特許第6130229号(P6130229)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6130229シラン架橋樹脂組成物及びこれを用いた電線
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  • 特許6130229-シラン架橋樹脂組成物及びこれを用いた電線 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130229
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】シラン架橋樹脂組成物及びこれを用いた電線
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/02 20060101AFI20170508BHJP
   C08K 5/54 20060101ALI20170508BHJP
   C08K 5/51 20060101ALI20170508BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20170508BHJP
   H01B 3/44 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   C08L23/02
   C08K5/54
   C08K5/51
   H01B7/02 F
   H01B3/44 F
   H01B3/44 P
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-116654(P2013-116654)
(22)【出願日】2013年6月3日
(65)【公開番号】特開2014-234452(P2014-234452A)
(43)【公開日】2014年12月15日
【審査請求日】2016年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100100712
【弁理士】
【氏名又は名称】岩▲崎▼ 幸邦
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】山岸 芳子
【審査官】 安田 周史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−146150(JP,A)
【文献】 特開2005−206763(JP,A)
【文献】 特開2008−181754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 23/02
C08K 5/51
C08K 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オレフィン樹脂を主成分として含むベース樹脂、シラン化合物、ホスフィンオキシド系触媒及び遊離ラジカル発生剤を含み、
前記ホスフィンオキシド系触媒が、次の一般式で表され、
【化1】
(式中、R及びR’は水素原子、ビニル基又はアリール基を表す。)
前記ベース樹脂100質量部に対する前記ホスフィンオキシド系触媒の含有量が、0.1質量部以上1.0質量部以下であることを特徴とするシラン架橋樹脂組成物。
【請求項2】
前記ホスフィンオキシド系触媒が、2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド及びジフェニルビニルホスフィンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載のシラン架橋樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のシラン架橋樹脂組成物を成形して得られる絶縁被覆層と、
前記絶縁被覆層により被覆される導体と、
を備えることを特徴とする電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線の絶縁被覆に用いることが可能なシラン架橋樹脂組成物及びこのシラン架橋樹脂組成物を用いた電線に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンにシラン化合物を共重合させたシラン架橋樹脂組成物は、電線やケーブルの絶縁被覆材料として知られている。このようなシラン架橋樹脂組成物にシラノール縮合触媒を添加すると、架橋反応が促進される。
【0003】
上記シラノール縮合触媒に関しては、環境ホルモンの問題が指摘されている有機錫化合物の代替材料として、有機亜鉛化合物や有機アルミニウム化合物等が提案されている(例えば、特許文献1参照)。これらの有機亜鉛系触媒や有機アルミニウム系触媒は、環境ホルモンの問題があった有機錫系触媒の代替材料として、これに劣らない架橋反応促進性能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−146150号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、特許文献1に記載のシラノール縮合触媒(有機亜鉛化合物や有機アルミニウム化合物等)を用いた場合、これらの触媒は加水分解しやすいという問題がある。なお、加水分解した触媒は活性が低下し、触媒機能が損なわれる。そのため、温度条件等、取り扱いには十分な注意が必要であった。
【0006】
本発明は、このような従来技術が有する課題に鑑みてなされたものである。そして、本発明の目的は、環境に優しく、熱安定性に優れたシラノール縮合触媒を含有するシラン架橋樹脂組成物を提供することにある。さらに、当該シラン架橋樹脂組成物を用いた電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様に係るシラン架橋樹脂組成物は、オレフィン樹脂を主成分として含むベース樹脂、シラン化合物、ホスフィンオキシド系触媒及び遊離ラジカル発生剤を含む。そして、上記ホスフィンオキシド系触媒が、次の一般式で表される。さらに、ベース樹脂100質量部に対する前記ホスフィンオキシド系触媒の含有量が、0.1質量部以上1.0質量部以下である。
【化1】
(式中、R及びR’は水素原子、ビニル基又はアリール基を表す。)
【0008】
本発明の第2の態様に係るシラン架橋樹脂組成物は、第1の態様において、ホスフィンオキシド系触媒が、2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド及びジフェニルビニルホスフィンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含む。
