【課題を解決するための手段】
【0006】
発明の要約
本発明の一の実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。薬剤は、単回投与が2時間を超える時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0007】
本発明の他の一の実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。薬剤は、患者の脳脊髄液のターンオーバー時間の少なくとも50%の時間を費やすような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0008】
本発明のもう一つの実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。患者の脳脊髄液のターンオーバー時間が評価される。ターンオーバー時間に基づいた、脳の側脳室を経由する薬剤の送達速度および総送達時間が選択される。該総送達時間のための該選択された速度で薬剤を送達するためにポンプが設定される。
【0009】
本発明のさらにもう一つの実施形態により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。患者の脳脊髄液のターンオーバー時間が評価される。ターンオーバー時間に基づいた、脳の側脳室を経由して薬剤を送達するための、速度および総送達時間が選択される。該総送達時間のための該選択された速度で薬剤が患者に送達される。
【0010】
本発明の他の一の実施態様により、患者の脳に薬剤を送達する方法が提供される。
薬剤が、単回投与を、少なくとも患者の血清中に薬剤が検出されるまで継続するような投与の速度で、脳の側脳室を経由して患者に投与される。
【0011】
本発明の一の実施形態により、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者が治療される。酸性スフィンゴミエリナーゼが脳室内送達によって患者の脳へ、該脳中のスフィンゴミエリンレベルを減少するために十分な量で投与される。
【0012】
本発明の他の一の態様は、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者を治療するためのキットである。キットは酸性スフィンゴミエリナーゼ、および該酸性スフィンゴミエリナーゼを患者の脳室に送達するためのカテーテルを含む。
【0013】
本発明のさらにもう一つの態様は、A、BまたはD型ニーマン−ピック病の患者を治療するためのキットである。キットは酸性スフィンゴミエリナーゼおよび該酸性スフィンゴミエリナーゼを患者の脳室に送達するためのポンプを含む。
【0014】
本発明により、酵素の基質の蓄積をもたらす、酵素の欠損を原因とするリソソーム蓄積症に罹患している患者を治療できる。酵素は脳室内送達によって患者の脳に投与される。投与の速度は、単回投与が4時間を超える時間を費やすような投与の速度である。基質レベルは、それにより減少される。
【0015】
明細書に触れた当業者に明らかに理解されるであろうこれらのおよび他の実施形態は、薬剤を脳の到達が難しい部分に送達する方法という技術を提供する。
【0016】
図面の簡単な説明
図1は、スフィンゴミエリンから分析された脳の区分の略図を示す。S1は脳の前部およびS5は脳の後部である。
【0017】
図2は、rhASMの脳室内投与がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【0018】
図3は、rhASMの脳室内投与がASMKOの肝臓、脾臓、肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【0019】
図4は、脳室内注入後の脳内のhASM染色を示す
【0020】
図5は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOマウス脳中のSPMレベルを減少することを示す。
【0021】
図6は、6時間にわたるrhASMの脳室内注入がASMKOの肝臓、血清、および肺中のSPMレベルを減少することを示す。
【0022】
図7は、確認されたhASM変異体、およびそれらと疾患もしくは酵素活性との関係を示す。
【0023】
図8は、脳全体および脊髄に、脳脊髄液で覆われている脳室系を示す。
【0024】
発明の詳細な説明
発明者らは、ボーラス送達よりも遅い速度での患者への薬剤の脳室内送達が導入部位から脳の末梢部への薬剤の効果的な浸透を増大することを発見している。この方法で投与できる薬剤はいくらもあるが、特に診断剤、造影剤、麻酔剤、および治療剤を含む。この送達法は特に血液脳関門を越えることができない薬剤で有用である。
