(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130306
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】選択的に官能基化されたナノ流体バイオセンサーにおける生体分子の迅速な定量およびその方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/543 20060101AFI20170508BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20170508BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/53 D
G01N33/53 M
G01N33/53 N
G01N37/00 102
G01N37/00 101
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-557188(P2013-557188)
(86)(22)【出願日】2012年2月6日
(65)【公表番号】特表2014-507668(P2014-507668A)
(43)【公表日】2014年3月27日
(86)【国際出願番号】IB2012050527
(87)【国際公開番号】WO2012120387
(87)【国際公開日】20120913
【審査請求日】2015年1月26日
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2011/050979
(32)【優先日】2011年3月9日
(33)【優先権主張国】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】513227619
【氏名又は名称】アビオニック ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】ニコラス デュラン
(72)【発明者】
【氏名】イワン マルキー
(72)【発明者】
【氏名】ステファーヌ ブロワール
(72)【発明者】
【氏名】アニック マヨール
(72)【発明者】
【氏名】テオ ラサー
【審査官】
大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/085658(WO,A1)
【文献】
特開2010−133921(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/064701(WO,A1)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0070846(US,A1)
【文献】
特開2003−130883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 − 33/98
G01N 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの基材(201、202)の間に画定され、バイオマーカーが固定化される1つまたは数個の選択的に官能基化された領域(211)を有するナノチャンネル(210)を含む、蛍光標識生体分子(320)を検出し、定量化するためのバイオセンサー(200)であって、前記ナノチャンネルはさらに、側面インプット開口部(220)および側面アウトプット開口部(230)によって画定されており、前記インプット開口部(220)は、生体分子(320)を含有する溶液を前記ナノチャンネル(210)に進入させるように適合されており、前記アウトプット開口部(230)は、毛細管現象によって前記ナノチャンネル(210)を通して前記溶液を推進するように適合されており、前記アウトプット開口部(230)が、前記ナノチャンネル(210)を通して前記溶液を推進するように適合された駆動要素(241または242)を有しているかまたはそれと接触している、前記バイオセンサー(200)。
【請求項2】
前記バイオマーカー(310)が、特定の生体分子(320)と生物学的または化学的に相互作用し、および/または前記溶液(300)中に含有される非特異的生体分子(330)と相互作用しないように適合されている、請求項1に記載のバイオセンサー(200)。
【請求項3】
前記基材(201、202)が、シリコン、ガラス、プラスチックおよび酸化物化合物から成る群から選ばれる材料から作られている、請求項1または2に記載のバイオセンサー(200)。
【請求項4】
