(54)【発明の名称】病原性微生物、例えば、腸管出血性大腸菌(Escherichiacoli)(EHEC)に対して有効な新規の抗微生物ペプチドである、細菌によって形成されたミクロシンS(microcinS)
【文献】
NORMAN ANDERS,GENETIC CHARACTERIZATIONS OF INCX-PLASMIDS OF THE ENTEROBACTERIACEAE,THESIS (INTERNET CITATION [ONLINE]),2009年 1月 1日,P1-162
【文献】
Shigella sp. MO17 plasmid pMO17_54 complete sequence,HE578057.1,GenBank,2011年 9月 4日,VERSION HE578057.1 GI:345499157,2016/04/28検索,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/HE578057.1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
微生物感染症が腸管病原性大腸菌および/または腸管出血性大腸菌(EPEC、EHEC)の感染症を含む、または溶血性尿毒症症候群(HUS)を伴う微生物感染症の治療または予防において使用するための、請求項9に記載のポリペプチド。
ミクロシンSに対して感受性の細菌を同定するためのin vitro方法であって、請求項1に記載のポリペプチドまたは請求項2に記載の核酸分子によりコードされるポリペプチドまたは請求項5に記載の組成物を細胞と接触させることを含み、細胞の腸上皮細胞への接着効率が低下することにより、細胞のミクロシンSに対する感受性が示される方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
技術的な問題
本発明は、上記の先行技術を考慮し、またヒトおよび動物用の医薬における新規の抗細菌性の予防的作用剤の需要の増加を考慮してなされた。基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ(enhanced−spectrum beta−lactamase)(ESBL)株の療法はますます困難である。本発明の目的は、従来の抗生物質、したがって、ESBL産生体である病原性微生物の制御の代替として使用することができる新規の抗微生物ミクロシンポリペプチドを提供することである。この関連で、本発明の目的は、ESBL産生大腸菌、さらに、ドイツにおけるごく最近の大規模な大発生の原因病原体であった毒性が高い腸管出血性大腸菌(EHEC)株も含めた病原性グラム陰性細菌の処置において使用することができる新規の抗微生物ミクロシンポリペプチドを提供することである(Frank,C.ら(2011)N Engl J Med 10.1056/NEJMoa1106483;Mellmann,A.ら(2011)PLoS ONE 6(7):e22751.doi:10.1371)。EHEC細胞は、特定の抗生物質を用いて処置することによってより大量の志賀毒素を放出する。したがって、患者を抗生物質で処置することは禁忌であると考えられている。新規のミクロシンポリペプチドはEHECおよび腸管病原性大腸菌(EPEC)感染症の治療および予防において有効である。本発明のさらなる目的は、成人および小児における機能性胃腸障害、特に過敏性腸症候群の治療において使用することができる新規の抗微生物ミクロシンポリペプチドを提供することである。本発明のさらなる目的は、前記医学的使用のための、新規のミクロシンポリペプチドを産生する細胞の新規のミクロシンポリペプチドを含む組成物を提供することである。癌の治療において使用することができる新規のミクロシンポリペプチド、食料品の保存において使用することができる新規のミクロシンポリペプチドおよび包帯材のコーティングにおいて使用することができる新規のミクロシンポリペプチドを提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
問題を解決するために、本発明は、一態様では、
a)配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも50%以上同一であるアミノ酸配列を含む、
b)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチド配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と少なくとも50%以上同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子によりコードされる、
c)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチドの配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によりコードされる、または
d)配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子変異体を含む、
単離されたポリペプチドを特徴とする。
【0007】
詳細には、
a)配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも70%以上同一であるアミノ酸配列を含み、抗微生物活性を有するアミノ酸配列を含む、
b)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチド配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と少なくとも70%以上同一であるヌクレオチド配列を含む核酸分子によりコードされ、配列番号1を含むヌクレオチド配列は少なくとも抗微生物活性もしくはミクロシンS自己免疫(self−immunity)活性もしくはミクロシンS輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2を含むヌクレオチド配列は抗微生物活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号3を含むヌクレオチド配列はミクロシンS自己免疫活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号4を含むヌクレオチド配列はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号5を含むヌクレオチド配列はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードする、
c)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチドの配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子によりコードされ、配列番号1を含むヌクレオチド配列は少なくとも抗微生物活性もしくはミクロシンS自己免疫活性もしくはミクロシンS輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2を含むヌクレオチド配列は抗微生物活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号3を含むヌクレオチド配列はミクロシンS自己免疫活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号4を含むヌクレオチド配列はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号5を含むヌクレオチド配列はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードする、または
d)抗微生物活性を有するアミノ酸配列を含む、配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子変異体を含む、
単離されたポリペプチドが記載されている。
【0008】
「抗微生物活性」という用語は、ミクロシンによって、詳細にはミクロシンSによって引き起こされる抗微生物活性と理解されなければならない。
【0009】
本発明のさらなる態様では、ミクロシンSポリペプチドをコードする単離された核酸分子であって、
a)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つまたはその相補体と少なくとも50%以上同一であるヌクレオチド配列を含む、
b)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチド配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子を含む、
c)配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも50%以上同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、または
d)配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子変異体をコードする核酸分子を含む、
核酸分子が利用可能になる。
【0010】
より詳細には、ミクロシンSポリペプチド、ミクロシンS自己免疫活性を有するポリペプチドまたはミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードする単離された核酸分子であって、
a)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つもしくはその相補体と少なくとも70%以上同一であるヌクレオチド配列を含み、配列番号1を含む核酸分子は少なくとも抗微生物活性もしくはミクロシンS自己免疫活性もしくはミクロシンS輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2を含む核酸分子は抗微生物活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号3を含む核酸分子はミクロシンS自己免疫活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号4を含む核酸分子はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号5を含む核酸分子はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードする、
b)配列番号1、2、3、4もしくは5のいずれか1つのヌクレオチド配列もしくはその相補体を含むヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸分子を含み、配列番号1を含む核酸分子は少なくとも抗微生物活性もしくはミクロシンS自己免疫活性もしくはミクロシンS輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号2を含む核酸分子は抗微生物活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号3を含む核酸分子はミクロシンS自己免疫活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号4を含む核酸分子はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードし、配列番号5を含む核酸分子はミクロシンSの輸送活性を有するポリペプチドをコードする、
