【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)本発明に係る研究の一部は、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業・総括実施型(ERATO)、浅野酵素活性分子プロジェクトの一環として行われたものであり、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], GenBank Accession No.AMWJ01000206.1,2012年12月 7日,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/428759197>, 07-DEC-2012 uploaded, [retrieved on 2014-05-19]
【文献】
Database DDBJ/EMBL/GenBank [online], GenBank Accession No.EKX81514.1,2012年12月 7日,<http://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/EKX81514.1> 07-DEC-2012 uploaded, [retrieved on 2014-05-19]
【文献】
J. Gen. Microbiol.,1984年,Vol.130, No.1,pp.69-76
【文献】
J. Gen. Microbiol.,1991年,Vol.137, No.12,pp.2911-2918
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、先ず、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素につき説明する。
【0038】
<L−アルギニン酸化酵素>
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、下記の(1)〜(3)の何れかのアミノ酸配列を有することを特徴とする。
【0039】
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列;
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つL−アルギニン酸化酵素活性を有するアミノ酸配列;
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つL−アルギニン酸化酵素活性を有するアミノ酸配列。
【0040】
なお、本発明において酵素が「(特定の)アミノ酸配列を有する」とは、その酵素のアミノ酸配列が特定されたアミノ酸配列を含んでいればよく、且つ、その酵素の機能が維持されていることを意味する。その酵素において特定されたアミノ酸配列以外の配列としては、ヒスチジンタグや固定化のためのリンカー配列の他、−S−S−結合などの架橋構造などが挙げられる。
【0041】
配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列(1)を有し、L−アルギニン酸化酵素活性を有するアミノ酸配列を有するタンパク質である酵素は、シュードモナス属菌株を新たに自然界より分離し、本微生物が産生する酵素として抽出、精製したものである。この点については実施例において詳述する。
【0042】
本発明のタンパク質が有するL−アルギニン酸化酵素活性は、酸素と水の存在下、L−アルギニンに作用して過酸化水素とアンモニアを生成する。この作用の測定方法は、実施例に記載の測定方法(定量方法)を用いることにより確認できる。
【0043】
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、L−アルギニンの他、L−リジンに対してわずかに酸化酵素活性を示す以外、L−オルニチン、L−チロシン、L−アラニン、L−システイン、L−アスパラギン酸、L−グルタミン酸、グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−メチオニン、L−アスパラギン、L−プロリン、L−グルタミン、L−アルギニン、L−セリン、L−スレオニン、L−バリン、D−アルギニンに対しては、全く活性を示さない。
【0044】
本発明に係るアミノ酸配列(2)の「1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有するアミノ酸配列」における「1から数個」の範囲は、欠失等を有するタンパク質が、酸素と水の存在下、L−アルギニンに作用して過酸化水素とアンモニアを生成する酵素である限り、特に限定されない。前記「1から数個」の範囲は、前記酸化酵素活性を有するタンパク質である割合が高いことから、例えば、1個以上、30個以下、好ましくは1個以上、20個以下、より好ましくは1個以上、10個以下、さらに好ましくは1個以上、7個以下、一層好ましくは1個以上、5個以下、特に好ましくは1個以上、3個以下程度であることができる。
【0045】
本発明に係るアミノ酸配列(2)の「配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有するアミノ酸配列」における相同性は、当該相同性を有するタンパク質が、酸素と水の存在下、L−アルギニンに作用して過酸化水素とアンモニアを生成する酵素である限り、特に限定されない。当該相同性は95%以上であれば特に限定されないが、好ましくは96%以上、より好ましくは97%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.5%以上である。
【0046】
本発明の上記L−アルギニン酸化酵素は、上記(1)から(3)に規定されるアミノ酸配列を有するものである限りその由来は特に限定されるものではない。例えば、本発明のL−アルギニン酸化酵素は、各種遺伝子工学的技術により製造した組換えタンパク質であってもよいし、化学合成により製造した合成タンパク質であってもよく、或いは配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるL−アルギニン酸化酵素の遺伝子ホモログを有する特定の生物種(例えば、細菌)から、或いは、当該生物種に変異原を与えることによりアミノ酸配列(2)または(3)を有するL−アルギニン酸化酵素を産生し得る変異体を獲得して、産生するタンパク質を抽出および精製することによって製造したタンパク質であってもよい。
【0047】
異種発現による生産法としては、例えば、同様の活性を有する生物種より抽出したゲノムDNAから該当する遺伝子をPCRにて増幅しpETもしくはpUCなどに組み込んだプラスミドベクターを構築したのち、BL21やJM109などの宿主菌株に形質転換し、培養する方法が挙げられる。これら以外の公知の方法も適宜用いることができる。
