(54)【発明の名称】胃酸過多の薬物処置中に失われる胃自体の障壁効果を修復することができるプロバイオティック細菌と組み合わされたN−アセチルシステインおよび/またはマイクロカプセル化胃保護型リゾチームを含む組成物
【文献】
Am. J. Gastroenterol.,2002年,97(11),2744-9
【文献】
South. Med. J.,2005年,98(11),1095-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
株ラクトバチルス・ファーメンタムLF 09 DSM 18298および/または株ラクトコッカス・ラクティスNS 01 DSM 19072と組み合わされた、あるいは、
a.ラクトバチルス・ロイテリLRE 01 DSM 23877
b.ラクトバチルス・ロイテリLRE 02 DSM 23878
c.ラクトバチルス・ロイテリLRE 03 DSM 23879
d.ラクトバチルス・ロイテリLRE 04 DSM 23880
からなる群より選ばれる少なくとも1つの株と組み合わされた、
1.ラクトバチルス・ペントサスLPS01 DSM 21980
2.ラクトバチルス・プランタルムLP01 LMG P-21021
3.ラクトバチルス・ラムノサスLR06 DSM 21981
4.ラクトバチルス・デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01 (MB386) DSM 20074 DSM 22106
からなる群より選ばれる、1〜4つの株、好ましくは2または3つの株を含む、請求項1から2のいずれか一項に記載する使用のための組成物またはサプリメントまたは医療デバイス。
消化不良、胃十二指腸潰瘍、胃潰瘍、消化性潰瘍、十二指腸潰瘍、ヘリコバクター・ピロリが引き起こす胃炎、および胃食道逆流疾患を低減または処置するための薬剤を服用している対象の処置に使用される、請求項1から3のいずれか一項に記載する使用のための組成物またはサプリメントまたは医療デバイス。
【背景技術】
【0002】
過去数十年の間に、胃酸過多の薬物処置に関してさまざまな薬学的アプローチが開発されてきた。胃酸過多は、長期間にわたって過度な状態が続くと、消化性潰瘍や胃食道逆流疾患などといった、さまざまな合併症または病状を引き起こしうる。
【0003】
最も広く使用されてきた薬剤には、ヒスタミン受容体H
2の阻害因子を阻害する能力を有する活性成分、例えばシメチジン、ファモチジン、ニザチジン、ラニチジンなどに基づくもの、またはプロスタグランジンを阻害する能力を有する有効成分、例えばミソプロストールなどに基づくものがある。もう一つの薬剤のカテゴリーは、胃粘膜の保護剤の機能を果たす有効成分、例えばビスマス塩、スクラルファート、またはピレンゼピンおよびピペンゾラートに基づく抗ムスカリンもしくは副交感神経遮断薬などに基づく。最後に、例えば重炭酸ナトリウム、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウムなどの制酸薬、ならびにランソプラゾール、エソメタゾール(Esometazole)、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールに基づくプロトンポンプ阻害薬もある。
【0004】
プロトンポンプ阻害剤(PPI)は、かなり長期間(18〜24時間)にわたって胃液の酸度を著しく低下させることにその主作用がある一群の分子である。
【0005】
PPIを含有する群は、H
2抗ヒスタミン薬の後継薬であり、PPI阻害剤の方が有効性が高いことから、H
2抗ヒスタミン薬より広く普及している。
【0006】
上述の医薬品は、(i)消化不良;(ii)胃十二指腸潰瘍[PPIは胃潰瘍および十二指腸潰瘍を処置または予防するために使用される。また、PPIは、ヘリコバクター・ピロリ(
Helicobacter pylori)による胃炎の処置にも、一定の抗生物質と組み合わせて使用される];(iii)ゾリンジャー・エリソン症候群、および(iv)胃食道逆流疾患などといった、さまざまな症候群の対症的処置および病因論的処置に使用される。
【0007】
PPIはアセチルサリチル酸または他のNSAIDsで長期間処置される患者にも使用される。これらの薬剤には、酵素シクロオキシゲナーゼ1(COX1)の機能を阻害することによって、この酵素に依存するプロスタグランジンの合成を低減するという副作用がある。プロスタグランジンの機能の一つは酸度からの胃粘膜の保護であるから、酸度を低減し胃粘膜を保護するために、PPIが使用される。
【0008】
このタイプの医薬品は、H
+とK
+のイオン交換の触媒である胃酵素H
+/K
+-ATPase(プロトンポンプ)を阻害する。これは酸分泌の効果的な阻害をもたらす。
【0009】
pHが低く2に近いマイクロチャネルでは、これらの阻害剤がイオン化し、ポンプサブユニットのシステインチオール基(SH)との共有結合を樹立することができる分子に転換される。こうしてポンプは不可逆的に阻害される。ポンプ活性の再生には、新しいポンプの生産が必要になり、これには平均で18〜24時間が必要である。それゆえに、PPIの単回投与は、約24時間にわたる胃液分泌の阻害を可能にする。
【0010】
これらの阻害剤が酸性環境下でのみ活性であるという事実は、これらの阻害剤が、直腸および結腸のレベルにある胃以外のH
+/K
+-ATPaseには、ごくわずかな効果しかない理由の説明になる。
【0011】
いずれにせよ、具体的な作用機序はさておき、胃酸過多または上述した他の病理学的状態の処置に関するこのクラスの薬剤のほとんど全ての最終的効果は、服用した特定分子とその投薬量に依存する動態および強度に応じた胃pHの上昇である。この意味での例外の一つは、プロスタグランジンと胃粘膜用の保護薬である。これらは、管腔内水素イオン濃度を低下させるのではなく、胃壁の細胞による粘液および重炭酸塩の合成を増加させ、よって管腔の酸度からの粘膜の保護を増進する。いずれにせよ、胃酸過多を低減することができる薬剤は、消化性潰瘍または胃食道逆流の症例における第一選択処置を構成し、一方、粘膜保護剤は補完療法に相当する。
【0012】
また、正常な胃液酸度が、普通食と共に摂取される潜在的有害生物または病原体に対する効果的な障壁を構成することも知られている。実際、それらの多くは酸度に対する感受性がとりわけ高く、3未満のpH値では、5分(場合によってはさらに短時間)を超えて生き残ることができない。したがって、多くの病原体は、サルモネラ(
Salmonella)属に属するものを含めて、生きて腸に到達することができず、分泌された毒素および食品中に既に存在する毒素が媒介する人体への有害作用はさておき、腸感染を、それゆえに本格的な食中毒を生じることができない。
【0013】
しかし、胃酸過多を低減しまたは処置するための薬剤を服用している患者に典型的に見られる胃pH値の上昇は、これらの患者を、とりわけ生もの(特に魚、肉および卵)の消費によって引き起こされる食毒性感染に曝されやすくすると言わなければならない。
【0014】
胃酸過多を低減しまたは処置するために例えばプロトンポンプ阻害剤などの薬剤を服用している患者は、5前後の胃pH値を有する。
【0015】
このpH値は、腸内細菌科(
Enterobacteriaceae)、特に際立ったデカルボキシラーゼ活性を持つ大腸菌(
E. coli)の株が、劣化した胃障壁を通過することを可能にする。摂食中に摂取されたタンパク質はアミノ酸に酵素分解され、そのアミノ酸は、デカルボキシラーゼ作用の存在下では、潜在的に危険なものから高度に危険なものまでさまざまな、一連の生体アミン、例えばヒスタミン、チラミン、プトレシンおよびカダベリンなどへと修飾される。これらの生体アミンが引き起こしうる最も一般的な症状は、プロトンポンプ阻害剤(PPI)の使用によって引き起こされる副作用と完全に重複しており、次のとおりである:下痢、頭痛、悪心、腹痛および鼓腸。一定の生体アミンが次に亜硝酸塩と反応すると、N-ニトロソアミンが形成されることになる。これらのニトロソアミンは、DNAのアルキル化によって遺伝子変異を引き起こし、その存在は胃、腸、膵臓および膀胱のがんと関連し、白血病とも関連する。
