特許第6129449号(P6129449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6129449
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】低融点組成物,封止材及び電子部品
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/23 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   C03C3/23
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-572777(P2016-572777)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2016075411
【審査請求日】2016年12月11日
(31)【優先権主張番号】特願2015-208054(P2015-208054)
(32)【優先日】2015年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000178826
【氏名又は名称】日本山村硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104639
【弁理士】
【氏名又は名称】早坂 巧
(72)【発明者】
【氏名】池田 拓朗
【審査官】 飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭55−116643(JP,A)
【文献】 特開平05−147974(JP,A)
【文献】 特開2002−037644(JP,A)
【文献】 特開昭62−202838(JP,A)
【文献】 PAPPIN, A. J. et al.,The appearance of annealing pre-peaks in inorganic glasses: new experimental results and theoretical,Journal of Non-Crystalline Solids,1994年,Vol. 172-174,p. 584-591
【文献】 MACHIDA Nobuya, et al.,The structure of AgI-Ag2MoO4-Ag2PO3.5 glasses studied by 31P magic angle spinning(MAS) NMR and their,Journal of Non-Crystalline Solids,1995年,Vol.192&193,p.326-329
【文献】 MACHIDA Nobuya, et al.,FT-IR, FT-Raman and 95Mo MAS-NMR studies on the structure of ionically conducting glasses in the sys,Solid State Ionics,1998年,Vol.107,p.255-268
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00−14/00
C09K3/10
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOを必須の構成要素として含んでなる低融点組成物であって,カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
PO5/2 ・・・・・・0〜10モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
LiO1/2を含まず,
をアルカリ金属,Rをアルカリ土類金属としたとき,(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/(AgO1/2+R1/2+2×RO)<1であり,
無機酸化物であるガラス板表面に対し350℃において15°以下の低接触角を示すものである,低融点組成物。
【請求項2】
Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOを必須の構成要素として含んでなる低融点組成物であって,カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
PO5/2 ・・・・・・0〜10モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
LiO1/2を含まず,
吸収端の波長λが480nm以上であり,
無機酸化物であるガラス板表面に対し350℃において15°以下の低接触角を示すものである,低融点組成物。
【請求項3】
