(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129719
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】送電線雷故障位置標定方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20060101AFI20170508BHJP
G01S 5/06 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
G01R31/08
G01S5/06
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-234674(P2013-234674)
(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公開番号】特開2015-94685(P2015-94685A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222037
【氏名又は名称】東北電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153110
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100131037
【弁理士】
【氏名又は名称】坪井 健児
(72)【発明者】
【氏名】本間 規泰
(72)【発明者】
【氏名】近内 潔
(72)【発明者】
【氏名】石山 史之
【審査官】
山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−132746(JP,A)
【文献】
米国特許第05729144(US,A)
【文献】
特開2002−277228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
G01S 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電線の両端に位置するサージ受信装置のうちの少なくとも1のサージ受信装置で、前記送電線に発生したサージの受信時刻を検出するステップと、
3以上存在する雷電磁波受信装置のうちの少なくとも1の雷電磁波受信装置で落雷から放射される雷電磁波の受信時刻を検出するステップと、
前記少なくとも1のサージ受信装置で検出されたサージの受信時刻と前記少なくとも1の雷電磁波受信装置で検出された雷電磁波の受信時刻とに基づいて、サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である前記送電線上の鉄塔の位置を雷による送電線の故障位置として標定するステップとを
含み、
該標定するステップは、i番目のサージ受信装置が検出したサージの受信時刻をTSi、仮定した雷故障位置からi番目のサージ受信装置までの送電線の距離をDSi、サージの伝搬速度をvS、仮定したサージ発生時刻をTS0、j番目の雷電磁波受信装置が検出した雷電磁波の受信時刻をTLj、仮定した雷故障位置からj番目の雷電磁波受信装置までの距離をDLj、雷電磁波の伝搬速度をvL、仮定した雷電磁波発生時刻をTL0、標定に使われるサージ受信装置の個数をm、以下のΔtSiの標準偏差をσS、標定に使われる雷電磁波受信装置の個数をn、以下のΔtLjの標準偏差をσL、としたときに、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たすχ2が最小となる鉄塔を、前記サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である、前記送電線上の鉄塔と推定することを特徴とする送電線雷故障位置標定方法。
【請求項2】
送電線の両端に位置し、前記送電線に発生したサージの受信時刻を検出するサージ受信装置と、
落雷から放射される雷電磁波の受信時刻を検出する複数の雷電磁波受信装置と、
少なくとも1の前記サージ受信装置から受信した前記サージの受信時刻と、少なくとも1の前記雷電磁波受信装置から受信した前記雷電磁波の受信時刻とに基づいて、サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である前記送電線上の鉄塔の位置を雷による送電線の故障位置と標定する送電線雷故障位置標定装置とを
備え、
該送電線雷故障位置標定装置は、i番目のサージ受信装置が検出したサージの受信時刻をTSi、仮定した雷故障位置からi番目のサージ受信装置までの送電線の距離をDSi、サージの伝搬速度をvS、仮定したサージ発生時刻をTS0、j番目の雷電磁波受信装置が検出した雷電磁波の受信時刻をTLj、仮定した雷故障位置からj番目の雷電磁波受信装置までの距離をDLj、雷電磁波の伝搬速度をvL、仮定した雷電磁波発生時刻をTL0、標定に使われるサージ受信装置の個数をm、以下のΔtSiの標準偏差をσS、標定に使われる雷電磁波受信装置の個数をn、以下のΔtLjの標準偏差をσL、としたときに、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たすχ2が最小となる鉄塔を、前記サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である、前記送電線上の鉄塔と推定することを特徴とする送電線雷故障位置標定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電線上の雷による故障位置を標定するための送電線雷故障位置標定方法及びそのシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
