特許第6130313号(P6130313)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130313
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】プラズマエッチング方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   H01L21/302 104C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-35487(P2014-35487)
(22)【出願日】2014年2月26日
(62)【分割の表示】特願2011-273076(P2011-273076)の分割
【原出願日】2009年10月27日
(65)【公開番号】特開2014-99659(P2014-99659A)
(43)【公開日】2014年5月29日
【審査請求日】2014年3月4日
【審判番号】不服2015-18412(P2015-18412/J1)
【審判請求日】2015年10月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】511265154
【氏名又は名称】SPPテクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大石 明光
(72)【発明者】
【氏名】村上 彰一
(72)【発明者】
【氏名】畑下 晶保
【合議体】
【審判長】 鈴木 匡明
【審判官】 小田 浩
【審判官】 加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−109758(JP,A)
【文献】 特開2007−502547(JP,A)
【文献】 特開平10−303185(JP,A)
【文献】 特開平06−169018(JP,A)
【文献】 特開2007−324503(JP,A)
【文献】 特開平08−008232(JP,A)
【文献】 特開2007−234912(JP,A)
【文献】 特開昭63−152125(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞空間を有する処理チャンバと、炭化珪素基板が載置される基台と、前記処理チャンバ内を減圧する排気装置と、前記処理チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、コイルを有し、このコイルに高周波電力を供給して、前記処理チャンバ内に供給されたガスをプラズマ化するプラズマ生成装置と、前記基台に高周波電力を供給する高周波電源とを備えたエッチング装置を用いて、前記基台上の炭化珪素基板をプラズマエッチングする方法であって、
前記基台上に、エッチングマスクである二酸化珪素が形成された前記炭化珪素基板を載置した後、
前記排気装置によって減圧された前記処理チャンバ内に、前記ガス供給装置によってSF6ガスとO2ガスとの混合ガスを供給し、供給した前記混合ガスを前記プラズマ生成装置によってプラズマ化し、且つ、前記高周波電源によって前記基台にバイアス電位を与えて前記炭化珪素基板をエッチングするとともに、
前記炭化珪素基板を200℃〜400℃(ただし、200℃を除く)に加熱した状態でエッチングするようにしたことを特徴とする、前記エッチングにより形成された穴及び溝の底面の側壁側の溝が全く形成されないか、形成されたとしても非常に小さく、前記穴及び溝の前記側壁についても、全くエッチングされないか、エッチングされてもごく僅かである、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることが可能なプラズマエッチング方法。
【請求項2】
前記炭化珪素基板を200℃〜400℃の温度に予め加熱した後、この温度を維持しながら前記炭化珪素基板をエッチングするようにしたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項3】
前記炭化珪素基板を予め加熱する際に、前記ガス供給装置により不活性ガスを前記処理チャンバ内に供給し、供給した不活性ガスを前記プラズマ生成装置によってプラズマ化し、且つ、前記高周波電源によって前記基台にバイアス電位を与え、前記不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを前記炭化珪素基板に入射させて該炭化珪素基板を加熱するようにしたことを特徴とする請求項2に記載のプラズマエッチング方法。
【請求項4】