【0048】
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の取得方法は特に制限されず、化学合成により合成したタンパク質でもよいし、遺伝子組換え技術により作製した組換えタンパク質でもよい。組換えタンパク質を作製する場合には、後述するように当該タンパク質をコードする遺伝子(DNA)を取得する。このDNAを適当な発現系に導入することにより、上記L−アルギニン酸化酵素を産生することができる。
【0049】
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、上記L−アルギニン酸化酵素をコードする遺伝子をベクター上に搭載し、このベクターによって宿主細胞を形質転換した後、形質転換させた宿主細胞を培養して培養物中に前記遺伝子がコードするタンパク質を蓄積し、蓄積したタンパク質を収集することを含む、生産方法により調製することができる。
【0050】
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素をコードする遺伝子は、本発明の一態様である。即ち、本発明は、下記の何れかのアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子を包含する。
【0051】
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列
(2)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1から数個のアミノ酸の欠失、置換および/または付加を有し、且つL−アルギニン酸化酵素活性を有するアミノ酸配列
(3)配列番号2に記載のアミノ酸配列に対して95%以上の相同性を有し、且つL−アルギニン酸化酵素活性を有するアミノ酸配列
【0052】
本発明のL−アルギニン酸化酵素をコードする遺伝子の取得方法は特に限定されない。本発明のL−アルギニン酸化酵素をコードする遺伝子は、例えば、配列番号2に記載のアミノ酸配列および配列番号1に記載した塩基配列の情報に基づいて、化学合成、遺伝子工学的手法または突然変異誘発などの当業者に既知の任意の方法で作製することができる。
【0053】
例えば、配列表の配列番号1に記載の塩基配列を有するDNAに対し、変異原となる薬剤と接触作用させる方法、紫外線を照射する方法、遺伝子工学的手法等を用いて行うことができる。遺伝子工学的手法の一つである部位特異的変異誘発法は特定の位置に特定の変異を導入できる手法であることから有用であり、Molecular Cloning: A laboratory Mannual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, NY.,1989(以下、モレキュラークローニング第2版と略す)、Current Protocols in Molecular Biology, Supplement 1〜38, John Wiley & Sons (1987−1997)(以下、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジーと略す)等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0054】
本明細書中の配列表の配列番号2に記載したアミノ酸配列または配列番号1に示す塩基配列の情報に基づいて適当なブローブやプライマーを調製し、それらを用いてシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株のcDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより本発明の遺伝子を単離することができる。cDNAまたはゲノムライブラリーは、常法により作製することができる。
【0055】
PCR法により本発明のL−アルギニン酸化酵素をコードする遺伝子を取得することもできる。例えば、上記シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株のcDNAまたはゲノムライブラリーを鋳型として使用し、配列番号1に記載した塩基配列等を増幅できるように設計した1対のプライマーを用いてPCRを行う。PCRの反応条件は適宜設定すればよい。次いで、増幅されたDNA断片を、大腸菌(E.coli)等の宿主で増幅可能な適切なベクター中にクローニングすることができる。
【0056】
上記したプローブまたはプライマーの調製、ゲノムライブラリーの構築、ゲノムライブラリーのスクリーニング、並びに目的遺伝子のクローニングなどの操作は当業者に既知であり、例えば、モレキュラークローニング第2版、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー等に記載の方法に準じて行うことができる。
【0057】
上記L−アルギニン酸化酵素の遺伝子は適当なベクター中に挿入して使用することができる。本発明で用いるベクターの種類は特に限定されず、例えば、自立的に複製するベクター(例えばプラスミド等)でもよいし、あるいは、宿主細胞に導入された際に宿主細胞のゲノムに組み込まれ、組み込まれた染色体と共に複製されるものであってもよい。好ましくは、ベクターは発現ベクターである。発現ベクターにおいて上記遺伝子は、転写に必要な要素(例えば、プロモーター等)が機能的に連結されている。プロモータは宿主細胞において転写活性を示すDNA配列であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。
【0058】
細菌細胞で作動可能なプロモータとしては、バチルス・ステアロテルモフィルス・マルトジェニック・アミラーゼ遺伝子(Geobacillus stearothermophilus maltogenic amylase gene)、バチルス・リケニホルミスα−アミラーゼ遺伝子(Bacillus licheniformis alpha−amylase gene)、バチルス・アミロリケファチエンス・BANアミラーゼ遺伝子(Bacillus amyloliquefaciens BAN amylase gene)、バチルス・サブチリス・アルカリプロテアーゼ遺伝子(Bacillus Subtilis alkaline protease gene)若しくはバチルス・プミルス・キシロシダーゼ遺伝子(Bacillus pumilus xylosidase gene)のプロモータ、またはファージ・ラムダのPR若しくはPLプロモータ、大腸菌(E.coli)のlac、trp若しくはtacプロモータなどが挙げられる。
【0059】
