(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6129452
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ライフル銃
(51)【国際特許分類】
F41A 21/12 20060101AFI20170508BHJP
F41A 21/48 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
F41A21/12
F41A21/48
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-4252(P2017-4252)
(22)【出願日】2017年1月13日
【審査請求日】2017年1月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500158351
【氏名又は名称】常定 正
(74)【代理人】
【識別番号】100114535
【弁理士】
【氏名又は名称】森 寿夫
(74)【代理人】
【識別番号】100075960
【弁理士】
【氏名又は名称】森 廣三郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155103
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 厚
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100194755
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀明
(72)【発明者】
【氏名】常定 正
【審査官】
諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2016/0209155(US,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0261365(US,A1)
【文献】
米国特許第08276495(US,B1)
【文献】
米国特許第07526888(US,B1)
【文献】
米国特許第05561934(US,A)
【文献】
英国特許出願公告第00720684(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F41A 21/12−21/14
F41A 21/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銃身と薬室形成部とが別体とされ、
薬室形成部が、銃身を形成する金属よりも硬い金属で形成されて、
旋条を有する銃腔の後端区間以外の区間が、銃身に設けられ、
旋条を有する銃腔の後端区間が、薬室形成部の前端側に設けられるとともに、
薬室形成部における旋条が設けられる部分の内径Dに対する薬室形成部における旋条が設けられる区間の長さLの比L/Dが4〜6とされた
ことを特徴とするライフル銃。
【請求項2】
薬室形成部と銃身とにおけるロックウェル硬さの差が、10〜50HRCとされた請求項1記載のライフル銃。
【請求項3】
薬室形成部のロックウェル硬さが、35HRC以上とされた請求項1又は2記載のライフル銃。
【請求項4】
銃身のロックウェル硬さが、30HRC以下とされた請求項1〜3いずれか記載のライフル銃。
【請求項5】
薬室形成部における、薬莢の外周面を覆う部分の厚さが、5mm以上とされた請求項1〜4いずれか記載のライフル銃。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ライフル銃に関する。
【背景技術】
【0002】
ライフル銃としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られており、ライフル銃の薬室(チャンバー)に込める弾(カートリッジ)としては、例えば、特許文献2に記載されたもののように、薬莢(カートリッジケース)と、薬莢の後端部に設けられた雷管(プライマー)と、薬莢の前端部に取り付けられた弾丸(ブリット)と、薬莢内に詰められた火薬(パウダー)とで構成されたものが知られている。この種の弾は、その雷管部分が撃針(ファイアリングピン)で打撃されたことを契機として、薬莢内の火薬が爆発し、薬莢内の圧力が高められることで、弾丸が発射されるようになっている。
【0003】
ところが、この種の弾では、火薬が爆発した際に薬莢内に生ずる圧力によって、薬莢が膨張(拡大)しようとするため、その弾を打ったライフル銃の薬室が薬莢に押し広げられて拡大することがある。薬室が拡大したライフル銃で弾を打つと、その弾の薬莢が膨張して、薬莢に割れ等の破損が生じる虞がある。競技目的でライフル銃を使用する人は、薬莢を再利用するところ、薬莢が破損すると、薬莢を再利用することができなくなってしまう。このため、薬室の拡大を防止する対策が重要となっている。
