【実施例】
【0036】
実施例1(本発明)
ウインドスクリーン・ワイパースピンドル、水圧若しくは気体シリンダのロッド又はジョイントブッシングに使用することができるタイプC45の焼なまし鋼から成るサンプルを、以下のように処理した。
【0037】
これらのサンプルをアルカリ溶液中でのグリース除去、水中でのすすぎ及び350℃までの予熱に供した。
【0038】
次にサンプルを60分間にわたって、580℃に維持され、
28%のシアン酸ナトリウム、
22%の炭酸ナトリウム、
45%の塩化カリウム、
5%の炭酸リチウム、
を含有する溶融塩浴に浸した。
【0039】
このようにして窒化されたサンプルを次に水ですすいだ。
【0040】
同じサンプルを同じ処理に供した。ただし、60分間にわたる580℃での窒化処理を、本質的に
58%のシアン酸ナトリウム、
36%の炭酸カリウム及び
6%の炭酸リチウム、
から構成される標準的な窒化浴(本発明によるものではない)において行った。
【0041】
両方のケースにおいて、このようにして形成された窒化鉄の層は10±1μmの厚さを有した。
【0042】
最初はRa=0.2マイクロメートルであったサンプルの粗さが、標準浴での処理後はRa=0.52マイクロメートルになり、本発明の浴での処理後はRa=0.25マイクロメートル、すなわち初期粗さより若干高い粗さであることが判明した。
【0043】
この実施例における本発明の組成は、特にはシアン化物のレベルに関して、時間が経過しても浴の良好な安定性を促進するようであった。
【0044】
このようにして窒化されたサンプルを次に、アルカリ金属のカーボネート、水酸化物及びニトレートを含有する溶融塩浴で酸化させた。この酸化の目的は、厚さ1〜3μmの酸化鉄の層を形成することによって窒化物層の表面を不動態化することであった。酸化後、窒化工程で慣用であるように、部品をオイル(腐食防止剤を含有する)に浸すことによって腐食から保護した。
【0045】
本発明に従って処理したサンプルの耐食性(ISO規格9227に従い、中性塩水噴霧試験で10個の部品について測定した)は150〜250時間であった。
【0046】
標準浴で処理したサンプルの耐食性(ISO規格9227に従い、中性塩水噴霧試験で10個の部品について測定した)は120〜290時間であった。
【0047】
従って、本発明に従って行った鉄含有部品の窒化は、標準浴における窒化で得られるものに匹敵する耐食性をもたらし、それと同時にこのような標準浴での処理と比較して表面の粗さを改善することを可能にする。
【0048】
実施例2(本発明以外)
上述した通りに用意したC45焼なまし鋼のサンプルを、1時間にわたって590℃で
20%のアルカリ金属塩化物(NaCl、KCl)、
40%のシアン酸ナトリウム、
30%の炭酸カリウム、
10%の炭酸リチウム、
を含有する浴で窒化した。
【0049】
両方のケースにおいて、形成された層は厚さ10±1μmを有する。
【0050】
最初はRa=0.2マイクロメートルであったサンプルの粗さが、標準浴での処理後のRa=0.52マイクロメートルと比較して、この浴での処理後はRa=0.48マイクロメートルとなることが判明した。
【0051】
これは、塩化物含有量が低すぎると、(本発明のものではない)標準浴と比較して部品の最終粗さを大幅に低下させることができないとの結論につながる。
【0052】
実施例3(本発明以外)
65%の塩化ナトリウム、
25%のシアン酸カリウム、
10%の炭酸カリウム、
を含有する浴を用意した。
【0053】
このような浴は工業的に使用できないことが判明している。これは融点が600℃を超え、窒化処理をフェライト相で行えないからである(大部分の部品は一般にフェライト相、すなわち600℃未満で窒化される)。このため、オーステナイト相での窒化しか考えられないが、これは温度が630℃を超える場合だけであり、塩のエントレインメントが高いレベルで起きるため(浴の粘度が高い)、経済的に不利である。
