(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
砒酸、クロム酸、ほう酸などの無機性陰イオンは人体に対して有害であり、酸化された金属酸化物の陰イオンは、単独でも毒性が強く、除去する技術が必要とされている。中でも砒酸は、銀鉱石などの鉱脈がある土地の水から見られる有毒化合物であり、場所によってはトンネル工事などにより地下水から湧水となって出てくるために、砒酸(砒素)を除去する対策が必要となる。
【0003】
従来、砒素などの有毒物質を含有する水溶液にアルカリ剤を添加して有毒物質を水酸化物として沈殿・除去させる方法が報告されている。例えば、特許文献1には、砒酸イオンなどの有害な無機性イオンを含有する水に、少なくともセリウムの塩を主成分として含有する希土類元素の塩溶液及び水酸化マグネシュウムを添加し、PH8から11にて沈澱を生成させ、固液分離することにより、砒素イオンを除去することが記載されている。しかし、このような方法では、ある程度有毒物質の濃度が高い場合は有効であるが、低濃度の場合は凝集物が生成し難いため有毒物質が沈殿せずに流出してしまうとともに排水がアルカリ性であり、もう一度中和する必要があった。
【0004】
特許文献2には、有機高分子樹脂と、ゼオライト、複合金属酸化物などの無機イオン吸着体を含んでなるフィブリルが三次元網目構造を形成してなり、外表面に開口する連通孔を有する多孔性成形体により砒素を吸着して除去することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、陰イオン吸着ゲルとして、架橋による三次元網目構造を有するとともに、網目を形成する主鎖が、末端に正の電荷を有するイオン性の官能基をもつ側鎖を派生した構造を有する有機高分子ゲルが記載されている。特許文献4には、N−カルボキシメチル化ポリアミン系高分子をビスコースに混合し、湿式紡糸して得られたN−カルボキシメチル化ポリアミン系高分子を含有したセルロース繊維を砒素などの重金属の吸着材として用いることが記載されている。特許文献5には、アミノ基、或いは環状イミノ基、及びカルボキシル基を分子内に有する水溶性の両性イオン性高分子が繊維母材に混合された繊維状吸着材を溶液中の極性化合物や金属の吸着除去に用いることが記載されている。
【0006】
一方、生活、畜産、水産、農業、流通などの分野で排出される排水は、大型処理施設で処理して放流される。しかしながら、排水中には除去し切れなかった希薄なリン酸根が含まれ、放流先で藻類の異常増殖を引き起こし、それに伴う環境悪化をもたらしている。特許文献6には、砒酸イオンなどの酸素酸イオンを吸着するカチオン性基を有し、3次元網目構造を有する高分子物からなるアニオン収着部と、このアニオン収着部を支持基材に固定支持させている水処理に使用されるリン酸イオンなどの酸素酸イオンを収着する酸素酸イオン収着材が記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、再生セルロース成形体において、水に対して半透膜性を有するセルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合、具体的には共有結合(配位)させ、陰イオンとの反応部位(結合部位)となるカチオン部位を再生セルロース成形体に付与することで、水中の砒素イオンなどの陰イオンに対する吸着性が格段に向上することを見出し本発明に至った。本発明において、セルロースに第4級アンモニウムイオンが化学結合するということは、当然ながら、セルロースに第4級アンモニウムイオンが直接化学結合していることを意味する。すなわち、本発明において、第4級アンモニウムイオンは、再生セルロース成形体の表面にも内部にも結合している。本発明では、セルロース素材の中でもより非晶質を多く含む再生セルロースを基材として使用しているため、セルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合することにより、セルロース成形体の表面に加えてセルロース成形体の内部にも第4級アンモニウムイオンが結合することになり、セルロースの半透膜効果により処理液中のイオンが成形体内部まで入り、イオン交換能が向上し、水中の砒素を含むイオンなどの陰イオンに対する吸着性が格段に向上すると推測される。本発明の陰イオン吸着材は、再生セルロース成形体であるため、処理液との接触面積がより広く、水に対して半透膜性を有するセルロースにより処理液中のイオンが成形体内部まで入る。加えて、上述したとおり、陰イオンとの反応部位となる第4級アンモニウムイオンに由来するカチオン部位が成形体内部にも存在するため、陰イオンの吸着が効率的に行われ、有害陰イオンを高い効率で除去し、或いは、有用な陰イオンを高い効率で回収することができる。