哺乳動物細胞で作動可能なプロモータの例としては、SV40プロモータ、MT−1(メタロチオネイン遺伝子)プロモータまたはアデノウイルス2主後期プロモータなどがある。昆虫細胞で作動可能なプロモータの例としては、ポリヘドリンプロモータ、P10プロモータ、オートグラファ・カリホルニカ・ポリヘドロシス塩基性タンパクプロモータ、バキュウロウイルス即時型初期遺伝子1プロモータ、またはバキュウロウイルス39K遅延型初期遺伝子プロモータ等がある。酵母宿主細胞で作動可能なプロモータの例としては、酵母解糖系遺伝子由来のプロモータ、アルコールデヒドロゲナーゼ遺伝子プロモータ、TPI1プロモータ、ADH2−4cプロモータなどが挙げられる。糸状菌細胞で作動可能なプロモータの例としては、ADH3プロモータまたはtpiAプロモータなどがある。
【0060】
また、上記L−アルギニン酸化酵素の遺伝子は必要に応じて、適切なターミネータに機能的に結合されてもよい。L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターは更に、ポリアデニレーションシグナル(例えばSV40またはアデノウイルス5E1b領域由来のもの)、転写エンハンサ配列(例えばSV40エンハンサ)などの要素を有していてもよい。L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターは更に、該ベクターが宿主細胞内で複製することを可能にするDNA配列を具備してもよく、その一例としてはSV40複製起点(宿主細胞が哺乳類細胞のとき)が挙げられる。
【0061】
L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターはさらに選択マーカーを含有してもよい。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)またはシゾサッカロマイセス・ポンベTPI遺伝子等のようなその補体が宿主細胞に欠けている遺伝子、または例えばアンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、ネオマイシン若しくはヒグロマイシンのような薬剤耐性遺伝子を挙げることができる。L−アルギニン酸化酵素の遺伝子、プロモータ、および所望によりターミネータおよび/または分泌シグナル配列をそれぞれ連結し、これらを適切なベクターに挿入する方法は当業者に周知である。
【0062】
L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターを適当な宿主に導入することによって形質転換体を作製することができる。L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を含む組換えベクターを導入される宿主細胞は、L−アルギニン酸化酵素の遺伝子を発現できれば任意の細胞でよく、細菌、酵母、真菌および高等真核細胞等が挙げられる。
【0063】
細菌細胞の例としては、バチルスまたはストレプトマイセス等のグラム陽性菌または大腸菌(E.coli)等のグラム陰性菌が挙げられる。これら細菌の形質転換は、プロトプラスト法、または公知の方法でコンピテント細胞を用いることにより行えばよい。哺乳類細胞の例としては、HEK293細胞、HeLa細胞、COS細胞、BHK細胞、CHL細胞またはCHO細胞等が挙げられる。哺乳類細胞を形質転換し、該細胞に導入されたDNA配列を発現させる方法も公知であり、例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法等を用いることができる。
【0064】
酵母細胞の例としては、サッカロマイセスまたはシゾサッカロマイセスに属する細胞が挙げられ、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロマイセス・クルイベリ(Saccharomyces kluyveri)、またはシゾサッカロマイセス・ポンべ(Schizosaccharomyces pombe)等が挙げられる。酵母宿主への組換えベクターの導入方法としては、例えば、エレクトロポレーション法、スフェロブラスト法、酢酸リチウム法等を挙げることができる。
【0065】
他の真菌細胞の例は、糸状菌、例えばアスペルギルス、ニューロスポラ、フザリウム、またはトリコデルマに属する細胞である。宿主細胞として糸状菌を用いる場合、DNA構築物を宿主染色体に組み込んで組換え宿主細胞を得ることにより形質転換を行うことができる。DNA構築物の宿主染色体への組み込みは、公知の方法に従い、例えば相同組換えまたは異種組換えにより行うことができる。
【0066】
昆虫細胞を宿主として用いる場合には、組換え遺伝子導入ベクターおよびバキュロウイルスを昆虫細胞に共導入して昆虫細胞培養上清中に組換えウイルスを得た後、さらに組換えウイルスを昆虫細胞に感染させ、タンパク質を発現させることができる(例えば、Baculovirus Expression Vectors,A Laboratory Manua1;およびカレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー、Bio/Technology,6,47(1988)等に記載)。
【0067】
バキュロウイルスとしては、例えば、ヨトウガ科昆虫に感染するウイルスであるアウトグラファ・カリフォルニカ・ヌクレアー・ポリヘドロシス・ウイルス(Autographa californica nuclear polyhedrosis virus)等を用いることができる。
【0068】
昆虫細胞としては、Spodoptera frugiperdaの卵巣細胞であるSf9、Sf21〔バキュロウイルス・エクスプレッション・ベクターズ、ア・ラボラトリー・マニュアル、ダブリュー・エイチ・フリーマン・アンド・カンパニー(W.H.Freeman and Company)、ニューヨーク(New York)、(1992)〕、Trichoplusia niの卵巣細胞であるHiFive(インビトロジェン社製)等を用いることができる。
【0069】
組換えウイルスを調製するための、昆虫細胞への組換え遺伝子導入ベクターと上記バキュロウイルスの共導入方法としては、例えば、リン酸カルシウム法またはリポフェクション法等を挙げることができる。
【0070】
上記の形質転換体は、導入された遺伝子の発現を可能にする条件下で適切な栄養培地中で培養する。形質転換体の培養物から、本発明で用いるL−アルギニン酸化酵素を単離精製するには、通常のタンパク質の単離、精製法を用いればよい。例えば、本発明で用いるL−アルギニン酸化酵素が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し水系緩衝液に懸濁後、超音波破砕機等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常のタンパク質の単離精製法、即ち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)セファロース等の樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィ法、S−Sepharose FF(ファルマシア社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィ法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィ法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィ法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を単独あるいは組み合わせて用い、本発明のL−アルギニン酸化酵素を精製標品として得ることができる。
