの割合(原子%)との差(以下、「Pd割合の差」という)は好ましくは25原子%以下であり、より好ましくは20原子%以下であり、さらに好ましくは15原子%以下である。前記Pd割合の差が前記範囲であれば、前記触媒粒子はより高い酸素還元活性を持つようになる。Pd割合の差は、数式で表すと下記の通りである。
【0040】
Pd割合の差 = 粒子全体のPdの割合(原子%)−表面のPdの割合(原子%)
前記触媒粒子の平均粒子サイズは、容易に製造する観点からは、好ましくは1nm以上、さらに好ましくは3nm以上であり、高い酸素還元活性の観点からは、好ましくは20nm以下、さらに好ましくは15nm以下である。
【0041】
この平均粒子サイズは、後述する実施例で採用した粉末X線回折リートベルト解析プログラムにより算出した、触媒粒子の結晶面に垂直な方向の結晶子サイズの平均値、または同等の方法で測定された場合の粒子サイズである。
【0042】
<担持型触媒粒子>
本発明に係る担持型触媒粒子は、上述した本発明に係る触媒粒子を担体に担持したものである。
【0043】
前記担持型触媒粒子中の前記触媒粒子の割合は、触媒粒子および担体の合計量を100質量%とすると、好ましくは1〜80質量%、より好ましくは5〜70質量%であり、さらに好ましくは10〜60質量%である。担体の表面に活性サイトを多く設けて、本発明の担持型触媒粒子を含む燃料電池の触媒層の性能を高める観点からは、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、前記担持型触媒粒子の粒子サイズが過度に大きくなることによる燃料電池の触媒層の性能低下を防ぐ観点からは、好ましくは70%質量以下、より好ましくは60質量%以下である。
【0044】
前記担体としては、触媒担体、特に燃料電池の電極用の触媒として従来公知の触媒担体を使用することができ、たとえば導電性カーボン粒子、金属酸化物粒子、金属炭窒酸化物粒子(金属、炭素、窒素および酸素を含む粒子を含む。)が挙げられる。これらの中では、比表面積および安定性が共に高い導電性カーボン粒子、金属炭窒酸化物等の導電性粒子が好ましい。
【0045】
前記導電性カーボン粒子としては、市販品であれば、たとえば「カーボンブラック VulcanXC−72」、「カーボンブラック VulcanXC−72R」(Cabot社製)、「ケッチェンブラック EC600JD」、「ケッチェンブラック EC300J」(ケッチェンブラックインターナショナル(株)製)、シャウィニガンブラック(Chevron Chemicals社製)が挙げられる。
【0046】
前記導電性カーボン粒子のBET比表面積は、好ましくは150〜2000m
2/g、より好ましくは200〜2000m
2/g、さらに好ましくは250〜2000m
2/gである。
【0047】
BET比表面積が150m
2/g以上の場合、触媒粒子が担持することができる面積が大きいため、触媒粒子の肥大化を防ぐことができ、触媒活性が低下しにくい傾向にある。
また、導電性カーボンには空孔が存在し、その中に触媒粒子が担持されるので、前記比表面積が2000m
2/g以下の場合、触媒粒子へのプロトンおよび燃料ガスが十分供給され、触媒の利用効率は低下しにくい傾向にある。
【0048】
前記金属酸化物粒子または金属炭窒酸化物粒子の金属元素としては、周期表第4族、第5族、第14族の元素およびアルミニウムが挙げられる。
周期表第4族、第5族および第14族の元素は、具体的には、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、ニオブ、タンタル、バナジウムおよびスズが挙げられ、コストおよび得られる触媒粒子の性能の観点から、チタン、ジルコニウム、ニオブおよびタンタルが好ましく、チタンおよびニオブがさらに好ましい。
【0049】
これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
前記金属酸化物粒子としては、チタン窒酸化物、アルミナ、シリカ等からなる多孔質粒子が挙げられる。これらは半導体であり、導電性が高くはないものの、カーボン粒子と混合することにより使用することが可能である。
【0050】
前記金属炭窒酸化物粒子としては、国際公開公報WO2009/104500に開示された金属炭窒酸化物からなる触媒用担体が挙げられる。この金属炭窒酸化物における金属としては、チタン、ニオブなどが挙げられる。この金属炭窒酸化物の組成をMC
