【実施例】
【0018】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0019】
まず、実施例4(後述の試験結果中に表示)に係る空気入りタイヤ10の構成について、
図1〜2を用いて説明する。
図1に示すように、本実施例の空気入りタイヤ10は、カーカス層が、第1のカーカスプライ1と、第2のカーカスプライ13とからなり、サイドウォール部29にこれら以外の補強層を有していない。第1のカーカスプライ1は、中抜き部を有さないため、ビード部25の間を掛け渡すようにタイヤ内面に沿って延びるカーカス内側部11と、ビード部25からトレッド33の側へと延びる巻上げ部12とからなる。図示の具体例で、巻上げ部12は、ビードフィラー27の尖端より、ショルダー28側へと少し離間した箇所から、カーカス内側部11に直接接している。一方、巻上げ部12のタイヤ幅方向内側端(巻上げ端16)は、ベルト層2の縁24から、タイヤ幅方向内側に、所定寸法D1だけ離れた位置にある。四輪乗用車用のタイヤにおいて、好ましくは、10〜40mm離れた位置にあり、また、タイヤ子午線31から50mm以上離れている。
【0020】
第2のカーカスプライ13は、タイヤ内面に沿った部分が全て省かれた形の中抜き構造を有しており、図示の具体例において、ビード部25の側の端部15が、タイヤ内面の端部に位置している。すなわち、ビードコア26と、ホイールのリムとに挟まれる領域の全体を確実にカバーするように延びている。また、第1のカーカスプライ1の巻上げ部12の外側面に接するようにして、ベルト層2の端部近傍の領域中にまで延びている。すなわち、第2のカーカスプライ13の巻上げ端14は、ベルト層2の縁(端部)24よりタイヤ幅方向内側にある。四輪乗用車用のタイヤにおいて、好ましくは5〜40mm離れた位置にある。このようにして、ビード部25から、ベルト層2の端部の領域へと、第1のカーカスプライ1の巻上げ部12と、第2のカーカスプライ13とが、確実に掛け渡されて耐力構造をなして入る。しかも、サイドウォール部29中にて補強層が3層だけという最小限の構成により強力な耐力構造を形成している。なお、図示の例において、ベルト層2は、2層のベルトプライ21、22からなり、これらの外面にはキャッププライ23がかぶせられている。しかし、ベルト層の縁24という場合、キャッププライ23は無視し、タイヤ幅方向に最も外側まで延びるベルトプライ21の縁を指すものとする。
【0021】
本実施例において、第2のカーカスプライ13の巻上げ端14が、ベルト層2の縁24と、第1のカーカスプライ1の巻上げ端16との間に位置する。このような構成の四輪乗用車用のタイヤの好ましい例において、ベルト層2の縁24から第2のカーカスプライ13の巻上げ端14の距離D2は、5〜20mm、ベルト層2の縁24から第1のカーカスプライ1の巻上げ端16までの距離D1の1.5〜2.5倍である。
【0022】
次に、
図2を用いて、バットレス部のプライ積層構造について、特には、具体的な構成コードの配向の例について説明する。後述の実施例4に対応する図示の具体例において、カーカス内側部11中の構成コード11Aと、第2のカーカスプライ13の構成コード13Aとは、互いに平行に配置され、いずれも、タイヤ周方向32に対して70°傾斜している。一方、カーカス内側部11と第2のカーカスプライ13との間に挟まれる巻上げ部12では、構成コード12Aが、逆側に、タイヤ周方向32に対して70°傾斜している。このようにして、直接接して重ねあわされるプライ間では、構成コードが交差している。
【0023】
図2中に示すように、巻上げ部12が、第2のカーカスプライ13の巻上げ端14から突き出す突き出し部12B中では、構成コード12Aの配向が、巻上げ部12の他の部位と異なっている。すなわち、構成コード12Aの配向が、第2のカーカスプライ13に覆われる領域から出る際に、構成コード12Aが屈曲している。図示の具体例において、突き出し部12B中の構成コード12Aは、タイヤ周方向32に対して40°傾斜している。すなわち、第2のカーカスプライ13に覆われる領域から出る際に、構成コード12Aが30°屈曲している。このような構成とするならば、
図2から知られるように、タイヤ幅方向での構成コードの打ち込み密度が大きくなる。そのため、2層重ねの領域での補強効果を大きくすることができる。
【0024】
以下に、具体的な試験及びその結果について説明する。ここで、実施例4は、
