特許第6130019号(P6130019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130019
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】ケルプチップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/60 20160101AFI20170508BHJP
【FI】
   A23L17/60 102
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-92703(P2016-92703)
(22)【出願日】2016年5月2日
(65)【公開番号】特開2017-18090(P2017-18090A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年5月2日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0098639
(32)【優先日】2015年7月10日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516132105
【氏名又は名称】ヒャン−ア フード カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HYANG−A FOOD CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】キム,チョル−ウー
【審査官】 藤井 美穂
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭64−39971(JP,A)
【文献】 特開昭60−9474(JP,A)
【文献】 特開平4−66075(JP,A)
【文献】 特開平11−346722(JP,A)
【文献】 特開2008−263867(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1256201(KR,B1)
【文献】 北海道大学水産学部研究彙報,1964年,Vol.15, No.1,pp.58-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 17/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水飴、醤油、オリーブ油、及びこれらの混合液のいずれか一つを用いて、昆布を煮付ける昆布煮付け工程と、
煮付けられた昆布をレトルトパウチで包装した状態で加熱する昆布熱処理工程と、
レトルトパウチを除去した後、熱処理された昆布を凍結乾燥する昆布凍結乾燥工程と、を含むことを特徴とする、ケルプチップの製造方法。
【請求項2】
前記昆布煮付け工程の以前に、昆布を切断して準備する昆布準備工程と、準備された昆布をふやかす昆布浸漬工程と、ふやかした昆布を煮熟する昆布煮熟工程と、煮熟された昆布を脱水する昆布脱水工程と、を含むことを特徴とする、請求項1に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項3】
前記昆布煮付け工程において、昆布の100重量部に対して、水飴1〜30重量部、醤油1〜30重量部、オイル1〜30重量部を混合し、またはこれらを混合した液1〜30重量部を加えて行うことを特徴とする、請求項1に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項4】
前記オイルが、オリーブ油、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、菜種油、ヤシ油、及びごま油のいずれか一つ以上を用いることを特徴とする、請求項3に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項5】
前記昆布煮付け工程が、30〜100℃の温度で、10〜120分間煮付けることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項6】
前記昆布熱処理工程が、昆布をレトルトパウチに収容させた状態で、70〜121℃の温度で、5〜120分間熱処理することを特徴とする、請求項2に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項7】
