【実施例1】
【0016】
沸騰水型原子力プラントに適用した本発明の実施例1の原子力プラントにおける燃料デブリの搬出方法を、
図1から
図22を用いて説明する。
【0017】
まず、本実施例の沸騰水型原子力プラントの概略構造を、
図1を用いて説明する。沸騰水型原子力プラント1は、原子炉2及び原子炉格納容器(以下、PCV3という)を備えている。PCV3は、原子炉建屋4内に設置されて、上端部に上蓋5が取り付けられて密封されている。PCVは、内部に形成されたドライウェル6、及び冷却水が充填された圧力抑制プールが内部に形成された圧力抑制室7を有する。ドライウェルに連絡されるベント通路8の一端が、圧力抑制室内の圧力抑制プールの冷却水中に浸漬されている。PCVの上蓋5の真上に複数に分割された放射線遮へい体であるシールドプラグ9が配置され、これらのシールドプラグが、原子炉建屋の運転床に設置されている。
【0018】
原子炉は、上蓋10が取り付けられて構成される原子炉圧力容器(以下、RPV11という)、核燃料物質を含む複数の燃料集合体が装荷された炉心12、気水分離器14及び蒸気乾燥器13を備えている。炉心、気水分離器及び蒸気乾燥器はRPV内に配置される。RPV内に設置された炉心シュラウド15が、炉心を取り囲んでいる。炉心内に装荷された各燃料集合体16は、下端部が炉心支持板17によって支持され、上端部が上部格子板18によって保持される。気水分離器は炉心の上端部に位置する上部格子板よりも上方に配置され、蒸気乾燥器が気水分離器の上方に配置される。
【0019】
複数の制御棒案内管19が炉心の下方に配置され、複数の制御棒案内管を含むサポートシリンダが形成されている。炉心内の燃料集合体間に出し入れされて原子炉出力を制御する制御棒20が、各制御棒案内管内に配置されている。複数の制御棒駆動機構ハウジング21が、RPVの下鏡22に取り付けられている。制御棒駆動機構(図示せず)が、それぞれの制御棒駆動機構ハウジング21内に設置され、制御棒案内管19内の制御棒20と連結されている。RPV11内に設置された気水分離器14、蒸気乾燥器13、炉心シュラウド15、上部格子板18、炉心支持板17、サポートシリンダ、制御棒案内管19、炉心シュラウド下部胴は、炉内構造物である。
【0020】
RPVは、PCV内の底部に設けられたコンクリートマット23上に設けられた筒状のペデスタル24上に据え付けられている。筒状のγ線遮蔽体25が、ペデスタルの上端に設置され、RPVを取り囲んでいる。
【0021】
次に、
図2(a)及び
図2(b)に沸騰水型原子力プラントにおいて、炉心溶融が生じた場合の燃料デブリ26の形態の概要ついて示す。非常用冷却設備の機能が喪失しRPV内に冷却水が注入されない場合、核燃料の崩壊熱により、燃料集合体内の燃料ペレットおよび被覆管等が溶融する。この場合溶融した核燃料はもともと存在していた位置、RPVの炉底部、又は、PCVの底部であるコンクリートマット上に存在すると推定される(
図2(a))。場合によっては、
図2(b)に示すように核燃料はもともと存在していた位置には殆ど残っておらず、RPVの炉底部、又は、PCVの底部であるコンクリートマット上に相当数が存在していると推定される。なお、このような状態においては、RPVの炉底部には、複数の穴やき裂が生じていると推定される。この状態でRPV内へ注水を行なっても、穴やき裂を通じて注水した水が漏洩するため、RPV内を冠水状態にする事は難しいと考えられる。ただし、非特許文献2によれば、溶融した燃料デブリは注水により概ね水に接する状態で冷却はされていると考えられている。
【0022】
本実施例では、このような原子力プラントから燃料デブリを短期間で搬出することが出来る方法を提供するものである。
図2(a)の場合を例に、本実施例を説明するが、燃料デブリが
図2(b)の場合にも本実施例は適用できる。
【0023】
図3に示すように、沸騰水型原子力プラントでは緊急時に炉心を冷却する為の非常用炉心冷却装置が設けられている。この非常用炉心冷却装置には高圧注水系と低圧注水系の2系統のCS系注水配管27(一方の配管のみ図示)が設けられている。それぞれの系統はRPV内に設けられた炉心スプレイライン28に接続されて、緊急時に冷却水を注水可能なように構成されている。なお、CS系注水配管27の途中の2箇所にはバルブが設けられている。
【0024】
