特許第6130368号(P6130368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6130368-車両用灯具 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130368
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】車両用灯具
(51)【国際特許分類】
   F21S 8/10 20060101AFI20170508BHJP
   F21W 101/10 20060101ALN20170508BHJP
   F21Y 101/00 20160101ALN20170508BHJP
【FI】
   F21S8/10 141
   F21W101:10
   F21Y101:00 300
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-521264(P2014-521264)
(86)(22)【出願日】2013年5月31日
(86)【国際出願番号】JP2013065197
(87)【国際公開番号】WO2013187257
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年3月4日
(31)【優先権主張番号】特願2012-135790(P2012-135790)
(32)【優先日】2012年6月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001133
【氏名又は名称】株式会社小糸製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 深
(72)【発明者】
【氏名】吉村 剛直
【審査官】 下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−018887(JP,A)
【文献】 特開2010−277892(JP,A)
【文献】 特開平01−242234(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/138842(WO,A1)
【文献】 特開2011−088997(JP,A)
【文献】 特開2006−231922(JP,A)
【文献】 特開2008−208194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/10
F21W 101/10
F21Y 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前方が開口したランプボディと、その前方開口部を閉塞して取り付けられた前面カバーとを有する車両用灯具であって、
該ランプボディがベース樹脂と表面処理により透湿性を低下させた植物繊維とを含有する樹脂組成物から形成されたものである車両用灯具。
【請求項2】
前記植物繊維が、パルプ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、ガンピ、ミツマタ、コウゾ、スギ、タケ、カカオ、ケナフ、バナナ、パイナップル、サトウキビ、ココヤシ、トウモロコシ、バガス、ヤシ、ヨシ、エスパルト、サバイグラス、シュロ、バショウ、マツ、クワ、リュウゼツラン、ムギ、イネ及びヒノキから選ばれる少なくともいずれかである請求項1記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記表面処理された植物繊維がサイジング処理されたものである請求項1または2記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記ベース樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリサルフォン、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくともいずれかである請求項1〜3のいずれか記載の車両用灯具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具に関し、軽量かつ高強度で、前面カバーの灯室内側に曇りの発生などの外観不良がない、車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両の軽量化が望まれており、そのため車両を構成する各パーツの軽量化が進められている。軽量化が求められる車両パーツの1つに灯具(ランプ類)も含まれる。
車両用灯具は、一般的に、前方が開口したランプボディ、その前方開口部を閉塞して取り付けられた前面カバー、エクステンション、リフレクタ、光源、電装部品等を有するものである。このような車両用灯具の総重量の軽量化には、一般的に樹脂材料で形成されかつ車両用灯具の総重量に対して比較的高い比率を占めるランプボディの軽量化が有効であると考えられる。
【0003】
一方、樹脂材料から形成される樹脂成形体は、樹脂のみから形成すると強度等が不十分であるため、充填剤(フィラー)をベース樹脂に添加するのが一般的である。そして機械的強度等を必要とする樹脂成形体に好適なフィラーとしては、タルク等の比較的比重の高い鉱物性のものが用いられていた。
このことから、樹脂材料から形成される樹脂成形体において、その強度を保ちながら、軽量化を目指す場合には、フィラーとしては比重のより小さいものを使用することが有効と考えられる。
