【実施例】
【0096】
実施例1 10種の異なる種に由来する細胞の遺伝子型3感染
ある種の遺伝子型3株および遺伝子型4株がブタおよび/またはシカならびにヒトに感染することは公知であるが、宿主域の制限範囲を調査するのに適したウイルス-細胞培養システムはない。このようなシステムを開発することを目指して、HEVの遺伝子型3のKernow-C1株を、HEVに感染したHIV-1患者の糞便から半精製した(5)。糞便が採取され、ウイルスゲノム約10
10個/gを含有することが確認された際、この患者は2年間慢性的にHEVに感染していた。ウイルスを5つのヒト細胞株および1つのアカゲザル細胞株に接種し、7日後、ORF2カプシドタンパク質およびORF3タンパク質に対する抗体を用いて、免疫蛍光顕微鏡検査のために細胞を染色した。これらのウイルスタンパク質はサブゲノムmRNAから転写されるため、これらの存在は、ウイルスRNA合成が起こったことを示す。6種の培養物すべてにおいて、感染したフォーカスが見出されたが、フォーカスの数は、ヒトHuh7.5肝癌細胞もしくはPLC/PRF/5肝癌細胞、A549肺癌細胞、Caco-2腸細胞、またはアカゲザル腎臓細胞の場合よりも、HepG2/C3Aヒト肝癌細胞の場合の方が7.5倍を超える多さであったことから、HepG2/C3A細胞が最も許容的であることが示唆された。
【0097】
半精製したウイルスを合計7ヶ月間、HepG2/C3A細胞において6回連続的に継代した。糞便中のウイルスはA549細胞またはPLC/PRF/5細胞における場合よりもそれぞれ80倍および90倍多いフォーカスをHepG2/C3A細胞において形成したが、継代4回目までに、このウイルスは、これらの他の2種の細胞株における場合よりも400倍および500倍多いフォーカスをHepG2/C3A細胞において作り出した。糞便ウイルスと6回継代ウイルスによる感染性ウイルスおよびビリオンRNAの産生を比較したHepG2/C3A細胞における増殖曲線から、糞便ウイルスの連続継代により、HepG2/C3A細胞においてより効率的に増殖できるウイルスが作製されたことが確認された(FFUに対するp=0.008およびRNAに対するp=0.013)(
図1)。14日目に、糞便ウイルスは培地100μL当たり89FFUおよび1.3×10
6GEのRNAを放出して、1FFU/15,083GEという比感染力(specific infectivity)を与えた。14日目に、6回継代ウイルスは、100μL当たり3203FFUおよび46.1×10
6GEのRNAを放出して、1FFU/14,399GEという比感染力を与えた。A549細胞またはPLC/PRF/5細胞において増殖するように糞便ウイルスを適応させようとする同様の試みは成功しなかった。
【0098】
また、ATCCから入手可能である様々な非霊長類細胞に感染する能力についても、糞便ウイルスを試験した。遺伝子型3ウイルスはブタおよびシカから単離されており、3種のブタ腎臓細胞株はそれぞれ、ORF2およびORF3で染色されるフォーカスを数多く含んでいたのに対し、シカ細胞株では中ぐらいの数であった(データ不掲載)。珍しいことに、ウシ、マウス、ニワトリ、ネコ、イヌ、およびウサギの細胞培養物もまたそれぞれ、免疫蛍光法によって確認したところ、ORF2タンパク質およびORF3タンパク質の両方に関して染色される細胞を少し含んでいた(データ不掲載)。
【0099】
ヒト細胞、ブタ細胞、およびシカ細胞における遺伝子型1および遺伝子型3の力価測定
遺伝子型1に対する宿主域の制限という問題を再考するために、遺伝子型1(Sar-55、Akluj)および遺伝子型3(US-2、糞便Kernow-C1、6回継代Kernow-C1)の入手可能な最も力価の高い貯蔵物の段階希釈物をHepG2/C3A細胞、LLC-PK1ブタ細胞、およびシカ細胞に接種し、3日後に、ORF2タンパク質およびORF3タンパク質に関して培養物を免疫染色した。最後の1つまたは2つの陽性希釈物におけるORF2陽性フォーカスの数を用いて、感染力価を算出した(
図2)。予想された通り、両方の遺伝子型1株がHepG2/C3A細胞に感染したが、驚くべきことに、これらは、効率は低いがLLC-PK1細胞にも感染した(Sar-55の場合のp=0.016およびAklujの場合のp=0.009)。一方、両方の遺伝子型3株が、HepG2/C3A細胞に感染する場合よりも効率的に、LLC-PK1細胞に感染した(糞便の場合のp=0.006、6回継代の場合のp=0.010、およびUS-2の場合のp=0.008)。HepG2/C3A細胞において増殖するように6回継代ウイルスを適応させたにもかかわらず、このウイルスは依然として、ヒト細胞よりも多くのブタ細胞に感染した。同様の結果(US-2に関して1つの例外あり)が複数回の実験で得られたが、ウイルス力価、およびしたがって比率は、実験によって変動した(表3)。この変動があるため、比較用の各アッセイ法に少なくとも1種の遺伝子型1株および1種の遺伝子型3株を含めることが必要である(表3)。
【0100】
糞便Kernow-C1ウイルスの力価と比べて6回継代ウイルスの力価の方が低いことは、細胞培養されたウイルスの比感染力の方が低いことを反映している。
図1の培養ウイルスのHepG2/C3A細胞における比感染力が約1FFU/15,000GEであったのに対し、糞便中Kernow-C1ウイルスのこれら同じ細胞における比感染力は1FFU/450GEであった。
【0101】
シカ細胞の感染はもっと複雑であった。US-2は、この実験ではシカ細胞に感染しなかったが、他の各株は、LLC-PK1細胞における力価より低い8分の1〜11分の1の力価で感染した。興味深いことに、ORF2タンパク質およびORF3タンパク質の二重染色により、遺伝子型1株ではORF2カプシドタンパク質産生が不十分であったが、遺伝子型3株ではそうではないことが示唆された。各ウェル中の染色されたシカ細胞すべてを数えた。遺伝子型1のORF3タンパク質を含む細胞の3分の2は、検出可能なORF2タンパク質を有していなかったのに対し、遺伝子型3のORF3タンパク質を含む細胞はすべて、ORF2タンパク質を含んでいた(
図3A)。この不均衡は、遺伝子型1のSar-55に感染したヒト細胞では認められなかった。ORF3タンパク質について陽性とランダムに採点された細胞73個の内で、検出可能なORF2タンパク質を欠いていたのは1個の細胞のみであった。ORF2およびORF3の翻訳は、同じバイシストロン性のmRNA上にある狭い間隔で配置されたメチオニンコドンから開始するため(16)、この結果から、遺伝子型1株に感染したシカ細胞ではORF2タンパク質合成を犠牲にしてORF3タンパク質合成の開始を好む翻訳傾向があるが、遺伝子型3株に感染したシカ細胞ではそうではないことが示唆された。
【0102】
シカ細胞におけるウイルスタンパク質産生は、FACS解析を可能にするのに十分なほど活発ではなかった。したがって、CMVプロモーター駆動性mRNAをトランスフェクトされた細胞のFACS解析を実施して、開始傾向を確認した。野生型Sar-55、野生型Kernow-C1、および最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1のものに変異させたSar-55のバイシストロン性mRNAを、S10-3ヒト肝癌細胞およびシカ細胞において一過性に発現させた。ORF2タンパク質およびORF3タンパク質について別々に染色した培養物のFACS解析から、CMV-Sar(p=0.003)よりも、変異体CMV-MT29(p=0.024)およびCMV-Kernow(p=0.052)の方が、ORF3タンパク質に対するORF2タンパク質の相対的産生量が顕著に大きいことが実証された(
図3B)。CMV-SarとCMV-MT29とはこれら29個のヌクレオチドが異なるだけであったため、変異体によるORF2の産生比率の上昇から、Sar-55 ORF2カプシドタンパク質の翻訳がシカ細胞において減少していることが示唆された。実際、同じ29ヌクレオチド変異を感染性完全長Sar-55クローン中に導入して(pSK-E2-MT29)、それおよび野生型Sar-55転写物をシカ細胞にトランスフェクトし、5日後にORF2タンパク質産生およびORF3タンパク質産生について免疫顕微鏡法によって採点した場合、ORF3/ORF2を含む細胞の平均比率は、野生型の3.68から変異体では0.4まで減少し(p=0.004)、したがって、翻訳開始部位の29ヌクレオチドの遺伝子型3配列が、シカ細胞におけるSar-55のORF2産生を増大させるのに十分であることが確認された(表1)。比較すると、野生型クローンまたは変異体クローンのいずれかをトランスフェクトされたヒトS10-3細胞では、ORF3/ORF2を含む細胞の比率は同様の値が得られた(表2)。
【0103】
実施例2 HepG2/C3Aに適応させたウイルスおよび宿主細胞組換え
糞便中のウイルスおよび6回継代ウイルスのRT-PCRコンセンサス配列を決定した。ORF1の超可変領域(HVR)中のアミノ酸58個のインフレーム挿入断片に加えて、16個のアミノ酸差異(ORF1中に10個、ORF2中に5個、およびORF3中に1個)によって(22)、6回継代ウイルスは糞便ウイルスと異なっていた(表4)。Blast検索により、挿入された配列は様々な種で高度に保存されているリボソームS17eスーパーファミリーに属するものと同定された。ヌクレオチド170個の内の167個およびアミノ酸57個の内の53個がヒトリボソームタンパク質S17(Genbank DQ896701.2)のものと同一であった(
