(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
高選択性エポキシ化触媒を充填した多数の反応管を有する触媒床を備える反応器中において実施されるエチレンエポキシ化プロセスの選択性を改善するための方法であって、
(a)少なくとも一定の時間T1の間、エチレン、酸素および有機塩化物調整剤を含む供給原料と触媒床を接触させて、エチレンオキシドを生成するステップ、
ここで、T1は、始動後、触媒の1立方メートル当たり0.1キロトンのエチレンオキシドを生成する14日から42日の時間であり、
(b)続いて、一定の時間T2にわたって高選択性エポキシ化触媒を塩化物ストリッピングにかけるステップであって、
(i)供給原料に加えられる有機塩化物調整剤を低減すること、および
(ii)塩化物の一部を触媒の表面からストリッピングするために、有効量の飽和炭化水素共調整剤を加えることにより触媒を処理すること
を含むステップ、ここで、T2は2時間から72時間であり、
ならびに
(c)塩化物ストリッピングの後、加えられる有機塩化物の量を増大させ、ならびに飽和炭化水素共調整剤の添加を無くすステップ
を含む方法。
供給原料中に加えられる新鮮な有機塩化物の量が、ステップ(b)塩化物ストリッピングの間、25パーセントから100パーセント低下される、請求項5に記載の方法。
炭化水素共調整剤がエタンであり、ならびにステップ(b)の塩化物ストリッピングの間、供給原料に加えられるエタンの量が、供給原料に基づいて0.1モル%から2モル%である、請求項6に記載の方法。
炭化水素共調整剤がエタンであり、ならびにステップ(b)の塩化物ストリッピングの間、供給原料に加えられるエタンの量が、供給原料に基づいて0.2モル%から1モル%である、請求項6に記載の方法。
【背景技術】
【0002】
オレフィンエポキシ化では、銀成分を含み、通常はそれと共に1つまたは複数のさらなる元素が担体上に堆積されている触媒を用いることにより、オレフィンが酸素と反応して、オレフィンエポキシドが形成される。オレフィンオキシドは、水、アルコールまたはアミンと反応して、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルまたはアルカノールアミンを形成し得る。したがって、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテルおよびアルカノールアミンは、オレフィンのエポキシ化および形成されたオレフィンオキシドの水、アルコールまたはアミンを用いた転化を含む多段階プロセスにより生成され得る。
【0003】
エポキシ化プロセスの性能は、選択性、触媒の活性および稼働の安定性に基づいて評価され得る。選択性とは、転化されて所望のオレフィンオキシドを生成したオレフィンのモル分率である。現代の銀系エポキシ化触媒は、オレフィンオキシド生成に対して高選択性である。現代の触媒をエチレンのエポキシ化に用いる場合、エチレンオキシドに対しての選択性は、85モル%超の値に到達し得る。このような高選択性触媒の一例は、銀およびレニウム促進剤を含む触媒であり、たとえば米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号およびUS2009/0281345A1である。
【0004】
数十年間、相当な研究が、触媒の活性、選択性および寿命の改善、ならびに触媒性能の完全な活用を可能にするプロセス条件の発見に費やされてきた。反応改質剤、たとえば有機ハロゲン化物は、高選択性触媒の選択性を改善するために、エポキシ化プロセス中に供給原料に加えられ得る(たとえばEP−A−352850、米国特許第4,761,394号および米国特許第4,766,105号を参照されたく、これらは、参照により本明細書に組み込む。)。反応改質剤は、所望のオレフィンオキシドの形成に比べて、二酸化炭素および水へのオレフィンまたはオレフィンオキシドの望ましくない酸化を抑制する。EP−A−352850は、一定の酸素転化レベルおよび所与の組の反応条件において、供給原料中の有機ハロゲン化物の量の関数として選択性の最適値があることを教示している。
【0005】
選択性を改善できる数多くのプロセス改善が公知になっている。たとえば、低CO
2レベルが高選択性触媒の選択性の改善に有用であることは周知である。たとえば、米国特許第7,237,677号、米国特許第7,193,094号、米国公開特許出願2007/0129557、WO2004/07873、WO2004/07874およびEP2,155,708を参照されたい。これらの特許はまた、反応器供給原料中の水濃度が、最大で0.35モルパーセント、好ましくは0.2モルパーセント未満に維持されるべきであることも開示している。その他の特許は、良好な活性を維持する塩化物調整剤の制御を開示している。たとえば、米国特許第7,657,331号、EP1,458,698および米国公開特許出願2009/0069583を参照されたい。なおさらには、EOプロセス稼働およびプロセス中の触媒の性能を改善する手段を取り扱う、数多くのその他の特許がある。たとえば、米国特許第7,485,597号、米国特許第7,102,022号、米国特許第6,717,001号、米国特許第7,348,444号および米国公開特許出願2009/0234144を参照されたい。
【0006】
すべての触媒は先ず、良好な選択性の稼働を確立するように始動されなければならない。米国特許第7,102,022号は、高選択性触媒が使用されるエポキシ化プロセスの始動に関する。この特許では、高選択性触媒が熱処理を受ける改良型の始動手順が開示されており、ここで、該触媒は、高選択性触媒の常用温度を超える温度(すなわち260℃超)において、酸素を含む供給原料と接触する。米国公開特許出願2004/0049061は、低い銀密度を有する高選択性触媒の選択性を改善する方法に関する。米国特許第4,874,879号は、高選択性触媒を使用するエポキシ化プロセスの始動に関し、ここで、高選択性触媒は先ず、該触媒の常用温度より低い温度において、有機塩化物調整剤およびエチレンを含有し場合によってバラストガスをも含有する供給原料と接触させられる。EP−B1−1532125は、高選択性触媒が先ず、有機ハロゲン化物を含有する供給原料の存在下で予備浸漬段階を受け、次いで、有機ハロゲン化物を含んでいないまたは低量の有機ハロゲン化物を含み得る供給原料の存在下でストリッピング段階を受ける改良型の始動手順に関する。ストリッピング段階は、16時間より長く、最大で200時間までの間継続すると教示されている。米国特許出願第2009/0281339号は、供給原料中の有機塩化物が、実質的に最適な選択性のEOを生成するのに十分な値に調節される始動に関する。
【0007】
