特許第6129519号(P6129519)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129519
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】燃料電池システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04228 20160101AFI20170508BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20170508BHJP
   H01M 8/00 20160101ALI20170508BHJP
   H01M 8/04225 20160101ALI20170508BHJP
   H01M 8/04302 20160101ALI20170508BHJP
   B60L 11/18 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   H01M8/04 Y
   H01M8/00 Z
   H01M8/04 X
   B60L11/18 G
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-252430(P2012-252430)
(22)【出願日】2012年11月16日
(65)【公開番号】特開2014-3003(P2014-3003A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0065889
(32)【優先日】2012年6月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】591251636
【氏名又は名称】現代自動車株式会社
【氏名又は名称原語表記】HYUNDAI MOTOR COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】孫 翼 齊
(72)【発明者】
【氏名】鄭 ボン ヒョン
【審査官】 笹岡 友陽
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−534108(JP,A)
【文献】 特開2005−044621(JP,A)
【文献】 特開2007−149360(JP,A)
【文献】 特開2005−116375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04− 8/2495
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池車両を発電オフ状態で駐車する時、駐車時間による酸素濃度に基づいてカソ
ードに対する水素パージ周期を決定する段階と、
決定された水素パージ周期毎にカソードに水素をパージしてカソードに存在する酸素を除
去する段階と、
を含み、
前記水素パージ周期は、
駐車時間が増加するにつれてカソード内の酸素濃度が基準値を超える時点であり、
前記酸素濃度の基準値は、カソード内に酸素を強制流入させてスタックの酸素濃度毎の開回路電圧をモニターリングし、モニターリングされた開回路電圧が基準値以上に増加する時点の酸素濃度であることを特徴とする燃料電池システムの運転方法。
【請求項2】
前記酸素濃度は、カソード側に装着された酸素センサで測定されることを特徴とする請求
項1に記載の燃料電池システムの運転方法。
【請求項3】
前記燃料電池車両を駐車した状態でスタートアップする時、高電位保持時間なしで直ちに
アノード及びカソードにそれぞれ水素及び空気が同時に供給されることを特徴とする請求
項1に記載の燃料電池システムの運転方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムの運転方法に係り、より詳しくは燃料電池車両の駐車中に燃料電池スタックのカソードに拡散してくる酸素を除去して燃料電池スタックの耐久性を向上させる燃料電池システムの運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境に優しい未来型自動車を開発するために、各自動車メーカーは水素燃料電池自動車に大きな関心を持っている。このような水素燃料電池自動車に適用される燃料電池システムは大きく分けると、電気エネルギーを発生させる燃料電池スタックと、燃料電池スタックに燃料(水素)を供給する燃料供給システムと、燃料電池スタックに電気化学反応に必要な酸化剤の酸素を供給する空気ブロワー及び加湿器を含む空気供給システムと、燃料電池スタックの運転温度を制御する熱及び水管理システムなどから構成される。
【0003】
前記燃料電池スタックは、燃料電池自動車の主なエネルギー源の電気を生産する一種の発電装置であって、電極膜アセンブリーを隔てて水素が供給されるアノードと空気が供給されるカソードが積層された構造であり、空気中の酸素と外部から供給された水素が化学的に反応して電気エネルギーを発生させる装置である。