【0054】
実施例4(本発明)
実施例1と同様の条件下だが、
35%のシアン酸ナトリウム、
20%の炭酸ナトリウム、
20%の炭酸カリウム、
25%の塩化カリウム、
を含有する浴でのC45焼なましサンプルの処理によって、(本発明のものではない)標準浴でのRa=0.52μmに対して最終粗さRa=0.28μmが、10±1マイクロメートルの窒化層の表面で得られた。
【0055】
粗さに関しては満足がいくものではあるが、この組成は、実施例1の組成より高い粘度を有するようであり、これは塩のより多い消費につながる。
【0056】
本発明に従って得られた窒化物層の多孔性レベルは5%未満であり、標準浴で得られた窒化物層の多孔性レベルは25〜35%である。
【0057】
実施例5(本発明以外)
45%の塩化カリウム、
10%のシアン酸ナトリウム、
45%の炭酸ナトリウム、
を含有する浴を用意した。
【0058】
液相温度は600℃を超えるため、このような浴は窒化処理に使用できないことが判明した。液相温度は、浴が完全に溶融して組成が均一になり始める温度であることが思い起こされる(浴が、恐らくは幾つかの段階を経て液体になり始める温度である融点とは異なる)。
【0059】
実施例3で説明したように、このような浴を工業的に有利に使用することはできない。フェライト相処理が不可能となり、また600〜650℃での塩のエントレインメントが極めて顕著だからである。
【0060】
実施例6(本発明)
実施例1と同様の条件下だが、
45%の塩化カリウム、
30%のシアン酸ナトリウム、
25%の炭酸ナトリウム、
を含有する浴でのC45焼なましサンプルの処理によって、実施例1と同様に、(本発明のものではない)標準浴でのRa=0.52μmに対して、初期粗さRa=0.2μmより若干高い最終粗さRa=0.25μmが得られる。
【0061】
本発明の浴で形成された窒化鉄の層はタイプε(Fe
2-3N)であり、また5%未満の多孔性レベルを有し(光学顕微鏡法で測定)、また硬さ840±40HV
0.01を有する。
【0062】
(本発明のものではない)標準浴中で形成された窒化鉄の層はタイプε(Fe
2-3N)であり、25〜35%の多孔性レベルを有し(光学顕微鏡法で測定)、また硬さ700±40HV
0.01を有する。標準浴で得られた層の見かけ硬さの低さは、その高い多孔性レベルで説明される。実際、多孔性(すなわち、複数の孔が存在する)であることによって、硬さを測定するためのインデンタによる押し込みに対する層の耐性が低下することがよく知られている。
【0063】
両方のケースにおいて、形成された層は10±1μmの厚さを有する。
【0064】
実施例7(本発明)
冷間圧造で加工され、次に高周波浸漬に供した、初期粗さがRa=0.74μmのC45サンプルを、(実施例1と同様の準備後に)2時間にわたって590℃で、実施例1のものと同じ、
28%のシアン酸ナトリウム、
22%の炭酸ナトリウム、
45%の塩化カリウム、
5%の炭酸リチウム、
を含有する浴において窒化した。
【0065】
20±1μmの層が、Ra=0.79μmの最終粗さで形成された。比較すると、同じ2時間にわたって(本発明のものではない)標準浴において処理した同じサンプルは、厚さ17±1μmの層の場合、Ra=1.23μmの最終粗さの層を有する。
【0066】
本発明に従って得られた窒化物層の多孔性レベルは5〜10%であり、標準浴で得られた窒化物層の多孔性レベルは55〜65%である。冷間圧造に供した鋼は高いレベルのひずみ硬化を有することが知られていて、これは層の多孔性に悪影響を与える(ひずみ硬化のレベルが高ければ高いほど、層の多孔性はより高くなる)。
