特許第6130108号(P6130108)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130108
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】保護フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09J 7/02 20060101AFI20170508BHJP
   C09J 133/06 20060101ALI20170508BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20170508BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20170508BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20170508BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20170508BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C09J7/02 Z
   C09J133/06
   C09J175/04
   C09J11/06
   B32B27/00 M
   B32B27/30 A
   B32B27/40
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-172846(P2012-172846)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-31442(P2014-31442A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100075351
【弁理士】
【氏名又は名称】内山 充
(72)【発明者】
【氏名】黒川 敦史
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆行
(72)【発明者】
【氏名】所司 悟
【審査官】 磯貝 香苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−074380(JP,A)
【文献】 特開2008−069202(JP,A)
【文献】 特開2010−037431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リビングラジカル重合により、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を製造し、該共重合体(A)、イソシアネート系架橋剤(B)、及び有機スズ化合物(C)を含む粘着剤組成物を調製し、プラスチックフィルム上に該粘着剤組成物により粘着剤層を形成することを含み、
該共重合体(A)の重量平均分子量が40万〜200万であり、分子量分布が2.5未満であり、
上記有機スズ化合物(C)を前記共重合体(A)中に含有するテルル金属に対し、2〜20質量倍含有することを特徴とする保護フィルムの製造方法
【請求項2】
前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の重量平均分子量10万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満である請求項1に記載の保護フィルムの製造方法
【請求項3】
前記プラスチックフィルムの一方の面に粘着剤層を有し、かつ該粘着剤層の露出面側に離型シートが積層されてなる、請求項1又は2に記載の保護フィルムの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤層を有する保護フィルムに関する。さらに詳しくは、粘着剤層を構成する粘着剤組成物中の残留モノマー及び低分子量成分が極めて少なく、被着体への残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、保護フィルムは、光学用として各種画像表示装置、例えばLCD(液晶表示体)、タッチパネル、CRT(ブラウン管)、PDP(プラズマディスプレイパネル)、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、光記録媒体などにおいて、表面保護を始め、防眩性や反射防止などの目的で用いられている。また、LCDにおいては、偏光子を保護するために用いられている。この保護フィルムは、一般に、基材フィルムの一方の面に粘着剤層を有し、他方の面に帯電防止性能や防汚性能などの機能性コーティング層、あるいは必要に応じてハードコート層などが設けられている。
【0003】
そして、光学的特性に優れ、粘着剤の設計が比較的容易であることから前記粘着剤層には、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を主剤とするアクリル系粘着剤が用いられている。このような保護フィルムを、前記被着体に粘着剤層を介して貼付すると、視認不可能なレベルで僅かな残渣物が付着することが知られており、これは、アクリル系粘着剤を用いる場合、主剤である(メタ)アクリル酸エステル系共重合体中に存在する残留モノマーや低分子量成分に起因すると考えられている。
【0004】
特許文献1には、低分子量成分の少ないアクリル系感圧性接着剤が開示されているが、残渣物の付着量低減効果としては未だ十分なものと言えなかった。
ところで、リビング重合とは、生長反応は進行するが、停止反応、連鎖移動反応は起こらない重合である。すなわち、リビングポリマーの生長末端はモノマーが消費された後も活性を保ち、モノマーを追加すると再び重合を開始する。したがって、ポリマーの分子量はモノマーの消費量に比例して増大し、分子量の揃ったポリマーが得られることが知られている。
一方、ラジカル重合においては、生長ラジカルの寿命が極めて短く、二分子停止反応といった重合停止機構があるため、従来リビング重合は不可能であると考えられていたが、近年、空気の存在下でも安定なラジカルが見出されて以来、リビングラジカル重合の研究が積極的に行われ各種の手法が開発されている。
例えばリビングラジカル重合開始剤として、有機テルル化合物を用い、ビニルモノマーを重合して、分子量の揃ったリビングラジカルポリマーを製造する技術が開示されている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【0005】
特許文献4では、上記リビングラジカル重合の適用により、分子量5万以下の低分子量成分を5質量%以下にし得ることが開示されているが、重合開始剤に使用している有機テルル化合物によって、架橋遅延と経時による重剥離化が生じるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−214142号公報
【特許文献2】特開2006−299278号公報
【特許文献3】WO2004/014962号パンフレット
【特許文献4】特開2011−74380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下になされたもので、粘着剤組成物中の主剤として(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を選択し、該粘着剤組成物より形成された粘着剤層を有する保護フィルムが、各種被着体に貼付した場合、保護のための十分な粘着力を発揮しながら、剥離した際には該粘着剤層に起因する残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、下記の知見を得た。
