特許第6130172号(P6130172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社NBCメッシュテックの特許一覧

特許6130172抗ウイルス性を有する部材およびその製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130172
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】抗ウイルス性を有する部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 9/08 20060101AFI20170508BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20170508BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20170508BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20170508BHJP
   C01G 3/04 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C25D9/08
   A01N59/20 Z
   A61L9/14
   B01J35/02 J
   C01G3/04
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-46007(P2013-46007)
(22)【出願日】2013年3月7日
(65)【公開番号】特開2014-173120(P2014-173120A)
(43)【公開日】2014年9月22日
【審査請求日】2016年3月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100067541
【弁理士】
【氏名又は名称】岸田 正行
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【弁理士】
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100180699
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 渓
(72)【発明者】
【氏名】福井陽子
(72)【発明者】
【氏名】藤森良枝
(72)【発明者】
【氏名】直原洋平
(72)【発明者】
【氏名】長尾朋和
(72)【発明者】
【氏名】中山鶴雄
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−257370(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/026730(WO,A1)
【文献】 特開2005−060794(JP,A)
【文献】 特開2005−163091(JP,A)
【文献】 特開平11−209895(JP,A)
【文献】 特開2001−026896(JP,A)
【文献】 特開平10−183392(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035343(WO,A1)
【文献】 特表2008−534708(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/073738(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の銅めっきにより、部材の表面に銅からなる第1皮膜を形成し、
前記第1の銅めっきとは異なる第2の銅めっきにより、前記第1皮膜の表面に銅からなる第2皮膜を形成して、前記第1皮膜と前記第2皮膜を含む銅の皮膜形成対象金属部を前記部材の表面に形成し、
前記皮膜形成対象金属部を有する前記部材を、ヨウ素イオンを含む電解液に浸漬し、前記皮膜形成対象金属部の表面に、電気化学的にCuIを析出させて抗ウイルス性皮膜を形成することを特徴とする抗ウイルス性を有する部材の製造方法。
【請求項2】
前記第1の銅めっきが、無電解銅めっきであり、
前記第2の銅めっきが、電解銅めっきであることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法。
【請求項3】
前記第1の銅めっきが、ストライク銅めっきであり、
前記第2の銅めっきが、電解銅めっきであることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法。
【請求項4】
記抗ウイルス性皮膜の表面に光触媒固定ることを含む請求項1から3のいずれか一つに記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の種類を問わず、基材表面に強固に抗ウイルス性皮膜を形成させた抗ウイルス性を有する部材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型インフルエンザやノロウイルスなどウイルスによる感染症が話題となっている。特に交通の発達などにより、感染の拡大スピードも昔に比べ非常に早くなっているため、パンデミックに対する危機意識が非常に高くなっている。
【0003】