送電線において、落雷により電力線の地絡や電力線同士の短絡が発生した故障位置を標定する手法は、既にいくつか実用されている。そのうち、落雷により生じる電流や電圧の急峻な変化(サージ)を送電線の両端で受信し、その受信時刻をもとに到達時間差法により故障位置を標定する手法は、GPS(Global Positioning System)時計等の高精度時計装置の実用化により、最も高精度な故障位置標定が可能となる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図3は、上述の到達時間差法を用いる送電線故障位置標定システムの概念と基本的な構成を説明するための図である。
図3の送電線故障位置標定システムV10では、落雷により生じるサージは、故障点P
F0から送電線Lに沿って伝搬し、送電線Lの一端に存在する変電所E1と他端に存在する変電所E2に到達し、各変電所E1、E2内のサージ受信装置FL1、FL2で受信され、検出される。
【0004】
サージ受信装置FL1、FL2に検出されたサージの受信時刻は、該装置FL1、FL2から通信回線Iを介して送電線故障位置標定装置100に伝送される。
送電線故障位置標定装置100は、両変電所E1、E2におけるサージ受信時刻の差から、到達時間差法によりサージ発生位置すなわち故障位置を標定する。具体的には、送電線故障位置標定装置100は、送電線L上の仮定した故障位置から各変電所E1、E2までの送電線の長さを求め、該長さに基づき、サージの伝搬速度が一定と仮定し、上記仮定した故障位置から各変電所E1、E2までの伝搬時間を求め、その伝搬時間の差が、検出されたサージ受信時刻の差に一致する送電線L上の故障位置を探索的に求める。
【0005】
一方、落雷が発生した位置を標定する落雷位置標定システムも実用化されており、落雷から放射される雷電磁波を複数の受信装置で受信し、同一の落雷から放射された雷電磁波の情報から落雷の位置を標定する。標定方法としては、受信装置から見た落雷の方位を元に標定する交会法、電磁波の到達時間を元に標定する到達時間差法、交会法と到達時間法を併用して落雷の位置を標定する手法があるが、GPS時計等の高精度時計装置の実用化により、到達時間差法が主に用いられている。
【0006】
図4は、上述の到達時間差法を用いる落雷位置標定システムの概念と基本的な構成を説明するための図である。
図4の落雷位置標定システムV20では、雷電磁波は、落雷地点P
L0から大地に沿って伝搬し、雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3に到達する。雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3は、雷から放射されたものと判別される雷電磁波の受信時刻と到来方位や強さ等を検出する。
検出された雷電磁波の受信時刻は、雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3から通信回線Iを介して落雷位置標定装置200に伝送される。
落雷位置標定装置200は、各雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3で測定された雷電磁波の受信時刻の差から、到達時間差法により雷電磁波の放射位置すなわち落雷位置を標定する。具体的には、落雷位置標定装置200は、仮定した落雷位置から各雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3までの伝搬時間を求め、その伝搬時間の差が、検出された雷電磁波受信時刻の差に一致する地表の位置を探索的に求める(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
なお、
図3の方法で標定された故障位置は、雷によるものでない場合もあり、
図3の方法で標定された故障位置と
図4の方法で標定された雷発生位置との距離が十分に近い場合には、上記故障位置は雷によるものである、と判定する方法が従来あった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4817665号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図3の送電線故障位置標定システムでは、送電線の両端のサージ受信装置それぞれでサージ受信時刻を測定し、その時間差からサージ発生位置を探索し、求められた位置を送電線故障位置と標定しており、送電線の両端のサージ受信装置で同一の落雷により発生したサージが受信される必要がある。
しかし、サージ受信装置の近傍で落雷による故障が発生した場合、過大なサージのためにサージ受信時刻を正しく検出できない。
その場合、故障から遠い側のサージ受信装置でサージ受信時刻を検出できても、故障位置を標定できない。
【0010】
また、到達時間差法を用いる上述の落雷位置標定システムでは、3箇所以上の雷電磁波受信装置で、同一の落雷から放射された雷電磁波が受信されると共にその受信時刻が検出される必要がある。