【0071】
上記アミノ酸配列(1)(配列番号2)を有するL−アルギニン酸化酵素は、本発明に係る新規微生物であるPseudomonas sp. BYC41−1株により産生されるものである。当該BYC41−1株は、下記の通り寄託機関に寄託されている。
(i) 寄託機関の名称およびあて名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター
あて名: 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8
(ii) 寄託日: 2013年1月18日
(iii) 受領番号: NITE AP−1511
(iv) 受託番号: NITE P−1511
【0072】
<L−アルギニンの定量方法>
本発明に係るL−アルギニンの測定方法は、
(A)水と酸素の存在下、検体に、上記の本発明に係るL−アルギニン酸化酵素を作用させる工程;および
(B)上記L−アルギニン酸化酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する工程を含むことを特徴とする。
【0073】
本発明の方法で、検体として用いられる生体試料は、L−アルギニンの有無を判断すべきものや、L−アルギニンの量や濃度などを測定すべき試料であれば、如何なるものでもよい。例えば、血液、血清、血漿、臓器の一部のホモジェネート、尿などの生体試料を挙げることができる。また、生体試料にL−アルギニン酸化酵素を作用させて生じる生成物を如何なる方法で測定するかに応じて、生体試料の種類を適宜選択することができる。より具体的には、発色剤や蛍光剤を利用して上記生成物を定量する場合には無色の水溶液であることが好ましく、血清や血漿などが例として挙げられる。
【0074】
L−アルギニン酸化酵素によるL−アルギニンの酸化反応を以下の反応式Aに示す。
【0076】
本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、上記式Aに示す反応を触媒する。
【0077】
工程(A)におけるL−アルギニン酸化酵素の混合量は、10mU/ml(アルギニン1μmolを1分間で消費する活性を1Uとする)以上とすることが適当である。また、酵素反応液における水の混合量は、サンプル中のLys濃度などに応じて適宜決定できるが、例えば、5〜95%の範囲とすることができる。L−アルギニン酸化酵素の混合量の上限は特にないが、実用的には、例えば、100mU/ml以下であることができる。しかし、L−アルギニン酸化酵素の混合量および水の混合量は、この範囲に限定する意図ではなく、適宜調整できる。
【0078】
さらに、L−アルギニン酸化酵素および水に加えて、好ましくは、L−アルギニン酸化酵素の至適pHを考慮したpHを示す緩衝液を含むことができる。pHは適宜調整すればよいが、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の至適pHが5.0から7.5であるので、5.0以上、7.5以下程度とすることができる。
【0079】
次いで、前記混合により得られた反応液を酸素の存在下に所定時間放置する。L−アルギニン酸化酵素によるL−アルギニン酸化反応においては、反応式Aに示すように、L−アルギニン脱アミノ化生成物である5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸と共に、アンモニア(NH
3)と過酸化水素(H
2O
2)が生成物として得られる。上記反応を空気中で実施することで、反応液中の溶存酸素として上記酸素は供給される。反応液中酸素を供給する目的で反応液に空気などの酸素含有気体を強制的に供給する必要は通常はない。酵素反応に必要とされる酸素量が微量であり、溶存酸素により十分に賄えるためである。反応温度は適宜調整すればよいが、当該酵素の至適温度は45℃付近であるので、例えば、20℃以上、60℃以下とすることができる。酵素反応時間は、使用する酵素量などにもよるが、例えば、10分間以上、1時間以下程度の範囲とすることができる。しかし、この範囲に限定する意図ではなく、適宜調整できる。
【0080】
工程(B)では、酵素反応後の反応液中に存在する本発明酵素の作用による反応生成物の少なくとも一種の量を計測する。
【0081】
測定対象である生成物が過酸化水素である場合、例えばペルオキシダーゼ反応を用いて測定する方法など公知の方法により、過酸化水素の定量が可能である。ペルオキシダーゼ反応を用いて測定する場合、使用可能なペルオキシダーゼは過酸化水素の定量に利用可能な酵素であればよく、例えば西洋わさび由来ペルオキシダーゼが挙げられる。また、使用するペルオキシダーゼの基質となり得るものであれば発色剤として使用可能であり、西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる場合には4−アミノアンチピリン:フェノールなどが挙げられる。西洋わさび由来ペルオキシダーゼを用いる過酸化水素定量のための反応は以下に示す通りである。
2H
2O
2 + 4−アミノアンチピリン + フェノール → キノンイミン色素 + 4H
2O
【0082】
4−アミノアンチピリン等の発色剤や蛍光剤は、使用されるペルオキシダーゼの種類によって適宜選択することが可能である。
【0083】
L−アルギニン酸化酵素の反応生成物である過酸化水素は、過酸化水素電極を用いた電流検出型センサを用いて測定することもできる。過酸化水素電極としては、例えば、ペルオキシダーゼを牛血清アルブミンとともにグルタルアルデヒドに固定化した膜とフェロセンをカーボンペーストに含有させたものを電極として用いるセンサを挙げることができる。
【0084】
測定すべき生成物をアンモニアとする場合には、アンモニア検出薬を用いて測定することができる。アンモニア検出薬としては、例えば、フェノールと次亜塩素酸の組み合わせによるインドフェノール法を挙げることができる。具体的には、サンプルをフェノール・ニトロプルシド溶液および過塩素酸溶液と混合して発色させ、635nmの吸光度を測定することにより、アンモニア定量が可能である。
【0085】