【0016】
これらの患者にとって考えうる解決策の一つが薬物処置の中止ではないことは明らかである。なぜならそれは、胃粘膜または食道粘膜を、胃液が媒介する有害作用に再び曝すことになるだろうからである。他方、薬物処置を続けて、患者をこれらの感染リスクに曝露したままにしておくことは、なおさら考えられない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本出願人は精力的な研究および探索活動を行い、その結果、L.アシドフィルス(
L. acidophilus)、L.クリスパツス(
L. crispatus)、L.ガセリ(
L. gasseri)、L.デルブリュッキ(
L. delbrueckii)、L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキ(
L. delbr. subsp. delbrueckii)、L.サリバリウス(
L. salivarius)、L.カゼイ(
L. casei)、L.パラカゼイ(
L. paracasei)、L.プランタルム(
L. plantarum)、L.ラムノサス(
L. rhamnosus)、L.ロイテリ(
L. reuteri)、L.ブレビス(
L. brevis)、L.ブフネリ(
L. buchneri)、L.ファーメンタム(
L. fermentum)、L.ラクティス(
L. lactis)、L.ペントサス(
L. pentosus)、B.アドレッセンティス(
B. adolescentis)、B.アングラタム(
B. angulatum)、B.ビフィダム(
B. bifidum)、B.ブレーベ(
B. breve)、B.カテヌラタム(
B. catenulatum)、B.インファンティス(
B. infantis)、B.ラクティス(
B. lactis)、B.ロングム(
B. longum)、B.シュードカテヌラタム(
B. pseudocatenulatum)およびS.サーモフィラス(
S. thermophilus)を含む(あるいは、からなる)群より選ばれる少なくとも1つの種に属するプロバイオティック細菌の株が、胃酸過多を低減しまたは処置するためにプロトンポンプ阻害剤(PPI)を服用している対象の処置において、有効に応用することができることを見いだした。さらにまた、本出願人は、本発明の主題である細菌の株が示す抗細菌効力が、前記組成物中にN-アセチルシステイン(NAC)が存在することで、増進し、かつ病原体に対してより選択的になることも見いだした。
【0033】
さらにまた、本出願人は、本発明の主題である細菌の株が示す抗細菌効力が、前記組成物中にマイクロカプセル化胃保護型リゾチームが存在することで、増進し、かつ病原体に対してより選択的になることも見いだした。リゾチームは脂質マトリックス中にマイクロカプセル化される。脂質マトリックスが植物由来のものであって、30℃〜80℃、好ましくは40℃〜70℃、より好ましくは50℃〜60℃の融点を持てば、有利である。
【0034】
さらにまた、本出願人は、本発明の主題である細菌の株が示す抗細菌効力が、前記組成物中にN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化胃保護型リゾチームが存在することで、増進し、かつ病原体に対してより選択的になることも見いだした。リゾチームは脂質マトリックス中にマイクロカプセル化される。脂質マトリックスが植物由来のものであって、30℃〜80℃、好ましくは40℃〜70℃、より好ましくは50℃〜60℃の融点を持てば、有利である。
【0035】
本発明の組成物は、本発明の細菌の株と組み合わされたN-アセチルシステインを含み、このN-アセチルシステインはアミノ酸システインのN-アセチル化誘導体である。
【0036】
本発明の組成物は、本発明の細菌の株と組み合わされたマイクロカプセル化胃保護型リゾチームを含む。
【0037】
本発明の組成物は、本発明の細菌の株と組み合わされたN-アセチルシステインおよび/またはマイクロカプセル化胃保護型リゾチームを含む。
【0038】
本出願人は、表1および表2または本明細書に記載するさまざまな好ましい実施形態に記載する細菌の1つまたは2つまたは3つまたは4つまたは5つまたは6つの株と組み合わされたN-アセチルシステインの使用が、病原性細菌そのものによって生産されその病原体が防御として使用する細菌性バイオフィルムを、溶解する能力を持つことを見いだした。
実際に、病原性細菌はその細胞の周囲に防御被膜(バイオフィルム)を形成する能力を持つことが知られている。バイオフィルムは、病原体の細胞を攻撃しにくくし、より良く防御された状態にする。N-アセチルシステインは、細胞のバイオフィルムに浸透してそれを溶解することで、本発明の主題である細菌の株によって生産されるバクテリオシンおよび/または代謝産物および/または過酸化水素(oxygenated water)による病原体細胞の攻撃を容易にすることができる。
【0039】
本出願人は、さらにまた、マイクロカプセル化胃保護型リゾチームを使用することで、胃十二指腸障壁を乗り越えて完全な形で結腸に到達することが可能になり、そこでは、本発明の主題である細菌の株の1つ以上との組み合わせで、芽胞に対する酵素の溶解作用により、C.ディフィシレ(
C. difficile)を含むクロストリジウム科細菌を阻害するというその作用を、うまく発揮できることを見いだした。
【0040】
本発明の主題である組成物中に存在するN-アセチルシステインの量は、10〜1,000mg/日、好ましくは50〜200mg/日、より好ましくは60〜150mg/日である。マイクロカプセル化されていない形態かつ医薬上許容される形態で市販されている、好ましくは固形のN-アセチルシステインを、好ましくは固形または凍結乾燥形のプロバイオティック細菌と、当業者に知られている技法および機器を使って混合することで、均一な組成物を得る。
【0041】
本発明の主題である組成物中に存在するマイクロカプセル化胃保護型リゾチームの量は、好ましくは固形で、10〜2,000mg/日、好ましくは400〜1,000mg/日、より好ましくは500〜800mg/日であり;これを、好ましくは固形または凍結乾燥形のプロバイオティック細菌と、当業者に知られている技法および機器を使って混合することで、均一な組成物を得る。リゾチームは医薬上許容される形態で市販されている。
【0042】
細菌の株は、それらが、4〜5.5、好ましくは4.5〜5のpH値の胃においてコロニー形成する能力を持つことから選択された。このpH値において、選択された株は、バクテリオシンおよび/または代謝産物および/または過酸化水素などの活性物質を生産することによって作用する。
【0043】
本発明の組成物は、食物組成物、例えばシンバイオティック組成物、またはサプリメントまたは医薬組成物または医療デバイスであることができる。一態様において、組成物は、N-アセチルシステイン(NAC)および/またはリゾチーム、好ましくはマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、表1または表2に列挙するものの中から選択される1つまたは2つまたは3つまたは4つまたは5つまたは6つの株を含む(あるいは、からなる)ことができる。
【0044】
[表1]
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【0045】
本組成物は、表1および表2に列挙するもののうち、1つ〜6つの株、好ましくは2つ〜5つの株、より好ましくは4つの株を含む。特に好ましい株は、表2に列挙するものから選ばれる。
【0046】
[表2]
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0047】
表2の株は、表2の3列目で述べるように、それらが拮抗する(1つ以上の有害または病原性微生物種/属の成長を阻害し、その数を低減する)ことのできる病原体を同定する目的で、個別に試験した。
