(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129586
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】二重屋根を利用した高断熱工法及び高断熱建物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/70 20060101AFI20170508BHJP
E04B 1/76 20060101ALI20170508BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
E04B1/70 B
E04B1/76 400B
E04B1/64 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-41581(P2013-41581)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-169566(P2014-169566A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年12月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】399005873
【氏名又は名称】株式会社デコス
(74)【代理人】
【識別番号】100094581
【弁理士】
【氏名又は名称】鯨田 雅信
(72)【発明者】
【氏名】安成 信次
(72)【発明者】
【氏名】百合野 弘敬
【審査官】
小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−310376(JP,A)
【文献】
特開2009−293249(JP,A)
【文献】
特開2003−184196(JP,A)
【文献】
特開2003−239444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/70
E04B 1/64
E04B 1/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁の内装仕上材の外側略全面に対向又は接触するように壁側通気性シートを配置すると共に、前記壁側通気性シートの外側にこれと所定間隔を介して対向するように、透湿面材を配置し、前記壁側通気性シートと前記透湿面材との間の空間にセルロースファイバー断熱材を充填して、壁側調湿・断熱層を形成する工程と、
前記壁側調湿・断熱層を形成する工程と略同時に又は相前後して、軒部分の無い透湿性下部屋根用野地板を、水平面に対して傾斜するように且つ前記透湿面材との間で略連続しており隙間がないように、配置する工程と、
前記壁側調湿・断熱層を形成する工程及び前記透湿性下部屋根用野地板を配置する工程と略同時に又は相前後して、前記透湿性下部屋根用野地板の下方(小屋裏側)にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜するように且つ屋根側の天然木素材から成る桁の内側下端部又はその近傍部分と天然木素材から成る棟の下端部又はその近傍部分とを結ぶ略全面に渡るように、屋根側通気性シートを配置し、前記透湿性下部屋根用野地板と前記屋根側通気性シートとの間の空間にセルロースファイバー断熱材を充填して、屋根側調湿・断熱層を形成する工程と、
前記壁側調湿・断熱層を形成する工程、前記透湿性下部屋根用野地板を配置する工程、及び屋根側調湿・断熱層を形成する工程と略同時に又は相前後して、前記壁側調湿・断熱層の外側を構成する前記透湿面材の外側と、前記屋根側調湿・断熱層の上側を構成する前記透湿性下部屋根用野地板の上側との略全面に渡って隙間が生じないように、それらと対向又は当接するように略連続的に透湿性防風防水シートを配置する工程と、
前記透湿性防風防水シートの壁側部分と前記透湿性防風防水シートの外側にこれと所定間隔を介して対向する外装仕上材との間に、所定の開口部から外気が導入可能な壁側通気層を形成する工程と、
前記透湿性防風防水シートの屋根側部分の上側にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜する上部屋根用野地板を配置すると共に、前記透湿性防風防水シートと前記上部屋根用野地板との間に、軒部分に形成された開口部から外気が導入可能で且つ前記壁側通気層との間で空気が流通可能な屋根側通気層を形成する工程と、を含み、