始動期間の終了時、塩化物レベルは、典型的には、所望のEO生産量において最大の選択性を与える塩化物レベルを見出すように調節される。プラントは次いで、塩化物レベルをこのいわゆる「塩化物最適値」に等しくなるよう設定して触媒の平常稼働を開始し、これは、反応器からそれが放出されるまで継続する。触媒の平常稼働中、いくつかの日常的事柄が起こり得る。
・触媒が失活する。一定の生産量を維持するために、反応温度は、触媒が失活するにつれて上昇される。
・生産量が、供給原料ストックの入手し易さ、生産需要または経済性のために変化し得る。生産量を増大するためには反応温度が上昇され、生産量を低下するためには反応温度が低下される。
・供給原料組成が変化し得る。一般に、CO
2レベルは、選択性が低下するにつれて触媒の寿命にわたって増大する。さらに、エチレンレベルおよび酸素レベルは、供給原料ストックの問題またはサイクル末期のより低い温度のために変更され得る。
・供給原料不純物(エタンまたはプロパン等)が変動し得る。
・設備故障または平常稼働からの企図しない稼働の変更もしくは逸脱のような事象のために稼働の不調があり得る。
【0008】
反応温度または炭化水素濃度の変化が塩化物最適値を変化させることは周知である(たとえば、US7,193,094およびEP1,458,698を参照されたい。)。たとえば、反応温度が上昇するまたは炭化水素レベルが増大するにつれて、塩化物レベルもまた、最大の選択性での稼働を維持するために増大されることを必要とする。日常的プラント稼働中、塩化物レベルは、2つの方法のうちの1つにより調節される。
1.プラントは、塩化物レベルを温度、組成等に関連付けるいくつかの特有の数式を利用する。この式は周期的に算定され、塩化物レベルが(この式によって決定される)最適なレベルと顕著に異なることが見出されたならば、塩化物レベルは、最適なレベルに等しくなるように調節される。
2.より高頻度では、プラントは、塩化物レベルが最適化されたままであるかを日常的に点検する。これは、プラントによって決定されるような、ある固定頻度において起き得、または特定の稼働条件変更の後に起き得る。典型的には、塩化物レベルは、わずかに増大または低下され、プラントは、選択性が変化したかを観察する。それが変化しなかったならば、それらは、おそらく選択性の上限において稼働しており、このため、塩化物レベルは、その元々の値に再設定される。選択性が変化したならば、塩化物レベルは、選択性の上限が見出されるまで小刻みに変化され、次いでプラントは、この新しい塩化物最適値において稼働を継続する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本エポキシ化方法は数多くの方法で実施され得るが、気相法として実施する、つまり、固体材料として典型的には充填床中に存在する触媒と、供給原料が気相中で接触する方法として実施するのが好ましい。一般に、本方法は連続プロセスとして実施される。反応器は、典型的には、触媒を加熱または冷却するための熱交換設備を装備している。本明細書で用いられる際、供給原料とは、触媒と接触している組成物であると考えられる。本明細書で用いられる際、触媒温度または触媒床の温度は、触媒床中のほぼ中間の温度であるとみなされる。
【0020】
新しい触媒ならびにプラント休止のために長期の閉止期間に置かれた老化した触媒がエポキシ化プロセスに利用される場合、始動プロセスを実施する前にこれらの触媒を、高温においてスイープガスに触媒を通過させることにより前処理することが場合によっては有用になり得る。スイープガスは、典型的には、不活性ガス、たとえば窒素もしくはアルゴンであり、または窒素および/もしくはアルゴンを含む混合物である。高温により、触媒の製造に使用されたであろう有機窒素化合物の大部分を窒素含有ガスに転化し、これは、ガス流中で掃引されて触媒から除去される。さらに、あらゆる水分が触媒から除去され得る。典型的には、触媒が反応器中に装填される際、冷却剤用加熱器を利用することにより、触媒の温度が、最大で200℃から250℃までにされ、好ましくは210℃から230℃までにされ、ガス流が触媒を通過していく。この前処理についてのさらなる詳細は、米国特許第4,874,879号に見出され得、これは、参照により本明細書に組み込む。
【0021】
触媒は、エチレン、酸素および有機塩化物を含む供給原料と触媒を接触させる初期ステップを含む始動プロセスを受ける。単にわかりやすさのため、このプロセスステップは、以降「初期始動段階」という用語により表される。初期始動段階中、触媒は、始動プロセス後に平常の初期稼働条件下で触媒が「ラインアウトされた」後にもたらされる選択性においてまたは近傍でエチレンオキシドを生成することができる。特に、初期始動段階中、選択性は、平常の初期稼働条件下での最適な選択性性能の3モル%以内になり得、より詳細には2モル%以内になり得、最も詳細には1モル%以内になり得る。適切には、選択性は、初期始動段階中に、86.5モル%超に到達して維持され得、特に少なくとも87モル%に到達して維持され得、より詳細には少なくとも87.5モル%に到達して維持され得る。触媒の選択性が素早く増大するので、有利なことに、エチレンオキシドの生産が追加される。
【0022】
初期始動段階中、触媒は、少なくとも1x10
−5モル%の塩化ビニルの増大(全ガス混合物に対する塩化ビニルのモルとして計算して)が反応器出口または再循環ガスループにおいて検出されるまで、一定の時間の間、有機塩化物と接触される。理論に拘束されることを望みはしないが、塩化ビニル以外の有機塩化物を用いた場合、出口または再循環ループにおいて検出された塩化ビニルは、触媒中に存在する銀の表面に吸着された塩化物と供給原料中に存在するC
2炭化水素との反応により発生したと考えられる。好ましくは、触媒は、塩化ビニルの少なくとも2x10
−5モル%の増大、特に最大で1x10
−4モル%(全ガス混合物に対する塩化ビニルのモルとして計算)の増大が反応器出口または再循環ガスループにおいて検出されるまで、一定の時間の間、有機塩化物と接触される。触媒と接触する有機塩化物の量は、触媒の1キログラム当たり塩化物の1ミリモル(mmolar)当量から12ミリモル当量までの範囲になり得る。mmolar当量の塩化物は、有機塩化物分子中に存在する塩化物原子の数を有機塩化物のモルに乗じることにより決定され、たとえば1mmoleの二塩化エチレンは、2mmolar当量の塩化物を提供する。有機塩化物は、1時間から15時間までの、好ましくは2時間から10時間までの、より好ましくは2.5時間から8時間までの範囲の一定の時間の間、触媒床に供給され得る。適切には、触媒と接触する有機塩化物の量は、最大で6mmolar当量/kg触媒になり得、特に最大で5.5mmolar当量/kg触媒になり得、より詳細には最大で5mmolar当量/kg触媒になり得る。初期始動段階中の供給原料中の有機塩化物の量は、総供給原料に対する塩化物のモルとして計算して、少なくとも1.5x10
−4モル%になり得、特に少なくとも2x10
