(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130169
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】米発酵液の希釈飲料および米発酵液の希釈飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
C12G3/04
【請求項の数】19
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-42252(P2013-42252)
(22)【出願日】2013年3月4日
(65)【公開番号】特開2014-168426(P2014-168426A)
(43)【公開日】2014年9月18日
【審査請求日】2015年6月8日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000165251
【氏名又は名称】月桂冠株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100194515
【弁理士】
【氏名又は名称】南野 研人
(72)【発明者】
【氏名】根来 宏明
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢明
(72)【発明者】
【氏名】榊原 舞子
(72)【発明者】
【氏名】松村 憲吾
(72)【発明者】
【氏名】石田 博樹
(72)【発明者】
【氏名】秦 洋二
【審査官】
植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭57−068779(JP,A)
【文献】
特開2012−244965(JP,A)
【文献】
特開昭59−006881(JP,A)
【文献】
特開平04−053482(JP,A)
【文献】
岩手県工業技術センター研究報告,[技術報告]低アルコール清酒の試験醸造,日本,2003年,第10号,108〜110,URL,http://www2.pref.iwate.jp/~kiri/infor/theme/2002/pdf/H14-21-lowal.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 1/00−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
低アルコールの清酒であって、
前記低アルコールの清酒は、米発酵液の希釈液と酒石酸と糖とを含み、
前記米発酵液の希釈液は、前記米発酵液が水で希釈されたものであり、
前記糖が、前記米発酵液、または前記米発酵液および添加した糖に由来する糖であり、
前記低アルコールの清酒のアルコール度数が、1〜13度の範囲であり、
前記糖が、グルコース、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノースおよびニゲロトリオースからなる群から選択された少なくとも1つの糖であり、
前記糖の濃度が、1〜10w/v%であることを特徴とする、低アルコールの清酒。
【請求項2】
前記酒石酸の濃度が、0.001〜5w/v%の範囲である、請求項1記載の低アルコールの清酒。
【請求項3】
前記低アルコールの清酒の酸度が、0.5〜15の範囲である、請求項1または2記載の低アルコールの清酒。
【請求項4】
前記糖が、グルコースである、請求項1から3のいずれか一項に記載の低アルコールの清酒。
【請求項5】
前記糖の濃度が、3.9w/v%以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の低アルコールの清酒。
【請求項6】
前記酒石酸(S)と前記糖(T)との濃度比(S:T)が、1:0.001〜1:10000の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の低アルコールの清酒。
【請求項7】
前記米発酵液が、清酒である、請求項1から6のいずれか一項に記載の低アルコールの清酒。
【請求項8】
低アルコールの清酒の製造方法であって、
下記(A)工程、下記(B)工程、および下記(C)工程を含むことを特徴とする、低アルコールの清酒の製造方法。
(A)米発酵液の希釈液を準備する工程であり、前記低アルコールの清酒におけるアルコール度数が、1〜13度の範囲となるように、前記米発酵液を水で希釈する工程
(B)前記米発酵液および前記希釈液の少なくとも一方に、酒石酸を添加する工程