図4)のに対し、ブタのS17タンパク質(AY5500731.1)の場合はヌクレオチド171個の内の155個のみであった。ペアにしたHEVプライマーおよび挿入配列プライマーを用いたRT-PCRによって、挿入物を有するウイルスゲノムが元の糞便懸濁液中で検出されたことから、患者または以前の宿主のいずれかにおいて二重組換え事象が起こっていたことが示された。糞便中の組換えゲノムは、糞便に由来するRT-PCR産物または感染後70日目の培地中の初回継代ウイルスに由来するRT-PCR産物の直接的配列決定によって検出されなかったことから、少数派の種であったことは注目に値する。HEV特異的プライマーを用いて、完全なHVRを糞便から増幅させ、クローニングし、配列決定した。配列決定したクローン120個の内で、挿入断片を含むものは1つもなかった。
【0104】
挿入された配列またはそのサイズが関連しているかを判定するために、挿入断片配列を、センスの向き、逆向き、または逆相補的な向きのいずれかで、Sar-55感染性クローンの超可変領域中にインフレームでクローニングし、インビトロで転写されたゲノムをS10-3細胞にトランスフェクトした。野生型ゲノムおよびセンスの向きの挿入断片を有するものは区別がつかず、計数できないほど多くのウイルス陽性細胞をもたらした。一方、逆にした挿入断片および逆相補的な挿入断片を含むゲノムをトランスフェクトされた細胞を含むウェルは、免疫蛍光顕微鏡検査法によって測定したところ、ウイルス陽性細胞をそれぞれ16個および12個しか含まなかった(データ不掲載)。
【0105】
実施例3 複製するクローンの調製
HEVに感染したHIV-1患者の半精製糞便中に存在するKernow-C1ウイルスゲノムの全ヌクレオチド配列を、ブタE型肝炎ウイルス株3(Meng et.al)の完全長cDNAクローンに由来するプライマーを最初に用いた、SuperScript II逆転写酵素(Life Technologies)、PrimeStar HS DNAポリメラーゼ(TAKARA)、および2ステップRT-PCRキット(QIAGEN)を用いたRT-PCRによって決定した。その後のプライマーは、新しく得られた配列に基づいて設計した。最端の5'配列を5'RACEキット(Life Technologies)を用いて決定した。
【0106】
完全長cDNAクローン[K I]を構築するために、半精製した糞便ウイルスを接種されたHepG2細胞の培地に放出された1回継代ウイルスからTRIZOL LS試薬(Life Technologies)を用いてKernow-C1ウイルスRNAを抽出した。SuperScript II逆転写酵素(Life Technologies)、Herculase HotStart Taq(Stratagene)、およびPrimeStar HS DNAポリメラーゼ(TAKARA)を用いてKernow-C1ゲノムを増幅させた。Kernow-C1ゲノム全体に渡る合計6個のオーバーラップする断片を増幅させ、融合PCRによって連結して2個のオーバーラップする断片とし、続いてこれらの断片を、各断片中に存在する独特の制限部位で結合させて一つにした。コードされるゲノムの5'末端を、独特なXbaI部位およびT7 RNAポリメラーゼコアプロモーターを有するように人工的に設計した。3'末端は、後に独特なMluI[プラスミド直線化のための部位]、さらにその後にHindIIが続く16個のアデノシンからなるストレッチを含むように人工的に設計した。完全長ゲノムcDNAをpBlueScript SK(+)プラスミド(Stratagene)のポリリンカーのXbaI部位とHindII部位の間に結合させた。
【0107】
超可変領域(HVR)中のアミノ酸58個のインフレームの挿入物を明らかにする2ステップRT-PCRキット(QIAGEN)を用いて、6回継代物のRT-PCRコンセンサス配列を決定した。Blast探索によって、この挿入物はヒトリボソームのタンパク質S17に最も近縁であることが確認された。
【0108】
HepG2/C3A細胞における6回の連続継代によって選択されたウイルスがヒトS17遺伝子の一部分を含む組換えウイルスであることは、6回継代ウイルスの配列決定をするまで(上記)、発見されていなかった。ウイルス/ヒトプライマー対を用いたネステッドRT-PCRにより、171ntの挿入されたS17配列を含むウイルスゲノムを糞便中に検出することができたが、これらは非常に小数派の疑似種を構成したため、糞便接種材料中のウイルスのHVR領域のcDNAクローン120個中には現われなかった(データ不掲載)。この挿入断片を含むウイルスが一連の継代のいつに最初に出現し、優占種にいつなったかを特定するために、6つの細胞培養継代段階のそれぞれにおける培地中のウイルスのHVR領域をRT-PCRによって増幅させ、クローニングし、配列決定した。
【0109】
配列決定解析の結果から、初回継代物に由来するクローン11個の内の2個がS17配列を既に含んでいたこと、および2回継代以降、クローンの大多数にS17配列が存在することが示された(表5)。驚くべきことに、114nt長の異なる哺乳動物遺伝子挿入断片が、初回の細胞培養継代物に由来するクローン11個の内の他の5個に存在しており、この場合、ほぼ同一の配列が、糞便由来のクローン120個の内の2個に存在した。この114ヌクレオチド長の配列は、GTPアーゼ活性化タンパク質遺伝子配列の中央に由来する10ntを欠いており、再編成された遺伝子セグメント(GenBank AB384614.1)からなっていた。この遺伝子セグメントでは、GTPアーゼnt3009〜3105の後に3'末端のGTPアーゼnt2981〜3008が続き、リーディングフレームは、この配列が、挿入された場合に、公知のあらゆる非冗長タンパク質データベースに対してこの配列を探索しても何にも一致しない無関係なアミノ酸配列をコードするように変更されていた。しかしながら、この挿入物は、後続の2回継代〜6回継代に由来するクローンのいずれにおいても検出されなかった。
【0110】
感染性cDNAウイルスクローン
培養細胞の培地は、これらの細胞に感染し、その中で複製サイクルを完了させることを最も上手くできるウイルス疑似種のメンバーを含むはずである。したがって、元のKernow株を含む便懸濁液を111日前に接種されたHepG2/C3A細胞の培地(1回継代ウイルス)から増幅させたクローニングしていないcDNA断片から、Kernowウイルスの最初の完全長cDNAクローンを構築した。このKernow 1回継代cDNAクローンp1は、S17挿入断片を欠いており(GenBank HQ389543)、糞便中のウイルスのコンセンサス配列とアミノ酸15個が異なっていた(表7)。これをS10-3肝癌細胞中にトランスフェクトし、5〜6日後に、免疫蛍光顕微鏡検査法により、ORF2タンパク質について染色された細胞についてこれらをモニターした。検出可能なORF2タンパク質を産生したのは、1回継代クローンのインビトロ転写物をトランスフェクトされたS10-3細胞の2%未満であったことから、このウイルスゲノムは感染性ではあるが、活発な複製に寄与するエレメントは欠いていることが示唆された。p1/S17を得るためにcDNAクローン中にS17挿入断片を組み込んだところ、トランスフェクトされる細胞の数は増加したが、レベルは約10%未満のままであった。
【0111】
より活発なウイルスを誘導するため、および細胞培養適応に寄与した領域を特定するために、p1/S17 cDNAの好都合な制限断片を、細胞培養に適応させた6回継代ウイルスから増幅させたクローニングしていないPCR産物の疑似種に順次置換した(表6)。これらの新規完全長ゲノムの複数のクローンに由来する転写物をS10-3細胞中にトランスフェクトし、ORF2産生について免疫蛍光顕微鏡検査法によって検査した。トランスフェクトされた細胞を最も高い比率で産生するクローンを次の置換のための骨格として使用し、この工程をさらに4回繰り返した。最後に、同じ実験において、すべてのクローンをフローサイトメトリーによって比較した(
図5)。最初の3回の順次的断片置換により、3'のORF2領域中および非コード領域中に(nt6812〜ポリA)、3'のORF1およびORF2/ORF3オーバーラップ中に(nt4608〜6812)、ならびにORF1の5'側の3分の1中に(nt671〜2182)、変異が導入されていた。これら3つの断片の内で、6812-A
n置換だけがトランスフェクション効率を有意に上昇させた(