定量に用いられる生成物がL−アルギニンの脱アミノ化生成物である5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸である場合には、5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸を3−methyl−2−benzothiazolone hydrazine hydrochlorideと反応させてhydrazone誘導体を分光測定することにより、5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸を測定することができる。
【0086】
<L−アルギニンの定量用キット>
本発明に係るL−アルギニンの定量用キットは、以下の試薬を含むことを特徴とする。
(K1)L−アルギニン酸化酵素
【0087】
上記L−アルギニン酸化酵素は、上記の本発明に係るL−アルギニン酸化酵素である。
【0088】
本発明のキットは、さらに、(K2)反応用緩衝液、(K3)過酸化水素検出用試薬、(K4)アンモニア検出薬および(K5)L−アルギニンの脱アミノ化生成物である5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸検出薬の少なくとも一つを含むことができる。
【0089】
(K2)反応用緩衝液は、反応液中を定量反応に適したpHに維持するために用いられる。後述の実施例に示すL−アルギニン酸化酵素は、pH3.5−8.5の範囲の緩衝液であることが望ましい。
【0090】
(K3)過酸化水素検出用試薬は、過酸化水素の検出を、例えば、発色もしくは蛍光によって行う場合に用いる。過酸化水素検出用試薬としては、例えば、ペルオキシダーゼとその基質となり得る発色剤の組合せであることができる。具体的には、西洋わさびペルオキシダーゼと2−アミノアンチピリン・フェノールの組み合わせを挙げることができる。
【0091】
(K4)アンモニア検出薬としては、フェノールを挙げることができる。例えば、フェノールと次亜塩素酸の組み合わせによるインドフェノール法を適用できる。
【0092】
(K5)L−アルギニンの脱アミノ化生成物である5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸検出薬としては、3−methyl−2−benzothiazolone hydrazine hydrochlorideを挙げることができる。例えば、5−グアニジノ−2−オキソペンタン酸と3−methyl−2−benzothiazolone hydrazine hydrochlorideを反応させて、hydrazone誘導体を分光測定することができる。
【0093】
<酵素センサ>
本発明に係るL−アルギニン測定用の酵素センサは、検出用電極の表面または近傍にL−アルギニン酸化酵素が配置されており、且つ、検出用電極は過酸化水素検出用電極であることを特徴とする。この酵素センサに用いるL−アルギニン酸化酵素は、上記の本発明に係るL−アルギニン酸化酵素である。
【0094】
前記検出用電極は過酸化水素検出用電極である。過酸化水素検出用電極は、酵素式過酸化水素電極または隔膜式過酸化水素電極であることができる。L−アルギニン酸化酵素がL−アルギニンと反応することで過酸化水素が生成するので、この過酸化水素を過酸化水素検出用電極で検出することができる。酵素式過酸化水素電極としては、例えば、ペルオキシダーゼを牛血清アルブミンとともにグルタルアルデヒドに固定化した膜とフェロセンをカーボンペーストに含有させたものを電極として用いるセンサを挙げることができる。隔膜式過酸化水素電極は、隔膜により過酸化水素と反応する電極が隔離されたタイプの電極である。
【0095】
本発明に係る酵素センサにおいて、L−アルギニン酸化酵素は、検出用電極の表面または検出用電極の近傍に配置されることが好ましく、検出用電極の表面に配置される場合には、検出用電極の表面に固定化されても固定化されなくてもよい。検出用電極の表面に固定化されることで、本発明のセンサを繰り返し利用できる利点がある。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0097】
なお、酵素の活性は、以下のように測定した。
【0098】
試験例1: L−アルギニン酸化酵素の活性の測定
(1)L−アルギニン酸化酵素活性測定用試薬の調製
表1の配合に従って調製した。
【0099】
【表1】
【0100】
また、使用した基質(アミノ酸)は、以下のとおりである。
【0101】
【表2】
【0102】
(2)L−アルギニン酸化酵素の活性測定法
L−アルギニン酸化酵素活性は、L−アミノ酸の酸化で生成される過酸化水素量を、表1の発色液を用いて比色法で求めた。具体的には、1cm石英セル中、発色液、表2に示すアミノ酸の100mM溶液および酵素液を2:2:1(容量比)の割合で混合し、30℃で反応させ、吸光度計を用いて反応開始から連続的(約1秒間隔)に550nmの吸光度を測定した。L−アルギニン酸化酵素活性の基質は、表2に示した20種類のアミノ酸(100mM溶液)を用い、ブランクでは、基質の代わりに100mMリン酸カリウム緩衝液(pH7.0)を添加した。得られた吸光度変化により、下記計算式に基づきL−アルギニン酸化酵素活性を算出した。尚、上記条件で1分間に1マイクロモルの過酸化水素を与える酵素量を1Uとした。得られた吸光度変化より、下記計算式に基づきL−アルギニン酸化酵素の酵素活性を算出した。
【0103】
(3)L−アルギニン酸化酵素活性の計算式
活性値(U/ml)={ΔOD/min(ΔODtest−ΔODblank)×3.1(ml)×希釈倍率}/{13×1.0(cm)×0.1(ml)}
3.1(ml):全液量
13:ミリモル吸光係数
1.0cm:セルの光路長
0.1(ml):酵素サンプル液量
【0104】
実施例1: 本発明に係るL−アルギニン酸化酵素産生菌の検討
(1) スクリーニング
富山県内各地から土壌試料を採取し、上記試験例1に準拠して各土壌に含まれる微生物のL−アルギニン酸化酵素活性を試験し、L−アルギニン酸化酵素活性を有する微生物をスクリーニングした。その結果、L−アルギニン酸化酵素活性を有するPseudomonas sp.BYC41−1株を見出した。
【0105】
当該BYC41−1株について、以下のとおり検討した。
【0106】
(2) 16S rDNA塩基配列
Pseudomonas sp.BYC41−1株から常法に従ってゲノムDNAを抽出し、得られたゲノムDNAを鋳型とし、PCRにより16S rDNAを増幅し、塩基配列を決定した。当該微生物の16S rDNA塩基配列を配列番号7に示す。決定された配列に基づいて、アポロンDB−BA8.0 Blastにより、相同性の高い微生物を検索した。結果を表3に示す。
【0107】
【表3】
【0108】
また、
図1に、当該微生物(
図1中、「SIID2400」で示す)の16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子系統樹を示した。表3と