【0048】
表2は、細菌が、1つ以上の有害または病原性微生物種/属に対して阻害作用を持つ過酸化水素または少なくとも1つのバクテリオシンを生産できることを示している。
【0049】
本特許出願に記載しかつ/またはクレームする株は全て、ブダペスト条約に従って寄託されており、権限のある寄託機関への請求により、公衆が入手できるようになっている。
【0050】
本発明の組成物は、胃酸過多を低減しかつ/または処置するための薬剤を服用している対象の処置における使用にも、粘膜の防御機序の不足(例えばアスピリンまたは他のNSAIsを服用している場合に起こるような、分泌量の低下またはプロスタグランジンEに対する応答性の低下)が引き起こすまたはH.ピロリ(
H. pylori)による感染が引き起こす、潰瘍の処置における使用にも、有効に応用することができる。言い換えると、本発明の組成物は、胃酸過多は示さないが、胃液酸度/粘膜を保護する機序の比率が変化した結果として胃および/または十二指腸の粘膜に損傷があって、PPI/他の制酸薬を処方された対象にも、有効に応用することができる。
【0051】
本発明の組成物は消化性潰瘍または胃食道逆流の処置に有効に使用できることが見いだされた。
【0052】
一態様において、本組成物は、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、L.アシドフィルス、L.クリスパツス、L.ガセリ、L.デルブリュッキ、L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキ、L.サリバリウス、L.カゼイ、L.パラカゼイ、L.プランタルム、L.ラムノサス、L.ロイテリ、L.ブレビス、L.ブフネリ、L.ファーメンタム、L.ラクティス、L.ペントサス、B.アドレッセンティス、B.アングラタム、B.ビフィダム、B.ブレーベ、B.カテヌラタム、B.インファンティス、B.ラクティス、B.ロングム、B.シュードカテヌラタムおよびS.サーモフィラスを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる少なくとも1つの種に属するプロバイオティック細菌の株の中から選ばれる1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つの株を含む(あるいは、からなる)。
【0053】
一態様において、本組成物は、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、L.デルブリュッキ、L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキ、L.プランタルム、L.ラムノサス、L.ペントサス、B.ブレーベおよびB.ロングムを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる少なくとも1つの種に属するプロバイオティック細菌の株の中から選ばれる1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つの株を含む(あるいは、からなる)。
【0054】
一態様において、本組成物は、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、
1.ラクトバチルス・ペントサスLPS01 DSM 21980
2.ラクトバチルス・プランタルムLP01 LMG P-21021
3.ラクトバチルス・プランタルムLP02 LMG P-21020
4.ラクトバチルス・プランタルムLP03 LMG P-21022
5.ラクトバチルス・プランタルムLP04 LMG P-21023
6.ラクトバチルス・ラムノサスLR06 DSM 21981
7.ラクトバチルス・デルブリュッキLDD 01(DSMZ 20074) DSM 22106
8.ビフィドバクテリウム・ロングムB1975 DSM 24709
9.ビフィドバクテリウム・ブレーベB2274 DSM 24707
10.ビフィドバクテリウム・ブレーベB632 DSM 24706
11.ビフィドバクテリウム・ブレーベB7840 DSM 24708
12.ビフィドバクテリウム・ロングムPCB 133 DSM 24691
13.ビフィドバクテリウム・ロングムBL06 DSM 24689
を含む(あるいは、からなる)群より選ばれる、1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つの株を含む(あるいは、からなる)。
【0055】
一態様において、本組成物は、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、L.デルブリュッキ、L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキ、L.プランタルム、L.ラムノサスおよびL.ペントサスを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる少なくとも1つの種に属するプロバイオティック細菌の株の中から選ばれる1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つの株を含む(あるいは、からなる)。
【0056】
一態様において、本組成物は、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、
・ラクトバチルス・ペントサスLPS01 DSM 21980
・ラクトバチルス・プランタルムLP01 LMG P-21021
・ラクトバチルス・ラムノサスLR06 DSM 21981
・ラクトバチルス・デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01 (MB386) DSMZ 20074 DSM 22106
を含む(あるいは、からなる)群より選ばれる1〜4つの株を含む(あるいは、からなる)。
【0057】
本発明に関して、組成物は、上に列挙した個々の種に属する単一の株を含むか、あるいは同じ種に属する2つ以上の株、例えば上に示したように、全てが同じ種に属する2つの株、または3つの株、または4つの株を含むことができる。
【0058】
一態様において、本組成物は、1×10
9〜10×10
9CFU/株/投与、好ましくは3〜5×10
9CFU/株/投与の量のラクトバチルス・ペントサスLPS01 DSM 21980および/またはラクトバチルス・プランタルムLP01 LMG P-21021および/またはラクトバチルス・ラムノサスLR06 DSM 21981および/またはラクトバチルス・デルブリュッキ亜種デルブリュッキ(MB386)LDD01 DSMZ 20074(DSM 22106);10〜200mg、好ましくは50〜150mg/投与、より好ましくは60〜100mg/投与の量のNAC;1〜5グラム/投与、好ましくは2〜3グラム/投与の量のジャガイモマルトデキストリンを含む。
【0059】
上述の組成物は、ヘリコバクター・ピロリの存在によって引き起こされる感染症、障害または疾病の予防的および/または治療的処置、特に、ヘリコバクター・ピロリが引き起こす感染症の再発の予防的および/または治療的処置において使用するためのものである。また、上述の組成物は、消化性潰瘍または胃食道逆流の処置において使用するためのものでもある。
【0060】
もう一つの実施形態において、本発明の組成物は、株ラクトバチルス・ファーメンタムLF 09 DSM 18298および/または株ラクトコッカス・ラクティスNS 01 DSM 19072と組み合わされた、上に番号1〜13によって示したものの中から選ばれる1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つを含む(あるいは、からなる)。
【0061】
