(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6129739
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ボセンタン一水和物及びその中間体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 239/69 20060101AFI20170508BHJP
A61K 31/506 20060101ALN20170508BHJP
A61P 9/12 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
C07D239/69 BCSP
!A61K31/506
!A61P9/12
【請求項の数】11
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-530684(P2013-530684)
(86)(22)【出願日】2011年9月22日
(65)【公表番号】特表2013-538836(P2013-538836A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011066531
(87)【国際公開番号】WO2012041764
(87)【国際公開日】20120405
【審査請求日】2014年9月5日
(31)【優先権主張番号】10185950.2
(32)【優先日】2010年10月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】307041023
【氏名又は名称】ザック システム エス.ピー.エー.
【氏名又は名称原語表記】ZaCh System S.p.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】コタルカ,リヴィウス
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルツィニ,マッシーモ
(72)【発明者】
【氏名】メロット,エリサ
(72)【発明者】
【氏名】ミチェレット,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】メローニ,アルフォンソ
(72)【発明者】
【氏名】マラーニ,パオロ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルピチェッリ,ラファエラ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレット,マウロ
(72)【発明者】
【氏名】コッリ,コラード
【審査官】
福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−222003(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2072503(EP,A2)
【文献】
国際公開第2011/058524(WO,A2)
【文献】
国際公開第2009/004374(WO,A1)
【文献】
国際公開第2010/103362(WO,A2)
【文献】
トラクリア錠62.5mgの審査報告書(2005年04月11日)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 239/69
A61K 31/506
A61P 9/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(IV):
【化1】
で表されるボセンタンナトリウム塩の
溶媒和物であって、前記
溶媒和物は、その結晶構造の一部として、化学量論量又は非化学量論量のエチレングリコールを含
み、且つ次の2θ°値:6.4、8.4、9.0、9.9、12.0、18.2及び20.4±0.2°に現れるピークを含むXRPDを有することを特徴とする
溶媒和物。
【請求項2】
請求項
1に記載の
溶媒和物を製造
する方法であって、
a)式(II):
【化2】
で表される4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]ベンゼンスルホンアミドカリウム塩を、式(III):
【化3】
で表される
化合物と、エチレングリコール溶媒中でカップリングし、65℃〜75℃の範囲で反応混合物を加熱することと;
b)
段階a)で得られた所望のボセンタンナトリウム塩を
、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の種晶を接種し又は当該種晶を接種せずにエチレングリコール溶媒和物とし
て析出させ
ることと;
c)
段階b)で析出した析出物を前記反応混合物から回収することと
を含む方法。
【請求項3】
段階c)において、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物がウェットケーキとして回収され、ウェットケーキ中の残留エチレングリコール分が20%〜40%である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項2又は3に記載の製造方法であって、式(III)で表される化合物は、ナトリウムメトキシド(CH3ONa)をエチレングリコールと反応させることにより得られる方法。
【請求項5】
式(I):
【化4】
で表されるボセンタン一水和物の製造
方法であって、