前記ナノチャンネル(210)および前記側面開口部(220、230)内部の非官能基化表面が、1nmから1000nmの間の厚さを有する、金属化合物、プラスチック化合物および酸化物化合物から成る群から選ばれる材料の薄層を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のバイオセンサー(200)。
【請求項5】
前記側面開口部(220、230)が、100nm2から20mm2までの面積を有し、かつ前記ナノチャンネル(210)が、2nmから1000nmの高さ、2nmから20mmの幅、および2nmから20mmの長さを有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のバイオセンサー(200)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の数個のバイオセンサー(200)を含むアレイであって、前記バイオセンサー(200)がカプセルシステム(101)内部または表面(102)上に固定されている、前記アレイ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に定義された1つまたは数個のバイオセンサー(200)から成り、かつ蛍光励起および検出のための光学的手段(500)を含む、アセンブリー。
【請求項8】
前記光学的手段(500)が、検出器アレイ(CMOSもしくはCCD)、アバランシェフォトダイオード(APD)、または光電子増倍管(PMT)などの単一光子検出器である検出器を含む蛍光測定ユニットである、請求項7に記載のアセンブリー。
【請求項9】
溶液(300)中の蛍光標識生体分子(320)の存在を検出し、定量化する方法であって、以下の:
a)少なくとも1つの、請求項1〜6のいずれか1項に定義されたバイオセンサー(200);
b)バイオマーカー(310)に対して特異的であることができ、前記ナノチャンネル中に固定化され、かつ、前記カプセルシステム(101)または前記表面(102)中には固定化されない標識生体分子(320および/または330)を含有する水溶液(300)を、側面インプット開口部(220)から前記側面アウトプット開口部(230)まで前記ナノチャンネル(210)を横切って置くことによる、前記バイオセンサー(200)の充填メカニズム;
c)光学システム(500);
d)前記ナノチャンネル(210)内部のバイオマーカー(310)上に固定化された特定の生体分子(320)に結合したフロオロフォアの光退色による前記生体分子(320)の検出、ならびに前記ナノチャンネル(210)の長さにわたる濃度勾配の決定、
を含む、前記方法。
【請求項10】
前記生体分子(320)が、タンパク質、DNA、RNA、抗体、アミノ酸、核酸、酵素、脂質分子、ペプチド、ポリサッカライドまたはウイルスである、請求項9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択的に官能基化されたナノ流体バイオセンサーにおける光学システムを用いた蛍光標識生体分子の検出のための方法および装置に関する。本発明は、生体医学サンプルおよび生物学サンプルの迅速な定量のために有利に使用されることができる。
【背景技術】
【0002】
ナノ流体バイオセンサーは、溶液中の生体分子の存在を定量化するために使用される、ナノメーターサイズの限局域(confinement)および/または側面開口部を有する流体システムとして定義される。現在のナノ流体バイオセンサー開発の大半は、生物工学的および生命工学的応用を目的とする。本発明の範囲において、バイオセンサーは、インビトロの診断への応用のために、溶液中の生体分子の存在の定量化に使用される。
【0003】
スイス特許出願第CH01824/09号は、生体分子相互作用の検出のための側面開口部を有するバイオセンサーを開示し、PCT国際特許出願第IB2010/050867号は、単純な光学システムと一緒のそれらの使用を開示する。これらの構成における生体分子の拡散は遅く、安定な測定条件に到達するまでの長い待ち時間または生体分子相互作用の観察のための高濃縮溶液のいずれかを必要とする。
【0004】
生物学的マーカーとも呼ばれるバイオマーカーは、生体分子の存在を検出するための特異的指示薬として使用される。生物学的過程、発病過程、または治療的介入への薬理反応の指示薬として客観的に測定され、評価されることが特徴である。
【0005】
特定の生体分子の検出に関する現在のプラクティスは、2つのカテゴリー:(a)標識化技術、および(b)無標識技術に分けることができる。
【0006】
標識化技術の中で広く使用されるのは、蛍光、比色、放射能、燐光、生物発光および化学発光である。官能基化磁性ビーズも標識化技術と考えられる。標識化技術の利益は、無標識方法に比較した感度および特異的標識による分子認識である。