粘着剤組成物の主剤として、リビングラジカル重合によって得られる特定の性状を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を選択し、この共重合体と、イソシアネート系架橋剤と、該共重合体中に含有するテルル金属に対し、所定の割合の有機スズ化合物を含有する粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する保護フィルムが、その目的に適合し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1]リビングラジカル重合により、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を製造し、該共重合体(A)、イソシアネート系架橋剤(B)、及び有機スズ化合物(C)を含む粘着剤組成物を調製し、プラスチックフィルム上に該粘着剤組成物により粘着剤層を形成することを含み、該共重合体(A)の重量平均分子量が40万〜200万であり、分子量分布が2.5未満であり、上記有機スズ化合物(C)を前記共重合体(A)中に含有するテルル金属に対し、2〜20質量倍含有することを特徴とする保護フィルムの製造方法
[2]前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の重量平均分子量10万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満である上記[1]に記載の保護フィルムの製造方法、及び
[3]プラスチックフィルムの一方の面に粘着剤層を有し、かつ該粘着剤層の露出面側に離型シートが積層されてなる、上記[1]又は[2]項に記載の保護フィルムの製造方法
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被着体に貼付した場合に保護のための十分な粘着力で被着体に接着できるとともに、剥した際は被着体への残渣物の付着が極めて少ない粘着剤層を有する保護フィルムを提供することができる。本保護フィルムを用いることにより、被着体の中でも高いレベルで表面の清浄さが要求される機能性光学部材への適用においても残渣物の付着により各機能が損なわれるのを抑制し得ることが期待される。また、従来の処方で課題となっていた架橋遅延と重剥離化を、粘着剤組成物中にスズ化合物を所定の割合で含有させることにより、改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の保護フィルムは、リビングラジカル重合によって得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、イソシアネート系架橋剤(B)、及び有機スズ化合物(C)を含む粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有する保護フィルムであって、前記有機スズ化合物(C)を、前記共重合体(A)中に含有するテルル金属に対して、2〜20質量倍含有することを特徴とする。
【0012】
[(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)]
(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、本発明の保護フィルムにおける粘着剤層を形成する粘着剤組成物において、主剤として含まれる成分であって、以下に示す性状を有する。なお、前記「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を指す。他の類似用語も同様である。
(性状)
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、重量平均分子量Mwが40万〜200万の範囲にあって、分子量分布(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比)が2.5未満であることを要する。前記重量平均分子量が40万未満であると、必然的に重量平均分子量10万以下の成分量が増えて、被着体への残渣物の付着を防止することができない。一方200万を超えると粘度増加により塗工面の平滑性が悪化する。また、このような粘度増加を抑えるには大量の溶媒が必要であり、コスト的観点あるいは環境対策上も好ましくない。重量平均分子量が高すぎると、重合進行時に制御が不十分となり、分子量分布が広がる場合がある。
少ない残渣物、接着耐久性及び塗工適性などを考慮すると、この重量平均分子量は50万〜150万のものが好ましく、85万〜120万のものがより好ましい。
【0013】
また、分子量分布(Mw/Mn比)が2.5以上であると、後述の当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)中の低分子量成分の低減を行うことが困難になり、本発明の目的が達せられない場合がある。好ましい分子量分布(Mw/Mn比)は2.5未満である。特に好ましくは1.0〜2.2である。
さらに、当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)においては、その中に含まれる重量平均分子量Mw10万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満であることが好ましい。この低分子量成分の割合が5質量%以上であると、このような共重合体を含有する粘着剤組成物を用いて形成された粘着剤層を有する保護フィルムを、被着体に該粘着剤層を介して貼付した場合、該被着体への残渣物の付着を十分に低いレベルに抑制できない場合がある。
したがって、重量平均分子量10万以下の低分子量成分の割合は3質量%以下であることがより好ましく、2質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることが特に好ましい。
なお、上記低分子量成分の割合、重量平均分子量Mw、及び数平均分子量Mnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定した標準ポリスチレン換算の値である。
【0014】
(組成)
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(a)(以下、非官能性単量体単位(a)と称することがある。)と、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(b)(以下、官能性単量体単位(b)と称することがある。)とを、質量比80:20〜99.9:0.1の割合で含むものが好ましい。前記官能性単量体単位(b)における反応性官能基は、後述の架橋剤によって架橋される架橋点となる官能基であり、該官能性単量体単位(b)の含有量が、前記非官能性単量体単位(a)との合計量に基づき、0.1質量%未満では、当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は架橋が不充分となり、粘着剤組成物は粘着力や耐久接着性の劣るものとなる恐れがある。このような観点から前記(b)の含有量は、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1質量%以上であることが特に好ましい。