【0025】
出願人らは、脳室内ボーラス投与はあまり効果的でなく、一方、遅速性注入は非常に効果的であることを述べている。出願人らは、あらゆる特定の動作理論によって制約されることを望まないが、一方、遅速性注入が脳脊髄液(CSF)のターンオーバーによって効果的となると考えられている。文献中の評価および計算は多様であるが、一方、成人ヒト脳脊髄液は約4、5、6、7、または8時間以内にターンオーバーすると考えられている。ターンオーバー速度は個体の大きさおよび個体中の脳脊髄液の体積によって変化し得る。従って、例えば成人よりも少ない脳脊髄液を有する小児は、それゆえ、より短いターンオーバー時間を有する。本発明の遅速性注入は、CSFのターンオーバー時間とほぼ等しいか、またはそれを超える送達時間となるように定量化することができる。定量化は、固定された時間、例えば2、4、6、8、または10時間を超える時間にすることができ、または評価されるターンオーバー時間に対する割合、例えば50%、75%、100%、150%、200%、300%、または400%を超える時間に設定することができる。脳脊髄液は静脈血系に流入する。送達は、送達された薬剤が患者の血清中にて検出可能となるまでの時間、実施されることができる。一つにはまた、脊髄およびくも膜下腔のような他のCNS部位にて送達された薬剤を検出および/または計測することもできる。それらはまた、送達の終点としても使用できる。
【0026】
CSFは、成人においておよそ430から600ml/日または毎分およそ0.35から0.4の速度で分泌され、いかなる瞬間でも量は約80から150mlであり、全体の量は6から8時間ごとに置き換わる。幼児は毎分0.15mlで生成すると評価される。側脳室の脈絡叢が最大であり、CSFの大部分を生成する。液は、脳室間孔を経由して第3脳室に流れ、当該脳室の脈絡叢で形成された液により増大され、シルビウス中脳水道を経由して第4脳室に至る。CSFは第4脳室からマジャンディー孔、脊髄を囲むくも膜下腔に流れ;CSFは第4脳室からルシュカ孔、脳を囲むくも膜下腔に流れる。くも膜はくも膜下腔と並んでおり、くも膜絨毛は膜の一部である。くも膜絨毛はポンプのように動き、CFSを取り入れ、それを静脈循環に戻す。CSFはくも膜絨毛を経由して、血液中に再吸収される。
【0027】
本発明のボーラスよりも遅い送達はボーラスでは届かない脳の部分に薬剤を送達するという利点を有する。ボーラス送達された薬剤は導入部位に近接した上衣層中または柔組織中に蓄積する。対照的に、遅速性送達された薬剤は導入部位から柔組織の末端領域(脳の軸の前部から後部に渡る広範囲の送達;さらに、背部および腹部から上衣層への広範囲の送達)、第3脳室、シルビウス水道、第4脳室、ルシュカ孔、マジャンディー孔、脊髄、くも膜下腔、および血清に渡ることが発見されている。血清から、末梢器官へも到達できる。
【0028】
CSFはくも膜絨毛および頭蓋内血脈洞を経由して血管に流れ込み、それによって酵素を内臓へ送達する。ニーマン−ピック病の影響をしばしば受ける内臓は、肺、脾臓、腎臓、および肝臓である。遅速性脳室内注入は少なくともこれらの内臓において減少した基質の量を与える。
【0029】
脳、肺、脾臓、腎臓、および/または肝臓に蓄積した基質の減少は劇的である。10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%よりも大きい減少が得られる。得られる減少は患者−患者間、または同一患者の器官−器官間でさえも、均一である必要は無い。
【0030】
送達のための薬剤は、脳の治療および造影のために当該技術において周知なものならいずれも可能である。造影剤は放射性、X線非透過、蛍光性等が可能である。治療剤は神経系または他の脳疾患の治療のために有用であればいずれも可能である。麻酔薬は慢性または急性疼痛の治療のためのもの、例えば塩酸リドカインやモルヒネが可能である。治療剤の例は、リソソーム蓄積症において欠損する酵素を含む。他の使用可能な薬剤は、プラスミドおよびウイルスベクターのような核酸ベクター、siRNA、アンチセンスRNA等を含む。他の治療剤は、脳内のニューロンの興奮状態を増加または減少するものを含む。これらは、グルタミン酸、GABA、およびドーパミンのアゴニストまたはアンタゴニストを含む。特定の例は、サイクロセリン、カルボキシフェニルグリシン、グルタミン酸、ジゾシルピン、ケタミン、デキストロメトルファン、バクロフェン、ムシモール、ガバジン、サクロフェン、ハロペリドール、およびメタンスルホン酸を含む。追加の薬剤として使用できるものは、抗炎症剤、特にインドメタシンおよびシクロオキシゲナーゼ阻害剤のような非ステロイド性抗炎症剤である。