本発明の陰イオン吸着材は、飲料水、工業用水、工業用排水、汚染土壌の溶出液などの液体の被処理対象と接触し、これらの水中の砒素、リン酸イオンなどの陰イオンを吸着保持して、液体の被処理対象から砒素などの有害陰イオンを除去し、或いは、リン酸イオンなどの有用な陰イオンを回収することができる。また、再生セルロース成形体は生分解性であるため、排水中の富栄養化の元となるリン酸などを除去回収した後、それを農地に還元することができる。更に使用後は、再生セルロース成形体自体を酵素分解や灰化させて吸着固定化された金属種を回収することもできる。本発明の陰イオン吸着材は、水処理材、好ましくは砒素吸着用水処理材として用いることができる。
【0017】
本発明において、成形体とは、繊維、スポンジなどの形態を示すものをいう。特に、繊維であることが好ましい。再生セルロース成形体が繊維状であると、濡れ性が高いため、液体の被処理対象から陰イオンを吸着して除去する際に取扱いが簡便である。また、繊維状であると、処理対象との接触面積も大きく、陰イオンの吸着効率が高くなる。
【0018】
本発明において、再生セルロース成形体は、ビスコース法、銅アンモニア法、溶剤紡糸法などのいずれかの方法で、セルロースを凝固再生させて得ることができる。セルロース内部(成形体内部)に第4級アンモニウムイオンを化学結合させやすい観点から、セルロースは半透膜性が高い非晶質構造を採ることが好ましい。セルロースの非晶質性を示す指標として、一次膨潤度が挙げられる。一次膨潤度は、70%以上であることが好ましく、80〜120%であることがより好ましい。特に、ビスコース法又は銅アンモニア法によって得られるレーヨンは、一次膨潤度が上記範囲を満たし、好ましい。なお、一次膨潤度は、湿式紡糸法などの湿式で製造した再生セルロース成形体において、乾燥工程を経ない状態で測定した膨潤度をいい、乾燥工程を経たのちに測定される二次膨潤度とは区別される。この膨潤度は、JIS L 1015 8.26(水膨潤度)に準じて求められる。
【0019】
上記陰イオン吸着材(陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体)は、特に限定されないが、窒素含有率が、0.005〜0.1質量%であることが好ましく、0.02〜0.08質量%であることがより好ましい。上記陰イオン吸着材(陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体)における窒素含有率は、第4級アンモニウムイオンを構成する窒素成分が陰イオン吸着材(陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体)に占める割合を示すものである。窒素含有率が0.005質量%未満であると、陰イオン吸着性が低くなりすぎる恐れがあり、0.1質量%を超えると、成形体の脆化の恐れがある。陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体が繊維の場合、窒素含有率は、以下のようにして測定することができる。なお、上記陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体がスポンジの場合、原綿サンプル0.5gの代わりに、スポンジサンプル0.5gを用いる以外は、繊維の場合と同様にして、窒素含有率を測定することができる。
【0020】
<成形体(繊維の場合)の窒素含有率の測定>
(1)原綿サンプル(採集試料)を0.5g(絶乾量)精秤し、100mLのケルダールフラスコに入れ、硫酸8mL、過塩素酸1mLを加え電熱器上で加熱し、綿を分解する。
(2)4N−水酸化ナトリウムで中和する。
(3)これを蒸留フラスコ500mLに入れ、純水を加え350mLにし、酸化マグネシウム0.25gを加え、アンモニア測定用蒸留装置(JIS)により蒸留する。
(4)蒸留液を純水で200mLとしたものを検水とし、検水を適量(検水分取量)とり、EDTA1mL、ナトリウムフェノラート10mL及び次亜塩素酸ナトリウム5mLを加え撹拌し、波長630nmの吸光度を吸光光度計(U−3900型分光光度計;株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を用いて測定する。
(4)別に同じ試薬のなど容量を用い、同様の方法により空試験を行い必要な補正をする。
(5)計算式は下記のとおりである。
窒素含有率(質量%)=(A−B)×0.762×10
-3×(200/V)×(100/S)
A:検量線から求めたNH
4(mg)
B:空試験値(mg)
