特許第6129497号(P6129497)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129497
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】連続メッキ装置
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/08 20060101AFI20170508BHJP
   C25D 17/12 20060101ALI20170508BHJP
   C25D 21/00 20060101ALI20170508BHJP
   C25D 17/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C25D5/08
   C25D17/12 K
   C25D21/00 J
   C25D17/00 G
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-190977(P2012-190977)
(22)【出願日】2012年8月31日
(65)【公開番号】特開2013-82996(P2013-82996A)
(43)【公開日】2013年5月9日
【審査請求日】2015年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2011-214302(P2011-214302)
(32)【優先日】2011年9月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507264549
【氏名又は名称】アルメックスPE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(72)【発明者】
【氏名】薄田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】野田 朝裕
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−202962(JP,A)
【文献】 特開昭58−177487(JP,A)
【文献】 特開平02−074000(JP,A)
【文献】 特開平04−099897(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1637168(CN,A)
【文献】 特開平05−209298(JP,A)
【文献】 特開平08−283987(JP,A)
【文献】 特開平06−212492(JP,A)
【文献】 特開平05−140795(JP,A)
【文献】 特開2009−132999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/08
C25D 17/00
C25D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ液を収容して、搬送治具に垂下して保持されて連続搬送されると共に陰極に設定される複数のワークにメッキするメッキ槽と、
前記メッキ槽内にて前記複数のワークと対向する位置に配置され、前記メッキ液を前記複数のワークに向けて噴出する複数のノズルと、
前記メッキ槽内にて連続搬送される前記複数のワークと対向する位置に配置される複数の不溶性陽極電極と、
を有し、
前記複数のノズル及び前記複数の不溶性陽極電極の各々は、長手軸が垂直方向に沿って配置され、前記複数のノズルの各々は前記垂直方向にて間隔をあけて配置された複数のノズル孔を含み、
前記複数のノズル及び前記複数の不溶性陽極電極の各々の横断面の輪郭は円であり、前記複数のノズルの各々の外径D1は、前記複数の不溶性陽極電極の各々の外径D2よりも小さく、
前記複数の不溶性陽極の各々は、陽極本体と、前記陽極本体とは離れて配置されて前記陽極本体を覆う隔膜と、を有し、前記隔膜は、前記陽極本体と前記ワークとの間に電界が形成されることを許容しながら、前記陽極本体を前記メッキ槽内の前記メッキ液から隔離し、
前記複数のワークが連続搬送される搬送方向に沿って、前記複数のノズルの1つと前記複数の不溶性陽極電極の一つとが交互に繰り返し配置され