前記炭化珪素基板の加熱温度を、300℃〜400℃の範囲内に設定したことを特徴とする請求項1乃至3記載のいずれかのプラズマエッチング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素基板をプラズマエッチングするプラズマエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の分野では、従来から、シリコン基板(Si基板)が基板材料として広く用いられているが、近年、このシリコン基板よりも物性の優れたワイドギャップ半導体基板が着目されている。このワイドギャップ半導体基板は、一般にシリコンやガリウムヒ素(GaAs)に比べて結晶の格子定数が小さくバンドギャップが大きいという特徴を持っており、例えば、炭化珪素(SiC),窒化ガリウム(GaN),窒化アルミニウム(AlN),酸化亜鉛(ZnO),窒化ホウ素(BN)及びリン化ホウ素(BP)等、ホウ素(B),炭素(C),窒素(N)及び酸素(O)のうちの少なくとも1種を含んで構成されるものである。
【0003】
そして、このワイドギャップ半導体基板に属する炭化珪素基板は、結晶の格子定数が小さい、つまり、原子間の結合が強く、優れた物性を有する反面、原子間の結合が強いためにエッチング加工を行い難いという欠点を有している。そこで、従来、このような炭化珪素基板をプラズマエッチングする方法として、例えば、特開2008−294210号公報に開示されたプラズマエッチング方法が提案されている。
【0004】
このプラズマエッチング方法は、所定形状のマスクパターンを備えた二酸化珪素膜(SiO2膜)を炭化珪素基板の表面に形成するマスク形成工程と、SF6ガス,O2ガス及びArガスの混合ガスをエッチングガスとして用い、前記二酸化珪素膜をマスクとして、前記炭化珪素基板をプラズマエッチングする第1エッチング工程と、Arガス及びO2ガスの混合ガスをエッチングガスとして用い、前記二酸化珪素膜をマスクとして、前記炭化珪素基板をプラズマエッチングする第2エッチング工程とを順次実施するというものであり、前記第1エッチング工程では、SF6ガス,O2ガス及びArガスの割合を所定の割合とし、雰囲気圧力を0.5Pa以下とし、炭化珪素基板を70℃〜100℃に加熱し、前記第2エッチング工程では、Arガス及びO2ガスの割合を所定の割合とし、雰囲気圧力を0.5Pa以下とし、炭化珪素基板を70℃〜100℃に加熱するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−294210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、シリコン(Si)をプラズマエッチングする場合、基板の温度は、通常、100℃までの温度に制限される。これは、基板の温度が100℃を超えると、エッチングが等方的に進み易くなることや保護膜が形成され難くなることによってエッチング形状が悪化する(異方性エッチングを行い難くなる)、マスクとなるレジスト膜の耐熱性が低いため、レジスト膜の軟化によってマスクパターンの形状精度が低下する、といった問題を生じるからである。また、二酸化珪素(SiO2)をプラズマエッチングする場合においても、マスクとなるレジスト膜の耐熱性が低いという問題から、上記と同様、当該基板の加熱温度は100℃までの温度に制限されるのが一般的である。
【0007】
そして、上記従来のプラズマエッチング方法においても、炭化珪素基板は70℃〜100℃に加熱されてエッチングされており、前記シリコンや二酸化珪素と同様に、100℃までの温度に制御されている。
【0008】
しかしながら、本願発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、プラズマエッチングの対象となる基板が、原子間の結合が強い炭化珪素基板であるときには、当該炭化珪素基板を100℃よりも更に高い温度に加熱してエッチングすると、エッチング加工精度が向上することを知見するに至った。
【0009】
本発明は、本願発明者らが、精度の良いプラズマエッチングを実施可能な炭化珪素基板の加熱温度について実験を重ねた結果なされたものであり、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができるプラズマエッチング方法の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための本発明は、
閉塞空間を有する処理チャンバと、炭化珪素基板が載置される基台と、前記処理チャンバ内を減圧する排気装置と、前記処理チャンバ内にガスを供給するガス供給装置と、コイルを有し、このコイルに高周波電力を供給して、前記処理チャンバ内に供給されたガスをプラズマ化するプラズマ生成装置と、前記基台に高周波電力を供給する高周波電源とを備えたエッチング装置を用いて、前記基台上の炭化珪素基板をプラズマエッチングする方法であって、
前記基台上に前記炭化珪素基板を載置した後、前記排気装置によって減圧された前記処理チャンバ内に、前記ガス供給装置によりエッチングガスとしてSF6ガスを供給し、供給したSF6ガスを前記プラズマ生成装置によってプラズマ化し、且つ、前記高周波電源によって前記基台にバイアス電位を与えて前記炭化珪素基板をエッチングするとともに、前記炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱した状態でエッチングするようにしたことを特徴とするプラズマエッチング方法に係る。
