特許第6130354号(P6130354)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130354
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】Li蓄電池用電解質およびLi蓄電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20170508BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20170508BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20170508BHJP
   H01M 10/0525 20100101ALI20170508BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20170508BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20170508BHJP
【FI】
   H01M10/0567
   H01M10/0569
   H01M10/0568
   H01M10/0525
   H01M2/16 P
   H01M10/0585
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-503774(P2014-503774)
(86)(22)【出願日】2013年2月26日
(86)【国際出願番号】JP2013054872
(87)【国際公開番号】WO2013133079
(87)【国際公開日】20130912
【審査請求日】2015年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2012-49022(P2012-49022)
(32)【優先日】2012年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(74)【代理人】
【識別番号】100191330
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】小丸 篤雄
(72)【発明者】
【氏名】西澤 剛
【審査官】 瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−063114(JP,A)
【文献】 特開平11−162512(JP,A)
【文献】 特許第3061759(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/077320(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/094602(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/094603(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05−10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,1−ジフェニルエタンを3〜35重量%の濃度で含有することを特徴とするLi蓄電池用電解質。
【請求項2】
環状カーボネート、鎖状カーボネート、およびLi塩を含有することを特徴とする請求項1に記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項3】
電解質中の環状カーボネートの濃度が1〜35重量%であることを特徴とする請求項に記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項4】
電解質中の鎖状カーボネートの濃度が40〜70重量%であることを特徴とする請求項2または3に記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項5】
環状カーボネートがエチレンカーボネートであることを特徴とする請求項2または3に記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項6】
鎖状カーボネートがジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネートのいずれかであることを特徴とする請求項2または4に記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項7】
Li塩濃度が7〜35重量%であることを特徴とする請求項のいずれかに記載のLi蓄電池用電解質。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の電解質を用いたことを特徴とするLi蓄電池。
【請求項9】
ポリプロピレンを含むセパレータを用いたことを特徴とする請求項記載のLi蓄電池。
【請求項10】
リチウムが挿入可能なもしくはリチウムと反応する負極活物質を用いたことを特徴とする請求項またはに記載のLi蓄電池。
【請求項11】
炭素系負極材料を用いたことを特徴とする請求項10のいずれかに記載のLi蓄電池。
【請求項12】
負極に黒鉛が含まれることを特徴とする請求項11のいずれかに記載のLi蓄電池。
【請求項13】
正極にリチウムと遷移金属が含まれることを特徴とする請求項12のいずれかに記載のLi蓄電池。
【請求項14】
正極にコバルトを含む層状酸化物が含まれることを特徴とする請求項13のいずれかに記載のLi蓄電池。
【請求項15】
正極または負極を巻回しない構造を特徴とする請求項14のいずれかに記載のLi蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の性能低下を起こさずに安全性を向上させる化合物を添加したLi蓄電池用電解質およびそれを用いたLi蓄電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化は、その問題提起から約20年を経て、その対策の必要性は国際的かつ学術的に広く認められるに至っている。種々の地球温暖化要因のうちで、人為的制御が可能なものに温室効果ガス削減があり、それを解決する考え方の一つがエネルギー利用の効率化である。エネルギーは、利用時の無駄を省く省エネルギー化と、使用に供されないエネルギーの蓄積により、利用効率を向上させることが可能と考えられる。