(A)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側及び屋根側の略全面に渡って略連続的に配置された前記透湿性防風防水シートで、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、隙間風による熱損失を防止し、
(B)建物の小屋裏を、前記二重屋根の前記透湿性下部屋根用野地板とその下方(小屋裏側)の前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材により、屋根から断熱し、
(C)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側調湿・断熱層、前記屋根側調湿・断熱層、それらの間に配置される桁であってそれ自体が調湿性と断熱性を有する天然木素材から成る桁、それらの外側を覆う前記透湿性防風防水シート、並びにその更に外側を覆う前記壁側通気層及び前記屋根側通気層により、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、建物の小屋裏を含む室内全体を断熱しながら、壁体及び屋根の内部を調湿可能にして壁体及び屋根の内部結露の発生を防止した、ことを特徴とする二重屋根を利用した高断熱工法。
【請求項2】
請求項1において、さらに、建物の床下に、互いに所定間隔を介して対向する2つの通気性シートを床と略平行に配置し、前記2つの通気性シートの間にセルロースファイバー断熱材を充填させて、床下側調湿・断熱層を形成する工程を含む、ことを特徴とする、二重屋根を利用した高断熱工法。
【請求項3】
壁の内装仕上材の外側略全面に対向又は接触するように配置された壁側通気性シートと、前記壁側通気性シートの外側にこれと所定間隔を介して対向するように配置された、透湿面材と、前記壁側通気性シートと前記透湿面材との間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材と、から成る壁側調湿・断熱層と、
所定方向に傾斜する、軒部分の有る上部屋根用野地板と、前記上部屋根用野地板の下方にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜して対向する、軒部分の無い、透湿性を有する透湿性下部屋根用野地板と、を含む二重屋根と、
前記透湿性下部屋根用野地板であって前記透湿面材との間が略連続しており隙間がないように配置された前記透湿性下部屋根用野地板と、前記透湿性下部屋根用野地板の下方(小屋裏側)にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜するように且つ屋根側の天然木素材から成る桁の内側下端部又はその近傍部分と天然木素材から成る棟の下端部又はその近傍部分とを結ぶ略全面に渡るように配置された屋根側通気性シートと、前記透湿性下部屋根用野地板と前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材と、から成る屋根側調湿・断熱層と、
前記壁側調湿・断熱層の外側を構成する前記透湿面材の外側と、前記屋根側調湿・断熱層の上側を構成する前記透湿性下部屋根用野地板の外側との略全面に渡って隙間が生じないように、それらと対向又は当接するように略連続的に配置された透湿性防風防水シートと、
前記透湿性防風防水シートの壁側部分と前記透湿性防風防水シートの外側にこれと所定間隔を介して対向する外装仕上材との間に形成され、所定の開口部から外気が導入可能な壁側通気層と、
前記透湿性防風防水シートの屋根側部分と前記透湿性防風防水シートの上側にこれと所定間隔を介して対向する上部屋根用野地板との間に形成され、軒部分に形成された開口部から外気が導入可能で且つ前記壁側通気層との間で空気が流通可能に形成された屋根側通気層と、を備えており、
(A)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側及び屋根側の略全面に渡って略連続的に配置された前記透湿性防風防水シートで、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、隙間風による熱損失を防止し、
(B)建物の小屋裏を、前記二重屋根の前記透湿性下部屋根用野地板とその下方の前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材により、屋根から断熱し、