一方、前記(b)の含有量が20質量%を超えると、粘着剤の製造時にゲル化を起こしやすくなり、さらに、架橋剤添加後のポットライフが短くなりすぎて作業性の問題が生じる恐れがある。また、凝集力が高くなりすぎ粘着力が低下して被着体に対する密着性が悪くなる恐れもある。このような観点から、前記(b)の含有量は10質量%以下であることがさらに好ましい。
また、官能性単量体単位(b)の官能基が開始剤(有機テルル化合物)に配位する場合があり、重合の制御が不十分になる恐れを除く観点から、官能性単量体単位(b)の含有量は、8質量%以下であることが特に好ましい。
【0015】
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、前記の非官能性単量体単位(a)を形成する炭素数1〜20のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、前記の官能性単量体単位(b)を形成する反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルと、所望により用いられる他の単量体とを共重合させることにより製造することができる。
【0016】
アルキル基の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸エステルの例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
一方、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モノメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、モノエチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのモノアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよいが、本発明においては、架橋性などの観点から、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0018】
また、所望により用いられる他の単量体の例としては酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類;エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類;塩化ビニル、ビニリデンクロリドなどのハロゲン化オレフィン類;スチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体;ブタジエン、イソプレン、クロロプレンなどのジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル系単量体;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどのアクリルアミド類などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)としては、粘着剤としての性能の観点から、ブチルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、2−エチルヘキシルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、2−ヒドロキシエチルアクリレートとの共重合体、ブチルアクリレートと、シクロヘキシルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体、あるいはブチルアクリレートと、メチルアクリレートと、4−ヒドロキシブチルアクリレートとの共重合体が好適である。
この場合、共重合体中の架橋点となる4−ヒドロキシブチルアクリレート単位や2−ヒドロキシエチルアクリレート単位の含有量は、0.5〜10質量%程度が好ましく、1〜8質量%であることが特に好ましい。
【0020】
(重合方法)
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、リビングラジカル重合により重合されてなるものである。リビングラジカル重合はフリーラジカル重合と比較して活性点での反応が非常に緩やかであるという特徴を有する。すなわち、フリーラジカル重合では、活性点での反応が非常に早いために反応性の高い単量体から重合し、その後、反応性の低い単量体が重合するものと考えられている。一方、リビングラジカル重合では、活性点での反応が緩やかであるため、単量体の反応性の影響を受けずに均等に重合が進行し、得られるいずれの共重合体もより均等な組成になるものと考えられる。そのため、リビングラジカル重合で得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)はフリーラジカル重合によるものに比べて非官能性単量体単位(a)のみからなる(メタ)アクリル酸エステル系単独重合体の発生割合が圧倒的に少ないものになると考えられる。このため、リビングラジカル重合によって得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、分子量の低いものであっても後述の架橋剤(B)により架橋される可能性が非常に高くなる。その結果、リビングラジカル重合により得られた(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を主剤とする粘着剤層は、被着体への残渣物の付着を非常に低いレベルに抑えることができるものと考えられる。
リビングラジカル重合法としては、従来公知の方法、例えば重合制御剤として、原子移動ラジカル重合剤を用いる原子移動ラジカル重合法(ATRP重合法)、可逆付加−開裂連鎖移動剤を用いる可逆付加−開裂連鎖移動による重合法(RAFT重合法)、重合開始剤として有機テルル化合物を用いる重合法などを採用することができる。これらのリビングラジカル重合法の中で、有機テルル化合物を重合開始剤として用いる方法が、分子量の制御性及び水系においても重合が可能であることなどから好ましい。以下に、有機テルル化合物を重合開始剤として用いる方法を示す。
【0021】
<有機テルル化合物を用いるリビングラジカル重合>
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)は、例えば下記一般式(1)で表されるリビングラジカル重合開始剤(以下、有機テルル化合物Iと称することがある。)を用いて、単量体の混合物を重合させることにより製造することができる。
【化1】
[式中、R1は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、置換アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R2及びR3は、水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。R4は、アリール基、置換アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。]
【0022】
1で示される基は、具体的には次の通りである。
炭素数1〜8のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等の炭素数1〜8の直鎖状、分岐鎖状又は環状のアルキル基を挙げることができる。好ましいアルキル基としては、炭素数1〜4の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、より好ましくはメチル基又はエチル基である。