図5)。nt4608〜6812に及ぶ6回継代PCRアンプリコンの内で、トランスフェクションレベルを最も押し上げた配列は、ORF3中のメチオニンコドン2つだけ(aa1およびaa69)をなくす変異を含んでいた(表6)。免疫蛍光顕微鏡検査法により、このcDNAクローンおよび後続の3種のcDNAクローンに由来するウイルスはORF3タンパク質を産生しないことが確認された(データ不掲載)。促進効果が最も大きい6回継代断片はnt2182〜3063にまたがり、Xドメイン中に天然に存在するアミノ酸変異3つおよびHVR中に1つのプロリン欠失を含んでいた。アミノ酸配列を保存しつつ、PCR解析および配列解析を大きく妨げるHVR中のC残基のかたまりを分裂させるために、この断片中のさらに4つのプロリンコドンを部位特異的変異誘発によってCCAコドンに変更した。5回目の断片置換(nt3063〜4608)は、ヘリカーゼ遺伝子およびポリメラーゼ遺伝子の高度に保存された領域を含み、いかなるアミノ酸変化も導入せず、明らかな効果は有していなかった(p=0.067)。最後に、p6ウイルスがORF3タンパク質を産生できるように、ORF3のメチオニン開始コドンを修復した。メチオニンコドンの存在または非存在は、S10-3細胞のトランスフェクションレベルに明らかな影響は与えなかった[p6/ORF3ヌルのトランスフェクションレベルとp6のトランスフェクションレベルを比較されたい(p=1.0)]。このクローンは、挿入断片を除いて、便コンセンサス配列とはアミノ酸16個、p1とはアミノ酸25個、および6回継代コンセンサス配列とはアミノ酸2個のみ(ORF1中のaa598=RからCおよびORF2中のaa593=TからA)が違っていた。最終のp6クローンの転写物は通常、10〜45%の間のS10-3細胞にトランスフェクトした。
【0112】
Xドメインの機能は不明であり、HVRのプロリンコドン中のCからAへの変化は天然ではなく人工的に作り出されたため、Xドメイン中の3つの変異またはHVRの断片2182〜3063中のCからAへの同義変異がトランスフェクションの促進に最も重要であるかを判定した。プロリンコドンの復帰変異は配列決定の問題を再びもたらすと考えられるため、Xドメイン中のアミノ酸コドンを復帰変異のために選択した。Xドメイン中の3つの変異すべてを、p1 cDNAクローン中に存在する元のコドンに復帰変異させ、トランスフェクション後6日目に、フローサイトメトリーによってトランスフェクションレベルを定量した(
図6)。復帰させた3つのXドメイン変異を含むクローンに由来する転写物は、S10-3細胞をトランスフェクトするにあたって、p6 cDNAクローンに由来する転写物より有意に(P=0.0006)効率が低く、HVRプロリン変異およびXドメイン変異の両方を欠く671-2182クローンとは有意な差がなかった(P=0.12)ことから、ポリC鎖を妨げる人工的に設計した変化はトランスフェクションに最小限の影響を与えたのに対し、X領域中の3つの変異の内の1つまたは複数は重要な役割を果たすことが示唆された。
【0113】
S17配列の影響が、p1 cDNAクローン中へのその挿入後に観察されるトランスフェクションレベルの中程度の上昇に限定されているかを確認するために、すべての点変異を含むp6 cDNAクローンからS17配列を選択的に除去して、p6delS17を得た。フローサイトメトリーによって、p1ウイルスゲノムにS17配列を付加するとこれらのゲノムによるトランスフェクション効率が有意に上昇するが、そのレベルは組換えp6ゲノムによって達成されるレベルには近づかないことが確認された(
図7)。驚くべきことに、細胞培養に適応させたp6 cDNAクローンからS17配列を除去すると、ゲノム転写物のトランスフェクション効率が劇的に低下し、p1 cDNAクローンのレベルよりわずか3倍だけ良いレベルとなった(
図7)。この結果から、連続的クローンのトランスフェクション効率が徐々に向上するのに関与している点変異は、S17配列の非存在下ではたいてい効果が無いことが示唆された。
【0114】
ORF2タンパク質免疫染色に基づくフローサイトメトリー解析により、検出可能なORF2タンパク質を産生する細胞の比率は明らかになったが、これらは産生されたORF2タンパク質の量の定量的比較もORF2合成の持続期間の定量的比較も提供しなかった。フローサイトメトリーデータを確認し拡張するために、ORF2の5'部分をインフレームのガウシアルシフェラーゼレポーター遺伝子で置換してp6/lucを得た。このルシフェラーゼは、細胞培養培地中での分泌および蓄積をもたらすシグナル配列を有する。したがって、同じ培養物から複数の時点を取ることができる。
【0115】
機能的なポリメラーゼまたはウイルスRNAを合成できない変異した非機能性ポリメラーゼのいずれかを含むp6/lucウイルスによって培地中に分泌されたルシフェラーゼの量を測定することによって、ルシフェラーゼシステムを確認した。p6/lucポリメラーゼ変異体をトランスフェクトされたS10-3細胞に由来するまたはトランスフェクトされていないS10-3細胞に由来する培地中のルシフェラーゼシグナルは、2日目のピーク時に111単位/24時間未満であったのに対し、p6/lucをトランスフェクトされた細胞の培地中のルシフェラーゼシグナルは、1日目の2163単位/24時間から、4日目〜6日目には3600万単位/24時間を超えるまでに上昇した(データ不掲載)。
【0116】
したがって、ルシフェラーゼ産生は、サブゲノムmRNA中のルシフェラーゼ遺伝子のORF2位置に基づいて予測されるように、ウイルスRNA合成を必要とする。次いで、p6/lucウイルスによるルシフェラーゼ産生を、S17挿入断片を欠失させるようにまたは3つのX遺伝子変異をなくすように変異させたp6/lucウイルスによるルシフェラーゼ産生と比較した。S17挿入断片を含むかまたは含まないp6/lucウイルスによるルシフェラーゼの産生は、トランスフェクション後6日目にピークに達したが、p6/luc(del S17)単位に対するp6/luc単位の比はだんだん上昇し、7日目に52倍に達し、したがって、S17挿入断片が増殖を顕著に有利にし、細胞培養適応的変異となることが裏付けられた(
図8A)。さらに、3つのX遺伝子復帰変異に関するルシフェラーゼデータは、フローサイトメトリー解析のデータと一致していた(
図8B)。p6/luc X遺伝子復帰変異体をトランスフェクトされた培養物の方が、p6/lucウイルスをトランスフェクトされた培養物よりもルシフェラーゼ産生量が少なかった。
図8Aおよび
図8Bの両方に示すとおり、9日目のルシフェラーゼ値が、p6/lucウイルスでは実質的に減少したが、変異体ではほぼ横ばい状態のレベルのままであったことに注目することは興味深い。
【0117】
同義変異によってトランスフェクションは減少しなかった
S17挿入断片の促進効果は、RNA配列またはタンパク質配列のいずれかに起因し得る。これらの可能性を区別するために、2つのクローンにおいて、MからIへの2つの変化以外は、コードされるAAを変更せずに、3番目の塩基(S17中の58個のコドンの内の93%および70%)を変化させた(プリンからプリンおよびピリミジンからピリミジン)。予測されるRNA構造およびΔGはp6(ΔG=-120.38)およびお互い(それぞれクローン1番のΔG=-102.99、クローン2番のΔG=98.97)のものと異なっていたにもかかわらず、これら2つのクローンのそれぞれに成功裡にトランスフェクトされた細胞の数は、p6の場合と有意な差がなかった(
図9)。したがって、促進効果はタンパク質レベルで生じると考えられた。
【0118】
挿入断片のサイズの影響
以前の研究によって、細胞培養においてKernowウイルスを増殖させるにあたってのS17挿入断片の重要性が実証されたが、それがどのように機能するかに関する見識はまったく提供されなかった。便接種材料の最初の継代によって、細胞培養におけるKernow株の増殖に対してGTPアーゼ挿入断片が促進効果を有する可能性を支持する証拠が与えられていたため、p6クローンにおいてS17挿入断片のものの代わりにこの挿入断片を用いて、その効果を評価した。114ntのGTPアーゼ挿入断片によって、トランスフェクトされた細胞の数は増加したが、その効果は171ntのS17挿入断片の約半分にすぎなかった(
図10A)。挿入断片それ自体の長さが要因であるかを判定するために、緑色蛍光タンパク質(GFP)のN末端またはC末端のアミノ酸58個をコードする配列をS17配列の代わりに用いた。GFPは多くの細胞型において多くの相手との融合タンパク質として発現された場合に比較的害のないことが示されているため、GFPを選択した。そして、実際、コード領域全体をS17挿入断片の3'末端にインフレームで融合した場合にGFPが産生することが蛍光顕微鏡検査法によって示された(データ不掲載)。しかしながら、GFPのN末端アミノ酸またはC末端アミノ酸のaa58個をコードする174ntのいずれも、S10-3細胞のトランスフェクションレベルに検出可能な影響を有していなかった(
図10A、10B)。したがって、ヌクレオチドおよび/またはアミノ酸の数それ自体は、決定要因ではなかった。p6中のS17挿入配列からヌクレオチドの半分を除去して、S17挿入断片のN末端側の半分、C末端側の半分、または中央部分をコードする87〜90ntの配列を得ることによっても、サイズの影響を調べた。3種の構築物はすべて、同様の程度まで細胞をトランスフェクトし、その程度は平均して、挿入断片全体が存在する場合の2分の1〜6分の1であり、挿入断片がない場合の2.5倍であった(