(C)前記米発酵液および前記希釈液の少なくとも一方に、さらに、グルコース、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノースおよびニゲロトリオースからなる群から選択された少なくとも1つの糖を添加する工程であり、前記低アルコールの清酒における前記糖の濃度が、1〜10w/v%となるように、前記糖を添加する工程
【請求項9】
前記(B)工程において、前記米発酵液に酒石酸を添加した後、前記(A)工程において、前記米発酵液を希釈することにより、前記酒石酸を含む前記米発酵液の希釈液を調製する、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記(A)工程において、前記米発酵液を希釈することにより、前記米発酵液の希釈液を調製した後、前記(B)工程において、前記米発酵液に前記酒石酸を添加する、請求項8記載の製造方法。
【請求項11】
前記(B)工程において、前記低アルコールの清酒における前記酒石酸の濃度が、0.001〜5w/v%となるように、前記酒石酸を添加する、請求項8から10のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記(B)工程において、前記低アルコールの清酒の酸度が、0.5〜15の範囲となるように、前記酒石酸を添加する、請求項8から11のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記糖が、グルコースである、請求項8から12のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記(C)工程において、前記低アルコールの清酒における前記糖の濃度が、3.9w/v%以上となるように、前記糖を添加する、請求項8から13のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
前記(B)および前記(C)工程において、前記低アルコールの清酒における前記酒石酸(S)と前記糖(T)との濃度比(S:T)が、1:0.001〜1:10000の範囲となるように、前記酒石酸と前記糖とを添加する、請求項8から14のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項16】
清酒を含むリキュールの製造方法であって、
下記(A)工程、下記(B)工程、および下記(C)工程を含むことを特徴とする、清酒を含むリキュールの製造方法。
(A)清酒の希釈液を準備する工程であり、前記リキュールにおけるアルコール度数が、1〜13度の範囲となるように、前記清酒を水で希釈する工程
(B)前記清酒および前記希釈液の少なくとも一方に、酒石酸のみを添加する工程
(C)前記清酒および前記希釈液の少なくとも一方に、さらに、グルコース、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノースおよびニゲロトリオースからなる群から選択された少なくとも1つの糖を添加する工程であり、前記リキュールにおける前記糖の濃度が、1〜10w/v%となるように、前記糖のみを添加する工程
【請求項17】
前記(B)工程において、前記リキュールの酸度が、0.5〜15の範囲となるように、前記酒石酸を添加する、請求項16記載の製造方法。
【請求項18】
前記糖が、グルコースである、請求項16または17記載の製造方法。
【請求項19】
前記(C)工程において、前記糖の濃度が、3.9w/v%以上となるように、前記糖を添加する、請求項16から18のいずれ一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米発酵液の希釈飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向が広まる中、低アルコール飲料への需要が高まっている。清酒に関しても、醸造後、アルコール度数15〜20度程度の清酒に加水することにより、アルコールを希釈した低アルコール清酒が製造されている。しかしながら、低アルコール清酒は、醸造後の清酒に含まれる成分も、同様に希釈されるため、水っぽくなり、酸味が不十分になるという問題がある。
【0003】
このような問題を解消するために、例えば、製麹の処理時間を長くすることで、加水前の清酒における成分量を増加させる方法(特許文献1)、清酒に加水した後、酸味を補強するために、さらに乳酸を添加する方法等が試みられている(非特許文献1)。しかしながら、前者の方法は、加水前の清酒の製造方法自体を変更するため、手間やコストがかかり、且つ、製造した清酒も、加水を前提とするため、低アルコール清酒の原液としての使用に限られてしまう。また、後者は、酸度を調整できるものの、低アルコール清酒の味のバランスが不十分という問題がある。このため、味のバランスに優れた低アルコール飲料の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−246514