したがって、燃料電池システムの運転中に電気エネルギーを生成するために高純度の水素が燃料電池のアノード(anode)に供給され、それと同時にエアーブロワーのような空気供給装置を用いて大気中の空気が燃料電池のカソード(cathode)に直接供給される。
【0004】
それによって、燃料電池スタックに供給された水素がアノード(anode)の触媒作用により水素イオンと電子に分離され、分離された水素イオンは電解質膜を介してカソード(cathode)に移動し、その後、カソードに供給された酸素は外部導線を介してカソードに移動してきた電子と結合して水を生成することにより電気エネルギーを発生させる。
このように生成された電気エネルギーは燃料電池車両の走行モータで用いられ、燃料電池スタックを搭載した燃料電池車両が走行できる。
【0005】
燃料電池車両の走行後、燃料電池車両の駐車中に燃料電池スタックのカソード側に拡散してくる酸素によりアノードで水素と酸素との間に界面が形成されると共に高電位保持時間が長くなるが、これは燃料電池スタックの電極膜アセンブリー(MEA)の耐久性を低下させる要因となる。
このような電極膜アセンブリー(MEA)の耐久性の低下問題を解決するための従来技術の一例として特許文献1では、燃料電池車両のスタートアップ(Start Up)時にアノードに水素を先に供給してアノード側に形成された水素と酸素と間の界面を除去した後、カソードに対する空気供給を開始する燃料パージを用いた燃料電池システムのスタートアップ方法が開示されているが、燃料電池のスタートアップ時にアノードにおける水素と酸素と間の界面を除去するための保持時間が必要となる問題がある。
【0006】
従来技術の他の例として特許文献2では、燃料電池スタックの耐久性を向上させるために、燃料電池車両のスタートアップ及びシャットダウン時に、先ずアノード及びカソードに同時に水素パージ(purge)することにより、アノードにおける水素と酸素との間の界面形成部を除去する技術が開示されている
しかし、これは単に車両のスタートアップ及びシャットダウン時にアノード及びカソードに水素パージするだけで、燃料電池車両の駐車中にカソード側に拡散してくる酸素により、アノードにおける水素と酸素との間の界面が形成されると共に高電位保持時間が長くなり、それによって燃料電池スタックの耐久性が低下する問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許US6887599
【特許文献2】米国特許出願US20060046106
【特許文献3】特開2009−301770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題点を考慮してなされたものであって、燃料電池車両の駐車時に外気からカソードに酸素が拡散することを未然に防ぐために、酸素濃度が基準値以上の場合、カソードに水素を周期的にパージすることで、常にアノードにおける水素と酸素との間の界面形成を抑制し、それによって燃料電池スタックの電極膜アセンブリーに対する耐久性の低下を防止できるようにした燃料電池システムの運転方法を提供することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明は、燃料電池車両を発電オフ状態で駐車する時、駐車時間による酸素濃度に基づいてカソードに対する水素パージ周期を決定する段階と、
決定された水素パージ周期毎にカソードに水素をパージしてカソードに存在する酸素を除
去する段階と、
を含み、
前記水素パージ周期は、
駐車時間が増加するにつれてカソード内の酸素濃度が基準値を超える時点であり、
前記酸素濃度の基準値は、カソード内に酸素を強制流入させてスタックの酸素濃度毎の開回路電圧をモニターリングし、モニターリングされた開回路電圧が基準値以上に増加する時点の酸素濃度であることを特徴とする。
【0011】
前記酸素濃度は、カソード側に装着された酸素センサで測定されることを特徴とする。
【0012】
前記燃料電池車両を駐車した状態でスタートアップする時、高電位保持時間なしでアノード及びカソードにそれぞれ水素及び空気が同時に供給されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、燃料電池車両の駐車時に駐車時間によるカソードの酸素濃度を測定し、測定された酸素濃度が基準値以上の場合、カソードに水素を周期的にパージして除去することにより、常にアノードにおける水素と酸素との間の界面形成を抑制することができる。
そして、従来、水素と酸素の界面形成による電極膜アセンブリーの腐食現象により耐久性が低下することを防止して燃料電池スタックの耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による燃料電池システムの運転方法の一実施例であって、駐車時間によるカソード側の酸素濃度の測定結果を示すグラフである。