【0011】
この発明によれば、炭化珪素基板をプラズマエッチングするに当たり、当該炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱している。このようにしているのは、本願発明者らの研究の結果、前記エッチング装置を用いて、原子間の結合が強い炭化珪素基板をエッチングする際には、当該炭化珪素基板の加熱温度は200℃〜400℃であることが好ましいと判明したからである。
【0012】
即ち、本願発明者らの研究によると、炭化珪素基板Kの加熱温度が低いときには、図2(a)に示すように、エッチングにより形成された穴Hや溝Hの底面の側壁側に溝H’が更に形成され、精度の良いエッチング形状を得ることができない。ところが、炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、図2(b)に示すように、形成される溝H’の大きさが徐々に小さくなり、最終的には、図2(c)に示すように、溝H’が形成されなくなる。
【0013】
また、溝H’が形成されなくなった加熱温度から炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、エッチングが等方的に進み易くなり、図2(d)及び図2(e)に示すように、穴Hや溝Hの側壁までエッチングされてしまう。炭化珪素基板Kを構成する原子は、その結合が切れてからでないと、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンと反応しないのであるが、当該炭化珪素基板Kの温度が高いほど、原子間の結合が切れ易く、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンと、炭化珪素基板Kを構成する原子とが反応し易いため、この反応によるエッチングが効率的に進む。尚、炭化珪素基板Kについては、シリコン(Si)と炭素(C)との結合が強固である一方、その温度が高くなることによって両者の結合が切れ易く、エッチングされ易い。したがって、炭化珪素基板Kの加熱温度が高いほど、炭化珪素基板Kのエッチングが等方的に進み、穴Hや溝Hの側壁がエッチングされ易くなる。尚、図2(d)と図2(e)では、図2(e)の方が炭化珪素基板Kの加熱温度が高いときのエッチング形状を図示している。また、図2において、符号Mはマスクを示している。
【0014】
そして、このような点を踏まえ、炭化珪素基板の加熱温度とエッチング形状との関係について調べたところ、炭化珪素基板の加熱温度が200℃〜400℃であれば、プラズマエッチングを行った際に、穴Hや溝Hの底面に溝H’が全く形成されないか、形成されたとしても非常に小さなものであり、また、穴Hや溝Hの側壁についても、全くエッチングされないか、エッチングされたとしてもごく僅かであることが確認された。したがって、炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱すれば、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができる。尚、炭化珪素基板の加熱温度は300℃〜400℃の範囲であれば、更に好ましい。
【0015】
斯くして、本発明に係るプラズマエッチング方法によれば、炭化珪素基板をプラズマエッチングする際に、この炭化珪素基板を200℃〜400℃に加熱しているので、精度良く炭化珪素基板をエッチングすることができる。
【0016】
ところで、炭化珪素基板の温度を、加熱前の温度T0からエッチング処理時の温度T1(200℃≦T1≦400℃)まで温度上昇させるには、図3に示すように、一定の時間がかかる。そして、炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T1に達する前からエッチングガスを処理チャンバ内に供給して炭化珪素基板のエッチングを開始すると、エッチングの開始から炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T1に達するまでの間は、当該炭化珪素基板の温度変化によってエッチング処理条件が変動するため、炭化珪素基板を高精度にエッチングすることができない(例えば、炭化珪素基板の温度が低い時間帯でのエッチングによって形成された、図2(a)や図2(b)に示すような溝H’が、炭化珪素基板の温度がエッチング処理温度T1になってからのエッチングによっても完全にはなくならない)という問題や、エッチング速度が不均一になるという問題を生じる。
【0017】
そこで、前記炭化珪素基板を、その温度がエッチング時の温度に達するまで予め加熱した後、前記炭化珪素基板の温度を前記エッチング時の温度に維持しながら、プラズマ化したエッチングガスによって前記炭化珪素基板をエッチングするようにすれば、エッチング処理開始後における炭化珪素基板の温度変化を防止してエッチング処理を安定させることができるので、炭化珪素基板を精度良くエッチングしたり、エッチング速度が不均一になるのを防止することができる。