【0004】
薬室の拡大を防止する対策としては、真鍮等の破損しにくい金属で薬莢を形成することが挙げられる。しかし、薬莢内に生じる圧力は非常に高いため、薬莢を真鍮で形成した程度では、薬室の拡大を防止することができない。また、薬室の拡大を防止する対策としては、薬莢内に収める火薬の爆発力を抑える対策も挙げられる。しかし、この対策では、爆発力の強い火薬を使用することができず、弾丸の飛翔力が犠牲になってしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−330396号公報
【特許文献2】特表2004−500535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、弾の性能(弾丸の飛翔力等)を犠牲にすることなく、薬室の拡大を防止することができる構造を有するライフル銃を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者は、ライフル銃における薬室を形成する部分(以下「薬室形成部」とする。)を硬い金属で形成することを考えた。しかし、従来のライフル銃は、特許文献1の
図1に示されるように、薬室形成部が銃身(バレル)の後端側に一体的に設けられ、薬室形成部と銃身は、同じ金属材料で形成される。このため、従来のライフル銃において、薬室形成部を硬い金属で形成しようとすると、銃身もそれと同じ硬い金属で形成する必要がある。ところが、銃身を硬い金属で形成すると、銃身が折れやすくなることに加えて、旋条(ライフリング)と呼ばれる螺旋状突起を銃身の内部(銃腔(ボア))に長区間に亘って加工することができなくなる。
【0008】
そこで、本発明者は、
銃身と薬室形成部とが別体とされ、
薬室形成部が、銃身を形成する金属よりも硬い金属で形成された
ことを特徴とするライフル銃
を発明するに至った。
【0009】
このように、銃身と薬室形成部とを別体とすることにより、銃身を形成する金属の硬さを、銃身に折れが生じず、且つ、旋条を有する銃腔を長区間に亘って加工できる程度に抑えながらも、薬室形成部を硬くすることができる。したがって、弾に爆発力の強い火薬を使用したり、弾の火薬量を増やしたりしても、薬室の拡大を抑えることが可能になる。
【0010】
本発明のライフル銃において、薬室形成部は、銃身よりも硬ければ、その具体的な硬さは、特に限定されない。しかし、薬室形成部の硬さが銃身と同程度であると、銃身と薬室形成部とを別体とする意義が低下する。このため、薬室形成部と銃身とにおける硬さの差(ロックウェル硬さの差。以下同じ。)は、10HRC以上とすると好ましく、15HRC以上とするとより好ましく、20HRC以上とするとさらに好ましい。薬室形成部と銃身とにおけるロックウェル硬さの差に、特に上限はないが、通常、50HRC以下とされる。
【0011】
このとき、薬室形成部のロックウェル硬さは、35HRC以上とすると好ましく、40HRC以上とするとより好ましく、45HRC以上とするとさらに好ましい。薬室形成部のロックウェル硬さに、特に上限はないが、現実的には、50〜60HRC程度までとされる。
【0012】
またこのとき、銃身のロックウェル硬さは、通常、30HRC以下とされる。銃身を硬くしすぎると、上述したように、銃身が折れやすくなる虞や、銃身に旋条を加工しにくくなる虞があるからである。ただし、銃身のロックウェル硬さは、銃身の耐摩耗性等を確保できる硬さ以上(例えばショア硬さで25HC以上)とされる。
【0013】
本発明のライフル銃において、薬室形成部における、薬莢の外周面を覆う部分を薄くしすぎると、薬室形成部を硬い金属で形成したとしても、薬莢の膨張を薬室形成部で抑え込むことができなくなる虞がある。このため、薬室形成部における、薬莢の外周面を覆う部分の厚さ(場所によって当該部分の厚さが異なる場合には、その最小値。以下同じ。)は、5mm以上とすると好ましい。薬室形成部における、薬莢の外周面を覆う部分の厚さは、8mm以上とするとより好ましく、10mm以上とするとさらに好ましい。薬室形成部における、薬莢の外周面を覆う部分の厚さに、特に上限はないが、通常、40〜50mm程度までである。
【0014】