前記複数のノズルの各々の横断面の中心は、前記複数の不溶性陽極電極の各々の横断面の中心よりも、前記複数のワークの各々の被処理面からの距離が短い位置に配置され、
前記複数のノズルの各々から前記被処理面に至る第1最短距離δ1と、前記複数の不溶性陽極電極の各々から前記被処理面に至る第2最短距離δ2と、前記複数の不溶性陽極電極の各々と前記複数のノズルの各々との第3最短距離δ3とは、δ1≦δ3<δ2、かつ、δ2>D1の関係を満たし、
前記メッキ槽は、平面視において前記複数のノズル及び前記複数の不溶性陽極電極よりも前記複数のワークの前記被処理面に近い処理領域と、前記複数のノズル及び前記複数の不溶性陽極電極により前記処理領域と区画される非処理領域とを含み、前記処理領域には、前記複数のノズルの各々の前記複数のノズル孔より前記メッキ液が噴出されて前記複数のワークの各々に到達するジェットノズル流により形成される複数の加圧領域が、前記垂直方向にて間隔をあけて形成され、前記処理領域の前記メッキ液を、前記第3最短距離δ3の隙間を介して前記非処理領域側に逃がして流動させることで、前記垂直方向にて隣り合う2つの加圧領域の間に負圧領域が形成されることを抑制して、前記複数のワークが前記複数のノズル側に吸引されることを防止することを特徴とする連続メッキ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記搬送方向から見た側面視で、前記複数のノズルと前記複数の不溶性陽極電極とが重なる位置関係にて配置されることを特徴とする連続メッキ装置。
【請求項3】
請求項1または2において、
10mm≦δ1≦20mmを満たすことを特徴とする連続メッキ装置。
【請求項4】
請求項3において、
15mm≦δ2≦35mmを満たすことを特徴とする連続メッキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続メッキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続メッキ装置は、搬送治具に垂下されて保持されるメッキ槽内を連続搬送されると共に通電されるワーク(陰極)とメッキ槽内に配置される電極(陽極)との間に電界を形成して、ワークの被処理面をメッキしている。
【0003】
ここで、特許文献1〜3に示すように、ワークと電極(陽極板)との間には、ワークにメッキ液を噴出するノズルが設けられる。よって、ワークと電極(陽極板)との間には、少なくともノズルの直径以上の空間を必要とする。特許文献2には、陰極と陽極との距離が100mm以上であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−178784号公報(図1図3
【特許文献2】特開2006−214006号公報(図1
【特許文献3】特開昭58−6998号公報(図4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2,3には高速メッキが開示されているが、高速にメッキするには、ワーク及び電極間にメッキ液を介して流れる電流値または電流密度を高くする必要がある。この電流値または電流密度を高くするには、ワーク及び電極間距離を短くし、ワーク及び電極間に介在するメッキ液の抵抗値を下げて電流損失を少なくすることが効率的である。
【0006】
しかし、特許文献2,3ではワークと電極(陽極板)との間にはノズルが介在するので、ワークと電極(陽極板)との間の距離を狭めるには限界があった。
【0007】
もし、ワークに電極(陽極板)を近づけると、ノズルと電極(陽極板)とが干渉するか、あるいはノズルと電極(陽極板)との間の隙間が狭くなり、メッキ液の流動性が悪化してしまう。
【0008】
本発明の幾つかの形態によれば、ワークと陽極電極との間の距離を、ノズルと陽極電極とを干渉させずに短くできる構造を採用することで、ワークに通電する電流密度を効率的に高めることができる連続メッキ装置を提供することができる。
【0009】
本発明の他のいくつかの形態によれば、ワーク及び陽極電極間距離を狭めることに起因してメッキ液の逃げ場がなくなり、ノズルから噴射されるフレッシュなメッキ液がワークに接触することが阻害されることを抑制できる連続メッキ装置を提供することができる。