−4モル%になり得る。初期始動段階中の有機塩化物の量は、総供給原料に対して最大で0.1モル%になり得、好ましくは最大で0.01モル%になり得る。好ましくは、初期始動供給原料は、平常のエチレンオキシド生成の初期期間中に使用されるのに最適な量を超えた量の有機塩化物を含み得る。
【0023】
初期始動段階中の供給原料はまた、本明細書で記述されたようなニトレート形成化合物またはニトリト形成化合物等の有機ハロゲン化物ではないさらなる反応改質剤も含み得る。
【0024】
初期始動段階中の供給原料はまた、エチレンも含有する。エチレンは、総供給原料に対して、少なくとも10モル%の、好ましくは少なくとも15モル%の、より好ましくは少なくとも20モル%の量で初期始動供給原料中に存在し得る。エチレンは、総供給原料に対して、最大で50モル%の、好ましくは最大で45モル%の、より好ましくは最大で40モル%の量で初期始動供給原料中に存在し得る。好ましくは、エチレンは、平常のエチレンオキシド生成中に利用されたのと同一または実質的に同一の量で初期始動供給原料中に存在し得る。これは、エチレン濃度が初期始動段階とプロセスをより効率的にする始動の後の平常のエチレンオキシド生成との間で調節されなくてもよいという、さらなる利点を提供する。
【0025】
初期始動段階中の供給原料はまた、酸素も含有する。酸素は、総供給原料に対して、少なくとも1モル%の、好ましくは少なくとも2モル%の、より好ましくは少なくとも2.5モル%の量で初期始動供給原料中に存在し得る。酸素は、総供給原料に対して、最大で15モル%、好ましくは最大で10モル%の、より好ましくは最大で5モル%の量で初期始動供給原料中に存在し得る。プロセスの後続段階における平常のエチレンオキシド生成中の供給原料組成と比較してより少ない酸素量を初期始動供給原料中に適用することが有利になり得、この理由は、供給原料中のより少ない酸素量が酸素転化レベルを低下させ、その結果、有利なことに、触媒中の高温部位がより良好に回避されてプロセスがより容易に制御できるようになるためである。
【0026】
初期始動段階中の供給原料はまた、二酸化炭素も含み得る。二酸化炭素は、総供給原料に対して、最大で10モル%の、好ましくは最大で5モル%の量で初期始動供給原料中に存在し得る。一実施形態では、初期始動段階はまた、総供給原料に対して、2モル%未満の、好ましくは1.5モルパーセント未満の、より好ましくは1.2モルパーセント未満の、最も好ましくは1モルパーセント未満の、特に最大で0.75モルパーセントの二酸化炭素も含有する。本発明の平常の実践では、反応器供給原料中に存在する二酸化炭素の量は、総供給原料に対して、少なくとも0.1モルパーセントであり、または少なくとも0.2モルパーセントであり、または少なくとも0.3モルパーセントである。適切には、二酸化炭素は、平常のエチレンオキシド生成中に利用されたのと同一または実質的に同一の量で初期始動供給原料中に存在し得る。初期始動段階中の供給原料の残部はまた、不活性状および/または飽和状の炭化水素も含み得る。
【0027】
初期始動段階中、触媒温度は、好ましくは、エポキシ化プロセスが始動プロセス後の平常稼働条件下で「ラインアウトされた」後の平常初期触媒稼働温度と実質的に同一の温度になり得る。本明細書で用いられる「実質的に同一の温度」という用語は、始動プロセス後の平常稼働条件下でエポキシ化プロセスが「ラインアウトされた」後の平常初期触媒稼働温度の±5℃以内の触媒温度を含むことを意図されている。好ましくは、触媒温度は、250℃未満であり、好ましくは最大で245℃である。触媒温度は、少なくとも200℃になり得、好ましくは少なくとも220℃になり得、より好ましくは少なくとも230℃になり得る。反応器入口圧力は、最大で4000kPa absoluteになり得、好ましくは最大で3500kPa absoluteになり得、より好ましくは最大で2500kPa absoluteになり得る。反応器入口圧力は、少なくとも500kPa absoluteである。以下で規定されるガス毎時空間速度すなわち「GHSV」は、500から10000Nl(ガス流のノルマルリットル)/l(有効触媒体積のリットル)/時の範囲になり得る。
【0028】
初期始動段階中、触媒は先ず、エチレンを含み場合によって飽和炭化水素、特にエタン、場合によってメタンを含む供給原料と接触され得る。有機塩化物が次いで、供給原料に加えられ得る。酸素が、供給原料への有機塩化物の最初の投入と同時にまたはすぐ後に、供給原料に加えられ得る。酸素の投入の数分内に、エポキシ化反応が始まり得る。二酸化炭素およびさらなる供給原料成分は、任意の時点で加えられ得、好ましくは、初期始動供給原料への酸素の最初の投入と同時またはすぐ後に加えられ得る。上述したように、初期始動段階中、触媒は、始動プロセス後に平常初期稼働条件下で触媒が「ラインアウトされた」後にもたらされる選択性においてまたは近傍でエチレンオキシドを生成することができる。初期始動段階中、触媒は、平常のエチレンオキシド生成中の目標生成レベルの45%から100%までの、特に、同一基準で50%から70%までのレベルでエチレンオキシドが生成されるような条件下で稼働される。
【0029】
本エポキシ化プロセスは、空気主体式であってもよくまたは酸素主体式であってもよく、「Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology」、第3版、9巻、1980、pp.445−447を参照されたい。空気主体式プロセスでは、空気または酸素に富んだ空気が酸化剤の供給源として用いられるが、酸素主体式プロセスでは、高純度(少なくとも95モル%)または非常に高純度(少なくとも99.5モル%)の酸素が酸化剤の供給元として用いられる。酸素主体式プロセスのさらなる記述については、参照により組み込む米国特許第6,040,467号を参照することができる。現在、大抵のエポキシ化プラントは、酸素主体式であり、これは、本発明の好ましい実施形態である。
【0030】
エチレン、酸素および有機塩化物以外にも、平常のエポキシ化プロセス中の供給原料は、窒素含有反応改質剤、二酸化炭素、不活性ガスおよび飽和炭化水素等、1つまたは複数の成分を含有していてもよい。
【0031】
窒素酸化物、ニトロメタン、ニトロエタンおよびニトロプロパン等の有機ニトロ化合物、ヒドラジン、ヒドロキシルアミンまたはアンモニアは、エポキシ化プロセス中に反応改質剤として使用され得る。エチレンエポキシ化の稼働条件下では、窒素含有反応改質剤はニトレートまたはニトリトの前駆体であり、つまり、それらはいわゆるニトレート形成化合物またはニトリト形成化合物であると頻繁に考えられている。窒素含有反応改質剤のさらなる記述については、参照により本明細書に組み込むEP−A−3642および米国特許第4,822,900号を参照することができる。
【0032】
適切な窒素酸化物は、一般式NO
xのものであり、式中、xは、1から2.5までの範囲にあり、たとえばNO、N