【0031】
核酸はいずれの所望のベクターでも送達できる。これらは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、およびプラスミドベクターを含む、ウイルス性または非ウイルス性ベクターを含む。典型的な型のウイルスは、HSV(単純ヘルペスウイルス)、AAV(アデノ随伴ウイルス)、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)、BIV(ウシ免疫不全ウイルス)、およびMLV(マウス白血病ウイルス)を含む。核酸は、ウイルス粒子中、リポソーム中、ナノ粒子中、およびポリマー錯体を含む、十分に効果的な送達レベルを提供するいずれの所望の形式によって投与できる。
【0032】
アデノウイルスは古典的な遺伝学および分子生物学(Hurwitz,M.S.,Adenoviruses Virology,第3版、 Fieldsら,eds.,Raven Press,New York,1996;Hitt,M.M.ら,Adenovirus Vectors, TheDevelopment of Human Gene Therapy、 Friedman,T.ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1999)での研究によって十分に明らかにされている、エンベロープ無しの、36kbのゲノムをもつ核DNAウイルスである。ウイルス遺伝子は、ウイルスタンパクの2種の一時的なクラスの産生を参照すると、初期(E1−E4と称する)および後期(L1−L5と称する)転写単位に分類される。これらの事象を区別するものは、ウイルスDNA複製である。ヒトアデノウイルスは、赤血球の血球凝集、発癌性、DNAおよびたんぱく質アミノ酸組成および相同性、ならびに抗原的関連性を含む特性を基に、多くの血清型(約47、適宜番号付けがされ、6個のグループ:A、B、C、D、EおよびF、に分類される)に分けられる。
【0033】
組み換えアデノウイルスベクターは、分裂および非分裂細胞指向性、最小限の病原可能性、ベクターストック調製のための高い力価のレプリカーゼ能、ならびに大きなインサートの保有の可能性(Berkner, K.L., Curr. Top. Micro. Immunol. 158:39−66, 1992; Jolly, D., Cancer Gene Therapy 1:51−64 1994)を含む、遺伝子送達ビヒクルとしての利用のためのいくつかの利点を有する。偽アデノウイルスベクター(PAVs)および部分的に欠失したアデノウイルス性(「DeAd」と呼ばれる)のような、様々なアデノウイルス遺伝子配列の欠失をもつアデノウイルスベクターが、受容細胞への核酸の送達のための適切なビヒクルを与える、アデノウイルスの望ましい特性を活用するように設計されている。
【0034】
特に、「弱い(gutless)アデノウイルス」またはミニ−アデノウイルスベクターとしても知られている偽アデノウイルスベクター(PAV)は、ベクターゲノムの複製およびパッケージに必要とされる最小のシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1個または複数の導入遺伝子を含むことのできるアデノウイルスのゲノムに由来するアデノウイルスベクターである(偽アデノウイルスベクター(PAV)およびPAVの産生方法を対象とし、出典明示により本明細書に組み込まれる米国特許第5,882,877号を参照。)。PAVは、遺伝子送達のための適切なビヒクルを与える、アデノウイルスの望ましい特性を活用するように設計されている。アデノウイルスベクターは一般的に、ウイルス成長に重要でない領域の欠失により最大8kbの大きさのインサートを保有可能であるが、最大保有能は、PAVを含む、大部分のウイルスコーディング配列の欠失を含有するアデノウイルスベクターの使用により達成することができる。Gregoryらの米国特許第5,882,877号;Kochanekら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:5731−5736,1996;Parksら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:13565−13570,1996;Lieberら,J.Virol.70:8944−8960,1996;Fisherら,Virology 217:11−22,1996;米国特許第5,670,488号;1996年10月24日公開のPCT公開番号 WO96/33280;1996年12月19日公開のPCT公開番号 WO96/40955;1997年7月19日公開のPCT公開番号 WO97/25446;1995年11月9日公開のPCT公開番号 WO95/29993;1997年1月3日公開のPCT公開番号 WO97/00326;Morralら,Hum.Gene Ther.10:2709−2716,1998を参照。
