特許第6129649号(P6129649)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6129649アップコンバージョン蛍光体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129649
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】アップコンバージョン蛍光体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/67 20060101AFI20170508BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C09K11/67CPB
   C09K11/08 B
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-118000(P2013-118000)
(22)【出願日】2013年6月4日
(65)【公開番号】特開2014-234479(P2014-234479A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年5月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】516147545
【氏名又は名称】株式会社GBRY
(74)【代理人】
【識別番号】100076406
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 勝徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 裕彦
【審査官】 仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0000719(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0000698(US,A1)
【文献】 特開2010−155958(JP,A)
【文献】 特開2008−189492(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0116272(US,A1)
【文献】 欧州特許出願公開第02549559(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/113195(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102714277(CN,A)
【文献】 特表2013−521634(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02562472(EP,A1)
【文献】 国際公開第2011/130925(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第102753886(CN,A)
【文献】 特表2013−525837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/67
C09K 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
母体結晶に、感光成分としての第1の希土類金属及び活性化成分としての第2の希土類金属を含むアップコンバージョン蛍光体であって、
前記第1の希土類金属がYbであり、前記第2の希土類金属がEr、Tm又はPrであり、
前記母体結晶が、2価金属としてのZnと4価金属としてのTiとの複合酸化物であって、かつ、TiO2相を含むものであ
ことを特徴とする、アップコンバージョン蛍光体。
【請求項2】
前記第1の希土類金属がYbであり、前記第2の希土類金属がErである、請求項1に記載のアップコンバージョン蛍光体。
【請求項3】
Zn化合物、Ti化合物、Er化合物及びYb化合物の混合物であって、Zn化合物とTi化合物の混合モル比がZn:Ti=1:1.0〜2.0である混合物を焼成する、アップコンバージョン蛍光体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、励起光よりエネルギーの高い光を放出させることのできるアップコンバージョン蛍光体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アップコンバージョン蛍光体は、励起光よりエネルギーの高い光を放射させることができるものである。
アップコンバージョン蛍光体では、エネルギーの低い光源を利用できる点で、様々な分野において応用が期待されるものであるが、蛍光体は、励起光よりエネルギーの低い光を放射する(ダウンコンバージョン)のが通常であり、アップコンバージョン現象を起こさせるためには、励起状態吸収、多光子吸収、エネルギー移動などの関与を要する。
そのため、様々な材料が検討されているとともに、発光効率を高めるべく種々の検討・提案が行われている。
【0003】
アップコンバージョン蛍光体の母体結晶としては、従来、例えば、希土類酸化物、フッ化物、ケイ酸塩、チタン酸塩、ナノ粒子、ガラスなどが用いられてきた。
【0004】
具体的には、希土類酸化物を用いた例として、(R1-x,Erx23(RはY,La,Gd及びLuのうちの少なくとも1種。xはモル量で0.001≦x≦0.20。)の組成式で表され、500nm〜2000nmの範囲内の波長の光によりアップコンバージョン発光する蛍光体微粒子(特許文献1参照)や、Y23:Eu3+,Yb3+からの可視アップコンバージョン発光についての報告(非特許文献1参照)などがある。
フッ化物を用いた例として、広い濃度範囲を有するYb3+を含むEu3+−Yb3+:NaYF4のアップコンバージョン特性についての報告(非特許文献2参照)などがある。
ケイ酸塩のナノ結晶を用いた例として、ナノ結晶Y2Si27:Er3+及びY2Si27:Yb3+,Er3+におけるEr3+からのアップコンバージョン蛍光についての報告(非特許文献3参照)などがある。
ガラスを用いた例として、容器を用いない方法で作製したEr3+/Yb3+添加チタネイトガラスにおける赤外から可視光へのアップコンバージョン蛍光についての報告(非特許文献4参照)などがある。
ナノ粒子を用いた例として、液体中のターゲット(アップコンバージョン特性を有する蛍光材料からなる)にレーザー光を照射してアップコンバージョンナノ粒子を製造する技術(特許文献2参照)や、コロイド状BaYF5ナノ結晶:Tm3+、Yb3+における近赤外からの青色アップコンバージョンについての報告(非特許文献5)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−292599号公報
【特許文献2】特開2013−14651号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】H. Wang et. al., J. Phys. Chem. C, 2008, 112 (42), pp 16651-16654.
【非特許文献2】B.S. Cao et. al., J. Luminescence, 2013, 135 (3), pp 128-132.
【非特許文献3】J. Sokolnicki,Materials Chemistry and Physics, 2011, 131 (1-2), pp 306-312.