2O
3、N
2O
4およびN
2O
5を含む。適切な有機窒素化合物は、ニトロ化合物、ニトロソ化合物、アミン、ニトレートおよびニトリトであり、たとえばニトロメタン、1−ニトロプロパンまたは2−ニトロプロパンである。
【0033】
二酸化炭素は、エポキシ化プロセスにおける副生成物である。しかしながら、二酸化炭素は一般に、触媒活性に悪影響を与え、したがって、高濃度の二酸化炭素は、典型的には回避される。平常のエポキシ化プロセス中の典型的なエポキシ化反応器供給原料は、供給原料中の二酸化炭素を、総供給原料に対して最大で10モル%の量で含有し得、好ましくは総供給原料に対して最大で5モル%の量で含有し得る。総供給原料に対して3モル%未満の、好ましくは2モル%未満の、より好ましくは1モル%未満の量の二酸化炭素が用いられ得る。商用稼働中には、総供給原料に対して少なくとも0.1モル%の、特に少なくとも0.2モル%の量の二酸化炭素が供給原料中に存在し得る。
【0034】
不活性ガスは、たとえば、窒素もしくはアルゴンまたはこれらの混合物になり得る。適切な飽和炭化水素は、プロパンおよびシクロプロパンであり、特に、メタンおよびエタンである。飽和炭化水素が、酸素可燃限界を増大するために供給原料に加えられてもよい。
【0035】
平常のエチレンオキシド生成段階中、本発明は、エポキシ化プロセスの分野で公知な方法を用いて実践され得る。このようなエポキシ化方法のさらなる詳細については、たとえば、米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号、米国特許第6,372,925号、米国特許第4,874,879号および米国特許第5,155,242号を参照することができ、これらは、参照により本明細書に組み込む。
【0036】
平常のエチレンオキシド生成段階中、本プロセスは、広範な範囲から選択される反応温度を用いて実施することができる。好ましくは、その反応温度は、150℃から325℃までの範囲であり、より好ましくは180℃から300℃までの範囲である。
【0037】
平常のエチレンオキシド生成段階中、供給原料中のこれらの成分の濃度は、以下で記述されるように、広範な範囲内で選択され得る。
【0038】
供給原料中に存在するエチレンの量は、広範な範囲内で選択され得る。供給原料中に存在するエチレンの量は、総供給原料に対して最大で80モル%になる。好ましくは、それは、同一基準において、0.5モル%から70モル%までの、特に1モル%から60モル%までの範囲になる。好ましくは、供給原料中のエチレンの量は、始動プロセス中に用いられるものと実質的に同一である。所望ならば、エチレン濃度は触媒の寿命中に増大され得、それにより、選択性は触媒が老化した稼働段階中に改善され得る。参照により本明細書にその方法を組み込む米国特許第6,372,925号を参照されたい。
【0039】
供給原料中にはしばしば、エタンおよびメタン等の飽和炭化水素が存在する。これらの飽和炭化水素はまた、吸着された塩化物を触媒の表面から除去または「ストリッピング」するのに効果的であることから、塩化物「調整剤」の作用に影響を及ぼすため、「共調整剤」とも呼称される。エタンのレベルは、典型的には、供給原料の0.05モル%から1.5モル%であり、より典型的には供給原料の0.05mol%から0.5mol%であり、反応器への特定の供給原料流に依存する。このようなレベルはモニターされるが、平常稼働中には通常だと制御されない。しかしながら、本発明によれば、エタン共調整剤のレベルは、塩化物ストリッピングを補助するために増大され得る。
【0040】
供給原料中に存在する酸素の量は、広範な範囲内で選択され得る。しかしながら、実際には、酸素は一般に可燃域を回避する量で施用される。施用される酸素の量は、総供給原料の4モル%から15モル%までの、より典型的には5モル%から12モル%までの範囲内になる。
【0041】
可燃域外に維持するために、供給原料中に存在する酸素の量は、エチレンの量が増大されるにつれて低下され得る。実際の安全稼働範囲は、供給原料組成と共に、反応温度および圧力等の反応条件にもまた依存する。
【0042】
有機塩化物は一般に、供給原料中に、たとえば総供給原料に対する塩化物のモルとして計算して最大で0.1モル%の少量で用いられたときに、たとえば総供給原料に対する塩化物のモルとして計算して0.01x10
−4モル%から0.01モル%までの少量で用いられたときに、反応改質剤として効果的である。特に、有機塩化物が、総供給原料に対する塩化物のモルとして計算して、1x10
−4モル%から50x10
−4モル%までの、特に1.5x10
−4モル%から25x10
−4モル%までの、より詳細には1.75x10
−4モル%から20x10
−4モル%までの量で供給原料中に存在し得るのが好ましい。窒素含有反応改質剤が施用される場合、それらは、たとえば総供給原料に対する窒素のモルとして計算して最大で0.1モル%の低量で、たとえば総供給原料に対する窒素のモルとして計算して0.01x10
−4モル%から0.01モル%までの低量で供給原料中に存在し得る。特に、窒素含有反応改質剤が、総供給原料に対する窒素のモルとして計算して、0.05x10
−4モル%から50x10
−4モル%までの、特に0.2x10
−4モル%から30x10
−4モル%までの、より詳細には0.5x10
−4モル%から10x10
−4モル%までの量で供給原料中に存在し得るのが好ましい。
【0043】
不活性ガス、たとえば窒素またはアルゴンは、総供給原料に対して、0.5モル%から90モル%の量で供給原料中に存在し得る。空気主体式プロセスでは、不活性ガスは、供給原料中に30モル%から90モル%までの量で存在し得、典型的には40モル%から80モル%までの量で存在し得る。酸素主体式プロセスでは、不活性ガスは、供給原料中に0.5モル%から30モル%までの量で存在し得、典型的には1モル%から15モル%までの量で存在し得る。飽和炭化水素が存在するならば、それらは、総供給原料に対して最大で80モル%の量で存在し得、特に、同じ基準で最大で75モル%の量で存在し得る。高頻度で、それらは、同じ基準で、少なくとも30モル%の量で存在し、より高頻度では少なくとも40モル%の量で存在する。
【0044】
平常のエチレンオキシド生成段階では、エポキシ化プロセスは、好ましくは、1000kPaから3500kPaまでの範囲の反応器入口圧力において実施される。「GHSV」すなわちガス毎時空間速度とは、充填された触媒の1単位体積を1時間毎に常温および常圧(0℃、1atmすなわち101.3kPa)において通過する単位容積のガスである。好ましくは、エポキシ化プロセスが充填触媒床を伴った気相プロセスであるとき、GHSVは、1500N1/N1/hから10000N1/N1/hまでの範囲である。好ましくは、本プロセスは、1時間毎に触媒の1m