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】中山 繁喜、櫻井 廣、「低アルコール清酒の試験醸造」、岩手県工業技術センター研究報告、岩手県工業技術センター、2003年6月、(10)、p108−110
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、味のバランスに優れた米発酵液の希釈飲料およびその製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するために、本発明の米発酵液の希釈飲料は、米発酵液の希釈液と酒石酸とを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の米発酵液の希釈飲料の製造方法は、下記(A)工程および下記(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)米発酵液の希釈液を準備する工程
(B)前記米発酵液および前記希釈液の少なくとも一方に、酒石酸を添加する工程
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸味が調整されるだけでなく、味のバランスが整った、官能的に優れる米発酵液の希釈飲料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例1における希釈酒サンプルの官能評価試験の結果であり、(A)は、総合的な味の評価を示すグラフであり、(B)は、味の強さの評価を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例2における希釈酒サンプルの官能評価試験の結果であり、(A)は、総合的な味の評価を示すグラフであり、(B)は、味の強さの評価を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<米発酵液の希釈飲料>
本発明の米発酵液の希釈飲料は、前述のように、米発酵液の希釈液と酒石酸とを含むことを特徴とする。本発明の米発酵液の希釈飲料は、米発酵液の希釈液と酒石酸とを含んでいればよく、その他の構成は、特に制限されない。以下、本発明の米発酵液の希釈飲料を、「米発酵希釈飲料」という。
【0012】
本発明の米発酵希釈飲料は、前記米発酵液の希釈液が酒石酸を含むことで、酸味が調整されるだけでなく、全体の味のバランス、すなわちコク味に優れる。前記コク味が優れるとは、例えば、味の濃さ、濃厚感、充実感、ボディー感に優れるこという。前記複合味は、例えば、後述するように、官能評価試験および味覚センサ等により評価できる。
【0013】
本発明において、米発酵液の希釈液とは、前記米発酵液を、非アルコールの希釈溶媒で希釈したものである。前記希釈溶媒は、特に制限されず、例えば、水等があげられ、好ましくは水である。前記米発酵液を希釈するための水は、例えば、割水ともいう。
【0014】
本発明において、前記米発酵液は、米をアルコール発酵させた液体であればよく、その種類は、特に制限されず、例えば、清酒、米焼酎、清酒を含むリキュール、米焼酎を含むリキュール、清酒を含むスピリッツ、米焼酎を含むスピリッツ、合成清酒、米を主原料とする雑酒、米を原料とするその他の醸造酒、みりん等の米醸造液があげられる。
【0015】
本発明の米発酵希釈飲料は、アルコール度数の下限が、例えば、1%であり、好ましくは3%であり、より好ましくは7%であり、また、アルコール度数の上限が、例えば、13%であり、好ましくは10%であり、より好ましくは8%であり、その範囲は、例えば、1〜13%であり、好ましくは1〜10%であり、より好ましくは1〜8%である。本発明の米発酵希釈飲料は、例えば、前記米発酵液を希釈して、前記米発酵液よりもアルコール度数を下げた飲料であり、低アルコール飲料ということもできる。アルコール度数は、飲料におけるエタノールの体積濃度を100分率(v/v%)で表示した割合であり、1%=1度と表すこともできる。
【0016】
前記アルコール度数の測定方法は、公知の方法を採用できる。前記アルコール度数の測定方法は、例えば、国税庁所定分析法である浮ひょうを用いる方法、水蒸気蒸留法、振動式密度計を用いる方法等があげられる。具体的な方法としては、振動式密度計(例えば、京都電子工業株式会社、DA-650)、ガスクロマトグラフ(例えば、Perkin Elmer社、Clarus500)を用いる方法が挙げられる。また、国税庁所定分析法と異なる測定方法でも、合理的かつ正確であると認められる方法(例えば、液体クロマトグラフ、酵素法等)を用いてもよい。