図10C)。最後に、別のE型肝炎慢性感染患者に由来する別の遺伝子型3株のHVR中に挿入されることを本発明者らが発見した、別の哺乳動物遺伝子配列(S19リボソームタンパク質)のヌクレオチド117個を、p6クローンにおいてS17配列の代わりに用いた。この異なる遺伝子型3株におけるS19配列を有しているゲノムは、S17を含むKernowゲノムと同じ程度に、HepG2/C3A細胞中での培養の間に選択されたが、この遺伝子型3株からKernow株にこの配列を移入しても、あまり大きな促進は得られなかった(
図10D)。
【0119】
p6はブタ細胞およびヒト細胞の両方に感染できるウイルスをコードする
トランスフェクションのために使用されるS10-3細胞および6回継代ウイルスを適応させたHepG2/C3A細胞の両方とも、ヒト肝癌細胞であり、したがって、p6ウイルスが元の糞便接種材料の能力を保持して、ブタ細胞においても増殖するか確認することは重要であった。p6およびp6delS17の転写物をLLC-PK1ブタ腎臓細胞中にエレクトロポレーションし、5日後にフローサイトメトリーによって検査した。ブタ細胞において両方の構築物によってORF2タンパク質が産生されたことから、マイナス鎖ゲノムおよびサブゲノムmRNAの両方がそれぞれによって合成されていたことが実証された。31%を超えるブタ細胞がp6クローンによってトランスフェクトされたのに対し、S17挿入断片を欠くp6クローンによっては12%であり、したがって、S17配列がヒト細胞にしたように、ブタ細胞のトランスフェクションを促進することが実証された(
図11A)。次に、p6ウイルスそれ自体のブタ細胞感染能力を試験した。HepG2/C3A細胞中で増殖させた2つの異なるp6ウイルス群をHepG2/C3A細胞およびLLC-PK細胞において並行して力価測定した(
図11B)。どちらの場合も、感染価はヒト細胞よりもブタ細胞においての方が高かったが、それら2つの調製物の差異は変動し、1つ目の場合は有意性に達した(p=0.0087)が、2つ目の場合は有意性に達しなかった(p=0.064)。しかしながら、HepG2/C3A細胞における力価でLLP-CK細胞における力価を割った比はそれぞれ2.4および1.5であり、クローン化されていない6回継代ウイルス疑似種の2種の調製物に関して以前に報告されている5.49および2.84という比と実質的に異なっていなかった。明らかに、p6 cDNAクローンは、遺伝子型3のHEVの2種の主な宿主種のそれぞれに由来する培養細胞に感染できるウイルスをコードした。
【0120】
遺伝子型1株に対するS17配列の影響
遺伝子型1のcDNAクローンSar55に由来する転写物は、S10-3細胞を容易にトランスフェクトしたが、細胞培養において増殖するようにウイルスを適応させるための最初の実験は失敗に終わった。以前の実験により、HVR中にp6ウイルス由来のS17配列を含む組換えSar55ゲノム(Sar55/S17)がS10-3細胞をトランスフェクトできることが実証されていたが、挿入断片のないSar55ゲノムとの定量的比較は実施されていなかった。したがって、Sar55転写物およびSar55/S17転写物をS10-3細胞中にトランスフェクトし、5日後にこれらの細胞をフローサイトメトリーにかけた。どちらの転写物のセットも同様の数のORF2陽性細胞をもたらしたことから、S17配列はこのシステムにおいてSar55ゲノムのトランスフェクション効率を高くもせず、低くもしないことが示唆された(
図12A)。
【0121】
Kernowウイルスは以前にこのような多様な宿主域を提示していたため(上記の例を参照されたい)、p6転写物を、ハムスターBHK-21細胞をトランスフェクトする能力に関して試験し、低効率ではあるものの(BKH-21およびS10-3に対してそれぞれ3.8%および30.1%)、ORF2陽性細胞をもたらすことを見出した。したがって、遺伝子型1ウイルスの限定された宿主域を考慮すればBHK-21細胞が宿主である見込みは少なかったが、BHK-21細胞をトランスフェクトする能力に関して、Sar55転写物およびSar-55/S17転写物もフローサイトメトリーによって試験した。驚くべきことに、ハムスター細胞がSar55ゲノムによってトランスフェクトされただけでなく、S17挿入断片を含めることにより、トランスフェクトされた細胞の数はほぼ7倍に増加した(
図12B、P=<0.0001)。S17挿入断片によるトランスフェクションの促進を、独立した実験において免疫蛍光顕微鏡検査法によって確認した(データ不掲載)。
【0122】
p6は、HepG2/C3A細胞中で増殖しHepG2/C3A細胞間で伝播するウイルスをコードする。p6 cDNAゲノムは、HepG2/C3A細胞中で増殖するように適応させたウイルスに由来したため、このcDNAクローンによってコードされるウイルスは、これらの細胞の培養物中で効率的に複製し伝播すると予測された。一方、ORF3タンパク質をウイルス放出に関係づける以前の研究から、ORF3を産生できないp6ウイルスゲノムは、p6ゲノムがするのと同じくらい多くの細胞をトランスフェクトし得るが、このウイルスは他の細胞に伝播しないと考えられることが示唆された。p6ウイルスゲノムおよびp6/ORF3ヌルゲノムをHepG2/C3A細胞中にエレクトロポレーションし、ウイルス産生およびウイルス伝播をフローサイトメトリーによってモニターした。驚くべきことに、p6ウイルスおよびORF3ヌル変異体は同様のパターンを示し、どちらも培養の間一貫して、効率的に複製し伝播すると考えられた。どちらの場合も、ORF2タンパク質陽性細胞の比率は、5日目の約15%から14日目に70%を超えるまでに増加した(
図13)。独立した実験からも同様の結果が得られ、5日〜15日の間に陽性細胞の比率は、p6ウイルスの場合は12.4%(+/-1.96)から59.7%(+/-0.87)に増加し、ORF3ヌル変異体の場合は13.3%(+/-0.31)から67.8%(+/-5.57)に増加した。これらの結果から、p6クローンが細胞培養に適応させたウイルスを実際にコードすることが実証されたが、2種のウイルスの細胞間伝播のレベルが同様であることは不可解であった。なぜならば、効率的なウイルス放出には機能的ORF3タンパク質が必要であることが報告されていた(13、14)からである。これらの報告において、ORF3タンパク質の非存在下でのウイルス放出は、存在下でのウイルス放出の約10%にすぎなかった。9日目の培地からRT-PCRによって増幅させたヌル変異体ゲノムのORF3領域の配列解析により、メチオニンコドンは存在せず、細胞の免疫蛍光顕微鏡検査によってORF3タンパク質は検出されないことが確認された(データ不掲載)。しかしながら、2種の培養物に由来する培地を用いて実施した感染性フォーカスアッセイ法により、p6ウイルスは平均11630FFU/mLであり、ORF3ヌル変異体は2倍多い23200FFU/mLであることが確認された(データ不掲載)。リアルタイムRT-PCRによる培地中のウイルスゲノム数の測定は最も意味深かった。ORF3ヌル変異体の場合に培地中に放出されたウイルスゲノムの数はp6ウイルスと比べて実際少なく、約10分の1であった。FFU当たりのウイルスゲノム数を計算することにより、ORF3ヌル変異体ウイルスの比感染力がp6ウイルスそれ自体のものより約20倍強いことが示された。したがって、ORF3欠如に起因する細胞からの放出の減少は、感染性の増大によって相殺され、したがって、ヌル変異体は培養の間じゅう、親p6ウイルスと同じくらい効率的に伝播することができる。
【0123】
概要-実施例3
HepG2/C3Aヒト肝癌細胞において増殖するように適応させたE型肝炎ウイルスの感染性cDNAクローンを構築した。このウイルスは、適応させたウイルスの超可変領域が、ヒトS17リボソームのタンパク質のアミノ酸58個をコードする171ヌクレオチドの挿入物を含むという点で珍しかった。6回の連続継代から得られたウイルスの解析によって、この挿入断片を有するゲノムが最初の継代の間に選択されることが示されたことから、この挿入断片が増殖を顕著に有利にすることが示唆された。このcDNAからのRNA転写物およびそれらによってコードされるウイルスは、この人畜共通感染性ウイルスの主な宿主種であるヒトおよびブタの両方に由来する細胞に感染性であった。変異誘発研究により、S17挿入断片が細胞培養適応の主要要因であることが実証された。挿入断片中に54個の同義変異を導入しても検出可能な影響はなく、したがって、RNAではなくタンパク質が重要な構成要素として関係づけられた。この挿入断片を50%短縮すると、トランスフェクションレベルは約3分の1に低下した。S17配列を別のリボソームタンパク質配列またはGTPアーゼ活性化タンパク質配列で置換すると、トランスフェクションレベルはいくらか上昇したが、緑色蛍光タンパク質のアミノ酸58個で置換しても効果はなかった。遺伝子型1の株の超可変領域中にS17配列を挿入した場合、S17配列はヒト肝癌細胞のトランスフェクションに影響を及ぼさなかったが、このキメラゲノムは、ハムスター細胞において複製するめざましい能力を獲得した。
【0124】
考察−実施例1および実施例2