【0003】
特に電気依存社会と言われる近年においては、家電、電子機器から自動車に至るまで、電気の力で駆動する製品が台頭しており、省電力駆動の技術等に目が向けられている。また、太陽光発電に代表される、旧来の電力会社がつかさどる電力網に依存しない、スタンドアローン型発電機器等も実験段階の大型設備や小売販売される商品等も出てきており、ますます電気依存度が増加する傾向にある。
【0004】
一方、前述の電気利用機器類が駆動している間は定常的に電気(電力)が消費されるが、駆動停止時には電力が余剰になるものの、これを蓄積せずに無駄に捨てられているのが実情である。前述のエネルギー利用効率の向上に関し、携帯時や野外における機器駆動のための蓄電池利用に留まらず、無駄になっている電力も蓄積して利用すべきである。
地球温暖化防止の具体策として、環境に配慮した電気自動車、ハイブリッド自動車や再生可能エネルギー発電として位置づけられる太陽光発電や風力発電等の技術開発、一部製品化が進められる中、これら用途の電源は、大型大容量で且つ、自動車の急速充電/急ブレーキ時回生および自然現象による急激な出力変動を吸収できる入出力特性に優れた自動車用/定置用蓄電池が求められている。
【0005】
前述のように、大型などの蓄電池需要が高まりつつある中、社会に広めるためには安全性の担保技術が重要である。安全性の担保技術には様々な方法があるが、機械的な動作を伴うものや、化学的な反応を利用するものなどが知られている。その中でも、電解質中にある種の有機化合物を混合して用いることで、その電気化学反応性を利用した、所謂過充電防止機能により制御回路が破損した場合においても安全性を確保可能であることが知られている。
【0006】
例示するならば、特許第3061756号(特許文献1)、特許第3061759号(特許文献2)などに開示されている。このような機能は化合物が高い電位に曝された場合、電気化学的な酸化状態に陥り、構造の崩壊に伴い高分子量化(重合)や低分子量化(ガス化等)の挙動を伴いながら、電池に具備された圧力検知式電流遮断装置などが二次的に作動して、端子を物理的に分断し、充電電流を遮断することにより、過充電から蓄電池を保護するというものである(特許文献2)。
【0007】
前記機能は化合物の構成元素から成り立つ構造に由来した性質であり、多少の違いがその反応性に影響する。
これらを電解質へ混合する場合、電解質の機能、ひいては蓄電池の特性に悪影響を与えてはならないが、化合物によっては粘度、融点などの物性が蓄電池の出力特性、低温放電特性などに悪影響を及ぼすことが知られている。
即ち、過充電保護などの期待する機能のみを発揮し、蓄電池特性等に悪影響しないという機能選択性が重要であり、真の実用的化合物はそれほど多くないのが実情である。
【0008】
特許第3942134号(特許文献3)に記載されたフェニル−R−フェニル(Rは脂肪族炭化水素)の中で、実施例に示されたジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、2,2−ジフェニルプロパンは好適な化合物であり、特には2,2−ジフェニルプロパンが好適であるとの記述がある。
しかしながら、前記化合物は実用特性において不十分な特性と言わざるを得ない。即ち、ジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、2,2−ジフェニルプロパンは融点が高く、混合させて使用する場合は電解質の粘度を増加させ、リチウムイオンの移動を阻害しやすくなり、ひいては出力特性、低温放電特性などに悪影響を及ぼす可能性が高い。また、ジフェニルメタンにおいては実用電極(LiCoO正極)にて耐電圧を測定すると蓄電池通常作動電圧(4.2V以下)よりも高いが、その差が小さいために、蓄電池の使用上、過電圧が発生した時に意図しない高電圧に曝された場合、電池劣化反応が生じやすく、信頼性が低下する可能性が高い。
【0009】
このように、一般式フェニル−R−フェニル(Rは脂肪族炭化水素)の具体的化合物として特許されたジフェニルメタン、1,2−ジフェニルエタン、2,2−ジフェニルプロパンを蓄電池に用いた場合、より満足のいく実用的な特性を得ることが難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第3061756号
【特許文献2】特許第3061759号
【特許文献3】特許第3942134号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、蓄電池の過充電時に保護機能を示すと共に、蓄電池使用時に過電圧が発生しても電池劣化反応が生じにくく、信頼性が低下することのない、且つ広い温度範囲で実用的な出力特性を有するLi蓄電池用電解質を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は前記の課題について鋭意研究した結果、一般式フェニル−R−フェニル(Rは脂肪族炭化水素)の中でも、前記特許文献に明示されていない1,1−ジフェニルエタンが蓄電池実用特性において最も高性能であること見出し、さらに電解質の構成成分である、溶媒、電解質塩などの含有率を特定の範囲に規定することで、更なる高性能化が可能であることも見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、1,1−ジフェニルエタンを含有することを特徴とするLi蓄電池用電解質に関する。
また、本発明は、1,1−ジフェニルエタン、環状カーボネート、鎖状カーボネート、およびLi塩を含有することを特徴とするLi蓄電池用電解質に関する。
さらに、本発明は、前記電解質を用いたLi蓄電池に関する。
【0014】
表1に各化合物の融点を示したが、本発明に係る1,1−ジフェニルエタンは1,2−ジフェニルエタン、2,2−ジフェニルプロパンよりも融点が低く、電解質へ混合してもリチウムイオンの移動を阻害しにくく、ひいては出力特性、低温放電特性などに悪影響を及ぼす可能性が非常に少ない。