3当たり0.5kmoleから10kmoleまでのエチレンオキシドが生成される範囲の仕事率で、特に1時間毎に触媒の1m
3当たり0.7kmoleから8kmoleのエチレンオキシドが生成される範囲の仕事率(生産性)で、たとえば1時間毎に触媒の1m
3当たり5kmoleのエチレンオキシドが生成される範囲の仕事率(生産性)で実施される。本明細書で用いられる際、仕事率とは、1時間毎に触媒の1単位体積当たりに生成されるエチレンオキシドの量であり、選択性とは、転化されたエチレンモル量に対する、形成されたエチレンオキシドのモル量である。
【0045】
本発明の鍵は、プロセスの不調にしばしば起因する触媒の選択性の低下の後に塩化物の「塩化物ストリッピング」を開始することである。このステップはまた、塩化物のストリッピングに対するエタンの増大効果のため、「エタンストリッピング」とも呼ばれ得る。塩化物のストリッピングは、典型的には、新鮮な塩化物調整剤の導入を先ず停止または顕著に低減することにより達成される。塩化物投入の平常レベルは、触媒、温度、ガス流量および触媒体積の関数である。顕著に量を低減するとは、反応器に向かう供給原料流中への新鮮な塩化物調整剤の導入を少なくとも25%または50%低減すること、より好ましくは少なくとも75%低減すること、最も好ましくは塩化物調整剤のすべての新たな投入を排除することにより低減すること(100%の低減)を意味する。次いで、炭化水素共調整剤(好ましくは上記エタン含量)は、塩化物の一部を触媒表面からストリッピングするために増大される。塩化物ストリッピングに用いるために、供給原料に加えられる飽和炭化水素の量は、供給原料に基づいて、約0.1モル%から4モル%まで増大され得、好ましくは約0.2モル%から約2モル%まで増大され得、これは、(もしあれば)供給原料流中にすでに存在する飽和状C
2+炭化水素の平常レベルに追加してのものである。さらに、反応器温度を約1℃から約30℃まで増大することにも役立ち得、好ましくは約2℃から約15℃まで増大することにも役立ち得る。
【0046】
一実施形態では、エタンストリッピングは、塩化物の一部を触媒表面からストリッピングするために、塩化物供給原料濃度の低下および炭化水素共調整剤の増大(好ましくは上記エタン含量)を伴わずに実施される。塩化物ストリッピングに用いるために、供給原料に加えられる飽和炭化水素の量は、供給原料に基づいて約0.1モル%から4モル%まで増大され得、好ましくは約0.2モル%から約2モル%まで増大され得、これは、(もしあるならば)供給原料流中にすでに存在する飽和状C
2+炭化水素の平常レベルに追加してのものである。
【0047】
塩化物ストリッピングの後、塩化物は次いで、レベルがエタンストリッピングの前とほぼ同一に到達するまで、比較的短い時間にて再導入される。塩化物ストリッピングのための時間に関して、塩化物ストリッピング前と同一またはより良好な商用速度でEOの生成を開始するために、時間は可能な限り短くするべきである。この時間は、典型的には約2時間から72時間までであり、より好ましくは約4時間から約24時間までである。
【0048】
好ましい実施形態では、エタンのレベルは、ループガス流のベントまたはパージにより低減される。これは、エタンのベント率を増大することにより達成され得る。
【0049】
塩化物ストリッピングの後、本プロセスは、平常プラント条件下で継続され得る。場合によるステップ中、本プロセスは、塩化物ストリッピングの後に再最適化され得る。これは、塩化物調整剤を上下に変動して、どのレベルにおいて選択性が実質的に最適値になるかを測定することにより実行され得る。この最適化ステップは、米国特許第7,193,094号および米国公開出願第2009/0281339号で完全に説明されており、これらの開示は、参照により本明細書に組み込む。
【0050】
第1の「塩化物ストリッピング」の後、塩化物ストリッピングは後で、必要に応じて(たとえば、選択性が予想より低く低下する場合に)運転中に反復され得る。
【0051】
エポキシ化触媒は、担持触媒である。担体は、広範な範囲の材料から選択することができる。このような担体材料は、天然の無機材料であってよくまたは人工の無機材料であってよく、それらは、炭化ケイ素、粘土、軽石、ゼオライト、木炭および炭酸カルシウム等のアルカリ土類金属カルボネートを含む。好ましいのは、アルミナ、マグネシア、ジルコニア、シリカおよびこれらの混合物等の耐火性担体材料である。最も好ましい担体材料は、αアルミナである。
【0052】
担体の表面積は、適切には、担体の重量に対して、少なくとも0.1m
2/gになり得、好ましくは少なくとも0.3m
2/gになり得、より好ましくは少なくとも0.5m
2/gになり得、特に少なくとも0.6m
2/gになり得、表面積は、適切には、担体の重量に対して、最大で20m
2/gになり得、好ましくは最大で10m
2/gになり得、より好ましくは最大で6m
2/gになり得、特に最大で4m
2/gになり得る。本明細書で用いられる「表面積」は、Journal of the American Chemical Society 60(1938)pp.309−316で記述されているようなB.E.T.(Brunauer,Emmett and Teller)法によって測定される表面積に関すると理解される。大表面積担体は、それらがシリカに加えてアルカリ金属成分および/またはアルカリ土類金属成分を場合によって含むαアルミナ担体である場合は特に、改善された稼働の性能および安定性を提供する。
【0053】
担体の吸水度は、適切には、少なくとも0.2g/gになり得、好ましくは少なくとも0.25g/gになり得、より好ましくは少なくとも0.3g/gになり得、最も好ましくは少なくとも0.35g/gになり得、吸水度は、適切には、最大で0.85g/g、好ましくは最大で0.7g/gになり得、より好ましくは最大で0.65g/gになり得、最も好ましくは最大で0.6g/gになり得る。担体の吸水度は、0.2g/gから0.85g/gまでの範囲になり得、好ましくは0.25g/gから0.7g/gまでの範囲になり得、より好ましくは0.3g/gから0.65g/gまでの範囲になり得、最も好ましくは0.42g/gから0.52g/gまでの範囲になり得る。より高い吸水度は、含漬による担体上への金属および促進剤のより効率的な堆積の観点から好まれ得る。しかしながら、よい高い吸水度において、担体またはこれから作製された触媒は、より低い圧潰強度を有し得る。本明細書で用いられる際、吸水度は、ASTM C20に従って測定されたとみなされ、吸水度は、担体の重量に対する、担体の細孔中に吸着され得る水の重量として表される。
【0054】
担体は、可溶性残渣を除去するため、担体上への触媒成分の堆積前に洗浄され得る。さらには、全燃焼性材料を含む、担体を形成するのに用いた材料は、可溶性残渣を除去するために洗浄され得る。このような担体は、米国特許第6,368,998号およびWO−A2−2007/095453で記述されており、これは、参照により本明細書に組み込む。一方、未洗浄の担体もまた、成功裏に用いられ得る。担体の洗浄は一般に、可溶性および/またはイオン化性材料の大半を担体から除去するのに効果的な条件下で行われる。