そして特許文献1には、ポリプロピレンと植物繊維を含む樹脂組成物で成型体を得る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】日本国特開2011−88997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ベース樹脂と植物繊維とを含有する樹脂組成物から形成されたランプボディを用いて灯具とした場合に、その使用中に前面カバーの灯室内側に曇り等の外観不良が発生するという問題があった。
これらの事情に鑑み、本発明は、ベース樹脂と植物繊維とを含有する樹脂組成物から形成されたランプボディを用いた車両用灯具において、その使用中に前面カバーの灯室内側に曇りの発生等の外観不良がないものを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、下記構成を採ることにより上記課題を解決することができた。
即ち、本発明は以下の通りである。
【0007】
(1)前方が開口したランプボディと、その前方開口部を閉塞して取り付けられた前面カバーとを有する車両用灯具であって、
該ランプボディがベース樹脂と表面処理された植物繊維とを含有する樹脂組成物から形成されたものである車両用灯具。
(2)前記植物繊維が、パルプ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、ガンピ、ミツマタ、コウゾ、スギ、タケ、カカオ、ケナフ、バナナ、パイナップル、サトウキビ、ココヤシ、トウモロコシ、バガス、ヤシ、ヨシ、エスパルト、サバイグラス、シュロ、バショウ、マツ、クワ、リュウゼツラン、ムギ、イネ及びヒノキから選ばれる少なくともいずれかである前記(1)の車両用灯具。
(3)前記表面処理された植物繊維がサイジング処理されたものである前記(1)または(2)の車両用灯具。
(4)前記ベース樹脂が、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ乳酸、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリサルフォン、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシリコーン樹脂から選ばれる少なくともいずれかである前記(1)〜(3)のいずれかの車両用灯具。
【0008】
植物繊維を含有する樹脂組成物から形成されたランプボディを用いた車両用灯具が、その使用中に前面カバーの灯室内側に曇りの発生する原因としては、明確ではないが、以下の理由が考えられる。
植物繊維は水分を含み易い。水分を含んだ植物繊維を含むランプボディを有する灯具を使用すると、光源の熱等により、ランプボディの植物繊維に含まれる水分が灯室内に放出され、これが灯室内の曇りとなる。
【0009】
これに対して、本発明は、ランプボディに含まれる植物繊維を、表面処理されたものとすることにより、植物繊維からの水分の放出が抑制され、上記の灯室内の曇りがなくなるものと推定される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ランプボディに含まれる植物繊維を、表面処理されたものとすることにより、灯室内の曇り発生がないものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の車両用灯具の一例を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の車両用灯具についての好ましい実施形態を詳細に説明する。
本発明の車両用灯具の一例を図1の模式断面図にて説明する。
本発明の車両用灯具1は、素通し状の透明な前面カバー2とランプボディ3とを有し、前面カバー2とランプボディ3とで区画形成された灯室4内に、灯具ユニット5がランプボディ3にエイミング機構6を介して支持されている。図1に示す灯具ユニット5は、投影レンズ8と、光源10と、リフレクタ13とを備えている。また、前面カバー2の後方に投影レンズ8を露出させるようにランプボディ3の内面を覆うエクステンション50が配置される。
【0013】
本発明の車両用灯具に使用するランプボディ(以下「本発明のランプボディ」とも称する)3について説明する。
本発明のランプボディ3は、上述したように、前方が開口した形状を有し、その前方開口部には、前面カバー2が取り付けられる。
また、本発明のランプボディ3は、ベース樹脂と表面処理された植物繊維とを含有する樹脂組成物から成形されたものである。
【0014】
本発明のランプボディ3を成形するために用いる樹脂組成物に使用される植物繊維としては、特に限定されないが、パルプ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、ガンピ、ミツマタ、コウゾ、スギ、タケ、カカオ、ケナフ、バナナ、パイナップル、サトウキビ、ココヤシ、トウモロコシ、バガス、ヤシ、ヨシ、エスパルト、サバイグラス、シュロ、バショウ、マツ、クワ、リュウゼツラン、ムギ、イネ及びヒノキ等が挙げられる。上記の中でも、ランプボディ3の成形に用いる金型の腐食等の原因となる不純物の含有量が少ないという点でパルプが好ましい。
【0015】
上記植物繊維の表面処理としては、特に限定されないが、透湿性の低い物質を繊維表面に形成する手法(スパッタ法、蒸着法、プラズマCVD、ゾル−ゲル法、サイジング処理)などが挙げられる。特に、混錬等の作業により容易に撥水処理できるサイジング処理が好ましい。