c)抗微生物活性を有する、配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも70%以上同一であるアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む、または
d)抗微生物活性を有する、配列番号6もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含むポリペプチドの天然に存在する対立遺伝子変異体をコードする核酸分子を含む、
核酸分子が記載されている。
【0011】
種々の態様において、本発明は、本発明による核酸分子を含むプラスミドならびに本発明による核酸分子および/またはポリペプチドおよび/またはプラスミドを含む細胞に関する。
本発明は、本発明によるポリペプチドに選択的に結合する抗体も対象とする。
【0012】
本発明のさらなる態様は、
a)本発明によるポリペプチド;および/または
b)本発明による細胞
を含む組成物に関する。
【0013】
療法または予防において使用するための本発明のポリペプチド、細胞および組成物も開示されている。
【0014】
一態様では、本発明のポリペプチド、細胞および組成物は微生物感染症の治療または予防において使用するためのものであり、好ましくは、微生物感染症は腸管病原性大腸菌および/または腸管出血性大腸菌(EPEC、EHEC)の感染症を含む、または、好ましくは、微生物感染症は溶血性尿毒症症候群(HUS)、好ましくは腸疾患性の溶血性尿毒症症候群を含む。
【0015】
別の態様では、本発明のポリペプチド、細胞および組成物は胃腸障害、好ましくは機能性胃腸障害の治療において使用するためのものである。
【0016】
さらなる態様では、本発明のポリペプチド、細胞および組成物は腫瘍の治療において使用するためのものである。
【0017】
本発明は、本発明のポリペプチドを作製するための方法であって、
本発明による核酸分子、核酸プライマーもしくはプローブ、プラスミドまたは細胞を使用すること、または
液相もしくは固相ペプチド合成技法によって本発明のポリペプチドを合成すること
を含む方法を特徴とする。
【0018】
本発明による単離されたポリペプチドは、ポリペプチドを作製するための前記方法によって作製することができる。
【0019】
追加の態様では、ミクロシンSに対して感受性の細菌を同定するためのin vitro方法であって、本発明によるポリペプチド;核酸分子、核酸プライマーもしくはプローブ、細胞、抗体または組成物を使用することを含む方法が提供される。
【0020】
本発明は、食料品を保存するための方法であって、
食料品に少なくとも1種類の天然の抗微生物性作用剤を添加することを含み、作用剤が、
a)本発明によるポリペプチド;
b)本発明による細胞;および/または
c)本発明による組成物
である方法にも関する。
【0021】
さらなる態様では、本発明は、包帯材をコーティングするための方法であって、
包帯材を、
a)本発明によるポリペプチド;および/または
b)本発明による組成物
でコーティングする方法に関する。
【0022】
発明の有利な効果
すなわち、本発明者らは、新規の、従前のミクロシンではない、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列が独特であるポリペプチドミクロシンSを同定した。ミクロシンSの効果に関与する遺伝子が同定されており、それらの効果は機能的に特徴付けられている。本発明者らは、驚いたことに、古典的なベータ−ラクタム系抗生物質の大部分とは対照的に、ミクロシンSはESBL産生O104:H4アウトブレイク株ならびにO128:H2およびO157:H7 EHEC分離株を含むEHECの阻害効果を示すことを見いだした(
図5)。したがって、さらに、ミクロシンSが腸管出血性大腸菌(EHEC)および腸管病原性大腸菌(EPEC)の感染症の治療において有効であることが見いだされた。したがって、ミクロシンSは、従来の抗生物質、したがって、病原性微生物の制御の代替として使用することができる。さらに、食料品保存のための使用が可能であり、それにより、本発明は完了した。さらに、プラスミドpSYM1(
図1)によりコードされる大腸菌G3/10のミクロシンS(MccS)遺伝子クラスター(配列番号1)が、4種のクラスター化された遺伝子、mcsS(配列番号2)、mcsI(配列番号3)、mcsA(配列番号4)およびmcsB(配列番号5)からなることも見いだされた。大腸菌G3/10は、例えば胃腸障害を治療するために使用される十分に証明されたプロバイオティクスであるので、必ずしもミクロシンSを該株から精製しなければならないとは限らない。MccSはin vivoにおいて有利に有効であるはずである。
【0023】
利点は、ミクロシンSは非毒性であり、アレルギーを誘導し得ず、また、病原性微生物が耐性を生じることが難しいことである。
【0024】
本発明の他の特徴および利点は、以下の発明の詳細な説明、および特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0034】
定義
特に定義されていなければ、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾する場合は、定義を含めた本明細書が優先される。
【0035】
冠詞「a(1つの)」、「an(1つの)」または「the(その)」は、本明細書において使用される時はいつでも「1つ(one)」または「いくつか(several)」を指す、すなわち、「1つ(one)」、「少なくとも1つ(at least one)」または「1つまたは複数(one or more)」を意味する。例えば、「1つの細胞(a cell)」という用語は、単一の細胞だけでなく複数の細胞も指す場合がある。
【0036】
「含む(comprise)」という用語は、「含む(comprises)」という用語が「からなる(consists of)」を意味する実施形態も包含する。
【0037】
本明細書で使用される場合、アミノ酸または核酸分子の「同一性」とは、アミノ酸または核酸分子の「相同性」と等しい。
【0038】
「ストリンジェントな条件」という句は、プローブ核酸分子が、一般には核酸分子の複合混合物中のその標的核酸分子配列とはハイブリダイズするが、他の配列とはハイブリダイズしない条件を指す。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、異なる状況では異なる。より長い配列はより高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸ハイブリダイゼーションのパラメータは、そのような方法が編集されている参考文献、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、J.Sambrookら編、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、New York、1989、またはCurrent Protocols in Molecular Biology、F.M.Ausubelら編、John Wiley &Sons,Inc.、New Yorkにおいて見いだすことができる。一般に、ストリンジェントな条件は、決められたイオン強度、pHにおいて、特定な配列の熱的融点(T
m)よりも約5〜10℃低くなるように選択される。T
mとは、標的と相補的なプローブの50%が標的配列と平衡状態でハイブリダイズする(標的配列はT
mにおいて過剰に存在し、プローブの50%が平衡状態で占有される)温度である(定義済みのイオン強度、pH、および核酸濃度の下で)。ストリンジェントな条件は、pH7.0〜8.3において塩濃度が約1.0M未満のナトリウムイオン、一般には、約0.01〜1.0Mのナトリウムイオン濃度(または他の塩)であり、温度が、短いプローブ(例えば、10〜50ヌクレオチド)に対しては少なくとも約30℃であり、長いプローブ(例えば、50ヌクレオチド超)に対しては少なくとも約60℃である条件になる。ストリンジェントな条件は、ホルムアミドなどの不安定化剤を添加することで実現することもできる。高ストリンジェンシーハイブリダイゼーションに関し、陽性シグナルは、少なくともバックグラウンドの2倍であり、好ましくはバックグラウンドの10倍のハイブリダイゼーションである。例示的な高ストリンジェンシーまたはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、0.2×SSCおよび0.1%SDS、65℃で洗浄することを伴う、50%ホルムアミド、5×SSCおよび1%SDS、42℃でインキュベート、または5×SSCおよび1%SDS、65℃でインキュベートすることが挙げられる。
【0039】
本明細書で使用される場合、ポリペプチドの「ミクロシン様活性」という用語は、ポリペプチドが、密接に関連する種に対する強力な抗微生物/抗細菌活性を発揮することを意味する。この用語は、さらに、ミクロシン産生体が、自身が産生するミクロシンに対して耐性であることを意味し、これは、1つの遺伝子クラスター内に位置する少なくとも1種の耐性付与遺伝子によって媒介される。
【0040】
本明細書で使用される場合、「プラスミド」という用語は、細胞において複製することができ、また、結合したセグメントの複製が生じるように、別の核酸分子を作動可能に連結することができる核酸分子を指す。対象ポリペプチドをコードする構造遺伝子の発現を導くことができるプラスミドは、本明細書では「発現プラスミド」と称される。
【0041】
本明細書で使用される場合、「作動可能に連結した」という句は、対象核酸分子が、核酸分子によって形成される構造遺伝子の発現がプラスミドの制御下になるようにプラスミドに結合していることを意味する。
【0042】
「調節配列」という用語は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現制御エレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むものとする。
【0043】
本明細書では、「接合性プラスミド」という用語は、コンジュゲーションのプロセスの間に1つの細胞から別の細胞に移動させることができるプラスミドを指す。
【0044】
本明細書で使用される場合、「形質転換」および「トランスフェクション」という用語は、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するための、リン酸カルシウム共沈澱または塩化カルシウム共沈澱、DEAE−デキストラン媒介トランスフェクション、リポフェクション、または電気穿孔を含めた種々の当技術分野で認められている技法を指すものとする。
【0045】
本明細書で使用される場合、「プロバイオティクス」という用語は、特定の数を摂取すると、固有の基本的な栄養を越える健康利益を発揮する、生きている微生物を指す。
【0046】
本明細書で使用される場合、「医薬組成物」とは、本明細書に記載の活性成分、すなわち、本発明によるポリペプチド(もしくはその薬学的に許容される塩)または本発明による細胞の1つまたは複数の、生理的かつ薬学的に許容される担体および賦形剤などの他の化学成分を伴う調製物を指す。医薬組成物の目的は、生物への化合物の投与を容易にすることである。
