(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
廃プラスチックを熱分解して分解ガスを生成する熱分解釜、及び熱分解釜で得られた分解ガスを冷却して液化させ、再生油を得る凝縮器を有する廃プラスチック油化処理装置であり、
前記熱分解釜の上方に、この熱分解釜で得られた分解ガスを還流させる還流塔を設けて、前記分解ガス内の高沸成分を前記熱分解釜に戻し、
前記凝縮器で得られる再生油の一部を冷却し、前記還流塔、及び前記還流塔と前記凝縮器との間の配管に戻す廃プラスチック油化処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
この発明に係る廃プラスチック油化処理装置は、
図1に示すように、廃プラスチックMを熱分解して分解ガスを生成する熱分解釜11a、及び熱分解釜で得られた分解ガスを冷却して液化させ、再生油を得る凝縮器12を有する装置である。
【0011】
この発明の処理対象となる廃プラスチックとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリアミド等があげられる。
【0012】
具体的な工程としては、
図1に示す工程をあげることができる。まず、処理対象の廃プラスチックMを裁断(図示せず)し、洗浄・乾燥工程13で洗浄・乾燥する。これにより、前記廃プラスチックMに付着しているゴミ及び水分を除くことができると共に、次工程での液化をより容易に行うことができる。この洗浄機としては、Bun−Sen((株)カネミヤ製)等を上げることができる。また、前記乾燥工程は、熱分解釜11aの廃熱を利用して乾燥を行うことができる。
【0013】
洗浄・乾燥された廃プラスチックMは、液化工程14にて液化されて溶融廃プラスチックが得られる。このときの温度は、対象の廃プラスチックを溶融できる温度であればよく、230℃〜260℃程度であれば十分である。この液化工程に用いられる装置としては、一軸押出機や二軸押出機等の押出機等をあげることができる。
【0014】
次に、前記の溶融廃プラスチックは、熱分解釜11aに供給されて熱分解され、分解ガスとなる。この熱分解釜11aは、これを加熱する燃焼炉11bと共に熱分解炉11を構成し、燃焼炉11bにより、熱分解釜11aの温度が調整される。この熱分解釜11aの内部には、溶融廃プラスチックを攪拌する攪拌機(図示せず)が設けられ、これにより、熱分解釜11a内部の温度がほぼ均一になるようにされる。
【0015】
この熱分解温度は、370℃以上がよく、380℃以上が好ましい。370℃より低いと、前記溶融廃プラスチックを十分に熱分解することが困難となる場合がある。一方、熱分解温度の上限は、400℃がよく、390℃が好ましい。400℃より高いと、熱分解釜からのワックス分の蒸発飛散(留出)も顕著になり、前記再生油の収率が悪化するおそれがあると共に、熱分解釜11a内に炭化物が蓄積することとなる。
【0016】
前記熱分解釜11aで得られた分解ガスは、この熱分解釜11aの上方に設けられた還流塔15に送られ、一部還流される。これにより、前記分解ガスに同伴したワックス分等の高沸成分は、下方の熱分解釜11aに戻される。この還流塔15には、内部で還流が生じる状態、すなわち、前記分解ガスと分解ガスの液化物とが向流する状態が生ずればよく、そのような状態が生じる方法として、還流塔15の高さを、前記した目的を達成できる程度の高さにする方法や、還流塔15の内部の温度が前記分解ガスの液化を可能にし得る程度に還流塔15を冷却する方法等があげられる。また、還流塔15の内部には、必要に応じて、充填材を充填してもよい。充填材を用いることにより、還流塔の高さを低めに設定し、冷却の程度を下げることが可能となる。
【0017】
さらに、
図2に示すように、後述する貯液タンク18に貯蔵される製品たる再生油Pの一部を抜き出し、凝縮器21で冷却した後、これを還流塔15の上部に戻してもよい。このようにすることにより、還流塔15に上がってきた分解ガスを、製品たる再生油Pで直接接触することにより、冷却することが可能となる。戻す再生油Pの量や温度は、再生油の回収量、再生油に含まれる高沸成分の量、目標とする冷却の程度等に応じて、適宜選択される。そして、このようにすることにより、還流塔15内における冷却の効果をより向上させ、高沸成分の分解ガスからの分離をより容易にすることができる。
【0018】