【0007】
無標識技術の中で広く使用されるのは、電流測定センサー、容量センサー、電気伝導度センサー、またはインピーダンス測定センサーを指す電気化学的バイオセンサーであり、迅速で安価であるという利益を有する。それらは、生体分子が電極上またはその近くに捕捉されるかまたは固定化されるときの電極構造の電気的性質の変化を測定するが、これらの概念はすべて分子特異的な対比、感度および信頼性を欠いている。
【0008】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)は、主に血清中の可溶性生体分子の存在を検出するために使用される重要な生化学技術であり、したがって、医学における診断ツールおよび様々な産業における品質管理チェックとして広く使用されている。しかしながら、ELISA分析は高価で、大量の溶液を必要とし、かつ、時間がかかる。
【0009】
生体分子による診断のための他の重要な技術は、ウエスタンおよびノーザンブロット、タンパク質電気泳動およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)である。しかしながら、これらの方法は高濃縮の分析物を必要とし、ハイスループットのサンプル試験が可能でない。
【発明の概要】
【0010】
目的
本発明の目的は、複雑な操作を必要としない、安価で迅速なナノ流体バイオセンサーを提供することである。
【0011】
本発明のさらに別の目的は、バイオセンサーの高い感度を得るために、ナノ流体工学を用いて光学的測定体積を幾何学的に限定し、かつ、ナノチャンネル表面を選択的に官能基化することである。
【0012】
本発明のさらに別の目的は、生体分子が固定化されたバイオマーカーと相互作用する確率を増大させるために、ナノメーターサイズの限局域(ナノチャンネル)を横切って対流を押し進めることによって検出の感度を高めることである。
【0013】
本発明のこれらおよび他の目的は、以下の図面および好ましい実施態様を参照することによってますます明らかとなるであろう。
【0014】
発明の概要
本発明は、選択的に官能基化された表面を有するナノメーターサイズの限局域に生体分子を進入させることが、生体分子が固定化されたバイオマーカーと相互作用する確率を大きく増大させるという発見に基づく。これは、蛍光標識生体分子の存在の超低濃度における定量を可能とする。
【0015】
本発明はまた、生体分子に結合したフルオフォア(fluorophore)の光退色のモニタリングが、バイオマーカーと相互作用してナノチャンネル内に固定化された生体分子と単純に検出体積を通って拡散している生体分子とを識別するために使用可能であるという発見にも基づく。
【0016】
さらに、本発明は、分析する溶液をナノチャンネルを通して対流させるために駆動部品を使用する可能性に脚光を当てる。
【0017】
本明細書において、用語「駆動部品」は、ナノチャンネルを通る溶液の流れを推進するために使用可能な任意の要素、例えば、吸収要素、として理解されなければならない。
【0018】
本発明の範囲において、その高い表面積対体積比のためにナノ流体工学が使用され、これは、検出体積中に含まれる表面が、生体分子と表面上に固定化されたバイオマーカーの間の相互作用の確率を最大化することを意味する。それはまた、検出体積内の基材の割合が低いことによって、溶液のバックグラウンドシグナルを大きく低下させる。
【0019】
したがって、本発明は、請求項に定義されたバイオセンサーに関する。
【0020】
それはまた、上記バイオセンサーを使用するアセンブリーおよび方法にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1a】ナノ流体バイオセンサー200のアレイを収容するカプセルシステム101の透視図である。蛍光標識された生体分子を含有する溶液300が、ピペットシステム400によってカプセル101の内部に置かれる。レーザービーム510に基づく光学システム500が測定のために使用される。
【
図1b】ナノ流体バイオセンサー200のアレイを収容する表面102の透視図である。蛍光標識された生体分子を含有する溶液300が、ピペットシステム400によって表面102上に置かれる。レーザービーム510に基づく光学システム500が測定のために使用される。
【
図2a】バイオマーカー310により官能基化された領域211および該官能基化を阻止する他の領域203によって局所的に構築される2つの基材201および202によって画定されるナノ流体バイオセンサーの断面図を示す。生体分子を含有する試薬溶液300がナノチャンネル210に進入し、外部駆動部品241によって駆動される。レーザービーム510は、検出体積520中の固定化された生体分子340の光退色をモニターする。