もう一つの実施形態において、本発明の組成物は、(a)ラクトバチルス・ロイテリLRE 01 DSM 23877;(b)ラクトバチルス・ロイテリLRE 02 DSM 23878;(c)ラクトバチルス・ロイテリLRE 03 DSM 23879;(d)ラクトバチルス・ロイテリLRE 04 DSM 23880を含む(あるいは、からなる)群より選ばれる少なくとも1つの株と組み合わされた、上に番号1〜13によって示したものの中から選ばれる1〜6つの株、好ましくは2〜5つの株、より好ましくは3〜4つを含む(あるいは、からなる)。
【0062】
本発明の選択された株は、病原性細菌に効果的に対抗し、病原性細菌を阻害し、または低減することができる物質であるバクテリオシンおよび/または代謝産物および/または過酸化水素を生産することができる。これらの株は、病原性グラム陰性細菌と関連する感染症および/または病状の予防的および/または治療的処置に、有効に応用し、利用することができる。
【0063】
病原性細菌は、大腸菌群を含む群から選ばれる。大腸菌群は、腸内細菌科に属する細菌群である。この群には50を超える属が含まれ、なかでも、シトロバクター、エンテロバクター、好ましくはエンテロバクター・クロアカ、エシェリキア、好ましくは大腸菌(血清型O157:H7を含む)、ハフニア、クレブシエラ、好ましくはクレブシエラ・ニューモニエ、セラチアおよびエルシニアが含まれる。本発明との関連において常に関心が持たれる他の病原体は、クロストリジウム科(C.ディフィシレが含まれる)、サルモネラ・エンテリティディス、カンピロバクター・ジェジュニおよびヘリコバクター・ピロリを含む群から選ばれる種に属する。好ましい一実施形態において、医薬組成物または食物組成物またはサプリメントまたは医療デバイスは、N-アセチルシステインおよび/もしくはリゾチーム;またはN-アセチルシステインおよびマイクロカプセル化リゾチームと組み合わされた、ラクトバチルス・デルブリュッキ、ラクトバチルス・デルブリュッキ亜種デルブリュッキ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ラムノサス、ラクトバチルス・ペントサス、ラクトバチルス・ロイテリおよびビフィドバクテリウム・ブレーベを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる1つ以上の種に属する細菌の少なくとも1つの株を含みうる。前記の株は、バクテリオシンおよび/または代謝産物および/または過酸化水素を生産することができる。前記組成物は、大腸菌病原体と関連する感染症および/または病状の予防的および/または治療的処置に、有効に応用することができる。病原性大腸菌は、大腸菌O157:H7および大腸菌O104:H4の中から選ばれる。好ましくは、病原性大腸菌は、大腸菌ATCC 8739、大腸菌ATCC 10536、大腸菌ATCC 35218および大腸菌ATCC 25922を含む群から選ばれる。本発明の細菌の株によって拮抗されるさらにもう一つの病原体はクロストリジウム・ディフィシレである。好ましい一実施形態において、細菌の前記少なくとも1つの株は、B.ブレーベBR03 DSM 16604、B.ブレーベB632 DSM 24706、L.ラムノサスLR04 DSM 16605、L.ラムノサスLR06 DSM 21981、L.プランタルムLP01 LMG P-21021、L.プランタルムLP02 LMG P-21020、L.ペントサスLPS01 DSM 21980、L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01 DSMZ 20074 DSM 22106を含む(あるいは、からなる)群より選ばれる。より好ましくは、前記少なくとも1つの株は、L.ラムノサスLR06 DSM 21981、L.プランタルムLP01 LMG P-21021、L.ペントサスLPS01 DSM 21980およびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01 DSM 22106を含む(あるいは、からなる)群より選ばれ、これらの株は、血清型O157:H7に対してインビトロで試験され、強い拮抗活性を示している。
【0064】
重量比が1:1:1:1〜3:3:3:1になるような量(例えば1×10
9CFU/株/投与〜3×10
9CFU/株/投与)のラクトバチルス・ペントサスLPS01 DSM 21980、ラクトバチルス・プランタルムLP01 LMG P-21021、ラクトバチルス・ラムノサスLR06 DSM 21981およびラクトバチルス・デルブリュッキLDD 01 (MB386) DSM 20074 ラクトバチルス・デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01 DSMZ 20074 DSM 22106と、50〜150mgの量のNACとを含む組成物は、強い拮抗作用を発揮することが見いだされた。
【0065】
本発明の組成物には、細菌の株の混合物が、組成物の全重量に対して0.5%〜20%、好ましくは2.5%〜8%の重量で存在する。
【0066】
好ましい一実施形態において、本組成物は、少なくとも1つのプレバイオティック繊維および/またはビフィドジェニック作用を持つ糖質を、さらに含むことができる。本発明の組成物に応用することができるプレバイオティック繊維は、組成物中に存在する細菌の株には使用されなければならないが、拮抗しようとする病原体に使用されてはならない繊維である。拮抗されるべき病原体がカンジダ属に属する場合は、フルクトオリゴ糖(FOS)およびガラクトオリゴ糖(GOS)を有効に応用することができる。なぜなら、カンジダは前記の繊維を使用しないからであるが、これに対して、グルコオリゴ糖(GOSα)は、いくつかの代謝産物によって、大腸菌を直接阻害することができる。それゆえに、プレバイオティック繊維は、その場の必要と拮抗されるべき病原体に応じて、イヌリン、フルクトオリゴ糖(FOS)、ガラクト-およびトランスガラクトオリゴ糖(GOSおよびTOS)、グルコオリゴ糖(GOSα)、キシロオリゴ糖(XOS)、キトサンオリゴ糖(COS)、大豆オリゴ糖(SOS)、イソマルトオリゴ糖(IMOS)、難消化性デンプン、ペクチン、サイリウム、アラビノガラクタン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キシラン、ラクトサッカロース、ラクツロース、ラクチトールおよび他のさまざまなタイプのゴム、アカシア繊維、イナゴマメ繊維、カラスムギ繊維、タケ繊維、柑橘類由来の繊維、および一般に、可溶性部分と不溶性部分とを互いにさまざまな比率で含有する繊維から選ぶことができる。本発明の好ましい実施形態では、組成物が、上述したものおよび/またはそれらの任意の適切な混合物の中から選ばれる少なくとも1つのプレバイオティック繊維を、任意の相対百分率で含む。組成物中にプレバイオティック繊維および/またはビフィドジェニック作用を持つ糖質が存在する場合、その量は、組成物の全重量に対して重量で0%〜60%、好ましくは5%〜45%、より好ましくは10%〜30%である。この場合、組成物またはサプリメントは、シンバイオティック作用および機能的性質を持つ。
【0067】
さらにまた、本組成物は、他の成分および/または構成要素、例えばビタミン、ミネラル、生物活性ペプチド、抗酸化作用を持つ物質、血中コレステロール低下剤、血糖降下剤、抗炎症剤および抗甘味(anti-sweetening)剤も、一般に組成物の全重量に対して0.001%〜20%の重量、好ましくは0.01%〜5%の重量で、いずれの場合も活性構成要素のタイプと、もしあればその摂取目安量とに依存して、含むことができる。
【0068】
本発明の主題である食物組成物(例えばシンバイオティック組成物またはサプリメントまたは医薬組成物)は、当業者に知られている技法および機器を使って 調製することができる。
【0069】
好ましい一実施形態において、本組成物は細菌を1×10
6〜1×10
11CFU/g-細菌混合物、好ましくは1×10
8〜1×10