(C)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側調湿・断熱層、前記屋根側調湿・断熱層、それらの間に配置される桁であってそれ自体が調湿性と断熱性を有する天然木素材から成る桁、それらの外側を覆う前記透湿性防風防水シート、並びにその更に外側を覆う前記壁側通気層及び前記屋根側通気層により、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、建物の小屋裏を含む室内全体を断熱しながら、壁体及び屋根の内部を調湿可能にして壁体及び屋根の内部結露の発生を防止した、ことを特徴とする二重屋根を利用した高断熱建物。
【請求項4】
請求項3において、さらに、建物の床下に、前記床と略平行に且つ互いに所定間隔を介して対向するように配置された2つの通気性シートと、前記2つの通気性シートの間に充填されたセルロースファイバー断熱材とにより形成された床下側調湿・断熱層を備えたことを特徴とする、二重屋根を利用した高断熱建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来の充填断熱工法(内断熱工法)によりながらも小屋裏を有効活用でき、気密性が高いため隙間風や内部結露がなく高い断熱性能を実現できる高断熱工法及び高断熱建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、木造軸組工法(在来工法)においては、例えば特許文献1から引用する
図4に示すように、床、壁、及び天井の構造材の隙間(例えば柱と柱の間など)に断熱材を充填させる充填断熱工法(内断熱工法)が多く採用されている。
【0003】
また、近年では、例えば特許文献2から引用する
図5に示すように、床、壁、及び屋根の構造材の外側(例えば躯体・柱と外壁材との間など)に主としてプラスチック系ボード状断熱材を配置する外張り断熱工法(外断熱工法)も普及しつつある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−229618号公報
【特許文献2】特開2005−83142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の充填断熱工法(内断熱工法)においては、(A)特に木造軸組工法(在来工法)においては柱や梁などの構造材の寸法が異なることなどから空気が戸外と流通する隙間が生じ易いため、前述のような充填断熱工法による断熱を施しても、空隙・隙間風による熱損失が生じてしてしまう、(B)床、壁、及び天井の構造材の隙間(例えば柱と柱の間など)に断熱材を充填させるため、断熱されていない小屋裏(天井と屋根の間の空間)は過酷な状態に放置され有効活用ができない、(C)断熱層としてグラスウールやロックウールなどの無機繊維系断熱材を使用する場合には、従来より断熱層の室内側に防湿気密シートを張ることが多く行われているが、そのような防湿気密シートを張っても熟練した施工者によらない場合は気密防湿性能にバラツキが生じて室内の水蒸気が壁内に侵入して内部結露が生じる場合があるし、近年の自然素材志向の強まりの下で内装仕上材や柱などをせっかく自然素材で構成していながらその裏側に上記のような防湿シートを貼ることは不自然である、などの問題点が指摘されている。
【0006】
また、近年の外張り断熱工法(外断熱工法)を採用した場合は、上記の(A)〜(C)の問題点はかなり解消されるが、他方において、外張り断熱工法に関しては、重量のある外壁材(外装材)を断熱材を介して構造材に取り付けることになるため外壁材の取り付けが不安定となりがちで建物の耐久性や耐震性に問題が生じてしまうこと、重量のある外壁材(外装材)を断熱材を介して構造材に取り付けることになるため断熱材を厚くすることができず断熱性能を十分に上げることができないこと、あるいは外張り断熱工法で使用されるプラスチック系ボード状断熱材から燃焼時や廃棄時に生じるガスが人体や環境へ悪影響を及ぼす可能性があることなど、複数の深刻な問題点が指摘されている。
【0007】
本発明はこのような従来技術の問題点に着目してなされたものであって、上記のような複数の深刻な問題点がある外張り断熱工法(外断熱工法)を採用しないで、従来の充填断熱工法(内断熱工法)を採用する場合においても、(a)隙間の無い完全な施工による熱損失の確実な防止と(b)屋根面の断熱による小屋裏の有効活用と(c)断熱層としてグラスウールやロックウールなどの無機繊維系断熱材を使用する場合において従来生じていたような壁体及び屋根面の内部結露の防止とを併せ実現すること、すなわち、壁体及び屋根面の断熱材の室外側に透湿面材と透湿シートを配することで室内の湿気が断熱層を通過して室外へ放出されるという言わば「調湿躯体」を形成して、高断熱高気密ながら、防湿フィルムなどで通気を遮断しないことにより快適な空気質を有する住空間を実現することができる、二重屋根を利用した高断熱工法及び高断熱建