また、表2に示す実用電極(LiCoO正極)を用いて測定した耐電圧では、本発明に係る1,1−ジフェニルエタンは、1,2−ジフェニルエタン、2,2−ジフェニルプロパンと同程度を示し、蓄電池使用時に過電圧が発生しても電池劣化反応が生じにくく、信頼性が低下する可能性が低い。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る1,1−ジフェニルエタンは電解質に混合することで蓄電池の過充電時に保護機能を示すと共に、耐電圧が電池駆動電圧よりも十分に高いため信頼性の低下をきたさない。特に、融点が低いために、出力特性等の悪影響が無く、混合可能量が大きいため、より高い過充電保護の効果を得ることができる。さらに、電解質組成を特定比率にコントロールすることで低温時の出力と過充電安全性を両立できる実用的な電解質を実現することが可能となる。従って、本発明の電解質を用いた蓄電池は前記大型大容量で且つ、自動車の急速充電/急ブレーキ時回生および自然現象による急激な出力変動を吸収できる入出力特性に優れたより安全な自動車用/定置用蓄電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施の形態に係る蓄電池の断面構造の一例を示す図である。
図2】実験例1における、各化合物について、その含有割合と、0℃ 2C放電維持率との結果を示す図である。
図3】実験例3における、各化合物について、Li塩の含有割合と、0℃ 2C放電維持率との結果を示す図である。
図4】実験例4における、1,1−ジフェニルエタンについて、エチレンカーボネートの含有割合と、0℃ 2C放電維持率との結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0018】
先ず、本発明に係るLi蓄電池について説明する。
図1は本発明の実施の形態に係る蓄電池の断面構造の一例を示すものである。この蓄電池は、金属製の外装部品11内に収容された円板状の正極12と金属製の外装部品13内に収容された円板状の負極14とがセパレータ15を介して積層されたものである。なお、外装部品13と負極14の間には金属製のバネ18とスペーサ19が配置されている。外装部品11および外装部品13の内部は液状電解質により満たされており、外装部品11および外装部品13の周縁部は シールガスケット17を介してかしめられることにより密閉されている。
【0019】
本発明のLi蓄電池用電解質について説明する。
電解質は、溶質を有機溶媒に溶解させたものであり、通常これらが主成分である。
本発明の電解質は、1,1−ジフェニルエタンを含有することを特徴とする。電解質に、1,1−ジフェニルエタンを含有させることにより、蓄電池の過充電時に保護機能を示すと共に、蓄電池使用時に過電圧が発生しても電池劣化反応が生じにくく、信頼性が低下することのない蓄電池を提供することができる。
【0020】
電解質の組成決定に際しては、Liイオンの移動に関る有機溶媒の物理的作用の和と、Liイオンの存在量または必要量から勘案すべきである。
本発明に係る1,1−ジフェニルエタンは電解質に混合させた形で好適に用いることができる。
過充電保護の用途においては、1,1−ジフェニルエタン等の化合物を十分に電解質に存在させることができれば、充分な安全性の向上が期待できるが、Li塩の溶解性等が劣るため、電解質の基本的機能が損なわれる可能性がある。
従って、1,1−ジフェニルエタンを電解質に混合させる場合には、電解質の本来の機能を損なわない程度の量にとどめるべきである。
1,1−ジフェニルエタンの電解質への含有割合は3〜35重量%が好ましく、5〜30重量%が更に好ましく、7〜25重量%が最も好ましい。
【0021】
電解質の組成物として、まずイオンの元となる溶質、即ちLi塩がある。
溶質の種類は、特に制限されないが、この蓄電池の用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができる。具体的には以下のものが挙げられる。
例えば、LiPFやLiBF等の無機塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、Li環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、Li環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機Li塩及びLiビス(オキサレート)ボレート等が挙げられる。
これらのうち、LiPF、LiBF、LiN(CFSO及びLiN(CSOが電池性能を発揮する点で好ましく、特にLiPF及びLiBFが好ましい。 なお、これらのLi塩は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0022】
電解質中におけるLi塩の含有割合は、1,1−ジフェニルエタンを混合させる割合に関連する。
すなわち、電解質溶媒として用いる炭酸エステル類よりも1,1−ジフェニルエタンは分子の大きさが大きく、その混合割合によってはLiイオンの移動を阻害してしまうことがある。従って、実用性の高い電解質とするためには、その組成物を最適な混合割合にする必要がある。Li塩を溶解させる溶媒の種類や混合組成によってその割合は異なるが、電解質中におけるLi塩の含有割合は、7〜35重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、13〜25重量%がさらに好ましい。
【0023】
次に電解質に用いる有機溶媒について説明する。
その種類は、特に制限されないが、従来から溶媒として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。例えば、不飽和結合をもたない環状カーボネート類、鎖状カーボネート類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状カルボン酸エステル類、鎖状カルボン酸エステル類、含燐有機溶媒等が挙げられる。
【0024】
Liイオンの移動に影響を与える因子としては、粘度の他に、有機溶媒の粘度と溶媒和能がある。溶媒和能は溶解したイオンを解離させる力であり、強すぎるとイオンの移動を阻害するため最適値が存在する。
また、実用的な蓄電池は使用環境条件が幅広く、特に有機溶媒の融点や沸点などの物理特性も一定範囲内に収める必要がある。