本実施例では炉心まで直接接続されているこのCS系注水配管27を使って、炉心内部へ止水材を注入する。これにより、PCV及びRPVの上蓋を開放することなく、RPV炉底部に生じた穴やき裂を封止して、RPVからの水の漏洩を止める又は極力少なくすることが可能となる。RPV内からの水の漏洩を止める又は極力少なくすることができれば、RPV内部を冠水することが出来き、その後、PCV及びRPVの上蓋を開放したとしても、放射性物質が飛散することなく、さらに遮蔽効果も有するため、燃料デブリ取り出し工事期間の短縮が図れる。
【0025】
図4(a)にはRPV内部に設けられている炉心スプレイスパージャの詳細を示す。炉心スプレイスパージャは、炉心スプレイライン28およびスパージャノズル29より構成されている。
図4(b)には炉心スプレイスパージャの一部拡大図を示した。
図4(b)に示すように、CS系注水配管27と炉心スプレイライン28はT−ボックス30(T字状分岐)にて接続されている。
【0026】
次に、止水材を注入するためステップについて詳細を説明する。
図5に示すように高圧注水系又は低圧注水系のいずれか一方のCS系注水配管27へ止水材を注入するための止水材注入装置31を設ける。止水材注入装置を配管へ接続する際には、配管の途中に設けられているバルブを閉じて行なう。これは、RPV内の放射性物質が外部に漏洩しないようにするためである。止水材注入装置31のCS系注水配管への接続は溶接等を用いることで接続する。
【0027】
図6に止水材注入装置31の詳細を示す。止水材注入装置は注水系配管の途中の穴あけされた部分に溶接等によって設けられた接続用配管32へ、シールボックス装置33が接続されるように構成されている。さらにシールボックス装置へ止水材を供給する止水材供給装置34を有する。シールボックス装置33は密封構造であり、接続用配管32から放射性物質が漏洩されないように構成されている。またシールボックス装置33には、止水材を注入するための注入ノズル35が設けられている。
【0028】
止水材注入装置の設置が完了したら、バルブを開き、水とともに止水材を炉心部へ注入する。
図7に止水材注入ステップの詳細を示す。高圧注水系又は低圧注水系のCS系注水配管は炉心にまで直接接続されているため、この配管を通じてRPVの内部まで止水材36を注入することが可能である。ここで止水材としては鉄粉を用いた。鉄粉を用いた場合には遮蔽材としても兼用することが出来る。止水材としては鉄粉に限定されることなく他の材料を用いても構わない。B4C(ボロンカーバイド)やセメントを用いても良い。また、止水材は様々な粒径の大きさのものをここでは使用する。止水材の粒径を変えることで、穴やき裂に対して、止水材が入り込むため、止水効果が得られるからである。
【0029】
図8に止水材を注入した時のRPV炉底部の拡大図を示す。RPVの炉底部では、溶融燃料により一部に穴やき裂が生じていると推測される。インコアモニタハウジング37とRPV炉底部の溶接部又はCRDスタブチューブ38とRPV炉底部の溶接部等に穴等が生じ、水漏れが生じていると推測される。本実施例では止水材を注入することでこの漏洩を防止する。
【0030】
第1の止水材注入ステップとして、粒径の大きな止水材を注入する。第2の止水材注入ステップとして、第1の止水材注入ステップで注入した止水材よりも小さな大きさの止水材を注入する。更に、第3の止水材注入ステップとして、第2の止水材注入ステップで注入した止水材よりも小さな止水材を注入する。このようなステップを繰り返して、大きな粒径の止水材から小さな粒径の止水材までをRPV炉底部に注入することにより、RPV炉底部で生じている水漏れを止水または最小限にまでとめることが可能となる。水漏れが防ぐことが出来れば、RPV内部の水面39も上昇することになる。RPV内部に水が満たされるようになったら、次のステップへ進む。
【0031】
なお、本実施例では、水張り箇所をRPV内部と最小限にしているため、PCV内部を冠水する場合と比べて、補修する箇所を最小限とすることで、作業の効率化が図れる。また、仮にPCV内部を冠水しようとして、冠水できなかった場合と比べて、汚染水による放射性物質の汚染箇所を最小限にとどめることができる。
【0032】