【0017】
本発明において、前記酒石酸の種類は、特に制限されず、いずれの光学異性体であってもよく、例えば、L体、D体、メソ体、あるいはそれらの混合物のいずれでもよい。本発明において、前記酒石酸は、例えば、酒石酸の塩でもよい。前記酒石酸塩の種類は、特に制限されず、例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カリウムナトリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、あるいは酒石酸アンモニウム等の有機物の塩があげられる。
【0018】
本発明の米発酵希釈飲料は、酒石酸が含有されていればよく、その濃度は、特に制限されない。前記希釈飲料における酒石酸の濃度は、その下限が、例えば、0.001w/v%であり、好ましくは0.005w/v%であり、より好ましくは0.05w/v%であり、その上限が、例えば、5w/v%であり、好ましくは1w/v%であり、より好ましくは0.5w/v%であり、その範囲は、例えば、0.001〜5w/v%であり、好ましくは0.001〜1w/v%であり、より好ましくは0.001〜0.5w/v%である。
【0019】
本発明において、前記酒石酸の濃度の測定方法は、特に制限されず、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、薄層クロマトグラフ、酵素法等の公知の方法を採用できる。前記酒石酸の濃度の測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、島津製作所社、LC20AD-CTO20AC-CDD10AVP)を用いた方法等があげられる。
【0020】
本発明の米発酵希釈飲料の酸度は、特に制限されない。前記酸度は、その下限が、例えば、0.5であり、好ましくは1であり、より好ましくは3であり、その上限が、例えば、15であり、好ましくは7であり、より好ましくは6であり、その範囲は、例えば、0.5〜15であり、好ましくは0.5〜7であり、より好ましくは0.5〜6であり、特に好ましくは4〜6である。前記酸度は、国税庁所定分析法における総酸を意味し、サンプル10mLをpH7.2に中和するのに必要な100mmol/L NaOH水溶液の滴定mL数である。前記酸度の測定方法は、公知の方法を採用でき、例えば、指示薬滴定法、電気滴定法などがあげられる。
【0021】
本発明の米発酵希釈飲料は、さらに、糖を含んでもよい。前記糖は、例えば、前記米発酵液が本来含有するものでもよいし、さらに、添加した糖であってもよい。前記糖は、特に制限されず、例えば、単糖、二糖、三糖、四糖、オリゴ糖、デンプンの分解物に含まれる糖、糖アルコール、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖等があげられる。前記単糖は、特に制限されず、例えば、グルコース、ガラクトース、キシロース、アラビノース、フルクトース等があげられ、中でもグルコースが好ましい。前記二糖は、特に制限されず、例えば、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、トレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース等があげられる。前記三糖は、特に制限されず、例えば、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノース、ニゲロトリオース等があげられる。前記四糖は、特に制限されず、例えば、マルトテトラオース、イソマルトテトラオース、ニゲロテトラオース等があげられる。
【0022】
本発明において、前記糖の濃度は、例えば、質量%濃度(w/v%)と表すこともできる。本発明の米発酵希釈飲料において、前記糖の濃度は、特に制限されず、その下限が、例えば、0.005w/v%であり、好ましくは1w/v%であり、より好ましくは3w/v%であり、その上限が、例えば、10w/v%であり、好ましくは6w/v%であり、その範囲は、例えば、0.005〜10w/v%であり、好ましくは0.005〜6w/v%であり、より好ましくは3.9〜6w/v%である。
【0023】
本発明において、前記糖の濃度の測定方法は、特に制限されず、公知の方法、例えば、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ、薄層クロマトグラフ、フェノール硫酸法等の全糖定量法、ソモギ・ネルソン等の還元糖定量法、酵素法等を採用できる。前記糖の濃度の測定方法は、例えば、液体クロマトグラフ(例えば、島津製作所社、LC20AD-CTO20AC-RID10A)を用いた方法等があげられる。
