(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
濡れ性は表面エネルギーの影響を強く受けることが知られており、表面エネルギーの小さいフッ素コーティングは、撥水剤としてしばしば用いられている。しかしながら、フッ素コーティングによる平滑面での水の接触角は、115°程度と限度があり、フッ素コーティングのみでは、接触角が150°を超える超撥水を実現することができない。
【0003】
液体の濡れ性は、数1に示すようにWenzelの式で表せる。なお、数1において、rは表面積倍率であり、r>1である。θ
eは平滑面の接触角であり、θ
wはみかけの接触角である。
【数1】
【0004】
数1により、θ
e>90°ではθ
w>θ
eとなり、θ
e<90°ではθ
w<θ
eとなる。すなわち、表面粗さが増加するにつれて、撥水性表面では接触角が増大する。このため、超撥水を実現するためには表面粗さの導入が不可欠である。
【0005】
例えば、特許文献1に示す撥水材は、
図14(a)に示すように、基材100と、基材100の表面に形成された微細凹凸構造101と、微細凹凸構造101の表面を被覆する疎水性分子102とを備える。微細凹凸構造101は、複数の板状粒子の集合体からなる花弁状構造103と、柱状粒子からなる柱状構造104とを備えている。また、微細凹凸構造は、
図14(b)に示すように、基材100の表面に多数の錐体105を備えた錐体状突起構造106である場合もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記特許文献1に記載の構造のように、凹凸微細構造101は基材100と一体化していないため、微細凹凸構造101が剥離したり脱落したりする。また、錐体状突起構造106は先端強度が小さい。さらに、凹凸微細構造101も錐体状突起構造106も、基材100からの高さが高い(アスペクト比が大きい)ものであり、摩耗や損傷が生じやすい。
【0008】
そこで、高い撥水性と耐久性を両立することが可能な撥水面構造および撥水面構造の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の撥水面構造は、基材表面に直接形成された凹凸構造部を有し、前記凹凸構造部の表面をなすプラトー構造表面に、
微小の凹部と凸部とが交互に所定ピッチで配設されて、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状の周期構造が形成され
、前記周期構造の表面に、周期構造の凸部及び凹部よりも微小な100nm以下の粗さが内包されたものである。
【0010】
本発明の撥水面構造によれば、基材表面に直接形成された凹凸構造部の表面をなすプラトー構造表面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状の周期構造を形成する。すなわち、大きな粗さである凹凸構造部に、小さな粗さである周期構造を形成することで、異なるオーダーの粗さを複合化して基材の表面積倍率を大きくすることができる。しかも、凹凸構造部も周期構造も、基材そのものを加工して基材に直接形成されたものであり、凹凸構造部と周期構造とは一体化されたものである。これにより、凹凸構造部の凸部の高さを低くしながらも(アスペクト比を小さくしながらも)、表面積倍率を大きくすることができ、超撥水と耐久性とを併せ持つことができる。すなわち、錐体状突起構造や、酸化膜、水酸化膜等の皮膜からなる微細凹凸構造のように、基材とは異なる構造を別途形成するものと比較して摩耗や損傷が生じにくく、広範囲に活性の高い新生面が形成されることがない。
【0011】
前記凹凸構造部の凸部の最小幅が100μm以下、かつ、前記グレーティング状の周期構造のピッチの2倍以上とするのが好ましい。凸部の最小幅を100μm以下とすることにより、凸部は液滴に対して1オーダー以上小さいものとなり、液滴が滴下された状態において、液滴は凸部よりも十分大きなものとなる。また、凸部の最小幅が周期構造のピッチの2倍以上とすることにより、凸部に周期構造を形成することができる。
【0013】
前記構成において、前記凹凸構造部および前記グレーティング状の周期構造上に、平滑面における水の接触角が100°以上、かつ、厚さが20nm以下となる撥水剤をコーティングするのが好ましい。