アリール基としては、フェニル基、ナフチル基等、置換アリール基としては置換基を有しているフェニル基、置換基を有しているナフチル基等、芳香族へテロ環基としてはピリジル基、フリル基、チエニル基等を挙げることができる。上記置換基を有しているアリール基の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、−COR5で示されるカルボニル含有基(R5=炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基、アリーロキシ基)、スルホニル基、トリフルオロメチル基等を挙げることができる。好ましいアリール基としては、フェニル基、トリフルオロメチル置換フェニル基が挙げられる。また、これら置換基は、1個又は2個置換しているのが良く、パラ位もしくはオルト位が好ましい。
【0023】
2及びR3で示される各基は、具体的には次の通りである。
炭素数1〜8のアルキル基としては、上記R1で示したアルキル基と同様のものを挙げることができる。
4で示される各基は、具体的には次の通りである。
アリール基、置換アリール基、芳香族へテロ環基としては上記R1で示した基と同様のものを挙げることができる。
アシル基としては、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等を挙げることができる。
オキシカルボニル基としては、−COOR6(R6=H、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基)で示される基が好ましく、例えばカルボキシル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、sec−ブトキシカルボニル基、tert−ブトキシカルボニル基、n−ペントキシカルボニル基、フェノキシカルボニル基等を挙げることができる。好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0024】
好ましいR4で示される各基としては、アリール基、置換アリール基、オキシカルボニル基が挙げられる。好ましいアリール基としては、フェニル基が挙げられる。好ましい置換アリール基としては、ハロゲン原子置換フェニル基、トリフルオロメチル置換フェニル基が挙げられる。また、これら置換基は、ハロゲン原子の場合は、1〜5個置換しているものが挙げられる。アルコキシ基やトリフルオロメチル基の場合は、1個又は2個置換しているものが挙げられ、1個置換の場合は、パラ位もしくはオルト位が好ましく、2個置換の場合は、メタ位が好ましい。好ましいオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0025】
好ましい一般式(1)で示される有機テルル化合物Iとしては、R1が、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2及びR3が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R4が、アリール基、置換アリール基、オキシカルボニル基で示される化合物が挙げられる。特に好ましくは、R1が、炭素数1〜4のアルキル基を示し、R2及びR3が、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、R4が、フェニル基、置換フェニル基、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が挙げられる。
【0026】
一般式(1)で示される有機テルル化合物は、具体的には次の通りである。
有機テルル化合物としては、(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−クロロ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−アミノ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−シアノ−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、1−クロロ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−アミノ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−シアノ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン[又は、1−(1−メチルテラニル−エチル)−4−トリフルオロメチルベンゼンという。]、1−(1−メチルテラニル−エチル)−3,5−ビス−トリフルオロメチルベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタフルオロ−6−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−クロロ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−ヒドロキシ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メトキシ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−アミノ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−ニトロ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−シアノ−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メチルカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−フェニルカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−メトキシカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−フェノキシカルボニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−スルホニル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、2−(メチルテラニル−メチル)ピリジン、2−(1−メチルテラニル−エチル)ピリジン、2−(2−メチルテラニル−プロピル)ピリジン、2−メチル−2−メチルテラニル−プロパナール、3−メチル−3−メチルテラニル−2−ブタノン、2−メチルテラニル−エタン酸メチル、2−メチルテラニル−プロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−エタン酸エチル、2−メチルテラニル−プロピオン酸エチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル[又は、エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネートという。]、2−(n−ブチルテラニル)−2−メチルプロピオン酸エチル[又は、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネートという。]、2−メチルテラニルアセトニトリル、2−メチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−メチルテラニルプロピオニトリル、(フェニルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−フェニルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−フェニルテラニル−プロピル)ベンゼン等を挙げることができる。