請求項1又は2の低融点組成物であって,Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOのみを構成要素として含んでなり,且つ
(2×MoO+2×WO)/AgO1/2<1である
低融点組成物。
【請求項4】
AgF,AgCl及びAgBrを実質的に含まない,請求項1〜3の何れかの低融点組成物。
【請求項5】
Mo及びWから選ばれる1種又は2種並びにAg,I,及びOを含んでなり,無機酸化物であるガラス板表面に対し350℃において15°以下の低接触角を示す低融点組成物の製造方法であって,
カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして,該組成物を表したとき,該成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
PO5/2 ・・・・・・0〜10モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
LiO1/2を含まず,
をアルカリ金属,Rをアルカリ土類金属としたとき,(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/(AgO1/2+R1/2+2×RO)<1
となるように原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
【請求項6】
Mo及びWから選ばれる1種又は2種並びにAg,I,及びOを含んでなり,無機酸化物であるガラス板表面に対し350℃において15°以下の低接触角を示す低融点組成物の製造方法であって,
カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして,該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
PO5/2 ・・・・・・0〜10モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ
LiO1/2を含まず,
該組成物の吸収端の波長λgが480nm以上
となるように原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6の製造方法であって,該低融点組成物がMo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOのみを構成要素として含んでなり,且つ
(2×MoO+2×WO)/AgO1/2<1であるように
原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
【請求項8】
請求項5〜7の何れかの製造方法であって,該低融点組成物がAgF,AgCl及びAgBrを実質的に含まないように,原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4の何れかの低融点組成物を含んでなる低融点封止材。
【請求項10】
請求項9の低融点封止材で封止された電子部品。
【請求項11】
請求項9の低融点封止材で互いに接合された2以上の部材を含んでなる,電子部品。
【請求項12】
水晶振動子,半導体素子,SAW素子又は有機EL素子である,請求項10又は11の電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,無機組成物に関し,より具体的には無機の低融点組成物,該組成物を含んでなる低融点封止材,及びこれを用いた電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の無機低融点組成物が電気・電子機器業界において様々な用途で用いられている。例えば,水晶振動子,LED素子のような電気・電子部品の封止において,低融点(例えば,250℃)のAu−Sn合金はんだペーストや封止用ガラスフリットが,これをそれらの部品に塗布し焼成するという方法で用いられている。
【0003】
Au−Sn合金(特許文献1)は以前より用いられてきた材料であり信頼性はあるが,金を成分に含むため非常に高価である。
【0004】
このため,封止材の調製に用いられる低融点ガラスとしては,より安価なPbO系ガラスやV系ガラスも知られている。例えば,400℃未満の温度で封止可能なPbO系ガラス(特許文献2)や350℃以下で焼成可能なV系ガラス(特許文献3)が知られている。
【0005】
他方,酸化銀及び/又はハロゲン化銀と他の金属酸化物(Pb,Vであってよい)を含んでなる,300〜330℃で使用できる封止材料が知られている(特許文献4)。
【0006】
また,酸化銀,五酸化燐及びヨウ化銀を含んでなる封止材料が知られている(特許文献5,6)。
【0007】
このような状況において,近年,電気・電子材料の回路構成等の益々の微細化が進むのに伴い,より信頼性が高く且つ安価な封止材が求められるようになっているが,その要請には未だ十分に応えられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−122969号公報
