(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6130085
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】圧電素子および圧電素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 41/047 20060101AFI20170508BHJP
H01L 41/053 20060101ALI20170508BHJP
H01L 41/29 20130101ALI20170508BHJP
H01L 41/09 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
H01L41/047
H01L41/053
H01L41/29
H01L41/09
【請求項の数】19
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-575257(P2016-575257)
(86)(22)【出願日】2016年8月31日
(86)【国際出願番号】JP2016075433
【審査請求日】2016年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2015-179069(P2015-179069)
(32)【優先日】2015年9月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】田淵 裕介
(72)【発明者】
【氏名】松岡 元
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆志
【審査官】
加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】
特表2015−519720(JP,A)
【文献】
特開2015−026676(JP,A)
【文献】
特開2000−208725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 41/047
H01L 41/053
H01L 41/09
H01L 41/29
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子機器に組み込まれる圧電素子であって、
基板上または下地膜上に形成された下部電極と、
前記下部電極上に形成された圧電層と、
前記圧電層上に形成された上部電極とを備え、
前記上部電極は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された第2電極層とを含み、
前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている、圧電素子。
【請求項2】
前記下部電極は、前記基板上または前記下地膜上に形成された第1下部電極層と、前記第1下部電極層上に形成され、前記第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、前記第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、前記圧電層に接する第3下部電極層とを含み、
前記第2下部電極層の厚さは、前記第1下部電極層の厚さよりも大きい、請求項1に記載の圧電素子。
【請求項3】
前記第1下部電極層は、チタンにより形成されており、
前記第2下部電極層は、白金により形成されている、請求項2に記載の圧電素子。
【請求項4】
前記第1電極層の金属酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウムを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項5】
前記第1電極層の厚さは、2nm以上40nm以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項6】
前記第2電極層は、還元性のある金属原子を含む、請求項5に記載の圧電素子。
【請求項7】
前記第1電極層上には、100nm以上の保護層が設けられている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項8】
基板上または下地膜上に下部電極を形成する工程と、
前記下部電極上に圧電層を形成する工程と、
前記圧電層上に上部電極を形成する工程とを備え、
前記上部電極を形成する工程は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を形成する工程と、前記第1電極層の前記金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、前記第1電極層上に第2電極層を形成する工程とを含み、
前記下部電極を形成する工程は、前記圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含む、圧電素子の製造方法。
【請求項9】
前記下部電極を形成する工程は、前記基板上または前記下地膜上に第1下部電極層を形成する工程と、前記第1下部電極層上に前記第1下部電極層とは異なる材料により第2下部電極層を形成する工程と、前記第2下部電極層上に金属酸化物を結晶化して前記圧電層に接する第3下部電極層を形成する工程とを含み、
前記第2下部電極層を形成する工程では、前記第2下部電極層の厚さが前記第1下部電極層の厚さよりも大きくなるように前記第2下部電極層を形成する、請求項8に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項10】
前記第1下部電極層は、チタンにより形成し、