【0027】
また上記において、メチルテラニル、1−メチルテラニル、2−メチルテラニルの部分がそれぞれエチルテラニル、1−エチルテラニル、2−エチルテラニル、ブチルテラニル、1−ブチルテラニル、2−ブチルテラニルと変更した化合物も全て含まれる。好ましくは、(メチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−メチルテラニル−プロピル)ベンゼン、1−クロロ−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、1−トリフルオロメチル−4−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン[1−(1−メチルテラニル−エチル)−4−トリフルオロメチルベンゼン]、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−メチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル[エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート]、2−(n−ブチルテラニル)−2−メチルプロピオン酸エチル[エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート]、1−(1−メチルテラニル−エチル)−3,5−ビス−トリフルオロメチルベンゼン、1,2,3,4,5−ペンタフルオロ−6−(1−メチルテラニル−エチル)ベンゼン、2−メチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−メチルテラニルプロピオニトリル、(エチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−エチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−エチルテラニル−プロピル)ベンゼン、2−エチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−エチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル、2−エチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−エチルテラニルプロピオニトリル、(n−ブチルテラニル−メチル)ベンゼン、(1−n−ブチルテラニル−エチル)ベンゼン、(2−n−ブチルテラニル−プロピル)ベンゼン、2−n−ブチルテラニル−2−メチルプロピオン酸メチル、2−n−ブチルテラニル−2−メチルプロピオン酸エチル、2−n−ブチルテラニルプロピオニトリル、2−メチル−2−n−ブチルテラニルプロピオニトリルが挙げられる。
これらの一般式(1)で表される有機テルル化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
本発明における重合工程においては、上記の有機テルル化合物に加え、重合促進剤としてアゾ系重合開始剤を添加してもよい。アゾ系重合開始剤としては、通常のラジカル重合に用いる開始剤であれば特に限定されないが、例示するなら2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1'−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4'−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1'−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2'−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等が挙げられる。
上記アゾ系重合開始剤を使用する場合、重合開始剤として用いた式(1)の有機テルル化合物1molに対して好ましくは0.01〜100mol、より好ましくは0.1〜100mol、さらに好ましくは0.1〜5molの割合で使用されることが望ましい。
【0029】
当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を、リビングラジカル重合によって形成する方法は、具体的には次の通りである。
不活性ガスで置換した容器で、前述した単量体の混合物と一般式(1)で示されるリビングラジカル重合開始剤及び所望によりアゾ系重合開始剤を混合する。このとき、不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等を挙げることができる。好ましくは、アルゴン、窒素が挙げられる。特に好ましくは、窒素が挙げられる。
単量体と一般式(1)で示されるリビングラジカル重合開始剤(有機テルル化合物)の使用量としては、得られる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)(以下、リビングラジカル共重合体(A)と称することがある。)の分子量あるいは分子量分布により適宜調節すればよい。好ましい使用量としては、概ね各単量体の分子量に仕込み割合を乗じて得た値の総和を目的とする共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)で割った値(使用量の単位はモル数)であり、場合によりその値の0.3〜3倍程度の量を使用する。
【0030】
重合は、通常、無溶媒で行うが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒を使用しても構わない。使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン等が挙げられる。また、水性溶媒も使用でき、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール等が挙げられる。溶媒の使用量としては適宜調節すればよいが、例えば、単量体1gに対して、溶媒を0.01〜100ml、好ましくは、0.05〜10ml、特に好ましくは0.05〜0.5mlである。
【0031】
次に、上記混合物を撹拌する。反応温度、反応時間は、得られるリビングラジカル共重合体(A)の分子量あるいは分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、60〜150℃で、5〜100時間撹拌する。好ましくは、80〜120℃で、10〜30時間撹拌するのが良い。このとき、圧力は、通常、常圧で行われるが、加圧あるいは減圧しても構わない。
反応終了後、常法により使用溶媒や残存モノマーを減圧下除去したり、沈殿ろ過、再沈殿したり、あるいはカラム分離等をして目的のリビングラジカル共重合体(A)を必要に応じて精製する。反応処理については、目的物に支障がなければどのような処理方法でも行うことができる。