【0067】
本発明は、低い多孔性レベルの層を、高ひずみ硬化鋼の場合であっても得ることを可能にする。
【0068】
このようにして窒化されたサンプルを次にアルカリ金属のカーボネート、水酸化物及びニトレートを含有する溶融塩浴で酸化した。この酸化は、厚さ1〜3μmの酸化鉄の層を形成することによる窒化物層の表面の不動態化を目的としている。酸化後、窒化工程で慣用であるように、部品をオイル(腐食防止剤を含有する)に浸すことによって腐食から保護する。
【0069】
本発明に従って処理したサンプルの耐食性(ISO規格9227に従い、中性塩水噴霧試験で10個の部品について測定した)は310〜650時間であった。
【0070】
標準浴で処理したサンプルの耐食性(ISO規格9227に従い、中性塩水噴霧試験で10個の部品について測定した)は240〜650時間であった。
【0071】
実施例8(本発明)
クエンチ、焼き戻ししてから研削した初期粗さRa=0.34μmの42CrMo4製のサンプルを、(実施例1と同様の準備後に)実施例7のものと同じやり方、すなわち2時間にわたって590℃で、実施例1と同じ、
28%のシアン酸ナトリウム、
22%の炭酸ナトリウム、
45%の塩化カリウム、
5%の炭酸リチウム、
を含有する浴で窒化した。
【0072】
16±1μmの窒化鉄の層が、Ra=0.44μmの最終粗さで形成された。比較すると、2時間にわたって(本発明のものではない)標準浴において処理した同じサンプルは、厚さ14±1μmの層の場合、Ra=0.85μmの最終粗さの窒化鉄層を有する。
【0073】
本発明の浴で形成された窒化鉄の層はタイプε(Fe
2-3N)であり、また5%未満の多孔性レベルを有し(光学顕微鏡法で測定)、また硬さ1020±40HV
0.01を有する。
【0074】
標準浴中で形成された窒化鉄の層はタイプε(Fe
2-3N)であり、30〜40%の多孔性レベルを有し(光学顕微鏡法で測定)、また硬さ830±40HV
0.01を有する。標準浴で得られた層の見かけ硬さの低さは、その高い多孔性レベルで説明される。実際、多孔性(すなわち、複数の孔が存在する)であることによって、硬さを測定するためのインデンタによる押し込みに対する層の耐性が低下することがよく知られている。
【0075】
実施例9(本発明)
初期粗さRa=0.20μmのC45焼なましサンプルを用意し、実施例1と同様に、すなわち1時間にわたって580℃で、
28%のシアン酸ナトリウム、
22%の炭酸ナトリウム、
45%の塩化カリウム、
5%の炭酸リチウム、
を含有する浴で窒化した。
【0076】
10±1μmの層が、Ra=0.25μmの最終粗さで形成された。比較すると、3時間にわたって高レベルのシアン化物(5.2%)の標準浴において処理した同じサンプルは、厚さ7±1μmの層の場合、Ra=0.27μmの最終粗さの層を有する。
【0077】
従って、同等の最終粗さの場合、処理時間が長くても、高シアン化物レベルの標準浴で得られる層の厚さは、本発明の浴で得られる層の厚さより小さいようである。これは、より汚染度が高いことに加えて、高シアン化物含有量の浴は浸炭も行っているという事実によって説明され、すなわち炭素が窒素と共に鋼内へと拡散する。炭素及び窒素は、鉄結晶格子内の同じ部位に収まることから拡散時に競合する。このため、炭素の存在が窒素の拡散を限定し、この結果、層が薄くなる。
【0078】
上述したように、上記の実施例で示した組成が新規な浴を定義する。シアン化物イオンの含有量についての記載は作業時に当てはまり、窒化に伴う反応を考慮に入れたものであると規定する(すなわち、浴の組成を可能な限り安定的に維持しようするものである)。