【0014】
本発明の撥水面構造の製造方法は、基材表面に凹凸構造部を直接形成し、前記凹凸構造部の表面をなすプラトー構造表面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状の周期構造を形成するものである。この場合、さらに、前記凹凸構造部および前記グレーティング状の周期構造上に、平滑面における水の接触角が100°以上、かつ、厚さが20nm以下となる撥水剤をコーティングするのが好ましい。
【0015】
前記周期構造は、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的に形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、摩耗や損傷が生じにくく、広範囲に活性の高い新生面が形成されることがなくなって、高い撥水性と耐久性を両立することが可能となる。しかも、基材そのものを加工して形成するため、特殊な処理を施す必要はなく、あらゆる材質に適用することが可能である。
【0017】
凹凸構造部の凸部の最小幅が100μm以下、かつ、前記グレーティング状の周期構造のピッチの2倍以上とすることにより、凸部は液滴に対して十分小さな構造となり、撥水性を発揮することができる。
【0018】
前記グレーティング状の周期構造内に100nm以下の粗さが内包されることにより、損傷が生じにくいアスペクト比の小さな形状で、更に大きな表面積倍率を稼げるため、より一層高い撥水性と耐久性とを発揮することができる。
【0019】
前記凹凸構造および前記グレーティング状の周期構造上に、平滑面における水の接触角が100°以上、かつ、厚さが20nm以下となる撥水剤をコーティングすることにより、撥水面構造の表面積倍率を低下させることなく、大気中由来の有機汚染膜よりも撥水性を向上させることができる。
【0020】
加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバラップさせながら走査して、自己組織的に形成したものでは、機械加工では困難なサブミクロンの周期ピッチと凹凸深さを持つ周期構造を容易に形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態を示す撥水面構造にて液滴を支持した状態を示し、(a)はWenzel状態、(b)はCassie−Baxter(C−B)状態での簡略正面図である。
【
図2】本発明の第1実施形態の撥水面構造を拡大した図であり、(a)は正面図、(b)は凹凸構造部が2次元格子溝における平面図、(c)は凹凸構造部が1方向溝における平面図である。
【
図3】周期構造を形成するためのレーザ表面加工装置の簡略図である。
【
図4】本発明の他の実施形態の撥水面構造を拡大した図であり、(a)は正面図、(b)は凹凸構造部が2次元格子溝における平面図、(c)は凹凸構造部が1方向溝における平面図である。
【
図5】本発明の他の実施形態の撥水面構造を拡大した図であり、(a)は正面図、(b)は凹凸構造部が2次元格子溝における平面図、(c)は凹凸構造部が1方向溝における平面図である。
【
図6】フッ素コーティングを行った周期構造表面のAFM画像図である。
【
図7】水滴の状態を示し、(a)は平滑面における水滴の画像図、(b)は前記
図6に示す周期構造形成面における水滴の画像図である。
【
図8】2次元格子溝である凹凸構造部と周期構造とを複合化した撥水面構造の画像図である。
【
図9】前記
図8に示す撥水面構造における水滴の画像図である。
【
図10】前記
図8に示す撥水面構造において、溝幅10μm、3種類の溝深さ(3.5μm、5μm、10μm)、溝ピッチを13μm〜25μmで変化させたときの、凹凸構造部に起因する表面積倍率と、C−B状態に移行する固液接触率との推移を示すグラフ図である。
【
図11】固液接触率と、C−B状態での接触角との関係を示すグラフ図である。
【
図13】耐久試験において、周期構造部と未加工部におけるフッ素コーティングの被覆率の比較を示すグラフ図である。
【
図14】従来の撥水面構造を示し、(a)は凹凸微細構造の断面図、(b)は錐体状突起構造の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下本発明の実施の形態を