【0018】
尚、前記炭化珪素基板の温度をエッチング時の温度にすべく加熱する際には、不活性ガスを前記処理チャンバ内に供給してプラズマ化するとともに、前記基台にバイアス電位を与え、前記不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを前記炭化珪素基板に入射させて該炭化珪素基板を加熱するようにしても良い。このようにすれば、イオン入射によるエッチングを防止しつつ炭化珪素基板を所定温度まで上昇させることができる。また、炭化珪素基板を加熱する加熱手段を新たに設けることなく、不活性ガスのプラズマを生成するだけで炭化珪素基板を加熱することができる。
【0019】
また、炭化珪素基板の温度を一定温度に維持するには、エッチングガスのプラズマ化により生成されたイオンの入射によって炭化珪素基板を加熱すると良い。
【0020】
この他、炭化珪素基板の加熱に当たっては、ヒータにより加熱するようにしても良いし、イオン入射とヒータの両方で加熱するようにしても良い。また、炭化珪素基板の温度が上昇し過ぎるような場合には、炭化珪素基板の冷却を組み合わせても良い。
【発明の効果】
【0021】
以上のように、本発明に係るプラズマエッチング方法によれば、炭化珪素基板の加熱温度を200℃〜400℃とすることで、精度の高いプラズマエッチングを実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の一実施形態に係るプラズマエッチング方法を実施するためのエッチング装置の概略構成を示した断面図である。
図2】基板のエッチング形状と加熱温度との関係を説明するための断面図である。
図3】基板の温度と加熱時間との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の具体的な実施形態について、添付図面に基づき説明する。尚、本実施形態では、炭化珪素基板Kのプラズマエッチングを、図1に示すようなエッチング装置1によって実施する場合を一例に挙げて説明する。また、この炭化珪素基板Kは、例えば、4H−SiCの結晶構造を持つものであり、その表面には、エッチングマスクとして、例えば、二酸化珪素膜が形成されているものとし、この二酸化珪素膜には、所定形状をしたマスクパターンが形成されている。
【0024】
まず、前記エッチング装置1について説明する。このエッチング装置1は、図1に示すように、閉塞空間を有する処理チャンバ11と、処理チャンバ11内に昇降自在に配設され、前記炭化珪素基板Kが載置される基台15と、基台15を昇降させる昇降シリンダ18と、処理チャンバ11内の圧力を減圧する排気装置20と、処理チャンバ11内にエッチングガス及び不活性ガスを供給するガス供給装置25と、処理チャンバ11内に供給されたエッチングガス及び不活性ガスをプラズマ化するプラズマ生成装置30と、基台15に高周波電力を供給する高周波電源35とを備える。
【0025】
前記処理チャンバ11は、相互に連通した内部空間を有する下チャンバ12及び上チャンバ13から構成され、上チャンバ13は、下チャンバ12よりも小さく形成される。前記基台15は、炭化珪素基板Kが載置される上部材16と、昇降シリンダ18が接続される下部材17とから構成され、下チャンバ12内に配置されている。
【0026】
前記排気装置20は、下チャンバ12の側面に接続した排気管21を備え、排気管21を介して処理チャンバ11内の気体を排気し、処理チャンバ11の内部を所定圧力にする。
【0027】
前記ガス供給装置25は、エッチングガスとして、例えば、SF6ガス、又はSF6ガスとO2ガスとの混合ガスを供給するエッチングガス供給部26と、例えば、Heガスなどの不活性ガスを供給する不活性ガス供給部27と、一端が上チャンバ13の上面に接続し、他端が分岐してエッチングガス供給部26及び不活性ガス供給部27にそれぞれ接続した供給管28とを備え、エッチングガス供給部26から供給管28を介して処理チャンバ11内にエッチングガスを供給し、不活性ガス供給部27から供給管28を介して処理チャンバ11内に不活性ガスを供給する。
【0028】
前記プラズマ生成装置30は、上チャンバ13の外周部に上下に並設される、複数の環状をしたコイル31と、各コイル31に高周波電力を供給する高周波電源32とから構成され、高周波電源32によってコイル31に高周波電力を供給することで、上チャンバ13内に供給されたエッチングガス及び不活性ガスをプラズマ化する。前記高周波電源35は、基台15に高周波電力を供給することで、基台15とプラズマとの間に電位差(バイアス電位)を生じさせ、エッチングガス及び不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを炭化珪素基板Kに入射させる。
【0029】
次に、以上のように構成されたエッチング装置1を用いて炭化珪素基板Kをプラズマエッチングする方法について説明する。