そのような中で、健常者がウイルス感染者の飛沫などが付着した物を触ったり、ウイルス感染者のマスクを廃棄したりする際に、手にウイルスが付着することで感染が拡大していく「二次感染」が特に問題となっている。
【0004】
このような問題に対応するために、ウイルス不活化剤を基剤に固定したウイルス不活化シートや(特許文献1)、ウイルス感染者からの飛沫が一番付着しやすいマスクの最表面にウイルス不活化剤を固定したウイルス不活化マスク(特許文献2)などが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2010/073738号公報
【特許文献2】WO2011/016462号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の場合、基材が無機の場合、グラフト重合をするための官能基を基材表面に導入する必要がある。さらに抗ウイルス性を有する無機微粒子はシランモノマーのようなバインダーが必須となる。また特許文献2の場合、基材が有機物であることが必須となり、無機系の基材に転用できない。
【0007】
そこで本発明は、バインダーなどを使用せず、基材の種類を問わずにより優れた抗ウイルス性を有する部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の発明は、抗ウイルス性皮膜を表面に形成するための皮膜形成対象金属部を少なくとも表面に有する部材に対して、電気化学的に、前記皮膜形成対象金属部に抗ウイルス性を有する一価の銅化合物を析出させることを特徴とする抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0009】
第2の発明は、前記一価の銅化合物がCuIであることを特徴とする第1の発明に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0010】
第3の発明は、前記皮膜形成対象金属部が銅であり、前記部材をヨウ素イオンを含む電解液に浸漬し、正電位を印加して前記皮膜形成対象金属部の銅とヨウ素イオンとを反応させることにより前記皮膜形成対象金属部にCuIを析出させて前記抗ウイルス性皮膜を形成することを特徴とする第2の発明に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0011】
第4の発明は、銅めっきにより銅の前記皮膜形成対象金属部を前記部材に形成し、前記皮膜形成対象金属部が形成された前記部材を、ヨウ素イオンを含む電解液に浸漬し、電気化学的にCuIを析出させて前記抗ウイルス性皮膜を形成することを特徴とする第3の発明に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0012】
第5の発明は、前記一価の銅化合物がCuOであることを特徴とする第1の発明に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0013】
第6の発明は、前記皮膜形成対象金属部を有する部材を銅塩と有機酸を含むpHが8以上13以下のアルカリ性の水溶液に浸漬し、負電位を印加してCuOを析出させて前記抗ウイルス性皮膜を形成することを特徴とする第5の発明に記載の抗ウイルス性を有する部材の製造方法である。
【0014】
第7の発明は、第1から第6の発明のいずれかに記載の製造方法により得られた抗ウイルス性を有する部材の前記抗ウイルス性皮膜に光触媒が固定されていることを特徴とする抗ウイルス性を有する部材である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、バインダーなどを用いて物理的に基材に固定するのではなく、電気化学的に基材表面に抗ウイルス性皮膜を形成するので、基材の種類によらず皮膜と基材とが非常に密着性の高い抗ウイルス性を有する部材を提供できる。また、基材を電解液に浸漬するという製造方法をとることで、形状が複雑なものでも簡単にバラつきなく抗ウイルス性皮膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、抗ウイルス性を有する部材の実施形態について詳述する。本実施形態の抗ウイルス性を有する部材は、基材の表面に抗ウイルス性を有する一価の銅化合物を含む皮膜、すなわち、抗ウイルス性皮膜を形成したものである。
【0017】
前記一価の銅化合物のウイルスの不活化機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物が、空気中あるいは飛沫中の水分と接触すると、その一部が酸化還元反応したり、活性種を発生させるため、このことにより、ウイルスに何らかのダメージを与え、ウイルスを不活化させるものと考えられる。
【0018】
具体的な一価の銅化合物については、ヨウ化物、亜酸化物またはそれらの混合物が挙げられ、より具体的には、CuI、CuOが挙げられる。
【0019】