図2】本発明による燃料電池システムの運転方法の一実施例であって、カソード側の酸素濃度によるセル電圧を測定したグラフである。
図3】本発明による燃料電池システムの運転方法の一実施例であって、駐車した状態でスタートアップする時にカソード側の酸素濃度によるスタック電圧挙動を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施例を添付図面を参照して詳細に説明する。
本発明は、燃料電池車両の駐車時に外気からの酸素がカソードに次第に拡散し、アノードに移動して水素と界面を形成することを未然に防ぐために、駐車時間による酸素濃度の変化を測定して水素パージを周期的に実施する点に主な特徴がある。
そのために、先ず、燃料電池車両をエンジンオフ状態で駐車する時、駐車時間による燃料電池スタックのカソードに対する酸素濃度を測定する段階を行う。
前記カソードに対する酸素濃度の測定は、カソードに酸素センサを直接装着して測定することが好ましく、または周辺環境要素(外気温、高度、外気相対湿度など)を考慮した実測値をベースとする通常の算出法を用いて計算してもよい。
このように燃料電池車両の駐車時間による酸素濃度を測定した後、この測定された結果に基づいてカソードに対する水素パージ周期を決定するが、その一例を図1に示す。
【0016】
図1は、燃料電池車両の駐車時間によるカソードの酸素濃度の変化を測定したグラフであって、駐車時間が増加するほど外気からの酸素がカソードに次第に拡散して増加することが分かる。
このように測定された駐車時間毎のカソードの酸素濃度の変化データに基づいて水素パージ周期を決定するが、好ましくはカソードに拡散した酸素濃度が電極膜アセンブリーの耐久性に影響を及ぼさないように、例えば、酸素濃度の基準値が0.01%を超える時点を水素パージ周期と決定することができる。
さらに好ましくは、前記酸素濃度基準値を決定する方法として、図2に示すように、カソード内に酸素を強制流入させてスタックの酸素濃度毎の開回路電圧(OCV:Open Circuit Voltage)をモニターリングする実験を行い、モニターリングされた開回路電圧が基準値以上に増加する時点での酸素濃度を基準値と決定する方法が挙げられる。
【0017】
ここで、開回路電圧が基準値以上の場合は、燃料電池車量の駐車中にカソードに拡散する酸素がアノード内の残存水素と反応して高電位が発生し、高電位により電極膜アセンブリーに腐食をもたらすため、開回路電圧を基準値以下に管理することが好ましい。
したがって、上述した実験により開回路電圧が基準値以上に増加する時点での酸素濃度を酸素濃度基準値として決定する。
【0018】
上述したように水素パージ周期が決定されると、燃料電池車両の駐車時に水素パージ周期毎にカソードに水素をパージしてカソードに存在する酸素を外部に排出させる酸素除去段階が行われる。
具体的には、外気からカソードに拡散してきた酸素の濃度が基準値以上の場合、カソードに水素を周期的にパージして除去することにより、燃料電池車両の駐車中に常にアノードにおける水素と酸素の界面形成を抑制し、電極膜アセンブリーの腐食現象による燃料電池スタックの耐久性の低下を容易に防止できる。
【0019】
図3は、駐車した状態でスタートアップする時、カソード側酸素濃度によるスタック電圧挙動を測定したグラフであって、青色ラインは駐車時のカソードに対する水素パージを行うことにより酸素濃度を基準値以下(0.01%)に管理する状態を示し、赤色ラインは酸素濃度を基準値以上(1.0%)に管理する状態を示す。
図3で、a区間は燃料電池車両の駐車状態で始動をかける初期区間であり、b区間はアノード及びカソードにそれぞれ水素及び空気が同時に供給され始める区間であり、c区間は始動を完了した区間を示している。
【0020】
図3に示す通り、酸素濃度を基準値以上(1.0%)に管理する場合、始動を完了する前にカソード側に拡散してきた酸素がアノードに移動して水素と酸素との間の界面が形成されることにより、b区間の赤色ラインのように高電位が発生して高電位保持時間が長くなって燃料電池スタックの耐久性が低下する虞がある。
また、燃料電池車両のスタートアップ及びシャットダウン(start up/shut down)の場合、燃料電池のカソード(cathode)内の酸素による化学的反応及びそれによる開回路電圧が発生してスタック内の触媒担持カーボンの腐食をもたらすと共にスタックの耐久性が低下する虞があるが、これら問題を解消するためにCOD兼用ヒータに含まれている一種の抵抗体のCOD(Cathode Oxygen Depletion)がスタックの両端子に連結されて開回路電圧を除去する。
【0021】
反面、酸素濃度を基準値以下(0.01%)に管理する場合、水素と酸素との間の界面形成が防止でき、それによって、b区間の青色ラインのように高電位が発生することがなく、結局、高電位保持時間なしでアノード及びカソードにそれぞれ水素及び空気を同時に供給できるため、高電位による燃料電池スタックの耐久性が低下することを防止することができる。
図1
図2
図3