前記要件に対して、現実的な解決案は、複数の有機溶媒を混合して用いることであり、融点の高いものと低いもの、溶媒和能の高いものと低いもの、などといった各物性における組合せから実用特性を鑑みて混合組成が決定される。
本発明の電解質においては、炭素−炭素不飽和結合を持たない環状カーボネートと鎖状カーボネートを混合して使用することが好ましい。
【0025】
環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の炭素数2〜4のアルキレン基を有するアルキレンカーボネート類が挙げられる。これらの中では、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートが電池特性向上の点から好ましく、特にエチレンカーボネートが好ましい。
【0026】
鎖状カーボネート類としては、ジアルキルカーボネートが好ましく、構成するアルキル基の炭素数は、それぞれ1〜5が好ましく、特に好ましくは1〜4である。具体的には例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート等の対称鎖状アルキルカーボネート類;エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート等の非対称鎖状アルキルカーボネート類等のジアルキルカーボネートが挙げられる。中でも、粘度の点ではジメチルカーボネートが最も低く好ましい。
【0027】
しかし、ジメチルカーボネートは沸点がやや低いため、より高い沸点を示す鎖状カーボネート類をさらに混合して用いることで、より好適な特性が得られる。混合するのはジエチルカーボネートが好適であるが他の鎖状カーボネートでも問題は無く使用できる。
混合割合は所望の実用特性によっても変わってくる。環状カーボネートに対する鎖状カーボネートの割合は、Li塩の割合も含めた形で最適な組成が存在する。
電解質中の環状カーボネートの含有割合は1〜35重量%が好ましく、3〜30重量%がより好ましく、4〜25重量%がさらに好ましい。環状カーボネートは複数混合して用いることができる。
一方、電解質中の鎖状カーボネートの含有割合は40〜70重量%が好ましく、43〜68重量%がさらに好ましい。鎖状カーボネートは複数混合して用いることができる。
【0028】
総合的な組成として以下の組合せが好適である。
エチレンカーボネートとジアルキルカーボネート類との組み合わせの中で、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートが好ましく、さらに対称鎖状ジアルキルカーボネート及び/又は非対称鎖状ジアルキルカーボネート類を含有しても良い。例えば、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネート、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとジエチルカーボネートとエチルメチルカーボネートといったエチレンカーボネートと対称鎖状ジアルキルカーボネート類と非対称鎖状ジアルキルカーボネート類を含有するものが、サイクル特性と高出力放電特性のバランスが良いので好ましい。中でも、非対称鎖状ジアルキルカーボネート類がエチルメチルカーボネートであるのが好ましく、又、アルキルカーボネートのアルキル基は炭素数1〜2が好ましい。
【0029】
さらに、イオンの解離や移動等を助ける溶媒として、環状エーテル類、鎖状エーテル類、環状カルボン酸エステル類や鎖状カルボン酸エステル類などを、上記した主要の有機溶媒に付随して追加することもできる。
環状エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等、鎖状エーテル類としては、ジメトキシエタン、ジメトキシメタン等が挙げられる。
環状カルボン酸エステル類としては、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等、鎖状カルボン酸エステル類としては、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル等が挙げられる。
これらの中でも特に、鎖状カルボン酸エステルが好適である。
【0030】
さらに、本発明の電解質に、2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートを含有させることも好適に行われる。
2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートのフッ素原子の数は特に制限されないが、フッ素化エチレンカーボネートの場合は、下限としては通常2つ以上であり、上限としては通常4つ以下であり、3つ以下が好ましい。
フッ素化プロピレンカーボネートの場合は、下限としては通常2つ以上であり、上限としては、通常6つ以下であり、5つ以下が好ましい。特に、環構造を形成する炭素に2つ以上のフッ素原子が結合しているものが、サイクル特性および保存特性向上の点から好ましい。
【0031】
2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートの具体例としては、シス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トリフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、テトラフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン等のフッ素化エチレンカーボネートや、4,5−ジフルオロ−4−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4,5−トリフルオロ−5−メチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,5−ジフルオロ−4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン等のフッ素化プロピレンカーボネートが挙げられる。中でも2つ以上のフッ素原子を有するフッ素化エチレンカーボネートが、電池特性向上の点から好ましく、中でも、シス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、トランス−4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン、4,4−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンが特に好ましい。