V:検水の分取量(mL)
S:採取試料の絶乾量(g)
【0021】
上記陰イオン吸着材(陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体)は、特に限定されないが、第4級アンモニウムイオンを窒素換算して0.01〜0.1質量%含むことが好ましく、0.05〜0.08質量%含むことがより好ましい。窒素換算した第4級アンモニウムイオンの含有率が0.01質量%未満であると、陰イオン吸着性が低くなりすぎる恐れがあり、0.1質量%を超えると、成形体の脆化の恐れがある。
【0022】
上記陰イオン吸着材(陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体)は、特に限定されないが、カチオン化度が0.003〜0.1mmol/gであることが好ましく、より好ましくは0.01〜0.05mmol/gである。カチオン化度が0.003mmol/g未満であると、陰イオン吸着性が低くなりすぎる恐れがあり、0.1mmol/gを超えると、成形体の脆化の恐れがある。本発明において、上記陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体が繊維の場合、カチオン化度は、以下のように測定する。なお、上記陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体がスポンジの場合、原綿サンプル1.0gの代わりに、スポンジサンプル1.0gを用いる以外は、繊維の場合と同様にして、カチオン化度を測定することができる。
【0023】
<成形体(繊維の場合)のカチオン化度の測定>
(1)原綿サンプルを1.0g精秤し、200mLのメスフラスコに入れ、水40mL及び緩衝液(酢酸ナトリウム25gと酢酸22mLに純水を加え100mLとしたもの)8mLを加える。
(2)フラスコを振り混ぜながら、M/20(0.05M)フェリシアン化カリウム50mLをピペットで加えた後、水を加えて200mLとし1時間放置する。
(3)これを乾燥したガラスフィルターを用いて吸引ろ過し最初のろ液約20mLを捨てて、次のろ液100mLを正確にはかり、10%ヨウ化カリウム溶液10mL、10%硫酸亜鉛を10mL加え、遊離したヨウ素を指示薬としてデンプン溶液を用いN/10(0.1N)チオ硫酸ナトリウム(Na
2S
2O
3)溶液で測定する。
(4)別に同じ試薬のなど容量を用い、同様の方法により空試験を行い必要な補正をする。
(5)計算式は下記のとおりである。下記計算式において、カチオン化活性剤有効成分が、カチオン化度(mmol/g)になる。
【数1】
【0024】
上記第4級アンモニウムイオンは、特に限定されないが、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子などの第4級アンモニウム塩由来であることが好ましく、より好ましくは、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体由来である。上記第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、例えば、N−N’−ジ−(3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロピル)−N−N’−テトラメチル−n−ヘキサン−1,6−ジアンモニウムジクロライド(テトラメチルヘキサメチレンジアミン4級塩ともいう。)などが挙げられる。具体的には、カチオノンKCN(一方社油脂工業製商品名)などの市販のものを用いることができる。
【0025】
本発明の陰イオン吸着材は、ビスコース成形体を第4級アンモニウム塩で処理することで、セルロースと第4級アンモニウム塩を反応させて、セルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合させることで製造することができる。例えば、繊維状の再生セルロース成形体で構成された陰イオン吸着材(以下、陰イオン吸着性レーヨン繊維ともいう。)は、原料ビスコースを湿式紡糸して得られたビスコースレーヨン糸条を第4級アンモニウム塩で処理することで製造することができる。
【0026】
原料ビスコースとしては、セルロースを7〜10質量%、水酸化ナトリウムを5〜8質量%、二硫化炭素を2〜3.5質量%含むビスコース原液を調製して用いるとよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)などの添加剤を使用することもできる。原料ビスコースの温度は18〜23℃に保持するのが好ましい。原料ビスコースをそのまま紡糸用ビスコース液として用いる。