図1のとおり、BYC41−1株の16S rDNA塩基配列は、Pseudomonas属の16S rDNA塩基配列に対し高い相同性を示し、P.japonica IAM15071株に対して99.6%と最も高い相同性を示したが、何れの基準菌株の16S rDNA塩基配列とも一致しなかった。また、アポロンDB−BA8.0に対する相同性検索で得られた上位10塩基配列を用いた16S rDNA塩基配列に基づく簡易分子系統解析の結果、BYC41−1株は、Pseudomonas属の種で形成されるクラスターに含まれ、P.japonicaとクラスターを形成し、近縁であることが示された。
【0109】
以上のとおり、本発明に係るBYC41−1株は、Pseudomonas属に属する新規な微生物であることが明らかとなった。
【0110】
(3) 生理・生化学性状試験
本発明に係るBYC41−1株の生理・生化学性状を試験した。第一次試験の結果を表4に、第二次試験の結果を
図2と表5に示す。
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
第一次試験の結果、BYC41−1株は運動性を有するグラム陰性桿菌であり、グルコースを酸化し、カタラーゼ反応とオキシダーゼ反応に陽性を示した(表4)。第二次試験の結果、BYC41−1株は硝酸塩を還元せず、アルギニンジヒドロラーゼ活性を示し、グルコース、n−カプリン酸およびdl−リンゴ酸を資化し、L−アラビノース、D−マンノースおよびマルトースなどを資化しなかった(
図2)。また、追加試験の結果、BYC41−1株は嫌気条件下で生育し、42℃で生育せず、アルカリフォスファターゼ、エステラーゼ(C4)およびエステラーゼ リパーゼ(C8)などの活性を示した(表5)。これらの性状は、16S rDNA塩基配列解析の結果において近縁性が示唆されたP.japonicaの性状と類似点が認められたものの、相違も確認された。特に、L−アラビノースおよびマルトースを資化せず、リパーゼ(C14)活性を示さない点は、P.japonicaの性状と異なった。
【0114】
以上の結果から、本発明に係るBYC41−1株はP.japonicaに最も近縁なPseudomonas sp.であるが、P.japonicaとは異なる新規なものであると判断した。
【0115】
実施例2: 本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の取得
(1) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素の精製
(i) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株の培養
上記実施例1のシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株を、5mlのPseudomonas medium A培地(2.0%ポリペプトン,1.0%硫酸カリウム,0.14%塩化マグネシウム,0.2%L−アルギニン、pH7.0)に植菌し、30℃、200rpmで12時間前培養した。その後、500mlのPseudomonas medium A培地を含む2Lの坂口フラスコに植菌し、30℃、96rpmで24時間培養した。培養後、12,000×gで20分間遠心分離し、菌体を得た。
【0116】
(ii) 無細胞抽出液の調製
上記で得られた菌体を生理食塩水(0.9%NaCl)で洗浄した後、培地20L分の菌体を100mLの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)(KPB)に懸濁した。100mLの菌体液を15分間超音波処理し、8,000rpm、4℃で20分間遠心分離し、得られた上清を無細胞抽出液とした。
【0117】
(iii) 陰イオン交換カラムクロマトグラフィ(Q−セファロース)
20mM KPB(pH7.0)により平衡化したQ−セファロース樹脂100mlをカラムに充填し、20mM KPB(pH7.0)で透析した上記無細胞抽出液を吸着させた。500mLの20mM KPBでカラムを洗浄した後、20mM KPB(pH7.0)500mlおよび500mM NaClを含む20mM KPB(pH7.0)500mlを用いて、グラジエントによりNaCl濃度を徐々に上げ、酵素を溶出させた。フラクションコレクターを用いて、10mLずつ試験管にフラクションを採取し、活性が認められたフラクションを集めた。
【0118】
(iv) 疎水性クロマトグラフィ(Octyl−セファロース)
活性が得られたフラクションに、終濃度が2Mになるように硫酸アンモニウムを添加し、これを酵素液とした。2M硫酸アンモニウムを含む20mM KPB(pH7.0)により平衡化したOctyl−セファロース樹脂100mlをカラムに充填し、活性フラクションを吸着させた。500mLの2M硫酸アンモニウムを含む20mM KPB(pH7.0)でカラムを洗浄した後、2M硫酸アンモニウムを含む20mM KPB250mlおよび20mM KPB250mlを用いて、グラジエントにより硫酸アンモニウム濃度を徐々に下げ、酵素を溶出させた。活性が確認された非吸着画分を5Lの同緩衝液(×3回)で、1晩透析を行った。
【0119】
(v) 疎水性クロマトグラフィ(RESOURCE PHE)
中圧高速液体クロマトグラフィ(FPLC、カラム:2M硫酸アンモニウムを含む20mM KPBで平衡化したRESOURCE PHE 6mlカラム)を用いた。サンプルループに限外濾過により透析した酵素液2mlを注入し、2M硫酸アンモニウムを含む20mM KPBおよび20mM KPBを用いて、FPLCのグラジエントシステムにより、酵素を溶出させた。各フラクション(0.5ml)から活性が認められたフラクションを集め、1晩透析した。透析した後、限外濾過を用いて酵素液を2mLまで濃縮した。
【0120】
(vi) 強イオン交換カラムクロマトグラフィ(MonoQ HR10/100)
中圧高速液体クロマトグラフィ(FPLC、カラム:20mM KPBで平衡化したMonoQ HR 10/100カラム)を用いた。サンプルループに限外ろ過(セントリコンチューブ)により濃縮した酵素液200μLを注入し、20mM KPBおよび0.5mM NaClを含む20mM KPBの2つの溶媒を用いて、FPLCのグラジエントシステムにより、酵素を溶出させた。各フラクション(0.5mL)から活性が認められたフラクションを集め、1晩透析した。透析した後、セントリコンを用いて酵素液を200μLまで濃縮した。以上の精製状況を、表6にまとめる。
【0121】
【表6】
【0122】
(2) SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動による上記株由来L−アルギニン酸化酵素の分子量測定