本実施形態の抗ウイルス性を有する部材が不活性化できるウイルスについては特に限定されず、ゲノムの種類や、エンベロープの有無等に係ることなく、様々なウイルスを不活化することができる。例えば、ライノウイルス、ポリオウイルス、ロタウイルス、口蹄疫ウイルス、ノロウイルス、エンテロウイルス、ヘパトウイルス、アストロウイルス、サポウイルス、E型肝炎ウイルス、A型、B型、C型インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ムンプスウイルス(おたふくかぜ)、麻疹ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、B型、C型肝炎ウイルス、東部および西部馬脳炎ウイルス、オニョンニョンウイルス、風疹ウイルス、ラッサウイルス、フニンウイルス、マチュポウイルス、グアナリトウイルス、サビアウイルス、クリミアコンゴ出血熱ウイルス、スナバエ熱ウイルス、ハンタウイルス、シンノンブレウイルス、狂犬病ウイルス、エボラウイルス、マーブルグウイルス、コウモリリッサウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス、SARSコロナウイルス、ヒトポルボウイルス、ポリオーマウイルス、ヒトパピローマウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、天然痘ウイルス、サル痘ウイルス、牛痘ウイルス、モラシポックスウイルス、パラポックスウイルスなどを挙げることができる。
【0020】
本実施形態の抗ウイルス性を有する部材で利用できる基材については、金属材料、無機材料、有機材料などどのような材料でも良い。ただし、導電性を有しない材料を、抗ウイルス性を有する部材の基材とする場合には、表面に電気化学的に一価の銅化合物を析出することができるように、後述のように表面に金属の皮膜あるいは層を形成し、その上に一価の銅化合物を析出させればよい。なお本実施形態において、部材における一価の銅化合物を析出させる部分が、皮膜形成対象金属部である。すなわち、電気化学的に基材の表面に一価の銅化合物を析出させる際に、基材の表面にあって電圧を印加する金属の部分が抗ウイルス性皮膜を形成するための皮膜形成対象金属部となる。
【0021】
基材の材料について具体的には、有機系材料の場合、合成樹脂や天然樹脂が用いられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFEなどの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ケイ素樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、シリコーン樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などの天然樹脂などが挙げられる。また、無機系材料の場合、アルミナ、シリカ、石膏、カーボン、ガラス、セメント、レンガなどが挙げられ、金属材料としてはアルミニウムおよびその合金、銅およびその合金、亜鉛およびその合金、鉄およびその合金やステンレスなどの金属材料などを用いる事ができる。特に基材表面が少なくとも銅からなるものは、一価の銅化合物を容易に析出できるため好適である。
【0022】
また、本実施形態の抗ウイルス性を有する部材の基材の形状についても特に限定されることはなく、フィルムやシート、織編物、不織布、繊維、その他、成形されたものであってもよい。
【0023】
本実施形態で用いられる部材の基材として、金属以外の有機材料、無機材料を用いる場合において、皮膜形成対象金属部として金属皮膜を形成する方法としては、従来の公知の方法、例えば、無電解めっきや電解めっき、或いは、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなどの物理的な方法を採用できる。金属皮膜としては、銅、ニッケル、コバルト、鉄などでよい。
【0024】
次に、本実施形態で形成する一価の銅化合物の抗ウイルス性を有する皮膜の電気化学的な析出方法について詳述する。本実施形態で用いられる一価の銅化合物としては、CuIとCuOが好ましい。
【0025】
CuIの皮膜を形成する場合は、皮膜を形成する部分に銅が存在しない部材については、無電解銅めっきや電気めっき、或いはスパッタリングやイオンプレーティングなどの方法により銅の皮膜(皮膜形成対象金属部)を形成した後、ヨウ素イオンを含む水溶液中で、対極にカーボンやステンレスを用い、正電位を印加して皮膜形成対象金属部である銅の表面をヨウ素イオンと電気化学的に反応させてCuIの皮膜を形成すればよい。また、基材に銅材を用いる場合は、銅の皮膜形成はなくてもよい。ヨウ素イオンを含む水溶液としては主にヨウ化カリウム水溶液が用いられ、その濃度は10g/L以上20g/L以下であれば良く、液温は10℃以上30℃以下であればよい。正電位は2極法や参照極を用いた3極法が用いられ、電流密度としては0.01A/dm以上0.3A/dm以下であれば良い。
【0026】
また、CuOの皮膜を形成する場合は、硫酸銅やピロ燐酸銅、塩化銅などの銅塩と、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸などの脂肪族カルボン酸等の有機酸と、を含む水溶液が用いられる。銅塩の水溶液中の濃度は0.2mol/L以上1.0mol/L以下で、脂肪族カルボン酸の水溶液中の濃度は2mol/L以上10mol/L以下で、水溶液のpHは8以上13以下で、液温は20℃以上65℃以下の範囲であればよい。具体的には少なくとも表面が金属からなる部材(金属の部分が皮膜形成対象金属部)を、銅塩、脂肪族カルボン酸を含む上述の条件を満たす水溶液に浸漬し、対極にカーボンやステンレスを用いて、少なくとも表面が金属からなる部材に負の電位を印加することで、CuOを析出させ、密着性と耐久性に優れた抗ウイルス性を有するCuOの皮膜を形成すればよい。また、負電位は2極法や参照電極を用いた3極法が用いられる。なお、非金属の部材など、表面に金属の部分が存在しない部材にCuOの抗ウイルス皮膜を形成する場合には、銅の皮膜の形成方法として上述したような方法で皮膜形成対象金属部としての任意の金属皮膜を形成した上で、CuOを析出させればよい。