Kernow-C1株は、慢性感染患者に由来するHEV株のうちで初めて細胞培養において増殖させられたものである。他の独特の特徴の中でもとりわけ、Kernow-C1株は、例外的に広い宿主域を提示した。これは、非霊長類種由来の細胞に感染することが判明している最初のHEV株であるだけでなく、ニワトリおよびマウスほどの多様な動物に及ぶ異種間感染の範囲は全く予想外であり、現代の知識に基づいては予測されなかったであろう。使用されたウイルスのどれもプラーク精製されておらず、ゆえに、各接種材料が混合集団である可能性があることに留意されたい。したがって、霊長類細胞に感染するウイルスは、他の種の細胞に感染するものと実質的に異なる場合がある。活発な複製能力を有する感染性cDNAクローンが一度構築されると、生物学的多様性および細胞培養によって獲得される変異の影響を研究することが可能になるはずである。
【0125】
6回継代ウイルスは十分な細胞外ウイルスを産生して、以前不可能であった実験を可能にしたものの、細胞培養されたHEVの低い比感染力は、いくつかの困難を強いる。細胞培養において産生された遺伝子型1(14)ウイルスおよび遺伝子型3(13)ウイルスの両方とも、それらがORF3タンパク質を含み、それらのビリオンが、糞便ビリオンを容易に沈降させる抗ORF2抗体によって沈降させられないという点で、糞便中に排泄されたものとは顕著に異なっていた。
【0126】
遺伝子型3のウイルスがヒト細胞よりもブタ細胞により効率的に感染するということの証明は、この遺伝子型のヒト感染が散発的であるのに比べて、ブタ感染は世界中で遍在していることの証明と一致している(18)。本研究においてヒト細胞をブタ細胞またはシカ細胞と比較して立証された、遺伝子型1株および3株の反対の親和性の程度および一貫性から(
図2)、本明細書において説明する細胞培養システムが異種間HEV感染に影響を及ぼす要因をさらに研究するのに有用であることが示された。
【0127】
ORF2タンパク質およびORF3タンパク質の産生がどのように調節されるかという疑問には答えが出ていないが、シカ細胞においてSar-55 ORF2産生を嫌う傾向が観察され、Kernow-C1株由来の短い5'RNA配列の導入後にその傾向が改善されることから(
図3B)、狭い間隔で配置されたコドンからの翻訳の調整は、宿主種によって顕著に異なる場合があり、これが、宿主域を制限する1つのメカニズムを提供し得ることが示唆される。明らかに、ORF2カプシドタンパク質合成を阻害すると、その他の細胞に感染し得るビリオンを組み立てる能力が弱められると考えられる。
【0128】
翻訳開始のためのAUGコドンの選択は、位置およびKozakによって定められた規則に従うコドンに隣接したヌクレオチドの指示を受ける(23)。遺伝子型1および遺伝子型3のバイシストロン性mRNAは、標準的な同じコザック配列を有するが、遺伝子型3のORF3およびORF2のための関連するAUGコドンは、遺伝子型1のものよりヌクレオチド3個分近くに集まっており、コドン間の距離は、開始の優先度に影響を及ぼすことが公知である。したがって、(遺伝子型内で保存されている)AUG間隔のこの差異が、シカ細胞において遺伝子型1と遺伝子型3の翻訳パターンが異なることを説明する可能性が高い。
【0129】
ブタ細胞において、ORF2の差次的翻訳は観察されず、Kernow-C1(遺伝子型3)およびSar-55(遺伝子型1)は、ヒト細胞中であれブタ細胞中であれ、2種のタンパク質を同様の比率で有すると考えられた。しかしながら、力価測定は検出可能なORF2産生に基づいたため、ある種におけるORF2の遺伝子型特異的翻訳が他の種と比べて非効率的であることは、Sar-55の力価がヒト細胞と比べてブタ細胞において一貫して低く、Kernow-C1の場合は逆のことが起こる理由の説明となり得る(
図2)。
【0130】
受容体の定量的または定性的な差異は、宿主域が異なることに別の説明を与える。HEVに対する特異的受容体は同定されていない。受容体によって決定される宿主域を優先して、6回継代ウイルスは、ヒト細胞において増殖するように適応させたにもかかわらず、ヒト細胞よりもブタ細胞に対して高い力価を維持していた。Sar-55カプシドタンパク質とKernow-C1カプシドタンパク質にはアミノ酸54個の差異(8.2%)があり、糞便カプシドタンパク質と6回継代カプシドタンパク質の差異は5個だけであったことから、適応させたウイルスは、糞便ウイルスの受容体と相互作用する特異性を保持していた可能性があることが示唆された。
【0131】
ORF3もまた、宿主域を制限するための重要な候補である。ORF3タンパク質は、おそらくは1つまたは複数の細胞タンパク質との相互作用を介したウイルス放出に必要とされる(13、14)。Sar-55のORF3タンパク質とKernow-C1のORF3タンパク質は17.5%(アミノ酸114個の内の20個)が異なるため、Kernow-C1 ORF3は、ウイルスが出て行くのに関与している可能性があるブタ細胞タンパク質と効率的に相互作用することができる場合があるが、Sar-55 ORF3はできず、したがって、Sar-55の複製サイクルは中止されると考えられる。
【0132】
HEVのゲノム間組換えおよびゲノム内組換えは、まれにしか報告されていない(24)。したがって、6回継代ウイルスにおいてヒトRNA配列が獲得されたことはかなり注目すべきことである。この挿入物を有するゲノムは糞便中で検出されたため、挿入物は、細胞培養の人為産物ではない。
【0133】
Sar-55のHVRを実験的に短縮することはできたが除去することはできなかったことから、この配列それ自体は不可欠ではないことが示唆された(22)。Pudupakamらによって比較されたHVR(22)は、Kernow-C1のORF1のアミノ酸706〜792に対応する。すべての株のHVRおよびORF1のアミノ酸215〜957をだいたい含む周囲の領域は、明確な機能を有しておらず、これらはHVRの上流のYドメインおよびパパイン様ドメインならびに下流のプロリンヒンジおよびXドメインと簡便に呼ばれる。したがって、HVR内部の挿入物は、いかなる機能も妨害しないと予想される。HVRは、徹底的に特徴を明らかにされてはいないが、1つの比較(22)から、各遺伝子型内で、特定の配列パターンが保存されている可能性があることが示唆されている。遺伝子型1および遺伝子型3のHVR配列は、この比較において実質的に異なっていた。Kernow-C1糞便コンセンサス配列は、Sar-55の場合の71個と異なり、アミノ酸86個を含む。しかしながら、S17挿入断片が存在する場合に、Kernow-C1と構築されたSar-55キメラの両方に生存能力があることから、この領域が実質的な変化を許容できることが実証された。
【0134】
Takahashiらは、高いHEV力価を有する事実上任意の血清が培養細胞に感染できることを最近示した(25)。RNAウイルスは疑似種として存在し、HEVのための細胞培養システムを開発する際の極めて大きな困難を考慮すれば、力価の高い試料は、培養細胞の感染を可能にするのに必要とされる正確な変異群を有する変種を含む可能性が高いと考えられる。Kernow-C1株がげっ歯動物から霊長類まで及ぶこのような広範な種に由来する細胞に感染する非凡な能力は、免疫無防備状態の宿主への長期的感染の間に生じた高い力価および複雑な疑似種を反映している可能性が高い。この可能性は、HEVが宿主細胞配列との組換えを通して新しい情報を獲得できるという証明と共に、患者の慢性HEV感染が、この「出現するウイルス」の進化に重要な意味を持っているという結論を導く。したがって、単に患者の幸福のためだけでなく、ウイルスの先々の制御のためにも、HEV感染症を慢性になる前に治癒させることが望ましい場合がある。
【0135】
考察−実施例3
HEV研究に関して、本発明者らが構築した感染性の遺伝子型3 cDNAクローンは、さらなる道具を提供する。肝臓はこのウイルスの標的器官であるため、ヒト肝臓(HepG2/C3A)細胞にトランスフェクトまたは感染し、かつ、生存能力があるウイルスを大量に産生する能力は、より信頼できるモデルシステムを提供し得る。このモデルシステムは、興味をそそるデータをもたらしたが関連のない単一のウイルスタンパク質の過剰発現への依存によって限定されている、数多くのうまく実行された研究を再考するためのものである。さらに、p6ウイルスがブタ細胞に感染する能力は、遺伝子型1株および遺伝子型2株の宿主域をヒトおよび非ヒト霊長類に限定するパラメーターを特定するのに有用となり得る。本発明者らが開発したルシフェラーゼレプリコンは、簡便な連続的試料採取を可能にし、非常に感度が高いため、いくつかの研究に特に有用であるはずである。ルシフェラーゼ遺伝子はサブゲノムmRNA上に位置しているため、ルシフェラーゼ産生はサブゲノムRNAの合成および安定性に関する間接的指標の役割を果たすことができる。この新規モデルシステムは、これまで特徴決定されていなかったX遺伝子領域が、その中の3つの変異がトランスフェクション後の感染状態の確立に実質的に寄与したため、ウイルス複製において機能を有しているという最初の証拠を既に提供した(
図6および
図8)。
【0136】