最大約36kbの外来核酸を収容できるこのようなPAVは、ベクターに対する宿主免疫応答の可能性または複製能のあるウイルスの産生を軽減する一方で、ベクターの保有能が最適化されるため有利である。PAVベクターは、複製起点を含む5’逆方向末端反復配列(ITR)および3’ITRヌクレオチド配列、およびPAVゲノムのパッケージに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含み、1以上の導入遺伝子を適切な調節エレメント、例えばプロモーター、エンハンサー等とともに収容することができる。
【0035】
他の、部分的に欠失したアデノウイルスベクターは、ウイルス複製に必要とされるアデノウイルス初期遺伝子の大部分がベクターから欠失しており、条件付プロモーター(Conditional promoters)の制御下で産生細胞の染色体内に位置するものである、一の部分的に欠失したアデノウイルス(「DeAd」と呼ばれる)ベクターを提供する。産生細胞中に存在する欠失可能なアデノウイルス遺伝子は、E1A/E1B、E2、E4(ORF6およびORF6/7のみが細胞中に存在する必要がある)、plXおよびplVa2を含んでもよい。E3もまたベクターから欠失されてよいが、それはベクター産生に必要ではないので、産生細胞から削除することもできる。
通常、主要後期プロモーター(MLP)の制御下にあるアデノウイルス後期遺伝子はベクター中に存在するが、MLPは条件付きプロモーターにより置換されてもよい。
【0036】
DeAdベクターおよび産生細胞株においての使用に好適な条件付プロモーターは、以下の特徴:細胞傷害性または細胞増殖抑制性アデノウイルス遺伝子が細胞に有害なレベルで発現されないような、非誘導状態における低い基礎的発現;ならびに十分な量のウイルス性たんぱく質がベクター複製およびアセンブリを支持するために産生されるような、誘導状態における高レベル発現:を有するものを含む。DeAdベクターおよび産生細胞株における使用に好適な好ましい条件付きプロモーターは、免疫抑制剤FK506およびラパマイシンに基づく二量体化(dimerizer)遺伝子制御系、エクジソン遺伝子制御系ならびにテトラサイクリン遺伝子制御系を含む。Abruzzeseら,Hum.GeneTher.1999 10:1499−507、本開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、に記載されているGeneSwitch(登録商標)技法(Valentis,Inc.,Woodlands,TX)もまた本発明に有用となり得る。部分的に欠失したアデノウイルス発現系はさらにWO99/57296、本開示が出典明示により本明細書に組み込まれる、に記載されている。
【0037】
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、4.6kbのゲノムサイズを有する一本鎖ヒトDNAパルボウイルスである。AAVゲノムは、2つの主要な遺伝子:repたんぱく質(Rep76,Rep68,Rep52、およびRep40)をコードするrep遺伝子、ならびにAAV複製、レスキュー(rescue)、転写および組込みをコードするcap遺伝子、ここで、capたんぱく質はAAVウイルス粒子を形成する:を含有する。
AAVの名前の由来は、AAVの増殖感染を可能にするのに、すなわち、宿主細胞においてそれ自身の複製を可能とするのに必須の遺伝子産物を供給するために、アデノウイルスまたは他のヘルパーウイルス(例えば、ヘルペスウイルス)に依存することによる。ヘルパーウイルスの不在において、AAVは、ヘルパーウイルス、通常アデノウイルスによる宿主細胞の重複感染によりそれがレスキューされるまで、プロウイルスとして宿主細胞の染色体に組み込まれる(Muzyczka,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−127,1992)。
【0038】