【0047】
以下、「生理的に許容される担体」および「薬学的に許容される担体」という句は互換的に使用することができ、生物に対する著しい刺激を引き起こさず、投与される化合物の生物学的な活性および性質を抑止しない担体または希釈剤を指す。薬学的に許容される担体に含まれる成分のうちの1つは、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、有機媒体および水媒体のどちらにおいても広範囲の溶解性を有する生体適合性ポリマー(Mutterら(1979)であってよい。
【0048】
本明細書では、「賦形剤」という用語は、活性成分の投与をさらに容易にするために医薬組成物に添加される不活性な物質を指す。賦形剤の例としては、これだけに限定することなく、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、種々の糖および種々のデンプン、セルロース誘導体、ゼラチン、植物油およびポリエチレングリコールが挙げられる。
【0049】
本明細書で使用される場合、「治療すること(treating)」という用語は、疾患過程の有害作用を予防すること、治癒させること、反転させること、減弱させること、緩和すること、最小化すること、抑制することまたは停止させることを指す。
【0050】
本明細書で使用される場合、「対象」という用語は、本発明から利益を得る可能性がある対象、例えば、動物または哺乳動物(例えば、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒト)など、好ましくはヒト対象を指す。
【0051】
本明細書では、「機能性胃腸障害」という用語は、胃腸管の異なる部分に影響を及ぼすいくつもの別々の特発性障害を包含する。
【0052】
ポリペプチド
本発明のミクロシンSポリペプチドは、そのアミノ酸残基配列および新規の機能的性質を特徴とする。ポリペプチドは、当技術分野で公知の方法を用いて単離することができる。すなわち、天然に存在するまたは組換えによって作製されたミクロシンSポリペプチドを、標準のタンパク質の精製技法を用いた適切な精製スキームによって細胞または組織供給源から単離することができる。しかし、ミクロシンSポリペプチドは細胞内に天然に存在してもよく、または組換えDNA技法によって作製することもでき、あるいは組換え発現の代わりに、標準のペプチド合成技法を用いてミクロシンSポリペプチドを化学的に合成することができる。本明細書では、ミクロシンSポリペプチドは、表現型により特徴付けられ、ミクロシンSと名付けられた大腸菌ミクロシンに分類される。
図2では、上のパネルにミクロシンS前駆体のアミノ酸配列が示されている。2重のグリシンリーダーペプチドに下線が引かれている。アスタリスクは、クラスIIミクロシンに典型的なジスルフィド結合の形成に関与する可能性があるシステインを示す。アミノ酸配列は2重のグリシン切断部位を有するグリシンリッチペプチドを示す。配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチドまたは配列番号6または配列番号7のアミノ酸配列を有するポリペプチドの生物活性変異体を本明細書に記載の方法において使用することができる。
【0053】
したがって、好ましい実施形態では、ポリペプチドは、配列番号6のアミノ酸配列と、または配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含むまたはそれからなる。
【0054】
2つのアミノ酸配列または2つの核酸配列のパーセント同一性を決定するために、最適に比較する目的で配列をアラインメントする(例えば、最適なアラインメントのために、第1のアミノ酸配列または核酸配列および第2のアミノ酸配列または核酸配列の一方または両方にギャップを導入することができる)。
【0055】
好ましい実施形態では、ポリペプチドは、配列番号1、2、3、4または5のいずれか1つのヌクレオチド配列またはその相補体を含むヌクレオチド配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含むまたはそれからなる核酸分子によりコードされる。
【0056】
次いで、対応する位置にある残基を比較し、一方の配列のある位置が他方の配列の対応する位置と同じ残基によって占められている場合、それらの分子はその位置において同一である。したがって、2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列に共有される同一の位置の数の関数である(すなわち、%同一性=同一の位置の数/位置の総数×100)。2つの配列間のパーセント同一性は、2つの配列を最適にアラインメントするために導入したギャップの数、および各ギャップの長さを考慮に入れた、それらの配列に共有される同一の位置の数の関数である。
【0057】
配列の比較および2つの配列間のパーセント同一性の決定は、数学的なアルゴリズムを使用して実現することができる。配列を比較するために利用される数学的なアルゴリズムの非限定的な例は、KarlinおよびAltschul(1993)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873にある通り改変されたKarlinおよびAltschul(1990)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264のアルゴリズムである。そのようなアルゴリズムは、Altschulら(1990)J.Mol.Biol.215:403のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み入れられる。本発明の核酸分子と相同なヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12を用いてBLASTヌクレオチド検索を実施することができる。本発明のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3を用いてBLASTタンパク質検索を実施することができる。比較する目的でギャップを挿入したアラインメントを得るために、Altschulら、(1997)Nucleic Acids Research 25(17):3389に記載のギャップ挿入BLASTを利用することができる。BLASTおよびギャップ挿入BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)の初期状態のパラメータを使用することができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列を比較するために利用されるアルゴリズムの別の好ましい非限定的な例はMyersおよびMillerのアルゴリズム、CABIOS(1989)である。そのようなアルゴリズムは、GCG配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(バージョン2.0または2.OU)に組み入れられる。アミノ酸配列を比較するためにALIGNプログラムを利用する場合、PAM120重み付け残基表(weight residue table)、ギャップ長ペナルティ(gap length penalty)12、およびギャップペナルティ(gap penalty)4を使用することができる。配列解析のための追加的なアルゴリズムは当技術分野で公知であり、それらとして、TorelliおよびRobotti(1994)Comput.Appl.Biosci.10:3に記載のADVANCEおよびADAM;ならびにPearsonおよびLipman(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:2444に記載のFASTAが挙げられる。
【0058】
さらなる実施形態では、ポリペプチドは、ミクロシン様活性、抗微生物活性、抗細菌活性または抗腫瘍活性を有する。ポリペプチドは、細菌ポリペプチド、好ましくは細菌ミクロシンSである。さらに、ポリペプチドは細菌のヒト腸上皮細胞への接着を阻害する。すなわち、ポリペプチドは密接に関連する種に対する抗微生物/抗細菌活性をもたらすが、ポリペプチドは、自身が産生するミクロシンに対して耐性であるその産生体に対する抗微生物/抗細菌活性は発揮しないことが理解されなければならない。したがって、ポリペプチドは密接に関連する細菌種のヒト腸上皮細胞への接着を阻害する。
【0059】
ポリペプチドは大腸菌株から得られることができることが好ましく、大腸菌G3/10から得られることができることがより好ましい。他の実施形態では、大腸菌G3/10は大腸菌G3/10DSM16443である。
【0060】
ポリペプチドは生分解性であることがさらに好ましい。
【0061】
核酸分子
プロバイオティクス大腸菌株G3/10のゲノムは、「パイロシークエンス」技術を用いて完全に配列決定され、その後、自動的にアノテートされ、さらに手動で編集された。
【0062】
大腸菌G3/10は4935403bpのゲノムおよびサイズが1.3kb〜50kbの6種のプラスミドを有する。50kbのプラスミドのうちのpSYM1と称される40kbは、尿路病原性大腸菌由来のpMAS2027とほぼ完全に同一(99%相同性)である(Ong,C.L.、Beatson,S.A.、McEwan,A.G.&Schembri,M.A.(2009)Appl Environ Microbiol 75、6783−6791)。残りの10kbは、NCBIおよびExPASyのデータベースに蓄積されているヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に対して相同性がないまたは相同性が低い読み枠を含有する。これらの遺伝子のうちの4種は、免疫系および輸送系を含めた、完全に新しい、上記されていない大腸菌ミクロシンクラスIIaをコードする。4種のクラスター化された遺伝子、mcsS(配列番号2)、mcsI(配列番号3)、mcsA(配列番号4)およびmcsB(配列番号5)からなるこのミクロシンS遺伝子クラスター(配列番号1)が単離されている。このミクロシンは遺伝子型で特徴付けられ、ミクロシンSと名付けられた。MccSの2種の輸出遺伝子はmcsAおよびmcsBである(
図2)。遺伝子mcsAは大腸菌溶血素HlyDファミリーのメンバーであり、コリシン分泌タンパク質cvaAとの相同性は小さいことを示す。遺伝子mcsBは、2つの膜貫通ドメインの領域および1つのペプチダーゼドメインを有するABC輸送体をコードする。MccSの輸出遺伝子、mcsAおよびmcsBはどちらも、細胞、特に細菌細胞質から細胞外空間へのミクロシンSの輸送に関与するポリペプチドをコードする。
【0063】
本発明の核酸分子、例えば、配列番号1〜5のいずれか1つまたは配列番号8〜26のいずれか1つのヌクレオチド配列またはその部分を有する核酸分子は、標準の分子生物学技法および本明細書において提供される配列情報を用いて単離することができる。例えば、配列番号1〜5のいずれか1つまたは配列番号8〜26のいずれか1つの核酸配列の全部または一部をハイブリダイゼーションプローブとして使用して、標準のハイブリダイゼーションおよびクローニング技法を用いてミクロシンS核酸分子を単離することができる(例えば、Sambrook、J.らMolecular Cloning:A Laboratory Manual.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989に記載の通り)。