前記第2下部電極層は、白金により形成する、請求項9に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項11】
前記上部電極を形成する工程の後の全ての工程は、前記第1電極層の前記金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下で行われるように構成されている、請求項8〜10のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項12】
前記上部電極上に前記上部電極を覆うように絶縁層を形成する工程をさらに備える、請求項8〜11のいずれか1項に記載の圧電素子の製造方法。
【請求項13】
電子機器に組み込まれる圧電素子であって、
基板上または下地膜上に形成された下部電極と、
前記下部電極上に形成された圧電層と、
前記圧電層上に形成された上部電極と、
前記上部電極上に形成され、前記上部電極を覆う絶縁層とを備え、
前記上部電極は、少なくとも前記圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、前記第1電極層上に形成された第2電極層とを含み、
前記下部電極は、前記圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている、圧電素子。
【請求項14】
前記下部電極は、前記基板上または前記下地膜上に形成された第1下部電極層と、前記第1下部電極層上に形成され、前記第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、前記第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、前記圧電層に接する第3下部電極層とを含み、
前記第2下部電極層の厚さは、前記第1下部電極層の厚さよりも大きい、請求項13に記載の圧電素子。
【請求項15】
前記第1下部電極層は、チタンにより形成されており、
前記第2下部電極層は、白金により形成されている、請求項14に記載の圧電素子。
【請求項16】
前記上部電極上に沿って形成され、前記絶縁層とともに前記上部電極を覆う引出配線をさらに備える、請求項13〜15のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項17】
前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている、請求項13〜16のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項18】
前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記圧電層の縁部上面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている、請求項13〜17のいずれか1項に記載の圧電素子。
【請求項19】
前記絶縁層は、前記下部電極の上面と、前記圧電層の側面と、前記圧電層の縁部上面と、前記上部電極の上面とに沿って覆うように配置され、
前記上部電極上に沿って形成され、前記絶縁層とともに前記上部電極を覆う引出配線をさらに備える、請求項13〜18のいずれか1項に記載の圧電素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、圧電素子および圧電素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電素子が知られている。圧電素子は、たとえば、特開2015−026676号公報に開示されている。
【0003】
上記特開2015−026676号公報には、基板上に形成された下部電極と、下部電極上に形成された圧電層と、圧電層上に形成された上部電極とを備える圧電素子が開示されている。上記特開2015−026676号公報の圧電素子では、下部電極は、白金により形成された第1の電極と、SRO(ルテニウム酸ストロンチウム)により形成された第2の電極とを含んでいる。また、上部電極は、SROにより形成された第3の電極と、白金により形成された第4の電極とを含んでいる。また、第2の電極および第3の電極を成膜する際に、SROの結晶の配向を所望の配向にするために、300℃以上に基板を加熱した状態で成膜を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−026676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特開2015−026676号公報のような従来の圧電素子では、交流電圧を所定時間印加すると圧電素子の圧電定数d
31(電極面に沿った方向に関する圧電定数)が低下するという不都合がある。このため、使用により圧電素子の性能が低下するという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、使用により性能が低下するのを抑制することが可能な圧電素子およびそのような圧電素子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明者が鋭意検討した結果、上部電極を、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を含むように形成することによって、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子の圧電定数d
31が低下するのを抑制することが可能であり、その結果、使用により圧電素子の性能が低下するのを抑制することが可能であることを見い出した。すなわち、この発明の第1の局面による圧電素子は、電子機器に組み込まれる圧電素子であって、基板上または下地膜上に形成された下部電極と、下部電極上に形成された圧電層と、圧電層上に形成された上部電極とを備え、上部電極は、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、第1電極層上に形成された第2電極層とを含
