【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、シリコン(Si)をプラズマエッチングする場合、基板の温度は、通常、100℃までの温度に制限される。これは、基板の温度が100℃を超えると、エッチングが等方的に進み易くなることや保護膜が形成され難くなることによってエッチング形状が悪化する(異方性エッチングを行い難くなる)、マスクとなるレジスト膜の耐熱性が低いため、レジスト膜の軟化によってマスクパターンの形状精度が低下する、といった問題を生じるからである。また、二酸化珪素(SiO
2)をプラズマエッチングする場合においても、マスクとなるレジスト膜の耐熱性が低いという問題から、上記と同様、当該基板の加熱温度は100℃までの温度に制限されるのが一般的である。
【0007】
そして、上記従来のプラズマエッチング方法においても、炭化珪素基板は70℃〜100℃に加熱されてエッチングされており、前記シリコンや二酸化珪素と同様に、100℃までの温度に制御されている。
【0008】
しかしながら、本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、プラズマエッチングの対象となる基板が、原子間の結合が強い炭化珪素基板であるときには、当該炭化珪素基板を100℃よりも更に高い温度に加熱してエッチングすると、エッチング加工精度が向上することを知見するに至った。
【0009】
本発明は、本願発明者らが、精度の良いプラズマエッチングを実施可能な炭化珪素基板の加熱温度について実験を重ねた結果なされたものであり、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができるプラズマエッチング方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、
閉塞空間を有する処理チャンバと、炭化珪素基板が載置される基台と、前記処理チャンバ内を減圧する排気装置と、前記処理チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、コイルを有し、このコイルに高周波電力を供給して、前記処理チャンバ内に供給されたガスをプラズマ化するプラズマ生成装置と、前記基台に高周波電力を供給する高周波電源とを備えたエッチング装置を用いて、前記基台上の炭化珪素基板をプラズマエッチングする方法であって、
前記基台上に前記炭化珪素基板を載置した後、前記排気装置によって減圧された前記処理チャンバ内に、前記ガス供給装置によりエッチングガスとしてSF
6ガスを供給し、供給したSF
6ガスを前記プラズマ生成装置によってプラズマ化し、且つ、前記高周波電源によって前記基台にバイアス電位を与えて前記炭化珪素基板をエッチングするとともに、前記炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱した状態でエッチングするようにしたことを特徴とするプラズマエッチング方法に係る。
【0011】
この発明によれば、炭化珪素基板をプラズマエッチングするに当たり、当該炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱している。このようにしているのは、本願発明者らの研究の結果、前記エッチング装置を用いて、原子間の結合が強い炭化珪素基板をエッチングする際には、当該炭化珪素基板の加熱温度は200℃〜400℃であることが好ましいと判明したからである。
【0012】
即ち、本願発明者らの研究によると、炭化珪素基板Kの加熱温度が低いときには、
図2(a)に示すように、エッチングにより形成された穴Hや溝Hの底面の側壁側に溝H’が更に形成され、精度の良いエッチング形状を得ることができない。ところが、炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、
図2(b)に示すように、形成される溝H’の大きさが徐々に小さくなり、最終的には、
図2(c)に示すように、溝H’が形成されなくなる。
【0013】
また、溝H’が形成されなくなった加熱温度から炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、エッチングが等方的に進み易くなり、
図2(d)及び
図2(e)に示すように、穴Hや溝Hの側壁までエッチングされてしまう。炭化珪素基板Kを構成する原子は、その結合が切れてからでないと、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンと反応しないのであるが、当該炭化珪素基板Kの温度が高いほど、原子間の結合が切れ易く、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンと、炭化珪素基板Kを構成する原子とが反応し易いため、この反応によるエッチングが効率的に進む。尚、炭化珪素基板Kについては、シリコン(Si)と炭素(C)との結合が強固である一方、その温度が高くなることによって両者の結合が切れ易く、エッチングされ易い。したがって、炭化珪素基板Kの加熱温度が高いほど、炭化珪素基板Kのエッチングが等方的に進み、穴Hや溝Hの側壁がエッチングされ易くなる。尚、
図2(d)と
図2(e)では、
図2(e)の方が炭化珪素基板Kの加熱温度が高いときのエッチング形状を図示している。また、
図2において、符号Mはマスクを示している。
【0014】
そして、このような点を踏まえ、炭化珪素基板の加熱温度とエッチング形状との関係について調べたところ、炭化珪素基板の加熱温度が200℃〜400℃であれば、プラズマエッチングを行った際に、穴Hや溝Hの底面に溝H’が全く形成されないか、形成されたとしても非常に小さなものであり、また、穴Hや溝Hの側壁についても、全くエッチングされないか、エッチングされたとしてもごく僅かであることが確認された。したがって、炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱すれば、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができる。尚、炭化珪素基板の加熱温度は300℃〜400℃の範囲であれば、更に好ましい。
【0015】
斯くして、本発明に係るプラズマエッチング方法によれば、炭化珪素基板をプラズマエッチングする際に、この炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱しているので、精度良く炭化珪素基板をエッチングすることができる。
【0016】
ところで、炭化珪素基板の温度を、加熱前の温度T0からエッチング処理時の温度T
1(200℃≦T
1≦400℃)まで温度上昇させるには、
図3に示すように、一定の時間がかかる。そして、炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T
1に達する前からエッチングガスを処理チャンバ内に供給して炭化珪素基板のエッチングを開始すると、エッチングの開始から炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T
1に達するまでの間は、当該炭化珪素基板の温度変化によってエッチング処理条件が変動するため、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができない(例えば、炭化珪素基板の温度が低い時間帯でのエッチングによって形成された、
図2(a)や
図2(b)に示すような溝H’が、炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T
1になってからのエッチングによっても完全にはなくならない)という問題や、エッチング速度が不均一になるという問題を生じる。
【0017】
そこで、前記炭化珪素基板を、その温度がエッチング時の温度に達するまで予め加熱した後、前記炭化珪素基板の温度を前記エッチング時の温度に維持しながら、プラズマ化したエッチングガスによって前記炭化珪素基板をエッチングするようにすれば、エッチング処理開始後における炭化珪素基板の温度変化を防止してエッチング処理を安定させることができるので、炭化珪素基板を精度良くエッチングしたり、エッチング速度が不均一になるのを防止することができる。
【0018】
尚、前記炭化珪素基板の温度をエッチング時の温度にすべく加熱する際には、不活性ガスを前記処理チャンバ内に供給してプラズマ化するとともに、前記基台にバイアス電位を与え、前記不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを前記炭化珪素基板に入射させて該炭化珪素基板を加熱するようにしても良い。このようにすれば、イオン入射によるエッチングを防止しつつ炭化珪素基板を所定温度まで上昇させることができる。また、炭化珪素基板を加熱する加熱手段を新たに設けることなく、不活性ガスのプラズマを生成するだけで炭化珪素基板を加熱することができる。
【0019】
また、炭化珪素基板の温度を一定温度に維持するには、エッチングガスのプラズマ化により生成されたイオンの入射によって炭化珪素基板を加熱すると良い。
【0020】
この他、炭化珪素基板の加熱に当たっては、ヒータにより加熱するようにしても良いし、イオン入射とヒータの両方で加熱するようにしても良い。また、炭化珪素基板の温度が上昇し過ぎるような場合には、炭化珪素基板の冷却を組み合わせても良い。