【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて、本発明にかかるアップコンバージョン蛍光体及びその製造方法について詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1〕
ZnO、TiO
2、Yb
2O
3、Er
2O
3の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、各粉末の総重量を4gとして、Yb、Erの量をそれぞれ3mol%、1mol%と固定し、TiとZnのモル比(Ti/Zn=x)を0.25〜2の範囲で変化させた。
上記混合後、乾燥し、乳棒で粉砕し、混合粉末を得た。さらに、得られた混合粉末を空気雰囲気中、1200℃で4時間加熱保持し、実施例1にかかる各試料を得た。
【0036】
〔実施例2〕
ZnO、SiO
2、Yb
2O
3、Er
2O
3の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、モル比で、Zn:Si:Er:Yb=1:(0.5〜2):0.06:0.09とした。
上記混合後、完全に乾燥した後、アルミナボートに入れ、空気雰囲気中、1200〜1350℃で4時間焼成し、実施例2にかかる各試料を得た。
【0037】
〔実施例3〕
ZnO、SiO
2、Yb
2O
3、Er
2O
3の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、モル比で、Zn:Si=1:0.5とし、Yb及びErの添加量については、YbもしくはErのいずれかのモル量を変化させて混合を行うようにした。
具体的には、YbをEr:Yb=0.03:0.03〜0.105の範囲で変化させ、又はErをEr:Yb=0.005〜0.025:0.06の範囲で変化させて混合を行った。
上記混合後、完全に乾燥した後、アルミナボートに入れ、空気雰囲気中、1200〜1350℃で4時間焼成し、実施例3にかかる各試料を得た。
【0038】
〔実施例4〕
ZnOに代えて、MCO
3(M=Mg,Ca,BaもしくはSr)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4にかかる各試料を得た。
その際、混合比としては、モル比で、M:Si:Er:Yb=2:1:0.03:0.09とした。また、焼成温度は1300℃に固定した。
【0039】
〔性能評価及び結果〕
得られた各試料について、XRDでの結晶相同定を行った。また、近赤外線レーザー(980mm)を用いて発光スペクトル測定を行い、さらに必要に応じて、その発光性を目視にて観察した。具体的には以下のとおりである。
【0040】
<実施例1について>
(1)Ti/Zn比を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。結果を
図1に示す。なお、
図1において、「Z2T1」はZn:Ti(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1T2」はZn:Ti(モル比)が1:2であることを意味する。また、RE
2Ti
2O
7における「RE」は、Yb又はErである(両者のピークが区別できないため、一体的に表記した)。
(2)Ti/Zn比を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。結果を
図2に示す。なお、
図2において、「Z2T1」はZn:Ti(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1T2」はZn:Ti(モル比)が1:2であることを意味する。
(3)Ti/Zn=1:1で作製した試料について発光スペクトル測定を行うとともに、従来のアップコンバージョン蛍光体(Y
2O
3:Er
3+,Yb
3+,Li
+,Zn
2+)について発光スペクトル測定を行って、両者を対比した。結果を
図3に示す。なお、
図3において、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味する。
(4)Ti/Zn比(=x)を種々変えて作製した各試料について、XRDにより複合酸化物の相変化との関係を調べた。結果を
図4に示す。
(5)Ti/Zn比(=x)を種々変えて作製した各試料について、近赤外線レーザーを用いた発光スペクトル測定により発光強度との関係を調べた。結果を
図5に示す。
【0041】
<実施例2について>
(1)Si/Zn比を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。焼成温度は1300℃で固定した。結果を
図6に示す。なお、
図6において、「Z2S1」はZn:Si(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1S1」はZn:Si(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1S2」はZn:Si(モル比)が1:2であることを意味する。
(2)Si/Zn比を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。焼成温度は1200℃で固定した。結果を
図7に示す。なお、