【0010】
本発明のさらに他のいくつかの形態によれば、ワーク及び陽極電極間距離を狭めることに起因してメッキ液の逃げ場がなくなり、ノズルから高速噴射される領域の近傍が負圧となって、ワークがノズル側に引っ張られる現象を抑制できる連続メッキ装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様は、
メッキ液を収容して、搬送治具に保持されて連続搬送されると共に陰極に設定される複数のワークにメッキするメッキ槽と、
前記メッキ槽内にて前記複数のワークと対向する位置に配置され、前記メッキ液を前記複数のワークに向けて噴出する複数のノズルと、
前記メッキ槽内にて連続搬送される前記複数のワークと対向する位置に配置される複数の陽極電極と、
を有し、
前記複数のワークが連続搬送される搬送方向に沿って、前記複数のノズルの一つと前記複数の陽極電極の少なくとも一つとが交互に繰り返し配置される連続メッキ装置に関する。
【0012】
本発明の一態様によれば、従来は複数のノズルの背面側にあった所定長さの陽極電極を分割して、複数のワークが連続搬送される搬送方向に沿って配置される複数のノズルのうちの各2つのノズル間に少なくとも一つの陽極電極を配置している。これにより、ワーク側から見てノズルの背面側に陽極電極板を配置する無駄が省け、複数の陽極電極をワークの被処理面に近づけることができる。そのため、ワークの被処理面と陽極電極との距離が縮まり、介在するメッキ液による抵抗が小さくなって、ワークの被処理面と陽極電極との間に流れる電流密度が効率的に高まる。電流密度が高いほどワークの被処理面に堆積される単位時間当たりのメッキ厚は厚くなり、スループットが向上し、ワークに貫通形成されたスルーホール内をメッキ被膜する効率が高まる。よって、メッキ槽の全長を長くしなくても、所定のメッキ厚に仕上げることができる。それにより、連続メッキ装置の全長を短くすることができる。また、ワークの被処理面と陽極電極との距離が縮まることから、連続メッキ装置の幅方向でも小型化を図ることが可能となる。
【0013】
さらに、複数のノズル一つと複数の陽極電極の少なくとも一つとが搬送方向で交互に繰り返し配置される結果として、ノズルと電極との間の隙間が狭くなってメッキ液の流動性を悪化させることなく、ワークに対するノズルと陽極電極の配置密度を確保することができる。このように、本発明の一態様では、従来は複数のノズルの背面側にあった所定長さの陽極電極を分割して、2つのノズル間に少なくとも一つの陽極電極を配置している。
【0014】
(2)本発明の一態様では、前記搬送方向から見た側面視で、前記複数のノズルと前記複数の陽極電極とが重なる位置関係にて配置することができる。
【0015】
側面視で複数のノズルと複数の陽極電極とが重なる位置関係にて配置される結果として、複数の陽極電極をワークの被処理面により近づけることができる。このレイアウトは、隣り合う2つのノズル30の間に少なくとも一つの陽極電極40が配置することで初めて達成され、複数のノズルの背面側(ワークとは反対側)に設けられる従来の陽極板では不可能である。
【0016】
(3)本発明の一態様では、前記複数の陽極電極の各々の輪郭は、平面視で前記複数の陽極電極の各々を二分して前記搬送方向と直交する電極中心線からの距離が離れるに従い、前記複数のワークの各々の被処理面からの距離が大きくなるように形成することができる。
【0017】
陽極電極が平面視で矩形であるとすると、平板のワークの被処理面から陽極電極までの距離は一定となり、この一定距離の狭い範囲に噴出されたメッキ液が集中し、ノズルと陽極電極との隙間が狭くメッキ液の逃げ場がなくなる。メッキ液の逃げ場がないと、ノズルからのフレッシュなメッキ液がワークと接触することの阻害原因となり、ノズル流の周囲に生ずる負圧領域にワークが吸着される現象も生ずる。本発明の一態様によれば、電極中心線から離れるほど、ワークの被処理面と陽極電極との間の距離が拡大し、それによりノズルと陽極電極とのより広い隙間を介してメッキ液の逃げ場が確保される。
【0018】
(4)本発明の一態様では、前記複数の陽極電極の各々は、横断面の輪郭を湾曲させることができる。
【0019】