xN
yO
zと表すと(Mは金属元素である。)、好ましくは、0.01≦x≦2、0.01≦y≦2、0.01≦z≦3、かつx+y+z≦5である。この金属炭窒酸化物の製造方法としては、詳細はWO2009/104500に記載されているが、金属炭窒化物を、酸素を含む不活性ガス中で400〜1400℃で熱処理することにより金属炭窒酸化物を製造する方法が挙げられる。
【0051】
前記担体として、これらの担体を1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。たとえば前記導電性カーボン粒子と前記金属炭窒酸化物からなる触媒用担体とを、質量比で、導電性カーボン粒子:金属炭窒酸化物粒子=9:1〜1:9の割合で用いてもよい。この質量比は、好ましくは、導電性カーボン粒子:金属炭窒酸化物粒子=5:5〜1:9である。前記導電性粒子に占める前記金属炭窒酸化物粒子の割合が高くなると、担持型触媒粒子の酸素還元活性が高くなる傾向にある。金属炭窒酸化物の割合が上記範囲のとき、この触媒粒子を用いたMEAのガス拡散性が向上し、電流密度が高くなる傾向がある。なお、前記導電性カーボン粒子と併用する前記金属炭窒酸化物粒子を前記金属酸化物粒子に置き換えてもよい。
【0052】
また、金属酸化物や金属炭窒酸化物は親水性を示す。燃料電池による発電にはプロトンの伝導体として水の存在が不可欠であるので、疎水性の前記導電性カーボン粒子に親水性の金属酸化物粒子や金属炭窒酸化物粒子、好ましくは金属炭窒酸化物粒子を加えることで、セル内を加湿状態にし、発電性能を向上させることができる。
【0053】
前記金属酸化物粒子を粉末X線回折分析した際の、ピーク高さが最大のピークに基づいてシェラーの式:D=Kλ/Bcosθ(Dは結晶子サイズ(nm)、定数Kは0.89、λはCu−Kα線の波長(nm)、Bは前記ピークの半値幅、θは前記ピークの回折角(゜)である。)により算出される、この粒子の結晶子サイズは、好ましくは20〜500nmである。上記範囲内にある触媒粒子をMEAとして用いた場合、金属酸化物と導電性カーボンの粒径の違いにより触媒層内に空隙が生じ、燃料ガスのガス拡散性が向上し、発電性能を高めることができる。また触媒粒子を有効に利用する観点からは、前記結晶子サイズはより好ましくは30〜300nmであり、さらに好ましくは30〜250nmである。
【0054】
担持型触媒粒子から触媒粒子を除いた部分に占めるカーボンの割合は、50〜90質量%であることが好ましい。
前記担体のBET比表面積は、担体へ触媒粒子および後述する固体高分子電解質を分散させて燃料電池の十分な発電性能を得る観点からは、好ましくは20m
2/g以上、より好ましくは80m
2/g以上であり、触媒粒子および後述する固体高分子電解質を有効に利用する観点からは、好ましくは2000m
2/g以下、より好ましくは1600m
2/g以下である。
【0055】
担体に触媒粒子を担持した担持型触媒粒子のBET比表面積は、触媒粒子を肥大化させずに担持するという観点からは、好ましくは150〜1000m
2/g、より好ましくは200〜900m
2/g、さらに好ましくは250〜800m
2/gである。
【0056】
担体には、性能が損なわれない範囲で、前記触媒粒子が担持される前に、様々な処理が施されていてもよい。この処理としては、たとえば、酸やアルカリでの洗浄による不要な金属不純物の低減などが挙げられる。使用される酸やアルカリとしては、特に限定されないが、酸であれば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸、フッ化水素酸、臭化水素酸、酢酸、クロム酸、ヘキサフルオロアンチモン酸、テトラフルオロホウ酸等が、アルカリであれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられる。また、ボールミル等により解砕され、粒子サイズが小さくされていてもよい。
【0057】
<製造方法>
本発明に係る触媒粒子および担持型触媒粒子の製造方法としては、前記担体に前記触媒粒子を担持させる工程を含む製造方法が挙げられる。
【0058】