d)請求項1に記載の溶媒和物をエタノールのみ又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物に溶解した溶液を65℃〜75℃の範囲で提供することと;
e)段階d)の溶液から高純度の式(IV)のボセンタンナトリウム塩を、高純度ボセンタンナトリウム塩の種晶を接種し又は当該種晶を接種せずに結晶化させることと;
f)段階e)で得た結晶化物を回収することと;
g)段階f)で回収した結晶化物を式(I)のボセンタン一水和物に転換することと;
を含み、反応段階d)の反応を行う際に生成し得る下記式(Ia)の二量体不純物及び下記式(Ib)のピリミジノン不純物が、反応段階e)及びf)において式(IV)のボセンタンナトリウム塩が得られる際に上清み液中に残留していることを特徴とする方法。
【化5】
【請求項6】
段階d)は、エタノールとアセトンとシクロヘキサンとを含み且つ少なくとも80質量%がエタノールである混合物に請求項1に記載の溶媒和物を溶解した溶液を、65℃〜75℃の範囲で提供する段階である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
段階e)の結晶化は、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶化を誘起するために、前記溶媒和物に高純度ボセンタンナトリウム塩の種晶を接種することによって開始又は促進される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
式(I):
【化6】
で表されるボセンタン一水和物の製造方法であって、
a)式
(II):
【化7】
で表される4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドカリウム塩を、式(III):
【化8】
で表される
化合物とエチレングリコール溶媒中でカップリングし、反応混合物を65℃〜75℃の範囲で加熱することによって、式(IV):
【化9】
で表されるボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として得ることと;
b)
段階a)で得られたエチレングリコール溶媒和物を
、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の種晶を接種し又は当該種晶を接種せずに前記反応混合物か
ら析出させ
ることと;
c)
段階b)で析出した析出物を前記反応混合物から回収することと;
d)
段階c)で回収した析出物をエタノールのみ又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物に溶解した溶液を65℃〜75℃の範囲で提供することと;
e)
段階d)の溶液から高純度の式(IV)のボセンタンナトリウム塩を
、高純度ボセンタンナトリウム塩の種晶を接種し又は当該種晶を接種せずに結晶化させ
ることと;
f)
段階e)で得た結晶化物を回収することと;
g)
段階f)で回収した結晶化物を式(I)のボセンタン一水和物に転換することと;
を含み、反応段階a)〜d)の反応を行う際に生成し得る
下記式(Ia)の二量体不純物及び
下記式(Ib)のピリミジノン不純物が、反応段階e)及びf)において
式(IV)のボセンタンナトリウム塩が得られる際に上清み液中に残留していることを特徴とする方法。
【化10】
【請求項9】
段階d)は、エタノールとアセトンとシクロヘキサンとを含み且つ少なくとも80質量%がエタノールである混合物に段階c)で回収した析出物を溶解した溶液を、65℃〜75℃の範囲で提供する段階である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
段階e)の結晶化は、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶化を誘起するために、前記析出物に高純度ボセンタンナトリウム塩の種晶を接種することによって開始又は促進される、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記種晶は、前記エタノールのみ又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物を段階c)で回収した析出物に添加する前に、前記エタノールのみ又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物に投入される、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はボセンタン一水和物の製造方法に関する。より詳細には、本発明は新規な4−tert−ブチル−N−[6−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドナトリウム塩のエチレングリコール溶媒和物(即ち、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物)の製造に関する。このエチレングリコール溶媒和物は高純度ボセンタン一水和物の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
医薬品トラクリア(登録商標)の有効成分であるボセンタン一水和物は、高置換ピリミジン誘導体に属するエンドセリンレセプターアンタゴニストであり、化合物名は4−tert−ブチル−N−[6−(2−ヒドロキシ−エトキシ)−5−(2−メトキシフェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミド一水和物であり、次の構造式(I)で示される:
【0003】
【化1】
【0004】
ボセンタン一水和物は、肺動脈性高血圧症の治療用に開発された。
【0005】
特許文献1には粗製ボセンタンナトリウム塩の調製法が開示されており、この方法は4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドとエチレングリコール酸ナトリウムを、エチレングリコール溶媒中100℃でカップリングすることを含む。
【0006】
この方法は式(Ia)で表される二量体不純物及び式(Ib)で表されるピリミジノン不純物の生成、所謂第1世代工程が問題であることが知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
【化2】
【0008】
医薬品製造業者が、医薬品の市販承認申請を行う際、製造時点に有効な医薬品原料(API)に不純物が存在しないか、或いはその不純物量が許容レベルであるかを証明する分析データを提出することが規制機関から義務付けられている。従って医薬品製造業者にとって不純物の制御は重要な課題となっている。
【0009】
従って、いずれかの不純物、特に本発明の場合、上述の二量体不純物及びピリミジノン不純物が生成すると、医薬品に適切なボセンタン一水和物を単離するにはコストがかかり、且つ労力を要する分離段階も必要となる。例えば、上述の非特許文献1によれば、上述の不純物の量を減少させるためには、最終生成物をメタノール−酢酸イソプロピルから、少なくとも二つの最終生成物を再結晶化させることが必要となる。
【0010】
望ましくない二量体不純物の形成を回避するため、特許文献2においては、エチレングリコールナトリウムの代わりに(モノ)tert−ブチルエーテル保護エチレングリコール等のモノ保護エチレングリコールを使用することにより改変された最終段階が実行された。tert−ブチルエーテル保護エチレングリコールを6−クロロスルホンアミド中間体とカップリングした後、tert−ブチル基をギ酸で加水分解することによりホルミル誘導体が得られ、これを水酸化ナトリウム(NaOH)で除去することによってボセンタンが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】欧州特許第526708号明細書
【特許文献2】欧州特許第1254121号明細書
【特許文献3】欧州特許第2072503号明細書
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Harrington et. AL, Organic Process Research & Development 2002, Vol. 6, 120-124
【非特許文献2】Harada et al, Bioorganic & Medicinal Chemistry, Elsevier Science ltd., vol. 9, 1 January 2001, 2955-2968, page 2967
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述の従来技術に鑑み、大規模な工業生産にも適用できる効果的な方法による高純度ボセンタン一水和物の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、望ましくない二量体不純物及びピリミジノン不純物を容易に排出できると共に、人体への投与可能且つ工業規模での使用可能なボセンタン一水和物を製造するための効率的な方法を提供する実用的な代替方法を見出した。本発明の方法は、これまでに開示されていないエチレングリコール溶媒和物の形態で得られるボセンタンナトリウム塩の使用を含む。
【0015】
従って、本発明はその第1の態様において、高純度ボセンタン一水和物の製造に用いることができるボセンタンナトリウム塩の新規エチレングリコール溶媒和物に関する。
【0016】
本発明はその具体的な態様において、ボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の結晶に関する。
【0017】
本発明はより具体的な態様において、
図1のXRPDパターンで特徴付けられるボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の結晶に関する。
【0018】
本発明は更なる態様において、高純度ボセンタンナトリウム塩、即ち二量体不純物及びピリミドン不純物を実質的に含まないボセンタンナトリウム塩を提供する。
【0019】
本発明は他の態様において、ボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の製造方法を提供する。
【0020】
本発明は他の態様において、ボセンタン一水和物を調製するための、エチレングリコール溶媒和物としてのボセンタンナトリウム塩の使用を更に包含する。
【0021】
本発明は他の態様において、本発明のボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物を使用することによる、高純度ボセンタン一水和物の製造方法を更に提供する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物に特徴的なX線粉末回折(XRPD)パターンを示す図である。
【
図2】高純度ボセンタンナトリウム塩に特徴的なX線粉末回折(XRPD)パターンを示す図である。
【