このように、複数の陽極電極の各々は、横断面の輪郭が角部で交差する2本の線を有するものよりもむしろ、横断面の輪郭を楕円や円のように湾曲させることができる。
【0020】
(5)本発明の一態様では、前記複数の陽極電極の各々は、横断面の輪郭を円とすることができる。ノズルとの干渉を避けて陽極電極をワークの被処理面に近づける要請から言えば、陽極電極の輪郭は、横断面積が同一である限りにおいて楕円よりも円の方が好ましい。
【0021】
(6)本発明の一態様では、前記複数の陽極電極の各々は、不溶性電極とすることができる。陽極電極は、可溶性及び不溶性のいずれも採用できる。ただし、電極成分がメッキ槽内の浴中にて溶解する可溶性電極は、電流密度を高めて駆動すると消耗が激しいが、不溶性電極であれば電流密度を高めて駆動しても弊害はない。
【0022】
(7)本発明の一態様では、前記複数のノズルの各々は、横断面の輪郭が、前記複数の陽極電極の各々の横断面の直径よりも小さい円とすることができる。円形とされて面取りされたノズルとの干渉を避けて、陽極電極をワークの被処理面により近づけることができる。
【0023】
(8)本発明の一態様では、前記複数のノズルの各々の横断面の中心は、前記複数の陽極電極の各々の横断面の中心よりも、前記複数のワークの各々の被処理面からの距離が短い位置に配置することができる。
【0024】
つまり、複数のノズルの各々の横断面の中心と複数の陽極電極の各々の横断面の中心とは、搬送方向に沿った同一直線上になく、ノズル中心と電極中心とが千鳥状にずれて配置されることを意味する。こうすると、ノズル中心と電極中心とが同一直線上にある場合よりも、隣り合うノズルと陽極電極との間の最小間隔を確保しやすくなる。つまり、陽極電極の直径を最大限に大きくしながら、ノズルとの干渉を防止しやすくなる。
【0025】
(9)本発明の一態様では、前記複数のノズルの各々から前記複数のワークの各々の被処理面に至る第1最短距離δ1は、前記複数の陽極電極の各々から前記複数のワークの各々の被処理面に至る第2最短距離δ2よりも小さく、前記複数のノズルの外径は前記第2最短距離δ2よりも小さくすることができる。
【0026】
このように、ノズルを陽極電極よりもワークに近づけて配置することができ、それによりメッキ液の供給圧を高める必要はない。しかも、平面視にてノズルからある噴射角を持ってワークに向けて噴射されるメッキ液が、陽極電極によって遮られることが少なくなる。また、ワークに近づけて配置されたノズルの直径は、陽極電極−ワーク間の第2最短距離δ2よりも小さく、それによりノズルの曲率が大きく確保できるので、メッキ液の逃げ場も確保しやすくなる。
【0027】
(10)本発明の一態様では、前記複数の陽極電極の各々と前記複数のノズルの各々との第3最短距離δ3は、前記第2最短距離δ2よりも小さくすることができる。それにより、陽極電極をワークの被処理面により近づけることができる。なお、ノズルよりワークに向けて噴出されたメッキ液は、ノズル及び陽極電極とワークとの間の隙間から、隣り合うノズル及び陽極電極間の隙間を介して、メッキ槽内の広い空間に逃がすことができる。それにより、ワークには常にフレッシュなメッキ液と接触させることができる。
【0028】
(11)本発明の一態様では、前記第3最短距離δ3は前記第1最短距離δ1以上とすることができる。こうすると、ノズルと陽極電極との隙間の流路抵抗は、ワークとノズルとの間の流路抵抗以下となり、ノズル及び陽極電極間の隙間を介してメッキ液をメッキ槽内の広い空間に逃がし易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態に係る連続メッキ装置の概略断面図である。
図2図1に示す連続メッキ装置の概略平面図である。
図3図3(A)〜図3(C)は、陽極電極の横断面図である。
図4】第1〜第3最短距離の関係を示す図である。
図5図5(A)はノズル中心と電極中心とを同一直線上に配置した例を示す図であり、図5(B)は2つのノズル間に複数の陽極電極を配置した例を示す図である。
図6】陽極電極の横断面を矩形とした例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0031】
1.全体構成