遺伝子導入ベクターとしてのAAVにおける興味は、その生態学でのいくつかの独自の特性の結果に起因する。AAVゲノムの両端は、ウイルス複製、レスキュー、パッケージングおよび組込みに必要とされるシス作用性ヌクレオチド配列を含む、逆方向末端反復配列(ITR)として知られているヌクレオチド配列である。トランス(trans)におけるrepたんぱく質により介在されるITRの組込み機能は、ヘルパーウイルスの不在において、AAVゲノムを、感染後に細胞の染色体に組み込むことを可能とする。本ウイルスのこの独自の性質は、それが興味のある遺伝子を含む組換えAAVの、細胞ゲノムへの組み込みを可能とすることから、遺伝子導入におけるAAVの使用に関連を有する。それゆえ、遺伝子導入の多数の目的に理想的な安定な遺伝子形質転換は、rAAVベクターの使用により達成され得る。さらに、AAVについての組込み部位は十分に確立されており、ヒトの19番染色体に局在している(Kotinら,Proc.Natl.Acad.Sci.87:2211−2215,1990)。組み込み部位のこの予測可能性は、AAV組み込みベクターの使用を制限でき、rAAVベクターの設計における遺伝子の除去が、rAAVベクターについて観察された改変された組込みパターンをもたらし得るものである、宿主遺伝子の活性化もしくは不活性化、またはコーディング配列の遮断を行い得るという、細胞ゲノムへのランダム挿入事象の危険を軽減する(Ponnazhaganら,Hum Gene Ther.8:275−284,1997)。
【0039】
遺伝子導入のためのAAVの使用には他の利点がある。AAVの宿主域は広い。さらに、レトロウイルスと異なり、AAVは静止細胞および分裂細胞の両方に感染できる。加えて、AAVはヒト疾患に関連しておらず、レトロウイルスに由来する遺伝子導入ベクターにより引き起こされる多数の問題を未然に防ぐ。
【0040】
組換えrAAVベクターの産生への標準的アプローチは、一連の細胞内事象:AAV ITR配列に隣接する興味のある導入遺伝子を含むrAAVベクターゲノムによる宿主細胞のトランスフェクション、トランスにおいて必要とされるAAV repおよびcapたんぱく質に関する遺伝子をコードするプラスミドによる宿主細胞のトランスフェクション、ならびにトランスにおいて必要とされる非AAVヘルパー機能を供給するための、ヘルパーウイルスによるトランスフェクションされた細胞の感染、の協調を必要としている(Muzyczka,N.,Curr.Top.Micro.Immunol.158:97−129,1992)。アデノウイルス(または他のヘルパーウイルス)たんぱく質はAAV rep遺伝子の転写を活性化し、rep蛋白質はそれからAAV cap遺伝子の転写を活性化する。capたんぱく質はそれからITR配列を利用して、rAAVゲノムをrAAVウイルス粒子中にパッケージ化する。それゆえ、パッケージ化の効率は、一部には、十分量の構造たんぱく質の入手可能性により、ならびにrAAVベクターゲノムにおいて必要とされる任意のシス作用性パッケージ配列の利便性により決定される。
【0041】
レトロウイルスベクターは遺伝子送達のための一般的手段である(Miller,Nature(1992)357:455−460)。広範な齧歯類、霊長類およびヒト体細胞中へ再配列していない単一コピーの遺伝子を送達するレトロウイルスベクターの能力により、細胞への遺伝子の導入に十分に適したレトロウイルスベクターが作製される。
【0042】
レトロウイルスは、ウイルスゲノムがRNAであるRNAウイルスである。宿主細胞がレトロウイルスに感染する場合、ゲノムRNAは、感染された細胞の染色体DNA中に非常に効果的に組み込まれるものであるDNA中間体に逆転写される。この組み込まれたDNA中間体をプロウイルスと言う。プロウイルスの転写および感染性ウイルスへのアセンブリは、適切なヘルパーウイルスの存在において、または汚染ヘルパーウイルスの同時産生を伴わずにキャプシド形成を可能とする適切な配列を含む細胞株において生じる。キャプシド形成に関する配列が適切なベクターとの共トランスフェクションによりもたらされるならば、ヘルパーウイルスは組換えレトロウイルスの産生に必要ではない。
【0043】