【特許文献2】特開昭61−261233号公報
【特許文献3】特開2013−32255号公報
【特許文献4】特開平5−147974号公報
【特許文献5】特開2000−183560号公報
【特許文献6】特開2001−328837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一目的は,無機酸化物及び/又は金属からなる表面を有する封止対象に適用して,大気中で,400℃を超えない,好ましくは350℃を超えない低い温度領域において熱処理するとき,それらの表面に対し良好な濡れ性を示してよく拡がり,その後の冷却固化により当該表面に良好に接着(密着)した状態となることでこれを封止でき,また重ね合わせたそれら表面同士を接合もできる,無鉛の無機低融点組成物を提供することである。本発明の更なる一目的は,そのような組成物を含む低融点封止材を提供することである。本発明の尚も更なる一目的は,それらの封止材で封止又は接合された電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は,構成要素としてAg,Mo,I,Oのみを有する無機低融点組成物の無機酸化物表面に対する濡れ性について調査していたところ,茶褐色や黒色といった濃い色の組成物は濡れ性が良く,淡黄色の組成物は濡れ性が悪いことを発見した。更に,この組成物に他の元素を添加した場合の色調と濡れ性の関係性,色調及び濡れ性と組成の関係性について検討を加えて完成するに至ったものである。すなわち,本発明は以下を提供する。
【0011】
1.Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOを必須の構成要素として含んでなる低融点組成物であって,カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
をアルカリ金属,Rをアルカリ土類金属としたとき,(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/(AgO1/2+R1/2+2×RO)<1であり,
酸化物表面に対し低接触角を示すものである,低融点組成物。
2.Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOを必須の構成要素として含んでなる低融点組成物であって,カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
吸収端の波長λが480nm以上である,低融点組成物。
3.上記1又は2の低融点組成物であって,Mo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOのみを構成要素として含んでなり,且つ
(2×MoO+2×WO)/AgO1/2<1である
低融点組成物。
4.AgF,AgCl及びAgBrを実質的に含まない,上記1〜3の何れかの低融点組成物。
5.Mo及びWから選ばれる1種又は2種並びにAg,I,及びOを含んでなり,酸化物表面に対し低接触角を示す低融点組成物の製造方法であって,
カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして,該組成物を表したとき,該成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ,
をアルカリ金属,Rをアルカリ土類金属としたとき,(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/(AgO1/2+R1/2+2×RO)<1
となるように原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
6.Mo及びWから選ばれる1種又は2種並びにAg,I,及びOを含んでなり,酸化物表面に対し低接触角を示す低融点組成物の製造方法であって,
カチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体として,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものとして,該組成物を表したとき,該組成物中それらの化合物が占める割合が次の条件:
AgI ・・・・・ 12〜82モル%,
AgO1/2 ・・・ 12〜60モル%,
MoO+WO ・ 6〜28モル%,
ΣAgQ1/q ・・ 68〜94モル%,及び
ΣMOm/2 ・・・ 18〜88モル%,
を満たし,且つ
該組成物の吸収端の波長λgが480nm以上
となるように原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