【0055】
洗浄液は、たとえば水であってよく、1つもしくは複数の塩を含む水溶液であってよく、または水性有機希釈液であってよい。水溶液中に含まれるのに適した塩は、たとえばアンモニウム塩を含み得る。適切なアンモニウム塩は、たとえば硝酸アンモニウム、シュウ酸アンモニウム、フッ化アンモニウムおよびカルボン酸アンモニウム、たとえば酢酸アンモニウム、クエン酸アンモニウム、クエン酸水素アンモニウム、ギ酸アンモニウム、乳酸アンモニウムおよび酒石酸アンモニウムを含み得る。適切な塩はまた、アルカリ金属硝酸塩、たとえば硝酸リチウム、硝酸カリウムおよび硝酸セシウム等、その他の種類の硝酸塩も含み得る。水溶液中に存在する合計の塩の適切な量は、少なくとも0.001%wになり得、特に少なくとも0.005%wになり得、より詳細には少なくとも0.01%wになり得、最大で10%wになり得、特に最大で1%wになり得、たとえば0.03%wになり得る。含まれ得るまたは含まれていなくてもよい適切な有機希釈液は、たとえば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジメチルホルミアミド、アセトンまたはメチルエチルケトンのうちの1つまたは複数である。
【0056】
銀触媒の調製は、当分野では公知であり、公知な方法が、本発明の実践に用いられ得る触媒の調製に適用できる。担体上に銀を堆積する方法は、カチオン状銀および/または錯体状銀を含有する銀化合物に担体または担体ボディを含漬させること、および、金属状銀粒子を形成する還元を実施することを含む。このような方法のさらなる記述については、米国特許第5,380,697号、米国特許第5,739,075号、米国特許第4,766,105号および米国特許第6,368,998号を参照することができ、これらは、参照により本明細書に組み込む。適切には、銀分散液、たとえば銀ゾルが、担体上に銀を堆積するのに用いられ得る。
【0057】
金属状銀へのカチオン状銀の還元は、触媒が乾燥されてその結果このような還元が別個のプロセスステップを必要としなくなるステップ中に達成され得る。これは、銀含有含漬溶液が還元剤、たとえば、オキサレート、ラクテートまたはホルムアルデヒドを含む場合の事例であり得る。
【0058】
明瞭な触媒活性が、触媒の重量に対して少なくとも10g/kgの触媒の銀含量を採用することにより得られる。好ましくは、触媒は、10g/kgから500g/kgまでの、より好ましくは50g/kgから450g/kgまでの、たとえば105g/kgまたは120g/kgまたは170g/kgまたは190g/kgまたは250g/kgまたは350g/kgの量の銀を含む。本明細書で用いられる際、そうでないと述べられていない限り、触媒の重量は、担体および触媒成分の重量を含む触媒の総重量であるとみなされる。
【0059】
一実施形態では、本触媒は、触媒の重量に対して少なくとも150g/kgの触媒の銀含量を採用する。好ましくは、触媒は、150g/kgから500g/kgまでの、より好ましくは170g/kgから450g/kgまでの、たとえば190g/kgまたは250g/kgまたは350g/kgの量の銀を含む。
【0060】
本発明に用いるための触媒は、レニウム促進剤成分をさらに含む。レニウム促進剤が担体上に堆積され得る形態は、本発明にとって重要ではない。たとえば、レニウム促進剤は、適切には、塩または酸の形態の酸化物としてまたはオキシアニオンとして提供され得、たとえばレニウム酸塩または過レニウム酸塩として提供され得る。
【0061】
レニウム促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、少なくとも0.01mmole/kgの、好ましくは少なくとも0.1mmole/kgの、より好ましくは少なくとも0.5mmole/kgの、最も好ましくは少なくとも1mmole/kgの、特に少なくとも1.25mmole/kgの、より詳細には少なくとも1.5mmole/kgの量で存在し得る。レニウム促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、最大で500mmole/kgの、好ましくは最大で50mmole/kgのより好ましくは最大で10mmole/kgの量で存在し得る。
【0062】
一実施形態では、レニウム促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、少なくとも1.75mmole/kgの、好ましくは少なくとも2mmole/kgの量で存在する。レニウム促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、最大で15mmole/kgの、好ましくは最大で10mmole/kgの、より好ましくは最大で8mmole/kgの量で存在し得る。
【0063】
一実施形態では、本触媒は、担体上に堆積されたカリウム促進剤をさらに含み得る。カリウム促進剤は、触媒の重量に対する堆積されたカリウム元素の総量として計算して、少なくとも0.5mmole/kgの、好ましくは少なくとも1mmole/kgの、より好ましくは少なくとも1.5mmole/kgの、最も好ましくは少なくとも1.75mmole/kgの量で堆積され得る。カリウム促進剤は、同一基準において、最大で20mmole/kgの、好ましくは最大で15mmole/kgの、より好ましくは最大で10mmole/kgの、最も好ましくは最大で5mmole/kgの量で堆積され得る。カリウム促進剤は、同一基準において、0.5mmole/kgから20mmole/kgまでの、好ましくは1mmole/kgから15mmole/kgまでの、より好ましくは1.5mmole/kgから7.5mmole/kgまでの、最も好ましくは1.75mmole/kgから5mmole/kgまでの量で堆積され得る。本発明によって調製された触媒は、反応供給原料が低レベルの二酸化炭素を含有する条件下で稼働された場合は特に、触媒の選択性、活性および/または安定性における改善を示し得る。
【0064】
本発明に用いるための触媒は、レニウム共促進剤をさらに含み得る。レニウム共促進剤は、タングステン、モリブデン、クロム、硫黄、リン、ホウ素およびこれらの混合物から選択され得る。
【0065】