10CFU/g-細菌混合物の濃度で含有する。
【0070】
好ましい一実施形態において、本組成物は細菌を1×10
6〜1×10
11CFU/投与、好ましくは1×10
8〜1×10
10CFU/投与の濃度で含有する。用量は0.2〜10gであることができ、例えば0.25g、1g、3g、5gまたは7gである。本発明において使用されるプロバイオティック細菌は、固形、特に粉末の形態、脱水粉末または凍結乾燥型であることができる。本発明の組成物は全て、当業者に知られている技法に従って、既知の機器を使って調製される。
【0071】
一態様において、本発明の組成物は、胃酸過多を低減しまたは処置するための薬剤を、さらに含む。この組成物は医薬組成物であり、本発明の主題を形成する。前記薬剤は、受容体H2の阻害剤、好ましくはシメチジン、ファモチジン、ニザチジンまたはラニチジン;プロスタグランジン、好ましくはミソプロストール;胃粘膜の保護剤、好ましくはビスマス塩またはスクラルファート;抗ムスカリン薬または副交感神経遮断薬、好ましくはピレンゼピンまたはピペンゾラート;制酸薬、好ましくは重炭酸ナトリウム、水酸化アルミニウムまたは水酸化マグネシウム;プロトンポンプ阻害剤、好ましくはランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる。好ましくは、前記薬剤は、受容体H2の阻害剤、好ましくはシメチジン、ファモチジン、ニザチジンまたはラニチジン;抗ムスカリン薬または副交感神経遮断薬、好ましくはピレンゼピンまたはピペンゾラート;制酸薬、好ましくは重炭酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム;プロトンポンプ阻害剤、好ましくはランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む群から選ばれるものを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる。
【0072】
より好ましくは、前記薬剤は、受容体H2の阻害剤、好ましくはシメチジン、ファモチジン、ニザチジンまたはラニチジン;プロトンポンプ阻害剤、好ましくはランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む(あるいは、からなる)群より選ばれる。好ましい一実施形態において、本発明の組成物は、表1もしくは表2または上に列挙した好ましい実施形態に記載する細菌を含み、前記細菌が上に列挙した胃酸過多の低減または処置に適応を持つ薬剤と組み合わされる、医薬組成物である。薬剤がランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む群から選ばれるプロトンポンプ阻害剤であれば、有利である。細菌と薬剤はどちらも、前記組成物において、密接して存在する。例えば細菌と薬剤は、経口投与に適した医薬形態で、錠剤、トローチ剤、または顆粒剤中に一緒に存在する。
【0073】
細菌と薬剤とが同時に投与され同時に作用することが不可欠である。なぜなら、プロトンポンプ阻害剤(PPI)によって取り除かれた障壁効果を、本発明のプロバイオティック細菌の作用によって修復する必要があり、そのプロバイオティック細菌は、バクテリオシンを生産する細菌であって、プロトンポンプ阻害剤がpHを約4〜5.5、好ましくは4.5〜5の値に上昇させたという事実の結果として、胃にコロニー形成することができるものだからである。
【0074】
もう一つの好ましい実施形態では、本発明の組成物が医療デバイスの形態にある。この場合、細菌は、経口投与に適した組成物、例えば錠剤、トローチ剤、または顆粒剤中に存在し、それとは別に、上述したような胃酸過多の低減または処置に適応を持つ薬剤が、経口投与に適したもう一つの組成物中に存在する。薬剤が、ランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む群から選ばれるプロトンポンプ阻害剤であれば、有利である。
【0075】
したがって、例えば2つの錠剤(一方は細菌を含有し、他方は薬剤を含有するもの)が投与される。細菌がプロトンポンプ阻害剤の作用と同時に作用する必要があることを考えると、いずれにせよ、これら2つの錠剤は同時に投与されなければならない。医療デバイスの場合も、細菌と薬剤とが時間的に短い間隔で投与されることが不可欠である。なぜなら、プロトンポンプ阻害剤(PPI)によって取り除かれた障壁効果を、バクテリオシンを生産する細菌であって、プロトンポンプ阻害剤がpHを約4〜5.5、好ましくは4.5〜5の値に上昇させたという事実の結果として腸にコロニー形成することができる細菌の作用によって、修復する必要があるからである。
【0076】
本出願人は、表1もしくは表2または上述の好ましい実施形態において選択され、列挙された細菌が、胃酸過多の低減または処置に適応を持つ薬剤、例えばランソプラゾール、エソメタゾール、ラベプラゾール、パントプラゾールおよびオメプラゾールを含む群から選ばれるプロトンポンプ阻害薬などの作用に続いて起こるpHの上昇によって低減しまたは排除された障壁効果を修復するために、pH値が5前後である胃においてコロニー形成する能力を持つことを見いだした。
【0077】
好ましい一実施形態において、特定のバクテリオシンを生産することができる本発明のプロバイオティック細菌の株を含有する組成物は、ヘリコバクター・ピロリの最終的な排除とその再発の回避を目指す処置における有用な佐剤でもある。
【0078】
それゆえに、本発明の主題は、ヘリコバクター・ピロリの存在によって引き起こされる感染症、障害または疾病の予防的および/または治療的処置、特に、ヘリコバクター・ピロリが引き起こす感染症の再発の予防的および/または治療的処置において使用するための、表1もしくは表2または上述の実施形態の一つにおいて列挙した細菌の少なくとも1つの株を含む組成物によって構成される。
【0079】
抗生物質とは、その最も広い意味において、生物によって生産される、他の生物の成長に対抗する活性を有する分子種と定義される。ただし実際問題として、抗生物質は、一般的には、微生物の成長を阻止する活性を低濃度で示す二次代謝産物とみなされている。有機酸、アンモニアおよび過酸化水素などといった、代謝作用の二次産物は、抗生物質のカテゴリーに含むべきでない。抗生物質は、多酵素系によって生産される分子(それはペプチド分子(ペニシリン)である場合もある)であり、その生合成は、タンパク質合成阻害剤によって阻止されない。これに対して、バクテリオシンはリボソーム合成の産物である。バクテリオシンは、リボソーム合成によって生産されるペプチド分子であり、脂質または糖質を伴う場合もある。グラム陽性細菌(ラクトバチルス、ラクトコッカス)が生産するバクテリオリシンの中には生産微生物と同じ種に属する一定の株に限定された阻害スペクトルを持つものもあるが、大半のバクテリオシンは、さまざまな細菌種(グラム陽性菌とグラム陰性菌の両方)に対して、幅広い作用スペクトルを示す。バクテリオシンの最新の分類は、それらの化学的性質とそれらの作用スペクトルとの両方に基づいている。
【0080】
実験項
A.方法
本パイロット臨床試験は10人の被験者で行われ、そのうちの9人は、1ヶ月を超える期間にわたってPPIを服用していた。PPIで処置された被験者から構成される群をさらに2つの亜群に分割し、患者を、内視鏡検査前の5〜10日間にわたって、PPI+選択された乳酸桿菌の株の混合物(30億個のL.ラムノサスLR06 DSM 21981、30億個のL.プランタルムLP01 LMG P-21021、30億個のL.ペントサスLPS01 DSM 21980および10億個のL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01)で処置した。胃液および十二指腸擦過によって得た材料から構成される生物学的試料を、12〜24時間絶食していた患者で行われる胃鏡検査中に採取した。アミーズ(Amies)液に保存されたそれらの生物学的材料を、細菌負荷量を評価するのに適した微生物分析に付した。全細菌負荷量を得るために非選択的培養培地(LaptG)を使用する一方、ヘテロ発酵性乳酸桿菌の選択にはMRSブロス培地を使用し、抗生物質バンコマイシン(vancomicin)(2μg/ml)を添加して、出発試料の段階希釈液を調製した。細菌成長(光学密度を利用)に関して陽性であることがわかった最後の希釈液により、負荷量そのものの桁を推定することが可能になった。