図1は本実施形態に係る連続メッキ装置の断面図であり、図2は平面図である。図1において、メッキ槽10は、搬送治具20に垂下して支持されるワーク1をメッキ液2中に収容してワーク1をメッキする槽である。メッキ槽10は、周壁10Aと底壁10Bとを有し、メッキ液2を液面Lで収容している。
【0032】
ワーク1は、回路基板またはフレキシブル回路基板等であり、例えばその両面が被処理面となる。搬送治具20は、ワークを連続搬送すると共にワーク1に通電することができる。ワーク1は陰極として機能する。実際には、搬送治具20と摺接する給電部(搬送レールでも良い)が電源のマイナス端子に接続され、給電部及び搬送治具20を介してワーク1に通電される。
【0033】
搬送治具20に垂下して支持されるワーク1は、図1の紙面と直交する方向であって、図2に示す搬送方向Aに沿って連続搬送される。ワーク1を連続搬送する手段の図示は省略するが、スプロケットにより連続駆動されるチェーン、シリンダ等で構成することができる。搬送治具20に一枚のワーク1が保持され、図2に示すようにメッキ槽10では複数のワーク1が連続搬送される。なお、搬送治具20は、ワーク1が回路基板のように剛体であれば、ワーク1の上端をチャックしてワーク1を垂下状態で保持できる。ワーク1がフレキシブル回路基板などのように柔軟である場合には、搬送治具20は枠部を有し、ワーク1の上下端をチャックすることができる。なお、図1では、搬送治具20の上枠21と下枠22を示している。
【0034】
図1及び図2に示すように、メッキ槽10内には、ワーク1と対向する位置に配置され、メッキ液をワークに向けて噴出する複数のノズル30が設けられている。本実施形態では、ワーク1の両面が被処理面であるので、ワーク1の連続搬送路を挟んで2列でノズル30が配置されている。ノズル30の上端は閉鎖され、ノズル30の下端は、メッキ槽10の下部に設けられたメッキ液供給部11の供給路と連通している。メッキ液供給部11の供給路途中には多孔板11Aを有することができる。
【0035】
ノズル30がワーク1と対向する面には、縦方向にて間隔をあけて複数のノズル孔(図示せず)が形成されている。メッキ供給部11よりノズル30に供給されたフレッシュなメッキ液は、ノズル孔よりある噴射角をもってワーク1の被処理面に向けて噴出される。なお、ノズル30は絶縁体で形成され、ワーク1に作用する電界に悪影響を与えることはない。
【0036】
ノズル30の下端はメッキ液供給部11に固定されている。ノズル30の上端には上端固定部31が固定される。この上端固定部31は、メッキ槽10内にてA方向に延びる梁部材32に固定されている。梁部材32は、梁支持部材33によりメッキ槽10の周壁10Aに支持されている。
【0037】
メッキ槽10内には、連続搬送される数のワークと対向する位置に配置される複数の陽極電極40が設けられている。この陽極電極40もノズル30と同様な理由で、ワーク1の連続搬送路を挟んで2列で配置されている。陽極電極40は図示しない電源のプラス端子に接続されている。なお、一つの陽極電極40に接続された電源は、それぞれ独立して電流値を制御することができる。
【0038】
陽極電極40の上下端には、絶縁部例えば絶縁キャップ41,42を配置することができる。陽極電極40の下端の絶縁キャップ41は、取付部43を介してメッキ液供給部11に固定されている。絶縁キャップ41,42は、陽極電極40の上下を絶縁することで、上下方向にて電界領域を画定している。陽極電極40の上端の絶縁キャップ42には、陽極電極40と電気的に接続された電極取出部44が設けられている。個々の陽極電極40に接続された個々の電極取出部44はメッキ槽10の液面Lより上方に取り出され、個々の電極取出部44は共通電極45に接続される。なお、個々の電極取出部44を個々の電源に接続し、複数の陽極電極40の電流値を独立して制御できるようにしても良い。また、絶縁キャップ41,42をワーク1のサイズに合わせて上下位置を調整できるようにしても良い。
【0039】
なお、ワーク1の直下にマスク部材50を設けることができる。このマスク部材50は図2の搬送方向Aに沿った溝を有する。このマスク部材50の溝にワーク1の下端を挿入して、ワーク1の下端側をマスクすることができる。本実施形態では、搬送治具20の下枠22が、マスク部材50の溝に挿入されてマスクされると同時に、搬送ガイドされる。なお、マスク部材50は、ワーク1のサイズに合わせて上下位置を調整できる。