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上のような課題を解決するための本発明による二重屋根を利用した高断熱工法は、壁の内装仕上材(室内側内装材)の外側略全面に対向又は接触するように壁側通気性シートを配置すると共に、前記壁側通気性シートの外側にこれと所定間隔を介して対向するように、透湿性を有する透湿面材を配置し、前記壁側通気性シートと前記透湿性を有する透湿面材との間の空間(柱と柱との間の空間など)にセルロースファイバー断熱材を充填して、壁側調湿・断熱層を形成する工程と、前記壁側調湿・断熱層を形成する工程と略同時に又は相前後して、軒部分の無い透湿性を有する下部屋根用野地板を、水平面に対して傾斜するように且つ前記透湿面材と略連続していて隙間がないように、配置する工程と、前記壁側調湿・断熱層を形成する工程及び前記下部屋根用野地板を配置する工程と略同時に又は相前後して、前記下部屋根用野地板の下方(小屋裏側)にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜するように且つ屋根側の「天然木素材から成る桁」の内側下端部又はその近傍部分と「天然木素材から成る棟」の下端部又はその近傍部分とを結ぶ略全面に渡るように、屋根側通気性シートを配置し、前記下部屋根用野地板と前記屋根側通気性シートとの間の空間(例えば上下方向の寸法が「桁」又は「棟」と桟木との上下方向の寸法と略同一の空間)にセルロースファイバー断熱材を充填して、屋根側調湿・断熱層を形成する工程と、前記壁側調湿・断熱層を形成する工程、前記下部屋根用野地板を配置する工程、及び屋根側調湿・断熱層を形成する工程と略同時に又は相前後して、前記壁側調湿・断熱層の外側を構成する透湿面材と、前記屋根側調湿・断熱層の外側を構成する透湿性下部屋根用野地板との略全面に渡って隙間なく、それらと対向又は当接するようにそれらの外側に略連続的に透湿性防風防水シートを配置する工程と、前記透湿性防風防水シートの壁側部分と前記透湿性防風防水シートの外側にこれと所定間隔を介して対向する外装仕上材との間に、所定の開口部から外気が導入可能な壁側通気層を形成する工程と、前記透湿性防風防水シートの屋根側部分と前記透湿性防風防水シートの上側にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜する上部屋根用野地板を配置すると共に、前記透湿性防風防水シートと前記上部屋根用野地板との間に、軒部分に形成された開口部から外気が導入可能で且つ前記壁側通気層との間で空気が流通可能な屋根側通気層を形成する工程と、を含み、(A)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側及び屋根側の略全面に渡って略連続的に配置された前記透湿性防風防水シートで、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、隙間風による熱損失を防止し、(B)建物の小屋裏を、前記二重屋根の透湿性を有する下部屋根用野地板とその下方(小屋裏側)の前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材により、屋根から断熱し、(C)建物の小屋裏を含む室内全体を、「前記壁側調湿・断熱層、前記屋根側調湿・断熱層、それらの間に配置される桁であってそれ自体が調湿性と断熱性を有する天然木素材から成る桁、それらの外側を覆う前記透湿性防風防水シート、並びにそれらの更に外側を覆う前記壁側通気層及び前記屋根側通気層」により、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、建物の小屋裏を含む室内全体を断熱しながら、壁体及び屋根の内部を調湿可能にして壁体及び屋根の内部結露の発生を防止した、ことを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明による二重屋根を利用した高断熱工法においては、建物の床下に、互いに所定間隔を介して対向する2つの通気性シートを床と略平行に配置し、前記2つの通気性シートの間にセルロースファイバー断熱材を充填させて、床下側調湿・断熱層を形成する工程を含むようにしてもよい。(もちろん、本発明においては、このような床面断熱の方法以外に、例えば、基礎のコンクリートの外部面若しくは内部面にポリスチレンフォームなどの板状の断熱材(厚さ40mm程度)を貼る方法など、他の基礎断熱方法を採用することも可能であるし、そもそも基礎断熱方法は採用しないようにすることも可能である。)
【0010】