【0081】
投与されたプロバイオティック株の存在を検証するために、次のプライマーセットを使ってPCRアッセイを行った:L.ラムノサス用のRhaII/PrI;L.ペントサス用のpREV/pentF;L.プランタルム用のpREV/planF、およびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01用のSS1/DB1。
【0082】
B.結果
全細菌負荷量に関する結果は、事実上無菌状態であることが見いだされた対照群(PPIなし、プロバイオティクスなし)と比較して、PPIで処置された被験者(PPI群全体:PPI+「PPI+プロバイオティクス」)が、胃液にも十二指腸擦過物にも、多数の細菌を示すことを証明している(
図1A)。PPI+プロバイオティクスで処置された被験者の細菌負荷量の分析により、分析した2つの群間のかなりの相違(1.5Log;
図1B)が明らかになった。
【0083】
図1Aは、長期にわたってPPIで処置されている被験者(PPI群全体:PPI+「PPI+プロバイオティクス」)と対照群との比較を示している。データはコロニー形成単位(CFU)の平均として表現されている。
図1Bは、長期にわたってPPIで処置されている被験者と「PPI+プロバイオティクス」で処置された被験者との比較に関する。データは、コロニー形成単位(CFU)の平均±S.E.Mとして表現されている。
【0084】
段階希釈液での、抗生物質バンコマイシンを添加したMRSブロスにおける成長によるヘテロ発酵性乳酸桿菌の選択により、「PPI+プロバイオティクス」で処置された被験者に見いだされる細菌の大半は、
図2に再現した円グラフ(このグラフでは面積が全微生物数に比例している)からわかるように、ヘテロ発酵性群に属することを、証明することができた。
【0085】
種特異的PCRアッセイを使った分析は、「PPI+プロバイオティクス」で処置された被験者の全てに、種L.ラムノサス、L.プランタルムおよびL. デルブリュッキ亜種デルブリュッキが存在する一方、種L.ペントサスは見いだされないことを示した(表3)。おそらくこの種は、胃環境におけるその生存に必要な特徴を持っていないのであろう。PPIのみで処置された被験者において示された種L.プランタルムに関する陽性結果は、被験者の食習慣に原因があると考えるべきだろう。
【0086】
パイロット試験
材料と方法
1.試験
PPIで処置された19歳〜57歳の合計30人(男性17人および女性13人)を同時に組み入れた(2011年2月〜3月)。PPI(プロトンポンプ阻害薬)を利用していない22〜64歳の別の10人(男性4人および女性6人)を、正常な胃液酸度をもつ人々を代表する対照群として組み入れた。この試験に参加するための組み入れ基準には、次に挙げるものが含まれた:年齢18〜70歳、少なくとも連続3〜12ヶ月(最初の3群に関して)にわたるPPIによる長期治療、組み入れの時点でわかっている他の健康問題がないこと、抗生物質による処置を必要とする病状がないこと。被験者に情報を提供し、パイロット試験への参加に関する同意を得た。個体は一定の除外基準にも基づいて選択された:30歳未満、妊娠中または授乳中、重篤な慢性変性病、重篤な認知障害、腹部手術の既往、憩室炎、免疫不全状態、器質性腸疾患の併発、抗生物質処置。インフォームド・コンセントを得た後、個体を4つの群に分割した(A、B、C、およびD)。A群およびB群には、PPIによる長期処置(少なくとも連続12ヶ月)を受けていた被験者を含め、C群には、連続3ヶ月から12ヶ月までの短期間のPPI処置を受けていた被験者を含めた。最後に、D群には、PPIによる処置を受けておらず、生理的胃障壁効果を持つ対照個体を含めた。A群(10人)は、PPIによる長期処置に関する対照群とし、処置を施さなかった。B群(10人)の各被験者には、3×10
9CFU/株/分包に相当する各30mgのL.ラムノサスLR06(DSM 21981)、L.ペントサスLPS01(DSM 21980)、およびL.プランタルムLP01(LMG P-21021)と、1×10
9CFU/分包に等価な10mgの微生物L.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01(DSM 22106)、60mgのN-アセチルシステイン(NAC)および2.34グラムのジャガイモマルトデキストリンを含有する分包10袋を与えた。分包あたりの生細胞の総数は10億個(10×10
9CFU)であった。C群(10人)は短期のPPI処置に関する試験群とし、プロバイオティクスを与えなかった。この群の目的は、C群における細菌成長をA群と比較することであった。なぜなら、胃管腔および十二指腸粘膜における細菌濃度は、PPIによる長期処置を受けていた患者の方が、PPIによる処置を受けていた期間が12ヶ月以下の患者より高いはずだと仮定したからである。B群の個体は、細菌が胃管腔中により長く留まり、N-アセチルシステインと共に均一に分布することを可能にする目的で、メインミール(main meal)中に、好ましくは夕食(supper)時に、1分包/日を消費した。分包の内容物をコップ半分の冷水に溶解してから服用した。投与は10日間続けた。胃液および十二指腸擦過による材料は、プロバイオティクスを最後に服用してから少なくとも12時間の絶食後に行われる被験者の胃鏡検査中に収集した。このように、個体がプロバイオティクスを最後に服用してから半日以上が過ぎていた。より具体的には、胃鏡検査は、全ての群(A、B、CおよびD)においてゼロ時点(d
0)と、B群だけは10日後(d
10)、すなわちプロバイオティクスの服用が終了した後とに行った。全ての群(A、B、CおよびD)についてd0と、B群だけはd10とに、糞便試料を収集した。A群、B群およびC群の被験者は、パイロット試験の全継続期間中、それぞれのPPI薬剤による処置を、同じ用量で継続した。
【0087】
2.糞便試料の収集
糞便は、全ての群(A、B、CおよびD)で試験の開始時(d
0)と、B群においてd
10とに収集した。腸内細菌叢中の特定細菌群を計数するための糞便試料(約10グラム)を、ボランティアから収集した。前もって20mlのアミーズ液体輸送培地(BD Italy、イタリア・ミラノ)で満たしておいた滅菌プラスチック容器に収集し、ボランティアの家庭で4℃に保存し、収集から24時間以内に検査室に届けられた。
【0088】
3.胃液および十二指腸擦過材料での全生細菌細胞および全ラクトバチルスの定量ならびにPCRアッセイのゲノム分析
12〜24時間絶食した患者で行われた胃鏡検査時に胃液および十二指腸擦過材料を収集した。胃鏡検査は、ノバーラにあるOspedale Maggiore della Carita(マッジョーリ慈善病院)の胃腸科で行われた。擦過材料の試料(約1〜2グラム)は、前もって10mlのアミーズ液体輸送培地(BD Italy、イタリア・ミラノ)で満たしておいた滅菌プラスチック容器に保存した。全ての試料を4℃で保存し、収集後24時間以内に、検査室に届けられた。
【0089】
試料は、検査室に届いたら直ちに、いずれの場合も収集の24時間以内に、分析された。試料の重量を測定し、滅菌容器(Stobag)に移し、アミーズ培地で1:10(重量/容量)希釈し、ストマッカー装置を使って230rpmで4分間ホモジナイズした。各希釈に1mlの食塩水溶液を使って、試料を連続10倍希釈に付した(全生細胞数用および全ラクトバチルス細胞用に10
-2、10
-3、10
-4、10
-5、10
-6、10
-7および10
-8)。試料を、それぞれの寒天培養培地にプレーティングした。D群では、細菌数が他の群よりかなり低くなると予想されたので、10