【非特許文献4】X. Pan et. al., J. Luminescence, 2012, 132, pp 1025-1029.
【非特許文献5】F. Vetrone et. al., Chem. Mater., 2009, 21 (9), pp 1847-1851.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のアップコンバージョン蛍光体は、発光特性が未だ不十分であったり、フッ化物など好ましくない材料を用いるものであったりしたため、従来とは異なる材料で発光特性に優れたアップコンバージョン蛍光体を提供することが求められるところである。
【0008】
そこで、本発明は、発光特性に優れた新規なアップコンバージョン蛍光体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、その結果、母体結晶が、特定の2価金属と、特定の4価金属の複合酸化物である場合に、それらの単独の酸化物を母体結晶とした場合には得られない優れた発光性能を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明にかかるアップコンバージョン蛍光体は、母体結晶中に、感光成分としての第1の希土類金属及び活性化成分としての第2の希土類金属を含むアップコンバージョン蛍光体であって、前記第1の希土類金属がYbであり、前記第2の希土類金属がEr、Tm又はPrであり、前記母体結晶が、2価金属としてのZnと4価金属としてのTiとの複合酸化物であって、かつ、TiO2相を含むものであることを特徴とする。
【0011】
本発明にかかるアップコンバージョン蛍光体の製造方法は、Zn化合物、Ti化合物、Er化合物であって、Zn化合物とTi化合物の混合モル比がZn:Ti=1:1.0〜2.0である混合物を焼成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明のアップコンバージョン蛍光体は優れた蛍光特性を発揮する。
また、本発明のアップコンバージョン蛍光体の製造方法は、蛍光特性に優れたアップコンバージョン蛍光体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1においてTi/Zn比を種々変えて測定したXRDである。
図2】実施例1においてTi/Zn比を種々変えて測定した発光スペクトルである。
図3】実施例1の蛍光体と従来の蛍光体を対比するためにこれらの発光スペクトルを併記したグラフである。
図4】実施例1においてx(=Ti/Zn)と複合酸化物の相変化との関係を示すグラフである。
図5】実施例1においてx(=Ti/Zn)と発光強度との関係を示すグラフである。
図6】実施例2においてSi/Zn比を種々変えて測定したXRDである。
図7】実施例2においてSi/Zn比を種々変えて測定した発光スペクトルである。
図8】実施例2において焼成温度を種々変えて測定したXRDである。
図9】実施例2において焼成温度を種々変えて測定した発光スペクトルである。
図10】実施例2において焼成温度と発光強度との関係を示すグラフである。
図11】実施例3においてEr/Yb比を種々変えた場合の発光強度の変化を表したグラフである。
図12】実施例3においてEr/Yb比を種々変えた場合の発光強度の変化を表したグラフである。
図13】実施例4において種々のM化合物を用いて測定したXRDである。
図14】Er/Ybアップコンバージョンメカニズムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明にかかるアップコンバージョン蛍光体及びその製造方法について詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
【0015】
〔母体結晶〕
本発明のアップコンバージョン蛍光体は特定の複合酸化物を母体結晶として用いるものである。
【0016】
具体的には、本発明における母体結晶は、Zn、Mg、Ca、Ba及びSrから選ばれる2価金属と、Ti、Si及びGeから選ばれる4価金属との複合酸化物である。
前記2価金属としては、Znである場合において、特に優れた蛍光特性が発揮される。
【0017】
〔第1の希土類金属〕
第1の希土類金属は、感光成分としてアップコンバージョン蛍光体に含有されるものである。
ここで、感光成分は、長波長域の光を吸収することで電子が励起し、その際に生じるエネルギーを直ちに活性化成分に転移させるものである。
【0018】
このような感光成分として機能する第1の希土類金属としては、例えば、Ybなどが挙げられる。
【0019】
〔第2の希土類金属〕
第2の希土類金属は、活性化成分としてアップコンバージョン蛍光体に含有されるものである。
ここで、活性化成分は、感光成分から転移したエネルギーにより、電子が多段階励起されるもので、これが励起状態から基底状態に復する際に、高エネルギーの発光をするものである。
【0020】
このような活性化成分として機能する第2の希土類金属としては、例えば、Er、Tm、Prなどが挙げられる。
【0021】
〔アップコンバージョン蛍光体〕