例えば、当該(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)において、その中に含まれる重量平均分子量Mw10万以下の低分子量成分の割合を5質量%未満とするには、下記の分別法を採用することができる。
(成分(A)の分別法)
成分(A)の分別法の具体的方法としては、まず、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール、もしくはペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの炭素数5〜10の脂肪族炭化水素、好ましくはメタノールもしくはヘキサン100質量部中に、成分(A)を、固形分として1〜30質量部程度の割合で加え、室温でかきまぜて沈殿を形成させる。次いで、この沈殿物をデカンテーションなどの方法で固液分離したのち、前記低級アルコールもしくは炭素数5〜10の脂肪族炭化水素で洗浄後、粘着剤組成物に、主剤として含有させる。この分別法により、成分(A)中の重量平均分子量Mw10万以下の低分子量成分の割合を5質量%未満とすることができる。
【0032】
このリビングラジカル重合法においては、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を構成する各単量体の混合物を使用することにより、ランダム共重合体の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を得ることができる。該ランダム共重合体は、単量体の種類に関係なく、反応させる単量体の比率(モル比)通りの共重合体を得ることができる。
本発明で用いる一般式(1)で表されるリビングラジカル重合開始剤は、優れた分子量制御及び分子量分布制御を非常に温和な条件下で行うことができる。
本発明で得られるリビングラジカル共重合体からなる(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)の分子量は、反応時間、一般式(1)で表されるリビングラジカル重合開始剤(有機テルル化合物)の量により調整可能である。具体的には、分子量を増加させるためには、単量体に対する有機テルル化合物の配合割合を低減し、重合時間を増加させればよい。しかし、これでは分子量の大きい共重合体(A)を得るには長時間を要することになる。そこで、重合時間の低減を図るには、重合温度を高くしたり、前記アゾ系重合開始剤を添加することにより達成することができる。しかしながら、重合温度が高すぎたり、アゾ系重合開始剤の添加量が多すぎると、共重合体(A)の分子量分布を増大させることとなるので、それとの調整が必要である。
このようにして、重量平均分子量が40万〜200万であって、分子量分布(Mw/Mn比)が2.5未満であり、かつ重量平均分子量10万以下の低分子量成分の割合が5質量%未満の(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)を容易に得ることができる。
【0033】
[イソシアネート系架橋剤(B)]
当該粘着剤組成物においては、イソシアネート系架橋剤(B)を必須成分として含有する。
ここで、イソシアネート系架橋剤(B)の例としては、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネートなどの脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油などの低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体(例えば、トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート)などを挙げることができる。
本発明においては、この架橋剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、その使用量は、架橋剤の種類にもよるが、前記(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)100質量部に対し、通常0.01〜20質量部、好ましくは、0.1〜10質量部、特に好ましくは0.5〜5質量部の範囲で選定される。
【0034】
[有機スズ化合物(C)]
当該粘着剤組成物においては、有機スズ化合物(C)を必須成分として含有する。
当該粘着剤組成物により形成された粘着剤層において、重合開始剤由来のテルル化合物を含有することで、架橋遅延と重剥離化が問題となっていたが、当該粘着剤組成物に有機スズ化合物を含有させることにより、上記問題を解決し得る効果を奏する。
この有機スズ化合物としては、例えば従来架橋促進剤として用いられているジブチルスズジラウレート(DBTDL)や、ジブチルスズジオクチレート(DBTDO)などが、前記効果の観点から好適である。その使用量は、(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)に含有するテルル金属に対し、2〜20質量倍の範囲である。この量が2質量倍未満では、前記効果が充分に発揮されず、本発明の目的が達せられない。一方、20質量倍を超えると、その量の割には効果の向上はあまり認められない。好ましい使用量は、テルル金属に対し、2〜15質量倍である。
【0035】
[粘着剤組成物の調製]
本発明で用いる粘着剤組成物の調製方法に特に制限はなく、例えば溶媒中に、前述した(メタ)アクリル酸エステル系共重合体(A)、イソシアネート系架橋剤(B)、有機スズ化合物(C)及び必要に応じて用いられる各種添加剤、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、光拡散剤、光安定剤、シランカップリング剤、レベリング剤、消泡剤などを加え、撹拌混合することにより、当該粘着剤組成物を調製することができる。
前記溶媒としては、例えばヘキサン、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレンなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノンなどのケトン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル、エチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル系溶媒などが挙げられる。これらの溶媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
この粘着剤組成物の固形分濃度としては、該組成物が塗工に適した粘度であればよく、特に制限はない。
【0036】
次に、本発明の保護フィルムについて説明する。
本発明の保護フィルムは、前述した粘着剤組成物により形成された粘着剤層を有するものであって、例えばプラスチックフィルムの一方の面に、前記粘着剤層を有し、かつ該粘着剤層の露出面側に離型シートが積層されてなる構成の積層フィルムが好ましい。
【0037】
[プラスチックフィルム]