【0024】
本発明の米発酵希釈飲料において、前記酒石酸(S)と前記糖(T)との濃度比(S:T)は、特に制限されず、例えば、1:0.001〜1:10000の範囲であり、好ましくは、1:0.1〜1:10の範囲であり、より好ましくは、1:0.3〜1:3の範囲である。
【0025】
本発明の米発酵希釈飲料は、特に制限されず、例えば、低アルコールの清酒、焼酎、リキュール、スピリッツ、雑酒、その他の醸造酒、みりん等があげられる。
【0026】
本発明の米発酵希釈飲料は、さらに、添加物等を含んでもよい。前記添加物は、特に制限されず、例えば、香料、調味料、甘味料、酸味料、保存料、増粘剤、着色剤、発色剤、安定剤、漂白剤、防かび剤または防ばい剤等があげられる。
【0027】
<米発酵液の希釈飲料の製造方法>
本発明の米発酵希釈飲料の製造方法は、特に制限されず、例えば、以下に示す、本発明の製造方法により製造できる。すなわち、本発明の米発酵希釈飲料の製造方法は、下記(A)工程および下記(B)工程を含むことを特徴とする。
(A)米発酵液の希釈液を準備する工程
(B)前記米発酵液および前記希釈液の少なくとも一方に、酒石酸を添加する工程
【0028】
本発明の製造方法は、前記(A)工程および前記(B)工程を含むことを特徴とし、その他の工程や条件は、特に制限されない。本発明の製造方法によれば、味のバランスに優れた米発酵希釈飲料を製造できる。
【0029】
本発明の製造方法において、前記(A)工程および前記(B)工程の順序は、特に制限されず、例えば、前記(A)工程の後に前記(B)工程を行ってもよいし、前記(B)工程の後に前記(A)工程を行ってもよいし、両工程を同時に行ってもよい。具体例としては、例えば、前記(B)工程において、前記米発酵液に酒石酸を添加した後、前記(A)工程において、前記米発酵液を希釈することにより、前記酒石酸を含む前記米発酵液の希釈液を調製してもよいし、また、前記(A)工程において、前記米発酵液を希釈することにより、前記米発酵液の希釈液を調製した後、前記(B)工程において、前記米発酵液に前記酒石酸を添加してもよい。
【0030】
前記(A)工程において、希釈する前記米発酵液は、特に制限されず、前述の例示と同様のものが使用でき、この他に、前記米発酵液を含む米発酵物を希釈したものでもよい。例えば、清酒の製造では、米発酵物を固体と液体に分離することによって、前者が酒粕、後者が清酒となる。本発明においては、前記米発酵液として、前記固体と前記液体との混合物である前記米発酵物を希釈してもよい。この場合、前記米発酵液を希釈した後に、固体と液体とに分離してもよい。以下に示す(B)工程および(C)工程においても同様である。
【0031】
前記米発酵液のアルコール度数は、特に制限されず、下限が、例えば、1v/v%であり、好ましくは5v/v%であり、より好ましく10v/v%であり、上限が、例えば、21.9v/v%であり、好ましくは21v/v%であり、より好ましくは20v/v%であり、その範囲が、例えば、1〜20v/v%であり、好ましくは5〜20v/v%であり、より好ましくは10〜20v/v%である。また、前記米発酵液の酸度は、特に制限されず、下限が、例えば、1であり、好ましくは2であり、より好ましくは5であり、その上限が、例えば、30であり、好ましくは15であり、より好ましくは10であり、その範囲は、例えば、1〜30であり、好ましくは1〜15であり、より好ましくは1〜10である。
【0032】
前記(A)工程において、前記米発酵液の希釈液は、前記米発酵液へ、非アルコールの希釈溶媒を添加することにより調製できる。前記希釈溶媒は、例えば、前述のとおりであって、水が好ましい。
【0033】
前記(A)工程において、前記米発酵液の希釈の程度は、特に制限されず、本発明の米発酵希釈飲料の目的とするアルコール度数に応じて、適宜決定できる。すなわち、最終的に得られる前記米発酵希釈飲料におけるアルコール度数が、所望のアルコール度数となるように、前記(A)工程において、希釈することが好ましい。前記所望のアルコール度数は、特に制限されず、前述の例示が援用できる。
【0034】
本発明の製造方法において、前記(A)工程の後に前記(B)工程を行う場合は、前記米発酵液の希釈液に、酒石酸を添加することとなり、前記(B)工程の後に前記(A)工程を行う場合は、希釈前の前記米発酵液に、酒石酸を添加することとなる。
【0035】