ここで、止水または漏洩水を最小限にできた場合には、燃料デブリの冷却を継続させるために冷却水を強制的に循環させる必要がある。循環には図示をしないが再循環出口ノズルから冷却水を排出して、給水系配管より冷却水を注入する循環ラインを使い冷却を実施する。または、再循環出口ノズルが使用できない場合にあは使用可能なラインで冷却水を循環させる。
【0033】
RPV内の水張りが完了したら、
図9に示すように、PCVの上蓋開放前にPCV上蓋内面の除染を高圧水を噴射する除染装置40にて実施する。除染後に
図10に示すように、別途設けたクレーン41により、PCV上部に設けられた、シールドプラグを取り外し、続いて、PCVの上蓋を取り外す。図示はしないが、RPVの上蓋を取外す前にもRPV上蓋の除染を高圧水を噴射する除染装置40にて実施する。RPVの上蓋を開放しても、RPV内部には水が張られているため、放射性ダストの飛散を防止し、さらに、遮蔽効果を有する。
【0034】
その後、
図11のように原子炉ウェル42に水張りをしても良い。PCV3と原子炉ウェル42の接続部にき裂がある場合にはき裂を補修することで水張りをする。その後、RPV内の蒸気乾燥器、気水分離器を高圧水を噴射する除染装置40にて除染して、その後取り外す。原子炉内に円環状に配置された炉心スプレイライン28、スパージャノズル29も取り外しても良い。
【0035】
その後、
図12に示すように燃料デブリ26を切削するための切削装置43をRPV内へ設置する。例えば、高圧水を用いた切削装置を採用することが可能である。これ以外にもレーザ切断装置を用いても良い。また、高速の水噴流に研磨材を添加したアブレシブウォータージェット(AWJ)を用いて切断をしてもよい。アブレシブ材としてはB4Cを用いることで燃料デブリの臨界を防ぎながら切断が可能となる。本実施例では、非接触による切断装置を用いることを特徴としている。これは、回転切削の場合には、切削物の噛みこみの問題などがあるからである。
【0036】
切削装置43の設置が終ったら、
図13のように燃料デブリを破砕する。なお、切削装置は上部から遠隔操作可能なように構成されている。次に切削された燃料デブリ44を燃料デブリ把持具45を用いて掴み取り、別途設けた燃料デブリ収納容器46へ回収する(
図14)。なお、本実施例においては把持具45を用いて燃料デブリを取り出したが、ポンプを利用した吸引回収装置で回収することも可能である。RPV内の上部に残っている燃料デブリの取り出しが完了したら次のステップへ進む。
【0037】
次に、RPV内に遮蔽装置47を設置する。遮蔽装置は水が無くでも燃料デブリからの放射線の遮蔽効果を有する十分な厚さを有するものを利用する。遮蔽装置47は、内部に水などの遮蔽材を入れられる構造としてある。すなわち、遮蔽材の出し入れにより遮蔽効果を変える機能を持たせてある。これは、その作業箇所での線量率により適切な遮蔽効果が得られる遮蔽材をいれることで、作業性が向上するためである。単純に遮蔽効果だけを考えると、重いほうが効果はあるがあるレベル(例えば0.1mSv/h以下)であれば遮蔽体としは充分であり重くし過ぎると作業性が悪くなり、また建屋などへの影響も出てくるため、その都度適正な量の遮蔽材を入れられるようにすることで、作業性が向上する。
【0038】
図15のように遮蔽装置47の設置が終了したら、その後、RPV内部の水を抜く、これはポンプ等を用いて水を抜くことが可能である。RPV内には遮蔽装置が設けられているため、水抜きをしても放射線の漏洩を防ぐことが可能である。その後、RPV炉底部に注入した止水材も取り除く。これは止水材回収装置64を用いて止水材を取り除く。ここで止水材を取り除くのは、燃料デブリに止水材が混入していると、廃棄物の物量が増えるためである。
【0039】
その後、
図16に示すように遮蔽装置47の底部に設けられたアクセス装置48を用いて、高圧水を用いた切削装置43で燃料デブリ26の破砕を行い、破砕後の燃料デブリを把持装置を用いて、燃料デブリ収納容器46へ回収する。図示しないが、遮蔽装置47には、燃料デブリ収納容器を入れるための開閉蓋を有している。また、アクセス装置48は遠隔操作にて操作が可能なように構成されている。
【0040】
RPV炉底部の燃料デブリの回収が終了したら、炉底部に貫通孔49を設ける(
図17)。この貫通孔49を通じて
図18に示すように、放射線を遮蔽するための遮蔽材50を注入する。さらにペデスタルに設けられている開口もコンクレート51,52を用いて塞ぐ。その後、水を注入し、RPV炉底部全体の取り外しを行う。