7.上記5又は6の製造方法であって,該低融点組成物がMo及びWから選ばれる1種又は2種,並びに,Ag,I,及びOのみを構成要素として含んでなり,且つ
(2×MoO+2×WO)/AgO1/2<1であるように
原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
8.上記5〜7の何れかの製造方法であって,該低融点組成物がAgF,AgCl及びAgBrを実質的に含まないように,原料を準備し調合し,加熱溶融した後冷却固化させる各ステップを含む,製造方法。
9. 上記1〜4の何れかの低融点組成物を含んでなる低融点封止材。
10.上記9の低融点封止材で封止された電子部品。
11.上記9の低融点封止材で互いに接合された2以上の部材を含んでなる,電子部品。
12.水晶振動子,半導体素子,SAW素子又は有機EL素子である,上記10又は11の電子部品。
【発明の効果】
【0012】
本発明の無機低融点組成物は,これを含んでなる低融点封止材を封止対象の無機酸化物及び/又は金属からなる表面に適用し,大気中で400℃を超えない幅広い温度領域において加熱融解させて適宜広げた後,冷却させ固化させることで,当該表面に対し密着性の良好な封止を達成できる。また,無機酸化物に対する融解時の濡れ性が特に高く,このため,無機酸化物表面を含む封止対象の封止に取り分け適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は,封止材を用いた水晶振動子の構造を分解した状態で示す模式図である。
図2図2は,低融点ガラス組成物3及び5の,厚さ50μmにおける内部透過率についての分光透過率曲線を示す。
図3図3は,液滴の接触角θと,θを算出するために用いるパラメータを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において,「低融点」の語は,融点が400℃を超えないことを意味し,より好ましくは,融点が350℃を超えないことを意味する。本発明の低融点ガラス組成物は,その融点に適した用途に使用できる。例えば,250〜350℃の融点を有する組成物は,Au−Sn合金封止材の安価な代替材料として用いることができる。また,融点が250℃を超えない組成物は,Au−Sn合金はんだが既に用いられている電子部品に更に封止を施す場合にも好都合に使用できる。
【0015】
本発明の組成物をその成分とそれらの量的関係によって規定するにあたり,便宜上,当該組成物をその製造原料由来のカチオンとアニオンとが結合してなる,式MQm/q〔式中,Mは価数mのカチオン,Qは価数qのアニオンを表す。〕で示される種々の化合物の集合体であると見做し,且つ酸化物イオン(O2−)以外のアニオンは全てAgイオンと結合しているものと見做す。なお,それらの化合物が満たす前記の量的条件の下では,〔Agイオンのモル数〕>〔酸化物以外の各アニオンのモル数×価数の合計〕という関係が成り立つ。
【0016】
本発明の低融点組成物は,400℃を超えない温度,例えば好ましくは200〜400℃,より好ましくは250〜350℃の範囲で,無機酸化物への良好な濡れ性を有している。従って,当該組成物を,例えば粒子(例えば,粉末やペースト)の形で,無機酸化物又は金属からなる表面を有する封止対象に適用し,上記の温度に加熱することで流動させて封止対象の表面に広げ,次いで冷却して固化させることにより,当該組成物が封止対象の表面に強く密着した状態となってこれを封止することができる。
【0017】
本発明の組成物において,AgIは,必須の成分であり,組成物の液相線温度を低下させる効果及びガラス相を形成させる効果がある。これらの効果の利用のため,AgIの含有量は,好ましくは12〜82モル%,より好ましくは20〜76モル%,更に好ましくは23〜73モル%である。
【0018】
AgO1/2も,本発明の組成物の必須の成分である。AgO1/2は,Ag以外のカチオンMm+(主としてMo6+)へ酸化物イオン(O2−)を供給し,Mm+の配位数やMO(2n−m)−配位多面体の連結の数を変化させることにより,組成物の液相やガラス相を形成させる効果,及び酸化物との密着性を高める効果を生じさせる。これらの効果の利用のため,AgO1/2の含有量は,好ましくは12〜60モル%,より好ましくは16〜54モル%,更に好ましくは18〜52モル%である。
【0019】
MoO又はWOの少なくとも1種以上も本発明の組成物の必須の成分であり,組成物の液相線温度を低下させる効果やガラス相を形成させる効果,及び無機酸化物との密着性を高める効果を有する。これらの効果の利用のため,MoOとWOの含有量の合計は,好ましくは6〜28モル%,より好ましくは8〜26モル%,更に好ましくは9〜25モル%である。
MoOは比較的低融点にする効果があり,WOは比較的高融点にする効果がある。300℃以下でフローする組成物を得るためには,モル比MoO/(MoO+WO)を0.2〜1.0とすることが好ましく,0.5〜1.0とすることがより好ましい。250〜300℃では軟化しない耐熱性を有し,かつ,300〜400℃でフローする組成物を得るためには,モル比MoO/(MoO+WO)を0〜0.2とすることが好ましく,0〜0.05とすることがより好ましい。