泳動ゲルとして、36%アクリルアミド5.25ml、0.68Mトリス−HCL緩衝液(pH8.8)8.25mL、1%SDS 1.58mL、10%TEMED 187μL、2%APS 562.5μLの組成を有するゲルに、36%ポリアクリルアミド0.5mL、0.179Mトリス−HCl(pH6.8)3.5mL、1%SDS 0.5mL、10%TEMED 125μL、2%APS 375μLの組成を有する濃縮ゲルを重層したものを用い、緩衝液(グリセロール200μL、1Mトリス−HCl(pH8.0)40μL、水360μL、2−メルカプトエタノール200μLおよび10%SDS 200μL)と等量混合した精製酵素サンプル10μLを、ランニング緩衝液(トリス3.0g、グリシン14.1gおよびSDS 10g)中、30mAで電気泳動を行った。その後、ゲルをタンパク染色液(CBB2.5g、メタノール500mL、酢酸50mLおよび水450mL)で1時間染色し、脱色液(メタノール:酢酸:水=3:1:6)でバンドが鮮明になるまで脱色した。
【0123】
分子量マーカー(Bio−Rad)としては、以下のものを用いた。
【0124】
phosphorylase(97,400)
bovine serum albumin (66,267)
aldolase (42,200)
carbonic anhydrase (30,000)
soybean trypsin inhibitor (20,000)
【0125】
図3にシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素のSDS−PAGEの写真を示した。
【0126】
(3) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素のN末端アミノ酸配列の決定
精製酵素のN末端アミノ酸配列は、株式会社ニッピに分析を依頼した。精製したシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素をEdman分解法によりN末端側から15残基決定した。
【0127】
実施例3: 本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の取得
(1) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素遺伝子のクローニング
(i) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株の染色体DNAの抽出
上記実施例1のシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株をTGY培地3mLに植菌し、30℃、200rpmで12時間培養した。培養液1mLを、15,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、集菌した。菌体をSTE緩衝液(NaCl 0.58g、1Mトリス−HCl(pH8.0)1mLおよび0.5M EDTA(pH8.0)200μLを水で100mLに定量したもの)1mLで洗浄した後、同緩衝液に懸濁した。68℃で15分間加熱した後、15,000rpm、4℃で5分間遠心分離し、上清を除いた。別途、リゾチーム5mg、10mg/mL RNase 10mL(以下、当該溶液を「1液」という)を準備した。また、グルコース0.9g、1Mトリス−HCl(pH8.0)2.5ml、0.5M EDTA(pH8.0)2mLを含む溶液に超純水を加え、総量を100mLにした。当該溶液1mLと、上記1液10mLを混合した。上記遠心分離沈殿物を、当該混合液300μLに懸濁した。37℃で30分間インキュベートした後、プロテイナーゼK液(プロテイナーゼK 10mg/1液1mL)6μLを加え、穏やかに混合し、37℃で10分間インキュベートした。N−ラウロイルザリコシン3mgを加えて、穏やかに混合した後、37℃で3時間インキュベートし、フェノール−クロロホルム処理を穏やかに2回行った。上清300μLに5M NaCl溶液10μLとエタノール600μLを加えて混合した後、15,000rpm、4℃で10分間遠心分離した。70%エタノールで洗浄した後、風乾し、TE緩衝液100μLに溶解し、目的とする染色体DNAを得た。
【0128】
(ii) PCRによるシュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素遺伝子の増幅
PCR反応液の組成は、水35μL、10×LA Taq buffer 5μL、2mM dNTP 5μL、100pmolプライマー1(5’−TATAATCATATGAGCCAGACCCAGCCATTGGATG−3’)(配列番号3)1μL、100pmolプライマー2(5’−TATTACTCGAGTCATGCTTTGATCCCTGTGTAGGCG−3’)(配列番号4)1μL、鋳型DNA2μLおよびLA Taq 1μLとした。PCR反応の条件は、(i)98℃で5分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)72℃で2分間、および(ii)までを30サイクルとした。増幅した遺伝子は、アガロースゲル電気泳動により確認した。増幅した遺伝子をVIOGENE(USA)社のGel−Mゲル抽出キットを用いて抽出した。
【0129】
(iii) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素遺伝子配列のシーケンシング
遺伝子の両方の鎖についてシーケンシングを行うため、プライマー1とプライマー2を用いてシーケンス反応を行った。反応液組成は、1.6μLの各プライマー、1.6μLの鋳型DNA、1μLのBigDyeプレミックスソリューション、1.5μLの5xBigDyeシーケンシングバッファーと4.9μLの滅菌水とし、全量10μLとした。PCR反応の条件は、(i)96℃で2分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)60℃で4分間、(v)(ii)〜(iv)を25回、および(vi)72℃で5分間とした。PCR産物に、1μLの3M 酢酸ナトリウム(pH5.2)、1μLの0.125M EDTAと25μLのエタノールを加え、室温で15分間放置した後、15,000rpm、4℃で8分間遠心分離することにより沈殿させた。上清を廃棄した後、10μLの Hi Di Formamideを加え、100℃で5分間加熱した後に、氷水で急冷したものをABI PRISM 310 Genetic Analyzerで塩基配列の解読をした。得られたシーケンスデータの解析はGenetyxで行い、それぞれのプライマーで増幅した断片を連結した。配列番号2に、シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素遺伝子配列から予測される1次構造を示した。
【0130】