前記(B)工程において、前記米発酵液または前記米発酵液の希釈液へ添加する酒石酸は、特に制限されず、前述の例示が援用できる。また、添加する酒石酸の形態は、特に制限されず、例えば、固体の状態で添加してもよいし、酒石酸を含む液体の状態で添加してもよい。
【0036】
前記(B)工程において、酒石酸の添加量は、特に制限されず、本発明の米発酵希釈飲料の目的とする酒石酸濃度に応じて、適宜決定できる。すなわち、最終的に得られる前記米発酵希釈飲料における酒石濃度が、所望の濃度となるように、前記(B)工程において、酒石酸を添加することが好ましい。前記所望の酒石酸濃度は、特に制限されず、前述の例示が援用できる。
【0037】
本発明の製造方法は、さらに、下記(C)工程を含んでもよい。
(C)前記米発酵液および前記希釈液の少なくとも一方に、さらに、グルコース、マルトース、イソマルトース、ニゲロース、コージビオース、イソトレハロース、ネオトレハロース、ゲンチオビオース、ラミナリビオース、マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、イソパノースおよびニゲロトリオースからなる群から選択された少なくとも1つの糖を添加する工程
【0038】
前記(C)工程において、前記米発酵液または前記米発酵液の希釈液へ添加する糖は、特に制限されず、前述の例示が援用できる。また、添加する糖の形態は、特に制限されず、例えば、固体の状態で添加してもよいし、糖を含む液体の状態で添加してもよい。
【0039】
前記(C)工程において、前記糖の添加量は、特に制限されず、本発明の米発酵希釈飲料の目的とする糖濃度に応じて、適宜決定できる。すなわち、最終的に得られる前記米発酵希釈飲料における糖濃度が、所望の濃度となるように、前記(C)工程において、前記糖を添加することが好ましい。前記所望の糖濃度は、特に制限されず、前述の例示が援用できる。
【0040】
本発明の製造方法において、前記(C)工程の順序は、特に制限されず、例えば、前記(A)工程の前後いずれでもよく、前記(B)工程の前後いずれでもよく、前記(A)工程および前記(B)工程と同時でもよい。
【実施例】
【0041】
[実施例1]
有機酸を添加した希釈酒を調製し、官能評価試験を行った。
【0042】
(1)サンプルの調製
米発酵液として、アルコール度数13.5%、グルコース濃度2.49%、酸度1.15の日本酒(商品名つき、月桂冠株式会社)を使用した。前記米発酵液1452mLに、水998mLおよびグルコース12.5gを添加して、アルコール度数8%、グルコース濃度1.84%、酸度0.7の希釈液を調製した。そして、前記希釈液に、各種有機酸を下記表1の条件で添加して、希釈酒のサンプルを調製した。なお、酸度は、サンプル10mLをpH7.2に中和するのに必要な100mmol/L NaOH水溶液の滴定mL数である。また、下記表1において、添加量は、前記希釈液300mLに対する、有機酸の添加重量(g)であり、乳酸およびリン酸は、前記希釈液300mLに対する、表1に示す濃度の有機酸水溶液の添加重量(g)である(以下、同様)。
【0043】
【表1】
【0044】
(2)官能評価試験
前記サンプルについて、総合的な味と、酸味と甘みのバランス(味の強さ)の官能評価試験を行った(n=7)。総合的な味の評価点は、最高評価点を1、最低評価点を7とし、味の強さは、最高評価点を7、最低評価点を1とし、平均値を求めた。この結果を、
図1に示す。
図1(A)は、各サンプルの総合的な味の評価点を示したグラフであり、
図1(B)は、各サンプルの味の強さの評価点を示したグラフである。
図1(A)において、縦軸は、総合的な味の評価点、
図1(B)において、縦軸は、味の強さの評価点を示し、
図1(A)および(B)において、横軸は、希釈酒のサンプルの種類を示す。
【0045】
そして、
図1(A)および(B)の結果を、さらに下記基準に基づいて評価した。これらの結果を下記表2に示す。表2において、「+」および「++」の評価を網掛けで示した。
(総合的な味の評価)
<3.5 ++
<4 +
<4.5 −
≧4.5 −−
(味の強さ)
>5 ++
>4.5 +
>4 −
≦3.5 −−
【0046】
【表2】
【0047】
図1および表2に示すように、酒石酸のみが、総合的な味および味の強さの両方において、優れた官能結果を示した。この結果から、酒石酸の添加により、酸味の調整によって味の強さ整えるだけでなく、総合的な味を向上できることがわかった。
【0048】
[実施例2]
有機酸を添加した希釈酒を調製し、味覚センサによって風味の測定を行った。
【0049】
(1)サンプルの調製