【0032】
2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネートは、単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。非水系電解液中の2つ以上のフッ素原子を有する含フッ素環状カーボネート化合物の割合は、本発明の効果を発現するためには、特に制限はないが、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、より好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.2重量%以上、最も好ましくは0.25重量%以上である。これより低濃度では本発明の効果が発現しにくい場合がある。逆に濃度が高すぎると高温保存時に電池内圧が増大する場合があるので、上限は、通常10重量%以下、好ましくは4重量%以下、より好ましくは2重量%以下、特に好ましくは1重量%以下、最も好ましくは0.5重量%以下である。
【0033】
またさらに、不飽和結合を有する環状カーボネート類や、総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物を電解質中に混合して用いても良い。
【0034】
不飽和結合を有する環状カーボネート類としては、例えば、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、4,5−ジエチルビニレンカーボネート、フルオロビニレンカーボネート、等のビニレンカーボネート化合物;ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−エチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4−n−プロピル−4−ビニルエチレンカーボネート、5−メチル−4−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート等のビニルエチレンカーボネート化合物;4,4−ジメチル−5−メチレンエチレンカーボネート、4,4−ジエチル−5−メチレンエチレンカーボネート等のメチレンエチレンカーボネート化合物などが挙げられる。
これらのうち、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4−メチル−4−ビニルエチレンカーボネートまたは4,5−ジビニルエチレンカーボネートがサイクル特性向上の点から好ましく、なかでもビニレンカーボネートまたはビニルエチレンカーボネートがより好ましい。これらは単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物としては、ビフェニル、2−メチルビフェニル等のアルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロペンチルベンゼン、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、3−フルオロビフェニル、4−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の前記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。
これらのうち、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。
【0036】
このように総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物と、負極および正極との副反応を抑制することにより、高温保存後の放電特性の著しい低下を抑制すると考えられる。
【0037】
電解質中における総炭素数が7以上18以下の芳香族化合物の割合は、本願発明の効果を発現するためには、通常0.001重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.3重量%以上、最も好ましくは0.5重量%以上であり、上限は、通常5重量%以下、好ましくは3重量%以下、特に好ましくは2重量%以下である。この下限より低濃度では過充電時の安全性を向上する効果が発現しがたい場合がある。逆に濃度が高すぎると高温保存特性などの電池の特性が低下する場合がある。
【0038】
本発明の実施の形態では、環状カーボネート、鎖状カーボネート、Li塩、1,1−ジフェニルエタン等の混合割合を変えて電解質組成を変化させて使用した。
【0039】
正極について説明する。
正極12は、例えば、金属酸化物系材料と電子伝導性を補助する導電補助材と結着材と溶媒とを混合したスラリーを圧延アルミ箔などの集電用金属箔体の上に塗膜形成し、加熱乾燥して溶媒を除去した後、所定の寸法と密度に形成させて得られる。
【0040】
正極活物質に使用可能な金属化合物系材料とは、電池の外部回路へ電子を放出すると同時にLiイオンを電解質に放出することができる材料のことであり、含有するLiイオンの量はその化学組成、結晶構造などにより異なるが、多くのLiイオンを可逆的に出し入れできる材料が好ましい。
その材料としては遷移金属酸化物、リチウムと遷移金属との複合酸化物、遷移金属硫化物などが挙げられる。遷移金属としては、Fe、Co、Ni、Mn等が使用される。具体例としては、MnO、V、V13、TiO等の遷移金属酸化物、LiNiO、LiCoO、LiMn等、TiS、FeS、MoS等の無機化合物が挙げられるが、これらは、その特性を向上させるため、部分的に特定元素をある元素で置換したものを用いても良い。
【0041】
前記無機化合物のほかに、有機化合物から成る正極材料もある。例えば、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセン、ジスルフィド系化合物、ポリスルフィド系化合物、N―フルオロピリジニウム塩などが挙げられる。正極材料は、上記の無機化合物と有機化合物の混合物であってもよい。