本発明の保護フィルムにおいて、基材として用いられるプラスチックフィルムとしては特に制限はなく、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、セロファン、ジアセチルセルロースフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、アセチルセルロースブチレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリ塩化ビニリデンフィルム、ポリビニルアルコールフィルム、エチレン−酢酸ビニル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリエーテルイミドフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、ポリアミドフィルム、アクリル樹脂フィルム、ノルボルネン系樹脂フィルム、シクロオレフィン樹脂フィルム等を挙げることができる。なお、保護フィルムを光学用途で使用する場合には、被着体に貼付した状態で検品作業を行ったり、需要者の好みにより保護フィルムを貼付した状態のままその上から視認するような使用がされることもあるので、プラスチックフィルムとしては透明プラスチックフィルムであることが好ましい。
これらのプラスチックフィルムの厚さは特に制限はなく、適宜選定されるが、通常10〜250μm、好ましくは30〜200μmの範囲である。また、このプラスチックフィルムは、その表面に設けられる層との密着性を向上させる目的で、所望により片面又は両面に、酸化法や凹凸化法などにより表面処理を施すことができる。上記酸化法としては、例えばコロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理などが挙げられ、また、凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法などが挙げられる。これらの表面処理法は基材フィルムの種類に応じて適宜選ばれるが、一般にはコロナ放電処理法が効果及び操作性などの面から、好ましく用いられる。また、片面又は両面にプライマー処理を施したものも用いることができる。
【0038】
[粘着剤層]
本発明の保護フィルムにおいて、前記プラスチックフィルムの一方の面に設けられる粘着剤層は、前述した本発明の粘着剤組成物を、プラスチックフィルムに直接塗布・乾燥して設け、さらにその上に離型シートを積層してもよいし、離型シートの離型処理面に塗布・乾燥して粘着剤層を形成し、この離型シート付き粘着剤層をプラスチックフィルムの一方の面に貼着させてもよい。
粘着剤組成物の塗布方法としては、公知の方法、例えばナイフコート法、ロールコート法、バーコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などにより、所定の厚さになるように塗布・乾燥する方法を用いることができる。
粘着剤層の厚さは、通常2〜30μm程度、好ましくは5〜25μmである。
前記の離型シートとしては、例えばグラシン紙、コート紙、ラミネート紙などの紙及び各種プラスチック製フィルムに、シリコーン樹脂などの離型剤を塗布したものなどが挙げられる。プラスチック製フィルムとしては、上記プラスチックフィルムで挙げたものを適宜使用することができる。この離型シートの厚さについては特に制限はないが、通常10〜100μm程度である。
本発明の保護フィルムは、粘着剤層の露出面側に、通常離型シートが積層されてなるものであってもよいし、別途の離型シートを使用せず、前記プラスチックフィルムの粘着剤層積層面と反対面に離型層が設けられ、当該離型層の表面に前記粘着剤層の露出面側が接するようロール状に巻回され、あるいは段積み状に積層されてなるものであってもよい。
【0039】
[コーティング層]
本発明の保護フィルムにおいては、プラスチックフィルムの粘着剤層とは反対側の面に、帯電防止性能及び/又は防汚性能を有するコーティング層を設けることができる。
帯電防止性能を有するコーティング層は、例えば熱可塑性樹脂マトリックス中に、導電性材料が分散してなる塗工液を塗布・乾燥することにより形成することができる。
一方、防汚性能を有するコーティング層は、一般にフッ素系樹脂を含む塗工液を塗布・乾燥することにより形成することができる。
前記各種塗工液の塗布方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法などを用いることができる。
このようにして形成された導電性能を有するコーティング層の厚さは、通常0.05〜1μm程度、好ましくは0.3〜0.7μmであり、防汚性能を有するコーティング層の厚さは、通常1〜10nm程度、好ましくは3〜8nmである。
【実施例】
【0040】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって、なんら限定されるものではない。
なお、各例で得られたアクリレート共重合体について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量Mw、数平均分子量Mn、並びに重量平均分子量10万以下の低分子量成分の含有量を、下記の方法により求めた。
<GPC法>
測定装置:東ソー社製の高速GPC装置「HLC−8120GPC」に、高速カラム「TSK gurd column HXL−H」、「TSK Gel GMHXL」、「TSK Gel G2000 HXL」(以上、全て東ソー社製)をこの順序で連結して測定した。
カラム温度:40℃、送液速度:1.0mL/分、検出器:示差屈折率計
【0041】
また、各例で得られた保護フィルムについて、ポリメチルメタクリレート(PMMA)に対する粘着力、離型シート(SP)の剥離力及び残留パーティクルの量(残留パーティクル数試験)を下記の方法により求めた。
(1)PMMAに対する粘着力
以下の例で得られた保護フィルムから、25mm幅、100mm長を切り出し、離型シートを剥して試験片とし、PMMA板[三菱レイヨン社製、「アクリライトL001」]を試験板とした。
また、試験片と試験板を貼付後、23℃、相対湿度50%の環境下で24時間放置したのち、相対湿度50%を維持しながら、さらに1)23℃で1週間放置し、2)23℃で1ヶ月間放置し、又は3)40℃で2週間放置し、その後、1)〜3)の工程後のそれぞれの試験片及び試験板を使用してニュートン毎25ミリメートルにて粘着力を測定した。前記条件以外は、JIS Z 0237:2009に準拠して、引張試験機[オリエンテック社製、「テンシロン」]を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で粘着力を測定した。
【0042】
(2)離型シート(SP)の剥離力
以下の各例の保護フィルムについて、50mm幅、150mm長のサンプルを切り出し、相対湿度50%下、23℃で1週間放置後又は40℃で2週間放置後、それぞれのサンプルについてSPの剥離力を、引張試験機[オリエンテック社製、「テンシロン」]を用いて、剥離速度300mm/分、剥離角度180°の条件で測定した。
(3)残留パーティクル数試験
実施例あるいは比較例において得られた保護フィルムをクリーンルーム内にて、室温下で、4インチシリコンウエハの鏡面に5kg(49N)ゴムローラーを1往復させることにより貼り付け、60分間放置した後、剥離を行った。このときウエハ上の粒径0.27μm以上の残留異物の数をレーザー表面検査装置[日立電子エンジニアリング社製]により測定した。
【0043】
合成例1(エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート)