【0064】
本発明の核酸は、cDNA、mRNAあるいは、ゲノムDNAを鋳型として、および適切なオリゴヌクレオチドプライマーを使用し、標準のPCR増幅技法に従って増幅することができる。さらなる有用なプライマーは本明細書の以下に記載されている。そのように増幅された核酸は、適切なベクターにクローニングし、DNA配列解析によって特徴付けることができる。さらに、ミクロシンSヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドは、標準の合成法によって、例えば、自動DNA合成機を使用して調製することができる。
【0065】
好ましい実施形態では、核酸分子は、配列番号1、2、3、4または5のいずれか1つまたはその相補体と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%またはそれ以上同一であるヌクレオチド配列を含むまたはそれからなる。
【0066】
別の好ましい実施形態では、核酸分子は、配列番号6のアミノ酸配列と、または配列番号7のアミノ酸配列と少なくとも50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%またはそれ以上同一であるアミノ酸配列を含むまたはそれからなるポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0067】
さらなる実施形態では、核酸分子は、細菌ポリペプチド、好ましくは細菌ミクロシンSをコードする。
【0068】
核酸分子は大腸菌株から得ることが可能であることが好ましく、大腸菌G3/10から得ることが可能であることがより好ましい。特定の実施形態では、核酸分子は大腸菌G3/10DSM16443から得ることが可能である。
【0069】
核酸プライマーまたはプローブ
ミクロシンS遺伝子をクローニングすることで決定されるヌクレオチド配列により、本発明のミクロシンS遺伝子の増幅および/または他の種におけるミクロシンS遺伝子の同定において使用するために設計されたプローブおよびプライマーを生成することが可能になる。
【0070】
したがって、本発明は、さらに、本発明による核酸分子とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列を含む、プライマーまたはプローブとしての核酸分子を提供する。そのような核酸プライマーまたはプローブは、少なくとも15個の連続した塩基の配列を含む。
【0071】
核酸プライマーまたはプローブは、一般には実質的に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。
【0072】
好ましい実施形態では、核酸プライマーまたはプローブは、配列番号1、2、3、4または5のいずれか1つのセンス配列またはその相補体または配列番号1、2、3、4または5のいずれか1つの天然に存在する対立遺伝子変異体または突然変異体の少なくとも約12個または15個、好ましくは約20個または25個、より好ましくは約30個、35個、40個、45個、50個、55個、60個、65個、75個、または100個の連続したヌクレオチドとハイブリダイズする。一実施形態では、核酸プライマーまたはプローブは、配列番号1、2、3、4または5のいずれか1つのヌクレオチド配列またはその相補体とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする。
【0073】
より好ましい実施形態では、核酸プライマーまたはプローブは、配列番号8〜配列番号26の少なくとも1つを含む。典型的な核酸プライマーまたはプローブの配列が表1に示されている。
【0075】
本発明による核酸プライマーまたはプローブを、本発明による核酸分子を増幅するため、またはスクリーニングするために使用する。
【0076】
したがって、核酸分子またはその部分を、例えば、PCRまたは他の当技術分野で周知の増幅技法によって増幅することができ、増幅された核酸分子またはその部分を当技術分野で公知の方法によって配列決定することができる。ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、核酸を増幅する方法であり、核酸の変性、アニーリングおよび伸長を含み、アニーリングのプロセスの間にプローブと標的核酸のハイブリダイゼーションが起こる。PCRのための条件はプローブと標的核酸の間の相同性の程度に従って変更することができる。所与のPCR条件下でアニーリング温度を上昇させると、非特異的なハイブリダイゼーション産物の収率が低下し、アニーリング温度を低下させると、非特異的なハイブリダイゼーション産物の収率が上昇する。例えば、J.SambrookおよびDavid W.Russell:Molecular Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、(2000)を参照されたい。
【0077】
本明細書に開示されているプローブは、さらに、種々の細胞型において本発明の核酸分子を検出するために使用することができる。例えば、本発明による核酸プライマーまたはプローブは、多重PCRを用いて本発明による核酸分子をスクリーニングするために使用することができる。多重PCRにより、増幅しようとする異なる遺伝子を同じ反応において同時に増幅することが可能になる。すなわち、それぞれの標的配列を増幅することができる異なるプライマーセットを1つの反応器に入れ、標的配列の増幅を単一のPCR反応において同時に実施する(例えば、Wittwer C.T.ら、Real−time multiplex PCR assays.Methods 25(4):430−442、(2001);Markoulatos P.ら、Multiplex PCR:rapid DNA cycling in a conventional thermal cycler.J.Clin.Lab.Anal.17(4):108−112、(2003);O.Henegariuら、Multiplex PCR:Critical Parameters and Step−by−Step Protocol.BioTechniques 23:504−511、(1997);およびMarkoulatos P.ら、Multiplex polymerase chain reaction:a practical approach.J.Clin.Lab.Anal.16(1):47−51、(2002)を参照されたい。
【0078】
プラスミド
プラスミドはベクターの1種類であり、追加的なDNAセグメントをライゲーションすることができる環状二本鎖DNAループを指す。特定のプラスミドは、それらが発生するまたはそれらが導入される宿主細胞において自律複製することができる(例えば、細菌の複製開始点を有する細菌プラスミドおよびエピソーム哺乳動物ベクター)。
【0079】
さらに、特定のプラスミドは、それが作動可能に連結した遺伝子の発現を導くことができる。そのようなベクターは、本明細書では「発現プラスミド」と称される。
【0080】
大腸菌G3/10は、サイズが1.3kb〜50kbの6種のプラスミドを有する。pSYM1(
図1)と称される50kbのプラスミドのうち40kbは尿路病原性大腸菌由来のpMAS2027とほぼ完全に同一(99%の相同性)である。残りの10kbは、NCBIおよびExPASyのデータベースに蓄積されているヌクレオチド配列およびアミノ酸配列に対して相同性がないまたは低い相同性しかない読み枠を含有する。これらの遺伝子のうちの4種は、免疫系および輸送系を含めた、完全に新しい、上記されていない大腸菌ミクロシンクラスIIaをコードする。4種のクラスター化された遺伝子、mcsS(配列番号2)、mcsI(配列番号3)、mcsA(配列番号4)およびmcsB(配列番号5)からなるこのミクロシンS遺伝子クラスター(配列番号1)が単離されている。
【0081】
したがって、プラスミドは本発明の核酸分子を含んでよい。好ましい実施形態では、プラスミドは発現プラスミドである。
【0082】
本発明の発現プラスミドは、本発明の核酸を、細胞における核酸分子の発現に適した形態で含み、これは、天然に存在するまたは組換え型の発現ベクターが、発現のために使用される宿主細胞に基づいて選択され、発現させる核酸配列に作動可能に連結した1つまたは複数の調節配列を含むことを意味する。
【0083】
したがって、プラスミドの調節エレメントは本発明の核酸分子に作動可能に連結していることがさらに好ましい。
【0084】
別の実施形態では、プラスミドは接合性プラスミドである。
【0085】
本発明で使用したプラスミドが表2に示されている:
【0087】
細胞
細胞は、任意の原核細胞または真核細胞であり得る宿主細胞であってよい。例えば、ミクロシンSポリペプチドは、本明細書において好ましい大腸菌などの細菌の細胞、または昆虫細胞、酵母もしくは哺乳動物の細胞(例えば、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)またはCOS細胞など)において発現させることができる。他の適切な宿主細胞は当業者に公知である。
【0088】
プラスミドDNAは細胞に天然に存在するものであってもよく、または従来の形質転換またはトランスフェクション技法によって原核細胞または真核細胞に導入することもできる。宿主細胞を形質転換またはトランスフェクトするための適切な方法は、Sambrookら(Molecular Cloning:A Laboratory Manual.第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NY、1989)、および他の実験マニュアルに見いだすことができる。
【0089】
したがって、本発明は、本発明の核酸分子、および/または請求項1に記載のポリペプチドおよび/または本発明のプラスミドを含む細胞にも関する。
【0090】
核酸分子は、本発明の細胞(対象細胞)のゲノム内に、または、好ましくは対象細胞内のプラスミド内に組み込むことができる。
【0091】
対象細胞は、細菌の細胞であることが好ましい。例えば、細胞は、大腸菌細胞、好ましくは大腸菌DSM17252由来の細胞、最も好ましくは大腸菌G3/10 細胞である。
【0092】
対象細胞は組換え宿主細胞であってもよい。
【0093】
好ましい実施形態では、対象細胞はプロバイオティクス細胞である。それで、細胞は抗微生物活性、抗細菌活性または抗腫瘍活性を有する。細胞は、密接に関連する種に対する抗微生物活性をもたらすが、細胞は、自身が産生するミクロシンに対して耐性であるその産生体に対する抗微生物活性は発揮しないことが理解されなければならない。
【0094】
したがって、対象細胞は細菌のヒト腸上皮細胞への接着を阻害する。
【0095】
本発明の核酸、ポリペプチドまたはプラスミドを天然に含み、詳細には単離された形態にない細胞は本出願の特許請求の範囲から除外される。
【0096】
抗体
ミクロシンS免疫原は、一般には、適切な対象(例えば、ウサギ、ヤギ、マウスまたは他の哺乳動物)を免疫原で免疫化することによって抗体を調製するために使用される。適切な免疫原性調製物は、例えば、天然に存在するもしくは組換えによって発現させたミクロシンSポリペプチドまたは化学的に合成したミクロシンSペプチドを含有してよい。調製物は、フロイントの完全アジュバントもしくは不完全アジュバントなどのアジュバント、または同様の免疫賦活剤をさらに含んでよい。免疫原性ミクロシンS調製物を用いて適切な対象を免疫化することにより、ポリクローナル抗ミクロシンS抗体応答を誘導する。そのような方法は当技術分野で公知である。