HEVゲノム中に埋め込まれたヒトS17遺伝子配列の発見は、完全に予想外であった(実施例1)。最初に、ウイルスゲノムが宿主RNAと組み換えていたこと、次に、この事象が、細胞培養中のこの極めて少ない疑似種ウイルスの選択をもたらす特性を与えたように見受けられることをこの発見は示したため、特に意外であった。その後、別の慢性感染患者に由来する遺伝子型3株を用いてこのシナリオが繰り返されたことから(Nguyen et al., in press 2012, J. General Virol.)、HEVによる非正統的組換えは必ずしも珍しい事象ではないことが示唆された。本研究において、本発明者らは、この組換えウイルスが、細胞培養における最初の継代後にすぐ出現することを実証した(表5)。その後の継代すべてにおいて優勢であることから、この組換えウイルスが細胞培養適応において決定的に重要な役割を果たすことが強く示唆された。感染性cDNAクローンの変異誘発研究によって、挿入断片が細胞培養における効率的なウイルス増殖を可能にするにあたっての主要因子であることが明確に実証された。段階的なクローニング戦略により、S17挿入断片以外の変異も適応に寄与することが実証された(
図5)。したがって、最終構築物からS17挿入断片を除去した際に点変異によってトランスフェクションの促進がほぼすべて失われることを発見したのは印象的であった(
図7)。もっともらしい説明は、挿入されたS17配列がRNAの安定性/翻訳能力を向上させるか、またはORF1タンパク質のフォールディング/プロセシング/安定性を手助けしたというものである。HEVのタンパク質分解プロセシングの問題は、まだ解決されていない。しかしながら、S17挿入断片中のヌクレオチド位置の24〜32%に同義変異を導入してもトランスフェクションレベルにはっきりと分かるほどの影響を及ぼさなかったため(
図9)、ウイルスRNAが重要な因子である見込みは低いと考えられ、むしろ、効果はタンパク質レベルであることが示唆される。Pudupakamらによる欠失実験により、標準HVRのサイズを小さくすると、HEVのビルレンスが低下し得るか、または細胞培養におけるその複製が減少し得ることが示された。S17挿入断片の50%短縮に基づく本発明者らのデータから、挿入断片のサイズ、ゆえにHVRのサイズが重要であることが実証されたが、GFP断片、GTPアーゼ断片、またはS19遺伝子断片(
図10A、10B、10D)を置換する実験からは、挿入断片とゲノム背景の両方のアミノ酸組成が促進に寄与することが示唆された。この結論は、遺伝子型1株および遺伝子型3株のHVRを交換した場合にインビトロでの複製が減少したことを示すデータと合致している。
【0137】
ハムスター細胞のような思いもよらない種においてSar55ゲノムが複製する能力をS17配列が増大させるということは、HEV感染症と最近関連付けられた神経学的障害などの新規症候群が、HVRの変化に起因する新規細胞型に感染する能力を反映している可能性があるという1つの推測をもたらす。確かに、この可能性は調査に値する。
【0138】
HEVの組換えは顕著ではなく、遺伝子型間組換えはごくまれにしか示されていない。振り返ってみると、これは、4種のヒト遺伝子型の様々な伝染経路および局所的な地理的分布により、2種またはそれ以上の容易に識別可能なゲノムによる同時感染の数が少なくなることを反映している可能性がある。特に探索しない限り、遺伝子型内組換えに気付かない場合がある。しかしながら、検査したわずか2名の患者に由来するHEVゲノム中に埋め込まれた3種の異なるヒト配列を本発明者らが発見したことから、HEVは理解されているよりも頻繁に組換えを受ける可能性があることが示唆される。これらの特定のリボソームタンパク質遺伝子の挿入が偶然に起こったのか、またはHEV複製の何らかの未知の局面を反映したのかを判定するために、さらなる研究が必要とされている。
【0139】
ヒトHepG2/C3AおよびブタLLC-PK1細胞を用いたトランスフェクション実験および感染実験によって、p6ウイルスが、糞便ウイルス疑似種の種の境界を越える能力を保持し、1つの事例においてのみ、ブタ細胞における力価の方が高いことが統計学的に有意であったものの、ブタ細胞に対する好みを示すことが実証された。一方、糞便接種材料の力価は、ヒト細胞と比べてブタ細胞において最高で13倍高いことが以前に報告されていた。このことから、ブタ細胞への感染に有利である変異、またはヒト細胞への感染に不利益な変異のいずれかを有している糞便疑似種の他のメンバーが存在する可能性が示唆される(
図13)。受容体または他の因子が宿主域を決定するかは知られていない。クローン化されたp6ウイルスと糞便中のウイルスのコンセンサス配列とでは、カプシドタンパク質中の4つのアミノ酸(AA)が異なり、これが受容体相互作用に影響を及ぼす可能性がある。HepG2/C3A細胞に対する最初の選択段階に相当するp1ウイルスクローン中にも、4つの変異の内の2つが存在したため、これらの変異のいずれかを糞便中のコンセンサス配列に復帰させるとブタ細胞における相対的力価が増大するかを確認することは興味深い。
【0140】
p6ウイルスおよびORF3ヌルウイルスの両方とも最終的には培養物中のHepG2/C3A細胞の大多数に伝播し、感染したものの、比較的ゆっくりとそれは起こり、感染細胞の比率は、7日目を過ぎるまで増加し始めなかった(
図11)。一方、ルシフェラーゼ発現は、トランスフェクション後1日目にすぐに培地中で検出され(2163単位)、2日目までに38倍に急増した(
図8A)。ルシフェラーゼはサブゲノムmRNAから翻訳されるため、ウイルスのマイナス鎖およびサブゲノムRNAの合成はこの実験において0日目〜2日目の間に最大であったはずであることから、ウイルスRNAおよび/またはタンパク質の合成はおそらくは律速ではなく、むしろ、組立、成熟、および/または分泌が、感染性HEVビリオンの比較的ゆっくりとした産生の原因であることが示唆される。ルシフェラーゼ構築物はカプシド遺伝子を欠くため伝播できないことは注目に値し、したがって、
図8Cのデータから、p6のサブゲノムmRNAの翻訳が、低下する前の7日目または8日目まで最高速度で続くことが示唆された。
【0141】
おそらく、最も混乱させる結果は、ORF3タンパク質を作ることができないウイルスが、ORF3タンパク質を合成するものと同じくらい効率的に培養物の至る所に伝播するという発見であった。この結果は、答えよりも多くの疑問を提起する。比感染力の差異が観察されたことは、なぜそれが起こったかに関する説明を与えるが、なぜ比感染力が異なるかという疑問は残っている。
【0142】
材料および方法
供給源の患者
少なくとも2年間、HEVに慢性的に同時感染しているHIV-1感染48歳男性の糞便から、HEV粒子を精製した(5)。診断時に、この患者は、活性な炎症性成分を伴う肝硬変を確立していた。さらに、彼は末梢神経障害の臨床的特徴も有していた。HEVは彼のCSF中で検出され、症状はウイルス排除と共に消えたため、これはHEVに関連した合併症であるように感じられた。この患者から得られたウイルス株をKernow-C1 HEVと呼んだ(26)。
【0143】
細胞培養
Huh-7ヒト肝癌細胞は、日本で最初に単離された(Nakabayashi et al, 1982)。S10-3細胞、Huh-7細胞およびC25j細胞のサブクローン、Caco-2細胞のサブクローン(HTB-37)のいずれも、施設内で単離された。他の細胞株はすべて、American Type Culture Collectionから購入し、追加の方法(Supplementary Methods)において説明している。2mM L-グルタミン、ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma, St. Louis, MO)、および10%ウシ胎児血清(C25jの場合は20%)(Bio-Whittaker, Walkersville, MD)を添加したダルベッコ改変イーグル培地(cellgro, Mediatech, Manassas, Va)中で、大半の細胞株を増殖させた。シカ肝臓細胞およびニワトリ肝臓細胞を、20%ウシ胎児血清(Bio-Whittaker, Walkersville, MD)を添加したOpti-MEM(Gibco)中で培養した。HepG2/C3A細胞、C25j細胞、シカ細胞、およびニワトリ細胞を、ラット尾コラーゲン1型(Millipore)上で増殖させた。すべての細胞ストックを5%CO
2の存在下、37℃で増殖させた。
【0144】
ウイルスストック
6回継代ウイルス以外のウイルスストックはすべて、PBS中10%糞便懸濁液(pH7.4)からなった。RT-PCR力価は、10
6〜10
8ゲノム当量/100uLの範囲であり、感染価の予測に役立たなかった。遺伝子型1株のSar-55(GenBank M80581.1)およびAkluj(GenBank AF107909)を、パキスタンおよびインドの患者からそれぞれ単離した。遺伝子型3のUS-2株(Genbank AF060669)を米国の患者から取得し、アカゲザルにおいて増幅させた。遺伝子型3のKernow-C1(「Cornwall(コーンウォール)」の古くからのコーンウォール語)株を、前述したとおりにHIVに同時感染した慢性感染E型肝炎患者から得た。6回継代ウイルスは、連続継代によってHepG2/C3A細胞中で増殖するように適応させたKernow-C1糞便ウイルスである。
【0145】
プラスミド構築物