【0042】
正極材料の物性は蓄電池の利用形態などの制約条件に起因する電池設計および製造プロセスにおける要求項目から決められるものである。材料の製造においてはその物性を実現できるようにプロセス設計等がなされている。物性値としては、粉末粒子径および分布、比表面積、密度等が挙げられる。
一例として、粉末粒子径は、蓄電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、レ−ト特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常、平均値として1〜30μmが好ましく、1〜10μmがさらに好ましい。
【0043】
本発明の実施の形態では、平均粒径5μmのLiCoOを用い、正極中の比率を90重量%とした。
【0044】
前記正極材料は概ね電子伝導性が低いため、正極内には電子伝導性を補助する導電補助材を共存させることが好ましい。材質としてはカーボン系材料、金属系材料が好適であり、その他の電子伝導性の高い材料も利用可能である。共存させる量は必要最低限にとどめ、蓄電池の容量を規定する正極材料の含有率を最大限に引き上げるべきである。
【0045】
カーボン系材料としては、すす、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、グラファイトファイバー、ナノファイバー、ナノチューブ、コークス、ハードカーボン、アモルファスカーボンなどが好適に用いられる。金属系材料は正極内にて曝される電位に対し、電気化学的に溶解しないものが望ましく、アルミ、ニッケル、チタン、ステンレスなどが好適に用いられる。
【0046】
本発明の実施の形態では、導電補助材としてアセチレンブラックを用い、正極中の比率を5重量%とした。
【0047】
前記正極材料および導電補助材は粉末状であることが多く、それら同士、およびそれらを集電用金属箔体の上に固定化するためには、少量の結着材を混合して用いるのが好適である。結着材については、化学的、電気化学的に不活性であり、多少の柔軟性と親和性が要求され、プラスチック樹脂材料が好適に用いられる。
【0048】
前記プラスチック樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレン等のアルカン系ポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル系ポリマー等が挙げられる。また、前記樹脂材料の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。これらの樹脂の重量平均分子量は、通常10,000〜3,000,000、好ましくは100,000〜1,000,000である。分子量が低過ぎる場合は塗膜の強度が低下し、高過ぎる場合は、粘度が高くなり電極の形成が困難になる。
【0049】
結着材を十分均一に分布させ、またスラリーを所定の寸法に塗膜形成させるために、結着材樹脂のみを溶解し、その他の材料を溶解させない、適切なスラリー溶媒を用いることができる。例示すれば、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、溶媒にジメチルホルムアミドが好適に用いられる。あるいは、N−メチルピロリドンでも良く、製造プロセスの条件によって適宜選択して用いることができる。
【0050】
本発明の実施の形態では、樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用い、正極中の比率を5重量%とした。
【0051】
集電用金属箔体は、安価に入手でき、かつ工業的使用に耐えうる材質が好ましく、正極の発現する電位に対して電気化学的耐性を有する材料が好適に用いられる。例示すれば、アルミ箔、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス箔が好ましく、一般に入手しやすい圧延アルミ箔がより好ましい。
【0052】
前記スラリーの塗膜形成方法としては、一般に用いられる印刷技術が利用可能であり、厚み寸法が小さい場合にはグラビア印刷などや、厚い場合にはドクターブレード印刷やダイ印刷などの印刷手法が好適に用いられる。
その後、加熱乾燥されるが、いずれの乾燥方法も利用可能であり、所望の結着材による結着強度が実現できる方法が好適に用いられる。
そして、その後、所定寸法に形成される際には、工業的に利用可能な切断刃等およびその方式が好適に用いられる。また、所定の密度を実現するために、必要に応じて工業的に利用可能な加圧装置等および方式が好適に用いられる。
【0053】
本発明の実施の形態では、前記塗膜形成はドクターブレード法にて、乾燥は110℃の熱風オーブンにて、また、ロールタイプの加圧機を通し、ポンチにて直径15mmの円盤状に打ち抜き正極11を作製した。正極活物質量は約23mgであった。
【0054】
次に、負極について説明する。
負極14は、例えばカーボン系材料とバインダーと溶媒とを混合したスラリーを圧延銅箔などの集電用金属箔体の上にコートし、加熱乾燥して溶媒を除去した後、所定の寸法と密度に形成させて得る。
【0055】
負極に使用可能なカーボン系材料とは、Liイオンと外部回路から流れてくる電子とを結合安定化させることができる材料のことであり、安定化サイトをその内部に多数持つものが好ましい。
例示するならば、有機物を起源とし、結晶性が高くても、低くても、いずれも利用可能であり、グラファイト、コークス、アモルファスカーボン、ハードカーボン、ポリマーカーボン等が好適に使用できる。この場合、原理としてはグラフェン層間などでLiイオンが挟まれた状態で電子と結合し安定化するというものである。
【0056】
また、他の安定化機構として、電気化学的に金属間化合物を形成する手法も利用可能であり、ケイ素、スズ、亜鉛、ビスマス、アンチモン、カドミウム、鉛、ゲルマニュウム等が好適に使用できる。
加えて、蓄電池の負極側を司る、低い電気化学反応電位を示すその他の材料も利用可能である。好適には金属と酸素、イオウ、ハロゲン、窒素、りん等の化合物が挙げられる。
そして、蓄電池の用途によっては任意の放電プロファイルを得るために前記負極材料を複数所定比率で混合し、使用することができる。