【0097】
したがって、ポリクローナル抗ミクロシンS抗体は、上記の通り、適切な対象をミクロシンS免疫原で免疫化することによって調製することができる。所望であれば、ミクロシンSポリペプチドを対象とする抗体分子を、哺乳動物から(例えば、血液から)単離し、さらに、プロテインAクロマトグラフィーなどの周知の技法によって精製して、IgG画分を得ることができる。免疫化した後の適切な時間に、例えば、抗ミクロシンS抗体価が最高になった時に、抗体産生細胞を対象から得、最初にKohlerおよびMilstein(1975)Nature 256:495−497に記載されたハイブリドーマ技法(Brownら(1981)J.Immunol 127:539−46;Brownら(1980)J.Biol.Chem.255:4980−83;Yehら(1976)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 76:2927−31;およびYehら(1982)Int.J.Cancer 29:269−75も参照されたい)、ごく最近のヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozborら(1983)Immunol.Today 4:72)、EBV−ハイブリドーマ技法(Coleら(1985)Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R.Liss,Inc.、pp.77−96)またはトリオーマ技法などの標準の技法によってモノクローナル抗体を調製するために使用することができる。モノクローナル抗体ハイブリドーマを作製するための技術は周知である(一般に、Kenneth,R.H.in Monoclonal Antibodies:A New Dimension In Biological Analyses、Plenum Publishing Corp.、New York、New York(1980);Lerner,E.A.(1981)Yale J.Biol.Med.54:387−402;Gefter,M.L.ら(1977)Somatic Cell Genet.、3:231−36を参照されたい)。簡単に述べると、不死細胞株(一般には、骨髄腫)を上記の通りミクロシンS免疫原で免疫化した哺乳動物由来のリンパ球(一般には、脾細胞)と融合し、生じたハイブリドーマ細胞の培養物の上清をスクリーニングして、ミクロシンSポリペプチドに特異的に結合するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを同定する。
【0098】
したがって、複数の実施形態では、本発明は、ミクロシンSポリペプチドであるポリペプチドに選択的に結合する抗体にも関する。したがって、よく確立された免疫学的交差反応性の原理を考慮して、本発明は、配列番号6または配列番号7のポリペプチドの抗原性関連変異体を意図している。「抗原性関連変異体」とは、配列番号6または配列番号7のポリペプチドの少なくとも6つのアミノ酸残基配列部分を含み、配列番号6または配列番号7のポリペプチドに免疫応答する抗体分子を誘導することができるポリペプチドである。抗体は、合成抗体、モノクローナル抗体、またはポリクローナル抗体であってよく、当技術分野で周知の技法によって作出することができる。
【0099】
組成物および医薬組成物
ミクロシンSポリペプチド、またはさらには、本発明の細胞は、投与するために適した組成物または医薬組成物に組み入れることができる。したがって、本発明は、本発明によるポリペプチドまたは本発明による細胞を含む組成物を意図している。
【0100】
さらに好ましい実施形態では、組成物は水性組成物である。
【0101】
さらなる実施形態では、組成物は抗微生物活性、抗細菌活性または抗腫瘍活性を有する。それで、組成物は細菌のヒト腸上皮細胞への接着を阻害する。
【0102】
好ましい実施形態では、組成物はプロバイオティクス組成物である。プロバイオティクス組成物は、プロバイオティクス微生物、好ましくは大腸菌DSM17252の混合物を含むことが好ましい。例えば、組成物は、大腸菌G1/2(DSM16441)、G3/10(DSM16443)、G4/9(DSM16444)、G5(DSM16445)、G6/7(DSM16446)およびG8(DSM16448)またはこれらの混合物のうちの少なくとも1つの細胞および/または自己溶解物を含む。組成物は、自己溶解物ならびに細胞を、1ml当たり細胞3.00×10
6〜2.25×10
8個、1ml当たり好ましくは細胞1.5〜4.5×10
7個の量で含有してよい。組成物は、大腸菌細菌の自己溶解物ならびに細胞、ならびにさらなる添加物を含むことが好ましい。したがって、本発明は、細菌株、大腸菌G1/2(DSM16441)、G3/10(DSM16443)、G4/9(DSM16444)、G5(DSM16445)、G6/7(DSM16446)およびG8(DSM16448)の少なくとも1つ、すなわち、上記の株または本発明の方法によって選択される任意の細菌株のうちの1つを含むプロバイオティクス組成物を提供し、組成物は、少なくとも1種の株、好ましくは2〜3種の株、より好ましくは2〜4種の株、さらに好ましくは2〜5種の株および最も好ましくは2〜6種の株を含み、株のそれぞれは、組成物中に0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%の割合で存在する。好ましい実施形態では、組成物は、本発明の細菌株の少なくとも1つを、別の株または株の混合物と一緒に含み、混合物は、好ましくは2〜6種の株、より好ましくは2〜4種の株、最も好ましくは2〜3種の株を含み、株のそれぞれは、組成物中に0.1%〜99.9%、好ましくは1%〜99%、より好ましくは10%〜90%の割合で存在する。本発明のプロバイオティクス組成物は、凍結乾燥した形態、凍らせた形態、またはさらには死んだ形態であることが好ましい。好ましい実施形態では、プロバイオティクス組成物は、1種または複数種のプロバイオティクス微生物と、1種または複数種のプロバイオティクス微生物を胃腸管に輸送する機能を果たす担体とを含み、担体は、改変された、または改変されていない難消化性デンプンを高アミロースデンプンまたはそれらの混合物の形態で含んでよい。担体は、胃腸管内の微生物の成長培地または維持培地として働き、したがってプロバイオティクス微生物は大腸または胃腸管の他の領域を通過する間保護される。
【0103】
好ましい実施形態では、組成物はさらに医薬組成物であってよい。そして、医薬組成物は薬学的に許容される担体をさらに含む。医薬組成物は、治療有効量のポリペプチドまたは細胞ならびに1種または複数種のアジュバント、賦形剤、担体、および/または希釈剤を含有してよい。許容される希釈剤、担体および賦形剤は、一般には、レシピエントの恒常性(例えば、電解質の平衡)に悪影響を及ぼさない。許容される担体としては、生体適合性、不活性または生体吸収性の塩、緩衝剤、オリゴ糖または多糖、ポリマー、粘度改善剤、防腐剤などが挙げられる。医薬組成物の製剤化および投与のための技法についてのさらなる詳細は、例えば、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Maack Publishing Co.、Easton、Pa.)に見いだすことができる。
【0104】
添加物の例としては、グルコース、ラクトース、スクロース、マンニトール、デンプン、セルロースまたはセルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、サッカリンナトリウム、タルク、炭酸マグネシウムなどが挙げられる。望ましい色、味、安定性、緩衝能、分散または他の公知の望ましい特徴をもたらすために添加することができる添加物の例は、赤色酸化鉄、シリカゲル、ラウリル硫酸ナトリウム、二酸化チタン、食用白色インクなどである。圧縮錠剤を作出するために同様の希釈剤を使用することができる。
【0105】
複数の実施形態では、補足的な活性化合物も組成物に組み入れることができる。
【0106】
本発明の医薬組成物は、その意図された投与経路と適合するように製剤化する。投与経路の例としては、非経口投与、例えば、静脈内投与、皮内投与、皮下投与、経口投与、経皮(局所)投与、経粘膜投与、および直腸内投与が挙げられる。
【0107】
非経口適用、皮内適用、または皮下適用のために使用する液剤または懸濁剤は、以下の構成成分を含んでよい:滅菌希釈剤、例えば、注射用水、生理食塩水溶液、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の合成溶媒など;抗細菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなど;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなど;キレート化剤、例えば、エチレンジアミン四酢酸など;緩衝液、例えば、酢酸、クエン酸またはリン酸および張度を調整するための作用剤、例えば、塩化ナトリウムまたはブドウ糖など。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムなどを用いて調整することができる。非経口用調製物はガラス製またはプラスチック製のアンプル、使い捨てシリンジまたは多数回投与用バイアルに封入することができる。
【0108】
注射での使用に適した組成物としては、滅菌水溶液(水溶性の場合)または滅菌注射用溶液または分散剤を即時調製するための分散液と滅菌粉末が挙げられる。静脈内投与するためには、適切な担体として、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(商標)(BASF、Parsippany、NJ)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)が挙げられる。全ての場合において、組成物は、滅菌されなければならず、また、容易な注射可能性(syringeability)が存在する限りでは流体であるべきである。組成物は、製造および保管の条件下で安定でなければならず、また、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、ならびに適切なそれらの混合物を含有する溶媒または分散媒であってよい。妥当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散の場合では必要な粒度を維持することによって、および界面活性物質を使用することによって維持することができる。微生物の作用の予防は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、チメロサールなどによって実現することができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトールなど、塩化ナトリウムを組成物中に含めることが好ましい。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる作用剤、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物中に含めることによってもたらすことができる。
【0109】