み、下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている。なお、本発明の圧電素子は、圧電素子製造途中の中間製品を除く完成品としての圧電素子である。
【0008】
この発明の第1の局面による圧電素子では、上記のように、上部電極が、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を含むことによって、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子の圧電定数d
31が低下するのを抑制することができる。これにより、使用により圧電素子の性能が低下するのを抑制することができる。
また、上記第1の局面による圧電素子において、好ましくは、下部電極は、基板上または下地膜上に形成された第1下部電極層と、第1下部電極層上に形成され、第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、圧電層に接する第3下部電極層とを含み、第2下部電極層の厚さは、第1下部電極層の厚さよりも大きい。
また、この場合、好ましくは、第1下部電極層は、チタンにより形成されており、第2下部電極層は、白金により形成されている。
【0009】
上記第1の局面による圧電素子において、好ましくは、第1電極層の金属酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウムを含む。このように構成すれば、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)を含む第1電極層の圧電層との境界部をアモルファス状の部分を含むように形成することにより、金属酸化物により形成された圧電層から第2電極層に酸素が移動するのを効果的に抑制することができるので、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子の圧電定数d
31が低下するのを効果的に抑制することができると考えられる。
【0010】
上記第1の局面による圧電素子において、好ましくは、第1電極層の厚さは、2nm以上40nm以下である。このように構成すれば、第1電極層を2nm以上にすることにより、金属酸化物により形成された圧電層から第2電極層に酸素が移動するのを効果的に抑制することができる。また、第1電極層を40nm以下にすることにより、アモルファス状の金属酸化物を含む第1電極層の割れの発生を抑制することができる。
【0011】
この場合、好ましくは、第2電極層は、還元性のある金属原子を含む。このように構成すれば、上部電極に還元性のある金属原子を用いた場合でも、金属酸化物により形成された圧電層から第2電極層に酸素が移動するのを第1電極層により効果的に抑制することができる。
【0012】
上記第1の局面による圧電素子において、好ましくは、第1電極層上には、100nm以上の保護層が設けられている。このように構成すれば、アモルファス状の金属酸化物を含む第1電極層の割れを効果的に抑制することができる。
【0013】
この発明の第2の局面による圧電素子の製造方法は、基板上または下地膜上に下部電極を形成する工程と、下部電極上に圧電層を形成する工程と、圧電層上に上部電極を形成する工程とを備え、上部電極を形成する工程は、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層を形成する工程と、第1電極層の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、第1電極層上に第2電極層を形成する工程とを含
み、下部電極を形成する工程は、圧電層との境界部を金属酸化物を結晶化して形成する工程を含む。
【0014】
この発明の第2の局面による圧電素子の製造方法では、上記のように構成することによって、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子の圧電定数d
31が低下するのを抑制することができる。これにより、使用により性能が低下するのを抑制することが可能な圧電素子を製造することができる。また、第1電極層の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により上部電極を形成することにより、圧電素子の比誘電率が大きくなるのを抑制することができる。これにより、圧電素子の電気容量が大きくなるのに起因してノイズが発生するのを抑制することができるので、フィードバック制御により圧電素子を駆動させる場合でも精度よく制御することができる。
また、上記第2の局面による圧電素子の製造方法において、好ましくは、下部電極を形成する工程は、基板上または下地膜上に第1下部電極層を形成する工程と、第1下部電極層上に第1下部電極層とは異なる材料により第2下部電極層を形成する工程と、第2下部電極層上に金属酸化物を結晶化して圧電層に接する第3下部電極層を形成する工程とを含み、第2下部電極層を形成する工程では、第2下部電極層の厚さが第1下部電極層の厚さよりも大きくなるように第2下部電極層を形成する。
また、この場合、好ましくは、第1下部電極層は、チタンにより形成し、第2下部電極層は、白金により形成する。
【0015】
上記第2の局面による圧電素子の製造方法において、好ましくは、上部電極を形成する工程の後の全ての工程は、第1電極層の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下で行われるように構成されている。このように構成すれば、第1電極層の金属酸化物が後の工程において結晶化するのを防止することができる。