前記の充填材としては、規則充填物であっても、不規則充填物であってもよい。前記規則充填物は、還流の状態を一定に保つことができると共に、圧損をより低減することができるので、好ましい。この規則充填物は、多数の孔を有するものであり、多数の孔を開けた平板体や網状体等を円柱状、塔の形状に加工したものがあげられる。そして、この規則充填物は、その径や高さを還流塔15の径や高さに合わせたものが使用される。このような規則充填物としては、MCパック(マツイマシン(株)製)等があげられる。
【0019】
前記還流塔15において、液体状の高沸成分や液化した分解ガスは、下方の熱分解釜11aに戻され、一方、残りの分解ガスは、還流塔15の上方から凝縮器12に送られる。そして、ここで液化可能な分解ガスは液化される。次いで、気液分離装置16によって、気液が分離され、気体成分は浄化装置17で浄化されて排気として放出される。
一方、液体成分である再生油Pは、貯液タンク18に貯蓄され、製品として使用される。
【0020】
前記凝縮器12での冷却効果が不十分な場合、ガス状態の分解ガスが浄化装置17に行く可能性がある。この状態が生じる可能性がある場合は、
図2に示すように、貯液タンク18に貯蔵される製品たる再生油Pの一部を抜き出し、凝縮器21で冷却した後、これを還流塔15から凝縮器12への配管に戻してもよい。このようにすることにより、凝縮器12に送られる分解ガスが、再生油Pとの直接接触により冷却され、凝縮器12での冷却を補助することができる。戻す再生油Pの量や温度は、再生油の回収量、再生油に含まれる高沸成分の量、目標とする冷却の程度等に応じて、適宜選択される。
【0021】
ところで、高温の分解ガスが凝縮器12内にそのまま入った場合、液化と同時に凝縮器12の熱交換チューブ内面に付着が生じる恐れがある。さらに、場合によっては、高温状態が維持されていると、炭化が生じてしまうこともある。このような場合、凝縮器12内部の洗浄が必要となるが、単なる洗浄では落ちず、削ぎ落としが必要となる場合がある。これに対し、冷却した再生油Pの一部を分岐して凝縮器12への配管にスプレー状で流すことにより、高温ガスと冷却再生油を直接接触させ、分解ガスの温度を低下させることができ、凝縮器12の熱交換チューブ内面に付着や炭化を防止することができる。
【0022】
また、前記凝縮器12での冷却効果が不十分な場合や、回収する再生油Pの成分を調整したい場合は、気液分離装置16から浄化装置17の配管に、第2の凝縮器と第2の気液分離装置を設けてもよい。このようにすると、前記凝縮器12での冷却効果が不十分な場合、再度の冷却が可能となり、より確実に再生油Pの回収が可能となる。
【0023】
また、このようにすると、回収する再生油Pの成分を調整したい場合、凝縮器12と第2の凝縮器の冷却温度を異なる温度とし、凝縮器12の冷却温度をより高めとすることにより、凝縮器12によって液化され、貯液タンク18に回収された再生油は、第2の凝縮器によって液化され、第2の貯液タンクに回収された再生油より沸点のより高い成分を回収することが可能となり、使用目的等に応じた再生油の製造が可能となる。
【0024】
ところで、凝縮器12の冷媒として空気等が用いられるが、この凝縮器12で熱が加えられた空気等を、洗浄・乾燥工程13において、乾燥用の熱風として用いると、熱リサイクルの観点から好ましい。
また、製品たる再生油Pの一部を、燃焼炉11bの燃焼原料の一部又は全部として用いると、外部エネルギーの消費を節約でき、装置全体で見ると、省エネルギー化することができる。
【0025】
上記した方法で再生油Pを製造した場合、熱分解釜11aの中には、残渣分が溜まることになる。このため、熱分解釜11aでの廃プラスチックMの熱分解の効率があまり低下しないタイミングで、熱分解釜11aを冷却し、内部の残渣分を、溶融廃プラスチックMと共に取り出すことが必要となる。この場合、自然冷却してもよいが、熱分解釜11aが大きい場合は、冷却に時間がかかることとなり、効率的でない。このような場合、
図3に示すように、熱分解釜11aに、この熱分解釜11aの内部ガスを冷却するための冷却部を連結することが好ましい。
この冷却部は、熱分解釜11aの内部ガスを冷却するための凝縮器22、熱分解釜11aの内部ガスを凝縮器22に送るための導出ライン、及び凝縮器22で冷却された内部ガスを熱分解釜11aに戻す導入ラインを有する。
この冷却部を稼働させる場合は、まず、前記燃焼炉11bを一時停止させて、熱分解釜11aの加熱を一時停止する。次いで、熱分解釜11aの内部ガスを前記導出ラインを経由して凝縮器22に送る。そして、凝縮器22で内部ガスを冷却した後、この冷却した内部ガスを前記導入ラインを経由して熱分解釜11aに戻す。