しかし、雷電磁波受信装置の近傍で落雷が発生した場合、過大な雷電磁波のために雷電磁波を正しく解析できず、雷電磁波の受信時刻を検出できない。その場合、落雷から遠い2箇所または1箇所の雷電磁波受信装置で雷電磁波を受信し、それらの受信時刻を検出できても、落雷の位置を標定できない。したがって、サージ受信時刻に基づいて標定した故障位置が落雷によるものであるか判定することができない。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたもので、サージ受信装置や雷電磁波受信装置の近傍で落雷が発生した場合でも送電線上の雷による故障位置を標定可能な送電線雷故障位置標定方法及びそのためのシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の技術手段は、送電線雷故障位置標定方法であって、送電線の両端に位置するサージ受信装置のうちの少なくとも1のサージ受信装置で、前記送電線に発生したサージの受信時刻を検出するステップと、3以上存在する雷電磁波受信装置のうちの少なくとも1の雷電磁波受信装置で落雷から放射される雷電磁波の受信時刻を検出するステップと、前記少なくとも1のサージ受信装置で検出されたサージの受信時刻と前記少なくとも1の雷電磁波受信装置で検出された雷電磁波の受信時刻とに基づいて、サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である前記送電線上の鉄塔の位置を雷による送電線の雷故障位置と標定するステップとを
含み、該標定するステップが、i番目のサージ受信装置が検出したサージの受信時刻をTSi、仮定した雷故障位置からi番目のサージ受信装置までの送電線の距離をDSi、サージの伝搬速度をvS、仮定したサージ発生時刻をTS0、j番目の雷電磁波受信装置が検出した雷電磁波の受信時刻をTLj、仮定した雷故障位置からj番目の雷電磁波受信装置までの距離をDLj、雷電磁波の伝搬速度をvL、仮定した雷電磁波発生時刻をTL0、標定に使われるサージ受信装置の個数をm、以下のΔtSiの標準偏差をσS、標定に使われる雷電磁波受信装置の個数をn、以下のΔtLjの標準偏差をσL、としたときに、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たすχ2が最小となる鉄塔を、前記サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である、前記送電線上の鉄塔と推定することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の第
2の技術手段は、送電線雷故障位置標定システムであって、送電線の両端に位置し、前記送電線に発生したサージの受信時刻を検出するサージ受信装置と、落雷から放射される雷電磁波の受信時刻を検出する複数の雷電磁波受信装置と、少なくとも1の前記サージ受信装置から受信した前記サージの受信時刻と、少なくとも1の前記雷電磁波受信装置から受信した前記雷電磁波の受信時刻とに基づいて、サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である前記送電線上の鉄塔の位置を雷による送電線の故障位置と標定する送電線雷故障位置標定装置とを備え、
該送電線雷故障位置標定装置が、i番目のサージ受信装置が検出したサージの受信時刻をTSi、仮定した雷故障位置からi番目のサージ受信装置までの送電線の距離をDSi、サージの伝搬速度をvS、仮定したサージ発生時刻をTS0、j番目の雷電磁波受信装置が検出した雷電磁波の受信時刻をTLj、仮定した雷故障位置からj番目の雷電磁波受信装置までの距離をDLj、雷電磁波の伝搬速度をvL、仮定した雷電磁波発生時刻をTL0、標定に使われるサージ受信装置の個数をm、以下のΔtSiの標準偏差をσS、標定に使われる雷電磁波受信装置の個数をn、以下のΔtLjの標準偏差をσL、としたときに、
【数1】
【数2】
【数3】
を満たすχ2が最小となる鉄塔を、前記サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である、前記送電線上の鉄塔と推定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サージ受信装置や雷電磁波受信装置の近傍で落雷が発生した場合でも送電線上の雷による故障位置を標定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の送電線雷故障位置標定システムの一例を説明する図である。
【
図2】
図1の送電線雷故障位置標定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】従来の送電線故障位置標定方法を説明する図である。
【
図4】従来の落雷位置標定方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係る送電線雷故障位置標定システムの一例の基本的な構成を示す図である。
図1の送電線雷故障位置標定システムV1は、送電線Lの両端の変電所E1、E2それぞれに設けられたサージ受信装置FL1、FL2と、複数の雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3と、送電線雷故障位置標定装置1とを備える。
【0018】