【0020】
本発明の組成物において,400℃を超えない温度で融解させるため,AgQ1/qで表される銀化合物成分の合計(ΣAgQ1/q)は好ましくは68〜94モル%,より好ましくは70〜92モル%,更に好ましくは72〜91モル%である。
【0021】
本発明の組成物において,400℃を超えない温度で融解させるため,MOm/2で表される酸化物成分の合計含有量(ΣMOm/2)は,18〜84モル%,より好ましくは24〜80モル%,更に好ましくは27〜77モル%である。
【0022】
本発明の組成物において,組成物の色調と酸化物に対する濡れ性との間には強い相関関係があることを本発明者は見出した。
本発明の組成物が,酸化物に対する良好な濡れ性を示すには,組成物の色調が茶褐色等の濃色であること,より具体的には吸収端の波長λが480nm以上であることが必要である。好ましくはλは484nm以上である。
【0023】
本発明の組成物において「吸収端の波長λ」とは,組成物を50μmの厚さとした場合の内部透過率が50%となる波長をいう。透過率測定用サンプルとして組成物を50μm近辺の均一な厚みの膜にするには,例えば,融点以上に加熱した組成物を2枚のスライドガラスに挟んで押し広げてから冷却すればよい。スライドガラス間にスペーサ(ガラスビーズ等)を挟んでおくと膜厚の均一さを担保できる。内部透過率を求めるには空気−スライドガラス界面及びスライドガラス−低融点組成物界面に生じる光反射の影響を除く必要があるが,本発明の組成物は700nmでは光吸収がほとんどないことから,700nmの外部透過率〔T(700nm,t)〕で代用することができる。また,スライドガラスにおける可視光の内部透過率は,ほぼ100%である。これらのことに基づき,波長λ,厚みtにおける内部透過率τ(λ,t)は式1により求めることができる。従って,サンプルの厚み50μmにおける内部透過率τ(λ,50μm)は式2により求めることができる。こうして求めたτ(λ,50μm)が0.5となる波長をλとする(式3)。
【0024】
【数1】
【0025】
【数2】
【0026】
【数3】
【0027】
Ag,Mo,I,Oのみからなる組成物であれば,関係式2×MoO/AgO1/2<1を満たすようにすれば前記色調が得られ,その場合には酸化物への濡れ性も良好になることを本発明者は見出した。
【0028】
Ag,Mo,I,Oのみからなる組成物中で各イオンは,Ag,I,MoO2−,並びにMoO2−の縮合したMo2−の形式で存在すると言われている。一方,前記関係式を満たすときにはMoO2−を形成してもなお余剰のO2−イオンが存在するから,これが格子欠陥等を生じさせ組成物の色調を茶褐色に変色させるものと推測される。また,前記「余剰のO2−イオン」が被接着材料である酸化物表面との結合性に影響を及ぼして濡れ性を良好にするものと推測される。
【0029】
同様に,Ag,W,I,Oのみからなる組成物であれば,関係式2×WO/AgO1/2<1を満たすようにすれば,前記色調が得られ,その場合には酸化物への濡れ性も良好になることを本発明者は見出した。
Mo及びWの両方を含む組成物であれば,(2×MoO+2×WO)/AgO1/2<1を満たすようにすれば,前記色調が得られ,酸化物への濡れ性も良好になることを本発明者は見出した。
【0030】
Mo及び/又はW,並びにAg,I,Oからなる組成物に,更なる成分としてPO5/2を加えた場合には,PO5/2はPO3−等の形になりO2−イオンを消費するため,PO5/2を含まない場合よりも多くのAgO1/2を必要とすることを本発明者は見出した。この場合は(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/AgO1/2<1を満たすようにすれば,前記色調が得られ,その場合には酸化物への濡れ性も良好になることも本発明者は見出した。
【0031】
Mo及び/又はW,並びにAg,I,Oからなる組成物に更なる成分としてアルカリ金属酸化物R1/2を加えた場合には,R1/2はRの形になりO2−イオンを供給するため,R1/2を含まない場合よりも少ないAgO1/2の量でも良い。この場合は(2×MoO+2×WO)/(AgO1/2+R1/2)<1を満たすようにすれば,前記色調が得られ,その場合には酸化物への濡れ性も良好になることを本発明者は見出した。
【0032】
Mo及び/又はW,並びにAg,I,Oからなる組成物に更なる成分としてアルカリ土類金属酸化物ROを加えた場合には,ROはR2+の形になりO2−イオンを供給するため,ROを含まない場合よりも少ないAgO1/2の量でも良い。この場合は(2×MoO+2×WO)/(AgO1/2+2×RO)<1を満たすようにすれば,前記色調が得られ,その場合には酸化物への濡れ性も良好になることを本発明者は見出した。