この操作により、熱分解釜11aの内部を強制冷却することができ、冷却時間を短縮できるので好ましい。このとき、熱分解釜11aから凝縮器22への配管で少量の窒素ガス(N
2)を加えて陽圧にすることが好ましい。そのようにすると、凝縮器22での冷却により、その後の配管が負圧となり、空気、特に酸素が浸入するのを防止することができる。酸素が侵入すると、温度が高いため、酸化が生じる恐れがあるからである。
なお、熱分解釜11a内の残渣分は炭化物なので、できるだけ冷却した方が良い。
【0026】
この熱分解釜11aの残渣分を定期的に取り出す方法の具体例としては、次の方法をあげることができる。
この発明に係る廃プラスチック油化処理装置の運転中、熱分解釜11a内の残渣分を取り出す場合、まず、溶融廃プラスチックの熱分解釜11aへの供給をまず止める。このとき、熱分解釜11a内の溶融廃プラスチックの分解は継続している。ただ、還流塔15に送られる分解ガスの量は減少していくので、それに合わせ、凝縮器21から還流塔15上部に供給される再生油Pの供給量を減少させる。
【0027】
次いで、熱分解釜11aの温度が430℃を超えた段階で、熱分解釜11aの加熱を停止する。そして、上記した方法で熱分解釜11aの強制冷却を行う。これに先立ち熱分解釜11aの温度が410℃を超えた段階で、凝縮器21から還流塔15上部や、還流塔15から凝縮器12への配管に供給される再生油Pの供給量を停止させる。さらに、貯液タンク18の出口を閉じる。なお、貯液タンクを2つ(貯液タンク18と第2貯液タンク)を用いている場合は、両者間のライン、及び第2貯液タンクの出口を閉じる。
次に、熱分解釜11aが十分に冷却(50℃〜70℃程度)になった段階で、熱分解釜11aの釜底から内部の残渣分を取り出す。
【0028】
ところで、熱分解釜11aの加熱を停止してからこの作業が終わるまでの間に、熱分解釜11aから還流塔15に送られる分解ガスは存在する。この場合、凝縮器21から還流塔15上部への再生油Pの供給は停止しているので、分解ガス中に含まれる高沸成分が十分に分離されず、貯液タンク18まできてしまうことがある。
【0029】
次に、残渣分の取り出し後、熱分解釜11aの開放部を閉め、廃プラスチックの供給及び熱分解釜11aの加熱を再開する。このとき、貯液タンク18内の再生油Pは、その全量を凝縮器21を介して還流塔15上部へ戻すことが好ましい。これにより、貯液タンク18内の再生油Pに含まれる高沸成分を再度、還流にかけることができる。また、このとき、貯液タンク18の出口は閉じた状態を維持する。なお、貯液タンクを2つ(貯液タンク18と第2貯液タンク)を用いている場合は、両者間のライン及び第2貯液タンクの出口を閉じた状態を維持し、貯液タンク18内の再生油Pの全量が出された後、第2貯液タンク内の再生油Pを貯液タンク18に移液する。貯液タンク18内に液があると、還流塔15等への再生油Pの供給がすぐ可能となる。
【0030】
そして、熱分解釜11aから還流塔15へ分解ガスが行き始めると、貯液タンク18の出口(貯液タンクを2つ(貯液タンク18と第2貯液タンク)を用いている場合は、両者間のライン及び第2貯液タンクの出口)を開き、貯液タンク18に再生油Pがある程度溜まった状態において、凝縮器21から還流塔15上部や、還流塔15から凝縮器12への配管に供給される再生油Pの供給を再開する。
【0031】
この発明に係る廃プラスチック油化処理装置を用いると、従来、廃棄、燃焼処理されていた廃プラスチックから再生油を得ることができ、新たなエネルギー源を得ることができる。
【実施例】
【0032】
以下、この発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
[実施例1]
図1及び
図2に記載のフローを用いて、廃プラスチックの油化処理を行った。
まず、廃プラスチック(ポリエチレン:75重量%、ポリプロピレン:5重量%、ポリスチレン:5重量%)を洗浄装置((株)カネミヤ製:Bun−Sen)にて水洗し、汚れを落とした。次いで、熱分解釜11aの排熱を利用して、70℃〜80℃の温風を得、これを吹きかけ、乾燥させた。
次いで、一軸押出機(石中鉄工所(株)製)の入り口側の投入口に、約400kg/hで投入した。この一軸押出機は、出口側が約260℃となるように温度条件が設定される。