前記昆布凍結乾燥工程が、昆布を−20℃〜−45℃の温度で、5〜120分間凍結乾燥させることを特徴とする、請求項6に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項8】
前記昆布脱水工程及び前記昆布煮付け工程の間に、脱水された昆布を乾燥する昆布乾燥工程をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項9】
前記昆布凍結乾燥工程以降、乾燥された昆布にシーズニングパウダーを混合するシーズニング工程をさらに含むことを特徴とする、請求項2に記載のケルプチップの製造方法。
【請求項10】
前記シーズニング工程が、乾燥された昆布の100重量部に対して、シーズニングパウダー2重量部が混合されることを特徴とする、請求項9に記載のケルプチップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昆布を揚げず、かつ形状を変形させながらも、嗜好度の高いケルプチップの製造方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
昆布は、約50種の各種のミネラルを豊かに含有したミネラルの宝庫として、人体に極めて有用な栄養食品である。特に、昆布には、特有のアルギン酸繊維質が豊かに含有され、消化器官及び腸内において栄養分の吸収を調節し、腸内の脂肪、コレステロール、過多な塩分、重金属、及び発癌物質や宿便等の老廃物を迅速に体外に排泄する作用をする。
【0003】
ところが、このような昆布の優れた栄養学的な特性にもかかわらず、昆布固有の組織と香り、貯蔵性等の理由で、消費促進に制限があり、加工食品の開発についての研究が足りないことが実情である。
【0004】
一般に、揚げ物は、昆布を素材とした代表的な加工食品であって、甘味を出すための砂糖含有食用油が200℃となった揚げ鍋に昆布を入れ、2〜3分間揚げた後、食用油ろ過網を用いて、適当な時間が経てからオイルがろ過される自然的な脱油方法を用いてきた。
【0005】
しかしながら、従来の方法で製造された昆布揚げ物は、肉厚で硬いため、歯応えが悪く、噛みそこなうと口蓋を傷つけ、歯ぐきを痛める恐れがあり、甘味が消えた後、塩辛く、苦く、しつこい後味もあっさりしていなかった。
【0006】
また、昆布揚げ物の表面に残った揚げ油の残量は、単に重力作用による脱油方法を用いたので、残量が多過ぎ、昆布揚げ物を商品化する場合、包装のビニル袋の内面に油がたくさん付き、商品としての価値を低下させるという問題点があった。
【0007】
本発明の背景技術としては、大韓民国特許庁に出願されて登録された特許文献1(1999.4.8.、わかめ揚げ物の製造方法)がある。
【0008】
したがって、本発明では、栄養学的に優れた海藻類を活用する目的で、嗜好度の高いケルプチップの製造方法を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国登録特許第10‐0206342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、昆布を揚げず、かつ形状を変更させながらも、嗜好度の高いケルプチップの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した目的を達成するために、本発明によるケルプチップの製造方法は、水飴、醤油、オリーブ油、及びこれらの混合液のいずれか一つを用いて、昆布を煮付ける昆布煮付け工程と、煮付けられた昆布をレトルトパウチで包装した状態で加熱する昆布熱処理工程と、レトルトパウチを除去した後、熱処理された昆布を凍結乾燥する昆布凍結乾燥工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
好ましくは、昆布煮付け工程の以前に、昆布を切断して準備する昆布準備工程と、準備された昆布をふやかす昆布浸漬工程と、ふやかした昆布を煮熟する昆布煮熟工程と、煮熟された昆布を脱水する昆布脱水工程と、を含むことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、昆布煮付け工程は、昆布の100重量部に対して、水飴1〜30重量部、醤油1〜30重量部、オイル1〜30重量部を混合し、またはこれらを混合した液1〜30重量部を加えて行うことを特徴とする。
【0014】
好ましくは、昆布煮付け工程は、煮付け対象物を50〜90℃の温度で、30〜60分間煮付けることを特徴とする。
【0015】