図3】ボセンタン一水和物に特徴的なX線粉末回折(XRPD)パターンを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明はその第1の態様において、下記式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物に関する。
【0025】
式(IV)のボセンタンナトリウム塩のエチレングリコール溶媒和物は、高純度の式(I)で表されるボセンタン一水和物の製造に用いることができる。
【0026】
本発明は具体的な態様において、次の2θ°値:6.4、8.4、9.0、9.9、12.0、18.2及び20.4±0.2°に現れるピークを含むXRPDを有するボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の結晶に関する。
【0027】
本発明はより具体的な態様において、
図1のXRPDパターンで特徴付けられる粗製ボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の結晶に関する。
【0028】
本発明は更なる他の態様において、高純度ボセンタンナトリウム塩、即ち二量体不純物もピリミドン不純物も実質的に含まないボセンタンナトリウム塩を提供する。
【0029】
本発明は更なる他の態様において、次の2θ°値:6.6、7.8、9.0、10.2及び25.2±0.2°に現れるピークを含むXRPDを有する高純度ボセンタンナトリウム塩、特に
図2のXRPDパターンで特徴付けられるボセンタンナトリウム塩を提供する。
【0030】
本明細書において「高純度ボセンタンナトリウム塩」とは、二量体不純物もピリミドン不純物も実質的に含まないボセンタンナトリウム塩を意味する。即ち、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で測定されたこの種の不純物の総含有率が約0.3w/w%未満であり、HPLCで測定された個々の不純物がそれぞれ約0.15w/w%未満であり;より具体的には、HPLCで測定されたこの種の不純物の総含有率が約0.2w/w%未満であり、HPLCで測定された個々の不純物がそれぞれ約0.1w/w%未満であり;更に具体的には、HPLCで測定されたこの種の不純物の総含有率が約0.1w/w%未満であり、HPLCで測定された個々の不純物がそれぞれ約0.05w/w%未満であり;最も具体的には、この種の不純物を本質的に含まないボセンタンナトリウム塩を指す。
【0031】
本発明は他の態様において、下記式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩の新規なエチレングリコール溶媒和物の製造法であって:
【0033】
a)下記式(II)で表される4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]ベンゼンスルホンアミドカリウム塩を:
【0035】
下記式(III)で表されるエチレングリコール酸ナトリウムとエチレングリコール溶媒中でカップリングし、反応混合物を65℃〜75℃の範囲で加熱することと;
【0037】
b)所望のボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として自然に析出させるか又はその析出を促進することと;
c)反応混合物から析出物を回収することとを含む方法を提供する。
【0038】
他の態様においては、本発明は式(I)のボセンタン一水和物を調製するための、上に規定したボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の使用を更に包含する。
【0039】
他の態様においては、本発明は式(I)のボセンタン一水和物を調製するための、本発明のボセンタンナトリウムエチレングリコール溶媒和物を使用することによる方法を更に提供する。
【0040】
他の態様において、本発明は下記式(I)で表されるボセンタン一水和物の製造方法であって、
【0042】
a)下記式(II)で表される4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドカリウム塩を、
【0044】
下記式(III)で表されるエチレングリコール酸ナトリウムとエチレングリコール溶媒中でカップリングし、
【0046】
反応混合物を65℃〜75℃の範囲で加熱することによって、下記式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として得ることと;
【0048】
b)反応混合物からボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として自然に析出させるか又はその析出を促進することと;
c)ボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として反応混合物から回収することと;
d)式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物をエタノールのみ、又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物に溶解した溶液を、65℃〜75℃の範囲で提供することと;
e)この溶液から式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩を自然に析出させるか又はその析出を促進することと;
f)式(IV)で表されるボセンタンナトリウム塩を回収することと;
g)ボセンタンナトリウム塩を式(I)で表されるボセンタン一水和物に転換することとを含み、