この工程は、たとえば、前記担体の分散液を準備する工程(i)、そこへ前記分散液に可溶な白金化合物およびパラジウム化合物、または白金およびパラジウムを含む化合物(以下、これらの化合物をまとめて「触媒粒子前駆体」ともいう。)を添加する工程(ii)、担体の表面に白金およびパラジウムを含む物質を析出させる工程(iii)、および工程(iii)を経た分散液から固形分(すなわち、表面に析出物を有する担体)を回収し、これを還元しかつ焼成する工程(iv)により実施することができる。
【0059】
工程(i)の分散液に用いる分散媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセロール等のアルコール;水とアルコールとの混合物が挙げられる。
【0060】
工程(ii)で用いられる触媒粒子前駆体のうち、白金を含む化合物としては、たとえばH
2PtCl
6、Na
2PtCl
6、K
2PtCl
6、(NH
4)
2PtCl
6、Pt(NO
3)
2、(NH
4)
2PtCl
4が挙げられ、パラジウム化合物としては、たとえばPdCl
4、PdCl
2、(NH
4)
2PdCl
4、Na
2PdCl
4、Na
2PdCl
2、H
2PdCl
4、H
2PdCl
6が挙げられる。以上は、前記分散媒が水の場合の化合物の例示であるが、分散媒が水以外の場合には、その分散媒に応じて可溶な化合物を適宜選択すればよい。
【0061】
また、前記触媒粒子前駆体の添加量は、前記担体の質量を1とすると、添加される化合物中の白金およびパラジウムの合計質量に換算して好ましくは0.2〜2.0である。
工程(iii)においては、たとえば工程(ii)を経た前記分散液のpHを上昇させて7〜11、好ましくは8〜11に調整することにより、触媒粒子の表面に白金およびパラジウムを含む物質を析出させればよい。これは、工程(ii)を経た前記分散液にアルカリ性物質、たとえばアンモニア水、Na
2CO
3、NaOHを添加することにより実施できる。アルカリ性物質の添加開始から、次の工程(iv)を開始するまでの時間は、好ましくは2〜12時間である。
【0062】
工程(i)〜工程(iii)における温度は、好ましくは10〜90℃である。この温度は、ウォーターバスなどを用いて、好ましくは一定に保たれる。
工程(i)〜工程(iii)の間、分散液は、好ましくは撹拌される。
【0063】
工程(iv)では、たとえば工程(iii)を経た分散液をろ過することにより、固形分(すなわち、表面に析出物を有する担体)を回収することができる。回収された固形分は、好ましくはオーブン等により乾燥される。
【0064】
前記固形分(またはその乾燥物)は、たとえば還元性ガス雰囲気下で、100〜800℃で、好ましくは200℃〜600℃で、10分間〜3時間保持することにより、還元されかつ焼成される。この焼成処理により、担体表面の析出物が還元され、白金とパラジウムを含む触媒粒子が形成される。
【0065】
前記還元性ガスとしては、好ましくは水素ガス、一酸化炭素ガスなどが挙げられる。また、前記還元性ガスは、還元性ガスと不活性ガスとの混合ガス、たとえば、水素ガスと窒素ガスとの混合ガスであってもよい。
【0066】
これらの工程を経ることにより、本発明に係る触媒粒子および担持型触媒粒子を得ることができる。
前記触媒粒子表面のPdの割合は、たとえば触媒粒子前駆体中のPdの割合を高くする、工程(i)〜(iii)における温度を低くする、工程(iii)におけるpHを低くする、工程(iii)の時間を短くする、触媒粒子前駆体中のPdを含む化合物の仕込み比率を高くする、などにより高くなる傾向にある。
【0067】
本発明においては、XPSにより測定される触媒粒子の表面のパラジウムの割合を45〜55原子%とすることが肝要であり、前記触媒粒子前駆体中のPdの割合、温度、pH、工程(iii)の時間、触媒粒子前駆体中のPdを含む化合物の仕込み比率を検討する有限回の実験を行うことにより、触媒粒子の表面のパラジウムの割合を調整することが可能である。
【0068】
例えば、表1を参照すると、温度を低くした場合は比較例11から比較例7のように、pHを低くした場合は
参考例2から比較例3のように、時間を短縮した場合は実施例1から比較例7、比較例7から比較例4のように、触媒粒子の表面のパラジウムの割合が高くなる。
【0069】
なお、本発明の触媒粒子においては、白金およびパラジウムの割合が表面と内部で異なっていてもよい。
[用途]
本発明に係る燃料電池触媒層は、本発明に係る触媒粒子、または当該触媒粒子が担持された担持型触媒粒子を含むことを特徴としている。
【0070】