【0027】
紡糸浴(ミューラー浴)としては、硫酸を95〜130g/L、硫酸亜鉛を10〜17g/L、硫酸ナトリウム(芒硝)を290〜370g/L含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、100〜120g/Lである。
【0028】
上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、例えば通常の円形ノズルを用いて製造することができる。紡糸ノズルとしては、目的とする生産量にもよるが、直径0.05〜0.12mmのホールを1000〜20000個有する円形ノズルを用いることが好ましい。上記紡糸ノズルを用い、紡糸用ビスコース液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、凝固再生させる。紡糸速度は30〜80m/分の範囲が好ましい。また、延伸率は39〜55%が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39〜1.55倍となる。
【0029】
得られたレーヨン繊維糸条を所定の長さにカットし、精練処理を行う。精練工程は、通常の方法で、熱水処理、水硫化処理、漂白、酸洗い及び油剤付与の順で行うとよい。その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引などの方法で余分な油剤、水分を繊維から除去し、乾燥処理を施す。
【0030】
また、再生セルロース成形体としてビスコーススポンジを用いることも可能である。ビスコーススポンジの製造方法の一例としては、汎用的なビスコース原液100質量部に対し、補強繊維としてレーヨンのカット綿(例えば、ダイワボウレーヨン社製「SB」、繊度3.3dtex、繊維長10mm)を6.5質量部、結晶芒硝を6.5質量部入れ、混練機を使用して十分に混練を行い、得られた混合物を適当に孔の開いたステンレス製容器に入れ、90℃以上の温水に入れ5時間放置する。このようにして得られたビスコーススポンジは、ビスコースに含まれる副生成物も含有しているため、脱硫や晒を行い、副生性物が除去される。
【0031】
次に、繊維状又はスポンジ状の再生セルロース成形体を第4級アンモニウム塩で処理し、セルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合、具体的には共有結合させる。繊維状の再生セルロース成形体の場合、第4級アンモニウム塩による処理は、精練工程中で行ってもよく、精練工程後に後加工として行ってもよい。例えば、精練処理時に、レーヨン繊維を連続した糸状のまま第4級アンモニウム塩の浴中を通過させて第4級アンモニウム塩を付着させてもよいし、精練工程でレーヨン繊維に第4級アンモニウム塩の水溶液をシャワーして付着させてもよい。或いは、乾燥後のレーヨン繊維(原綿)を、第4級アンモニウム塩の浴中に浸漬し、その後絞ることにより第4級アンモニウム塩を付着させてもよく、レーヨン繊維(原綿)を不織布などに加工した状態で第4級アンモニウム塩の浴中を通過させて第4級アンモニウム塩を付着させてもよい。スポンジ状の再生セルロース成形体の場合、第4級アンモニウム塩の水溶液に含浸させてセルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合させる。
【0032】
第4級アンモニウム塩による処理は、アルカリ雰囲気中、第4級アンモニウム塩の水溶液を用いて行うことができる。第4級アンモニウム塩としては、例えば、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体、第4級アンモニウム塩型高分子などを用いることが好ましく、より好ましくは、第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体を用いる。上記第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、例えば、N−N’−ジ−(3−クロロ−2−ヒドロキシ−プロピル)−N−N’−テトラメチル−n−ヘキサン−1,6−ジアンモニウムジクロライド(テトラメチルヘキサメチレンジアミン4級塩ともいう。)などが挙げられる。上記第4級アンモニウム塩型クロルヒドリン誘導体としては、具体的には、カチオノンKCN(一方社製商品名)などの市販のものを用いることができる。
【0033】
第4級アンモニウム塩は、カチオン化度が1.0〜8.0mmol/gであることが好ましく、より好ましくは、2.5〜6.0mmol/gである。カチオン化度が上記範囲であると、再生セルロース成形体のセルロースに化学結合した後、陰イオンに対する吸着効果を発揮できる。本発明において、第4級アンモニウムのカチオン化度は、フェリシアンカリ法によって評価測定する。原理は、第4級アンモニウム塩水溶液をK