また、本発明による二重屋根を利用した高断熱建物は、壁の内装仕上材(室内側内装材)の外側略全面に対向又は接触するように配置された壁側通気性シートと、前記壁側通気性シートの外側にこれと所定間隔を介して対向するように配置された、透湿性を有する透湿面材と、前記壁側通気性シートと前記透湿性を有する透湿面材との間の空間(柱と柱との間の空間など)に充填されたセルロースファイバー断熱材と、から成る壁側調湿・断熱層と、所定方向に傾斜する、軒部分の有る上部屋根用野地板と、前記上部屋根用野地板の下方にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜して対向する、軒部分の無い、透湿性を有する下部屋根用野地板と、を含む二重屋根と、前記透湿性を有する下部屋根用野地板であって前記透湿性を有する透湿面材との間で略連続しており隙間がないように配置された下部屋根用野地板と、前記下部屋根用野地板の下方(小屋裏側)にこれと所定間隔を介して略平行に傾斜するように且つ屋根側の「天然木素材から成る桁」の内側下端部又はその近傍部分と「天然木素材から成る棟」の下端部又はその近傍部分とを結ぶ略全面に渡るように配置された屋根側通気性シートと、前記下部屋根用野地板と前記屋根側通気性シートとの間の空間(例えば上下方向の寸法が「桁」又は「棟」と桟木との上下方向の寸法と略同一の空間)に充填されたセルロースファイバー断熱材と、から成る屋根側調湿・断熱層と、前記壁側調湿・断熱層の外側を構成する透湿性の透湿面材の外側と、前記屋根側調湿・断熱層の上側を構成する透湿性の下部屋根用野地板の外側との略全面に渡って隙間なく、それらと対向又は当接するように略連続的に配置された透湿性防風防水シートと、前記透湿性防風防水シートの壁側部分と前記透湿性防風防水シートの外側にこれと所定間隔を介して対向する外装仕上材との間に形成され、所定の開口部から外気が導入可能な壁側通気層と、前記透湿性防風防水シートの屋根側部分と前記透湿性防風防水シートの上側にこれと所定間隔を介して対向する上部屋根用野地板との間に形成され、軒部分に形成された開口部から外気が導入可能で且つ前記壁側通気層との間で空気が流通可能に形成された屋根側通気層と、を備えており、(A)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側及び屋根側の略全面に渡って略連続的に配置された前記透湿性防風防水シートで、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、隙間風による熱損失を防止し、(B)建物の小屋裏を、前記二重屋根の透湿性を有する下部屋根用野地板とその下方(小屋裏側)の前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材により、屋根から断熱し、(C)建物の小屋裏を含む室内全体を、「前記壁側調湿・断熱層、前記屋根側調湿・断熱層、それらの間に配置される桁であってそれ自体が調湿性と断熱性を有する天然木素材から成る桁、それらの外側を覆う前記透湿性防風防水シート、並びにその更に外側を覆う前記壁側通気層及び前記屋根側通気層」により、その外側から隙間なく覆い包み込むことにより、建物の小屋裏を含む室内全体を断熱しながら、壁体及び屋根の内部を調湿可能にして壁体及び屋根の内部結露の発生を防止した、ことを特徴とするものである。
【0011】
さらに、本発明による二重屋根を利用した高断熱建物においては、建物の床下に、前記床と略平行に且つ互いに所定間隔を介して対向するように配置された2つの通気性シートと、前記2つの通気性シートの間に充填されたセルロースファイバー断熱材とにより形成された床下側調湿・断熱層を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、前述のように、(A)建物の小屋裏を含む室内全体を、前記壁側及び屋根側の略全面に渡って略連続的に配置された前記透湿性防風防水シートで、その外側から覆い包み込むことにより、隙間風による熱損失を防止すること、(B)建物の小屋裏を、前記二重屋根の透湿性を有する下部屋根用野地板とその下方(小屋裏側)の前記屋根側通気性シートとの間の空間に充填されたセルロースファイバー断熱材により、屋根から断熱して小屋裏の有効活用を可能にすること、及び(C)建物の小屋裏を含む室内全体を、「前記壁側調湿・断熱層、前記屋根側調湿・断熱層、それらの間に配置される桁であってそれ自体が調湿性(空気中の水分を吸収・放出する性質)を有する天然木素材から成る桁、それらの外側を覆う前記透湿性防風防水シート、並びにその更に外側を覆う前記壁側通気層及び前記屋根側通気層」により、その外側から覆い包み込むことにより、建物の小屋裏を含む室内全体を断熱しながら、壁体及び屋根の内部を調湿可能にして壁体及び屋根の内部結露の発生を防止すること、以上の(A)〜(C)を同時に実現して、充填断熱工法(内断熱工法)に関して従来より指摘されていた欠点をほぼ全て無くすことができるようになる。