また、上記第2の局面による圧電素子の製造方法において、好ましくは、上部電極上に上部電極を覆うように絶縁層を形成する工程をさらに備える。
この発明の第3の局面による圧電素子は、電子機器に組み込まれる圧電素子であって、基板上または下地膜上に形成された下部電極と、下部電極上に形成された圧電層と、圧電層上に形成された上部電極と、上部電極上に形成され、上部電極を覆う絶縁層とを備え、上部電極は、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1電極層と、第1電極層上に形成された第2電極層とを含み、下部電極は、圧電層との境界部が結晶化された金属酸化物により形成されている。
また、上記第3の局面による圧電素子において、好ましくは、下部電極は、基板上または下地膜上に形成された第1下部電極層と、第1下部電極層上に形成され、第1下部電極層とは異なる材料により形成された第2下部電極層と、第2下部電極層上に形成され、結晶化された金属酸化物により形成され、圧電層に接する第3下部電極層とを含み、第2下部電極層の厚さは、第1下部電極層の厚さよりも大きい。
また、この場合、好ましくは、第1下部電極層は、チタンにより形成されており、第2下部電極層は、白金により形成されている。
また、上記第3の局面による圧電素子において、好ましくは、上部電極上に沿って形成され、絶縁層とともに上部電極を覆う引出配線をさらに備える。
また、上記第3の局面による圧電素子において、好ましくは、絶縁層は、下部電極の上面と、圧電層の側面と、上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている。
また、上記第3の局面による圧電素子において、好ましくは、絶縁層は、下部電極の上面と、圧電層の側面と、圧電層の縁部上面と、上部電極の上面とに沿って覆うように配置されている。
また、上記第3の局面による圧電素子において、好ましくは、絶縁層は、下部電極の上面と、圧電層の側面と、圧電層の縁部上面と、上部電極の上面とに沿って覆うように配置され、上部電極上に沿って形成され、絶縁層とともに上部電極を覆う引出配線をさらに備える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、上記のように、使用により性能が低下するのを抑制することが可能な圧電素子およびそのような圧電素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態による圧電素子の全体を示した概略図である。
【
図2】本発明の一実施形態による圧電素子の要部を示した概略図である。
【
図3】実施例および比較例による圧電定数d
31の変化率を説明するための図である。
【
図4】実施例および比較例による成膜温度と比誘電率との関係を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0019】
(圧電素子の構成)
図1および
図2を参照して、本発明の一実施形態による圧電素子100の構成について説明する。
【0020】
本発明の一実施形態による圧電素子100は、アクチュエータとして用いられるように構成されている。たとえば、圧電素子100は、フィードバック制御を行って駆動するアクチュエータとして用いられる。
図1に示すように、圧電素子100は、基板1と、下部電極2と、圧電層3と、上部電極4と、絶縁層5と、引出配線6とを備えている。なお、絶縁層5および引出配線6は、特許請求の範囲の「保護層」の一例である。
【0021】
図2に示すように、基板1は、シリコン基板11と、シリコン基板11上に形成されたSiO
2からなるシリコン酸化層12とを含んでいる。シリコン酸化層12は、シリコン基板11を熱酸化することによりシリコン基板11の表面に形成される。基板1は、たとえば、約300μm以上約725μm以下の厚みを有する。シリコン酸化層12は、たとえば、約100nm以上約500nm以下の厚みを有する。
【0022】
下部電極2は、基板1上に形成されている。また、下部電極2は、第1下部電極層21と、第2下部電極層22と、第3下部電極層23とを含んでいる。具体的には、下部電極2は、基板1側から順に、第1下部電極層21、第2下部電極層22、第3下部電極層23が積層されて形成されている。第1下部電極層21は、チタン(Ti)により形成されている。また、第1下部電極層21は、たとえば、約1nm以上約20nm以下の厚みを有する。第2下部電極層22は、白金(Pt)により形成されている。また、第2下部電極層22は、たとえば、約50nm以上約200nm以下の厚みを有する。
【0023】
第3下部電極層23は、金属酸化物により形成されている。たとえば、第3下部電極層23は、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)、ニッケル酸リチウム(LNO)、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化イリジウム(IrOx)、LaSrCoO
3などにより形成されている。また、第3下部電極層23の金属酸化物は、結晶化されている。つまり、第3下部電極層23は、圧電層3の結晶配向を所望の配向にするためのシードレイヤー(種結晶層)としての機能を有する。また、第3下部電極層23は、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚みを有する。
【0024】
圧電層3は、下部電極2上に形成されている。圧電層3は、電圧が印加されることにより、変形するように構成されている。圧電層3は、強誘電体により形成されている。たとえば、圧電層3は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT(Pb(Zr,Ti)O