【0040】
2.ノズルと陽極電極の配置関係
本実施形態では、図2に示すように複数のワーク1が連続搬送される搬送方向Aにて、複数のノズル30と複数の陽極電極40とが交互に配置されている。これにより、ワーク1の被処理面に対して、ノズル30と陽極電極4の配置密度を確保することができる。このために、平面視にて適度な間隔で配置される隣り合う2つのノズル30の間に、少なくとも一つの陽極電極40が配置される。なお、ノズル30の配列ピッチは、例えば60mm〜90mmとすることができる。このように、本実施形態では、従来は複数のノズル30の背面側(ワーク1とは反対側)にあった所定長さの陽極電極を分割して、2つのノズル間に少なくとも一つの陽極電極40(図2では一つの陽極電極40)を配置している。
【0041】
本実施形態では特に、図1に示すように、個々のノズル30と干渉しない範囲で、複数の陽極電極40をワーク1の被処理面に近づけることができる。そのため、ワーク1の被処理面と陽極電極40との距離が縮まり、陰極となるワーク1の被処理面と陽極電極40との間に流れる電流密度が高まる。電流密度が高いほどワーク1の被処理面に堆積される単位時間当たりのメッキ厚は厚くなる。よって、メッキ槽10の全長を長くしなくても、所定のメッキ厚に仕上げることができる。それにより、連続メッキ装置の全長を短くすることができる。また、ワーク1の被処理面と陽極電極40との距離が縮まることから、連続メッキ装置の幅方向でも小型化を図ることが可能となる。
【0042】
陽極電極40を最大限にワーク1に近づけると、図2の搬送方向Aから見た側面視(図1)で、ノズル30と陽極電極40とが重なる位置関係にて配置することできる。このレイアウトは、隣り合う2つのノズル30の間に少なくとも一つの陽極電極40が配置することで初めて達成され、複数のノズルの背面側(ワークとは反対側)に設けられる従来の陽極板では不可能である。
【0043】
3.陽極電極の輪郭形状
本実施形態では、ノズル30及び陽極電極40の横断面の輪郭形状については特に制約はないが、ワーク1の被処理面からノズル30及び陽極電極40までの距離を縮める結果として、ノズル30からワーク1に噴射されたメッキ液の逃げ場を確保することが好ましい。
【0044】
そのために、例えば複数の陽極電極40の各々の輪郭は、図2に示す平面視で複数の陽極電極の各々を二分して搬送方向Aと直交する電極中心線Bからの距離が離れるに従い複数のワーク1の各々の被処理面からの距離が大きくなるように湾曲させることができる。例えば、複数の陽極電極40の各々は、図2に示すように横断面の輪郭を円とすることができるが、楕円等であっても良い。つまり、陽極電極40が平面視で矩形であるとすると、平板のワーク1の被処理面から陽極電極40までの距離は一定となり、この一定距離の狭い範囲に噴出されたメッキ液が集中し、ノズルと電極との間の隙間が狭くなってメッキ液の逃げ場がなくなる。本実施形態によれば、電極中心線Bから離れるほど、ワーク1の被処理面と陽極電極40との間の距離が拡大し、それによりノズルと電極との間の隙間が広くなってメッキ液の逃げ場が確保される。なお、ノズル30との干渉を避けて陽極電極40をワーク1の被処理面に近づける要請から言えば、陽極電極40の輪郭は、横断面積が同一である限りにおいて楕円よりも円の方が好ましい。
【0045】
なお、陽極電極40の横断面の輪郭を湾曲させると、ワークと陽極電極との間の距離は、陽極電極の輪郭位置によって区々となる。ただし、ワーク1は連続搬送されるものであるので、ワーク1の連続搬送方向Aではメッキ厚は均一化される。よって、ワーク1の縦方向にてメッキ厚の分布が生じないように、陽極電極40の垂直度などが管理されていれば、ワーク1のメッキ厚の面内均一性は確保される。
【0046】
4.陽極電極の構造