3{Fe(CN)
6}と反応させて黄色反応物(沈澱)を生成させ、黄色沈澱を濾別し過剰のフェリシアンカリをKIにより還元して遊離したヨードをチオ硫酸で逆滴定してカチオン量に換算する。
【0034】
上記第4級アンモニウム塩の水溶液は、pHが9〜14であることが好ましく、より好ましくはpHが11〜14である。上記第4級アンモニウム塩の水溶液のpHは、水酸化アルカリ化合物、例えば水酸化ナトリウムを添加することで調整できる。上記第4級アンモニウム塩の水溶液中の水酸化ナトリウムなどの水酸化アルカリ化合物の濃度は0.1〜40g/Lであることが望ましい。第4級アンモニウム塩の水溶液中の水酸化アルカリ化合物の濃度が低すぎると、セルロースと第4級アンモニウム塩の反応が進まない恐れがあり、水酸化アルカリ化合物の濃度が高すぎると、セルロースが膨潤し、成形体が溶着した状態になる恐れがある。第4級アンモニウム塩の水溶液は、特に限定されないが、第4級アンモニウム塩の濃度が0.1〜50g/Lであることが好ましく、より好ましくは、1.0〜40g/Lである。処理温度については、セルロースに第4級アンモニウムイオンが化学結合できればよく、特に限定されないが、10〜100℃程度の温度範囲で行うことが好ましい。なお、室温(20±5℃)において、浸漬などにより再生セルロース成形体を第4級アンモニウム塩の水溶液と接触させた後、70〜100℃程度の温度範囲で熱処理することで、セルロースと第4級アンモニウム塩を反応させて、セルロースに第4級アンモニウムイオンを化学結合してもよい。
【0035】
上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、繊度が0.3〜17dtex(デシテックス)であることが好ましい。より好ましくは1.1〜8dtexであり、さらに好ましくは1.7〜6dtexである。さらにより好ましくは2.2〜6dtexである。繊度が0.3dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。繊度が17dtexを超えると、繊維の再生状態が不良になりやすく、繊維自体の強伸度に影響があり、加工性が悪くなる場合がある。
【0036】
上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、長繊維状及び短繊維状のいずれの形態でもよい。上記長繊維状としては、例えば、トウ、フィラメント、不織布などが挙げられ、上記短繊維状としては、例えば、湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿などが挙げられる。
【0037】
上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、繊維構造物を形成して用いることができる。上記陰イオン吸着性レーヨン繊維を含む繊維構造物であると、砒素を含む液体の被処理対象の条件により、繊度や繊維空隙を容易に調整することができ、液体の被処理対象から砒素を効果的に除去することができ、好ましい。上記繊維構造物は、特に限定されないが、例えば、トウ、フィラメント、紡績糸、詰め綿、紙、不織布、織物、編物などが挙げられる。上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、単独又はその他のレーヨン繊維、コットン、麻、ウール、アクリル、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、ポリウレタンなどの他の繊維と混綿して用いることができる。他の繊維と混綿して繊維構造物を形成する場合、特に限定されないが、上記陰イオン吸着性レーヨン繊維は、繊維構造物100質量%に対して、50質量%以上含まれることが好ましく、より好ましくは70質量%以上含まれる。
【0038】
上記陰イオン吸着材を構成する再生セルロース成形体が繊維の場合は、繊維及びそれを含む繊維構造物は、液体の被処理対象と接触させて水中の陰イオンを吸着除去する陰イオン吸着材及び水処理材として使用するのに適している。特に、上記陰イオン吸着性レーヨン繊維及び繊維構造物は、液体の被処理対象と接触させて水中の砒素を吸着除去する砒素吸着材及び砒素吸着性水処理材として使用するのに適している。液体の被処理対象としては、特に限定されないが、飲料水、河川水、海水、地下水、下水、工業用水、工業用排水、汚染土壌の溶出液などが挙げられる。吸着除去する陰イオンとしては、例えば、リン(リン酸イオン)、砒素(砒酸イオン、亜砒酸イオン)などが挙げられる。本発明の陰イオン吸着材は、低濃度の陰イオンでも吸着可能であり、吸着除去効率が高い。例えば、陰イオンの濃度が0.01〜100ppmの広範囲について処理可能である。