【0033】
Mo及び/又はW,並びにAg,I,Oからなる組成物に任意成分として,P,R,Rを含む場合に酸化物への濡れ性を良好にするには,(2×MoO+2×WO+3×PO5/2)/(AgO1/2+R1/2+2×RO)を1未満とすればよく,0.99以下とすることが好ましく,0.98以下とすることがより好ましく,0.95以下とすることが更に好ましい。
【0034】
このように,添加する他の成分が酸性酸化物である場合は,必要なAgO1/2量は多くなり,塩基性酸化物である場合は必要なAgO1/2量は少なくなり,添加する他の成分が両性酸化物である場合は,必要なAgO1/2量に大きな変化は生じない,という明白な傾向が認められる。
【0035】
これらのことは,組成物が上記の式を満たすようにすれば,当該組成物にAgO1/2がある一定量以上含有されることになって,無機酸化物表面に対する良好な濡れ性が得られると共に,そのような量で含有されるAgO1/2により,当該組成物が前記の色調を有する結果となることを示している。従ってまた,組成物が当該前記の色調を有している場合,そのことは,当該組成物が上記一定量以上のAgO1/2を含有しており,無機酸化物表面に対し良好な濡れ性を有するものであることを示している。
【0036】
実際に組成を調整する場合には,組成物を50μmの厚さとした場合に内部透過率が50%となる波長λを調べ,λが480nm未満であれば,AgO1/2を増量した組成へ変更しλを調べる,このような操作をλが480nm以上になるまで繰り返せば濡れ性の良い組成物を得ることができる。このような調整と判断は,本明細書の記載を参照して当業者は簡単に行うことができる。
【0037】
本発明の組成物は,ヨウ化銀以外のハロゲン化銀化合物(AgF,AgCl,AgBr)を任意成分として,含有してもよい。これら任意のハロゲン化銀化合物成分は,固相線温度,液相線温度,熱膨張係数,弾性率等の調整のために用いることができる。これら任意のハロゲン化銀化合物成分の含有量は合計で,好ましくは5モル%以下,より好ましくは3モル%以下,更に好ましくは0.1モル%以下である。なお発明において「AgF,AgCl及びAgBrを実質的に含まない」というときは,AgF,AgCl及びAgBrの合計量が0.01モル%以下であることをいう。
【0038】
本発明の組成物は,任意の銀化合物成分としてAgS1/2を含有してもよい。AgS1/2は,固相線温度,液相線温度,熱膨張係数,弾性率等の調整,電気化学的安定性の向上のために用いることができる。AgS1/2の含有量は,好ましくは20モル%以下,より好ましくは10モル%以下,更に好ましくは5モル%以下である。
【0039】
本発明の組成物は,任意の酸化物成分としてZnOを含有してもよい。ZnOは,被封止材である酸化物との結合強度を高める効果がある。ZnOの含有量は,好ましくは0.1〜10モル%,より好ましくは0.7〜8モル%,更に好ましくは1.5〜5モル%である。
【0040】
本発明の組成物は,任意の酸化物成分としてLiO1/2,NaO1/2,KO1/2,RbO1/2,CsO1/2,MgO,CaO,SrO,BaO,ScO3/2,YO3/2,ランタノイド元素酸化物,TiO,ZrO,HfO,VO5/2,NbO5/2,TaO5/2,WO,MnO,FeO3/2,CoO3/2,NiO,CuO1/2,BO3/2,AlO3/2,GaO3/2,InO3/2,SiO,GeO,SnO,PO5/2,SbO3/2,BiO3/2,及びTeOを含有してもよい。これら任意の酸化物成分は,固相線温度,液相線温度,熱膨張係数,弾性率等の調整のために含有させることができる。これら任意の酸化物成分の含有量は合計で,好ましくは10モル%以下,より好ましくは8モル%以下,更に好ましくは5モル%以下である。
【0041】
本発明の組成物は無鉛であり,即ちPbを実質的に含まない。ここに「無鉛」とは,不純物として微量が混入する場合でも,Pbの含有量が1000ppm未満であることをいう。Pbの含有量はより好ましくは100ppm未満である。
【0042】
本発明の組成物は,加熱し融解することで目的の低融点組成物を与えることになるように予め調合された各種原料試薬粉末の混合物の形で提供してもよい。また,そのような混合物を加熱し溶融した後に冷却することで得られる,固溶体や複ハロゲン化物,ガラス相が形成されている形態の材料とすることもできる。固溶体や複ハロゲン化物,ガラス相が形成されていると,より短時間の加熱で融解しやすい組成物となることから,そのような形態の組成物であることがより好ましい。また,本発明の組成物は,酸,塩基,又は塩を含んだ水溶液を反応させ沈殿させることによっても製造することができる。
【0043】