本発明のアップコンバージョン蛍光体では、母体結晶が、上記所定の2価金属と、上記所定の4価金属との複合酸化物であることを特徴とし、かかる複合酸化物を含有することで、各酸化物を単独で含有する場合には得られない優れた作用効果を発揮するものである。
【0022】
さらに、アップコンバージョン蛍光体にはいくつかの相が存在しており、これらの各相が発光性能に影響を与えることが分かった。一概には言えないが、例を示すと以下のとおりである。
【0023】
すなわち、例えば、ZnとTiの複合酸化物を母体結晶とする場合、Zn2TiO4相及びTiO2相が共存する場合に、優れた発光性能を発揮する。
【0024】
また、例えば、ZnとSiの複合酸化物を母体結晶とする場合、Zn2SiO4相を含む一方で、SiO2相が実質的に含まれない場合に、優れた発光性能を発揮する。
【0025】
〔アップコンバージョン蛍光体の製造方法〕
本発明のアップコンバージョン蛍光体は、上記各成分を含有する化合物の混合物を焼成することによって製造することができる。
特に限定するわけではないが、例えば、以下のようにして製造することが好ましい。
【0026】
具体的には、まず、上記第1の希土類金属、第2の希土類金属、2価金属、4価金属を含む各化合物(例えば、酸化物や炭酸塩など)を混合する。
混合方法は、乾式混合、湿式混合のいずれでも良く、特に限定されないが、エタノールなどを加えて行う湿式混合が好適に挙げられる。なお、湿式混合の場合は、混合後、適宜乾燥を行う。
【0027】
各成分の混合割合については、特に限定するわけではないが、例えば、以下の割合が好ましい。
【0028】
すなわち、第1の希土類金属の混合割合は、例えば、(Zn若しくはM)1モルに対して、第1の希土類金属0.105モル以下の範囲で適宜選択することが好ましい。
特に、ZnとTiの複合酸化物を母体結晶とする場合は、モル比で、Zn:第1の希土類金属=1:0.06であることが好ましく、また、ZnとSiの複合酸化物を母体結晶とする場合は、モル比で、Zn:第1の希土類金属=1:0.09であることが好ましい。
次に、第2の希土類金属の混合割合は、例えば、ZnとTiの複合酸化物を母体結晶とする場合は、モル比で、Zn:第2の希土類金属=1:0.01〜0.05の範囲が好ましく、Zn:第2の希土類金属=1:0.03であることがより好ましい。また、ZnとSiの複合酸化物を母体結晶とする場合は、モル比で、Zn:第2の希土類金属=1:0.015であることが好ましい。
【0029】
また、例えば、ZnとTiの複合酸化物を母体結晶とする場合、Zn化合物とTi化合物の混合割合が、モル比で、Zn:Ti=1:0.25〜2の範囲が好ましく、1:0.8〜1.2の範囲がより好ましい。これらの範囲では、Zn2TiO4相及びTiO2相が共存した母体結晶を形成させることができ、上述のように、発光性能に優れたものとなる。
【0030】
さらに、例えば、ZnとSiの複合酸化物を母体結晶とする場合、Zn化合物とSi化合物の混合割合が、モル比で、Zn:Si=1:0.5〜2の範囲が好ましく、1:0.5がより好ましい。上述のとおり、Zn2SiO4相を含む一方で、SiO2相が実質的に含まれない場合に、優れた発光性能を発揮するが、前記混合割合において、前記好ましい相の存在割合となる。Siに代えて、同族元素であるGeを用いた場合も同様の傾向となることが推測される。
【0031】
次に、上記のようにして得られる混合物を焼成する。焼成は、空気雰囲気中で1200〜1350℃、4時間程度行うのが好ましい。
【0032】
焼成温度としては、得ようとする複合酸化物の種類によっても異なり、特に限定されないが、例えば、Ti系の複合酸化物を得ようとする場合には、1200℃以上であることが好ましい。ただし、焼成温度が高過ぎると蛍光特性が低下する傾向があるため、1350℃未満であることが好ましい。
【0033】
また、例えば、Si系やGe系の複合酸化物を得ようとする場合には、1200℃以上であることが好ましい。一般的には焼成温度が高いほど蛍光特性が向上する傾向にあるが、高過ぎると蛍光特性の向上効果は殆ど見られなくなり、他方で複合化合物の溶融を招くおそれがあるので、1350℃未満であることが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を用いて、本発明にかかるアップコンバージョン蛍光体及びその製造方法について詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
〔実施例1〕
ZnO、TiO2、Yb23、Er23の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、各粉末の総重量を4gとして、Yb、Erの量をそれぞれ3mol%、1mol%と固定し、TiとZnのモル比(Ti/Zn=x)を0.25〜2の範囲で変化させた。
上記混合後、乾燥し、乳棒で粉砕し、混合粉末を得た。さらに、得られた混合粉末を空気雰囲気中、1200℃で4時間加熱保持し、実施例1にかかる各試料を得た。
【0036】
〔実施例2〕