本発明のライフル銃においては、銃腔の後端区間以外の区間を、銃身に設け、銃腔の後端区間を、薬室形成部の前端側に設けることも好ましい。既に述べたように、ライフル銃の銃腔には、旋条と呼ばれる螺旋状突起が設けられるところ、短い区間であれば、硬い金属からなる薬室形成部に対しても、当該金属の焼き入れ前に加工する等すれば、その旋条を薬室形成部に加工することが可能である。このように、旋条が設けられた銃腔の一部(後端区間)を硬い金属からなる薬室形成部に設けることにより、銃身における銃腔の旋条の摩耗を抑えることが可能になる。銃腔の旋条は、その後端区間が最も摩耗しやすいところ、その後端区間を摩耗しにくい硬い金属で形成することができるからである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明によって、弾の性能(弾丸の飛翔力等)を犠牲にすることなく、薬室の拡大を防止することができる構造を有するライフル銃を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図2】
図1のライフル銃における薬室形成部周辺の内部構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、ライフル銃の全体を示した側面図である。
図2は、
図1のライフル銃における薬室形成部20の周辺の内部構造を示した断面図である。本実施態様のライフル銃は、
図1に示すように、銃身(バレル)10と、薬室形成部20と、機関部(レシーバー)30と、用心金(トリガーガード)40と、銃把(グリップ)50と、銃床(ストック)60とを備えたものとなっている。薬室形成部20の内部には、
図2に示すように、弾(カートリッジ)100を込めるための薬室(チャンバー)21が設けられている。機関部30には、引金(トリガ)31のほか、図示省略の逆鉤(シア)と、図示省略の撃鉄(ハンマ)と、図示省略のコイルスプリング(撃鉄付勢手段)と、遊底(ボルト)32(
図2)と、撃針(ファイアリングピン)33(
図2)とが設けられている。
【0018】
このライフル銃は、
[1]引金31(
図1)を指で引く。
[2]逆鉤が動作し、撃鉄を係止していた逆鉤が撃鉄から外れる。
[3]撃鉄付勢手段の付勢力によって撃鉄が遊底32(
図2)内を前進する。
[4]撃鉄が撃針33(
図2)を後方から打撃する。
[5]撃針33が遊底32内を前進する。
[6]撃針33の前端部が、弾100(
図2)における雷管104のカップ104aの後面を打撃する。
[7]カップ104aの前面側に塗布された起爆薬104bが、カップ104aと発火金(アンビル)104cとで押圧されて発火する。
[8]薬莢101内の火薬102が爆発する。
[9]火薬102の爆発により、薬莢101内の圧力が増大し、弾丸103が発射される。
という手順及び流れで、弾丸103を発射するものとなっている。
【0019】
既に述べたように、上記[8],[9]における火薬102の爆発の際に、薬莢101内に生じる圧力によって薬室21が拡大する虞がある。この点、本実施態様のライフル銃では、薬室21に込められた弾100の薬莢101の外周部を硬い金属で覆うことにより、上記[8],「9」の際に薬室21が拡大しないようにしている。
【0020】
具体的には、
図2に示すように、薬室21を有する薬室形成部20を、銃身10とは別体とするとともに、薬室形成部20を、銃身10を形成する金属よりも硬い金属で形成している。銃身10とは別体からなる薬室形成部20を、銃身10に対して固定する構造は、特に限定されない。本実施態様のライフル銃においては、薬室形成部20の前端側に、その外周部にネジ溝が形成された螺合部22を設けるとともに、銃身10の後端部に、その内周部にネジ溝が形成された被螺合部11を設けており、被螺合部10aに対して螺合部20aを螺合することにより、薬室形成部21を銃身10に対して固定するようにしている。機関部30と薬室形成部20との固定構造も、これと同様としている。
【0021】
既に述べたように、薬室形成部20を形成する金属のロックウェル硬さは、35HRC以上とすると好ましく、銃身10を形成する金属のロックウェル硬さは、30HRC以下とすると好ましい。このため、薬室形成部20を形成する金属の種類や、銃身10を形成する金属の種類は、これらの条件を満たすものを選択すると好ましい。
【0022】
本実施態様のライフル銃において、薬室形成部20は、プレス機のダイスを形成するのに用いられる工具鋼(ダイス鋼)で形成している。工具鋼としては、SK等の炭素工具鋼や、SKTやSKS等の低合金工具鋼や、SKD等の冷間ダイス鋼や熱間ダイス鋼や、SKH等の高速度工具鋼(いわゆるハイス鋼。)等が例示される。これらの工具鋼のうち、冷間ダイス鋼や熱間ダイス鋼は、優れた硬さを発揮できるため、薬室形成部20を形成するものとして最適である。本実施態様のライフル銃においては、大同特殊鋼株式会社製のSKD11系の冷間ダイス鋼「DC53」によって、薬室形成部20を形成している。薬室形成部20における、薬莢101の外周面を覆う部分の厚さT(
図2)は、本実施態様のライフル銃において、約12mmとしている。
【0023】