燃料電池触媒層には、アノード触媒層、カソード触媒層があるが、前記触媒粒子ないし前記担持型触媒粒子はいずれにも用いることができる。前記触媒粒子ないし前記担持型触媒粒子は、高い酸素還元活性を有するため、好ましくはカソード触媒層に用いられる。さらに、前記触媒粒子ないし前記担持型触媒粒子は、高い酸素還元活性を有するにもかかわらず低いメタノール酸化活性は低いため、DMFC等の直接メタノール形燃料電池のカソード触媒層に特に好ましく用いられる。
【0071】
本発明に係る燃料電池触媒層は、好ましくは、高分子電解質をさらに含む。前記高分子電解質としては、燃料電池触媒層において一般的に用いられているものであれば特に限定されない。具体的には、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(NAFION(登録商標)))、スルホン酸基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸などの無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液や硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体などが挙げられる。これらの中でも、ナフィオンが好ましい。前記燃料電池触媒層を形成する際のナフィオンの供給源としては、5%ナフィオン溶液(DE521、デュポン社)などが挙げられる。
【0072】
高分子電解質の含有率は、プロトン伝導性と電子伝導性とを両方確保する観点から、触媒との重量比率(高分子電解質の重量/触媒の重量)は0.25〜1であることが好ましく、0.3〜0.9であることがより好ましく、0.4〜0.8であることがさらに好ましい。
【0073】
前記燃料電池触媒層の形成方法としては、特に制限はないが、たとえば、前記担持型触媒粒子と前記高分子電解質とを含む懸濁液を、電解質膜またはガス拡散層に塗布し乾燥させる方法、前記担持型触媒粒子と前記高分子電解質とを含む懸濁液を用いて基材に燃料電池触媒層を形成した後、これを電解質膜に転写して燃料電池触媒層を形成する方法が挙げられる。
【0074】
本発明に係る電極は、前記燃料電池触媒層と多孔質支持層とを有することを特徴としている。
多孔質支持層とは、ガスを拡散する層(以下「ガス拡散層」とも記す。)である。ガス拡散層としては、電子伝導性を有し、ガスの拡散性が高く、耐食性の高いものであれば何であっても構わないが、一般的にはカーボンペーパー、カーボンクロスなどの炭素系多孔質材料や、軽量化のためにステンレス、耐食材を被服したアルミニウム箔が用いられる。
【0075】
本発明に係る膜電極接合体は、カソードとアノードと前記カソードおよび前記アノードの間に配置された電解質膜とを有する膜電極接合体であって、前記カソードおよび/または前記アノードが、前記電極であることを特徴としている。また、前記電極と電解質膜との間に生じる接触抵抗を減らすため、前記アノード電極、カソード電極及び膜をホットプレス機でプレスしてもよい。接触抵抗の減少とガス拡散性を確保するため、ホットプレスの圧力は0.5MPa〜15MPaであることが好ましく、0.5〜10MPaであることがより好ましく、0.5〜5MPaであることがさらに好ましい。プレスの際の温度は、110℃〜150℃であることが好ましく、120〜150℃であることがより好ましく、130〜150℃であることがさらに好ましい。ホットプレスの時間は、特に限定されず、従来技術をもとに適宜決定される。
【0076】
前記電解質膜としては、例えば、パーフルオロスルホン酸系を用いた電解質膜または炭化水素系電解質膜などが一般的に用いられるが、高分子微多孔膜に液体電解質を含浸させた膜または多孔質体に高分子電解質を充填させた膜などを用いてもよい。
【0077】
本発明に係る燃料電池は、前記膜電極接合体を備えることを特徴としている。
本発明に係る本発明の燃料電池は、発電機能、発光機能、発熱機能、音響発生機能、運動機能、表示機能および充電機能からなる群より選ばれる少なくとも一つの機能を有し燃料電池を備える物品の性能、特に携帯可能な物品の性能を向上させることができる。前記燃料電池は、好ましくは物品の表面または内部に備えられる。
【0078】