HEV株Sar-55、pSK-E2(Genbankアクセッション番号AF444002)、およびプラスミドCMV-Sarの感染性cDNAクローンは以前に説明されていた(16、27)。プラスミドCMV-SarにおいてSar-55サブゲノムRNAの最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1 HEVのヌクレオチドで置換することによって、プラスミドCMV-MT29を作製した。糞便中のKernow-C1ウイルスのバイシストロン性mRNA全体を増幅させ、Sar-55に対してしたとおりにそれをpCMV5122中にクローニングすることによって、プラスミドCMV-Kernowを構築した(16)。6回継代Kernow-C1ウイルスからヒトS17遺伝子を増幅させ、pSK-E2のHVR領域内のヌクレオチド2251番と2252番の間に融合PCRによってインフレームにそれを挿入することによって、センスの向き(Sar55-S17)、逆向き(Sar55-S17R)、および逆相補的な向き(Sar55-S17RC)でヒトS17遺伝子配列を含むSar-55 cDNAクローンを構築した。pSK-E2中のSar-55バイシストロン性領域の最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1のヌクレオチドで置換することによって、感染性プラスミドpSK-E2-MT29を作製した。
【0146】
培養細胞のインビトロでの転写およびトランスフェクション
以前に説明され(27)、追加の方法で詳述されるとおりに、T7ポリメラーゼを用いて完全長ウイルスcDNAを転写し、DMRIE-C(Invitrogen)を用いて、キャッピングされた転写物をS10-3細胞またはシカ細胞にトランスフェクトした。試したトランスフェクション方法のどれによっても、LLC-PK1細胞は死滅した。追加の方法で説明するとおりに、Lipofectamine 2000(Invitrogen)を用いて、S10-3細胞およびシカ細胞にCMVプラスミドをトランスフェクトした。
【0147】
培養細胞の感染
感染の1日前に、8ウェルのLab-Tek(商標)II-CC
2(商標)スライド(Nunc)に100,000細胞/ウェルを播種した。Opti-MEM(Gibco)でウイルスストックを希釈し、希釈したウイルス100μLを各チャンバーに添加し、CO
2インキュベーター中、34.5℃で5時間インキュベートした。ウイルス混合物を除去し、細胞をPBSで洗浄し、培地を添加し、続いて、34.5℃で3日間インキュベートした。
【0148】
免疫蛍光解析およびフォーカス形成アッセイ法
8ウェルのチャンバースライド上の細胞をアセトンで固定し、チンパンジー抗ORF2およびウサギ抗ORF3で二重染色した。以前に説明され(28)、かつ追加の方法で説明するとおりに、蛍光顕微鏡を用いて、染色された細胞またはフォーカスを可視化し、手作業で計数した。
【0149】
ORF2タンパク質およびORF3タンパク質を定量するためのフローサイトメトリー解析
100mmシャーレ(Corning)中で培養されたトランスフェクトされた細胞をトリプシン処理し、4℃で15分間、1mLメタノールで固定した。免疫染色は、別々の細胞分取物をORF2タンパク質およびORF3タンパク質について染色したこと以外は、接着細胞の場合と同じであった。PBSで洗浄した後、PBS 1mL中に細胞を再懸濁し、FACScanフローサイトメーター(Becton Dickinson)を用いて解析した。各試料について合計20,000個の事象を獲得し、BD CellQuest(商標)ソフトウェアを用いてデータを解析した。
【0150】
RT-PCR
トリゾールLS(Invitrogen)を用いてRNAを抽出し、逆転写し、Qiagenキットを用いて増幅させた。アガロースゲルから溶出させたPCR産物を、直接配列決定して糞便および6回継代のコンセンサス配列を提供するか、またはクローニングし、次いで配列決定して、代表的なHVR配列を提供した。詳細については追加の方法を参照されたい。
【0151】
増殖曲線
HepG2/C3A細胞10
6個を播種したT25フラスコに、HepG2/C3A細胞に対してほぼ等しいFFUを含むように希釈した、前もって力価測定した糞便ウイルスストックまたは6回継代ウイルスストックを1mL接種した。実験の最後に再度力価測定するために、希釈した各接種材料の分取物を-80℃で凍結した。37℃で5時間インキュベーションした後、培地を除去し、Optimemで細胞を3回洗浄し、10%ウシ胎児血清を含むDMEM 2.5mLおよび抗生物質を添加し、フラスコを37℃でインキュベートした。培地を回収し、指定した日に新鮮な培地に交換した。回収した培地に0.45μmフィルターを通過させ、100uL分取物として-80℃で凍結した。接種材料を含むすべての凍結試料の三通りを同時に処理して、同一条件下でFFUおよびRNA濃度を測定した。同じ試験での直接比較により、6回継代ウイルスの4,200FFUと比べて、糞便接種材料は22,000FFUを含むことが示された。7日目以降、これらの値に対してウィルコクソン検定を実施した。
【0152】
統計学
米国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Diseases)の生物統計学研究部門(Biostatistics Research Branch)の数理統計学者によって統計学的研究が行われた。増殖曲線解析以外のすべてに対してスチューデントのt検定を使用した。
【0153】
追加の材料および方法
細胞。American Type Culture Collectionから購入した細胞株は、ヒト肝癌HepG2/C3A(CRL-10741)およびPLC/PRF/5(CRL-8024)、ヒト肺癌A549(CCL-185)、シカ肝臓OHH1.Li(CRL-6194)、ブタ腎臓LLC-PK1(CL-101)、LLC-PK1A(CL-101.1)、およびSK-RST(CRL-2842)、イヌ腎臓MDCK(CCL-34)、ネコ腎臓CRFK(CCL-94)、ウサギ腎臓LLC-RK1(CCL-106)、ニワトリ肝臓LMH(CRL-2117)、ならびにマウス肝臓Hepa1-6(CRL-1830)であった。
【0154】
培養細胞のインビトロでの転写およびトランスフェクション。E型肝炎ウイルス(HEV)のポリ(A)テールの下流に位置するBglII部位において、プラスミドpSK-E2を直鎖状にした。以前に説明されたとおりに、T7 Riboprobeインビトロ転写システム(Promega)およびアンチリバースキャップアナログ(Anti-Reverse Cap Analog)(Ambion)を用いて(Emerson, 2001, 前記)、キャッピングされたRNA転写物を生じさせた。S10-3細胞またはC25j細胞のトランスフェクションのために、RNA転写混合物40μL、Opti-MEM(Gibco)1mL、およびDMRIE-C(Invitrogen)16μLを混合し、6ウェルプレートの1つのウェルに添加した。これらの細胞株は高いRNAトランスフェクション比率が理由で選んだ:C25j細胞は最も高いレベルで感染性ウイルスを産生したが、それらは細胞内に残り、細胞溶解によって回収されなければならなかった。シカ細胞のトランスフェクションのために、RNeasyキット(Qiagen)を製造業者のプロトコールに従って用いて、インビトロで転写されたRNAを精製した。精製されたRNA(2.5μg)をOpti-MEM(Gibco)500μL中で希釈し、Opti-MEM(Gibco)500μLおよびLipofectamine 2000(Invitrogen)5μLを含む混合物に一滴ずつ添加し、室温で20分間インキュベートし、6ウェルプレートの1つのウェルに添加した。CO
2インキュベーターにおいて34.5℃で5時間、トランスフェクション混合物と共にインキュベーションした後、トランスフェクション混合物を培地に交換し、インキュベーションを34.5℃で継続した。試したトランスフェクション方法のどれによっても、LLC-PK1細胞は死滅した。プラスミドDNAトランスフェクションのために、S10-3細胞および/またはシカ細胞を6ウェルプレートで増殖させ、前述したとおりにLipofectamine 2000(Invitrogen)を用いてDNA 2μgをトランスフェクトした。CO
2インキュベーターにおいて37℃で6時間、S10-3細胞および/またはシカ細胞のDNAトランスフェクションを実施した。トランスフェクション混合物を培地に交換した後、インキュベーションを37℃で継続した。
【0155】
エレクトロポレーション。HepG2/C3A細胞およびLLC-PK1細胞はDMRIE-Cによって死滅した。したがって、240ボルトおよび950キャパシタンスの設定のBioRad Gene Pulser IIならびにBioRadキュベット165-2086番を用いたエレクトロポレーションによってこれらをトランスフェクトした。100ulの転写混合物から得られたRNA転写物をTRIzol LS(Invitrogen)を用いて抽出し、イソプロパノールを用いて沈殿させ、75%エタノールで洗浄し、水50ul中に再懸濁させた。100mmシャーレ内のコンフルエントな単層中の細胞をトリプシン/EDTAを用いて剥離し、等体積のPBS中1%結晶性ウシ血清アルブミンと混合し、1600RPM、40Cで5分間、沈殿させた。Optimum 400uL中に細胞を再懸濁し、RNAと混合し、電気パルスを与え(pulsed)、20%ウシ胎児血清を含む培地に添加した。プレートまたはフラスコに細胞を入れ、370C(HepG2/C3A)または34.50Cで一晩インキュベートした。増殖を促進するのに十分な密度の培養物を提供するために、T25フラスコ中のエレクトロポレーションされたHepG2/C3A細胞に、T25フラスコから得た未処理細胞の4分の1を補充した。翌朝、10%血清を含む新鮮な培地で培地を交換し、インキュベーションを継続した。