【0013】
また、本発明において、さらに、床下にもセルロースファイバー断熱材を充填した断熱層を形成するようにしたときは、小屋裏を含む建物内部の側方と上方だけでなく下方についても床下調湿・断熱層で覆い包み込むことができるので、壁体と屋根と床下の内部結露の発生を有効に防止しつつ効果的な断熱を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態により建設され得る二重屋根を利用した高断熱住宅の構成を示す断面図である。
【
図2】本実施形態の一部を透過して見たときの斜視図である。
【
図3】本実施形態において前記屋根側セルロースファイバー断熱材 層25を形成するときの動作を説明するための図である。
【
図4】従来の充填断熱工法(内断熱工法)による建物の断熱構造例を示す図である。
【
図5】従来の外張り断熱工法(外断熱工法)による建物の断熱構造例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は本発明の一実施形態により建設され得る二重屋根を利用した高断熱住宅の構成を示す断面図、
図2はその一部を透過して見たときの斜視図である。
【0016】
図1,2において、1a及び1bはそれぞれ天然木素材(無垢材又は集成材)から成りそれ自体が調湿性と断熱性を有する1階側の桁と2階側の桁、2は前記桁1a,1bの室内側に配置されて室内の壁を形成する内装仕上材若しくはその下地材(以下、本明細書では「内装仕上材」と略す)である。また3は、前記内装仕上材2の外側(且つ前記桁1a,1bの内側)に配置され、例えば不織布などで形成される、従来より公知の通気性シートである。
【0017】
また、
図1,2において、4は、前記通気性シート3と所定間隔を介して前記桁1a,1bの外側(外壁側通気層9の内側)に配置されている、透湿性を有する透湿面材(例えば、大建工業株式会社製の「ダイライトMS」(登録商標)、「アセダス」(登録商標)、「シージングボードIC」(登録商標)など)である。なお、前記透湿性を有する透湿面材4と前記通気性シート3との間の間隔は、例えば、前記各桁1a,1bの横幅、又は前記各桁1a,1bにこれと直交するように固定された柱10aや間柱10b(
図2参照)の横幅と略同一である。
【0018】
また、
図1,2において、5は前記通気性シート3と前記透湿面材4との間の空間に例えば約50〜60kg/m
3の吹き込み密度でセルロースファイバー断熱材が充填されて成る壁側セルロースファイバー断熱材層、6は前記透湿性を有する透湿面材4の外側に配置された透湿性を有する防風防水シート(例えば、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社製の「タイベック ハウスラップ」(登録商標)など)である。
本実施形態では、前記通気性シート3、前記壁側セルロースファイバー断熱材層5、及び前記透湿性を有する透湿面材4により、壁側調湿・断熱層が形成されている。
【0019】
また、
図1,2において、7(
図2参照)は前記透湿性を有する防風防水シート6の外側にそれぞれの長手方向が図示上下方向に延びるように互いに所定間隔を介して配置された通気垂木、8は前記通気垂木7の外側に固定された外装仕上材(外壁材)である。前記通気垂木7により、前記透湿性の防風防水シート6と前記外装仕上材8との間に、外壁側通気層9が形成されている。この外壁側通気層9は、例えば前記外装仕上材8の下方の開口部(
図1の符号9a参照。例えば土台天端の水切りと外装仕上材8との隙間部分)から外気が流通可能に(且つ後述の屋根側通気層との間でも空気が流通可能に)形成されている。
【0020】
また
図1,2において、11(
図1参照)は天然木素材(無垢材又は集成材)から成りそれ自体が調湿性と断熱性を有する棟木、12は、前記棟木11の上端部と前記桁1bの上端部とを結ぶ線に沿うように配置された、透湿性を有する下部屋根用野地板、13は前記透湿性を有する下部屋根用野地板12の上側に配置された透湿性を有する防風防水シート(例えば、旭・デュポン フラッシュスパン プロダクツ株式会社製の「タイベック ルーフライナー」(登録商標)など)である。
【0021】
本実施形態においては、前記の透湿性を有する下部屋根用野地板12の上側に配置された透湿性を有する防風防水シート13と、前記の前記透湿性を有する透湿面材4の外側に配置された透湿性を有する防風防水シート6との間は、壁側と屋根側との略全面に渡って隙間が生じないように略連続的に配置されている。