この一軸押出機で溶融された溶融廃プラスチックは熱分解釜11aに連続供給される。この熱分解炉11の熱分解釜11aは、内径が2m、高さが2mの中央部が円柱状、上部及び下部が楕円状であり、下部に燃焼炉11bが配され、これにより熱分解釜11aが加熱される。この熱分解釜11aは、内温が380℃〜440℃となるように調節されている。
【0033】
熱分解釜11aで溶融廃プラスチックは熱分解されて分解ガスとなり、熱分解釜11aの上方の還流塔15に移動する。この冷却塔は、内径310.5mm、高さ2150.2mmであり、内部には、規則充填物(マツイマシン(株)製:MCパック)が充填される。
この還流塔15内部では、上部で分解ガスの一部が液化し、還流状態が生じる。これは、還流塔15の上部に向かうにしたがって、分解ガスが放冷して温度が下がるためと、後述するように貯液タンク18に貯められた再生油の一部を冷却して、還流塔15上部に供給し、分解ガスと直接接触させるからである。
この還流塔15で液化した分解ガスの液化液は、熱分解釜11aに戻り、再度、熱分解に供与される。一方、液化しなかった分解ガスは、還流塔15の上部より凝縮器12に送られる。この還流塔15から凝縮器12への配管に、上記した貯液タンク18の再生油の一部を冷却したものの一部を供給し、分解ガスを直接に冷却する。
【0034】
次いで、凝縮器12にて、分解ガスを冷却する。このときの冷媒としては、空気が用いられる。冷媒として用いられた空気は、凝縮器12通過後、80℃程度になるので、前記した熱風乾燥機の熱風の一部として再利用される。
凝縮器12によって冷却された分解ガスは、液化した液化液、冷却用に直接導入された再生油と共に気液分離装置16に導入されて気液が分離され、気体成分は浄化装置(セイコー化工機(株)製:TRS−F20)17に送られ、アンモニア成分は除去され、残りは排気ガスとして外気放出される。
一方、液体成分は、貯液タンク18に送られて、再生油として貯蔵される。この貯蔵された再生油は、製品として使用される。また、この再生油の一部は、凝縮器21で冷却されて、前記したように、還流塔15や還流塔15から凝縮器12への配管に冷却液として供給される。
この再生油は、凝縮器21によって50℃〜120℃の範囲内に冷却して用いられる。また、還流塔15に供給される再生油の量は、130kg/hであり、還流塔15から凝縮器12への配管に供給される再生油の量は、3.07kg/hである。なお、これらの供給は、貯液タンク18に常時貯液されている再生油を用いて必要な時にいつでも供給される。
【0035】
これらの流れで再生油を製造し、再生油のうち、初留分(貯液タンク18に最初に溜まる100リットル分。また、再生油の還流塔15及び還流塔15から凝縮器12への配管への供給は始まっていない。)、中留分(貯液タンク18に溜まる量が400リットル〜800リットルの範囲内の留分。)について、留分中の組成を調べた。その結果を表1に示す。
【0036】
なお、参考例1として、灯油の組成を調べたので、併せて示す。
【0037】
[比較例1〜4]
実施例1において、熱分解釜11aの内温を変更し、還流塔15を用いず、貯液タンク18中の再生油を還流塔15及び還流塔15から凝縮器12への配管に供給するのを取りやめた以外は、実施例1と同様にして、再生油を製造した。
熱分解釜11aの内温を380℃(比較例1)、390℃(比較例2)、400℃(比較例3)、410℃(比較例4)に変更したときのそれぞれの中留分について組成を調べた。その結果を表1に示す。
【0038】
なお、表1において、「ナフサ分」とは炭素数5〜9の成分をいい、「灯・軽油分」とは炭素数10〜17の成分をいい、「重油分」とは炭素数18〜21の成分をいい、「ワックス分」とは炭素数22以上の成分をいう。
また、表1において、「流動点」とは、当該留分が流動性を示す温度をいう。
【0039】
【表1】
【0040】
(結果)
実施例1の中留分と比較例4(中留分)との対比から、還流塔を使用する実施例1では、ワックス分が2.7重量%と、ワックス分の再生油への混入を抑制できることが明らかとなった。
また、各比較例の流動点から明らかなように、還流塔を使用しない場合は、熱分解釜内が390℃以上になると、ワックス分の留出が増大し、流動点が8.0℃以上となり、固化しやすくなることが明らかとなった。一方、実施例1においては、熱分解釜内が410℃であるのにもかかわらず、ワックス分が少なく、流動点が−10℃未満で、固化しにくく、装置内のワックスの固化による汚れの付着が生じにくいことがわかった。