また,本発明の組成物は,粉末やビーズ,シート状,ロッド状等に加工して封止材として用いることができる。作業性の向上という点から水,有機溶剤,分散剤,増粘剤等と混合してペースト状の封止材としても用いることができる。有機溶剤としてはターピネオール,セロソルブ,イソボルニルシクロヘキサノール等を用いることができる。
【0044】
また,本発明の封止材は,封止特性の向上のために,熱膨張率の小さいフィラー(例えば,β−ユークリプタイト,β−スポジュメン,石英ガラス,ムライト,コージェライト,チタン酸アルミニウム,タングステン酸ジルコニウム,インバー合金等)や弾性率が小さく耐熱性のある有機高分子材料(例えば,ポリイミド,シリコーン,ポリテトラフルオロエチレン,ポリフェニレンスルファイド,フッ素ゴム等)を含んだ形態のものとすることができる。その他に性能付加の観点から,例えば,導電性の付与のためには,金属(例えば,金属銀等),カーボンナノチューブ等の導電性フィラーを含んだ形態のものとすることができ,熱伝導性の付与のためには,高い熱伝導性を有するフィラー(例えば,窒化アルミニウム,炭化ケイ素等)を含んだ形態のものとすることができる。これらのフィラーは,本発明の組成物が用いられる封止対象の使用態様・使用環境に応じて求められる性能に合わせ,本発明の封止材の構成要素の一部をなすものとして配合すればよい。封止材の流動性を保つための封止材中のフィラーの含有率の上限は,フィラーの粒度分布にも依るが概ね50体積%である。
【0045】
本発明の封止材を用いる場合,封止対象は,その表面が,種々の金属,非金属(無機酸化物,フッ化物,窒化物,炭化物,有機ポリマー材料等)で構成されたものであることができる。但し,本発明の組成物には,無機酸化物を濡らす性質があるため,封止対象の少なくとも一部が無機酸化物である場合に用いるのが特に好ましい。
【0046】
本発明の組成物は,封止温度に応じて,以下のようにガラス板に対し適した接触角を示すものを選択して用いることができる。
250℃の場合:50°以下,300℃の場合:25°以下,350℃の場合:15°以下。なお,本発明の組成物について「低接触角」というときは,無機酸化物であるガラス板表面に対して観察される接触角が,350℃において15°以下であることをいい,より好ましくは,350℃において15°以下であり,且つ300℃において25°以下及び/又は250℃において50°以下であることをいう。
【0047】
本発明の封止材は,これを用いて封止対象を封止した後,結晶化させることで,封止材の熱膨張係数を低下させ,機械的強度を向上させ,また耐熱衝撃性を向上させることができる。結晶化させるには,封止材をガラス転移点以上且つ液相線温度以下に一定時間保持すればよい。素早く確実に結晶化させるには50℃〜100℃の範囲で1分〜1時間程度保持して結晶核を生成させた後,100〜150℃の範囲で1分〜1時間程度保持して結晶成長をさせるとよい。
【0048】
本発明の封止材を用いて封止するとき,作業雰囲気は酸素を含んでいてもいなくてもよい。封止に際しては,封止対象に圧力をかけて接着性を更に高めることもでき,また,封止材に超音波等の振動を与えて融解を促進させることもできる。
【0049】
本発明の封止材は種々の電子部品,例えば,水晶振動子,半導体素子,SAW素子,有機EL素子に使用できる。その他,水素・ヘリウムのような低分子・低原子量のガスの透過が問題となる部品の封止や真空を保つことが必要になる部品の封止に使用できる。
【0050】
本発明の封止材12を用いた水晶振動子の構造を,分解した状態で図1に模式的に示す。
【実施例】
【0051】
以下,実施例を参照して本発明の特徴をより具体的に説明するが,本発明がそれらの実施例に限定されることは意図しない。
【0052】
〔組成物1〜26〕
表1〜5に従い,各組成物につき,合計5gとなるよう,示された配合割合で原料を秤取・調合し,乳鉢で粉砕・混合して粉末とした。得られた粉末5gを磁製ルツボに入れた。ルツボを大気中,450℃に加熱した炉内へ入れ,10分間保持して原料混合物を溶融した。融液を室温にてグラファイト板上へ流し出して冷却させることにより,バルクとして各組成物を得た。
【0053】
〔物性の評価〕
上記で得られた各バルクについて,下記の方法により物性を評価した。
【0054】
1.吸収端の評価
組成物1〜26の各バルク約100mgをサンプルとしてスライドガラスの中央に載せ,スライドガラスの端部には平均粒径50μmのジルコニアビーズを載せた。更に上からスライドガラスをもう1枚重ねた。所定の温度(組成物1〜13,16〜25については300℃,組成物14〜15,26については350℃)に加熱した炉内へ,それらの重なったスライドガラスを入れた。1分後炉から取り出し,錘を載せた状態で室温まで冷却した。冷却後,マイクロメータを用いてサンプルの厚みを測定した。測定は,サンプルを挟んで重なったスライドガラス全体の厚みから2枚のスライドガラスの厚みを減算することにより行った。サンプルの厚みは40〜70μmの範囲内であった。分光光度計(型名「U−3010」,(株)日立ハイテクノロジーズ製)に積分球を付属させた装置を用い,入射光角度は0度として,サンプル及びこれを挟む2枚のスライドガラスの全体の外部透過率を700nm及び他の種々の波長λで測定し,前述の式1〜3より各サンプルにつき吸収端の波長を算出した。