【0027】
本発明の抗ウイルス性を有する部材の具体的な応用例としては、マスク、キャップ、シューズカバー、エアコン用フィルター、空気清浄機用フィルター、掃除機用フィルター、換気扇用フィルター、車両用フィルター、空調用フィルター、人工呼吸器用フィルター、人工鼻、医療用ドレープ(医療用覆布、医療用シート)、インサイズドレープ、サージカルテープ、ガーゼ、壁紙、衣類、寝具、網戸用ネット、鶏舎用ネット、蚊屋などのネット類、などの繊維構造体に加え、壁紙や窓、ブラインド、病院内などのビル用内装材、電車や自動車などの内装材、車両用シート、ブラインド、椅子、ソファー、ウイルスを扱う設備、ドア、天井板、床板、窓などの建装材など、シート状、フィルム状の製品にも適用出来る。
【0028】
特に病院や介護施設など、集団感染が懸念されるような状況では、ドアノブや手すり、ベッドや医療用器具についても抗ウイルス性を付与できるので有益である。
【0029】
さらに本発明の抗ウイルス性を有する部材には、所望される機能を付与するために任意に用いられる機能性材料が抗ウイルス性を有する皮膜表面に固定または保持されるようにしてもよい。当該機能性材料としては、他の抗ウイルス組成物、抗菌組成物、防黴組成物、抗アレルゲン組成物、触媒、光触媒、反射防止材料、遮熱特性を持つ材料などを挙げることができる。特に光触媒を表面に固定することにより、冬場など乾燥している時でも、光触媒の有機物分解効果により、ウイルス不活化能が向上することが期待できる。さらにウイルスを不活化することで二価に酸化されたり、高温多湿環境下などで表面の一価の銅化合物が酸化してしまった場合でも、光触媒が持つ還元作用により、抗ウイルス能の高い一価の銅化合物に還元されるため、長期に安定的に抗ウイルス効果を発揮することができる。またこの時の光触媒の固定量は、特に限定するものではなく、また固定する領域も、島状、点状、縞状に固定するなど、全面を覆わなくても充分効果を発揮することができる。
【0030】
以上の本実施形態によれば、基材の材料の種類によらず抗ウイルス性を付与することが可能であり、様々な材料の抗ウイルス性を有する部材を提供することができる。また、電気化学的にCuIやCuOを析出させているので、従来の微粒子などを固定する場合と比較し、膜の密着性が高い上、バインダーも不要であるので皮膜中のCuIやCuO濃度が非常に高いため、薄膜でも充分な抗ウイルス効果を発揮できる。
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
<抗ウイルス性部材の作製>
(実施例1)
SUS304のシートを公知の浸漬脱脂および電解脱脂を行い、次に、5%塩酸水溶液に浸漬して活性化処理を施した後、水洗後、シアン化銅めっき液にてストライク銅めっきを実施した。水洗後、ピロ燐酸銅めっき液にて電流密度4A/dm2の条件で銅の皮膜を10μm形成した。水洗後、ヨウ化カリウム15g/L、液温25℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボンを用いて、0.1A/dm2の条件で正電位を印加し、銅めっき表面に抗ウイルス性を有するCuIの薄膜を形成した。
【0033】
(実施例2)
ガラス繊維で平織された織物を1.0質量%のシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、KBM903)を含んだメタノールに浸漬し、その後、100℃で乾燥することでガラス繊維織物の表面にアミノ基を導入した。次に、アミノ基を導入したガラス繊維織物を1.0質量%の塩化パラジウム水溶液に浸漬し、その後、25℃に加温した無電解銅めっき液(メルテックス(株)製、CU-390)に浸漬し、1.0μmの銅めっきを施した。次に、ピロ燐酸銅めっき液にて電流密度4A/dm2の条件で銅の皮膜を10μm形成して水洗後、ヨウ化カリウム15g/L、液温25℃の水溶液に浸漬し、対極にカーボンを用いて、0.1A/dm2の条件で正電位を印加し、銅めっき表面に抗ウイルス性を有するCuIの薄膜を形成した。
【0034】
(実施例3)
実施例1で用いたSUS304のシートを実施例1と同様の条件で前処理とストライク銅めっきを施し、次に、光沢ニッケルめっき液にて5Vの直流電圧を印加して5μmのニッケルめっき皮膜を形成した。その後水洗し、硫酸銅0.4mol/Lと乳酸3.0mol/Lを含むpH10で60℃に加温した水溶液に浸漬し、対極に白金を被覆したチタンメッシュ、参照極に銀/塩化銀電極を用い、電源としてポテンショスタットを用いて、3極方式にて-0.45Vの負電位を印加することで10μmの抗ウイルス性を有するCu2Oの皮膜を形成した。
【0035】
(実施例4)
市販の光触媒微粒子(エコデバイス株式会社製、BA−PW25)をメタノールに5.0重量%分散してpHを1.5に塩酸で調製した後、ビーズミルにより平均粒子径18nmに粉砕分散した。得られた光触媒微粒子分散液の固形分をメタノールで0.05質量%に希釈し、希釈した光触媒分散液を実施例1、3で得られた抗ウイルス性を有する部材の表面に塗布し、その後、120℃で20分間乾燥することで光触媒ナノ粒子が点在してなる抗ウイルス性部材を得た。尚、実施例1、3で得られた部材から作製した抗ウイルス部材は4-1、4-3とした。
【0036】