【0022】
また
図1,2において、14(
図2参照)は前記透湿性を有する防風防水シート13の上側に配置されそれぞれの長手方向が屋根の傾斜方向と略平行となるように互いに所定間隔を介して配置された屋根用通気垂木、15は前記屋根用通気垂木14の上側に固定された上部屋根用野地板、16は前記上部屋根用野地板15の上側に配置された防水シート、17は前記防水シート16を介して前記上部屋根用野地板15に固定された従来より公知の屋根材である。
【0023】
前記の透湿性を有する下部屋根用野地板12は、軒(庇)部分を有しないように形成されている。他方、前記上部屋根用野地板15は、軒(庇)部分(
図1の符号16a参照)を有するように形成されている。本実施形態では、前記の下部屋根用野地板12及び上部屋根用野地板15などにより、二重屋根が形成されている。
【0024】
本実施形態では、前記下部屋根用野地板12の上側の透湿性の防風防水シート13と前記上部屋根用野地板15との間に、前記各通気垂木14の間を空間が流通可能な屋根側通気層18が形成されている。前記屋根側通気層18は、戸外の空気が前記上部屋根用野地板15の軒部分16aの下方に形成された軒天換気口19から流入可能に形成され、且つ、前記屋根側通気層18内の空気が屋根の上端部に形成された棟換気口20から排出可能に形成されている。また前記屋根側通気層18は、前述した外壁側通気層9と空気が流通可能に形成(連通)されている。
【0025】
また、
図1,2において、21(
図2参照)は前記桁1bに固定される登梁、22は前記登梁21に固定された母屋(母屋桁)、23はそれぞれの長手方向が屋根の傾斜方向と直交するように前記登梁21の下端面に互いに所定間隔を介して固定された複数の桟木、24は前記透湿性を有する下部屋根用野地板12の下側(小屋裏27側)に前記下部屋根用野地板12の下面と所定間隔(例えば前記の軒11や桁1bの上下方向の幅と略同一の寸法)を介して略平行に広がるように前記各桟木23の下端面にステープラーなどで固定された通気性シート、25は前記通気性シート24と前記透湿性を有する下部屋根用野地板12との間の空間に例えば約50〜60kg/m
3の吹き込み密度でセルロースファイバー断熱材が充填されて成る屋根側セルロースファイバー断熱材層である。
【0026】
本実施形態では、前記通気性シート24、前記透湿性を有する下部屋根用野地板12、及び前記屋根側セルロースファイバー断熱材層25により、屋根側調湿・断熱層が形成されている。
【0027】
本実施形態では、
図1,2に示すように、前記セルロースファイバー断熱材層25の下側の傾斜する通気性シート24と天井板26とに挟まれた空間が小屋裏空間27となっており、天井にはセルロースファイバー断熱材層は形成されていない。なお、この
図1,2に示すような水平方向の天井板26を施工しないで、通気シート24の下方にこれに沿う斜め方向に天井板を施工する場合もあるが、本発明は、このような水平方向の天井板26の無い小屋裏に対しても同様に適用できることはもちろんである。
【0028】
次に
図1において、31は基礎コンクリート、32は前記基礎コンクリート31の上に配置される土台、33は前記基礎コンクリート31と前記土台32との間に所定間隔で挿入される床下換気用の基礎パッキン、34は前記土台32の上端部と略同一の高さで水平に配置されるように図示しない桟木(例えば前記土台32に固定された桟木)などで支持される通気性シート、35は前記通気性シート34の上側に配置された床板、36は前記通気性シート34と所定間隔(例えば前記土台32の上下方向の厚さと略同一の間隔)を介して水平に配置されるように前記土台32に固定された桟木37などで支持される通気性シート、38は前記2つの通気性シート34,36の間の空間に例えば約50〜60kg/m
3の吹き込み密度でセルロースファイバー断熱材が充填されて成る床下側セルロースファイバー断熱材層である。
【0029】
本実施形態では、前記2つの通気性シート34,36、及び前記床下側セルロースファイバー断熱材層38により、床下側調湿・断熱層が形成されている(なお前述のように、本発明は、本実施形態のような床断熱をせずに基礎の外部若しくは内部で断熱をする場合、床又は基礎には全く断熱をしない場合などにも適用できることはもちろんである。)。
【0030】
次に、
図3は本実施形態において前記屋根側セルロースファイバー断熱材層25を形成するときの動作を説明するための図である。