3))、チタン酸ビスマス(BTO(Bi
4Ti
3O
12))、チタン酸ビスマスランタン(BLT((Bi,La)
4Ti
3O
12))、タンタル酸ストロンチウムビスマス(SBT(SrBi
2Ta
2O
9))、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT((PbLa)(ZrTi)O
3))などにより形成されている。また、圧電層3は、たとえば、約0.75μm以上約5μm以下の厚みを有する。
【0025】
上部電極4は、圧電層3上に形成されている。また、上部電極4は、第1上部電極層41と、第2上部電極層42と、第3上部電極層43とを含んでいる。具体的には、上部電極4は、圧電層3側から順に、第1上部電極層41、第2上部電極層42、第3上部電極層43が積層されて形成されている。なお、第1上部電極層41、第2上部電極層42および第3上部電極層43は、それぞれ、特許請求の範囲の「第1電極層」、「第2電極層」および「第3電極層」の一例である。また、第2上部電極層42および第3上部電極層43は、それぞれ、特許請求の範囲の「保護層」の一例である。
【0026】
ここで、本実施形態では、第1上部電極層41は、金属酸化物により形成されている。たとえば、第1上部電極層41は、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)、ニッケル酸リチウム(LNO)、酸化ルテニウム(RuOx)、酸化イリジウム(IrOx)、LaSrCoO
3などにより形成されている。また、第1上部電極層41の金属酸化物は、アモルファス状(非結晶状態)である。つまり、第1上部電極層41は、少なくとも圧電層3との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成されている。また、第1上部電極層41は、第2上部電極層42と圧電層3との反応を抑制するために設けられている。具体的には、第1上部電極層41は、圧電層3の酸素が第2上部電極層42に移動するのを抑制するバリア層としての機能を有する。
【0027】
また、第1上部電極層41は、保護層の厚さが薄い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nm以上約100nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約10nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第2上部電極層42としてTiを設ける場合、第1上部電極層41の厚さが約2nmより小さいと、Tiによる圧電層3(たとえば、PZT)からの脱酸素を防止することができない。また、第1上部電極層41の厚さが約10nmより大きいと、第1上部電極層41が割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約5nm以下の厚さに形成することがより好ましく、約5nm以下にすることで割れの発生がより低減される。なお、保護層は、第1上部電極層41よりも上層の層である。つまり、保護層は、第2上部電極層42、第3上部電極層43、絶縁層5および引出配線6を含む。
【0028】
また、第1上部電極層41は、保護層の厚さが厚い場合(たとえば、保護層の厚さが約20nmより大きく約1000nm以下の場合)には、たとえば、約2nm以上約40nm以下の厚さに形成することが好ましい。つまり、第1上部電極層41の厚さが約40nmより大きいと、保護層を厚くした場合でも割れる可能性が高くなる。さらに、第1上部電極層41は、約2nm以上約20nm以下の厚さに形成することがより好ましく、約20nm以下にすることで割れの発生がより低減される。また、第1上部電極層41は、第2上部電極層42としてTiを設ける場合、厚さが第2上部電極層42の厚さよりも大きくなるように形成されている。
【0029】
第2上部電極層42は、チタン(Ti)により形成されてる。また、Tiにより形成された第2上部電極層42は、密着層としての役割を有している。特に、第3上部電極層43に金(Au)を用いる場合には密着層として効果的に機能する。また、第2上部電極層42は、たとえば、約1nm以上約20nm以下の厚みを有する。第3上部電極層43は、金(Au)により形成されている。また、第3上部電極層43は、たとえば、約50nm以上約500nm以下の厚みを有する。
【0030】
絶縁層5は、
図1に示すように、下部電極2と引出配線6とを電気的に絶縁するために設けられている。また、絶縁層5は、下部電極2、圧電層3および上部電極4を覆うように配置されている。絶縁層5は、たとえば、シリコン酸化物(SiO
2)により形成されている。
【0031】
引出配線6は、上部電極4に電力を供給可能なように接続されている。具体的には、引出配線6は、絶縁層5の空いた部分において、上部電極4を覆うように接続されている。つまり、上部電極4は、絶縁層5および引出配線6により、覆われている。言い換えると、絶縁層5および引出配線6は、圧電素子100に電圧を印加した際に、上部電極4にクラックが発生するのを抑制する保護膜としての機能を有する。
【0033】
次に、圧電素子100の製造方法について説明する。
【0034】
圧電素子100の製造方法は、基板1の表面を熱酸化する工程と、基板1上に下部電極2を形成する工程と、下部電極2上に圧電層3を形成する工程と、圧電層3上に上部電極4を形成する工程と、上部電極4上に絶縁層5および引出配線6を形成する工程とを備えている。
【0035】
基板1の表面を熱酸化する工程は、基板1を構成するシリコン(Si)基板11が約700℃の温度で熱酸化されて、シリコン基板11の表面にSiO