レトロウイルスゲノムおよびプロウイルスDNAは、2つの長い末端反復(LTR)配列に隣接する3つの遺伝子:gag、polおよびenvを有する。gag遺伝子は内部構造(マトリックス、キャプシドおよびヌクレオキャプシド)たんぱく質をコードし;pol遺伝子はRNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)をコードし、env遺伝子はウイルス性エンベロープ糖たんぱく質をコードする。5’および3’LTRは、ビリオンRNAの転写およびポリアデニル化の促進に関与する。LTRは、ウイルス複製に必要な他の全てのシス作用性配列を含む。レンチウイルスは、(HIV−1,HIV−2および/またはSIV中に)vit、vpr、tat、rev、vpu、nefおよびvpxを含むさらなる遺伝子を有する。5’LTRに近接して、ゲノムの逆転写に必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子中へのウイルス性RNAの効果的なキャプシド形成に必要な配列(Psi部位)がある。キャプシド形成(または感染性ビリオンへのレトロウイルスRNAのパッケージ化)に必要な配列がウイルスゲノムから欠損しているならば、ゲノムRNAのキャプシド形成を阻害するシス欠損がもたらされる。しかしながら、得られた突然変異体は依然として全てのビリオンたんぱく質の合成を導きだすことができる。
【0044】
レンチウイルスは、共通のレトロウイルス遺伝子gag、polおよびenvに加えて調節または構造的機能をもつ他の遺伝子を含む複合レトロウイルスである。より高い複雑度が、潜在的な感染の経過において見られるように、レンチウイルスの生活環の調節を可能としている。典型的なレンチウイルスは、AIDSの病原体であるヒト免疫不全ウイルス(HIV)である。インビボでは、HIVは、リンパ球およびマクロファージのような、めったに分裂しない最終分化細胞に感染できる。インビトロでは、HIVは、アフィジコリンまたはガンマ照射での処理により細胞周期を止めた単球由来マクロファージ(MDM)およびHeLa−Cd4またはTリンパ球様細胞の初代培養物に感染できる。細胞の感染は、標的細胞の核膜孔を介するHIVプレインテグレーション複合体の活発な核内輸送に依存する。これは、複合体中の複数の、部分的に重複している、分子決定因子と、標的細胞の核内輸送機構との相互作用により生じる。同定された決定因子は、gagマトリックス(MA)たんぱく質中の機能的核局所化シグナル(NLS)、核親和性ビリオン関連たんぱく質、vpr、およびgagMAたんぱく質中のC−末端ホスホチロシン残基を含む。遺伝子療法のためのレトロウイルスの使用は、例えば、米国特許第6,013,516号;および米国特許第5,994,136号に記載されており、本開示は出典明示により本明細書に組み込まれる。
【0045】
本発明者らは、酵素が欠損している患者へのリソソーム加水分解酵素の脳室内送達が、脳および罹患した内臓(非CNS)の両方の改善された代謝状態をもたらすことを発見した。このことはボーラス送達と比較して送達速度が遅い場合に特に当てはまる。A、B、またはD型ニーマン−ピック病の治療のための酵素として特に有用なものの一つはSEQ ID番号:1
*で示されるような酸性スフィンゴミエリナーゼ(aSM)である。
*1−46残基が分泌の際に開裂されるシグナル配列を構成する。
【0046】
特定のアミノ酸配列がSEQ ID番号:1に示されているが、活性を保有している人間集団における通常の変異体も同様に使用できる。典型的なこれら通常の変異体は、SEQ ID番号:1で示される配列から1または2残基だけが異なる。使用できる変異体は、SEQ ID番号:1と少なくとも95%、96%、97%、98%、または99%一致するべきである。疾患または減少した活性を伴う変異体は使用すべきでない。典型的には、成熟形態の酵素が送達されるであろう。これは、SEQ ID番号:1に示されるような47残基から始まるであろう。疾患を伴う変異体は
図7に示される。
【0047】
本発明に関するキットは個々の構成要素の集合である。それらは単一の容器にパッケージされていてもよいが、別々にサブパッケージされていてもよい。単一の容器であっても、各部分に分けることが可能である。典型的には取扱説明書一式がキットに添付され、リソソーム加水分解酵素のような診断、治療または麻酔剤の脳室内送達の説明を提供するであろう。取扱説明書は印刷形態、電子形態、説明ビデオまたはDVDとして、コンパクトディスク、フロッピーディスク、パッケージ中に提供されたアドレスのインターネット、またはこれらの手段の組み合わせであってもよい。希釈剤、緩衝剤、溶剤、テープ、ねじ、およびメンテナンスツールのような他の構成要素が、薬剤、1以上のカニューレもしくはカテーテル、および/または1のポンプに加えて提供できる。印刷物または他の説明用素材はCSF量、CSFのターンオーバー時間、患者の体重、患者の年齢、送達速度、送達時間、および/または他の条件と相関していてもよい。ポンプはCSF量および/またはターンオーバー時間および/または患者の年齢および/または患者の体重を基とした特定の送達速度に調整されていてもよい。
【0048】