【0055】
<結果>
組成物3及び5の内部透過率を分光透過率曲線として図2に示す。また,各組成物について吸収端波長の数値を表1〜5に示す。
【0056】
2.濡れ性の評価
組成物1〜26の各バルクを,直径3mm×高さ5mmの円柱状に切削加工してサンプルとした。各サンプルを25mm角,1.3mm厚のガラス板(ソーダライムガラス)の非錫面(フロートガラス製造時の空気側の面)に立てて載せ電気炉へ入れた。5℃/分で250℃,300℃又は350℃まで昇温した後,同温度で1時間保持し,加熱を止め,サンプルを放冷した。ガラス板上のサンプルの形状を観察し,図3に記載の各パラメータを計測し,それらを用いてθ/2法により接触角θを算出した。
【0057】
【数4】
【0058】
<結果>
各組成物について,ガラス板との接触角を表1〜5に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
【表4】
【0063】
【表5】
【0064】
表1〜5に見られるように,組成物2,5,7,9,11,13,15〜18,20,22及び24〜26(即ち,全ての実施例)は,何れも吸収端の波長が480nm以上であり,350℃におけるガラス板との接触角は15°以下である。このことは,実施例の組成物がこの温度において無機酸化物の封止に好適に使用できるものであることを示している。他方,組成物1,3,4,6,8,10,12,14,19,21及び23(即ち,全ての比較例)は,何れも吸収端の波長が480nm未満であり,350℃におけるガラス板への接触角は15°を超えており,この温度における無機酸化物に対する封止材として,実施例より劣っていることを示している。
【0065】
また,表1〜5において各組成物の300℃におけるガラス板との接触角を見ると,この温度において軟化する実施例の組成物のうち,組成物7,9,11,16〜18,20,22及び24〜25は,ガラス版との接触角が25°以下であり,この温度においても無機酸化物の封止に好適に使用できるものである。これに対し,300℃で軟化する比較例の組成物のうちには,25°以下の接触角を示すものはなく,何れも好適に使用できない。
【0066】
更に,表1〜5において,各組成物の250℃におけるガラス板との接触角を見ると,この温度において軟化する実施例の組成物のうち,組成物5,16〜18,22及び24〜25は,ガラス板との接触角が50°以下であり,この温度においても無機酸化物の封止に好適に使用できるものである。これに対し,250℃で軟化する比較例の組成物のうちには,50°以下の接触角を示すものはなく,何れも好適に使用できない。
【0067】
3.Heリーク試験
<低融点組成物のみを用いて封止したサンプルの作製>
標準の金属製半導体パッケージの規格によるTO−5型で,上部に開口のある金属キャップ(本体はコバール製であり,表面にNiメッキを施したもの)の上部を,300℃に加熱した上記組成物2,5,7,9,11,13,16〜18,20,22,24〜25の融液に漬け,次いで組成物が付着した上部を上側に向けて金属キャップを台上に置いた。石英ガラス板を金属キャップ上に載せ,その状態でそれらを300℃に設定した炉に投入した。炉を300℃で10分間保持後,炉の加熱を止め,金属キャップを炉内で放冷した。金属キャップと石英ガラスは固着していた。
【0068】
<Heリーク評価方法>
Heリーク試験には,JIS Z 2331:2006に規定された真空吹付け法を用いた。リークディテクタにはHELIOT700((株)ULVAC製)を用いた。
【0069】
<結果>
組成物2,5,7,9,11,13,16〜18,20,22,24〜25のいずれにおいても5×10−11Pa・m/秒の感度にてHeのリークは確認できなかった。このことは当該組成物がコバール(金属)表面とガラス(無機酸化物)表面の両方に隙間なく密着して優れた密封状態を作り出したことを示している。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の低融点組成物は,水晶振動子,LED素子その他の電気電子部品に用いる封止材に用いることができ,有用である。
【符号の説明】
【0071】
10 蓋
12 封止材
14 セラミック基板
16 水晶振動子
【要約】
無機酸化物及び/又は金属からなる表面を有する封止対象に適用して,大気中で,400℃を超えない温度領域において熱処理するとき,良好な濡れ性を示し,冷却固化により当該表面に良好に接着(密着)して封止でき,重ね合わせたそれら表面同士を接合もできる,無鉛の無機低融点組成物を提供することである。
図1
図2
図3