【0057】
負極材料の物性は蓄電池の利用形態などの制約条件に起因する電池設計および製造プロセスにおける要求項目から決められるものである。材料の製造においてはその物性を実現できるようにプロセス設計等がなされている。物性値としては、粉末粒子径および分布、比表面積、密度等が挙げられる。
一例として、粉末粒子径は、蓄電池の他の構成要件との兼ね合いで適宜選択されるが、レ−ト特性、サイクル特性などの電池特性の向上の観点から、通常、平均値として1〜70μmが好ましく、5〜30μmがより好ましい。
【0058】
本発明の実施の形態では、平均粒径20μmのグラファイトを用い、負極中の比率を94重量%とした。
【0059】
前記負極材料は概ね電子伝導性は高いが、材料によっては平滑な表面を有し、粒子同士の接触が不十分の場合には、電子伝導性を補助する導電補助材を共存させることも好適である。材質としてはカーボン系材料、金属系材料が好適であり、その他の電子伝導性の高い材料も利用可能である。共存させる量は必要最低限にとどめ、蓄電池の容量を規定する負極材料の含有率を最大限に引き上げるべきである。
【0060】
前記カーボン系材料としては、すす、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ランプブラック、ファーネスブラック、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、グラファイトファイバーナノファイバー、ナノチューブ、コークス、ハードカーボン、アモルファスカーボンなどが好適に用いられる。金属系材料は負極内にて曝される電位に対し、電気化学的に反応しないものが望ましく、銅、ニッケル、チタン、ステンレスなどが好適に用いられる。
【0061】
本発明の実施の形態では、導電補助材としてアセチレンブラックを用い、負極中の比率を1重量%とした。
【0062】
前記負極材料および導電補助材は粉末状であることが多く、それら同士、およびそれらを集電用金属箔体の上に固定化するためには、少量の結着材を混合して用いるのが好適である。結着材については、化学的、電気化学的に不活性であり、多少の柔軟性と親和性が要求され、プラスチック樹脂材料が好適に用いられる。
【0063】
前記プラスチック樹脂材料としては、例えば、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂、ポリアクリロニトリル、ポリビニリデンシアニド等のCN基含有ポリマー、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系ポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のハロゲン含有ポリマー、ポリアニリン等の導電性ポリマー、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1,1−ジメチルエチレン等のアルカン系ポリマー、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の不飽和系ポリマー、ポリスチレン、ポリメチルスチレン、ポリビニルピリジン、ポリ−N−ビニルピロリドン等の環を有するポリマー、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリルアミド等のアクリル系ポリマー等が挙げられる。また、前記樹脂材料の混合物、変成体、誘導体、ランダム共重合体、交互共重合体、グラフト共重合体、ブロック共重合体などであってもよい。これらの樹脂の重量平均分子量は、通常10,000〜3,000,000、好ましくは100,000〜1,000,000である。分子量が低過ぎる場合は塗膜の強度が低下し、高過ぎる場合は、粘度が高くなり電極の形成が困難になる。
【0064】
結着材を十分均一に分布させ、またスラリーを所定の寸法に塗膜形成させるために、結着材樹脂のみを溶解し、その他の材料を溶解させない、適切なスラリー溶媒を用いることができる。例示すれば、ポリフッ化ビニリデンを用いる場合には、溶媒にジメチルホルムアミドが好適に用いられる。あるいは、N−メチルピロリドンでも良く、製造プロセスの条件によって適宜選択して用いることができる。
【0065】
本発明の実施の形態では、樹脂としてポリフッ化ビニリデンを用い、負極中の比率を5重量%とした。
【0066】
集電用金属箔体は、安価に入手でき、かつ工業的使用に耐えうる材質が好ましく、負極の発現する電位に対して電気化学的反応性を有さない材料が好適に用いられる。例示すれば、銅箔、ニッケル箔、チタン箔、ステンレス箔が好ましく、一般に入手しやすい電解銅箔や圧延銅箔がより好ましい。
【0067】
前記スラリーの塗膜形成方法としては、一般に用いられる印刷技術が利用可能であり、厚み寸法が小さい場合にはグラビア印刷などや、厚い場合にはドクターブレード印刷やダイ印刷などの印刷手法が好適に用いられる。
その後、加熱乾燥されるが、いずれの乾燥方法も利用可能であり、所望の結着材による結着強度が実現できる方法が好適に用いられる。
そして、その後、所定寸法に形成される際には、工業的に利用可能な切断刃等およびその方式が好適に用いられる。また、所定の密度を実現するために、必要に応じて工業的に利用可能な加圧装置等および方式が好適に用いられる。
【0068】
本発明の実施の形態では、前記塗膜形成はドクターブレード法にて、乾燥は110℃の熱風オーブンにて、また、ロールタイプの加圧機を通し、ポンチにて直径15mmの円盤状に打ち抜き負極14を作製した。負極活物質量は約14mgであった。
【0069】
セパレータ15は正極12と負極14とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものであり、樹脂製の多孔膜が好適に用いられる。
膜の形態は、バルク樹脂を延伸することにより、開孔させる延伸膜や、繊維状の樹脂ファイバーを多数積層させ、多孔膜のような空孔構造を作ることができる不織布などが好適に用いられる。
【0070】
樹脂の材質としては、ポリオレフィン類が挙げられ、特にポリエチレンが好適である。ポリエチレンは、融解温度が比較的低く、何らかの理由(短絡など不安全な状態など)で、電池の温度が上昇したとき、熱融解により膜中の孔が閉塞し、駆動用イオンの移動を阻害することで、反応停止、安全確保できる。