反応段階a)〜d)を行う際に生成しうる上に規定した式(Ia)で表される二量体不純物及び式(Ib)で表されるピリミジノン不純物が、反応段階e)及びf)においてボセンタンナトリウム塩が得られる際に上清液中に残留している、即ち、段階f)において回収されるボセンタンナトリウム塩が上述の不純物を実質的に含まないことを特徴とする方法を更に提供する。
【0049】
本発明の方法により得られる式(I)のボセンタン一水和物は、
図3に示すXRDPを有する結晶であり、これを特徴付けるピークは非特許文献2の2967頁第2欄上部に記載されているボセンタン一水和物のセルデータと一致する。
【0050】
本明細書において「溶媒和物」とは、その結晶構造の一部として、結晶化に用いた化学量論量又は非化学量論量の溶媒を含む結晶構造を意味する。
【0051】
本明細書に特に示さない限り、全ての試薬は市販品として入手可能であり、更なる精製を行うことなく使用される。
【0052】
本発明において、段階a)に係るカップリングは、65℃〜75℃、好ましくは68℃〜72℃の温度範囲で反応混合物を加熱し、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の生成が完了するまでこの温度を維持することにより行うことができる。
【0053】
通常、段階b)におけるボセンタンナトリウム塩のエチレングリコール溶媒和物としての析出は、外的補助を利用しなくても反応容器内で自然に開始させることができる。また、段階b)におけるボセンタンナトリウム塩のエチレングリコール溶媒和物としての析出は、エチレングリコール溶媒和物としてのボセンタンナトリウム塩の「種晶」を反応混合物に接種することによって開始させるか又は促進することもできる。
【0054】
通常、段階c)におけるボセンタンナトリウム塩のエチレングリコール溶媒和物としての回収は、濾過、減圧濾過、デカンテーション、遠心分離、又はこれらの組合せ等、当業者に知られた方法いずれかにより行われるが、濾過が好ましい。
【0055】
好ましくは、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物は、残留エチレングリコール分が約20%〜約40%であるウェットケーキとして回収される。
【0056】
上述のように、本発明の方法に従い得られるボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物は安定であり、再現性良く製造でき、バルクでの調製及び取扱いに特に適している。更に、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物は、上述の製造工程由来不純物の制御を容易とし、高純度ボセンタン一水和物の調製における有用な中間体である。
【0057】
本発明において、段階d)に係るボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の溶液は、段階c)に従い得られたボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物を、溶媒として、エタノールのみ又はエタノールとアセトン及び/若しくはシクロヘキサンとの混合物、好ましくはエタノール及びアセトンの混合物、特にエタノール、アセトン及びシクロヘキサンの混合物に、65℃〜75℃、好ましくは68℃〜72℃の温度範囲で約2時間かけて溶解することによって得られる。好ましい態様においては、ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の溶液は、段階c)に従い得られたようなボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物を、溶媒として、エタノール、アセトン及びシクロヘキサンの混合物(好ましくは、溶媒の少なくとも約80質量%、より好ましくは少なくとも約85質量%、適切には少なくとも約90質量%がエタノールである)に溶解することによって得られる。
【0058】
本発明において、段階e)に係る高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶析出は、外的補助を利用することなく反応容器内で自然に開始させることができる。また、高純度な形態のボセンタンナトリウム塩の結晶化を誘起するために、高純度ボセンタンナトリウム塩の「種」晶を反応混合物に接種することによって開始させるか又は促進することもできる。好ましい態様において、高純度ボセンタンナトリウム塩の「種」晶は、溶媒を添加する前に添加される。
【0059】
本発明における、段階f)に係る高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶の回収は、生成物を上清み液から分離することによって行われる。通常、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶の回収は、濾過減圧濾過、デカンテーション、遠心分離、又はこれらの組合せ等、当業者に知られた方法いずれかにより行われる。好ましい実施形態においては、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶は、濾過又は遠心分離で回収される。
【0060】
所望により、上述の方法により得られた高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶の残留溶媒を低減するために、該結晶を更に乾燥させることができる。
【0061】