【0156】
免疫蛍光解析およびフォーカス形成アッセイ法。チャンバースライド上のトランスフェクトされた細胞または感染細胞をPBSで洗浄し、アセトンで固定し透過処理した。HEV感染チンパンジー(Ch1313)由来のHEV ORF2特異的高度免疫血漿(Emerson, 2004, 前記)とウサギ抗ORF3ペプチド抗体(Emerson, 2004, 前記)の混合物と共に室温で45分間、固定された細胞をインキュベートすることによって、ORF2タンパク質およびORF3タンパク質を検出した。(チンパンジー血漿は、バックグラウンド染色を最小限にするために、各細胞株に前もって吸着させた)。PBSで洗浄した後、Alexa Fluor 488ヤギ抗ヒトIgG(Molecular Probes)とAlexa Fluor 568ヤギ抗ウサギIgG(Molecular Probes)の混合物と共に室温で30分間、細胞をインキュベートした。PBSで洗浄した後、DAPIを含むVectashield封入剤(Vector Laboratories)を添加し、Zeiss Axioscope 2 Plus蛍光顕微鏡を用いて40倍の倍率で細胞を可視化した。陽性の細胞またはフォーカスを手作業で数えた。
【0157】
野生型cDNAクローンおよび変異体cDNAクローンによるS10-3細胞およびシカ細胞のトランスフェクション。トランスフェクションの1日前に、S10-3細胞およびシカ細胞を6ウェルプレートに播種し、約70〜80%のコンフルエンシーの時点でトランスフェクトした。各プレートの3個のウェルを、Sar-55の野生型感染性cDNA(pSKE2)で、またはpSK-E2バイシストロン性領域の最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1のヌクレオチドで置換した変異体(pSK-E2-MT29)で、トランスフェクトした。トランスフェクトされたS10-3細胞中のHEVタンパク質をFACS解析するために、各ウェルの細胞をトリプシン処理し、別々のチューブに移した。ORF2タンパク質およびORF3タンパク質の免疫染色ならびにFACS解析は、材料および方法の箇所で説明したとおりに実施した。5日目にシカ細胞を免疫染色するために、各ウェル中の細胞を4日目にトリプシン処理し、8ウェルのチャンバー付きスライドの別々のウェルに記号化して移し、5日目に免疫染色した。記号を明らかにする前に、ORF2について染色された細胞およびORF3について染色された細胞のすべてを手作業で数えた。
【0158】
RT-PCR。TRIzol LS(Invitrogen)を用いてRNAを抽出した。糞便ウイルスおよび6回継代ウイルスのコンセンサス配列の場合、SuperScript II RNase H-逆転写酵素(Invitrogen)を用いてRNAを逆転写し、通常はQiagen LongRange PCRキットを用いて増幅させた。Cの多いやっかいな領域は、Qiagen LongRange 2Step RT-PCRキットを用いて増幅させた。生成物をアガロースゲル上で電気泳動させ、溶出させ、直接配列決定した。Qiagen LongRange 2 Step RT-PCRキットを用いたネステッドRT-PCRによって、超可変領域(HVR)を増幅させた。174塩基の挿入断片を検出するための4つのプライマーセットの各ペアは、HEV配列に一致する1つのプライマーおよび挿入断片配列に一致する1つのプライマーを含んだ。電気泳動後、生成物を直接配列決定した。HVR全体を増幅させるためのネステッドプライマーセットは、HVRのどちらかの側のHEV配列と一致した。目に見える生成物ならびにそのすぐ上およびすぐ下の領域をアガロースゲルから溶出させ、Zero Blunt TOPO PCRクローニングキット(Invitrogen)を用いてクローニングし、120個の個別のコロニーを配列決定した。培地中のRNAゲノムをリアルタイムRT-PCR(TaqMan)によって定量した。
【0159】
前述の本発明は、理解をはっきりさせるために、例証および例としていくらか詳しく説明されたが、添付の特許請求の範囲の精神からも範囲からも逸脱することなく、いくつかの変更および修正をそれに加えてよいことは、本発明の教示に照らして当業者には容易に明らかになるであろう。
【0160】
本明細書において引用した刊行物、アクセッション番号、特許、および特許出願はすべて、あたかもそれぞれが参照により組み入れられることが具体的かつ個別に示されたかのように、参照により本明細書に組み入れられる。
【0161】
補足的参照文献
【0162】
(表1)野生型cDNAクローンおよび変異体cDNAクローンの感染性転写物をトランスフェクトされたシカ細胞におけるORF2タンパク質およびORF3タンパク質の産生
1.各ウイルスゲノムを3つの培養物にトランスフェクトした。
2.HEV株Sar-55の感染性cDNAクローン。
3.pSK-E2のSar-55バイシストロン性領域の最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1のもので置換した、HEVの感染性cDNAクローン。
4.トランスフェクトされた細胞を記号化して8ウェルのチャンバースライドに移し、5日目に免疫染色し、記号を解読する前に各ウェル中のORF2陽性細胞およびORF3陽性細胞をすべて数えた。
【0163】
(表2)野生型cDNAクローンおよび変異体cDNAクローンの感染性転写物のトランスフェクション後のS10-3細胞中のORF2タンパク質およびORF3タンパク質のFACS解析
5.各ウイルスゲノムを3つの培養物にトランスフェクトした。
6.HEV株Sar-55の感染性cDNAクローン。
7.pSK-E2のSar-55バイシストロン性領域の最初の29個のヌクレオチドをKernow-C1のもので置換した、HEVの感染性cDNAクローン。
8.トランスフェクション後5日目に、ORF2タンパク質およびORF3タンパク質について細胞を免疫染色した。
9.示されたウイルスタンパク質について染色された細胞の比率(%)。
【0164】
(表3)HepG2/C3A細胞およびLLC-PK1細胞における遺伝子型1のHEVおよび遺伝子型3のHEVの力価
1
【0165】
(表4)糞便中のウイルスのコンセンサス配列とHepG2/C3A細胞において6回継代されたものとの比較
1
1.記載なし:44個のサイレント変異が散在し、44個の内の37個はU/CまたはC/Uである。
2.糞便ウイルスの配列に基づいた位置;挿入断片には番号を付けていない
3.糞便ウイルス中のヌクレオチドまたはアミノ酸、続いて6回継代ウイルス中のヌクレオチドまたはアミノ酸
4.超可変領域
5.3'非コード領域
【0166】
(表5)各継代レベルに由来するHVRクローンの比較
158個のアミノ酸をコードするS17挿入断片を有するクローンの数
2114ntのGTPアーゼを含むがS17を欠くクローンの数
3S17挿入断片を含む6回継代物と比べた欠失
4欠失およびS17挿入断片がない
5S17の3'の45ntを除去する欠失を有する2つの同一クローン
【0167】
(表6)6回継代ウイルスと断片を交換することによる、1回継代Kernowウイルスの段階的改変
1括弧は変異を示す[1回継代/6回継代]:大文字=アミノ酸、小文字=ヌクレオチド
2下線は、ORF2中のアミノ酸変異を示す
3ポリアデノシン鎖の長さ
【0168】
(表7)糞便ウイルスのコンセンサス配列と継代ウイルスのコンセンサス配列との比較
1
1S17挿入断片を有していない糞便ウイルス[GenBank HQ389543]を基準とした番号付け。
2点変異を大文字で、隣接したアミノ酸を小文字で記載している。番号は、大文字のアミノ酸のアミノ酸位置を示す。
3各ウイルスの列の文字は、その位置に存在するアミノ酸を示す。
4斜線は混合物を示す。
【0169】
配列表
SEQ ID NO: 1 HEV Kernow遺伝子型3の複製する変種
SEQ ID NO: 2 「ORF1」アミノ酸配列;下線を引いた領域は超可変領域中の挿入物である
SEQ ID NO: 3 ORF3 CDS:5348〜5689
SEQ ID NO: 4 ORF2 CDS:5359〜7341
SEQ ID NO: 5 Kernow C1 HEV核酸配列
SEQ ID NO: 6 Kernow C1 ORF1 CDS:27〜5153
SEQ ID NO: 7 Kernow C1 HEV ORF3 CDS:5177〜5518
SEQ ID NO: 8 Kernow C1 HEV ORF2 CDS:5188〜7170
SEQ ID NO: 9 HEV Kernow遺伝子型3の複製する変種中に存在するORF1挿入断片
SEQ ID NO: 10 HEV Kernow遺伝子型の複製する変種中のさらなる挿入断片をコードする核酸