米発酵液として、アルコール度数13.50%、グルコース濃度2.49%、酸度1.15の日本酒(商品名つき、月桂冠株式会社)を使用した。前記米発酵液1778mLに、水1222mLおよびグルコース15.7gを添加して、アルコール度数8%、グルコース濃度2%、酸度0.68の希釈液を調製した。そして、前記希釈液に、各種有機酸を下記表3の条件で添加して、希釈酒のサンプルを調製した。
【0050】
【表3】
【0051】
(2)味覚センサ
前記サンプルを、味覚センサ(味覚認識装置TS5000Z、(株)インテリジェントセンサーテクノロジー社製)を用いて分析した。前記味覚センサによる分析項目を、下記表4に示す。
【0052】
【表4】
【0053】
これらの結果を下記表5に示す。表5に示すように、酒石酸は、他の有機酸に比べて、酸味A(コク味のある酸味)、酸味B(比較的単純な酸味の強さ)および渋味の値が高く、旨味、甘味およびにがり系苦味の値が低かった。これらのことから、酒石酸は、総合的な味、および酸味と甘みのバランス(味の強さ)に優れることがわかった。
【0054】
【表5】
【0055】
[実施例3]
酒石酸およびグルコースの添加量を変化させた希釈酒を調製し、官能評価試験を行った。
【0056】
(1)サンプルの調製
米発酵液として、アルコール度数13.50%、グルコース濃度2.49%、酸度1.15の日本酒(商品名つき、月桂冠株式会社)を使用した。前記米発酵液に、水、グルコースおよび酒石酸を添加して、下記表6に示す希釈酒のサンプルを調製した。なお、酸味と甘味の強度は、酸度(mL)とグルコース(%)の値から、それぞれ以下の基準で分類した。
(酸味)
2mL:弱い
4mL:中程度
6mL:強い
(甘味)
2%:弱い
3.9%:中程度
6%:強い
【0057】
【表6】
【0058】
前記サンプルA〜Iについて、実施例1と同様にして、官能評価試験により総合的な味の評価点と味の強さの評価点を決定した(n=8)。そして、酸度2mLおよびグルコール2%のサンプルGを基準とし、各サンプルについて、基準サンプルGに対する相対的な評価を行った。具体的には、総合的な味については、下記式(1)により、各サンプルと前記基準サンプルGとの差の絶対値を算出し、味の強さについては、下記式(2)により、各サンプルと前記基準サンプルGとの差の絶対値を算出した。そして、前記絶対値が大きいほど、前記基準サンプルGよりも総合的な味または味の強さが優れると判断した。
総合的な味の相対的評価=|各サンプルの評価点−基準サンプルGの評価点|
・・・(1)
味の強さの相対的評価=|各サンプルの評価点−基準サンプルGの評価点|
・・・(2)
【0059】
これらの結果を、
図2に示す。
図2(A)は、各サンプルの総合的な味の相対的評価を示したグラフであり、
図2(B)は、各サンプルの味の強さの相対的評価を示したグラフである。
図2(A)において、縦軸は、総合的な味の相対的評価であって、前記基準サンプルGとの差の絶対値を示し、
図2(B)において、縦軸は、味の強さの相対的評価であって、前記基準サンプルとの差の絶対値を示す。
図2(A)および(B)において、横軸は、サンプル名および酸味/甘味の種類を示す。
図2(A)および(B)に示すように、いずれのサンプルも、基準サンプルGと同等またはそれ以上の相対的評価が得られた。
【0060】
また、
図2(A)および(B)の結果を、さらに下記基準に基づいて評価した。これらの結果を下記表7および表8に示す。
(総合的な味の評価)
=0 +/―
>0 +
>1 ++
>2 +++
(味の強さ)
=0 +/―
>0 +
>1 ++
>2 +++
【0061】
下記表7および8において、「+++」および「++」の評価を二重線で囲み、且つ、総合的な味および味の強さの両方が、「+++」および「++」のものを網掛けで示した。
【0062】
【表7】
【0063】
【表8】
【0064】
前記表7に示すように、総合的な味は、酸度4〜6およびグルコース濃度3.9〜6%が好ましく、前記表8に示すように、味の強さは、酸度4〜6およびグルコース濃度2〜6が好ましかった。中でも、総合的な味および味の強さの両者において、酸度4〜6且つグルコース濃度3.9〜6%であるサンプルB(酸度4、グルコース6%)、サンプルC(酸度6、グルコース6%)、サンプルF(酸度4、グルコース3.9%)が、優れており、特に、サンプルCが優れた結果を示した。このことから、酒石酸を使用する際に、酒石酸によって調整する酸度とグルコース濃度とを、前記のような割合に設定することで、より一層、希釈酒の味を優れたものに調整できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上のように、本発明によれば、酸味が調整されるだけでなく、味のバランスが整った、官能的に優れる米発酵液の希釈飲料を提供できる。