2からなるシリコン酸化層12が形成される。基板1上に下部電極2を形成する工程では、スパッタリングにより、下部電極2の第1下部電極層21、第2下部電極層22および第3下部電極層23が順次積層される。この際、基板1は、約500℃に加熱される。これにより、第3下部電極層23の金属酸化物が結晶化される。
【0036】
下部電極2上に圧電層3を形成する工程では、スパッタリングにより、下部電極2の第3下部電極層23上に、強誘電体材料が積層される。この際、基板1は、約500℃に加熱される。これにより、圧電層3として、ぺロブスカイト構造を有する結晶が積層される。
【0037】
圧電層3上に上部電極4を形成する工程は、少なくとも圧電層3との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1上部電極層41を形成する工程と、第1上部電極層41の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、第1上部電極層41上に第2上部電極層42を形成する工程と、第1上部電極層41の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下により、第2上部電極層42上に第3上部電極層43を形成する工程とを含んでいる。
【0038】
圧電層3上に上部電極4を形成する工程では、スパッタリングにより、上部電極4の第1上部電極層41、第2上部電極層42および第3上部電極層43が順次積層される。この際、基板1は、加熱されない。つまり、圧電層3上に上部電極4を形成する工程は、約80℃以下で行われる。これにより、第1上部電極層41の金属酸化物は、結晶化せずにアモルファス状となる。なお、以降の工程においても、第1上部電極層41の金属酸化物が結晶化するような熱(たとえば、300℃以上の熱)は加えられないように構成されている。つまり、上部電極4を形成する工程の後の全ての工程は、第1上部電極層41の金属酸化物が結晶化する温度未満の温度条件下で行われるように構成されている。
【0039】
上部電極4上に絶縁層5および引出配線6を形成する工程では、上部電極4上に、絶縁層5が形成される。そして、絶縁層5上に、引出配線6が形成される。これらにより、圧電素子100が製造される。なお、圧電素子100が電子機器に組み込まれて電子機器が製造される際、および、電気機器に組み込まれた圧電素子100が駆動される際も、第1上部電極層41の金属酸化物が結晶化する温度以上にならないように製造または駆動される。
【0040】
(実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0041】
本実施形態では、上記のように、上部電極4が、少なくとも圧電層3との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1上部電極層41を含むことによって、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子100の圧電定数d
31が低下するのを抑制することができる。これにより、使用により圧電素子100の性能が低下するのを抑制することができる。
【0042】
また、本実施形態では、上記のように、第1上部電極層41の金属酸化物は、ルテニウム酸ストロンチウムを含む。これにより、ルテニウム酸ストロンチウム(SRO)を含む第1上部電極層41の圧電層3との境界部をアモルファス状の部分を含むように形成することにより、圧電素子100に電圧を印加して駆動する際、第1上部電極層41と圧電層3とが反応して圧電素子100の圧電定数d
31が低下するのを抑制することができると考えられる。また、圧電素子100の誘電率の上昇も抑制することができる。さらに、金属酸化物により形成された圧電層3から第2上部電極層42に酸素が移動するのを効果的に抑制することができるので、交流電圧を所定時間印加後も圧電素子100の圧電定数d
31が低下するのを効果的に抑制することができると考えられる。
【0043】
また、本実施形態では、上記のように、第1上部電極層41の厚さを、第2上部電極層42の厚さよりも大きくなるように形成する。これにより、圧電層3と第2上部電極層42との間に形成された第1上部電極層41の厚みを大きくすることができるので、金属酸化物により形成された圧電層3から第2上部電極層42に酸素が移動するのを効果的に抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態では、上記のように、第1上部電極層41の厚さを、2nm以上40nm以下に形成する。これにより、第1上部電極層41の厚さを2nm以上にすることにより、金属酸化物により形成された圧電層3から第2上部電極層42に酸素が移動するのを効果的に抑制することができる。また、第1上部電極層41の厚さを40nm以下にすることにより、アモルファス状の金属酸化物を含む第1上部電極層41の割れの発生を抑制することができる。
【0045】
また、本実施形態では、上記のように、上部電極4の第2上部電極層42を、たとえば、還元性のあるチタンにより形成する。これにより、上部電極4に還元性のあるチタンを用いた場合でも、金属酸化物により形成された圧電層3から第2上部電極層42に酸素が移動するのを第1上部電極層41により効果的に抑制することができる。また、還元性のある元素を含む第2上部電極層42としては、上述のチタン以外にクロムやタングステンやこれらの化合物などを用いることができる。
【0046】
また、本実施形態では、上記のように、第1上部電極層41上に、100nm以上の保護層を設ける。これにより、アモルファス状の金属酸化物を含む第1上部電極層41の割れを効果的に抑制することができる。
【0047】
(実施例の説明)
次に、
図3および
図4を参照して、本実施形態による圧電素子100の評価を行った実験結果(実施例)について説明する。なお、
図3および
図4に示す実施例では、上部電極4の第1上部電極層41は、SROにより形成されている。