(iv) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素遺伝子による大腸菌(E.coli JM109)の形質転換
ライゲーション反応の組成は、PCR産物5μL、pT7 Blue T−Vecter(Novagen)1μL、ライゲーションミックス(Takara)6μLとし、16℃で30分間反応させた。大腸菌(E.coli JM109)のコンピテントセル100μLに12μLのライゲーション反応液を加え、ヒートショック法で形質転換した。80μg/mLのアンピシリンを含むLB培地(1.0%ポリペプトン,0.5%イースト抽出物および1.0% NaCl)に生育したコロニーを数株選抜してプラスミド抽出し、0.7%アガロース電気泳動により、インサートの有無を確認した。
【0131】
(2) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素遺伝子の大腸菌(E.coli JM109(DE3))における発現
(i) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来のL−アルギニン酸化酵素遺伝子の増幅
PCR反応液の組成は、水35μL、10×LA Taq buffer 5μL、2mM dNTP 5μL、100pmolプライマー1(5’−ATATTCTAGAGAAGGAGGCATAGTGGATGAGCCAGACCCAGCCATT−3’)(配列番号5)1μL、100pmolプライマー2(5’−ATATCTCGAGTCATGCTTTGATCCCTGTGT−3’)(配列番号6)1μL、鋳型DNA2μLおよびLA Taq 1μLとした。PCR反応の条件は、(i)98℃で5分間、(ii)96℃で10秒間、(iii)50℃で5秒間、(iv)72℃で2分間、および(ii)までを30サイクルとした。
【0132】
(ii) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素遺伝子によるpET15bベクターへの組換えと大腸菌(E.coli BL21)の形質転換
PCR反応で得られた、PCR産物5μLに、1μL XbaIと1μL XhoIを加え、37℃で1時間インキュベートし、制限酵素処理を行った。ライゲーション反応は、5μL DNA、1μL pET15b(増幅遺伝子と同様の制限酵素処理を行ったもの)、6μLライゲーションMixとし、16℃で30分間インキュベートした。得られたライゲーション反応液全量を、ヒートショック法により、大腸菌(E.coli BL21)に導入した。
【0133】
(iii) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素遺伝子の発現と精製
80μg/mLのアンピシリンを含む4LのLB培地(1.0%ポリペプトン、0.5%イースト抽出物、1.0% NaCl、pH7.0)に組換え大腸菌(BL21)を植菌し、16℃で12時間培養後、0.5mM IPTGを添加して、引き続き30℃で12時間培養してL−アミノ酸オキシダーゼを誘導した。大型遠心機を用いて5,000rpm、4℃で10分間遠心分離することにより集菌し、生理食塩水(0.9% NaCl)で洗浄した後、100mLの20mMリン酸緩衝液(pH7.0)(KPB)に懸濁した。100mLの菌体液を15分間超音波処理し、8,000rpm、4℃で20分間遠心分離することにより得られた上清を無細胞抽出液とした。無細胞抽出液を(1)(iii)〜(vi)と同様の手法で精製を行った。
【0134】
(3) シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素の活性測定
精製酵素標品の酵素活性を、基質濃度をより低い5mMとした以外は表2におけるアミノ酸をそれぞれ単独に含有する測定試薬にて測定した。結果を
図4と表7に示す。
【0135】
【表7】
【0136】
図4と表7のとおり、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、L−アルギニンを基質として酸化する一方で、L−リジンをわずかに基質とするのみで、その他のアミノ酸には全く活性を示さなかった。このように、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、L−アルギニンに対して高い特異性を示すことが明らかになった。
【0137】
実施例4: シュードモナス・エスピー(Pseudomonas sp.)BYC41−1株由来L−アルギニン酸化酵素を用いたL−アルギニンの定量
上記実施例1(1)にて精製したL−アルギニン酸化酵素標品を用いて、上記試験例1のL−アルギニン測定用試薬組成物を調製した。本試薬組成物を用い、L−アルギニン測定を実施した。検体として、0〜200μMのL−アルギニン水溶液と、L−アルギニンを0〜200μM含む血漿試料を調製した。血漿試料の測定結果を
図5(1)に、両試料のL−アルギニン濃度と吸光度との関係を
図5(2)に示す。
【0138】
図5のとおり、L−アルギニン溶液を検体とした場合には十分な反応性が認められ、水溶液においても血漿においても、L−アルギニン濃度と吸光度測定データは良好な正の相関を示した。従って、本発明のL−アルギニン測定用試薬組成物を用いることにより、正確なL−アルギニンの測定を行うことができることが実証された。
【0139】
試験例2: 本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の至適温度の検討
上記試験例1において、反応温度を20〜65℃に変化させ、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の活性を測定した。結果を
図6に示す。
【0140】
図6のとおり、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、おおよそ45℃以上60℃以下で最も高い活性を示した。なお、
図6の縦軸は、最も活性の高かった55℃における酵素活性を100%とした場合の相対活性値である。
【0141】
試験例3: 本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の至適pHの検討
上記試験例1において、緩衝液を変更することにより反応液のpHを4〜10に変化させ、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素の活性を測定した。なお、pH4〜5.5ではクエン酸緩衝液を、pH5.5〜8.5ではリン酸緩衝液を、pH8.5〜9ではトリス塩酸緩衝液を、pH9〜10ではグリシン−水酸化ナトリウム緩衝液を用いた。結果を
図7に示す。
【0142】
図7のとおり、本発明に係るL−アルギニン酸化酵素は、pH5.5で最も高い活性を示した。なお、
図7の縦軸は、pH5.5での最も高い活性値を100%とした場合の相対活性値を示す。