経口投与は、カプセル剤、液剤、錠剤、ピル、または持続放出製剤の形態で適用することができる。
【0110】
経口用組成物は、一般に、不活性な希釈剤または食用担体を含む。経口用組成物は、ゼラチンカプセルに封入することもでき、または圧縮して錠剤にすることもできる。経口的な治療的投与のために、活性化合物を賦形剤と一緒に組み入れ、錠剤、トローチ剤、またはカプセル剤の形態で使用することができる。経口用組成物は、流動性担体を用いて調製することもでき、流動性担体中の化合物を経口的に適用し、口の中で回し、喀出または嚥下する。薬学的に適合性する結合剤、および/またはアジュバント材料を組成物の一部として含めることができる。経口用組成物は、以下の成分のいずれか、または同様の性質の化合物を含有してよい:塩、例えば、塩化ナトリウム、または硫酸マグネシウム・7H
2Oなどの硫酸マグネシウム、塩化カリウム、塩化カルシウム・2H
2Oなどの塩化カルシウム、塩化マグネシウム・6H
2Oなどの塩化マグネシウムなど、精製水、結合剤、例えば、結晶セルロース、トラガカントゴムまたはゼラチンなど;賦形剤、例えば、デンプンまたはラクトースなど、崩壊剤、例えば、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、またはトウモロコシデンプンなど;滑沢剤、例えば、ステアリン酸マグネシウムまたはステロテス(Sterotes)など;滑剤、例えば、コロイド状二酸化ケイ素など;甘味剤、例えば、スクロースまたはサッカリンなど;または香味剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、またはオレンジ香味など。
【0111】
吸入による投与のためには、化合物を、適切な噴射剤、例えば、二酸化炭素などのガスを含有する加圧型容器もしくはディスペンサー、または、ネブライザーからエアロゾル噴霧剤の形態で送達する。
【0112】
全身投与は、経粘膜的または経皮的な方法によるものであってよい。経粘膜投与または経皮投与のためには、浸透するべき障壁に適した浸透剤を製剤に使用する。そのような浸透剤は、一般に、当技術分野で公知であり、それらとして、例えば、経粘膜投与のためには、界面活性剤、胆汁塩、およびフシジン酸誘導体が挙げられる。経粘膜投与は、経鼻スプレーまたは坐剤を使用することによって実現することができる。経皮投与のためには、活性化合物を当技術分野で一般に公知の軟膏剤、膏薬、ゲル剤、またはクリーム剤に製剤化する。
【0113】
化合物は、坐剤の形態(例えば、従来の坐薬基剤、例えば、カカオバターおよび他のグリセリドなどを用いて)または直腸内送達のためには停留浣腸の形態で調製することもできる。
【0114】
一実施形態では、活性化合物を、化合物を体内からの急速な排除から保護する担体、例えば、インプラントおよびマイクロカプセル封入送達系を含めた制御放出製剤などと一緒に調製する。生分解性の生体適合性ポリマー、例えば、エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステル、およびポリ乳酸などを使用することができる。そのような製剤を調製するための方法は、当業者には明らかであろう。材料は、Alza CorporationおよびNova Pharmaceuticals,Incから購入することもできる。リポソーム懸濁剤(ウイルス抗原に対するモノクローナル抗体を有する感染細胞を標的とするリポソームを含む)も、薬学的に許容される担体として使用することができる。これらは、当業者に公知の方法、例えば米国特許第4,522,811号に記載の方法に従って調製することができる。
【0115】
経口用組成物は、投与を容易にし、かつ投与量を均一にするために単位剤形に製剤化することが特に有利である。単位剤形とは、本明細書で使用される場合、治療される対象の単位投与量として適した物理的に別個の単位を指し、各単位は、必要な医薬担体と関連して所望の治療効果がもたらされるように算出された所定の数量の活性化合物を含有する。本発明の単位剤形の仕様は、活性化合物の独特の特性および実現されるべき特定の治療効果、ならびに個体を治療するためのそのような活性化合物の配合の技術分野に固有の限定によって規定され、それに直接左右される。
【0116】
代替の実施形態では、組成物は、表面用の消毒薬であってよい。したがって、表面を消毒するための組成物の使用も本明細書において意図されている。
【0117】
好ましい実施形態では、消毒組成物は、適切な場合にはいつでも、表面活性物質(表面活性剤)または物質の混合物、芳香性物質、アジュバントおよび結合剤をさらに含む。
【0118】
別の実施形態では、消毒組成物は、結合剤ならびに場合によって芳香性物質および着色性物質およびアジュバント、例えば、水を軟化するための物質、増量剤などをさらに含み、液体の形態で、錠剤として、または顆粒状の形態で利用可能である。
【0119】
消毒組成物は食料品として安全であることが好ましい。
【0120】
消毒組成物により、さらに抗生物質耐性を有する病原性微生物からも保護される。
【0121】
キット
1つまたは複数の容器内に、治療的または予防的に有効な量の本発明の組成物を含むキットも提供される。キットは、場合によって、本明細書に開示されている意図された医学的使用を実施するためまたは提供される方法を実施するための説明書を含んでよい。
【0122】
ポリペプチド、細胞、組成物およびキットの医学的使用
ポリペプチド;細胞および組成物は抗微生物活性、抗細菌活性または抗腫瘍活性を示すので、本発明は、さらに、療法または予防におけるそれらの医学的使用に関する。
【0123】
詳細には、これらは、微生物感染症の治療または予防において使用することができる。さらに、これらは、胃腸障害、例えば、機能性胃腸障害の治療および予防法において、一実施形態では下痢の治療および予防法において使用される。
【0124】
好ましい実施形態では、微生物感染症は、腸管病原性大腸菌および/または腸管出血性大腸菌(EPEC、EHEC)の感染症を含む。さらなる実施形態では、微生物感染症は、溶血性尿毒症症候群(HUS)、好ましくは腸疾患に基づく溶血性尿毒症症候群を含む。しかし、本発明は、EPECまたはEHECによって引き起こされる疾患に限定されず、下痢などの胃腸障害に関与する他の微生物、例えば、Salmonella属の種、Shigella属の種およびYersinia属の種によって引き起こされる疾患の治療または予防法も含む。
【0125】
好ましい実施形態では、微生物感染症は、腸管出血性大腸菌(EHEC)感染を含む。すなわち、腸管出血性大腸菌O104:H4アウトブレイク株またはミクロシンSの影響を受けやすい任意の他のEHEC。さらに好ましい実施形態では、微生物感染症は、志賀毒素産生大腸菌感染症を含む。志賀毒素産生大腸菌は、腸管出血性大腸菌であってよい。他の毒性因子に加えて、志賀毒素(Stx1;Stx2;Stx1,2)が重度の、大部分が血性である下痢、および溶血性尿毒症症候群の発症に関与する。EHEC細胞は特定の抗生物質を用いて処置することによってより多くの量の志賀毒素を放出する。したがって、患者を抗生物質で処置することは禁忌であると論じられている。微生物感染症を対象ポリペプチド;対象細胞または本発明の組成物を用いて処置することにより、志賀毒素の産生を阻害することができる。
【0126】
他の実施形態では、微生物感染症は腸管病原性大腸菌感染を含む。
【0127】
複数の実施形態では、微生物感染症は、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ産生腸内細菌科感染症を含む。微生物感染症は、基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ産生大腸菌を含むことが好ましい。
【0128】
複数の実施形態では、本発明の対象ポリペプチド;対象細胞または組成物は、微生物感染症を引き起こす微生物を1:1000、好ましくは1:500、より好ましくは1:100、なおより好ましくは1:50、最も好ましくは1:20、またはさらには1:1〜1:10の割合で阻害する。
【0129】
代替の実施形態では、本発明の対象ポリペプチド;対象細胞;組成物または本発明のキットは、機能性胃腸障害、好ましくは過敏性腸症候群の治療において使用するためのものである。これらを成体および小児の治療において使用することが好ましい。
【0130】
別の代替の実施形態では、ポリペプチド;細胞;組成物またはキットは腫瘍の治療において使用するためのものである。これらは、程度は変動するとしても、腫瘍細胞の成長を阻害することができる。ミクロシンSポリペプチドはヒト細胞株においてアポトーシスを誘導することができることが好ましい。例えば、本発明によるポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物は、対象に、本明細書に記載の投与経路を用いて、例えば、静脈内に適用することができる。ポリペプチド、核酸分子または細胞を腫瘍内に蓄積させることができる。対象細胞を投与する場合、細胞を腫瘍内に蓄積させ、本発明によるポリペプチドを産生させることができる。ポリペプチドは、対象核酸分子から発現させることもでき、または組成物から放出させることもできる。ミクロシンSは、腫瘍活性プロモーターの制御下に置くことができる。ポリペプチド;細胞または組成物は、医薬の投与に適した、生物学的に適合する形態で対象に投与する。
【0131】
ポリペプチド;細胞;組成物またはキットは、腫瘍細胞において有意なレベルでアポトーシスを誘導するが、正常細胞系に対してはいかなる影響も生じさせないべきである。
【0132】
ポリペプチド;細胞;組成物またはキットを使用することによって治療および/または予防することができる疾患または障害の非限定的な例は、一般に腫瘍、具体的には結腸直腸癌、肝臓の癌、神経膠腫、神経芽細胞腫、扁平上皮細胞性口腔癌腫、リンパ系腫瘍、前立腺の癌、膀胱の癌、乳房の癌、胸膜および腹膜の癌である。
【0133】
本明細書に記載のいくつかの実施形態では、ポリペプチド;細胞または組成物は、非経口用の形態、例えば、静脈内用、皮内用、皮下用、経口用、経皮(局所)用、経粘膜用および直腸内用の形態、好ましくは経口用の形態で対象に投与することができる。
【0134】
ポリペプチド;細胞または組成物は、薬学的有効量で対象に投与することができる。薬学的有効量の本発明のポリペプチド;細胞または組成物の投与とは、所望の結果を実現するために必要な投与量、およびそれに必要な期間にわたる有効量と定義される。例えば、ポリペプチド;細胞または組成物の薬学的有効量は、個体の病態、年齢、性別、および体重、ならびにポリペプチド;細胞または組成物の個体における所望の応答を引き出す能力などの因子に応じて変動してよい。投与量レジメンは、最適な治療応答をもたらすように調整することができる。例えば、いくつかの分割用量を毎日投与することもでき、または治療状況の緊急性によって示される通り用量を比例的に減少させることもできる。
【0135】
治療効果を最適化するために、種々の時点で種々の投薬レジメンでミクロシンSポリペプチドを投与する。
【0136】
単一の薬学的に有効な用量または多数の薬学的に有効な用量、例えば、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、またはそれ以上を対象に投与することができる。詳細には、単回の薬学的に有効な用量を1日に2回、3回、4回、5回、6回、7回、またはそれ以上の回数で対象に投与することができる。
【0137】