図1〜2に示す上述の具体例である。同様の構成において、実施例3は、第1のカーカス1の突き出し部12Bにおける構成コード12Aの配向を、タイヤ周方向に対して50°に変更したものであり、実施例2は、突き出し部12Bにおける構成コード12Aの配向を、他の部位と同じ70°に変更したものである。また、実施例1は、実施例2と同様の構成において、第1のカーカス1の巻上げ端16の位置と、第2のカーカス13の巻上げ端14の位置とを入れ替えたものである。
【0025】
一方、実施例5は、実施例1と同様の構成において、第1のカーカス1の巻上げ部12におけるベルト層2の縁24から巻上げ端16までの10mmの領域にて、構成コード12Aの配向をタイヤ周方向に対して40°に変更したものである。
【0026】
比較例1は、実施例1と同様の構成において、いずれのカーカスプライ1、13についても、またいずれの部位でも構成コードの配向をタイヤのラジアル方向とし、第1のカーカスプライ1の巻上げ端16について、ベルト層2の縁24よりも20mmだけビード25の側に離れた位置としたものである。
【0027】
比較例2は、実施例1と同様の構成において、第1のカーカスプライ1の巻上げ端16について、ベルト層2の縁24よりも20mmだけビード25の側に離れた位置としたものである。また、比較例3は、比較例2と同様の構成において、第2のカーカスプライ13の構成コードの配向を、カーカス内側部11における構成コードの配向と同一となるようにしたものである。一方、比較例4は、実施例1と同様の構成において、第2のカーカスプライ13の構成コードの配向を、
巻上げ部12における構成コードの配向と同一となるようにしたものである。
【0028】
タイヤ成形用ドラム上で所定の構造のタイヤを成形し、160℃×30分の加硫成形により、タイヤサイズが245/640R18のレース用車両専用の空気入りタイヤを作製した。そして、下記の方法にて試験を行った。
【0029】
<タイヤ剛性>
圧縮試験機を用いてタイヤに基準負荷(710kgf)の110%及び90%の荷重をかけてそれぞれの縦撓み量を測定し、それらの平均値で基準負荷値を除して縦剛性を測定した。また、タイヤに基準負荷値をかけた状態で、基準負荷の30%の横方向の力を更にタイヤにかけて横撓み量を測定し、その横撓み量の値で横方向の力を除して横剛性を測定した。いずれも比較例1の結果を100として指数で評価し、当該指数が大きいほど剛性が高いことを示す。
【0030】
<操縦安定性>
テストタイヤを車両に装着して旋回走行、制動及び直進走行を実施した後、ドライバーの官能試験により総合評価した。比較例1の結果を100として指数で評価し、当該指数が大きいほど操縦安定性に優れていることを示す。
【0031】
【表1】
【0032】
上記比較例1は、タイヤ剛性及び操縦安定性などの性能において、概ね、従来の一般的なレース用タイヤ製品と同程度のものである。上記比較例2においては、比較例1と同様の構成において、ラジアルタイヤ構造とし、第2カーカスプライ13の構成コードの配向を、第1カーカスプライの巻上げ部12と同一にした。その結果、タイヤの縦剛性及び横剛性は大きく向上したが、操縦安定性の向上は、タイヤ剛性の増加ほど顕著でなかった。
【0033】
上記比較例3においては、比較例2と同様の構成において、第2カーカスプライ13の構成コードを、巻上げ部12の構成コードと交差する配向とした結果、タイヤの縦剛性及び横剛性がさらに向上し、操縦安定性も少し向上した。一方、比較例4においては、比較例2と同様の構成において、第1カーカスプライの巻上げ端16を、ベルト層の端部の領域まで延ばしたところ、ほぼ、比較例3と同程度の性能が得られた。
【0034】
これに対し、実施例1では、比較例
3のように構成コードを交差配向としつつ、比較例
4のように第1カーカスプライの巻上げ端16を、ベルト層の端部の領域まで延ばした結果、タイヤ剛性が、比較例
3及び
4のいずれに比べても向上し、操縦安定性もさらに向上した。実施例1のものは、従来の一般的なレース用タイヤ製品と比べて、際立って優れた性能を有しているといえる。
【0035】
実施例2では、実施例1と同様の構成において、
図1のように巻上げ部12が突き出し部12Bを有するようにした結果、タイヤ剛性は同一であったものの、操縦安定性が少し向上した。一方、実施例3〜4では、
図2に示すように、突き出し部12の構成コードについて他の部位よりもタイヤ周方向に対する角度を小さくした結果、タイヤ剛性及び操縦安定性のいずれにおいても最も良好な結果が得られた。突き出し部12の構成コードの配向角を50°とした実施例3と、40°とした実施例4とでは、タイヤ性能にほとんど差はなかった。但し、タイヤ剛性の点で、実施例4が少し優れていると考えられた。
【0036】
実施例5では、巻上げ端14,16の位置を実施例1と同様とし、巻上げ部12における巻上げ端16の近傍を実施例4と同様としたところ、実施例2と同一の性能が得られた。