前記物品の具体例としては、ビル、家屋、テント等の建築物、蛍光灯、LED等、有機EL、街灯、屋内照明、信号機等の照明器具、機械、車両そのものを含む自動車用機器、家電製品、農業機器、電子機器、携帯電話等を含む携帯情報端末、美容機材、可搬式工具、風呂用品トイレ用品等の衛生機材、家具、玩具、装飾品、掲示板、クーラーボックス、屋外発電機などのアウトドア用品、教材、造花、オブジェ、心臓ペースメーカー用電源、ペルチェ素子を備えた加熱および冷却器用の電源が挙げられる。
【実施例】
【0079】
以下に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
[測定方法]
各種測定は、下記の方法により行なった。
【0080】
1.触媒粒子表面のPd量;
X線光電子分光(X-ray photoelectron spectroscopy、以下「XPS」と記載する。)を用いて、担持型触媒粒子中の触媒粒子の表面に占めるPdの量(PdとPtとの合計量に対するPdの割合(原子%))を測定した。
【0081】
測定に用いた装置および条件は以下のとおりである。
(測定装置)
製造社:Kratos Analytical / Shimadzu group company
モデル名:AXIS-NOVA
(測定条件)
Alモノクロ225W(15kV×15mA)
分析径:300×700μm
脱出角:90°
帯電中和条件:1.5V
パスエネルギー:160eV ステップ:1eV 保持時間:50ms スイープ回数:4
結合エネルギー補正:C1sスペクトルのC-Cピークを284.6eVとした。
【0082】
2.触媒粒子のPd量;
誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)を用いて、担持型触媒粒子中の触媒粒子に占めるPdの量(PdとPtとの合計量に対するPdの割合(原子%))を測定した。
【0083】
3.触媒粒子の粒子サイズ;
理学電機株式会社製 ロータフレックスを用いて、試料(担持型触媒粒子)の粉末X線回折分析を行った。
【0084】
測定条件の詳細は以下のとおりである。
X線出力(Cu−Kα):50kV、180mA
走査軸:θ/2θ
測定範囲(2θ):10.00°〜89.98°
測定モード:FT
読込幅:0.02°
サンプリング時間:0.70秒
DS、SS、RS:0.5°、0.5°、0.15mm
ゴニオメーター半径:185mm
各試料の粉末X線回折における回折線ピークの本数は、信号(S)とノイズ(N)の比(S/N)が2以上で検出できるシグナルを1つのピークとしてみなして数えた。なお、ノイズ(N)は、ベースラインの幅とした。
【0085】
触媒粒子に起因するピークについて、粉末X線回折リートベルト解析プログラム(“HighScore Plus.”、製造会社:Panalytical. B.V.)により回折線の半値幅B(ラジアン)を求め、シェラーの式:D=Kλ/Bcosθ(定数Kは0.89、λはX線の波長(nm)、θは回折角(゜)である。)により、触媒粒子の結晶面に垂直な方向の結晶子サイズの平均値Dを算出した。なお、触媒粒子は、立方晶の白金粒子、白金合金粒子等なので、結晶面(111)面に垂直な方向の結晶子サイズの平均値を平均粒子サイズとして採用した。
【0086】
4.酸素還元活性;
担持型触媒粒子、5質量%の濃度のナフィオン溶液(DE521、デュポン社)および水を混合し、これらに超音波照射して、触媒インクを調製した。20μlの触媒インクを円盤型グラッシーカーボン電極(面積:0.196cm
2)上に滴下し、自然乾燥させて電極を得た。なお、担持型触媒粒子の量は、電極上のPdおよびPtの合計量が33μg/cm
2となるように調整した。
【0087】
この電極を作用電極として用いて、以下の条件下で回転ディスク電極(RDE)法により酸素還元活性測定を行った。
参照電極:可逆水素電極 (RHE)
対電極:Ptワイヤー
電解液:0.5M H
2SO
4水溶液(測定開始前に、電解液を1時間かけて酸素で飽和させた。)
回転速度600rpm
測定電圧範囲:1.1V〜0.3V
走査速度:5mV/s
得られたデータは、下式により標準化した。
【0088】
i
k=(i
d−i)/(i・i
d)
(式中、i
kは標準化された電流密度(μA/cm
2)、iは0.9Vにおける電流密度(μA/cm
2)、i
dは拡散電流密度(μA/cm
2)である。)
i
kの値が大きいほど、酸素還元活性が高い。
【0089】
5.反応選択性;
電解液を硫酸濃度が0.5M、メタノール濃度が0.05Mの水溶液に変更したこと以外は「3.酸素還元活性」と同様の方法により、酸素還元活性測定を行った。