-1から10
-6までの希釈液をプレーティングした。全生細胞には非選択的培養培地LAPTGを使用し、一方、全ラクトバチルスの選択的計数は、ロゴサ(Rogosa)酢酸塩寒天(Oxoid、イタリア・ミラノ)培養を使って行った。乳酸桿菌を播種したプレートは全て、Anaerocultキット(Merck、ドイツ・ダルムシュタット)を使用し、嫌気条件下(GasPak)、37℃で、48〜72時間インキュベートし、一方、LAPTgのプレートは、好気条件下、37℃で24〜48時間インキュベートした。ボランティアに投与されたプロバイオティック細菌の存在を検証し定量する目的で、加工された胃液の試料および十二指腸擦過材料から得られた全ゲノムDNAの抽出物に対して、種特異的PCRアッセイを行った。特に、使用したプライマーは次のとおりであった:L.ラムノサス(Rha/PRI)、L.ペントサス(PENT f/PLAN f/pREV)、L.プランタルム(LFPR/PLAN II)、およびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキ(Ldel7/Lac2)。胃液および十二指腸擦過材料中の全細菌数および全乳酸桿菌の定量ならびに種特異的PCRアッセイは、イタリア・ノバーラのBiolab Research Srl Laboratoryで行われた。
【0090】
4.糞便試料中に存在する特定微生物群の定量
試料は、検査室に到着したら直ちに調べた。試料の重量を測定し(約30グラム)、滅菌容器(Stobag)に移し、アミーズ液で希釈することで1:10(重量/容積)希釈液とし、次にストマッカー装置を使って、それを230rpmで4分間ホモジナイズした。次に、滅菌食塩溶液と0.1mlの適当な希釈液とを使って試料を連続10倍希釈に付した(全大腸菌群、大腸菌および腸球菌については10
-4、10
-5、10
-6、10
-7、および10
-8;酵母およびカビについては10
-1、10
-2、10
-3、10
-4、および10
-5)。試料を寒天培養培地にプレーティングした。腸球菌は、スラネッツ・バートレイ(Slanetz-Bartley)(SB)寒天(Oxoid、イタリア・ミラノ)を使って計数し;全大腸菌群および大腸菌は、Petrifilm CC(3M, Segrate、イタリア・ミラノ)およびChromo IDCPS(BioMerieux、イタリア・フィレンチェ)で計数し、全酵母およびカビは、酵母エキス・デキストロース・クロラムフェニコール(YGC)寒天(Sigma-Aldrech、イタリア・ミラノ)で計数した。腸球菌、全大腸菌群および大腸菌は、好気条件下、37℃で24〜48時間インキュベートし、一方、酵母とカビは、好気条件下、25℃で24〜48時間インキュベートした。
【0091】
糞便試料中の、上に列挙した微生物群の定量は、イタリア・ノバーラのBiolab Research Srl Laboratoryで行われた。
【0092】
5.統計解析
胃液および十二指腸擦過材料中の全細菌数の濃度および全乳酸桿菌について得られた値は全て、試料1mlまたは1グラムあたりの生細胞の数の平均±平均標準偏差(m±SEM)として表現されている。特定糞便微生物群の濃度に関する値は全て、平均生細胞数/グラム-糞便±平均の標準誤差(m±SEM)として表現されている。統計的解析の対応t検定または独立t検定を使って、結果を評価し、それらを、B群においてd
0とd
10との間で比較し(対応)、d
0においてさまざまな群間で比較した(独立)。特に、d
0(ベースライン)において、A群の結果を、B群、C群、およびD群と比較した。相違はp≦0.05で有意であるとみなす。
【0093】
6.結果
6.1.胃液および十二指腸擦過材料での全細菌細胞、全ラクトバチルスの定量およびPCRアッセイのゲノム分析
ゼロ時点(d
0)において40人全員を胃鏡検査に付し、またB群は、プロバイオティクスの補給終了時(d
10)にも胃鏡検査に付した。調製物は忍容性が極めて高く、d
0とd
10の間にプロバイオティックサプリメントを唯一投与されたB群の各参加者によって受け入れられたので、中止の記録はなかった。
【0094】
胃液および十二指腸擦過材料中の全細菌細胞および全ラクトバチルスに関する結果を表4に示す。
[表4]d
0(全ての群)およびd
10(B群)における全細菌細胞および全ラクトバチルスの定量(値±SEM、log
10 CFU/ml-胃液またはグラム-十二指腸擦過材料)
a)d
0における4つの群間の比較
【表3-1】
b)4つの群でのd
0における全乳酸桿菌数の百分率
【表3-2】
c)B群におけるゼロ時点(d
0)とd
10との比較
【表3-3】
**比較基準ゼロ時点(d
0)
§(d
0)と(d
10)との間の比較
【0095】
ベースラインと比較して、B群のd
10では、全細菌パラメータの有意な低下が存在することは興味深いことである(表1c)。
【0096】
6.2.種特異的PCRアッセイの結果
d
0と比較したd
10におけるB群での種特異的PCRアッセイの結果により、投与された4つの種のプロバイオティクスの存在がさらに確認された。全体像をを表5に示す。
[表5]d
0およびd
10におけるB群での種特異的PCRアッセイの結果。対応する種の存在を「+」で示し、その不在を「−」で示す。
a)胃液
【表4-1】
b)十二指腸擦過物
【表4-2】
【0097】
胃液では、L.プランタルムおよびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキが、最も代表的な2つの種であった。というのも、合計10人中、ベースライン(d
0)における1人および0人と比較して、それぞれ10人および9人が陽性だったからである。十二指腸擦過物では、合計10人の被験者中、ベースライン(d
0)における2人および0人と比較して、L.プランタルムおよびL.ラムノサスがそれぞれ9人および10人の被験者に存在した。
【0098】
6.3.糞便試料中の特定微生物群の数
糞便試料中の全腸球菌、全大腸菌群、大腸菌、酵母およびカビに関する結果を表6に示す。
[表6]d
0(全ての群)およびd
10(B群)における、糞便試料中の特定微生物群の定量。結果は、CFU/グラム-糞便のlog10として表現されている(値±SEM)。
a)d
0における4つの群間の比較
【表5-1】
b)4つの群におけるd
0での、およびB群におけるd
10での、大腸菌が全大腸菌群に占める百分率
【表5-2】
c)B群におけるベースライン(d
0)とd
10との比較
【表5-3】
**比較基準ゼロ時点(d
0)
§B群における(d
0)と(d
10)の間の比較
【0099】
結果
この試験では、連続12ヶ月を超えてPPIを服用していた被験者の上部胃腸路における有意な細菌成長が確認された(A群と母集団を表すD群との比較で、胃液中および十二指腸擦過材料中の全細菌について、それぞれp=0.0011およびp=0.0137;B群とD群を同じように比較した場合にも同様の統計結果が見いだされた)。A群とC群(3〜12ヶ月の期間にわたってPPIで処置された被験者)との比較では、4つのパラメータのうちの3つに統計的有意性が証明された。このように、PPI処置の継続期間は、上部消化管における細菌増殖の程度を決定しうる因子である。短期間処置された個体は、PPIによる長期間処置を受けた被験者に似ているというより、むしろ母集団の方に似ているようである。
【0100】
興味深い一面は、短期間処置された被験者の胃液中の全ラクトバチルスの百分率(C群では34.91%、5.01log
10 CFU/ml)が、長期間処置された被験者(A群では3.06%、6.99log
10 CFU/ml;B群では3.51%、7.15log
10 CFU/ml)と比較して高いことである。ただしこの高濃度は、十二指腸擦過物の結果には反映されていない(C群において1.58%、4.00log
10 CFU/ml)。
【0101】