金属テルル[Aldrich社製、製品名「Tellurium(−40mesh)」]6.38g(50mmol)をテトラハイドロフラン(THF)50mlに懸濁させ、これにn−ブチルリチウム[Aldrich社製、1.6mol/Lヘキサン溶液]34.4ml(55mmol)を、室温でゆっくり滴下した。この反応溶液を金属テルルが完全に消失するまで撹拌した。この反応溶液に、エチル−2−ブロモ−イソブチレート10.7g(55mmol)を室温で加え、2時間撹拌した。反応終了後、減圧下で溶媒を濃縮し、続いて減圧蒸留して、黄色油状物のエチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート8.98g(収率59.5%)を得た。
【0044】
実施例1
(1)リビングラジカル重合によるランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体(A)の製造
単量体としてブチルアクリレート[BA、東京化成社製]と、4−ヒドロキシブチルアクリレート[4HBA、東京化成社製]とを、質量比97:3の割合で用い、以下に示すリビングラジカル重合により、BA/4HBAのランダム共重合体からなるアクリル酸エステル共重合体(A)を製造した。この共重合体の性状を第1表に示す。
<リビングラジカル重合>
アルゴン置換したグローブボックス内で、合成例1で製造したエチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート68.5μL、ブチルアクリレート(同上)107g、4−ヒドロキシブチルアクリレート(同上)3.3g及び2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)[AIBN;Aldrich社製]4.6mgを60℃で20時間反応させた。
反応終了後、反応器をグローブボックスから取り出し、酢酸エチル500mlに溶解した後、そのポリマー溶液を活性アルミナ[和光純薬工業社製]で作製したカラムに通した。ポリマー溶液の粘度が5000mPa・s(25℃)となるようにトルエンを添加した。得られたポリマーの固形分は15質量%であった。
またGPCにより、分子量10万以下の低分子量成分の割合は1.95質量%であり、重量平均分子量103万、分子量分布2.06であった。
また、前記ポリマー溶液を乾燥後、灰化処理し、ICP/MSにより、ポリマー溶液の固形分に対する残留テルル量が100ppmであることを確認した。
【0045】
(2)粘着剤組成物の調製
上記(1)で製造したランダム共重合体からなる(メタ)アクリル酸エステル共重合体(A)100質量部(固形分)と、架橋剤としてイソシアヌレート型HDI[日本ポリウレタン工業社製、商品名「コロネートHX」、NCO含量:21.3質量%、固形分100%]2.00質量部と、DBTDL245ppmを、溶媒であるメチルエチルケトンに溶解して、固形分濃度13質量%の粘着剤組成物を調製した。
【0046】
(3)保護フィルムの作製
プラスチックフィルムとして、厚さ38μmの帯電防止性防汚ポリエチレンテレフタレートフィルム[東レ社製、商品名「PET38SLD52」]の帯電防止・防汚非処理面に、上記(2)で得た粘着剤組成物を、ナイフ式塗工機により、乾燥厚さが5μmになるように塗布したのち、90℃にて1分間加熱乾燥して粘着剤層を形成した。
次いで、厚さ38μmの離型シート[リンテック社製、商品名「SP−PET381031」]の離型処理面に、上記で得られた粘着剤層の露出面側を貼合して、プラスチックフィルム/粘着剤層/離型シートからなる保護フィルムを作製し、この保護フィルムについて、諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0047】
実施例2
実施例1において、DBTDLの量を490ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして、粘着剤組成物を調製し、さらに保護フィルムを作製した。この保護フィルムについて諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0048】
実施例3
実施例1において、DBTDLの量を979ppmに変更した以外は、実施例1と同様にして、粘着剤組成物を調製し、さらに保護フィルムを作製した。この保護フィルムについて諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0049】
比較例1〜4
実施例1において、DBTDLの量を第1表に示すように、それぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、各粘着剤組成物を調製し、さらに各保護フィルムを作製した。この各保護フィルムについて諸特性を求めた。その結果を第2表に示す。
【0050】
比較例5
(1)フリーラジカル重合によるアクリル酸エステル共重合体の製造
単量体としてブチルアクリレート(同上)と4−ヒドロキシブチルアクリレート(同上)とを、質量比97:3の割合で用い、以下に示すフリーラジカル重合により、BA/4HBAのアクリル酸エステル系共重合体を製造した。この共重合体の性状を第1表に示す。
<フリーラジカル重合>
撹拌機、温度計、還流冷却器、窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを封入後、酢酸エチル90質量部、ブチルアクリレート75質量部、4−ヒドロキシブチルアクリレート2.3質量部、重合開始剤2,2'−アゾビス(イソブチルニトリル)(AIBN)0.2質量部を仕込み、撹拌しながら酢酸エチルの還流温度で7時間反応させた。反応終了後、トルエン95質量部を添加して室温まで冷却した。固形分13質量%であるアクリル酸エステル共重合体を得た。
以下、実施例1と同様にして、粘着剤組成物を調製し、さらに保護フィルムを作製した。この保護フィルムの諸特性を第2表に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
[注]
(1)アクリル酸エステル系共重合体中のTe含有量は、下記の方法により測定した。
測定機器:ICP/MS
ポリマー溶液を乾燥後、灰化処理し、ICP/MSによる分析を行った。
(2)phr:主剤100質量部に対する質量部
(3)DBTDL:ジブチルスズジラウレート
(4)BA:ブチルアクリレート
(5)4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
(6)コロネートHX:日本ポリウレタン工業社製、商品名、イソシアヌレート型HDI、NCO含量:23.1質量%、固形分:100%
(7)LRP:リビングラジカル重合
(8)FRP:フリーラジカル重合
【0053】
【表2】
【0054】
第2表から分かるように、実施例の保護フィルムの粘着力は、比較例の保護フィルムの粘着力に比べて、経時による粘着力の低下が小さい。また、離型シートに対する剥離力については、比較例の保護フィルムの方が、実施例の保護フィルムに比べて、経時により大きくなっており、重剥離化が進んでいる。
残留パーティクル数試験では、リビングラジカル重合による実施例1〜3の保護フィルムと、比較例1〜4の保護フィルムとで、大きな差は認められないが、フリーラジカル重合による比較例5の保護フィルムにおいては、残留パーティクル数試験による個数は7800個と極めて多い。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の保護フィルムは、粘着剤層を有し、該粘着剤層を構成する粘着剤組成物中の残留モノマー及び低分子量成分が極めて少なく、被着体への残渣物の付着が極めて少ない保護フィルムであって、各種の画像表示装置の表面保護を始め、防眩性や反射防止などの目的で用いられる。