【0090】
6.金属酸化物担体の結晶子サイズ
担体を粉末XRD測定し、ピーク高さが最大のピークに基づいてシェラーの式:D=Kλ/Bcosθ(Dは結晶子サイズ(nm)、定数Kは0.89、λはCu−Kα線の波長(nm))により、金属酸化物担体の結晶子サイズを算出した。XRD測定の条件の詳細は、「3.触媒粒子の粒子サイズ」に記載のとおりである。
【0091】
7.担持型触媒粒子のBET比表面積
担持型触媒粒子を0.15g採取し、全自動BET比表面積測定装置 マックソーブ((株)マウンテック製)で比表面積測定を行った。前処理時間、前処理温度は、それぞれ30分、200℃に設定した。
【0092】
8.直接メタノール形燃料電池の発電性能と耐久性評価;
8.1 膜電極接合体の作製
カソードの作製:上記担持型触媒粒子、5質量%の濃度のナフィオン溶液(DE521、デュポン社)、1−プロパノールおよび水を混合し、これらに超音波照射して、触媒インクを調製した。触媒インク中のナフィオンと触媒の重量比率はナフィオン/触媒=0.6になるように調整した。触媒インクはスプレー機(サンエイテック社製)を用いて、カーボンペーパー(24BC、東レ社製)上に塗布した。インクの使用量は、カーボンペーパー上に貴金属の塗布量が1mg/cm
2になるように調整した。
【0093】
アノードの作製:上記のカソードの製作法と同様に、市販のPtRu/C触媒(TEC61E54DM、田中貴金属社製)を用いて、貴金属の塗布量が2.9mg/cm
2になるようカーボンペーパー上に塗布した。
【0094】
以上のカソード、アノードの触媒層を内側として電解質膜(ナフィオン膜(N212、デュポン社))の両面を2つの電極で挟み、プレスして膜電極接合体を作製した。プレス条件は温度140℃、圧力1MPa、時間7分であった。
【0095】
8.2 直接メタノール形燃料電池の発電性能と耐久性評価
発電性能:上記の通りに作製した膜電極接合体と燃料電池セル(英和株式会社製)を用いて、1Mのメタノール水溶液を燃料とし、空気を酸化剤として電池の発電性能を評価した。セル電圧が0.4Vの時の電流密度を測定し、この値に基づいて発電性能を評価した。電流密度の値は、燃料電池の発電性能が高いほど高くなる。
【0096】
耐久性評価:カソード側触媒の耐久性を評価するため、まず上記の発電性能測定方法で、セル電圧が0.4Vの時の電流密度を測定し、この電流密度を初期性能とした。その後、カソード側の空気を不活性ガス(窒素ガス)に切り替え、ポテンシャルスタットを用いてカソード側の電位サイクル試験を行った。電位サイクル試験によるカソード側触媒の性能変化、すなわちカソード側触媒の耐久性は、カソード側の不活性ガスを空気に切り替え、電池の発電性能(セル電圧が0.4Vの時の電流密度)を測定し、上記初期性能と比較することにより、評価した。上記の電位サイクル試験は、カソードの電位を、0.1V−0.9Vの間を20mV/sの走査速度で変動させて(すなわち、電位走査して)行った。以上の電位サイクル試験を開始した後の電池性能を表2にまとめた。
【0097】
8.3 直接メタノール形燃料電池の出力特性評価
8.2に記載の方法と同様にして、作製した膜電極接合体と燃料電池セル(英和株式会社製)を用いて、1Mのメタノール水溶液を燃料とし、空気を酸化剤として電池の発電性能を評価した。評価の際、出力密度の最大値を測定した。担体および触媒粒子の種類を変更した際の発電性能を表3にまとめた。
【0098】
[触媒の製造等]
<担体の製造>
[製造例1]
国際公開WO2009/104500の実施例5に従って、チタン炭窒酸化物(1)を調製した。100mlのH
2SO
4水溶液(30質量%)に、0.8gの上記チタン炭窒酸化物(1)を入れて、これらを撹拌しながら昇温して80℃で6時間保持し、次いで室温まで冷却し、濾過した。得られた固形分を、該固形分の水分散液のpHが4になるまで水で洗浄した。洗浄後の固形分を80℃のオーブンで8時間以上乾燥させて粉末(以下「TiCNO担体(1)」ともいう。)を得た。TiCNO担体(1)のBET比表面積(常法により測定)は、196m
2/gであった。
【0099】
[製造例2]
導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック EC600JD、ケッチェンブラックインターナショナル(株)製、BET=1270m