図7において、「Z2S1」はZn:Si(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1S1」はZn:Si(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1S2」はZn:Si(モル比)が1:2であることを意味する。
(3)焼成温度を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を
図8に示す。
(4)焼成温度を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を
図9に示す。
(5)焼成温度を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を
図10に示す。
【0042】
<実施例3について>
Er:Ybを種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。焼成温度は1300℃で固定した。結果を
図11(Ybの添加量を変化させた場合)および
図12(Erの添加量を変化させた場合)に示す。なお、
図11において、横軸のXは、Er:Yb=1.5:XとしたときのXの値である。また、
図11では、Yb無添加、すなわち、X=0のデータも含めて表記している。
図12はEr:Yb=(0.5〜2.5):6の発光スペクトルである。
【0043】
<実施例4について>
(1)種々のM化合物を用いて作製した各試料についてXRDを測定した。結果を
図13に示す。
(2)各試料に近赤外線レーザー(980mm)を照射し、その発光性を目視にて観察したところ、実施例2の試料(Znを使用)よりも発光強度が劣るものの、いずれの試料においてもアップコンバージョン発光がみられた。
【0044】
〔考察〕
上記結果の考察に当たり、まず、上記各試料におけるアップコンバージョンメカニズムについて述べておく。
すなわち、上記各実施例では感光成分としてEr、活性化成分としてYbを用いたが、この場合のアップコンバージョンメカニズムは
図14に示すとおりである。
Yb
3+から、Er
3+への2段階の励起が起こることでアップコンバージョン発光が可能となる。544nmや557nmの緑色発光は電子が二段階励起した準位から基底準位へ緩和する際に放出され、660nmの赤色発光は励起された電子が若干下位の準位に緩和され、そこからさらに励起され、これが緩和される際に放出されるものである。これらの色の割合によって緑〜橙色の発光となる。
【0045】
<実施例1について>
(1)
図1に示す結果から、「Z1T1」及び「Z1T2」ではZn
2TiO
4相及びRE
2Ti
2O
7相の他にTiO
2相の共存が認められるのに対し、「Z2T1」ではTiO
2相が共存しないことが分かった。
(2)
図2に示す結果から、「Z1T1」及び「Z1T2」(特に「Z1T1」)の方が、「Z2T1」よりもアップコンバージョン発光強度が高いことが分かった。
(3)
図3に示す結果から、本発明のアップコンバージョン蛍光体によれば、従来のアップコンバージョン蛍光体よりも優れた発光性が発揮されることが分かった。
(4)
図4に示す結果から、x(=Ti/Zn)が0.75を越えたあたりからTiO
2の共存が生じることが分かった。
(5)
図5に示す結果から、x(=Ti/Zn)が0.75を越えたあたりから急激に発光強度が増加し、xが1.25を越えたあたりから発光強度が低下する傾向となること(x=0.8〜1.2において優れた発光が見られたこと)が分かった。
図1〜4とも併せ考察すれば、TiO
2相が共存することでアップコンバージョン発光強度が向上すること、但し、TiO
2相が多過ぎるとアップコンバージョン発光を阻害することが分かる。
【0046】
<実施例2について>
(1)
図6に示す結果から、「Z1S1」及び「Z1S2」ではZn
2SiO
4相の他にSiO
2相の共存が認められるのに対し、「Z2S1」ではSiO
2相が共存しないことが分かった。
(2)
図7に示す結果から、Znの割合が多いほうがアップコンバージョン発光強度が高いことが分かった(発光強度:「Z2S1」>「Z1S1」>「Z1S2」)。
(3)
図8に示す結果から、焼成温度1200〜1350℃の範囲で、Zn
2SiO
4が生成していることが確認できた。
(4)
図9に示す結果から、焼成温度が1200〜1350℃においてアップコンバージョン発光が起こることが確認できた。焼成温度が1250〜1300℃において特に発光強度が高いものが得られることが分かった。
(5)
図10に示す結果から、
図9と同様に、焼成温度が1200〜1350℃においてアップコンバージョン発光が起こること、及び、焼成温度が1250〜1300℃において特に発光強度が高いものが得られることが分かった。
【0047】
<実施例3について>
図11に示す結果から、Ybの添加量が増えるに従い発光強度が増す傾向が見られた。但し、Ybの添加量が多過ぎると発光強度が低下することも分かった。
図12に示す結果から、Erの添加量が増えるに従い発光強度が増す傾向が見られた。但し、Erの添加量が多過ぎると発光強度が低下することも分かった。
【0048】
<実施例4について>
(1)
図13に示す結果から、各M化合物を用いた場合に如何なる相が形成されるのかが確認できた。
(2)発光性の目視観察により、M化合物を用いても、アップコンバージョン発光を生起させ得ることが確認できた。