【0039】
上記陰イオン吸着性レーヨン繊維を開繊しカラムに詰め、或いは再生セルローススポンジで構成された陰イオン吸着材をカラムに詰め、詰め綿又は詰め材料として使用して飲料水などの液体処理対象の濾過にも使用可能であるし、原綿に対して各種加工を行い、使用環境に合わせた仕様にすることもできる。例えば、紡毛用紡績を行い太い紡績糸に加工後、糸巻き用カートリッジフィルターに加工して、水処理材として用いてもよい。ニードルパンチ不織布のような不織布状態に加工した濾過布でもよく、水流交絡不織布としてワイパーやウェットシートに使用してもよい。湿紙として生産した物を抄紙し、コーヒーのドリッパーのような形態で濾過材として使用することも可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。なお、下記の実施例において添加量を単に%と表記した場合は、質量%を意味する。
【0041】
(実施例1)
[紡糸用ビスコース液の調製]
紡糸用ビスコース液として、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。紡糸用ビスコース液の温度は20℃に保った。
[紡糸条件]
上記紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexのレギュラーレーヨン繊維の糸条を得た。第1浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。
[精練条件]
上記で得られたレギュラーレーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施した。
[処理条件]
第4級アンモニウム塩(「カチオノンKCN」、一方社油脂工業社製)を40g/L、水酸化ナトリウムを10g/L含む第4級アンモニウム塩の水溶液を調製した。精練処理後のレギュラーレーヨン繊維を、第4級アンモニウム塩の水溶液の浴中に、浴比が1:20となるように浸漬し、80℃で40分間処理した。その後、イオン交換水で水洗を4回行い、次いで硫酸(pH3.0)で2回洗浄し、さらにイオン交換水で水洗を2回行い、水洗液のpH5.9となったところで、2槽式洗濯機による脱水を1分間行い、その後乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Aを得た。なお、上記第4級アンモニウム塩は、上述したように評価測定したカチオン化度が、2.27mmol/gであった。
【0042】
(比較例1)
[紡糸用ビスコース液の調製]
酸化ジルコニウムの微粒子(平均粒子径1.5μm、株式会社三井金属製)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)5質量部の混合物に、純水を添加混合して酸化ジルコニウムの濃度が15質量%の分散液を調製した。酸化ジルコニウムの添加量がセルロースに対して11質量%となるように、得られた酸化ジルコニウムの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度1.7dtexの酸化ジルコニウムを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.07mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた酸化ジルコニウム含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Bを得た。
【0043】
(比較例2)
[紡糸用ビスコース液の調製]
二酸化チタン(平均粒子径0.5μm)100質量部と、分散剤ヘキサメタリン酸ナトリウム1質量部の混合物に、純水を添加混合して二酸化チタンの濃度が15質量%の分散液を調製した。二酸化チタンの添加量がセルロースに対して10質量%となるように、得られた二酸化チタンの分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度1.7dtexの二酸化チタンを含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.07mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた二酸化チタン含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後、圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Cを得た。