本発明における段階g)に係る高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶からボセンタン一水和物への転換は、当業者に知られた方法、例えば、特許文献3に記載されている手順に従い行うことができる。また、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶からボセンタン一水和物への転換は、例えば、アセトン/水(1:1)の混合物中に塩酸を添加することでpHを4〜5に調整することによって行うことができる。
【0062】
式(II)の化合物は、公知であり、従来技術の方法、例えば、特許文献2に記載されている手順に従い調製することができる。
【0063】
式(III)の化合物も、公知化合物であり、従来技術の方法、例えば、特許文献1に記載されている手順に従い調製することができる。
【0064】
また、上述の式(III)の化合物を、ナトリウムメトキシド(CH
3ONa)とエチレングリコールとの反応により調製することもできる。
【0065】
本発明の他の態様においては、ナトリウムメトキシド(CH
3ONa)をエチレングリコールと接触させることにより得られた式(III)の化合物を含む反応混合物に、式(II)の4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドカリウム塩を直接添加することを含む方法により、エチレングリコール溶媒和物としてのボセンタンナトリウム塩を調製することができる。
【0066】
本発明は他の態様において、式(I)のボセンタン一水和物を調製するための、上述のボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の使用を更に包含する。
【0067】
本発明の格別な利点は、ボセンタンナトリウム塩をエチレングリコール溶媒和物として生成すると、予期せぬことに、該溶媒和物と上述の望ましくない不純物が共に溶媒に完全溶解でき、反応混合物から不溶な高純度ボセンタンナトリウム塩の析出を誘起させることが可能となり、上述の不純物が上清み液中に残留することにある。
【0068】
以下、実施例によって本発明を説明する。
【実施例】
【0069】
実施例1
ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の調製
4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドカリウム塩(II)(86.3g,153mmol)を、エチレングリコール酸ナトリウム(10eq)のエチレングリコール(1650g)溶液に加えた。この混合物を70℃で約15時間加熱した。反応終了後、混合物を50℃に冷却し、種晶を接種することによってボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物を析出させた。更に室温まで冷却し、混合物を同温度で更に3時間エイジングした後、固体を濾取した。所望の粗生成物(124.7g)を湿潤状態で得た。
【0070】
実施例2
ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物の調製
ナトリウムメトキシド(19.4g,358.5mmol)のメタノール液をエチレングリコール(381g)に加えた。この混合物を85℃に加熱し、メタノールを減圧下で留去した。混合物を室温まで放冷した後、4−tert−ブチル−N−[6−クロロ−5−(2−メトキシ−フェノキシ)−2−(2−ピリミジニル)−ピリミジン−4−イル]−ベンゼンスルホンアミドカリウム塩(II)(20.2g,35.8mmol)を加えた。この混合物を70℃で約15時間加熱した。反応終了後、混合物を50℃に冷却し、脱塩水17.4gを添加し、種晶を接種することによりボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物を析出させた。更に室温まで冷却し、混合物を同温度で更に3時間エイジングした後、固体を濾取した。所望の粗生成物(26.4g)を湿潤状態で得た。
【0071】
実施例3
二量体不純物及びピリミジノン不純物を実質的に含まない高純度ボセンタンナトリウム塩の調製
エタノール92%、アセトン5%及びシクロヘキサン3%(300g)の混合物に高純度ボセンタンナトリウムの種晶を添加した。撹拌を開始し、実施例1で得た湿潤状態の未精製ボセンタンナトリウム塩エチレングリコール溶媒和物(124.7g)をこの懸濁液に加えた。混合物を70℃で約2時間加熱した後、20℃で約1時間冷却した。この手順を繰り返し、最後に懸濁液を約20℃で更に5時間エイジングした。固体を濾過し、濾過ケークをエタノール92%、アセトン5%及びシクロヘキサン3%の混合物(115g)で洗浄した。50℃の減圧下で一夜乾燥させて、高純度ボセンタンナトリウム塩の結晶(71.2g)を得た。
二量体不純物の含有率:0.04%(HPLCにより測定)
ピリミジノン不純物の含有率:0.05%(HPLCにより測定)
【0072】
実施例4
ボセンタン一水和物の調製
ボセンタンナトリウム塩(40g)をアセトン(353g)に溶解し、塩酸(hydrochloridric acid)(8.48g)を加えた。析出した塩を濾別し、透明な溶液を蒸留して残量が190mLになるまで濃縮した。混合物を55℃に冷却し、温度を55℃に維持しながら脱塩水(58g)をゆっくりと滴下した。2時間エイジングした後、1時間かけて20℃に冷却し、この温度で更に2時間撹拌した。析出した固体を濾取し、濾過ケーキを水−アセトン(1:1)(38g)で洗浄した。減圧乾燥して所望の生成物(39.4g)を得た。