詳細には、水性組成物5〜15滴の用量を対象に投与することができる。10滴の用量を投与することがより好ましい。そのような実施形態では、1mlは約14滴を含有する。
【0138】
薬学的有効量(すなわち、薬学的に有効な投与量)は、体重1kg当たり約0.001〜30mg、好ましくは体重1kg当たり約0.01〜25mg、より好ましくは体重1kg当たり約0.1〜20mg、なおより好ましくは体重1kg当たり約1〜10mg、体重1kg当たり2 〜9mg、体重1kg当たり3〜8mg、体重1kg当たり4〜7mg、または体重1kg当たり5〜6mgにわたる。
【0139】
多数の用量の投与を、数時間、数日、数週間、または数カ月の間隔に分けることができる。さらなる実施形態では、1日に少なくとも1回、2回または3回、食事と一緒に、水に入れて、好ましくは1日3回、食事と一緒に、水に入れて投与する。
【0140】
これらは、場合によって、限られた期間にわたり、かつ/または限られた数の用量で対象に投与することができる。例えば、いくつかの実施形態では、対象への投与を、例えば、1年以内、6カ月以内、1カ月以内、または2週間以内に終了する(すなわち、さらなる投与を提供しない)ことができる。例えば、投与の提供を6カ月後に終了することができる。慢性疾患では、期間を6カ月にまで増やすことが必要な場合がある。
【0141】
いくつかの実施形態では、用量を2日後、3日後、4日後、5日後、6日後、1週間後、2週間後、3週間後、4週間後またはそれ以上後に増加させることができる。対象に投与する用量を水性組成物15〜25滴、より好ましくは20滴に増加させることができる。
【0142】
小児では、水性組成物5〜15滴を経口用の形態で投与することができる。小児に10滴を投与することがより好ましい。さらなる実施形態では、水性組成物を小児に少なくとも1日に1回、2回または3回、食事と一緒に、水に入れて、好ましくは1日に1回、食事と一緒に、水に入れて投与する。
【0143】
全ての医学的使用の実施形態において、本発明のポリペプチド;細胞;組成物またはキットを、治療の開始時に、成体には10滴を1日3回、食事と一緒に、水に入れて投与し、用量を1週間後に20滴に増加させ、また、小児には、1日当たり1回10滴を食事と一緒に、水に入れて投与する。
【0144】
ミクロシンSポリペプチドを作出するためのプロセス
本発明のポリペプチドは、天然に精製された産物であってもよく、または化学的合成手順の産物であってもよく、または組換え技法によって原核生物の宿主または真核生物の宿主に産生させることもできる(例えば、培養物中の細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞および哺乳動物細胞によって)。
【0145】
詳細には、本発明の細胞、例えば、培養物中の原核生物宿主細胞または真核生物宿主細胞などを用いて、ミクロシンSポリペプチドを作製する(すなわち、発現させる)ことができる。したがって、本発明は、さらに、本発明の細胞を用いてミクロシンSポリペプチドを作製するための方法を提供する。
【0146】
対象ポリペプチドであるミクロシンSを作製するための方法が本明細書において意図されている。そのような方法は、本発明による核酸分子、核酸プライマーもしくはプローブ、プラスミドまたは細胞を使用すること、または、
本発明によるポリペプチドを液相または固相ペプチド合成技法によって合成することを含む。
【0147】
好ましい実施形態では、該方法は、
i)本発明の核酸分子または本発明のプラスミドを含む細胞をもたらすステップと、
ii)細胞を、核酸分子からのポリペプチドの発現が可能になる条件下で培養するステップと
を含む。
【0148】
好ましい実施形態では、該方法は、(iii)作製されたポリペプチドを回収するステップをさらに含む。
【0149】
したがって、単離された対象ポリペプチドは前記方法によって作製される。
【0150】
いくつかの実施形態では、ミクロシンSポリペプチドは、天然に存在する細胞によって、あるいは、組換えDNA技法によって作製される。例えば、ミクロシンSポリペプチドをコードする核酸分子は、すでにプラスミドによってコードされていてもよく、またはプラスミド、例えば、発現プラスミドに挿入することもできる。プラスミドを使用して、組換え方法によって核酸分子を細胞に導入することができる。細胞において発現させる場合、細胞をミクロシンSポリペプチドの発現が可能になる条件下で培養することが好ましい。ミクロシンSポリペプチドは、所望であれば細胞浮遊液から回収することができる。本明細書で使用される場合、「回収」とは、ミクロシンSポリペプチドを、回収プロセスの前にそれが存在していた細胞または培養培地の構成成分から取り出すことを意味する。回収プロセスは、1回または複数回のリフォールディングまたは精製ステップを含んでよい。変性したミクロシンSポリペプチドのフォールディングを誘導するための緩衝液および方法は当技術分野で公知である。
【0151】
本発明の範囲内に入るポリペプチドは、当技術分野で公知の標準の液相技法または固相技法を使用して合成することができる(例えば、R.B.Merrifield(1963).「Solid Phase Peptide Synthesis.I.The Synthesis of a Tetrapeptide」.J.Am.Chem.Soc.85(14):2149−2154)。したがって、対象ポリペプチドは、部分的なペプチドまたはアミノ酸を縮合させることによって作製することができる。部分的なペプチドまたはアミノ酸が保護基を有する場合、対象ポリペプチドが作製されたら保護基を脱離させる。固相、すなわち樹脂での合成は、α−アミノ基および側鎖の官能基が適切に保護されたアミノ酸またはペプチドから開始する。これらを、それ自体が公知である種々の縮合技法によって、対象ポリペプチドの配列に応じて樹脂上で縮合させる。一連の反応の最後に、ペプチドまたは保護されたペプチドを樹脂から取り出し、保護基を除去して目的のポリペプチドを得る。例えば、固相合成は、保護されたアミノ酸を使用してペプチドのカルボキシ末端から開始する。他の保護基が適切であっても、全てのアミノ基に対してBOC保護基またはFMOC保護基を使用することができる。例えば、クロロメチル化ポリスチレン樹脂支持体でBOC−lys−OHをエステル化することができる。ポリスチレン樹脂支持体は、スチレンと、特定の有機溶媒中でポリスチレンポリマーを完全に不溶性にする架橋剤としての約0.5〜2%ジビニルベンゼンとの共重合体であることが好ましい。Stewartら、Solid−Phase Peptide Synthesis(1969)、W.H.Freeman Co.、San Francisco;およびMerrifield,J.Am.Chem.Soc.(1963)85:2149−2154を参照されたい。これらおよび他のペプチド合成の方法は、米国特許第3,862,925号;同第3,842,067号;同第3,972,859号;および同第4,105,602号にも例示されている。
【0152】
ポリペプチド合成には、手動の技法を用いることもでき、または自動的に、例えば、Applied Biosystems 403A Peptide Synthesizer(Foster City、California)またはBiosearch SAM II自動ペプチド合成機(Biosearch,Inc.、San Rafael、California)を製造者から供給される説明マニュアルにおいて提供される説明に従って使用することもできる。
【0153】
食料品を保存するためのプロセス
本発明は、食料品を保存するための方法であって、
食料品に少なくとも1種類の天然の抗微生物性作用剤を添加することを含み、作用剤が
a)本発明によるポリペプチド;
b)本発明による細胞;および/または
c)本発明による組成物
である方法にも関する。
【0154】
グラム陽性細菌およびグラム陰性細菌は大抵食料品中に一緒に見いだされるので、本発明の範囲内に入るポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物は、細菌、例えば、Salmonella、大腸菌、Klebsiella、PseudomonasまたはListeriaに対して有効性を示す。より詳細には、Salmonella typhimurium、大腸菌の他の種、Klebsiella pneumoniae、Pseudomonas aeruginosa、Bacteroides gingivalis、Listeria monocytogenesおよびその他などの細菌。
【0155】
該作用剤は、汚染細菌を阻害するために十分な量で添加することが理解されるべきである。
【0156】
食料品に添加したポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物により、保護効果が実現されることが好ましい。一実施形態では、ポリペプチド、細胞または組成物は、食料品の消費に影響を及ぼさない。例えば、これらは無味であり、かつヒトおよび動物に対して非毒性である。
【0157】
したがって、本発明の範囲内に入るポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物は、生の成分、加工された食料品および飲料が細菌性病原体および他の微生物腐敗有機体によって汚染されることを制御および予防することに特に適する。これらは、細菌の成長または分解の影響を受けやすい食品に関連して使用することができる。潜在的な食料品に関連する使用としては、肉、特に家禽肉、卵、チーズ、乳製品、果実、野菜由来製品、穀物および穀物由来製品、缶詰、サラダドレッシング、発酵飲料および魚肉などの海産食品、または多くの他の食料品の処理が挙げられる。乳食品の例としては、これだけに限定されないが、チーズ、乳、クリーム、およびヨーグルトなどの発酵乳食品が挙げられる。肉の例としては、例えば、ハム、牛肉、サラミ、鶏肉、およびシチメンチョウが挙げられ、全体またはそれらから作られた加工肉製品が含まれる。他の食品としては、インスタント食品、アントレ、および肉、デリサラダ、マヨネーズ、ドレッシング(サラダドレッシングを含む)、ソースおよび香辛料、パスタ、スープ、食用油、魚肉および魚肉製品、卵製品、飲料、無菌包装された食料品、ならびに前述のものの混合物を含めた加工食品が挙げられる。他の食料品に関連する使用としては、食料品の包装および取扱い設備の処理が挙げられる。さらなる使用としては、例えば、プロセスチーズ、クリーム、乳、乳製品における、および家禽肉、魚肉、肉または野菜の清浄における食料品防腐剤としての使用が挙げられる。
【0158】
本発明のポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物は、混和可能な食品と混合することおよび/またはそれに適用することによって使用することができるが、固体の食品表面に浸漬、すすぎ、または噴霧によって、またはそのような食品の内部に、例えば、注入によって適用することによって適用することができる。これらは、マリネード、パン粉、シーズニングラブ(seasoning rub)、グレーズ、着色混合物などとして、または食品と混合され、それに組み入れられる成分として適用することができる。さらに他の態様では、ポリペプチド、核酸分子、細胞または組成物は、組成物を食料品包装材料、例えば、ケーシングまたはフィルムなどに適用し、その後、包装を、組成物が外側の食料品表面と接触するように食料品表面に適用することによって食料品表面と間接的に接触させることができる。使用最適量は、処理される特定の食品および組成物を食料品および/または食料品表面に適用するのに用いる方法に左右されるが、常套的な実験によって決定することができる。