レニウム共促進剤は、元素(すなわち、タングステン、クロム、モリブデン、硫黄、リンおよび/またはホウ素の合計)として計算して、触媒の重量に対して、少なくとも0.1mmole/kgの、より典型的には少なくとも0.25mmole/kgの、好ましくは少なくとも0.5mmole/kgの総量で存在し得る。レニウム共促進剤は、同一基準において、最大で40mmole/kgの、好ましくは最大で10mmole/kgの、より好ましくは最大で5mmole/kgの総量で存在し得る。レニウム共促進剤が担体上に堆積され得る形態は、本発明にとって重要ではない。たとえば、それは、適切には、塩または酸の形態の酸化物としてまたはオキシアニオンとして提供され得、たとえば、硫酸塩、ホウ酸塩またはモリブデン酸塩として提供され得る。
【0066】
一実施形態では、本触媒は、2より大きい、より好ましくは少なくとも2.5、最も好ましくは少なくとも3のタングステンに対するレニウム促進剤のモル比において、レニウム促進剤およびタングステンを含有する。タングステンに対するレニウム促進剤のモル比は、最大で20になり得、好ましくは最大で15になり得、より好ましくは最大で10になり得る。
【0067】
一実施形態では、本触媒は、レニウム促進剤を含み、第1の共促進剤成分および第2の共促進剤成分をさらに含む。第1の共促進剤は、硫黄、リン、ホウ素およびこれらの混合物から選択され得る。第1の共促進剤が元素としての硫黄を含むのが特に好ましい。第2の共促進剤成分は、タングステン、モリブデン、クロムおよびこれらの混合物から選択され得る。第2の共促進剤成分が元素としてのタングステンおよび/またはモリブデンを含むこと、特にタングステンを含むことが特に好ましい。第1の共促進剤成分および第2の共促進剤成分が担体上に堆積され得る形態は、本発明にとって重要ではない。たとえば、第1の共促進剤成分および第2の共促進剤成分は、適切には、塩または酸の形態の酸化物としてまたはオキシアニオンとして提供され得、たとえばタングステン酸塩、モリブデン酸塩または硫酸塩として提供され得る。
【0068】
この実施形態では、第1の共促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量(すなわち、硫黄、リンおよび/またはホウ素の合計)として計算して、少なくとも0.2mmole/kgの、好ましくは少なくとも0.3mmole/kgの、より好ましくは少なくとも0.5mmole/kgの、最も好ましくは少なくとも1mmole/kgの、特に少なくとも1.5mmole/kgの、より詳細には少なくとも2mmole/kgの総量で存在し得る。第1の共促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、最大で50mmole/kgの、好ましくは最大で40mmole/kgの、より好ましくは最大で30mmole/kgの、最も好ましくは最大で20mmole/kgの、特に最大で10mmole/kgの、より詳細には最大で6mmole/kgの総量で存在し得る。
【0069】
この実施形態では、第2の共促進剤成分は、触媒の重量に対する元素の総量(すなわち、タングステン、モリブデンおよび/またはクロムの合計)として計算して、少なくとも0.1mmole/kgの、好ましくは少なくとも0.15mmole/kgの、より好ましくは少なくとも0.2mmole/kgの、最も好ましくは少なくとも0.25mmole/kgの、特に少なくとも0.3mmole/kgの、より詳細には少なくとも0.4mmole/kgの総量で存在し得る。第2の共促進剤は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、最大で40mmole/kgの、好ましくは最大で20mmole/kgの、より好ましくは最大で10mmole/kgの、最も好ましくは最大で5mmole/kgの総量で存在し得る。
【0070】
一実施形態では、第2の共促進剤に対する第1の共促進剤のモル比は、1より大きくなり得る。この実施形態では、第2の共促進剤に対する第1の共促進剤のモル比は、好ましくは少なくとも1.25になり得、より好ましくは少なくとも1.5になり得、最も好ましくは少なくとも2、特に少なくとも2.5になり得る。第2の共促進剤に対する第1の共促進剤のモル比は、最大で20になり得、好ましくは最大で15になり得、より好ましくは最大で10になり得る。
【0071】
一実施形態では、第2の共促進剤に対するレニウム促進剤のモル比は、1より大きくなり得る。この実施形態では、第2の共促進剤に対するレニウム促進剤のモル比は、好ましくは少なくとも1.25になり得、より好ましくは少なくとも1.5になり得る。第2の共促進剤に対するレニウム促進剤のモル比は、最大で20になり得、好ましくは最大で15になり得、より好ましくは最大で10になり得る。
【0072】
一実施形態では、本触媒は、触媒の重量に対して1mmole/kgより大きい量のレニウム促進剤を含み、担体上に堆積された第1の共促進剤および第2の共促進剤の総量は、触媒の重量に対する元素の総量(すなわち、硫黄、リン、ホウ素、タングステン、モリブデンおよび/またはクロムの合計)として計算して、最大で12mmole/kgになり得る。この実施形態では、第1の共促進剤および第2の共促進剤の総量は、好ましくは、最大で10mmole/触媒1kgになり得、より好ましくは最大で8mmole/触媒1kgになり得る。この実施形態では、第1の共促進剤および第2の共促進剤の総量は、好ましくは、少なくとも0.1mmole/触媒1kgになり得、より好ましくは少なくとも0.5mmole/触媒1kgになり得、最も好ましくは少なくとも1mmole/触媒1kgになり得る。
【0073】
本触媒は、好ましくは、担体上に堆積されたさらなる元素をさらに含み得る。適格なさらなる元素は、窒素、フッ素、アルカリ金属、アルカリ土類金属、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タリウム、トリウム、タンタル、ニオブ、ガリウムおよびゲルマニウムならびにこれらの混合物のうちの1つまたは複数になり得る。好ましくは、アルカリ金属は、リチウム、ナトリウムおよび/またはセシウムから選択される。好ましくは、アルカリ土類金属は、カルシウム、マグネシウムおよびバリウムから選択される。好ましくは、さらなる元素は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、0.01mmole/kgから500mmole/kgまでの、より好ましくは0.5mmole/kgから100mmole/kgまでの総量で触媒中に存在し得る。さらなる元素は、任意の形態で提供され得る。たとえば、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩または水酸化物が適切である。たとえば、リチウム化合物は、水酸化リチウムまたはリチウムニトレートになり得る。
【0074】