図1〜
図13に基づいて説明する。
【0023】
第1実施形態の撥水面構造は、
図1に示すように、基材1表面に、μmオーダーの溝加工(例えば、溝幅10μm、溝深さ5μm、溝ピッチ20μm)が直接形成された凹凸構造部2を有するものである。溝は2方向に形成されており、凹凸構造部2の夫々の凸部3は四角柱をなす。すなわち、凹凸構造部2は、平面視において凹部5が格子状をなす2次元格子溝となっている(
図8参照)。凹凸構造部2の表面(つまり、凸部3の表面と全側面、及び溝底面5)はプラトー構造表面4となる。
【0024】
図2(a)(b)に示すように、プラトー構造表面4に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状の周期構造6が形成されている。本実施形態では、周期構造6は、プラトー構造表面4の全面(凸部の表面3と全側面、及び溝底面5)に形成されている。グレーティング状の周期構造6は、微小の凹部と微小の凸部とが交互に所定ピッチで配設されてなるものである。周期構造6の凹凸ピッチは、例えばピッチ約900nm、深さ約250nmであり、凹凸構造部2とはオーダーの異なる(小さな)粗さを有するものである。
【0025】
すなわち、大きな粗さである凹凸構造部2に、小さな粗さである周期構造6を形成することで、異なるオーダーの粗さを複合化して基材1の表面積倍率を大きくすることができる。これにより、本発明の撥水面構造に水滴7が滴下されると、
図1(a)に示すようなWenzel状態から
図1(b)に示すような凹部が空気で満たされたCassie−Baxter(C−B)状態に移行させることができる。
【0026】
凹凸構造部2も周期構造6も、基材1そのものを加工して基材1に直接形成されたものであり、凹凸構造部2と周期構造6とは一体化されたものである。これにより、凹凸構造部2の凸部3の高さを低くしながらも(アスペクト比を小さくしながらも)、表面積倍率を大きくすることができ、超撥水と耐久性とを併せ持つことができる。すなわち、錐体状突起構造や、酸化膜、水酸化膜等の皮膜からなる微細凹凸構造のように、基材1とは異なる構造を別途形成するものと比較して摩耗や損傷が生じにくく、広範囲に活性の高い新生面が形成されることがない。
【0027】
凹凸構造部2の凸部3の最小幅W(
図2(a)参照)は、
図1に示すように、液滴7に対して凸部3が複数対応するものとしている。より具体的には、凸部3の最小幅が100μm以下、かつ、前記グレーティング状の周期構造6のピッチの2倍以上であるのが好ましい。凸部3の最小幅Wとは、
図2に示すように、凸部3が突出する方向と直交する方向において、凸部寸法が最も小さくなる部分の長さであり、本実施形態では、凸部3の一の側面から、これに相対面する側面までの長さ寸法となる。
【0028】
凸部3の最小幅を100μm以下とすることにより、凸部3は液滴7に対して1オーダー以上小さいものとなる。すなわち、
図1に示すように、液滴7が滴下された状態において、液滴7は凸部3の最小幅Wよりも十分大きなものとなり、撥水性を発揮することができる。また、凸部3の最小幅Wが周期構造6のピッチの2倍以上とすることにより、凸部3に周期構造6を形成することができる。
【0029】
グレーティング状の周期構造内には、100nm以下の粗さが内包されている。すなわち、グレーディング状の周期構造6の凸部や凹部の表面に、それよりも微小な凹凸がさらに形成されており、凹凸構造部2の粗さと、周期構造6の粗さと、100nm以下の粗さとが複合化されている。これにより、損傷が生じにくいアスペクト比の小さな形状で、更に大きな表面積倍率を稼げるため、より一層高い撥水性と耐久性とを発揮することができる。
【0030】
さらに、凹凸構造部2およびグレーティング状の周期構造6上に、平滑面における水の接触角が100°以上、かつ、厚さが20nm以下となる撥水剤をコーティング(フッ素コーティング)している。撥水剤としては、例えばリン酸エステルを吸着基とするものである。これにより、撥水面構造の表面積倍率を低下させることなく、大気中由来の有機汚染膜よりも撥水性を向上させることができる。
【0031】
このように、実施形態の撥水面構造は、グレーティング状の周期構造6を基材1に直接形成することにより、摩耗や損傷が生じにくく、広範囲に活性の高い新生面が形成されることがなくなって、高い撥水性と耐久性を両立することが可能となる。