これに対し、銃身10は、薬室形成部20ほどの硬さは要求されないことに加えて、銃身10を形成する金属を硬いものとしすぎると、銃身が折れやすくなる虞や、銃腔12内に旋条12aを加工できなくなる虞がある。このため、銃身10は、ステンレス鋼やクロムモリブデン鋼等、ある程度加工のしやすい硬さの金属によって形成すると好ましい。本実施態様のライフル銃においては、ニッケル(Ni)を含有しないクロム系のステンレス鋼によって、銃身10を形成しており、銃身10のロックウェル硬さは、約20HRCとなっている。
【0024】
このように、銃身10には、旋条12aを有する銃腔12が設けられるところ、本実施態様のライフル銃においては、
図2に示すように、薬莢形成部20にも、旋条23aを有する銃腔23を設けている。換言すると、銃腔の後端区間以外の区間(銃腔12)を、銃身10に設けて、銃腔の後端区間(銃腔23)を、薬室形成部20の前端側に設けている。銃身10の銃腔12及び旋条12aと薬室形成部20の銃腔23及び旋条23aとは、前後方向に連続した状態で接続される。ライフル銃では、銃腔12,23の略全長に亘って旋条12a,23aが設けられるところ、弾100から発射された直後の弾丸103が通過する部分(銃腔12,23の後端区間)に設けられたものが最も摩耗しやすい。この点、本実施態様のライフル銃のように、摩耗しやすい後端区間の旋条23aを、硬い金属からなる薬室形成部20に設けることによって、旋条23aの摩耗を防止することが可能になる。また、銃身10側に設けられた旋条12aが摩耗しないようにして、銃身10の寿命を長くすることができる。金属の焼き入れ前であれば、硬い金属からなる薬室形成部20にも、旋条23aが形成された銃腔23を
図2に示す程度の区間長で加工することができる。
【0025】
薬室形成部20における旋条23aが設けられる区間の長さL(
図2)の具体的な値は、特に限定されない。しかし、旋条23aを設ける区間長Lを、薬室形成部20における旋条23aが設けられる部分の内径D(
図2)に対して長くしすぎると、旋条23aを加工できなくなる虞がある。このため、区間長Lは、内径D(内径Dは、通常、4.5〜12mmの範囲とされる。)に対する区間長Lの比L/Dが4〜6程度となる範囲に抑えると好ましい。ただし、区間長Lを短くしすぎると、銃身10側の旋条12a(特に、後端区間に近い部分の旋条12a)が摩耗しやすくなる虞がある。このため、旋条23aを設ける区間長Lは、10mm以上確保すると好ましい。
【0026】
ところで、本実施態様のライフル銃は、薬室形成部20を硬い金属で形成して、薬莢101の膨張を抑え込むことで、火薬102として爆発力の強いもの(高速燃焼火薬)を大量に使用しても、薬室21の拡大を防止できるようにするものであるため、薬室形成部20の薬室21に込められた弾100の薬莢101の外周部(薬室形成部20の内面と薬莢101の外周面との間)には、隙間が存在しない方が好ましい。この点、本実施態様のライフル銃においては、テーパー状に形成された薬莢101の外周面に倣って、薬室形成部20の内面もテーパー状に形成するとともに、薬室21に込められた弾100の後端部を遊底32で前方に押し込む構造を採用することで、薬室21に弾100を込めた状態において、薬室形成部20の内面と薬莢101の外周面とが密着するようにしている。
【符号の説明】
【0027】
10 銃身(バレル)
11 被螺合部
12 銃腔
12a 旋条
20 薬室形成部
21 薬室
22 螺合部
23 銃腔
23a 旋条
30 機関部(レシーバー)
31 引金(トリガー)
32 遊底(ボルト)
33 撃針(ファイアリングピン)
40 用心金(トリガーガード)
50 銃把(グリップ)
60 銃床(ストック)
100 弾(カートリッジ)
101 薬莢(カートリッジケース)
102 火薬(パウダー)
103 弾丸(ブリット)
104 雷管(プライマー)
104a カップ
104b 起爆薬
104c 発火金(アンビル)
【要約】
【課題】
弾の性能(弾丸の飛翔力等)を犠牲にすることなく、薬室の拡大を防止することができる構造を有するライフル銃を提供する。
【解決手段】
銃身10と薬室形成部20とが別体とし、薬室形成部20を、銃身10を形成する金属よりも硬い金属で形成した。薬室形成部20と銃身10とにおけるロックウェル硬さの差は、10〜50HRCとすると好ましい。薬室形成部20のロックウェル硬さは、35HRC以上とすると好ましい。銃身10のロックウェル硬さは、30HRC以下とすると好ましい。薬室形成部20における、薬莢101の外周面を覆う部分の厚さTは、5mm以上とすると好ましい。銃腔の後端区間以外の区間(銃腔12)を銃身10に設け、銃腔の後端区間(銃腔23)を薬室形成部20の前端側に設けることも好ましい。
【選択図】
図2