一実施形態では、本触媒は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、1.0mmole/kgより大きい、特に少なくとも2.0mmole/kgの、より詳細には少なくとも3.0mmole/kgの量のセシウムをさらなる元素として含み得る。この実施形態では、本触媒は、触媒の重量に対する元素の総量として計算して、最大で20mmole/kgの、特に最大で15mmole/kgの量のセシウムを含み得る。本明細書で用いられる際、そうでないと述べられていない限り、本触媒中に存在するアルカリ金属の量および担体中に存在する水浸出性成分の量は、100℃において脱イオン水により触媒または担体から抽出され得る限りの量であるとみなされている。抽出方法は、触媒または担体の10グラム試料を、5分間100℃において20ml部の脱イオン水中で加熱することにより3回抽出すること、および、合わさった抽出物中において公知な方法、たとえば原子吸光分析法を用いて妥当な金属を測定することを包摂する。
【0075】
本明細書で用いられる際、そうでないと述べられていない限り、本触媒中に存在するアルカリ土類金属の量および担体中に存在する酸浸出性成分の量は、100℃において脱イオン水中の10%w硝酸により触媒または担体から抽出される限りの量であるとみなされる。抽出方法は、触媒または担体の10グラム試料を、100ml部の10%w硝酸と一緒に30分間沸騰する(1atm.、すなわち、101.3kPa)ことにより抽出すること、および、合わさった抽出物中において公知な方法、たとえば原子吸光分析法を用いて妥当な金属を測定することを包摂する。米国特許第5,801,259号が参照され、これは、参照により本明細書に組み込む。
【0076】
生成されたエチレンオキシドは、当分野で公知な方法を用いて生成混合物から回収され得、たとえば、反応器出口流からエチレンオキシドを水中に吸着し、場合によって水溶液からエチレンオキシドを蒸留によって回収することにより回収され得る。エチレンオキシドを含有する水溶液の少なくとも一部は、エチレンオキシドを1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、1,2−カルボネートまたはアルカノールアミンに転化するための、特にエチレングリコール、エチレングリコールエーテル、炭酸エチレンまたはアルカノールアミンに転化するための後続プロセスにおいて利用され得る。
【0077】
エポキシ化プロセス中に生成されたエチレンオキシドは、1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、1,2−カルボネートまたはアルカノールアミンに転化され得る。本発明は、エチレンオキシドの生成のためのより魅力的なプロセスにつながるのだが、それは同時に、本発明に従ってエチレンオキシドを生成すること、ならびに、得られたエチレンオキシドを続いて1,2−ジオール、1,2−ジオールエーテル、1,2−カルボネートおよび/またはアルカノールアミンの製造に使用することを含む、より魅力的なプロセスにもつながる。
【0078】
1,2−ジオール(すなわちエチレングリコール)または1,2−ジオールエーテル(すなわちエチレングリコールエーテル)への転化は、たとえば、適切には酸性または塩基性の触媒を用いてエチレンオキシドを水と反応させることを含み得る。たとえば、1,2−ジオールを支配的に製造しながら1,2−ジオールエーテルを少なく製造するためには、エチレンオキシドは、酸触媒の存在下、たとえば全反応混合物に基づいて0.5−1.0%w硫酸の存在下での50−70℃、1bar absoluteにおける液相反応中に10倍モル過剰の水と反応し得、または、好ましくは触媒の不在下での130−240℃、20−40bar absoluteにおける気相反応中に反応し得る。このような大量の水の存在は、1,2−ジオールの選択的形成を助長することができ、反応による放熱受け皿として機能して、反応温度の制御に役立ち得る。水の比率が低下された場合、反応混合物中の1,2−ジオールエーテルの比率が増大される。代替の1,2−ジオールエーテルは、アルコール、特にメタノールまたはエタノール等の第1級アルコールを用いて少なくとも一部の水をアルコールによって置換することでエチレンオキシドを転化することにより調製され得る。
【0079】
エチレンオキシドは、エチレンオキシドを二酸化炭素と反応させることにより、対応する1,2−カルボネートに転化され得る。所望ならば、エチレングリコールは、続いてこの1,2−カルボネートを水またはアルコールと反応させてグリコールを形成することにより調製され得る。適用可能な方法については、米国特許第6,080,897号が参照され、これは、参照により本明細書に組み込む。
【0080】
アルカノールアミンへの転化は、たとえば、エチレンオキシドをアンモニアと反応させることを含み得る。無水アンモニアは、典型的には、モノアルカノールアミンの生成を助長するのに用いられる。アルカノールアミンへのエチレンオキシドの転化に適用可能な方法については、たとえば米国特許第4,845,296号を参照することができ、これは、参照により本明細書に組み込む。
【0081】
1,2−ジオールおよび1,2−ジオールエーテルは、多様な工業的用途に用いられ得、たとえば食品、飲料、タバコ、化粧品、熱可塑性ポリマー、硬化性樹脂システム、洗剤、伝熱システム等の分野に用いられ得る。1,2−カルボネートは、希釈液として用いられ得、特に溶媒として用いられ得る。アルカノールアミンは、たとえば、天然ガスの処理(「スイートニング」)に用いられ得る。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
実施例1では、エタン共調整剤レベルの増大が塩化物ストリッピングに影響する作用を示すために実験を行った。この実験では、US2009/0281345A1によるレニウム含有高選択性触媒を、パイロットプラント反応器中に装填した。前記触媒を、数週間の期間にわたって種々の条件下で稼働し、その後、条件を次のように変更した:30モル%のエチレン、8モル%の酸素、3モル%の二酸化炭素、残部の窒素および241psigの反応器入口圧力。冷却剤温度を220℃に設定し、塩化エチル濃度を4ppmに設定した。数時間の稼働中、触媒選択性は、最大に到達した後で徐々に低下し、最適な触媒性能から外れた。触媒選択性が85%に到達したときに、塩化物ストリッピングを実施した。第1の塩化物ストリッピングにおいて、反応器への塩化物の投入を0になるまで削減し、反応器温度を220℃に保ち、触媒性能を監視した。同様の実験を2度目に実施したが、この場合、塩化物を0になるまで削減したこと以外にも、0.6モル%のエタンを供給原料ガスに加えた。これらの2つの実験の結果は、
図1に示されている。
【0083】
図1から、エタンの不在下では、触媒性能が回復して最大選択性に到達するまで21時間かかるが、エタン添加の存在下では、最大選択性に到達するまで7時間しかかからないことが、明らかである。したがって、エタンの増量は、触媒が最適化されていない状態で稼働される時間の短縮につながり、顕著な経済的利益を触媒運用者にもたらした。