【0071】
延伸方式微多孔膜は、通常、ポリオレフィンに可塑剤などを加え、延伸する前後で可塑剤を除去し、可塑剤が存在した部分などが基点となり、比較的均一な微多孔構造を形成する。
延伸は通常、長手方向、幅方向の両方向に行われるが、前記可塑剤等除去とあわせて、任意の雰囲気媒体、温度、速度、応力、プロセス繰り返し数などが適宜組み合わされて、好適な延伸膜を得ることができる。
【0072】
前記製造工程によって、高品質の延伸膜が得られるが、多段階の工程となるため、工程費など製造原価の低減が難しく、蓄電池普及には負の要因となる場合がある。
一方で、可塑剤などを使用せず、延伸を長手方向のみに工程を簡略化することで、工業レベルで使用可能であり、且つ製造原価の低減を図れる多孔膜を得ることができる。この場合の樹脂はポリオレフィンであり、ポリプロピレンが好適に用いられる。
【0073】
本発明の実施の形態では、樹脂としてポリエチレンを用いた幅および長手方向の2軸で延伸した微多孔膜を用いた。膜厚は25μm、空隙率は45%、融解温度約120℃であった。
【0074】
このような構成を有する蓄電池は次のように作用する。
充電を行うと、正極12に含まれるLiイオンがセパレータ15を通過して負極14に含まれるグラファイトの層状構造の層間に挿入される。その後、放電を行うと、負極14に含まれる層状構造の層間からLiイオンが脱離し、セパレータ15を通過して正極12に戻る。
【0075】
以上、本発明に係る蓄電池について説明したが、本発明は前記の実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
前記実施の形態においては、コイン型の蓄電池について説明したが、本発明の蓄電池は、ボタン型、ペーパー型、角型、あるいはスパイラル構造を有する筒型などの他の形状を有するものについても同様に適用することができる。また、本発明の蓄電池は、薄型、大型等の種々の大きさにすることができる。
更に、本発明は、本発明に係る電解質が、通常、製造方法として電極やセパレータ等へ液体を含浸させる工程を有する蓄電池の場合を想定した実施形態を描写しているが、他のあらゆる電解質に適用可能であり、例示するならば、ゲル状電解質、固体状電解質にも好適に使用可能である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
【0077】
(実施例1)
表3に示す組成の電解質を用いて、本発明の実施の形態にしたがって蓄電池を作製した。
作製した蓄電池に対して、0.875mAの定電流で4.2Vまで充電を行い、4.2Vに到達してから8時間定電圧条件で充電した。その後、室温にて0.875mAの定電流で3.0Vまで放電を行った。さらに、前記と同条件で再度充電し、0℃のオーブンにて2時間放置後、7.00mAの定電流で放電した。1回目の放電容量に対する2回目の放電容量の比率を求め、0℃ 2C放電試験での容量維持率とした。結果を表3および図2に示した。
【0078】
(比較例1)
表3に示す組成の電解質を用いて、実施例1と同様に蓄電池を作製し、0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表3および図2に示した。
【0079】
化合物の種類と混合量を変えて実験したが、図2に示すとおり、1,1−ジフェニルエタンは実用的な低温高出力放電において混合量を増加させても良好な特性を示した。
【0080】
(実施例2)
表4に示す組成の電解質を用い、セパレータに一軸延伸によるポリプロピレン製微多孔膜を用いる以外は実施例1と同様に蓄電池を作製した。
実施例1と同様に0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表4に示した。
【0081】
(比較例2)
表4に示す組成の電解質を用い、実施例2と同様に蓄電池を作製し、0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表4に示した。
【0082】
1,1−ジフェニルエタンを混合した電解質とポリプロピレン製セパレータを組み合わせて用いることで、2,2−ジフェニルプロパンよりも特性が向上した。
【0083】
(実施例3)
表5に示す組成の電解質を用い、実施例1と同様に蓄電池を作製した。
実施例1と同様に0℃ 2C放電試験での容量維持率を求めた。結果を表5および図3に示した。
【0084】
(比較例3)
表5に示す組成の電解質を用い、実施例3と同様に蓄電池を作製し、0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表5および図3に示した。
【0085】
本実施例および実施例1−2、比較例1−5、比較例1−6の結果より、図3に示すとおり、特定のLi塩濃度において特性が向上し、特に1,1−ジフェニルエタンでは顕著であった。
【0086】
(実施例4)
表6に示す組成の電解質を用い、実施例1と同様に蓄電池を作製した。
実施例1と同様に0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表6および図4に示した。
【0087】
(比較例4)
表6に示す組成の電解質を用い、実施例4と同様に蓄電池を作製し、0℃2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表6および図4に示した。
【0088】
本実施例および実施例3−2、比較例3−4の結果より、図4に示すとおり、環状カーボネートの特定の濃度範囲において良い特性が得られ、特に1,1−ジフェニルエタンで良い特性が得られることが明らかとなった。
【0089】
(実施例5)
表7に示す組成の電解質を用い、実施例1と同様に蓄電池を作製した。
実施例1と同様に0℃ 2C放電試験での容量維持率を求め、結果を表7に示した。
本実施例と実施例3−2の結果より、特定の鎖状カーボネートにおいて良い特性が得られることが明らかとなった。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
【表3】
【0093】
【表4】
【0094】
【表5】
【0095】
【表6】
【0096】
【表7】
図1
図2
図3
図4