好ましくは、昆布煮付け工程で用いられたオイルは、オリーブ油、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、菜種油、ヤシ油、及びごま油のいずれか一つ以上を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、昆布を揚げず、かつ原形のまま維持しながら、形状、食感(クランチ食感)を向上させ、嗜好度に優れたケルプチップを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施例によるケルプチップの製造工程のフローチャートである。
図2】本発明の他の実施例によるケルプチップの製造工程のフローチャートである。
図3】本発明の実験例により、それぞれの工程別に製造されたケルプチップの外形写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の理解を助けるために、具体的な実施例及び比較例により、本発明の構成及び効果についてさらに詳述する。
【0019】
〈製造例1〉
図1に示すように、本発明の製造工程は、昆布準備工程(S10)と、昆布浸漬工程(S20)と、昆布煮熟工程(S30)と、昆布脱水工程(S40)と、昆布煮付け工程(S50)と、昆布熱処理工程(S60)と、昆布凍結乾燥工程(S70)と、を含む。
【0020】
〈第1工程:昆布準備工程(S10)〉
昆布準備工程は、昆布を切断して準備するものであって、良質の昆布を選別し、乾状態で2cm×3cm厚さの大きさに切断する。
【0021】
〈第2工程:昆布浸漬工程(S20)〉
昆布浸漬工程は、細切り昆布を水が入れた浸漬槽に浸漬させ、10〜60分間ふやかす。また、昆布は、ふやかす工程において、水を数回入れ替えることにより、塩分が除去され、最終的にきれいな水ですすぐ。
【0022】
〈第3工程:昆布煮熟工程(S30)〉
昆布煮熟工程は、ふやかした昆布の細胞の基質に溶け、アルギン酸等の多糖類性炭水化物成分を溶出するとともに、昆布組織間の柔軟性を与える。このような昆布煮熟工程は、95〜100℃の温度で、5〜20分間行われることが好ましい。
【0023】
〈第4工程:昆布脱水工程(S40)〉
昆布脱水工程は、煮熟した昆布に残存する不要な湿気を除去し、煮熟工程を通じて溶出されたアルギン酸等の多糖類性炭水化物が自然溶出するように、約5分間脱水させる。
【0024】
〈第5工程:昆布煮付け工程(S50)〉
昆布煮付け工程は、脱水した昆布の100重量部に対して、水飴1〜30重量部、醤油1〜30重量部、オイル1〜30重量部を混合し、またはこれらを混合した液1〜30重量部を加えて煮付ける。好ましくは、30〜100℃で、10〜120分間煮付ける。このとき、オイルは、オリーブ油、大豆油、ヒマワリ油、サフラワー油、菜種油、ヤシ油、及びごま油のいずれか一つ以上を用いることが好ましい。
【0025】
このような昆布煮付け工程を通じて、醤油による浸透圧効果により、昆布から水分とともにアルギン酸等の成分が溶出される。また、昆布の成分が溶出された昆布の組織間に水飴の糖成分が浸透し、空き空間を満たすようになる。すなわち、組織間に糖成分が満たされることにより、昆布が乾燥する過程において厚さが薄くなることが防止される。また、オリーブ油により、昆布の生臭い味が顕著に低下する。すなわち、オリーブ油が昆布の生臭い味を取れることになる。また、昆布を煮付けるとき、水飴の甘味と醤油の塩味が混じり合い、昆布の全体の味が増大し、オリーブ油が昆布にコートされることにより、香ばしい味が加えられる。
【0026】
〈第6工程:昆布熱処理工程(S60)〉
昆布熱処理工程は、煮付けられた昆布をレトルトパウチで包装した状態で、熱処理するものであって、昆布1kgをレトルトパウチに入れた状態で、70〜120℃の温度で、5〜120分間熱処理する。昆布熱処理工程において、昆布は、レトルトパウチに収容され、密閉されて包装された状態であるので、スチームに含まれた湿気により湿ったりまたは汚れたりしないとともに、レトルトパウチの内部空間に伝えられる間接熱により、表面が全体的に均一に煮えるようになる。
【0027】
〈第7工程:昆布凍結乾燥工程(S70)〉
昆布凍結乾燥工程は、レトルトパウチを除去した後、熱処理された昆布が重なり合わないようにしながら、容器に入れた状態で、−20〜−45℃の温度で、湿気が凍って昆布の表面に霜が発生するまで冷却させる。5〜120分間凍結乾燥させることが好ましい。
【0028】
したがって、このような過程を通じて、本発明は、昆布を揚げず、原形のまま維持しながら、食感、味等の嗜好度の高いケルプチップを製造することができる。
【0029】
〈製造例2〉