図3に示すように、前記屋根側セルロースファイバー断熱材層25を形成するときは、前記透湿性を有する下部屋根用野地板12の下方にこれと略平行に配置された例えば不織布製の通気性シート24の一部を、その下方から破って小さい孔41を形成する。そして、この孔41にノズル42の先端部42aを挿入し、このノズル42から、前記通気性シート24と前記下部屋根用野地板12との間の空間内にセルロースファイバー断熱材を例えば約50〜60kg/m
3の吹き込み密度となるまで吹き込み、充填する(必要なら前記通気性シート24の複数の部分について同様の動作を繰り返す)。なお、前記不織布製の通気性シート24は、前記桟木23の下面にステープラーの芯などで固定されている。
【0031】
以上のように、本実施形態においては、前述のような「前記通気性シート3、前記壁側セルロースファイバー断熱材層5、及び前記透湿性を有する透湿面材4などから成る壁側調湿・断熱層」、「前記通気性シート24、前記透湿性を有する下部屋根用野地板12、及び前記屋根側セルロースファイバー断熱材層25などから成る屋根側調湿・断熱層」、「前記2つの通気性シート34,36、及び前記床下側セルロースファイバー断熱材層38などから成る床下側調湿・断熱層」、及び、「前記壁側調湿・断熱層と屋根側調湿・断熱層との境目に位置する、それ自体が調湿性と断熱性を有する天然木素材(無垢材又は集成材)から成る桁」から成る「その全体が調湿性及び断熱性を有する層」により、住宅の小屋裏を含む室内全体を、覆い包み込むようにしている。
そして、さらに、前記の「その全体が調湿性及び断熱性を有する層」の外側を、「前記透湿性防風防水シート13、及び、その外側の壁側通気層9及び屋根側通気層18」により、隙間なく覆い包み込むようにしている。
【0032】
よって、本実施形態によれば、建物の小屋裏を含む室内全体が、前述のような「その全体が調湿性及び断熱性を有する層」と透湿性防風防水シート13と通気層(壁側通気層9と屋根側通気層18)とにより覆われ包み込まれているので、(A)「隙間風による熱損失」を防止すること(建物の小屋裏を含む室内全体が隙間なく連続的に前記透湿性防風防水シート13で覆われ包み込まれているので、隙間風が生じない)、(B)小屋裏を断熱して有効利用すること(前記二重屋根の透湿性を有する下部屋根用野地板の下方(小屋裏側)に屋根側セルロースファイバー断熱材層25を配置することにより、小屋裏を屋根から断熱した)、及び(C)「壁体と屋根の内部結露」を防止すること(仮に室内からの水蒸気が壁体と屋根の内部に侵入しても、前記壁側又は屋根側のセルロースファイバー断熱材層5,25や桁1a,1bなどがそれ自体で調湿性を有しているため、壁体と屋根の内部が調湿されて内部結露が発生しない)を同時に実現することができ、充填断熱工法に関して従来指摘されていた欠点のほぼ全てを解消することができる。このように、本実施形態では、小屋裏を含む建物内部の側方と上方について「調湿性及び断熱性を有する層」で覆い包み込むことができるので、壁体と屋根の内部結露を有効に防止しつつ効果的な断熱を実現することができる。
【0033】
また、さらに、本実施形態において、前述のように、床板35の下方にもセルロースファイバー断熱材層38を形成するようにしたときは、小屋裏を含む建物内部の側方と上方だけでなく下方についても「調湿性及び断熱性を有する層」で覆い包み込むことができるので、壁体と屋根と床下の内部結露を有効に防止しつつ効果的な断熱を実現することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記の実施形態として述べたものに限定されるものではなく、様々な修正及び変更が可能である。例えば、前記実施形態においては、床板35の下方にセルロースファイバー断熱材層38を配置するようにしているが、本発明ではこれを省略するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0035】
1a,1b 桁
2 内装仕上材
3 通気性シート
4 透湿面材
5 壁側セルロースファイバー断熱材層
6 防風防水シート
7 通気垂木
8 外装仕上材
9 外壁側通気層
9a 開口部
10a 柱
10b 間柱
11 棟木
12 下部屋根用野地板
13 防風防水シート
14 屋根用通気垂木
15 上部屋根用野地板
16 防水シート
16a 軒部分
18 屋根側通気層
19 軒天換気口
20 棟換気口
21 登梁
22 母屋
23 桟木
24 通気性シート
25 屋根側セルロースファイバー断熱材層
26 天井板
27 屋根裏
31 基礎コンクリート
32 土台
34,36 通気性シート
35 床板
37 桟木
38 床側セルロースファイバー断熱材層