【0009】
本発明の第3の態様に係る電線は、第1又は第2の態様に係るシラン架橋樹脂組成物を成形して得られる絶縁被覆層と、当該絶縁被覆層により被覆される導体と、を備える。
【発明の効果】
【0010】
本発明のシラン架橋樹脂組成物は、環境に優しく、熱安定性に優れる。すなわち、本発明のシラン架橋樹脂組成物を適用した電線は、表面が滑らかな外観を呈するとともに、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態に係る電線を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を用いて本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の寸法比率は説明の都合上誇張されており、実際の比率と異なる場合がある。
【0013】
[シラン架橋樹脂組成物]
本発明の一実施形態に係るシラン架橋樹脂組成物について詳細に説明する。本実施形態のシラン架橋樹脂組成物は、オレフィン樹脂を主成分として含むベース樹脂、シラン化合物、ホスフィンオキシド系触媒及び遊離ラジカル発生剤を含むように構成される。
【0014】
「ベース樹脂」とは、樹脂組成物中の主成分を意味し、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することができるという意味である。ここで、「主成分」とは、樹脂組成物全体の50質量%以上を占めることを意味する。さらに、当該ベース樹脂は、主成分としてオレフィン樹脂を含有している。つまり、ベース樹脂全体の50質量%以上をオレフィン樹脂で占めている。このようなベース樹脂は、それ自体が柔軟性を有しているため、本実施形態のシラン架橋樹脂組成物を電線の絶縁体として形成した場合、電線に良好な柔軟性を付与することができる。十分な柔軟性を確保する観点から、本実施形態のシラン架橋樹脂組成物中、ベース樹脂が50〜99質量%含有されていることが好ましい。また、ベース樹脂は、ベース樹脂全体の80質量%以上をオレフィン樹脂で占めていることが好ましく、ベース樹脂はオレフィン樹脂のみから成っていてもよい。
【0015】
本実施形態において、上記オレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、エチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)等を使用することができる。これらを単独又は組み合わせて用いることができる。
【0016】
上記ポリエチレンとしては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(L−LDPE)の内の一種又は複数を混合して用いることができる。つまり、これらのポリエチレンを単体で使用してもよく、任意に混合してもよい。なお、密度が高いものは結晶度が高く、硬くなる傾向がある。そのため、十分な柔軟性を確保する観点から、結晶度が低く密度が低い低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンを用いることが好ましい。
【0017】
本実施形態において、無機材料及び有機材料の双方への親和性を発揮するシラン化合物としては、特に限定されず、種々公知のものを使用することができる。例えば、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等を挙げることができる。シラン架橋反応の反応効率を考慮すると、上記シラン化合物の含有量としては、ベース樹脂100質量部に対して0.1〜5質量部とすることが好ましい。しかしながら、上記範囲に限定されるものではない。
【0018】
本実施形態において、シラノール縮合触媒として、ホスフィンオキシド系触媒が用いられる。シラノール縮合触媒は、有機錫化合物の他、有機亜鉛化合物や有機アルミニウム化合物等も挙げられるが、いずれもその触媒作用によりシラン架橋の架橋度を上げるものである。なお、本実施形態のホスフィンオキシド系触媒は、環境ホルモンの問題が指摘される有機錫触媒に比べて、環境に優しい材料といえる。さらに、ホスフィンオキシド系触媒は、有機アルミニウム触媒や有機亜鉛触媒等の加水分解しやすい材料に比べて、熱安定性に優れる。そのため、安定的に触媒活性を発揮し、触媒効果を十分に維持することができる。そして、ホスフィンオキシド系触媒は次の一般式で表されるものを使用することができる。
【0019】
【化2】
式中、R及びR’は水素原子、ビニル基又はアリール基を表す。また、R及びR’は互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。
【0020】
本実施形態において、ホスフィンオキシド系触媒としては、2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシド、ジフェニルホスフィンオキシド及びジフェニルビニルホスフィンオキシドからなる群より選択される少なくとも1つの化合物を含有することが好ましい。これらの化合物を含有する場合、特に優れた熱安定性を発揮するとともに、優れた成形性を発揮することができる。
【0021】
本実施形態のシラン架橋樹脂組成物において、ベース樹脂100質量部に対するホスフィンオキシド系触媒の含有量は、0.1質量部以上1.0質量部以下である。0.1質量部未満の添加量である場合、十分な架橋度を得ることが困難となる。一方、1.0質量部を超える添加量である場合、成形時の外観に悪影響を及ぼす傾向がある。
【0022】
本実施形態において、遊離ラジカル発生剤は、共重合の開始剤として機能するものであれば特に限定されない。例えば、有機過酸化物を使用することができる。上記有機過酸化物としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、メチルエチルケトンパーオキサイド、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、クメンハイドロパーオキサイド等を用いることができる。シラン架橋反応の反応効率を考慮すると、上記遊離ラジカル発生剤の含有量としては、ベース樹脂100質量部に対して0.05〜1質量部とすることが好ましい。しかしながら、上記範囲に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態のシラン架橋樹脂組成物は、上述の材料以外にも、必要に応じて耐熱老化特性の向上のための酸化防止剤や、樹脂組成物の流動性ないし成形性の向上のための滑剤を配合することができる。さらに、難燃剤としての従来公知のハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、無機系難燃剤等を添加することもできる。