2/g)(以下「カーボン担体(1)」ともいう。)と、前記TiCNO担体(1)とを、カーボン担体(1):TiCNO担体(1)=70質量部:30質量部の割合で混合し、混合物(1)を得た。さらに、チタン炭窒酸化物(1)を混合物(1)に変更したこと以外は製造例1と同様の操作を行い粉末(以下「混合担体(1)」という。)を得た。
【0100】
[製造例3]
TiCNO担体(1)をTiO
2(昭和電工株式会社製、グレードG1、結晶子径145nm)(以下「TiO
2担体(1)」という。)に変更し、前記カーボン担体(1)と前記TiO
2担体(1)とを、カーボン担体(1):TiO
2担体(1)=80質量部:20質量部の割合で混合したこと以外は製造例1と同様の操作を行い、粉末(以下「混合担体(2)」という。)を得た。
【0101】
[製造例4]
TiCNO担体(1)をTiO
2(石原産業株式会社製、ST−01、結晶子径7nm)(以下「TiO
2担体(2)」という。)に変更し、前記カーボン担体(1)と前記TiO
2担体(2)とを、カーボン担体(1):TiO
2担体(2)=80質量部:20質量部の割合で混合したこと以外は製造例1と同様の操作を行い、粉末(以下「混合担体(3)」という。)を得た。
【0102】
[製造例5]
カーボン担体(1)を多層カーボンナノチューブ(VGCF−H、昭和電工株式会社製、BET比表面積13m
2/g)に変更したこと以外は製造例2と同様の操作を行い、粉末(以下「混合担体(4)」という。)を得た。
【0103】
<担持型触媒粒子の製造>
[実施例1]
500mLの水に担体粉末として0.4gの混合担体粉末(1)を加え、40℃のウォーターバスで30分間撹拌した。得られた分散液に、56.6mlの(NH
4)
2PdCl
4の水溶液(Pd濃度:0.19質量%)と103.1mlのH
2PtCl
6の水溶液(Pt濃度:0.19質量%)を添加し、40℃のウォーターバスで6時間撹拌した。なお、これらの添加操作および撹拌操作の間、Na
2CO
3の水溶液(濃度:4.2質量%)を加えることにより分散液のpHを9に維持した。以下、この攪拌操作の際の温度、時間およびpHをまとめて「担持条件」ともいう。
【0104】
得られた分散液を、室温(25℃)まで放冷した後に濾過し、次いで、得られた固形物を80℃のオーブンで12時間かけて乾燥させた。得られた乾燥物を乳鉢で粉砕し、石英炉で窒素ガスと水素ガスとの混合ガス(水素ガス濃度:4体積%)の雰囲気で300℃で2時間かけて焼成して、PdおよびPtを含む触媒粒子を担持してなる担持型触媒粒子を得た。担持型触媒粒子の評価結果を表1,2に示す。
【0105】
[
参考例2、実施例3、参考例4、実施例5、比較例1〜11]
実施例1において、表1に示すように製造条件を変更して、担持型触媒粒子を製造した。得られた各担持型触媒粒子の評価結果を表1に示す。
【0106】
[実施例6]
実施例1と同様の操作を行い、担持型触媒粒子を製造した。得られた担持型触媒粒子を6.3に記載の評価法で評価した。
【0107】
[実施例7]
実施例1において、担持の際のウォーターバスの温度を80℃にしたこと以外は実施例1と同様の操作を行い、担持型触媒粒子を製造した。得られた担持型触媒粒子を6.3に記載の評価法で評価した。
【0108】
[
参考例8〜11、実施例12]
実施例1において、表3に示すように触媒担体の種類および混合割合を変更して混合担体を製造し、担持型触媒粒子を得た。得られた担持型触媒粒子を6.3に記載の評価方法で評価した。
【0109】
[実施例13]
500mLの水に担体粉末として0.4gの混合担体粉末(1)を加え、40℃のウォーターバスで30分間撹拌した。得られた分散液に、56.6mlの(NH
4)
2PdCl
4の水溶液(Pd濃度:0.19質量%)を入れ、ウォーターバスで2時間撹拌した。次いで、103.1mlのH
2PtCl
6の水溶液(Pt濃度:0.19質量%)を添加し、40℃のウォーターバスで4時間撹拌した。なお、これらの添加操作および撹拌操作の間、Na
2CO
3の水溶液(濃度:4.2質量%)を加えることにより分散液のpHを9に維持した。分散液の調製をこのように実施したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、担持型触媒粒子を製造した。得られた担持型触媒粒子を6.3に記載の評価法で評価した。