【0159】
利点は、本発明のポリペプチド、細胞または組成物は容易に消化され、非毒性であり、アレルギーを誘導し得ず、病原性微生物が耐性を生じることが難しいことである。
【0160】
ミクロシンSポリペプチドに対して感受性の細菌を同定するためのプロセス:
本発明は、さらに、ミクロシンSポリペプチドに対して感受性の細菌を同定するためのin vitro方法に関する。そのような方法では、対象ポリペプチド;対象核酸分子、対象核酸プライマーもしくはプローブ、対象細胞、対象抗体または対象組成物を用いることができる。
【0161】
一実施形態では、該方法は、微生物感染症を引き起こす病原性細菌を、対象ポリペプチド;対象核酸分子、対象核酸プライマーもしくはプローブ、対象細胞、または対象組成物と接触させるステップを含み、細胞の腸上皮細胞(腸細胞)への接着効率が低下することにより、細胞のミクロシンSに対する感受性が示される。
【0162】
ミクロシンSは、対象ポリペプチドの形態で病原性細菌に添加することができることが理解されなければならない。しかし、ミクロシンSを発現させることができる対象の核酸分子を加えることもできる。さらに、ミクロシンSを産生する対象細胞を添加することが可能である。最後に、ミクロシンSを含む対象組成物を病原性細菌に添加することができる。
【0163】
好ましい実施形態では、該方法は、
第1の細胞のセットを提供するステップと、
第1の細胞のセットを対象ポリペプチド、対象核酸分子、対象細胞、対象抗体または対象組成物と一緒にプレインキュベートするステップと、
第2の細胞のセットを提供するステップと、
第1の細胞のセットおよび第2の細胞のセットに、微生物感染症を引き起こす病原性細菌を感染させるステップと、
第1の細胞のセットおよび第2の細胞のセットの接着効率を測定するステップと、
第1の細胞のセットの接着効率と第2の細胞のセットの接着効率を比較するステップであって、第1の細胞のセットの接着効率が第2の細胞のセットのよりも低い場合に、第1の細胞のセットの細胞がミクロシンSに対して感受性であるステップと
を含む。
【0164】
第1の細胞のセットの接着効率が、第2の細胞のセットの対応する系と比較して低下し、ミクロシンSが対象ポリペプチド; 対象核酸分子、対象細胞または対象組成物の形態で添加されていなければ、第1の細胞のセットがミクロシンSに対して感受性であることが示される。
【0165】
好ましい実施形態では、第1の細胞のセットの細胞および第2の細胞のセットの細胞はヒト腸上皮細胞である。
【0166】
好ましい実施形態では、細菌を同定するためのin vitro方法は、改変された寒天拡散試験である。第1のステップにおいて、微生物感染症を引き起こす細菌を培養プレートに適用する。第2のステップにおいて、濾紙ディスクに対象ポリペプチド;対象核酸分子、対象核酸プライマーもしくはプローブ、対象細胞、対象抗体または対象組成物を浸透させる。次いで、濾紙を培養プレート上の寒天の表面上に置く。
【0167】
これにはミクロシンSを濾紙から寒天内に拡散させる効果がある。ミクロシンSの濃度がディスクの隣で最も高く、ディスクまでの距離とともに低下する濃度勾配を確立した。
【0168】
ミクロシンSが特定の濃度で細菌に対して有効であれば、寒天内の濃度が有効濃度以上である場合、コロニーは成長しない。これが阻害帯域である。したがって、阻害の帯域のサイズは、化合物の有効性の尺度である:濾過ディスクの周りの何もない面積が大きいほど化合物の有効性が高い。
【0169】
包帯材をコーティングするための方法:
包帯材をコーティングするための方法であって、
包帯材を、
a)本発明によるポリペプチド;および/または
b)本発明による組成物
でコーティングする方法は本発明の範囲内である。
【0170】
本発明の新規のミクロシンSポリペプチドは抗微生物効果を示すので、包帯材をコーティングするために使用することができる。例えば第1度熱傷および第2度熱傷の患者などの対象の群のための、コーティングされた包帯が有利であることが理解されるべきである。そのような対象は、細菌感染症からの保護を必要とする。好ましい実施形態では、包帯材は消毒包帯である。より好ましい実施形態では、消毒包帯はパッチまたは絆創膏である。複数の実施形態では、コーティングされた包帯材により、熱傷創傷に関連する病原体であるPseudomonas aeruginosaからの保護がもたらされる。
【実施例】
【0171】
〔実施例1〕
細菌株および成長条件
本明細書において使用した細菌株が表3及び表4に列挙されている。
【表3】
【0172】
【表4】
【0173】
〔実施例2〕
大腸菌G3/10におけるミクロシンをコードする遺伝子クラスターの同定
6種の大腸菌:大腸菌G1/2、G3/10、G4/9、G5、G6/7およびG8のゲノムについて配列決定した。アノテーションにより、大腸菌G3/10のゲノム内に既知のミクロシンは示されなかった。大腸菌G3/10は、サイズが50.6kbの大きな接合性プラスミドpSYM1(
図1)を含有する。このプラスミドは尿路病原性大腸菌分離株のプラスミドpMAS2027と99%同一である。さらに、このプラスミドは、10kbの挿入断片を含有するが、BLAST分析では、特徴付けられていない無名の遺伝子のみが示された。殺菌作用の起源を同定するために、大腸菌G3/10株をそのメガプラスミドpSYM1からキュアリング(cure)することを試みた。一般的なキュアリング手順の多く、例えば、マイトマイシンCまたは加熱処理を実施したにもかかわらず、この株をキュアリングすることはできなかった。したがって、プラスミドpSYM1をコンジュゲーションによって大腸菌G4/9に移入した。接合体のスクリーニングを可能にするために、まずアンピシリン耐性カセットをpSYM1に組み込み、その結果pSYM1−ST76Anが生じた。生じた大腸菌G4/9pSYM1−ST76AnはEPEC接着を有意に阻害することができた(
図3)。プラスミドpSYM1が示されている効果に関与する遺伝子を有することが結論づけられた。プラスミドpSYM1の4.7bpの断片をpBR322にクローニングし、その結果、プラスミドpAZ6が生じ、次いでこれを大腸菌G4/9に入れて形質転換した。pAZ6により、大腸菌G4/9がEPEC接着効率を有意に阻害することができるようになり(
図3)、これは、pSYM1の4.7kbの断片が、大腸菌G3/10のEPEC接着阻害効果に関与することを示している(
図2)。自動的にアノテートされたオープンリーディングフレーム(ORF)のBLAST分析により、特徴付けられたタンパク質またはタンパク質ファミリーとの相同性が小さいことが明らかになり、これにより、ミクロシンをコードするオペロンとの関係が示されている。それにもかかわらず、ミクロシン自体は、未検出のままであった。mcsI、mcsAおよびmcsBと称される3種の遺伝子をpBR322にクローニングし、その結果、pAZ8が生じた。ミクロシンをコードする遺伝子である可能性のあるこのオペロンの上流の小さなORF(
図2)をpACYC184にクローニングし、大腸菌G4/9pAZ8にサブクローニングした。このステップにより、推定ミクロシンとミクロシン−ヘルパータンパク質を別々のプラスミドにコードさせることが容易になった。プラスミドpAZ8およびpAZ9を含有する大腸菌G4/9のみがEPEC接着を有意に阻害したが、G4/9pAZ8はG4/9 野生型と同様にEPEC接着に影響を及ぼす(
図3)。mcsSと名付けられた小さな遺伝子は、ミクロシンSと名付けられたミクロシンをコードする。
【0174】
〔実施例3〕
ミクロシンSの機能的な特徴付けおよびその自己免疫の解明
細菌の接着は、多くの感染症の極めて重要な最初のステップである。したがって、ヒト腸上皮細胞への接着の阻害を数量化する試験系は、宿主に対する有益な効果を実証するために適している。第1の実験において、CACO−2細胞またはLOVO細胞の集密の単層を、細菌試験株EcN、大腸菌G3/10、大腸菌G4/9または大腸菌G4/9pAZ6と一緒に、大腸菌:宿主細胞100:1のMOIでプレインキュベートした。2時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、EPEC:宿主細胞100:1のMOIを用いてEPEC E2348/69を感染させた。大腸菌G3/10および大腸菌G4/9pAZ6はEcNと同様にEPEC接着を阻害することができた。EcNによる接着阻害は、株のミクロシン活性に左右されることが示された。%単位の接着効率は、いかなるプレインキュベーションもしていない接着(陰性対照)を100%に設定し、それと比較したEPECの接着として表されている。データは、2連のウェルでの少なくとも3回の別々の実験の平均±SDである。
図4は、種々のミクロシン発現株(大腸菌G3/10、G4/9 pAZ6およびEcN)ならびに非発現株(大腸菌G4/9)と一緒にプレインキュベートした後の、EPEC E2348/69野生型およびmcsIを有するプラスミド相補突然変異体のヒト腸上皮細胞への接着効率を示す。結果として、mcsIをミクロシンS自己免疫遺伝子であると確実に同定することができた。
【0175】
〔実施例4〕
腸管出血性大腸菌に対する影響
腸管出血性大腸菌は腸上皮細胞に接着する。第2の実験において、LOVO細胞の集密の単層を細菌試験株と一緒に、大腸菌:宿主細胞100:1の感染多重度(MOI)でプレインキュベートした。EcNおよび大腸菌G3/10の影響を試験した。2時間インキュベートした後、細胞を洗浄し、EHEC:宿主細胞100:1のMOIを用いてEHECを感染させた。in vitro接着アッセイを用いて3つのEHEC分離株を指標株として試験した。HUS関連EHEC86−24血清型O157:H7およびEHEC O104:H4アウトブレイク株の2つの異なる分離株ならびにEHEC O128:H2患者分離株を使用した。EHEC O104:H4分離株はESBL産生体であるので、医学的処置は限定される。%単位の接着効率は、いかなるプレインキュベーションもしていない接着(陰性対照)を100%に設定し、それと比較したEHECの接着として表されている。データは、2連のウェルでの3回の別々の実験の平均±SDである。EHEC接着は、大腸菌G3/10によってのみ阻害されたが、これは、EcN由来のMccM/H47と大腸菌G3/10由来のMccSの作用機構が異なることを示す。
図5は、EcNまたは大腸菌G3/10と一緒にプレインキュベートした後の、EHEC株86−24血清型O157:H7(A)、ドレスデンにおいて単離されたEHEC O104:H4(B)ならびにフランクフルト(オーデル)において単離されたEHEC O104:H4(C)およびO128:H2(D)のヒト腸上皮細胞内への接着効率を示す。
【0176】
〔実施例5〕
種々の大腸菌および他のenterobacteriaceaeにおけるミクロシンS遺伝子MccSについてのスクリーニング
ヌクレオチドおよびアミノ酸のデータベースにおいてミクロシンSの配列は未知である。MccS遺伝子クラスターについてのスクリーニングを38種の大腸菌株、2種の赤痢菌株および2種のSalmonella株において、多重PCR、および阻害対照として遺伝子recAを用いて実施した。試験した株は、異なる起源の一般的な実験室株、ヒト臨床分離株および動物分離株である。McsS遺伝子は、試験した42種のヒト分離株および動物分離株ならびに実験室株のいずれにおいても検出することができなかった。結果は
図6に示されている。