【0032】
本発明の撥水面構造の製造方法は、まず、一般的な基材切断と同様に、基材1に対してレーザを照射して、平行な溝を複数形成し、さらに、これと直交する方向に、平行な溝を複数形成して凹凸構造部2である2次元格子溝を形成する。
【0033】
その後、加工閾値近傍の照射強度で直線偏光のレーザを照射し、その照射部分をオーバーラップさせながら走査して、自己組織的にプラトー構造表面4に周期構造6を形成する。具体的には、
図3に示すレーザ表面加工装置を使用する。レーザ発生器11で発生したレーザは、ミラー12により加工材料wに向けて折り返され、メカニカルシャッタ13に導かれる。レーザ照射時はメカニカルシャッタ13を開放し、レーザ照射強度は1/2波長板14と偏光ビームスプリッタ16によって調整可能とし、1/2波長板15によって偏光方向を調整し、集光レンズ17によって、XYθステージ19上の加工材料w表面に集光照射する。
【0034】
すなわち、アブレーション閾値近傍のフルエンスで直線偏光のレーザをワーク(加工材料)wに照射した場合、入射光と加工材料wの表面に沿った散乱光またはプラズマ波の干渉により、波長オーダのピッチと溝深さを持つグレーティング状の周期構造を偏光方向に直交して自己組織的に形成する。このとき、レーザをオーバラップさせながら走査させることで、周期構造6を広範囲に拡張することができる。
【0035】
このように、本発明の撥水面構造は、基材1そのものを加工して形成することができるため、特殊な処理を施す必要はなく、あらゆる材質に適用することが可能である。
【0036】
本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、凹凸構造部2は、平面視において格子状でなくてもよく、
図2(c)に示すように、1方向溝にて形成されたものであったり、3方向以上の溝にて形成されたものであってもよい。また、凹凸構造部2の凸部3は、台形状のものであってもよく、凹凸構造部2の溝底面は曲面等、平滑面でなくてもよい。
【0037】
表面積倍率を大きくするという点では、
図2に示すようにプラトー構造表面4の全面に周期構造6を設けるのが好ましいが、
図4に示すように、凸部3の表面のみに設けてもよいし、
図5に示すように凸部3の表面以外に設けてもよい。
【実施例1】
【0038】
周期構造(ピッチ約900nm、深さ約250nm)を形成したSUS304BAプレートに対し、ディップコーター(引上げ速度500μm/s)によりフッ素コーティングを行った。コーティング剤には、リン酸エステルを吸着基とする平滑面接触角112°のものを使用した。コーティング後、エタノールで超音波洗浄し、AFM観察及び純水(2μl)の接触角測定を行った。
【0039】
図6に周期構造表面のAFM像を示す。周期構造には、数十nm以下の粗さが認められた。周期構造の振幅はピッチの30%程度であり、正弦曲線で近似すると、平滑面に対する表面積倍率は1.2倍程度となる。しかし、内包される数十nm以下の粗さにより、AFMを用いた表面積倍率の測定値は1.78倍であった。これにより、グレーティング状の周期構造内に100nm以下の粗さが内包されることにより、更に大きな表面積倍率を稼げることが確認された。
【0040】
また、
図7(b)に示すように、周期構造における接触角は133°となり、
図7(a)の未加工部と比較して、接触角の増大効果が認められた。数1にθ
w=133°、θ
e=112°を代入すると、r=1.82となり、AFMの測定結果とほぼ合致した。このことから、周期構造形成面は、全固体表面が濡れたWenzel状態であることが確認された。
【実施例2】
【0041】
凹凸構造部とグレーティング状の周期構造の複合面を作成した。凹凸構造部は、
図8に示すように、溝幅10μm、溝深さ5μm、溝ピッチ20μmの2次元格子溝とし、プラトー構造表面の全面に周期構造を上書きしている。
図9に、複合面上に液滴を滴下した様子を示す。接触角を測定したところ155°であり、凹凸構造部とグレーティング状の周期構造の複合面により、接触角が150°以上の超撥水面が得られることが確認された。
【0042】
液滴を角柱(凸部)上面のみで支持する場合、固液接触率Φ
sは0.25となる。凹凸構造部と周期構造の複合面におけるC−B状態での接触角θ