【0041】
RPVの炉底部全体を取り除いたら、さらに遮蔽装置を取り除く。図示はしなが、冷却水を循環させる再循環ラインを必要に応じて設ける。この状態を
図19に示す。その後、遮蔽材を取り除き、燃料デブリを切削装置43を用いて破砕して、破砕した燃料デブリ片を取り出し、燃料デブリ収納容器46へ回収し、デブリ燃料取り出しを行う。
【0042】
図21に燃料デブリ搬出後のPCVの概要図を示す。このような一連の作業により燃料デブリ取り出しが完了する。
【0043】
図22に燃料デブリの破砕方法について詳細を示す。従来ではAWJやレーザ利用による切断には、ある板厚を貫通して切断する手法を採用していた。本実施例での燃料デブリ搬出では溶融した燃料デブリの板厚が不明であり、ある塊の状態と考えられる。従来の切断手法を採用した場合、貫通できず切断片を切り離すことが出来ない可能性がある。そこで本実施例では、AWJでもアブレシブを使用しない高圧水切断でもレーザ切断でも何れにおいても、板厚貫通と言う考え方ではなく、表面からはつるという考え方を採用して確実に少しづつ表面に切れ目を入れ細かくしながら落としていくと言う考え方を採用する事とした。
【0044】
従来では
図22(a)のように切断対象物53に対して凡そ垂直に切断装置を用いて切断を行なっていたが、本実施例では、
図22(b)のように斜め方向から切断を行なうようにした。このようにすることで、例え破砕したい対象物の板厚が厚い場合でも、対象物の表面から順に確実に破砕することが可能となる。
【0045】
以上のように説明した本実施例によれは、沸騰水型原子炉の燃料デブリを短期間で搬出することが可能となる。RPVのみに水張りを行い、冠水とすることで工事期間の短縮が図れる。
【実施例2】
【0046】
本発明の、沸騰水型原子力プラントに適用した実施例2の原子力プラントにおける燃料デブリの搬出方法を、
図23から
図26を用いて説明する。なお、実施例1と同じ箇所の説明は省略する。
【0047】
本実施例2では、止水材注入の際に炉心スプレイライン28のスパージャノズル29が邪魔となり、止水材を収入することが困難になる場合が考えられる。そこで本実施例においては、炉心スプレイスパージャのT−ボックス30(T字状分岐)に穴を設けて止水材を注入する点を実施例1から変更した。その他の作業ステップは実施例1と同じであるため説明は省略する。
【0048】
図23には挿入装置54の詳細図を示す。挿入装置はシールボックス装置55及び止水材供給装置56を有する。シールボクス装置55内にはアクセス装置57の送り機構58が内部に設けられている。なお、シールボックス装置をCS系注水配管27へ接続した際に、放射性物質が漏洩しないように、シールボックス装置は密封されている。
【0049】
図24にアクセス装置の詳細を示す。アクセス装置の先端には、カメラ(図示せず)、把持具59、切断装置60(レーザ切断装置、高圧水切断装置)、止水材注入ライン63が設けられている。これら複数の装置を設けるようにしても、組み合わせて設けるようにしても、一つの装置を設けるようにしてもよい。また、先端部は角度か変えられるように角度調整機構61が設けられている。また、ローラー62を設けるようにしても良い。CS系注水配管27の内部をローラが転がることで、アクセス装置の挿入性が向上する。また、切断装置60が動かないように固定装置(図示せず)を設けてもよい。
【0050】
図25にアクセス装置を沸騰水型原子力プラントのCS系注水配管27へ挿入した場合のアクセス経路について示した。アクセス装置はCS系注水配管27へ送り機構58を用いて挿入され、送り機構58で送り込むことで、炉心スプレイスパージャに設けられたT−ボックス30にまでアクセス装置の先端部を挿入する。
【0051】
その後、
図26に示すように、アクセス装置の先端部に設けられた切断装置60を用いてT−ボックス30に貫通孔64を設ける。貫通孔64を通じて止水材を直接炉心に注入することが可能となる。
【0052】
以上のように説明した本実施例によれは、沸騰水型原子炉の燃料デブリを短期間で搬出することが可能となる。RPVにのみ水張りを行い、冠水とすることで工事期間の短縮が図れ、さらにスパージャノズルを介することなく炉心内部にまで止水材を注入することが可能となり、より確実に燃料取出しが可能となる。