ここで、陽極電極40の種類としては、可溶性電極と不溶性電極とが知られている。可溶性電極では、電極材料が溶解してメッキ成分となる。可溶性電極は消耗品であり、交換を要する。なお、可溶性電極はメッキ成分のみから形成されず不純物(例えばリンP)を含む欠点がある。一方、不溶性電極とは、電極材料は溶解せず、メッキ槽10内のメッキ液中の金属イオン(例えば酸化第二銅)がメッキ成分となり、不溶性電極は電極のみとして用いられる。本実施形態の陽極電極40では、いずれのタイプも用いることができるが、不溶性電極を用いることが好ましい。特に、本実施形態のように例えば10〜10数A/dmレベルの高電流密度を達成すると、可溶性電極は消耗が大きいので、不溶性電極を好適に用いることができる。
【0047】
不溶性電極にて形成される陽極電極40は、図3(A)に示すように、中心側に位置する例えば金属又は合金から成る電極本体40Aと、その電極本体40Aの周囲を覆う隔膜40Bを含むことができる。電極本体40Aは軽量化のために筒状に形成されるが、中実棒状であっても良い。隔膜40Bは、電界(電子)を遮ることなくメッキ液を浸透させない材料にて形成され、中心にある電極本体40Aをメッキ液から隔離するものである。それにより、陽極電極40を不溶性電極として機能させることができる。この場合、例えば隔膜40Bの横断面の輪郭が円とされる。また、隔膜40Bは電極本体40Aから離して配置されることが好ましい。電極本体40Aから発生するガスの逃げ場を確保するためである。隔膜40Bは、メッキ槽10に浸漬される下端は気密及び液密に密閉されるが、上端は開放して大気に開放させることができる。
【0048】
隔膜40Bが柔軟材であり保形性がない場合であって、隔膜40Bを電極本体40Aから離して配置する場合には、図3(B)に示すように、電極本体40Aと隔膜40Bとの間に保形性部材40Cを追加配置することができる。隔膜40Bは、保形性部材40Cに取り付けられることで、保形性が維持される。さらに、図3(C)に示すように、電極本体40Aから隔壁40Bを離すために、電極本体40Aと保形性部材40Cとの間に、複数のスペーサ部材40Dを配置しても良い。
【0049】
5.ノズルの輪郭形状
一方ノズル30の横断面の輪郭形状に関して言えば、ノズル30の横断面積は一般に陽極電極40よりも小さいので、陽極電極40よりも制約は少ない。よって、ノズル30の横断面の輪郭は矩形であっても良い。ただし、ノズル30との干渉を避けて陽極電極40をワーク1の被処理面に近づける要請から言えば、ノズル30は面取りされた輪郭形状が好ましい。そのために、本実施形態では、複数のノズル30の各々は、横断面の輪郭が、複数の陽極電極40の各々の横断面の直径D2よりも小さい直径D1の円としている。
【0050】
6.ノズルと陽極電極の平面視における詳細な配置関係
本実施形態では、複数のノズルの各々の横断面の中心P1は、図2及び図4に示すように、複数の陽極電極40の各々の横断面の中心P2よりも、複数のワーク1の各々の被処理面からの距離が短い位置に配置することができる。
【0051】
つまり、複数のノズル30の各々の横断面の中心P1と複数の陽極電極40の各々の横断面の中心P2とは、図5(A)に示す搬送方向Aに沿った同一直線L1上にあるものを除外するものではないが、ノズル中心P1と電極中心P2とが図2及び図4に示すように千鳥状にずれて配置することができる。こうすると、ノズル中心P1と電極中心P2とが同一直線L1上にある図5(A)よりも、隣り合う2つのノズル30間に配置される陽極電極40の直径D2を最大限に大きくしながら、ノズル30との干渉を防止しやすくなる。
【0052】
また、2つのノズル30,30の間に少なくとも一つの陽極電極40を配置する例として、図5(B)に示すように、2つノズル30,30の間に複数の陽極電極40,40を配置しても良い。図5(B)では、図4と同様に、複数のノズルの各々の横断面の中心P1を、複数の陽極電極40の各々の横断面の中心P2よりも、ワーク1の被処理面からの距離が短い位置に配置している。図4図5(B)とでノズル30の配列ピッチが同一であれば、図5(B)の陽極電極40の直径D2を図4よりも小さくしなければならないことは明らかである。図5(B)の陽極電極40の直径D2を図4と同じにしようとすると、ノズル30の配列ピッチは図4により図5(B)の方が大きくなることは明らかである。これらのことから、図4のレイアウトの方が図5(B)よりも優れている。
【0053】