【0030】
まず、前記炭化珪素基板Kをエッチング装置1内に搬入して基台15上に載置し、この炭化珪素基板Kの温度が200℃〜400℃の温度でエッチング時の温度(エッチング処理温度)に達するまで炭化珪素基板Kを加熱する。このとき、エッチング装置1では、不活性ガス供給部27から処理チャンバ11内に不活性ガスが供給され、排気装置20によって処理チャンバ11内が所定圧力にされ、高周波電源32,35によりコイル31及び基台15に高周波電力がそれぞれ供給される。処理チャンバ11内に供給された不活性ガスはプラズマ化され、このプラズマ化により生成されたイオンはバイアス電位により炭化珪素基板Kに入射,衝突する。これにより、炭化珪素基板Kは加熱されて温度上昇し、やがてエッチング処理温度で平衡になる。
【0031】
尚、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度に達したかどうかは、例えば、炭化珪素基板Kの加熱時間や温度測定により判断することができる。また、エッチングマスクである二酸化珪素膜は、レジストと比べて耐熱性が高いため、炭化珪素基板Kを200℃〜400℃に加熱しても、軟化してマスクパターンの形状精度が低下することはない。
【0032】
そして、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度で平衡になると、前記二酸化珪素膜をマスクとして炭化珪素基板Kをエッチングする。このとき、エッチング装置1では、エッチングガス供給部26から処理チャンバ11内にエッチングガスが供給され、排気装置20によって処理チャンバ11内が所定圧力にされ、高周波電源32,35によりコイル31及び基台15に高周波電力がそれぞれ供給される。処理チャンバ11内に供給されたエッチングガスはプラズマ化され、このプラズマ化により生成されたラジカルやイオンによって炭化珪素基板Kがエッチングされる。そして、この炭化珪素基板Kには、前記二酸化珪素膜のマスクパターンに応じた穴や溝が形成される。
【0033】
尚、炭化珪素基板Kをエッチングする際にも、炭化珪素基板Kがバイアス電位により入射,衝突するイオンによって加熱されるので、この炭化珪素基板Kの温度は一定(前記エッチング処理温度)に維持される。
【0034】
ところで、上述のように、本例では、炭化珪素基板Kを200℃〜400℃に加熱してエッチングしている。このようにしているのは、本願発明者らの研究の結果、原子間の結合が強い炭化珪素基板Kをエッチングする際には、当該炭化珪素基板Kを200℃〜400℃の温度に加熱することが好ましいと判明したからである。
【0035】
即ち、本願発明者らの研究によると、炭化珪素基板Kの加熱温度が低いときには、図2(a)に示すように、エッチングにより形成された穴Hや溝Hの底面の側壁側に溝H’が更に形成され、精度の良いエッチング形状を得ることができない。ところが、炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、図2(b)に示すように、形成される溝H’の大きさが徐々に小さくなり、最終的には、図2(c)に示すように、溝H’が形成されなくなる。
【0036】
また、溝H’が形成されなくなった加熱温度から炭化珪素基板Kの加熱温度を徐々に高くしていくと、エッチングが等方的に進み易くなり、図2(d)及び図2(e)に示すように、穴Hや溝Hの側壁までエッチングされてしまう。炭化珪素基板Kを構成するシリコン(Si)及び炭素(C)は、両者の結合が切れてからでないと、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンと反応しないのであるが、当該炭化珪素基板Kの温度が高いほど、シリコンと炭素との結合が切れ易く、エッチングガスのプラズマ化により生成されたラジカルやイオンとシリコンや炭素とが反応し易いため、この反応によるエッチングが効率的に進む。したがって、炭化珪素基板Kの加熱温度が高いほど、炭化珪素基板Kのエッチングが等方的に進み、穴Hや溝Hの側壁がエッチングされ易くなる。
【0037】
そして、このような点を踏まえ、炭化珪素基板Kの加熱温度とエッチング形状との関係について調べたところ、炭化珪素基板Kの加熱温度が200℃〜400℃(更に好ましくは、300℃〜400℃)であれば、エッチングを行った際に、穴Hや溝Hの底面に溝H’が全く形成されないか、形成されたとしても非常に小さなものであり、また、穴Hや溝Hの側壁についても、全くエッチングされないか、エッチングされたとしてもごく僅かであることが確認された。したがって、炭化珪素基板Kを200℃〜400℃(更に好ましくは、300℃〜400℃)に加熱すれば、炭化珪素基板Kを高精度にエッチングすることができる。
【0038】
斯くして、本例のプラズマエッチング方法によれば、炭化珪素基板Kをプラズマエッチングする際に、この炭化珪素基板Kを200℃〜400℃に加熱しているので、精度良く炭化珪素基板Kをエッチングすることができる。
【0039】