サージ受信装置FL1、FL2は、雷により送電線Lに発生し該送電線Lを伝搬してきたサージを検出し、サージ受信時刻を検出し、該サージ受信時刻を通信回線Iを介して送電線雷故障位置標定装置1に送信する。
雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3は、雷により発生した電磁波を検出し、雷電磁波受信時刻を検出し、該雷電磁波受信時刻を通信回線Iを介して送電線雷故障位置標定装置1に送信する。
送電線雷故障位置標定装置1は、サージ受信装置FL1、FL2と雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3から通信回線Iを介して受信したサージ受信時刻及び雷電磁波受信時刻をもとに送電線故障位置を標定する。
【0019】
送電線雷故障位置標定システムV1では、東経X
F0、北緯Y
F0に位置する送電線L上の鉄塔P
0に時刻t
F0に落雷があり故障が発生すると、電流と電圧のサージが送電線Lの両端の変電所E1、E2に向かって伝搬する。これらサージは、東経X
F1、北緯Y
F1に位置する変電所E1内のサージ受信装置FL1において時刻t
F1に検出/受信され、東経X
F2、北緯Y
F2に位置する変電所E2内のサージ受信装置FL2において時刻t
F2に検出/受信される。サージ受信時刻はサージ受信装置FL1、FL2から通信回線Iによりに送電線雷故障位置標定装置1へ伝送される。
【0020】
また、落雷から放射される雷電磁波は、東経X
L1、北緯Y
L1に位置する雷電磁波受信装置LLS1において時刻t
L1に検出/受信され、東経X
L2、北緯Y
L2に位置する雷電磁波受信装置LLS2において時刻t
L2に検出/受信され、東経X
L3、北緯Y
L3に位置する雷電磁波受信装置LLS3において時刻t
L3に検出/受信される。雷電磁波受信時刻は雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3から通信回線Iによりに送電線雷故障位置標定装置1へ伝送される。
【0021】
送電線雷故障位置標定装置1は、サージ受信装置FL1、FL2からのサージ受信時刻と雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3からの雷電磁波受信時刻とに基づいて、到達時間差法により、サージの発生源且つ雷電磁波の放射源である送電線L上の鉄塔の位置を探索的に推定し、当該鉄塔の位置を雷による送電線の故障位置と標定する。
送電線雷故障位置標定装置1は、標定した送電線故障位置を、ディスプレイ等の出力装置に出力する。送電線故障位置と共に、雷故障の発生時刻を出力するようにしてもよい。
鉄塔の位置の探索的な推定方法の具体例は後述する。
【0022】
サージ受信装置の近傍で落雷が発生し1つのサージ受信装置でのみサージ受信時刻が検出された場合、前述した従来のサージ受信時刻に基づく送電線雷故障位置標定システムでは送電線故障位置を標定できないが、
図1の送電線雷故障位置標定システムV1では、サージ受信時刻の他に、雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3で検出された雷電磁波受信時刻を併用するので、サージ受信時刻と雷電磁波受信時刻の両方を用いて送電線L上の雷による故障位置を標定できる。
【0023】
また、雷電磁波受信装置の近傍で落雷が発生し3箇所未満の雷電磁波受信装置でのみ雷電磁波受信時刻が検出された場合、前述した従来の雷電磁波受信時刻に基づく雷発生位置標定システムでは、雷発生位置を標定できないが、
図1の送電線雷故障位置標定システムV1では、雷電磁波受信時刻の他に、サージ受信装置FL1、FL2で検出されたサージ受信時刻を併用するので、サージ受信時刻と雷電磁波受信時刻の両方を用いて送電線L上の雷による故障位置を標定できる。
【0024】
さらに、前述した従来の方法では、故障位置を標定した後にその故障が雷によるものか否かを、標定した雷発生位置からの距離に基づいて判定する必要があるが、
図1の送電線雷故障位置標定システムV1では、サージ受信時刻と落雷から放射された雷電磁波の受信時刻である雷電磁波受信時刻とを併用して故障位置を標定するので、その故障が落雷により引き起こされたことは自明である。したがって、故障位置と落雷位置の距離による故障原因の判定が不要である。
【0025】
このように、本発明は、従来は別々に運用され、各々の標定結果を照合するだけの活用しかされていなかった送電線故障位置標定システムと落雷位置標定システムの情報を統合して相互に補完し、最少で、1箇所のサージ受信装置で測定されたサージ受信時刻と1箇所の雷電磁波受信装置で測定された雷電磁波受信時刻とに基づいて、雷による故障位置を標定することができる。
【0026】
図2は、
図1の送電線雷故障位置標定装置1の構成例を示すブロック図である。
図2の送電線雷故障位置標定装置1は、データ受信部11と、標定計算部12と、標定位置出力部13と、CPU14と、データ記録部15とを備える。
CPU14は、送電線雷故障位置標定装置1の全体を制御する。
データ記録部15は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、HDD(Hard Disk Drive)等から成り、CPU14でのデータ処理によるデータや、標定計算部12での計算結果等を記憶する。
【0027】