(比較例1)
実施例1で用いたSUS304のシートをそのまま用いて抗ウイルス性を評価した。
【0037】
(比較例2)
実施例2で用いたガラス繊維性織物をそのまま用いて抗ウイルス性を評価した。
【0038】
(比較例3)
市販の酸化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製)を乾式粉砕により、平均粒子径450nmの微粒子を作成した。エタノール中に、酸化銅(I)微粒子が2質量%、バインダーとしてテトラメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−04)1質量%となるように調整を行った。その後、ホモジナイザーで5分間プレ分散を行いスラリーを作製した。実施例1で用いたSUS304のシートに、作製したスラリーをスプレーガンを用いて塗布した後、120℃で10分間乾燥することで、抗ウイルス性を有する部材を作成した。
【0039】
<抗ウイルス性の評価>
実施例1から3、比較例1、2、3の各サンプルの抗ウイルス性はウイルスを高精度で検出可能なプラーク法での感染価測定で行った。エンベロープウイルスとしてインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を、非エンベロープウイルスとしてノロウイルスの代替として一般的に使用されているネコカリシウイルス(feline calicivirus(F9株))を用いて実施した。用いた対象ウイルスは、インフルエンザウイルス((influenza A/北九州/159/93(H3N2))には、MDCK細胞を用いて培養し、ネコカリシウイルス(feline calicivirus(F9株))には、CRFK細胞を用いて培養した。各実施例および比較例のシート状サンプルは、4cm×4cmのサンプルをプラスチックシャーレにいれ、ウイルス液0.1 mLを滴下し、室温で60分間作用させた。このときサンプルの上面をPETフィルム(4cm×4cm)で覆うことで、ウイルス液とサンプルの接触面積を一定にした。また、各実施例および比較例の織物状サンプルは、4cm×4cmのサンプルを滅菌済みのバイアル瓶に入れ、ウイルス液0.1 mlを滴下し、室温で60分間作用させた。60分後、SCDLP培地を1900μl添加し、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。その後、各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞又は、CRFK細胞にサンプル液100μLを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1mL,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1の結果より、実施例1〜3のすべてのサンプルにおいて、エンベロープをもつインフルエンザウイルスに対しても、エンベローブを持たない強いウイルスであるネコカリシウイルスに対しても60分という短時間で99.999%不活化という十分なウイルス不活化効果を示した。なお、比較例3においても高い抗ウイルス効果を示した。
【0042】
次に、実施例4及び、実施例1、3の抗ウイルス部材を温度50℃、湿度90%の環境に1ヶ月間静置した後の抗ウイルス性評価を行った。試験方法は表1に結果を示した評価試験と同様の方法で行った。その結果を表2に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
表2の結果より、抗ウイルス性皮膜としてCuOを析出させた実施例3は、CuOが酸化されやすい物質であるため抗ウイルス性が落ちたのに対し、実施例4―3は、酸化されてCuOになっても光触媒の還元作用によりCuOになるため、抗ウイルス性が維持されていた。また、CuIを析出させた実施例4―1、実施例1についてはCuIが安定な物質であるため、高温多湿環境下でも抗ウイルス性が維持されていることが確認できた。
【0045】
次に、実施例3及び比較例3の部材についてJIS K 5600-5-4に基づき、鉛筆硬度試験を行った。その結果を表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
表3の結果より、基材表面に電気化学的に抗ウイルス性皮膜を形成した実施例3は、バインダーで表面に抗ウイルス性微粒子を固定させた比較例3よりも膜のダメージを受けにくく、基材と抗ウイルス性皮膜との密着強度が強いことがわかった。
【0048】
次に、実施例3及び比較例3の部材をJIS H 8503耐摩耗性試験に基づき、研磨紙CC#600、試験荷重1.0kgf、60DS/minのもとで50DS試験を行った。DSとはダブルストロークの略で摩擦1往復を1DSという。試験後のサンプルの抗ウイルス性評価を行った。試験方法は、表1に結果を示した評価試験と同様の方法で行った。その結果を表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
表4の結果より、基材と抗ウイルス性皮膜との密着強度が弱かった比較例3では、表面を摩耗することにより、抗ウイルス性微粒子が脱離し、その結果、抗ウイルス性能が低下した。これに対し、基材と抗ウイルス性皮膜との密着強度が高かった実施例3では、表面を摩耗しても、抗ウイルス性皮膜が脱離しにくく、その結果、磨耗試験後も高い抗ウイルス性を維持していることが確認された。