【
図2b】2つの基材201および202によって画定されたナノ流体バイオセンサーの断面図を示す。基材のうちの1つだけが、バイオマーカー310によって官能基化された領域211および該官能基化を阻止する他の領域203によって局所的に構築される。生体分子を含有する試薬溶液300がナノチャンネル210に進入し、内部駆動部品242によって駆動される。レーザービーム510は、検出体積520中の固定化された生体分子340の光退色をモニターする。
【
図3】ナノチャンネルの長さにわたる特定の生体分子の経時的な濃度展開を図示する。
【
図4】所与の時間t
1の間のナノチャンネルの長さにわたる特定の生体分子の濃度プロフィールを示す。マークされた領域は、特定の生体分子の検出された部分を表す。
【
図5】ナノチャンネルの長さにわたる非特異的生体分子(バックグラウンド)の経時的な濃度展開を図示する。
【
図6】所与の時間t
1の間のナノチャンネルの長さにわたる非特異的生体分子の濃度プロフィールを示す。マークされた領域は、バックグラウンドに相当する特定の生体分子の検出された部分を表す。
【
図7】固定化された特定の生体分子に結合したフルオロフォアの標準的な光退色曲線を図示する。
【
図8】ナノチャンネル内部の非特異的生体分子についての、時間の関数としての蛍光強度曲線を図示し、バックグラウンドノイズのみが検出されることを示す。
【
図9】時間の関数としての、ナノチャンネル内部の溶液の流速を示す。
【0022】
発明の詳細な説明
本明細書中で使用されるとおり、用語「生体分子」は、例えば、抗体またはサイトカイン、などのタンパク質、ペプチド、核酸、脂質分子、ポリサッカライドおよびウイルスを含む(が、それらに限定されない)、総称であることを意図する。
【0023】
本明細書中で使用されるとおり、用語「ナノチャンネル」は、少なくとも1つのナノメーターサイズの寸法を有する、よく画定された微細加工構造体を意味する総称であることを意図する。スリットに進入しなければならず、かつ、同程度の大きさの、最小の検出されるべき生体分子のサイズのために、ナノチャンネルのナノメーターサイズの寸法は、2nmより高く定められる。典型的に同程度の大きさである、光学システムの検出体積の範囲のために、本発明は、1ミクロンよりも低い高さを有するナノチャンネルに限定される。
【0024】
本発明は、官能基化された表面の限局により特異的バイオマーカーとの相互作用の確率を増大させることによって、生体分子の検出を促進することを目的とする。
図1aおよび
図1bに示すように、ナノ流体バイオセンサー200のアレイがカプセルシステム101中または表面102上に固定化される。蛍光標識された着目の生体分子を含有する混合溶液300が、ピペットシステム400によってカプセル101の内部または表面102上に置かれる。混入を回避するために、カプセル101は密閉されてよい、最後に、バイオセンサーナノチャンネル内部にレーザービーム510の焦点を合わせることによってバイオセンサー200内部の生体分子相互作用を測定するために、光学ユニット500が使用される。
【0025】
図2aおよび
図2bは、検出の原理および本発明によるバイオセンサーの断面を図示する。該システムは、側面インプット開口部220と側面アウトプット開口部230をつなぐナノチャンネル210からなる。外部(241)または内部(242)にあることができる駆動部品が、側面アウトプット開口部230の隣に設置される。最初に、バイオマーカー310が、基材201および202のうちの1つまたは両方の選択的に官能基化されたナノチャンネル表面上に固定化される。他のナノチャンネル表面および側面開口部表面は、非官能基化層203の沈着によって保護されてよい。検出体積520は、ナノチャンネル210の体積および検出体積520によって画定される交差体積(intersection volume)が最大となるようにナノチャンネル210の内部に焦点を合わせ、かつ、側面インプット開口部220に直接隣接していなければならない。次に、蛍光標識された特定の生体分子320および非特異的生体分子330を含有する溶液300が、毛細管現象によって側面インプット開口部220からシステム中に充填される。駆動部品241または242に達したら、溶液300は、例えば吸収によって駆動部品を満たし、バイオセンサーを横切る強制的な対流を生じさせる。駆動部品241または242がその最大充填容量を達成したら、対流が停止し、システムが平衡に達する。対流の間、ブラウン運動のおかげで生体分子320はナノチャンネル210内部に固定化されたバイオマーカー310と相互作用し、分子複合体340を生成することができる。ナノチャンネル210を横切る濃度勾配が得られる。非特異的生体分子330はナノチャンネル210中に拡散するであろうが、固定化されたバイオマーカー310とは分子複合体を形成しないだろう。非特異的生体分子331が側面アウトプット開口部230中に存在するであろうし、いくらかの332は駆動部品241または242内部にも存在しうる。レーザービーム510によって励起される際、固定化された蛍光放出性複合体340および光学的検出体積を横切って拡散する拡散性の蛍光放出性生体分子330の両方が光学システムによって検出される。