本発明の方法によって治療される集団は、神経代謝性疾患、例えばLSD、表1に列記されたような疾患、特に、このような疾患がCNSおよび内臓に及んでいる状況を有している、または罹患する恐れのある患者を含むが、これに限定されない。具体的な実施形態において、疾患はA型ニーマン−ピック病である。もしこの疾患の遺伝的傾向が確定している場合は、治療を出生前に開始してもよい。治療されてもよい他の疾患または健康状態は、脳神経外科患者、脳卒中患者、ハンチントン病、癲癇、パーキンソン病、ルーゲーリック病、アルツハイマー病を含むが、これらに限定されない。
【0049】
リソソーム加水分解酵素のような薬剤は医薬組成物に組み込むことができる。組成物は診断、麻酔、またはリソソーム加水分解酵素活性のレベルが不足していることによって特徴付けられる症状の治療、例えば抑制、軽減、予防もしくは改善に有用となり得る。医薬組成物は、リソソーム加水分解酵素欠乏症に罹患している、または該欠乏症を発症するおそれのある被験者に投与できる。組成物は、医薬上許容される担体において、効果的な診断、麻酔、治療また予防のための量の薬剤を含むべきである。医薬担体は、患者にポリペプチドを送達することに適した、いずれの適合する非毒性の物質も可能である。蒸留水、アルコール、脂肪、ワックスが担体として使用されてもよい。医薬上許容されるアジュバント、緩衝化剤、および分散剤等もまた医薬組成物に組み込まれていてもよい。担体は脳室内注射または注入(静脈またはくも膜下腔もまた可能である)または他の方法による投与に適したいずれの形態の薬剤とも結合可能である。好適な担体は、例えば、生理食塩水、静菌水、クレモフォールEL(登録商標)(BASF,Parsippany,N.J.)もしくはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセリン溶液、水および油、石油、動物、植物、もしくは合成起源の油(落花生油、大豆油、鉱油、またはごま油)から作られたようなエマルジョンを含む。人工のCSFは担体として使用可能である。担体は殺菌され、パイロジェンのないものが好ましい。医薬組成物中の薬剤の濃度は非常に広範囲にわたって、すなわち、少なくとも約0.01重量%から、0.1重量%、約1重量%、20重量%程度またはそれ以上まで、変化させることができる。
【0050】
脳室内投与のため、組成物は殺菌されなければならず、流体であるべきである。それは、製造および保存状態下で安定でなければならず、細菌およびカビのような微生物の汚染活動への抵抗性を保持していなければならない。微生物の活動の予防はさまざまな抗菌および抗カビ剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサール等、によって達成することができる。多くの場合、組成物中に等張剤、例えば糖類、マンニトールやソルビトールのようなポリアルコール、塩化ナトリウムを含むことが好ましい。
【0051】
aSMであろうと他のリソソーム加水分解酵素であろうと、いずれの薬剤の投与量も、担当医が直ちに考慮できるような特定の薬剤もしくは酵素およびそれらの特定のインビボでの活性、投与経路、病状、年齢、患者の体重もしくは性別、患者のaSM薬剤もしくはビヒクル組成物に対する感受性、ならびに他の要因によって、個体ごとにいくらか変化してもよい。投与量は疾患または患者によって変化してもよいが、酵素は通常、月毎に患者50kg当り約0.1から約1000mg、好ましくは月ごとに患者50kg当り約1から約500mgの量で患者に投与される。
【0052】
遅速性注入の送達のための一つの方法はポンプの使用である。このようなポンプは、例えばAlzet(Cupertino,CA)またはMedtronic(Minneapolis,MN)から市販されている。ポンプは、埋め込み型でも外付けでもよい。酵素を投与するために有用な他の方法は、カニューレまたはカテーテルを使用することである。カニューレまたはカテーテルは時間を区切った反復投与に使用されてもよい。カニューレおよびカテーテルは定位固定的に挿入することができる。反復投与はリソソーム蓄積症の典型的な患者の治療に使用できることが予想される。カテーテルおよびポンプは単独または組み合わせで使用できる。カテーテルは当該技術分野で周知のように、外科的に挿入できる。ポンプは個体におけるCSF量に基づいた送達速度に適した設定としてもよい。
【0053】
上記の開示は本発明を全体的に記載する。本明細書で開示された全ての参考文献は、出典明示により参考として組み込まれる。より完全な理解は下記の具体的な実施例を参照することにより得られ、これらは説明の目的のみで本明細書に記載されるものであり、本発明の範囲を限定する意図ではない。