ZnO、SiO2、Yb23、Er23の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、モル比で、Zn:Si:Er:Yb=1:(0.5〜2):0.06:0.09とした。
上記混合後、完全に乾燥した後、アルミナボートに入れ、空気雰囲気中、1200〜1350℃で4時間焼成し、実施例2にかかる各試料を得た。
【0037】
〔実施例3〕
ZnO、SiO2、Yb23、Er23の各粉末を用い、乳鉢内で混合した後、エタノールを加えてさらに混合した。
混合比としては、モル比で、Zn:Si=1:0.5とし、Yb及びErの添加量については、YbもしくはErのいずれかのモル量を変化させて混合を行うようにした。
具体的には、YbをEr:Yb=0.03:0.03〜0.105の範囲で変化させ、又はErをEr:Yb=0.005〜0.025:0.06の範囲で変化させて混合を行った。
上記混合後、完全に乾燥した後、アルミナボートに入れ、空気雰囲気中、1200〜1350℃で4時間焼成し、実施例3にかかる各試料を得た。
【0038】
〔実施例4〕
ZnOに代えて、MCO3(M=Mg,Ca,BaもしくはSr)を用いたこと以外は実施例2と同様にして、実施例4にかかる各試料を得た。
その際、混合比としては、モル比で、M:Si:Er:Yb=2:1:0.03:0.09とした。また、焼成温度は1300℃に固定した。
【0039】
〔性能評価及び結果〕
得られた各試料について、XRDでの結晶相同定を行った。また、近赤外線レーザー(980mm)を用いて発光スペクトル測定を行い、さらに必要に応じて、その発光性を目視にて観察した。具体的には以下のとおりである。
【0040】
<実施例1について>
(1)Ti/Zn比を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。結果を図1に示す。なお、図1において、「Z2T1」はZn:Ti(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1T2」はZn:Ti(モル比)が1:2であることを意味する。また、RE2Ti27における「RE」は、Yb又はErである(両者のピークが区別できないため、一体的に表記した)。
(2)Ti/Zn比を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。結果を図2に示す。なお、図2において、「Z2T1」はZn:Ti(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1T2」はZn:Ti(モル比)が1:2であることを意味する。
(3)Ti/Zn=1:1で作製した試料について発光スペクトル測定を行うとともに、従来のアップコンバージョン蛍光体(Y23:Er3+,Yb3+,Li+,Zn2+)について発光スペクトル測定を行って、両者を対比した。結果を図3に示す。なお、図3において、「Z1T1」はZn:Ti(モル比)が1:1であることを意味する。
(4)Ti/Zn比(=x)を種々変えて作製した各試料について、XRDにより複合酸化物の相変化との関係を調べた。結果を図4に示す。
(5)Ti/Zn比(=x)を種々変えて作製した各試料について、近赤外線レーザーを用いた発光スペクトル測定により発光強度との関係を調べた。結果を図5に示す。
【0041】
<実施例2について>
(1)Si/Zn比を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。焼成温度は1300℃で固定した。結果を図6に示す。なお、図6において、「Z2S1」はZn:Si(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1S1」はZn:Si(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1S2」はZn:Si(モル比)が1:2であることを意味する。
(2)Si/Zn比を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。焼成温度は1200℃で固定した。結果を図7に示す。なお、図7において、「Z2S1」はZn:Si(モル比)が1:0.5であることを意味し、「Z1S1」はZn:Si(モル比)が1:1であることを意味し、「Z1S2」はZn:Si(モル比)が1:2であることを意味する。
(3)焼成温度を種々変えて作製した各試料についてXRD測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を図8に示す。
(4)焼成温度を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を図9に示す。
(5)焼成温度を種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。Zn:Siは2:1に固定した。結果を図10に示す。
【0042】
<実施例3について>