CBは数2で示され、Wenzel状態での接触角θ
wは数3で示される。ここで、r
fは周期構造に起因する表面積倍率、r
lは凹凸構造部に起因する表面積倍率である。
【数2】
【数3】
【0043】
このとき、θ
CB<θ
wを満たす条件でC−B状態に移行すると考えられる。従って、数2及び数3からC−B状態に移行する固液接触率Φ
sは数4で示される。
【数4】
【0044】
実施例1で用いた周期構造に起因する表面積倍率r
f=1.82、平滑面の接触角θ
e=112°を数4に代入して作成したWenzel/C−B状態図を
図10に示す。凹凸構造部に起因する表面積倍率r
lおよび固液接触率Φ
sは溝幅、溝深さ、溝ピッチにより変化する。溝幅10μm、溝深さを3種類(3.5、5、10μm)とし、溝ピッチを13μm〜25μmで変化させた際のr
l、Φ
sの推移を
図10に示す。凹凸構造部に起因する表面積倍率r
lは、溝ピッチが溝幅の2倍(20μm)のときに最大となり、右に凸の軌跡を描く。溝ピッチが狭くなると、角柱面積が小さくなり、凹凸構造部に起因する表面積倍率r
lおよび固液接触率Φ
sが減少するため、C−B状態を維持するのに必要な溝深さが増加する。この図から、所望の固液接触率Φ
sにおいてC−B状態への移行に必要な溝深さを概算できる。本実施例に示す撥水面構造の表面は、溝深さ5μm、固液接触率Φ
sは0.25であるため、
図10からC−B状態となることがわかる。
【0045】
本実施例の凹凸構造と周期構造の複合面におけるC−B状態での接触角θ
CBは、数2にr
f=1.82、θ
e=112°を代入することで求められる。固液接触率Φ
sとC−B状態での接触角θ
CBの関係を
図11に示す。
図10を参照し、C−B状態を維持できるのであれば、固液接触率Φ
sを小さくするほど接触角を増大することができる。本実施例の固液接触率Φ
s=0.25での接触角は157°と算出され、測定結果とほぼ一致した。このように、接触角の計算角と測定結果がほぼ一致していることから、2次元格子溝と周期構造の複合面において、
図10及び
図11を用いてC−B状態移行に必要な溝深さや接触角を予測することも可能である。
【実施例3】
【0046】
超撥水性の長寿命化には、固液接触面となる周期構造のフッ素コーティングの耐久性向上が重要となる。このため、
図12に示すように、周期構造のフッ素コーティングの耐久性試験を行った。プレート試験片20はSUS304BAとし、しゅう動域の一部にしゅう動方向に平行の周期構造を形成した後、ディップコーター(引上げ速度500μm/s)によりフッ素コーティングを行った。コーティング剤には、リン酸エステルを吸着基とする平滑面接触角112°のものを使用した。
【0047】
5mm(幅)×5mm(長さ)×2mm(厚さ)のニトリルゴム21に♯0000のスチールウール22(中心径12μm)を巻きつけ、フッ素コーティングを施したプレート試験片とPAO6〔51.9cP(25℃)〕潤滑下で往復しゅう動した。垂直荷重は1.2Nとし、しゅう動速度10mm/s、ストローク16mmの条件でしゅう動させた。所定回数しゅう動後にプレート試験片をエタノールで超音波洗浄し、周期構造部および未加工部における純水(2μl)の接触角を測定した。
【0048】
フッ素コーティングの被覆率Aは数5により示される。数5において、θ
Lはしゅう動後の接触角、θ
1は平滑面におけるフッ素コーティングの接触角(112°)、θ
2は平滑面におけるプレート試験片の接触角(68°)、r
fは周期構造に起因する表面積倍率である。未加工部においてはr
f=1となる。
【数5】
【0049】
周期構造部と未加工部におけるフッ素コーティングの被覆率の比較を
図13に示す。ハッチングが周期構造部、白色が未加工部である。未加工部は、20往復後の被覆率が0.7程度まで低下しているが、周期構造形成部の被覆率は0.95程度となり、高い被覆率を示した。100往復後においても周期構造形成部は被覆率0.86程度を維持しており、周期構造は接触角の増大効果だけでなく、フッ素コーティングの耐久性向上にも効果があることが確認された。
【解決手段】基材表面に直接形成された凹凸構造部を有し、凹凸構造部の表面をなすプラトー構造表面に、凸部頂点が非平坦面となって連続的に高さが変化するグレーティング状の周期構造が形成される。