また、図2に示すように、本発明は、昆布脱水工程(S40)及び昆布煮付け工程(S50)の間に脱水された昆布を乾燥する昆布乾燥工程(S110)と、昆布凍結乾燥工程(S70)以降に、昆布選別工程(S120)、昆布シーズニング工程(S130)をさらに含んでもよい。
【0030】
〈第8工程:昆布乾燥工程(S110)〉
昆布乾燥工程は、昆布脱水工程において脱水された昆布に含まれた水分がさらに除去されるように乾燥させる。このような昆布乾燥工程により、以降の過程である昆布煮付け工程で用いられる成分が乾燥された昆布に浸透しやすくなる。
【0031】
〈第9工程:昆布選別工程(S120)〉
また、昆布選別工程は、昆布凍結乾燥工程(S70)において壊れたり、乾燥しきれなかったりした昆布と、乾燥された良質の昆布とを区分して選別する。この選別時、互いにくっついた昆布は、分離して離隔させる。
【0032】
〈第10工程:昆布シーズニング工程(S130)〉
乾燥された昆布の100重量部に対して、シーズニングパウダー2重量部を混合する。このようなシーズニングパウダーが昆布に混合されることにより、味と風味が加えられる。シーズニングパウダーは、オリジナルシーズニングパウダー、ピザシーズニングパウダー、バーベキューシーズニングパウダー、ガーリックシーズニングパウダー等であってもよい。
【0033】
〈実施例1〉
良質の昆布を2×3cmの大きさに切断し、表1に示すように、各工程別にケルプチップを製造した。
【0034】
昆布浸漬工程は、チップ状の昆布を浸漬槽に浸漬させ、10kg当たり50Lの水に約30〜60分間浸漬させてふやかした。昆布煮熟工程は、100℃の熱湯に約10分間煮熟させた。
【0035】
昆布脱水工程は、茹でた昆布を約30分間放置して脱水させた。
【0036】
昆布煮付け工程は、表1の成分で50分間煮付けた。
【0037】
昆布熱処理工程は、煮付けられた昆布をレトルトパウチで包装した状態で、100〜120℃の温度で、約60分間熱処理した。
【0038】
昆布凍結乾燥工程は、レトルトパウチを除去した後、熱処理された昆布を凍結乾燥用のパン上に広げ、−30℃の温度で凍結乾燥した。
【0039】
【表1】
〈実験例1〉
上記した実施例1により、各工程別に製造されたケルプチップの食感(クランチ食感、生臭い味、異物感)、外形を調べるために、パネルを対象として官能評価し、その結果を5点比較法で測定した。測定された食感は、表2に示し、外形は、表3と図3に示した。
【0040】
5点:極めて優れる、4点:優れる、3点:普通である、2点:不良である、1点:極めて不良である。
【0041】
【表2】
表2から明らかなように、製造例1の昆布の原物に比べて、製造例4の煮付け工程以降からクランチ食感が増加し、生臭い味、異物感は減少した。特に、製造例8の熱処理工程後、クランチ食感が最も高く、生臭い味、異物感がなく、嗜好的価値が極めて優れたことが確認された。
【0042】
また、完成した昆布の乾燥時も、熱風乾燥または低温乾燥時は、クランチ食感が減少し、異物感が高くなることが確認された。
【0043】
【表3】
表3及び図3から明らかなように、製造例1の浸漬以降、製造例2の煮熟後の工程のみを経たケルプチップの外形には、白粉(アルギン酸)があり、外観上、嗜好度が低く、製造例3の煮付け工程後、外観がきれいとなり、その嗜好度が増加した。また、製造例8の熱処理工程以降、色、きれいさ等の外観上の嗜好度が最も高かった。これに対して、製造例9の熱風乾燥、製造例10の低温乾燥工程で製造されたケルプチップは、外観上、色が黒色に変わり、絡み合うことにより、外観上、嗜好度が顕著に減少することが確認された。
【0044】
〈実験例2〉
上記した実施例1により製造されたケルプチップの組織感を測定するために、Texture analyzer(TA、XT2i、Stable Micro systems Ltd., England)を用いて、return to start法で脆性(brittleness)を調べた。その結果を表4に示した。
【0045】
【表4】
表4から明らかなように、上記した実施例1により、各製造工程により製造されたケルプチップの脆性を測定した結果、原物の昆布に比べて、各処理工程が進行することにより、その値が増加することが確認された。すなわち、製造例8の熱処理工程以降、その値が最大値を示した。これに対して、凍結乾燥ではなく、製造例9の熱風乾燥、製造例10の低温乾燥工程で製造されたケルプチップは、脆性が減少することが確認された。したがって、ケルプチップの最適工程は、熱処理工程以降、凍結乾燥工程であることが確認された。
図1
図2
図3