【0016】
透湿性の低い物質としては、シランカップリング剤、疎水性樹脂、フッ素撥水剤、ロジン石鹸、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、ポリビニルアルコール、各種金属膜等が挙げられる。特に作業性や工程の簡便性から疎水性樹脂が好ましい。
上記の疎水性樹脂としては、テルペン、熱可塑性フッ素樹脂、塩化ビニリデン、高密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0017】
本発明において使用する表面処理された植物繊維として、好ましいものは、サイジング処理されたパルプである。サイジング処理されたパルプは、前述の通り、ランプボディ3の成形に用いる金型の腐食等の原因となる不純物の含有量が少なくなるため好ましい。
上記の表面処理された植物繊維の含有量は、特に限定されず、使用する植物繊維の種類、共に使用する後述のベース樹脂の種類等によって、適宜選択されることが好ましいが、本発明のランプボディ3(ランプボディ3を成形するために用いる樹脂組成物)中に5〜80質量%含むことが好ましく、より好ましくは15〜60質量%である。
【0018】
本発明のランプボディ3を成形するために用いる樹脂組成物に使用されるベース樹脂としては、特に限定されないが、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体(AAS)、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体(AES)、塩素化ポリエチレン−アクリロニトリル−スチレン共重合体(ACS)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、液晶ポリマー(LCP)、ポリサルフォン(PSU)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂及びシリコーン樹脂等が挙げられ、中でも、PPが好ましい。
【0019】
本発明のランプボディ3を成形するために用いる樹脂組成物を調製する際には、少なくとも前記ベース樹脂と表面処理された植物繊維とが均一になるように混錬する。
この際の混錬方法としては、特に限定されず、公周知のスクリュー混錬等各種の混錬方法を採ることができる。
【0020】
本発明に使用する前面カバー2は、素通し状の透明なもので、ランプボディ3の前方開口部を閉塞し灯室を形成し得るものであれば、形状、材質等は特に限定されず、公周知のもの等を用いることができる。なお、材質としては、ポリカーボネート、アクリル樹脂及びポリスチレン等の透明な熱可塑性樹脂や、ガラス等の無機透明材料等が挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下、本発明に係る実施例及び比較例を用いた評価試験の結果を示し、本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕
(ペレットの作製)
パルプ繊維(繊維長:200μm)80wt%に対して、水添テルペンを8wt%、PP(ベース樹脂)12wt%添加して混錬を行い、これを撥水処理後のパルプ繊維とした。
撥水処理後のパルプ繊維25wt%にベース樹脂PPを75wt%添加して、パルプ繊維含有量を20wt%に調整した。これを再度混錬して、撥水処理後のパルプ繊維20wt%含有のPPペレットを得た。
【0023】
ペレットを射出成形機(東芝機械(株)製、EC40N)に投入し、シリンダ温度190℃、金型温度40℃で射出成形して、110mm×60mm×3mmの長方形の板状試験片を成形した。
【0024】
〔比較例1〕
ペレットの作製を、パルプ繊維20wt%、ベース樹脂PP80wt%として混錬した以外は、実施例1と同様の手法で行った。
【0025】
実施例1及び比較例1で得られた板状試験片について、吸水率を測定した。吸水率の測定方法は以下に示す通りであり、結果を下記表1に示す。
【0026】
(吸水率の測定)
・前処理として、90℃のオーブン中に試験片を静置し、48時間乾燥させた。この時の重量を初期重量とし、吸水率0%と規定した。
・乾燥後の試験片を60℃95%RHに調整した恒温恒湿槽内に置き、経過時間後の重量変化を試験片の吸水量とした。
・経過時間後の吸水量から初期重量を除した値を吸水率とした。
【0027】
【表1】
【0028】
実施例1の試験片は、比較例1の試験片に比べて、吸水率を約25%低下させることができた。
【0029】
本発明を特定の態様を参照して詳細に説明したが、本発明の精神と範囲を離れることなく様々な変更および修正が可能であることは、当業者にとって明らかである。
なお、本出願は、2012年6月15日付で出願された日本特許出願(特願2012−135790)に基づいており、その全体が引用により援用される。また、ここに引用されるすべての参照は全体として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の車両用灯具は、ランプボディに含まれる植物繊維を、表面処理されたものとすることにより、灯室内の曇り発生がないものとすることができ、車両用灯具としてきわめて有用である。
【符号の説明】
【0031】
1 車両用灯具
2 前面カバー
3 ランプボディ
4 灯室
5 灯具ユニット
6 エイミング機構
8 投影レンズ
10 光源
13 リフレクタ
50 エクステンション
図1