Er:Ybを種々変えて作製した各試料について発光スペクトル測定を行った。焼成温度は1300℃で固定した。結果を図11(Ybの添加量を変化させた場合)および図12(Erの添加量を変化させた場合)に示す。なお、図11において、横軸のXは、Er:Yb=1.5:XとしたときのXの値である。また、図11では、Yb無添加、すなわち、X=0のデータも含めて表記している。図12はEr:Yb=(0.5〜2.5):6の発光スペクトルである。
【0043】
<実施例4について>
(1)種々のM化合物を用いて作製した各試料についてXRDを測定した。結果を図13に示す。
(2)各試料に近赤外線レーザー(980mm)を照射し、その発光性を目視にて観察したところ、実施例2の試料(Znを使用)よりも発光強度が劣るものの、いずれの試料においてもアップコンバージョン発光がみられた。
【0044】
〔考察〕
上記結果の考察に当たり、まず、上記各試料におけるアップコンバージョンメカニズムについて述べておく。
すなわち、上記各実施例では感光成分としてEr、活性化成分としてYbを用いたが、この場合のアップコンバージョンメカニズムは図14に示すとおりである。
Yb3+から、Er3+への2段階の励起が起こることでアップコンバージョン発光が可能となる。544nmや557nmの緑色発光は電子が二段階励起した準位から基底準位へ緩和する際に放出され、660nmの赤色発光は励起された電子が若干下位の準位に緩和され、そこからさらに励起され、これが緩和される際に放出されるものである。これらの色の割合によって緑〜橙色の発光となる。
【0045】
<実施例1について>
(1)図1に示す結果から、「Z1T1」及び「Z1T2」ではZn2TiO4相及びRE2Ti27相の他にTiO2相の共存が認められるのに対し、「Z2T1」ではTiO2相が共存しないことが分かった。
(2)図2に示す結果から、「Z1T1」及び「Z1T2」(特に「Z1T1」)の方が、「Z2T1」よりもアップコンバージョン発光強度が高いことが分かった。
(3)図3に示す結果から、本発明のアップコンバージョン蛍光体によれば、従来のアップコンバージョン蛍光体よりも優れた発光性が発揮されることが分かった。
(4)図4に示す結果から、x(=Ti/Zn)が0.75を越えたあたりからTiO2の共存が生じることが分かった。
(5)図5に示す結果から、x(=Ti/Zn)が0.75を越えたあたりから急激に発光強度が増加し、xが1.25を越えたあたりから発光強度が低下する傾向となること(x=0.8〜1.2において優れた発光が見られたこと)が分かった。図1〜4とも併せ考察すれば、TiO2相が共存することでアップコンバージョン発光強度が向上すること、但し、TiO2相が多過ぎるとアップコンバージョン発光を阻害することが分かる。
【0046】
<実施例2について>
(1)図6に示す結果から、「Z1S1」及び「Z1S2」ではZn2SiO4相の他にSiO2相の共存が認められるのに対し、「Z2S1」ではSiO2相が共存しないことが分かった。
(2)図7に示す結果から、Znの割合が多いほうがアップコンバージョン発光強度が高いことが分かった(発光強度:「Z2S1」>「Z1S1」>「Z1S2」)。
(3)図8に示す結果から、焼成温度1200〜1350℃の範囲で、Zn2SiO4が生成していることが確認できた。
(4)図9に示す結果から、焼成温度が1200〜1350℃においてアップコンバージョン発光が起こることが確認できた。焼成温度が1250〜1300℃において特に発光強度が高いものが得られることが分かった。
(5)図10に示す結果から、図9と同様に、焼成温度が1200〜1350℃においてアップコンバージョン発光が起こること、及び、焼成温度が1250〜1300℃において特に発光強度が高いものが得られることが分かった。
【0047】
<実施例3について>
図11に示す結果から、Ybの添加量が増えるに従い発光強度が増す傾向が見られた。但し、Ybの添加量が多過ぎると発光強度が低下することも分かった。図12に示す結果から、Erの添加量が増えるに従い発光強度が増す傾向が見られた。但し、Erの添加量が多過ぎると発光強度が低下することも分かった。
【0048】
<実施例4について>
(1)図13に示す結果から、各M化合物を用いた場合に如何なる相が形成されるのかが確認できた。
(2)発光性の目視観察により、M化合物を用いても、アップコンバージョン発光を生起させ得ることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明のアップコンバージョン蛍光体は、カラーディスプレイ、赤外線センサ、光学記録データ、レーザー材料など、従来の蛍光体と同様の用途に適用することができる。特に、低エネルギーの励起光源を利用することができるので、従来のダウンコンバージョン蛍光体に代替し、省エネルギー、安定性に優れた蛍光体として好適である。本発明のアップコンバージョン蛍光体の製造方法は、前記の如き優れたアップコンバージョン蛍光体を製造する方法として好適に利用することができる。
特に、本発明のアップコンバージョン蛍光体は、ZnやTiなどを原料とし、固相法で製造できるので、フッ化系ガラスやナノ結晶を用いて溶液法で製造される従来品よりも、原料コスト、製造コストを低く抑えることができるという優位性もある。
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