データ受信部11は、サージ受信装置FL1、FL2で検出されたサージ受信時刻を、通信回線Iを介して受信すると共に、雷電磁波受信装置LLS1〜LLS3で検出された雷電磁波受信時刻を通信回線Iを介して受信する。
【0028】
標定計算部12は、受信されたサージ受信時刻と、雷電磁波受信時刻とを以下の式1〜式3に代入し、得られる指標が最小になる送電線上の鉄塔の位置を探索し、探索された鉄塔の位置を落雷位置すなわち雷による送電線故障位置(以下、雷故障位置)と標定する。
【0032】
なお、上記の式中、
T
Siはi番目のサージ受信装置が検出したサージの受信時刻、
D
Siは仮定した雷故障位置からi番目のサージ受信装置までの送電線の距離、
v
Sはサージの伝搬速度、
T
S0は仮定したサージ発生時刻、
T
Ljはj番目の雷電磁波受信装置が検出した雷電磁波の受信時刻、
D
Ljは仮定した雷故障位置からj番目の雷電磁波受信装置までの距離、
v
Lは雷電磁波の伝搬速度、
T
L0は仮定した雷電磁波発生時刻、
Δt
Siはi番目のサージ受信装置が受信したサージの受信時刻からサージの伝搬時間を差し引いた時刻すなわちサージ発生時刻の、仮定したサージ発生時刻からの差、
mは標定に使われるサージ受信装置の個数、
σ
SはΔt
Siの標準偏差、
Δt
Ljはj番目の雷電磁波受信装置が受信した雷電磁波の受信時刻から雷電磁波の伝搬時間を差し引いた時刻すなわち雷電磁波発生時刻の、仮定した雷発生時刻からの差、
nは標定に使われる雷電磁波受信装置の個数、
σ
LはΔt
Ljの標準偏差、
である。
サージの伝搬速度v
Sと雷電磁波の伝搬速度v
Lは、いずれもわずかに光速より遅いので実測に基づいた速度を用いる。
【0033】
標定位置出力部13は、例えば、ディスプレイ等から成り、標定計算部12が標定した雷故障位置を地図に重ねて表示する。
【0034】
(実施例)
ある送電線において雷による故障が発生し、片端の変電所のサージ受信時刻と、1箇所の雷電磁波受信装置の雷電磁波受信時刻から標定した雷故障位置が、巡視点検により確認された雷故障位置と略一致した事例を以下に示す。
【0035】
この場合、式1において、標定に使われるサージ受信装置の個数m=1、雷電磁波受信装置の個数n=1である。また、Δt
Siの標準偏差σ
SとΔt
Lの標準偏差σ
Lは、さしあたり1とする。サージ受信装置で検出されたサージ受信時刻T
S1の秒以下は、0.3957519秒、雷電磁波受信装置で検出された雷電磁波受信時刻T
L1の秒以下は、0.359311秒である。サージの伝搬速度V
Sは295m/μs、雷電磁波の伝搬速度V
Lは299.7m/μsとする。
このときの、仮定した雷による故障位置の鉄塔の番号と式1の指標χ
2を表1に示す。なお、巡視点検により確認された実際の雷故障位置に最寄りの鉄塔の番号は5である。
【0037】
表1より、1局のサージ受信装置のサージ受信時刻と1局の雷電磁波受信装置の雷電磁波受信時刻から計算された指標χ
2が最小となる鉄塔は番号3の鉄塔である。したがって、本発明では番号3の鉄塔が雷故障位置と標定される。この鉄塔は、巡視点検により確認された実際の雷故障位置である最寄りの番号5の鉄塔から2基、距離にして約500mずれているが、1局のサージ受信装置のサージ受信時刻と1局の雷電磁波受信装置の雷電磁波受信時刻のみに基づく標定であって、より多くのサージ受信時刻と雷電磁波受信時刻を用いると、十分に調整された最新の落雷位置標定システムの標定誤差約300mに近い高精度の標定が期待できる。このように、サージ受信装置や雷電磁波受信装置の近傍で落雷が発生した場合に、従来の方法では故障位置や雷発生位置を特定できなかったが、本発明の送電線雷故障位置標定システムでは雷故障位置を標定できる。
【0038】
なお、本発明の送電線雷故障位置標定システムは、サージ受信装置や雷電磁波受信装置とは離間した位置で落雷が発生した場合も、雷故障位置を標定可能である。
【0039】
以上のとおり、本発明の送電線雷故障位置標定システム(方法)、送電線雷故障位置標定装置は、落雷による送電線の故障位置の確実な標定に実用上有効である。なお、本発明は、上述した送電線雷故障位置標定システムや送電線雷故障位置標定装置としての機能をコンピュータシステムに実現させることができるプログラムやこのプログラムを格納した記録媒体の形態をとることもできる。
【0040】
本発明によるプログラムやデータを格納した記録媒体の実施形態について説明する。記録媒体としては、具体的には、CD−ROM(R/RW)、光磁気ディスク、DVD−ROM(R/RW/RAM)、FD、HD、フラッシュメモリ、メモリカードや、メモリスティック及びその他各種ROMやRAM等が想定でき、これら記録媒体に上述した本発明の故障位置標定システムとしての機能を実行させるためのプログラムを記録して流通させることにより、当該機能の実現を容易にする。そしてコンピュータシステムに上記のごとくの記録媒体を装着してコンピュータシステムによりプログラムを読み出すか、若しくはコンピュータシステムが備えている記憶媒体に当該プログラムを記憶させておき、必要に応じて読み出すことにより、本発明に係る送電線雷故障位置標定機能を実行することができる。
【符号の説明】
【0041】
FL1,FL2…サージ受信装置、LLS1〜LLS3…雷電磁波受信装置、V1…送電線雷故障位置標定システム、1…送電線雷故障位置標定装置、11…データ受信部、12…標定計算部、13…標定位置出力部、14…CPU、15…データ記録部。