【0044】
(比較例3)
[紡糸用ビスコース液の調製]
針葉樹活性炭(平均粒子径1.2μm)100質量部と、分散剤(「デモールT」、花王ケミカル製)5質量部の混合物に、純水を添加混合して活性炭の濃度が15質量の%分散液を調製した。活性炭の添加量をセルロースに対して17.6質量%となるように、得られた活性炭の分散液を原料ビスコースへ添加し、混合機にて攪拌混合を行い、紡糸用ビスコース液を調製した。温度は20℃に保った。原料ビスコースとしては、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液を用いた。
[紡糸条件]
得られた紡糸用ビスコース液を、2浴緊張紡糸法により、紡糸速度50m/分、延伸率45%で紡糸して、繊度3.3dtexの活性炭を含有するレーヨン繊維の糸条を得た。第一浴(紡糸浴)としては、硫酸100g/L、硫酸亜鉛15g/L、硫酸ナトリウム350g/L含むミューラー浴(50℃)を用いた。また、ビスコースを吐出する紡糸口金には、孔径0.09mmのホールを4000個有する円形ノズルを用いた。紡糸中、単糸切れなどの不都合は生じず、混合ビスコースの紡糸性は良好であった。
[精練条件]
上記で得られた活性炭含有レーヨン繊維の糸条を、繊維長51mmにカットし、精練処理を行った。精練工程では、熱水処理後に水洗を行い、水硫化ソーダをシャワーして脱硫を実施した。次いで、十分水洗し、油剤を付与した後圧縮ローラーで余分な水分と油剤を繊維から落とし、乾燥処理(60℃、7時間)を施し繊維Dを得た。
【0045】
(比較例4)
紡糸用ビスコース液として、セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%、二硫化炭素2.8質量%を含むビスコース原液をそのまま使用し、実施例1と同様の紡糸条件及び精練条件で紡糸、精練し、セルロース100%のレギュラーレーヨン繊維(繊維E)を得た。
【0046】
実施例の繊維のカチオン化度を上述したとおり評価測定し、その結果を下記表1に示した。また、実施例の繊維における窒素含有率を上述したとおり測定し、下記表1に示した。また、実施例の繊維における窒素換算した第4級アンモニウムイオンの含有率も下記表1に示した。また、実施例及び比較例の繊維の砒素に対する吸着性を下記のように測定・評価し、その結果を下記表1に示した。
【0047】
(砒素の吸着試験1)
(a)砒素として換算した濃度が0.979ppmの砒酸(砒酸イオン)の水溶液を原液として用いた。原液における砒素濃度を初期砒素濃度とした。
(b)原液100mLと試料1.0gをポリプロピレン容器に入れ、24時間振とうした後、試料を取り除き、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS、島津製作所製、「ICPM−8500」)を使用して残液中の砒素濃度を測定した。残液中の砒素濃度を吸着後砒素濃度とした。
(c)下記式により、砒素除去率を算出した。
砒素除去率(%) = 100−{(吸着後砒素濃度/初期砒素濃度)×100}
【0048】
(砒素の吸着試験2)
(a)砒素として換算した濃度が1mg/Lの三酸化二砒酸(亜砒酸イオン)を含む塩酸溶液を対象砒素溶液として用いた。対象砒素溶液における砒素濃度を対象砒素溶液濃度とした。
(b)対象砒素溶液200mLと繊維試料2.0gをポリプロピレン容器に入れ、緩やかに5時間振とうした後、試料を取り除き、工業排水試験法JIS K 0102 61.3に従い、残液中の砒素濃度を測定した。残液中の砒素濃度を吸着後砒素溶液濃度とした。
(c)下記式により、砒素除去率を算出した。
砒素除去率(%)=100−{(吸着後砒素溶液濃度/対象砒素溶液濃度)×100}
【0049】
【表1】
【0050】
上記表1の結果から分かるように、セルロースに第4級アンモニウムイオンが化学結合している実施例1のレーヨン繊維は、液体被処理対象(水中)の砒素を90%以上除去していた。一方、第4級アンモニウムイオンを含まない比較例4のレギュラーレーヨン繊維は、陰イオン吸着性能を有しておらず、水中から砒素を除去することができなかった。また、カチオン吸着特性を有する酸化ジルコニウム又は二酸化チタンをセルロース内に有する比較例1〜2の繊維も、陰イオン吸着性能が格段に低く、砒素イオンの除去率が30%未満であった。同様に、物理吸着特性を有する活性炭をセルロース内に有する比較例3の繊維は、陰イオン吸着性能を有しておらず、水中から砒素イオンを除去することができなかった。