【0026】
本発明は、分子相互作用を検出するために現在使用されている技術と区別できる。側面開口部に連結されている選択的に官能基化されたナノチャンネルを横切る固定化された複合体の濃度を測定する独特の方法は、単一の表面またはリザーバー上での相互作用の測定に基づく現在の技術とは異なる。これらの解決法は、本発明において表される独特のデザインにおいて発生する相互作用事象の確率増大からの利益を受けるものではない。
【0027】
図3は、溶液が特定の生体分子を含有する場合の、バイオセンサーを横切る濃度の経時的な展開を示す。毛細管による充填の直後、時点t
0において、側面インプット開口部内部にはバックグラウンド濃度c
0の蛍光標識された分子がある。ナノチャンネルに進入する特定の生体分子は、すぐにナノチャンネルの官能基化表面と相互作用して、濃度の増加をもたらす(破線の曲線)。最大濃度c
satは、所与の位置xについて、すべてのバイオマーカーが特定の生体分子と相互作用した場合に相当する。時間の関数として、濃度勾配は、t
infの点線の曲線となる傾向にあり、ナノチャンネルバイオマーカーの全体的飽和に相当する(点線の曲線)。
【0028】
図4は、溶液がすでにバイオセンサーならびに吸収部品を満たしている場合に相当する、時点t
1におけるバイオセンサーを横切る濃度勾配を図示する。ブラウン運動のおかげで、生体分子はナノチャンネルに進入し続け、バイオマーカーと相互作用し続けるが、バックグラウンド濃度c
0次第で、飽和への移行t
infは非常に長いかもしれない。これは、ナノチャンネルを横切る濃度プロフィールの安定的測定を可能とする。測定体積(斜線部)は、幅bを有するレーザービームとナノチャンネルの交差部に相当する。
【0029】
図5は、溶液が非特異的生体分子のみを含有する場合の、バイオセンサーを横切る濃度の経時的な展開を示す。毛細管による充填の直後、時点t
0において、側面インプット開口部内部およびナノチャンネル内部にはバックグラウンド濃度c
0の蛍光標識分子がある。官能基化表面との相互作用がないため、さらなる濃度増加は予測されない。この場合、濃度c
0は、すべての位置xおよび時間に関して一定のままである。
【0030】
図6は、溶液が特定の生体分子を含有せず、すでにバイオセンサーならびに吸収部品を満たしている場合に相当する、時点t
1におけるバイオセンサーを横切る濃度勾配を図示する。測定体積(斜線部)は、幅bを有するレーザービームとナノチャンネルの交差部に相当する。
【0031】
図7は、溶液が特定の生体分子を含有する場合の、ナノチャンネル内の所与の位置に関する、測定の間の蛍光強度の経時的な展開を示す。光学システムのシャッターが開いたとき、測定が開始する。測定体積内に存在する固定化されかつ蛍光標識された分子の数に関する定量的情報を含む標準的な光退色曲線が得られる。
【0032】
図8は、溶液がいかなる特定の生体分子も含有しない場合の、ナノチャンネル内の所与の位置に関する、測定の間の蛍光強度の経時的な展開を示す。光学システムのシャッターが開いたとき、測定が開始する。測定体積内には、定常的なバックグラウンドシグナルをもたらす拡散性の蛍光標識生体分子しかないため、光退色曲線は得られない。
【0033】
図9は、時間の関数としての、ナノチャンネル内部の溶液の対流の展開を示す。最初に、時間t
capの間に毛細管によってナノチャンネルが充填され、これは、結果として流速の増加を生じる。吸収部品に到達すると、溶液はナノチャンネルを完全に満たし、流れは毛細管現象によってはそれ以上推進されず、むしろ、吸収により推進される。これは、結果として時間t
actの間の流速の変化を生じる。最後に、ナノチャンネル内部の溶液の流れは0となる傾向にあり、生体分子の動きはブラウン運動のみによる。測定時点t
mは、対流の停止後となるはずである。
【0034】
本発明によれば、上記装置は、他の固定化された生体分子と相互作用するかまたはしない生体分子の検出、計数、同定および特徴づけのための大きな改善を提供する。本発明の応用は、生物医学的分析、生物学的分析または食品分析ならびに分析化学および生物分析化学における基礎的研究に及ぶ。