【0024】
本実施形態のシラン架橋樹脂組成物は、フィラーを含有させることもできる。フィラーとしては、例えば、炭酸カルシウム、タルク、クレー等を用いることができる。
【0025】
本実施形態のシラン架橋樹脂組成物には、本実施形態の効果を妨げない範囲で、上記した材料以外であっても、種々の添加剤を配合することができる。添加剤としては、難燃助剤、金属不活性剤、老化防止剤、補強剤、紫外線吸収剤、安定化剤、可塑剤、顔料、染料、着色剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。これらの配合量も、他の成分との関係等を考慮し、適宜設定することができる。
【0026】
上述した本実施形態のシラン架橋樹脂組成物は、環境に優しく、熱安定性に優れる。特に、常温で保管した場合には含有されているシラノール縮合触媒が分解することがなく、長期の保管が可能である。さらに、本実施形態のシラン架橋樹脂組成物を電線の絶縁被覆層に適用する場合、シラン架橋ポリオレフィンとしての優れた耐熱性を発揮させるとともに、表面が滑らかな外観を与えることができる。
【0027】
[電線]
図1に、本発明の一実施形態に係る電線の一例を示す。すなわち、電線1は金属等から構成される導体2を上記形態のシラン架橋樹脂組成物からなる絶縁被覆層3で被覆することにより形成されている。すなわち、上記実施形態に係るシラン架橋樹脂組成物を成形して絶縁被覆材料とすることができる。したがって、本実施形態の電線1は、優れた耐熱性を発揮することができるとともに、良好な外観を呈するものとすることができる。
【0028】
金属等の導体2は1本の素線のみであってもよく、図1のように複数本の素線を束ねて形成したものであってもよい。導体2の材料としては、例えば、銅、メッキされた銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の導電性金属を用いることができる。
【0029】
なお、本実施形態において、電線1は、絶縁被覆層3を被覆するシールド層と、当該シールド層をさらに被覆するシース層とをさらに備えるものとすることができる。
【0030】
上記シールド層としては、導電性の金属箔若しくは金属を含む箔又は金属線(金属導体)を網目状に編むことにより形成することができる。このシールド層により、電線1からの不必要な電磁波の放出を防止することができる。
【0031】
上記シース層としては、特に限定されないが、ポリエチレンなどのオレフィン樹脂等を用いることができる。このシース層により、シールド層を効果的に保護し、収束することができる。
【0032】
本実施形態の電線1の絶縁被覆層3は、オレフィン樹脂を主成分として含むベース樹脂、シラン化合物、ホスフィンオキシド系触媒及び遊離ラジカル発生剤を溶融混練することにより調整される。つまり、これらの材料の混練中に空気中の水分と接触することにより架橋反応が開始され、シラン化合物とオレフィン樹脂がグラフト重合することにより、絶縁被覆層3を構成するシラン架橋樹脂組成物を調製される。
【0033】
なお、溶融混練の方法としては、公知の手段を用いることができる。例えば、例えば、予めヘンシェルミキサー等の高速混合装置を用いてプリブレンドした後、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールミル等の公知の混練機を用いて混練することにより、絶縁被覆層3を構成する絶縁体組成物を得ることができる。
【0034】
そして、本実施形態の電線1において、導体2を絶縁被覆層3で被覆する方法も公知の手段を用いることができる。例えば、絶縁被覆層3は、一般的な押出成形法により形成することができる。そして、押出成形法で用いる押出機としては、例えば単軸押出機や二軸押出機を使用し、スクリュー、ブレーカープレート、クロスヘッド、ディストリビューター、ニップル及びダイスを有するものを使用することができる。
【0035】
そして、絶縁被覆層3の原料となるシラン架橋樹脂組成物を調製する場合には、例えば、二軸押出機を用いることができる。その際、所定の各材料を二軸押出機に投入し、当該各材料が十分に溶融する温度に設定する。すなわち、オレフィン樹脂を主成分として含むベース樹脂、シラン化合物、ホスフィンオキシド系触媒及び遊離ラジカル発生剤等を投入し、溶融する。この際、必要に応じて、上述したような他の添加剤も投入することができる。そして、上記の溶融された混合物はスクリューにより溶融及び混練され、一定量がブレーカープレートを経由してクロスヘッドに供給される。溶融・混練された混合物は、ディストリビューターによりニップルの円周上へ流れ込み、ダイスにより導体の外周上に被覆された状態で押し出されることにより、金属導体2の外周を被覆する絶縁被覆層3を得ることができる。
【0036】
本実施形態の電線1にあっては、絶縁被覆材料として上記ホスフィンオキシド系触媒を使用してシランカップリングさせたシラン架橋樹脂組成物を用いている。そして、シラン架橋樹脂組成物は高度に架橋されているため、表面が滑らかな外観を呈するとともに、優れた耐熱性を発揮する電線1とすることができる。
【0037】
なお、電線1の外観は、例えば、後述の実施例に記載の方法で評価することができる。その他、電線表面の機器分析を行い、評価することもできる。また、架橋度は、例えば、後述の実施例に記載の方法で評価することができる。すなわち、ゲル分率を測定することにより、定量的な評価が可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
実施例1において、まず、シラン架橋樹脂組成物として表1に示す材料を準備した。すなわち、オレフィン樹脂としてポリエチレン(PE)を用いた。PEとしては、ダウケミカル日本(株)製の商品名「NUCG−9301」を用いた。また、シラン化合物として日硝産業(株)製の商品名「TSL8113」(メチルトリメトキシシラン)を用いた。シラノール縮合触媒としてはジフェニルホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いた。遊離ラジカル発生剤としては、日油(株)製の商品名「パークミル(登録商標)D」(ジクミルパーオキサイド)を用いた。これらの配合については、オレフィン樹脂100質量部に対して、シラン化合物が5質量部、シラノール縮合触媒が0.1質量部、遊離ラジカル発生剤が1質量部である。なお、シラノール縮合触媒は、室温23℃、湿度50%RHの環境条件下で1週間静置したものを使用することとした。