また、本例では、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度に達した後、エッチング処理を開始するようにしているが、これは、図3に示すように、炭化珪素基板Kの温度を、加熱前の温度T0からエッチング処理温度T1(200℃≦T1≦400℃)まで温度上昇させるには一定の時間がかかるため、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度T1に達する前から炭化珪素基板Kのエッチングを開始すると、エッチングの開始から炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度T1に達するまでの間は、当該炭化珪素基板Kの温度変化によってエッチング処理条件が変動し、炭化珪素基板Kを高精度にエッチングすることができない(例えば、炭化珪素基板Kの温度が低い時間帯でのエッチングによって形成された、図2(a)や図2(b)に示すような溝H’が、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度T1になってからのエッチングによっても完全にはなくならない)という問題や、エッチング速度が不均一になるという問題を生じるからである。
【0040】
したがって、本例のように、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度T1になった後、エッチング処理を開始するようにすれば、エッチング処理開始後における炭化珪素基板Kの温度変化を防止してエッチング処理を安定させることができ、炭化珪素基板Kを精度良くエッチングでき、エッチング速度が不均一になるのを防止することができる。
【0041】
また、不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを炭化珪素基板Kに入射,衝突させて炭化珪素基板Kを加熱しているので、イオン入射によるエッチングを防止しつつ炭化珪素基板Kを温度上昇させることができる。また、炭化珪素基板Kを加熱するための加熱機構を処理チャンバ11に設けることなく、単に不活性ガスのプラズマを生成するだけで炭化珪素基板Kを加熱することができる。
【0042】
因みに、本例のプラズマエッチング方法を適用して、マスクたる二酸化珪素膜が表面に形成された炭化珪素基板Kをエッチングしたところ、図2(a)や図2(b)のように、溝H’が形成されることもなく、また、図2(d)や図2(e)に示すように、側壁がエッチングされることもなく、図2(c)に示すような、精度の良いエッチング形状が得られた。尚、不活性ガスをプラズマ化することによって炭化珪素基板Kを加熱し、この炭化珪素基板Kの温度を200℃〜400℃のエッチング処理温度にする際の処理条件は、不活性ガスたるHeガスの供給流量を50sccmと、処理チャンバ11内の圧力を3Paと、コイル31に供給する高周波電力を2.5kWと、基台15に供給する高周波電力を700Wとし、炭化珪素基板Kの温度がエッチング処理温度に達した後、この炭化珪素基板Kをエッチングする際の処理条件は、エッチングガスたるSF6ガスの供給流量を50sccmと、処理チャンバ11内の圧力を3Paと、コイル31に供給する高周波電力を2.5kWと、基台15に供給する高周波電力を700Wとした。また、このときの、炭化珪素基板Kのエッチング処理温度は約400℃であった。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の採り得る具体的な態様は、何らこれに限定されるものではない。
【0044】
上例では、不活性ガスのプラズマ化により生成されたイオンを炭化珪素基板Kに入射,衝突させることで、炭化珪素基板Kの温度を上昇させるようにしたが、どのような手法で炭化珪素基板Kを加熱しても良い。例えば、基台15にヒータを埋め込んで、このヒータにより炭化珪素基板Kを加熱するようにしても良いし、イオン入射とヒータの両方で炭化珪素基板Kを加熱するようにしても良い。また、加熱によって炭化珪素基板Kの温度が400℃を超える温度にまで上昇するような場合には、炭化珪素基板Kの冷却を組み合わせて炭化珪素基板Kの温度を200℃〜400℃の範囲に制御すると良い。
【0045】
また、エッチング対象基板Kとして、4H−SiCの結晶構造を持つ炭化珪素基板を一例に挙げたが、エッチング対象基板Kは、4H−SiC以外の結晶構造を持つ炭化珪素基板であっても良い

【0046】
更に、上例では、前記エッチング装置1を用いて本発明に係るプラズマエッチング方法を実施したが、このプラズマエッチング方法の実施には、他の構造を備えたエッチング装置を用いるようにしても良い。
【符号の説明】
【0047】
1 エッチング装置
11 処理チャンバ
15 基台
20 排気装置
25 ガス供給装置
26 エッチングガス供給部
27 不活性ガス供給部
30 プラズマ生成装置
31 コイル
32 高周波電源
35 高周波電源
K 炭化珪素基板
図1
図2
図3