本実施形態では、図4に示すように、複数のノズル30の各々から複数のワーク1の各々の被処理面に至る第1最短距離δ1は、複数の陽極電極40の各々からのワーク1の被処理面に至る第2最短距離δ2よりも小さく(δ1<δ2)、複数のノズル30の外径D1は第2最短距離δ2よりも小さくすることができる(D1<δ2)。ここで、第1最短距離δ1は、例えば10mm≦δ1≦20mmであり、第2最短距離δ2は、例えば15mm≦δ2≦35mmとすることができる。
【0054】
このように、ノズル30を陽極電極40よりもワーク1に近づけて配置することができ、それによりメッキ液の供給圧を高める必要はない。しかも、平面視にてノズル30からある噴射角を持ってワーク1に向けて噴射されるメッキ液が、陽極電極40によって遮られることが少なくなる。
【0055】
また、ワーク1に近づけて配置されたノズル30の直径D1は、陽極電極40−ワーク1間の第2最短距離δ2よりも小さくすると、ノズル30の曲率が大きく確保できるので、メッキ液の逃げ場も確保しやすくなる。
【0056】
ここで、ノズル30とワーク1との最短距離δ1を例えば10mm≦δ1≦20mmに短くすると、ノズル30から噴出されてワーク1に到達するジェットノズル流が速くなり、ジェットノズル流の領域は加圧であるから、その周囲に負圧領域が生ずることがある。ノズル30の縦方向には間隔をもって複数のノズル孔が設けられるので、2つのノズル孔間が負圧領域となる。
【0057】
ワーク1と、ノズル30及び陽極電極40との間の領域にてメッキ液の流動が足りないと、負圧領域にメッキ液が行き渡らず、特に柔軟なワーク1はノズル側に吸着される現象が観察された。そのため、ノズル30から噴出されたメッキ液の逃げ場を確保することは、ワーク1が負圧領域側に吸着される現象を防止する観点からも重要である。
【0058】
本実施形態では、図6に示すように、陽極電極40の横断面の輪郭を円以外の例えば矩形とすることができる。図6でも、δ1<δ2及びD1<δ2を満たしている。ただし、図6では陽極電極40の横断面が矩形であるので、感激幅δ2の領域が長く、かつ、陽極電極40が面取りされてなく角部を有するので、メッキ液の逃げ場は図4のレイアウトよりも狭められる。この点で、図4のレイアウトの方が図6よりも優れている。
【0059】
本実施形態では、複数の陽極電極40の各々と複数のノズル30の各々との第3最短距離δ3は、複数の陽極電極40の各々からのワーク1の被処理面に至る第2最短距離δ2よりも小さくすることができる(δ2>δ3)。それにより、陽極電極40をワーク1の被処理面により近づけることができる。なお、ノズル30よりワーク1に向けて噴出されたメッキ液は、ノズル30及び陽極電極40とワーク1との間の隙間から、隣り合うノズル30及び陽極電極40間の隙間を介して、メッキ槽10内の広い空間に逃がすことができる。それにより、ワーク1を常にフレッシュなメッキ液と接触させ、ワーク1の負圧側への吸着を防止することができる。
【0060】
また、複数の陽極電極40の各々と複数のノズル30の各々との第3最短距離δ3は、複数のノズル30の各々からのワーク1の被処理面に至る第1最短距離δ1以上にすることができる(δ3≧δ1)。こうすると、ノズル30と陽極電極40との隙間の流路抵抗は、ワーク1とノズル30との間の流路抵抗以下となり、ノズル30及び陽極電極40間の隙間を介してメッキ液をメッキ槽10内の広い空間に逃がし易くなる。
【0061】
以上、いくつかの実施形態について説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるものである。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 ワーク、2 メッキ液、10 メッキ槽、10A 周壁、10B 底壁、11 メッキ供給部、11A 多孔板、20 搬送治具、20A 上枠、20B 下枠、30 ノズル、40 陽極電極、40A 電極本体、40B 隔膜、40C 保形性部材、40D スペーサ部材、50 マスク部材、A 搬送方向、B 電極中心線、P1 ノズル中心、P2 電極中心、δ1 第1最短距離、δ2 第2最短距離、δ3 第3最短距離
図1
図2
図3
図4
図5
図6