【0040】
[実施例2〜3]
シラノール触媒としてのジフェニルホスフィンオキシドの含有量を0.5質量部、1.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、それぞれ実施例2、実施例3のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0041】
[比較例1,3,5]
シラノール触媒としてラウリン酸亜鉛(和光純薬工業株式会社製)を1.0質量部使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例1のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、ラウリン酸亜鉛を0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は比較例1と同様にして、それぞれ比較例3、比較例5のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0042】
[比較例2,4,6]
シラノール触媒としてオクチル酸アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)を1.0質量部としたこと以外は実施例1と同様にして、比較例2のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、オクチル酸アルミニウムを0.5質量部、0.1質量部としたこと以外は比較例2と同様にして、それぞれ比較例4、比較例6のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0043】
[実施例5,8,11]
シラノール縮合触媒としてのホスフィンオキシド化合物を、上記のように1週間静置せずに使用したこと以外は実施例1,2,3と同様にして、実施例5,8,11のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0044】
[実施例4,7,10]
シラノール触媒としてジフェニルビニルホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例4のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、ジフェニルビニルホスフィンオキシドを0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は実施例4と同様にして、それぞれ実施例7、実施例10のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0045】
[実施例6,9,12]
シラノール触媒として2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシド(和光純薬工業株式会社製)を用いたこと以外は実施例5と同様にして、実施例6のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドを0.5質量部、0.1質量部使用したこと以外は実施例6と同様にして、それぞれ実施例9、実施例12のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0046】
[比較例8,11]
シラノール触媒としてのジフェニルホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例5と同様にして、それぞれ比較例8、比較例11のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0047】
[比較例7,10]
シラノール触媒としてのジフェニルビニルホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例4と同様にして、それぞれ比較例7、比較例10のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0048】
[比較例9,12]
シラノール触媒としての2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドの含有量を0.05質量部、1.5質量部としたこと以外は実施例6と同様にして、それぞれ比較例9、比較例12のシラン架橋樹脂組成物を準備した。
【0049】
[実施例13〜14]
オレフィン樹脂としてエチレン−アクリル酸メチル共重合体(EMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例13のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EMAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例14のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EMAは三井デュポンケミカル(株)製のエルバロイ(登録商標):1125を用いた。
【0050】
[実施例15〜16]
オレフィン樹脂としてエチレン−アクリル酸エチル共重合体(EEA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例15のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EEAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例16のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EEAは三井デュポンケミカル(株)製のエルバロイ:12112を用いた。
【0051】
[実施例17〜18]
オレフィン樹脂としてエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例17のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EVAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例18のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EVAは三井デュポンケミカル(株)製のエバフレックス(登録商標):EV560を用いた。