【0048】
まず、
図3に示すAC電圧印加時の圧電定数d
31の変化率について説明する。実施例の圧電素子は、上部電極がアモルファス状の金属酸化物電極(第1上部電極層41)と、金属電極(第2上部電極層42および第3上部電極層43)とを含んでいる。比較例1の圧電素子は、上部電極が結晶化した金属酸化物電極と、金属電極とを含んでいる。比較例2の圧電素子は、上部電極として金属電極のみを用いている。その他の構成は、実施例、比較例1および比較例2とも同じ条件である。
【0049】
また、実施例、比較例1および比較例2では、圧電素子に0−45Vの500Hzの正弦波のAC電圧(交流電圧)を印加した。AC電圧印加後の各時間毎に圧電定数d
31(電極面に沿った方向に関する圧電定数)を測定し、AC電圧印加前の値を基準(100%)として、それぞれ変化率を算出した。
【0050】
図3に示すように、実施例では、AC電圧印加直後から、5時間経過後までの間、圧電定数d
31は、略変化していない。比較例1では、AC電圧印加後3時間経過後から圧電定数d
31が低下している。比較例2では、AC電圧印加直後から、圧電定数d
31が低下し、1時間経過後測定不能となった。上記のように、上部電極の金属酸化物電極をアモルファス状にすることにより、AC電圧を所定時間印加後も圧電素子の圧電定数d
31が低下するのを抑制することが可能であることが分かった。これにより、使用により圧電素子の性能が低下するのを抑制することが可能であることが分かった。
【0051】
次に、
図4に示す酸化物電極成膜温度と比誘電率との関係について説明する。実施例の圧電素子は、上部電極の金属酸化物電極(第1上部電極層41)を約25℃の温度で成膜した。比較例3の圧電素子は、上部電極の金属酸化物電極を約450℃で成膜した。比較例4の圧電素子は、上部電極の金属酸化物電極を約500℃で成膜した。
【0052】
図4に示すように、実施例では、比誘電率が約880であった。比較例3では、比誘電率が約1050であった。比較例4では、比誘電率が約1650であった。つまり、金属酸化物電極が結晶化している比較例3および4では、比誘電率が大きくなっていることが分かる。また、上部電極の金属酸化物電極をアモルファス状にすることにより、比誘電率が大きくなるのを抑制することが可能であることが分かった。
【0053】
(変形例)
なお、今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態および実施例の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0054】
たとえば、上記実施形態では、本発明の圧電素子をアクチュエータとして用いる構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、圧電素子をアクチュエータ以外の電圧を力に変換する装置として用いてもよい。また、圧電素子を、力を電圧に変換する装置として用いてもよい。たとえば、圧電素子をセンサとして用いてもよい。
【0055】
また、上記実施形態では、基板上に下部電極を形成する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、基板上に下地膜を設け、下地膜上に下部電極を形成してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、上部電極の第1上部電極層(第1電極層)がアモルファス状の金属酸化物により形成されている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上部電極の第1電極層は、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の金属酸化物の部分を含んでいればよい。
【0057】
また、上記実施形態では、上部電極の第1上部電極層(第1電極層)がアモルファス状の金属酸化物により形成されている構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、レーザ照射により熱を加えて、上部電極の第1電極層の一部を局所的に結晶化してもよい。これにより、圧電素子の駆動時に上部電極にクラックが生じるのを効果的に抑制することが可能である。
【0058】
また、上記実施形態では、上部電極の第2上部電極層(第2電極層)をチタン(Ti)により形成する構成の例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上部電極の第2電極層をチタン以外により形成してもよい。たとえば、上部電極の第2電極層を白金(Pt)により形成してもよい。また、上部電極層として、圧電層側から順に、SRO層、PT層を設けてもよい。また、上部電極として、圧電層側から順に、SRO層、PT層、Ti層、Au層を設けてもよい。また、上部電極として、圧電層側から順に、SRO層、Ti層、Au層を設けてもよい。また、上部電極として、圧電層側から順に、SRO層、PT層、Au層を設けてもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 基板
2 下部電極
3 圧電層
4 上部電極
5 絶縁層(保護層)
6 引出配線(保護層)
41 第1上部電極層(第1電極層)
42 第2上部電極層(第2電極層、保護層)
43 第3上部電極層(第3電極層、保護層)
100 圧電素子
【要約】
この圧電素子(100)は、基板(1)上に形成された下部電極(2)と、下部電極上に形成された圧電層(3)と、圧電層上に形成された上部電極(4)とを備える。そして、上部電極は、少なくとも圧電層との境界部がアモルファス状の部分を含む金属酸化物により形成された第1上部電極層(41)と、第1上部電極層上に形成された第2上部電極層(42)とを含む。