【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
実施例1において、まず、シラン架橋樹脂組成物として表1に示す材料を準備した。すなわち、オレフィン樹脂としてポリエチレン(PE)を用いた。PEとしては、ダウケミカル日本(株)製の商品名「NUCG−9301」を用いた。また、シラン化合物として日硝産業(株)製の商品名「TSL8113」(メチルトリメトキシシラン)を用いた。シラノール縮合触媒としてはジフェニルホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いた。遊離ラジカル発生剤としては、日油(株)製の商品名「パークミル(登録商標)D」(ジクミルパーオキサイド)を用いた。これらの配合については、オレフィン樹脂100質量部に対して、シラン化合物が5質量部、シラノール縮合触媒が0.1質量部、遊離ラジカル発生剤が1質量部である。なお、シラノール縮合触媒は、室温23℃、湿度50%RHの環境条件下で1週間静置したものを使用することとした。
【0040】
[実施例2〜3]
シラノール触媒としてのジフェニルホスフィンオキシドの含有量を0.5質量部、1.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、それぞれ実施例2、実施例3のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0041】
[比較例1,3,5]
シラノール触媒としてラウリン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製)を1.0質量部使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、ラウリン酸亜鉛を0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は比較例1と同様にして、それぞれ比較例3、比較例5のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0042】
[比較例2,4,6]
シラノール触媒としてオクチル酸アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)を1.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、オクチル酸アルミニウムを0.5質量部、0.1質量部としたこと以外は比較例2と同様にして、それぞれ比較例4、比較例6のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0043】
[実施例5,8,11]
シラノール縮合触媒としてのホスフィンオキシド化合物を、上記のように1週間静置せずに使用したこと以外は実施例1,2,3と同様にして、実施例5,8,11のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0044】
[実施例4,7,10]
シラノール触媒としてジフェニルビニルホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例4のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、ジフェニルビニルホスフィンオキシドを0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は実施例4と同様にして、それぞれ実施例7、実施例10のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0045】
[実施例6,9,12]
シラノール触媒として2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドを0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は実施例6と同様にして、それぞれ実施例9、実施例12のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0046】
[比較例8,11]
シラノール触媒としてのジフェニルホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例5と同様にして、それぞれ比較例8、比較例11のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0047】
[比較例7,10]
シラノール触媒としてのジフェニルビニルホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例4と同様にして、それぞれ比較例7、比較例10のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0048】
[比較例9,12]
シラノール触媒としての2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例6と同様にして、それぞれ比較例9、比較例12のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0049】
[実施例13〜14]
オレフィン樹脂としてエチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例13のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EMAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例14のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EMAは三井デュポンケミカル(株)製のエルバロイ(登録商標):1125を用いた。
【0050】
[実施例15〜16]
オレフィン樹脂としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例15のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EEAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例16のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EEAは三井デュポンケミカル(株)製のエルバロイ:12112を用いた。
【0051】
[実施例17〜18]
オレフィン樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例17のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EVAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例18のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EVAは三井デュポンケミカル(株)製のエバフレックス(登録商標):EV560を用いた。
【0052】
[実施例19〜20]
オレフィン樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例19のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、PPを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例20のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、PPは住友化学(株)製の住友(登録商標)ノーブレン(登録商標):EP3711E1を用いた。
【0053】
[実施例21〜22]
オレフィン樹脂としてエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例21のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EMMAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例22のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EMMAは住友化学(株)製のアクリフト(登録商標):WH401を用いた。
【0054】
次いで、各実施例及び比較例のシラン架橋樹脂組成物を溶融させて押出成形に供し、80℃の温水にさらし、16時間架橋反応を進行させた。このようにして得られた各実施例及び比較例の成形品に対応する電線の物性を次のように評価した。
【0055】
[押出外観の評価]
各実施例及び比較例に係る押出形成後の電線の外観評価は、電線表面の平滑さ、粒や発泡の有無を目視及び手触りで判定するものとした。すなわち、粒や発泡などの表面荒れが目立ち、製品ないし成形物としての使用に適さないものを「×」と評価し、そうでないものを「○」と評価した。これらの評価結果は、表1〜3に併せて示す。
【0056】
[ゲル分率]
まず、各例の電線(サンプル)を144℃で沸騰したキシレン中にさらした。そのままの状態で10時間抽出を行った後、サンプルを十分に乾燥させた。上記抽出の際、未架橋成分が溶媒に抽出されるため、溶出量が少ないほど架橋反応が十分に進行したものと評価される。そして、その架橋の進行度合いの指標として、次式によりゲル分率を算出した。このゲル分率が大きいほど、架橋度が高い、すなわち、シラン架橋由来の耐熱性が十分に付与されているものと評価される。
[数1]
ゲル分率(質量%)=抽出後サンプル質量/抽出前サンプル質量×100
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1〜6のいずれもが良好な押出外観を呈した。一方、シラノール縮合触媒としてジフェニルホスフィンオキシドを用いた実施例1〜3は、シラノール縮合触媒として有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物を用いた比較例1〜6のいずれに対してもゲル分率が高かった。したがって、シラノール縮合触媒としてホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物によれば、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線を得ることができるものと認められる。さらに、上記ホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物は、室温23℃、湿度50%RHの環境下で1週間保存した場合でも、その触媒品質が損なわれないものと考えられる。
【0061】
また、表2に示すように、シラノール縮合触媒たるホスフィンオキシド化合物の添加量は、成形後の電線の物性に影響を及ぼすことがわかる。シラノール縮合触媒としてジフェニルホスフィンオキシドを用いた実施例5,8,11については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例8では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例11では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0062】
シラノール縮合触媒としてジフェニルビニルホスフィンオキシドを用いた実施例4,7,10については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例7では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例10では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0063】
シラノール縮合触媒として2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドを用いた実施例6,9,12については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例9では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例12では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0064】
また、表3に示すように、オレフィン樹脂としてポリエチレン以外のもの(EMA、EEA、EVA、PP、EMMA)を用いた実施例13〜22の電線もまた、実施例1〜3と同様に優れた物性を発揮した。すなわち、実施例13〜22の電線も良好な押出外観を有するものであるとともに、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められる。さらに、上記ホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物は、室温23℃、湿度50%RHの環境下で1週間保存した場合でも、その触媒品質が損なわれないものと考えられる。
【0065】
以上の実施例と比較例との対比から明らかであるように、本発明所望の構成を満足するシラン架橋樹脂組成物は、常温環境下での保存性に優れており、良好な外観と十分な耐熱性を発揮する電線を得ることができるものである。そして、当該シラン架橋樹脂組成物を用いて得られた電線は、表面が滑らかな外観を呈するとともに、優れた耐熱性を発揮するものと認められる。
【0066】
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。