【0052】
[実施例19〜20]
オレフィン樹脂としてポリプロピレン(PP)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例19のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、PPを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例20のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、PPは住友化学(株)製の住友(登録商標)ノーブレン(登録商標):EP3711E1を用いた。
【0053】
[実施例21〜22]
オレフィン樹脂としてエチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、実施例21のシラン架橋樹脂組成物を準備した。また、EMMAを用いたこと以外は実施例3と同様にして実施例22のシラン架橋樹脂組成物を準備した。なお、EMMAは住友化学(株)製のアクリフト(登録商標):WH401を用いた。
【0054】
次いで、各実施例及び比較例のシラン架橋樹脂組成物を溶融させて押出成形に供し、80℃の温水にさらし、16時間架橋反応を進行させた。このようにして得られた各実施例及び比較例の成形品に対応する電線の物性を次のように評価した。
【0055】
[押出外観の評価]
各実施例及び比較例に係る押出形成後の電線の外観評価は、電線表面の平滑さ、粒や発泡の有無を目視及び手触りで判定するものとした。すなわち、粒や発泡などの表面荒れが目立ち、製品ないし成形物としての使用に適さないものを「×」と評価し、そうでないものを「○」と評価した。これらの評価結果は、表1〜3に併せて示す。
【0056】
[ゲル分率]
まず、各例の電線(サンプル)を144℃で沸騰したキシレン中にさらした。そのままの状態で10時間抽出を行った後、サンプルを十分に乾燥させた。上記抽出の際、未架橋成分が溶媒に抽出されるため、溶出量が少ないほど架橋反応が十分に進行したものと評価される。そして、その架橋の進行度合いの指標として、次式によりゲル分率を算出した。このゲル分率が大きいほど、架橋度が高い、すなわち、シラン架橋由来の耐熱性が十分に付与されているものと評価される。
[数1]
ゲル分率(質量%)=抽出後サンプル質量/抽出前サンプル質量×100
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表1に示すように、実施例1〜3及び比較例1〜6のいずれもが良好な押出外観を呈した。一方、シラノール縮合触媒としてジフェニルホスフィンオキシドを用いた実施例1〜3は、シラノール縮合触媒として有機亜鉛化合物、有機アルミニウム化合物を用いた比較例1〜6のいずれに対してもゲル分率が高かった。したがって、シラノール縮合触媒としてホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物によれば、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線を得ることができるものと認められる。さらに、上記ホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物は、室温23℃、湿度50%RHの環境下で1週間保存した場合でも、その触媒品質が損なわれないものと考えられる。
【0061】
また、表2に示すように、シラノール縮合触媒たるホスフィンオキシド化合物の添加量は、成形後の電線の物性に影響を及ぼすことがわかる。シラノール縮合触媒としてジフェニルホスフィンオキシドを用いた実施例5,8,11については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例8では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例11では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0062】
シラノール縮合触媒としてジフェニルビニルホスフィンオキシドを用いた実施例4,7,10については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例7では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例10では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0063】
シラノール縮合触媒として2,5−ジヒドロキシフェニル(ジフェニル)ホスフィンオキシドを用いた実施例6,9,12については、良好な押出外観を有するものであるとともにシラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮する電線が得られている。これらはオレフィン樹脂100質量部に対して0.1質量部以上1.0質量部以下で添加されている。一方、この範囲よりも含有量の少ない比較例9では十分なゲル分率が得られず、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められない。また、この範囲よりも含有量の多い比較例12では、ゲル分率は高いものの、外観を損ねている。
【0064】
また、表3に示すように、オレフィン樹脂としてポリエチレン以外のもの(EMA、EEA、EVA、PP、EMMA)を用いた実施例13〜22の電線もまた、実施例1〜3と同様に優れた物性を発揮した。すなわち、実施例13〜22の電線も良好な押出外観を有するものであるとともに、シラン架橋由来の優れた耐熱性を発揮するものと認められる。さらに、上記ホスフィンオキシド化合物を用いたシラン架橋樹脂組成物は、室温23℃、湿度50%RHの環境下で1週間保存した場合でも、その触媒品質が損なわれないものと考えられる。
【0065】
以上の実施例と比較例との対比から明らかであるように、本発明所望の構成を満足するシラン架橋樹脂組成物は、常温環境下での保存性に優れており、良好な外観と十分な耐熱性を発揮する電線を得ることができるものである。そして、当該シラン架橋樹脂組成物を用いて得られた電線は、表面が滑らかな外観を呈するとともに、優れた耐熱性を発揮するものと認められる。
【0066】
以上、本発明を実施例及び比較例によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 電線
2 導体
3 絶縁被覆層
図1