【0110】
[比較例12]
Pd水溶液を41.3mlのRuCl
3水溶液(Ru濃度:0.19質量%)に変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行い、担持型触媒粒子を製造した。得られた担持型触媒粒子を6.3に記載の評価法で評価した。
【0111】
以上の実施例6
,7、参考例8〜11、実施例12,13および比較例12の評価結果を表3にまとめて示す。
図1より、白金およびパラジウムを含む触媒粒子の酸素還元活性は、該触媒粒子の表面のパラジウムの割合が増えるにつれて低下する傾向にあるが、パラジウムの割合が45〜55原子%である実施例
(または参考例)1〜5は特異的に高い酸素還元活性を示すことがわかる。その一方で、触媒の担体、pH、温度、時間等の担持条件、粒子サイズ、重量比率は酸素還元活性と特異的な相関は見られない。よって、本発明においては、担持条件や触媒粒子の特性に優先して、触媒粒子の表面のパラジウムの割合によって酸素還元活性が決定されることが確認できる。
【0112】
また、触媒粒子前駆体のパラジウムの割合と触媒粒子表面のパラジウム割合に差があることから、触媒粒子内でパラジウムの分布に勾配が生じているものと考察される。詳細は不明であるが、このような適度な勾配を発生させることが酸素還元活性に影響を与えている可能性がある。
【0113】
図2より、比較例6では硫酸水溶液中にメタノールが存在した場合、存在しない場合に比べて酸素還元活性が20分の1ほどと大幅に減少するが、実施例1ではメタノールが存在する場合でも2分の1程度の酸素還元活性を保持している。よって、実施例1の触媒は比較例6の触媒よりもメタノール酸化活性が低いため、電池のエネルギー効率を維持できることがわかる。
【0114】
このことから、実施例1の触媒は、メタノールが存在しない条件においては100%白金の比較例6よりも酸素還元活性が若干劣るものの、メタノール酸化活性が低いため、直接メタノール形燃料電池のカソードとして用いることにメリットがあるということを確認できる。
【0115】
表2より、実施例1及び比較例6の触媒では、電位走査開始から22時間の間は性能が向上することが確認された。電位サイクル試験による触媒の活性化を要因とする性能向上であると考えられる。電位走査開始から22時間経過後には、比較例6の触媒では時間とともに電池性能が低下したが、実施例1では電池性能低下が確認されなかった。このことから、本発明の担持型触媒は高い発電安定性を持つということが確認できる。
【0116】
また、表1によれば、実施例1の触媒の酸素還元活性の指標である電流密度は、Ptのみから構成される比較例6の触媒の電流密度より低いが、実際の直接メタノール電池の発電性能は比較例6より実施例1の方が高かった。このことから本発明の担持型触媒は、メタノール酸化活性が低いため、直接メタノール形燃料電池のアノード側からクロスオーバーしたメタノールから受ける影響が低く、高い酸素還元活性が維持できることが確認できる。
【0117】
以上より、本発明の触媒を用いれば、発電性能、耐久性が共に高い直接メタノール形燃料電池が得られることが確認された。
表3より、実施例6と実施例13を比較すると、触媒粒子のPdの割合と、表面のPdの割合との差が大きい実施例13では最大出力密度が低下している。このことから、触媒粒子の表面の割合だけでなく、内部の合金組成が触媒活性に重要であるといえる。
【0118】
表3より、
参考例8と
参考例9を比較すると、カーボン担体に30nm以上の結晶子サイズを持った金属酸化物を添加した混合担体を用いた
参考例8では、結晶子サイズが30nm未満の金属酸化物を添加した混合物担体を用いた
参考例9よりも高い出力密度を示している。また、実施例6
、7、参考例8と
参考例10、11を比較すると、混合担体を用いた実施例6
、7、参考例8は、単独の担体を用いた
参考例10、11よりも高い出力密度を示している。一般的に、最大出力密度は高電流密度領域での特性を示し、燃料ガスの拡散性の影響を強く受けることが知られている。実施例6
、7、参考例8に示した混合担体で高い最大出力密度を示したことは、金属酸化物または金属炭窒酸化物と導電性カーボンの粒径の違いにより触媒層内に空隙が生じることで燃料ガスのガス拡散性が向上し、酸素還元反応が生じやすくなった結果だと考えられる。
【0119】
【表1】
【0120】
【表2】
【0121】
【表3】