60mgのNACを含む、上に列挙した4株の細菌、すなわちL.ラムノサスLR06、L.ペントサスLPS01、L.プランタルムLP01およびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01の10日間にわたる投与は、食物起源の考えうる病原体に対する防御障壁を修復するために、12ヶ月を超えてPPIで処置された被験者における典型的な細菌成長を有意に変化させるのに十分であった(d
0と比較したd
10におけるB群での胃液中および十二指腸擦過材料中の全細菌に関して、それぞれp=0.0023およびp=0.0256)(表4c)。
【0102】
もう一つの興味深い結果は、さまざまな群において乳酸桿菌が全細菌に占める百分率である。PPIを服用していない対照被験者では、ラクトバチルス属に属する細菌が、胃微生物叢全体の約14%を占めるのに対し、12ヶ月を超えてPPIで処置された患者では、乳酸桿菌が全細菌の約3%を占めるに過ぎなかったことから、胃微生物の大部分は、他の潜在的に有害な微生物群から構成されていることが示唆された。B群におけるプロバイオティクスの補給期間の最後(d
10)に、乳酸桿菌は胃液中の全細菌の98%を構成し、統計的に有意ではなかったものの(p=0.074)、ゼロ時点と比較してその濃度の増加が記録された。統計的有意性の欠如は、並行して起こる全胃細菌の有意な減少(8.60log10 CFU/mlと比較して7.71log
10 CFU/ml、p=0.0023)を考慮すれば、説明することができるだろう。他方、十二指腸擦過材料中のラクトバチルスの百分率は、ベースラインと比較してd
10では有意に高かった(p=0.0355)。
【0103】
種特異的PCRアッセイの結果でも、連続12ヶ月を超えてPPIで処置された被験者の胃管腔および十二指腸粘膜において効果的にコロニー形成するという、NACと一緒に投与されたプロバイオティクスの能力が確認された(
図5aおよび5b)。この側面は、有害であるかもしれない病原体細菌または実際にPPIで長期間処置された対象中に一般に存在するものを阻害し置き換えるのを助けるだろう。胃鏡検査が全て、プロバイオティクスの最後の服用の少なくとも12時間後に行われたことを考えると、このデータはより一層意義深く、胃中および十二指腸粘膜の表面上でかなり持続するという、これら有益な細菌の能力を証明している。NACは、PPIによる長期間処置を受けている対象において考えられるバイオフィルムの新たな形成を防止するために、細菌性バイオフィルムに対するその機械的効果ゆえに使用した。
【0104】
糞便試料の結果は、一方では、少なくとも12ヶ月の期間にわたってPPIで処置されていた個体において考慮された全ての微生物パラメータの有意な増加を示した(A群とD群の比較):エンテロコッカス属、全大腸菌群、大腸菌、酵母およびカビに関して、それぞれp=0.0021、p=0.0147、p=0.0227、p=0.0223およびp=0.0027)。いずれにせよ、3ヶ月から12ヶ月までのPPIの短期間投与は、5つのパラメータの全てにおいて、統計的有意性は低かったものの、糞便での有意な増加を誘導するのに十分であった(C群に関するデータをD群と比較されたい:それぞれ、p=0.0479、p=0.0338、p=0.0444、p=0.0051、およびp=0.0187)(表6)。他方、PPI処置が長期間であった被験者と短期間であった被験者との間の統計的比較では、酵母とカビについてのみ有意であったことから(それぞれp=0.0486およびp=0.0078)、エンテロコッカス属およびグラム陰性細菌については、3ヶ月にわたって最少量のPPIを服用すれば、12ヶ月の処置後に観察される増加の大部分を媒介するのに十分であることが示唆された。酵母とカビが胃障壁の変化後に腸内細菌叢においてコロニー形成するには、より多くの時間が必要である可能性は高い。というのも、長期被験者では短期被験者と比較して有意な追加の増加が記録されたからである(C群と比較したA群)。
【0105】
全大腸菌群は通常、1グラムあたりおよそ10
9細菌の濃度で、ヒト糞便細菌の全数の約1%を占める(37)。もう一つの興味深い結果は、大腸菌が全大腸菌群に占める百分率である。実際、この細菌はヒト腸における大腸菌群の全数の大半を占め,一般的には93〜94%になることが知られている(38)。ヒト腸に存在する全大腸菌群は、腸内細菌科の4つの属、具体的にはエシェリキア、クレブシエラ、エンテロバクターおよびシトロバクターから構成され、通常はクレブシエラが約1%、エンテロバクター/シトロバクター属が合計で約6%を占める。D群に関する結果は、実質上、この証拠を裏付けている。というのも、全大腸菌群の92.6%が大腸菌から構成されていたからである。しかし、PPIによる長期間処置を受けていた被験者では、この百分率が83.9%(A群)および77.4%(B群)に低下していたことから、胃障壁の破壊の帰結としての、腸におけるクレブシエラ属および/またはエンテロバクター/シトロバクター属の異常な過剰増殖が示唆された。この増加は有害であるとみなすことができるだろう。というのも、一部の種、例えばクレブシエラ・ニューモニエ、クレブシエラ・オキシトカおよびエンテロバクター・クロアカは、血液の院内感染 (BSI)から急性虫垂炎および抗生物質関連出血性大腸炎(AAHC)まで、宿主に対して重大な病原性作用を発揮しうるからである。
【0106】
エンテロコッカス属は、通常、ヒト糞便中に、1グラムあたり10
5〜10
7細菌の濃度で存在する。対照集団について得られたデータでは、糞便試料において6.39log
10 CFU/mlと計数されたので、この証拠が裏付けられた。PPIによる長期間処置は、ヒト腸におけるこの微生物属の有意な増加を引き起こした(A群において7.68log
10 CFU/mlおよびB群において7.80log
10 CFU/ml)。
【0107】
エンテロコッカス属、特にエンテロコッカス・フェシウムが意味する最も重大な問題は、それらが持つ固有の抗生物質耐性、具体的にはペニシリンおよびバンコマイシンに対する耐性である。腸球菌は感染性心内膜炎の原因としては3番目に多く、ペニシリンに対する耐性が治療結果に及ぼす影響は、1940年代の終わりから明白であった。いずれにせよ、PPIで処置された被験者のヒト細菌叢に何らかの有害バイオタイプがコロニー形成していた可能性は排除することができないとはいえ、心内膜炎を含む院内感染と関連するE.ファシウムは、健康なヒトの消化管においてコロニー形成する共生株とは異なる配列タイプであることが、疫学的研究によって証明されている。
【0108】
ベースライン時の糞便の複合的な解析により、胃障壁効果の弱体化または実際には完全な破壊が確認された。というのも、PPIを少なくとも3ヶ月にわたって服用している人々では、それが著しく改変されていることを、腸内細菌叢の組成が示したからである。グラム陰性細菌、例えば全大腸菌群および大腸菌は、対照より有意に高く、一方、酵母とカビは約4log
10増加した。糞便腸球菌の増加は1log
10を上回った。PPI服用の継続期間と、潜在的な異常微生物感染の証拠として選択し分析した5つの微生物群における糞便での増加のサイズとの相関関係も、興味深いことである。
【0109】
NACと組み合わせて調べられた4つのプロバイオティクスは、全ての糞便パラメータを低下させることができた(ベースライン値との比較で、d
10において、エンテロコッカス属、全大腸菌群、大腸菌、酵母およびカビに関して、それぞれ、p=0.0155、p=0.0064、p=0.0105、p=0.0066、およびp=0.0053)。特に、全大腸菌群、大腸菌、 酵母およびカビの減少は、10日間にわたるプロバイオティクスの補給後は、1log10より大きかった。B群におけるプロバイオティクスの補給の終了時に、全大腸菌群および大腸菌の濃度は、母集団(D群)に見いだされる値より有意に低かったことから(それぞれp=0.0182およびp=0.0229)、大腸菌に対するプロバイオティック細菌のかなりの拮抗作用が裏付けられた。
【0110】
結論として、有効量のN-アセチルシステインも含む、特定株L.ラムノサスLR06、L.ペントサスLPS01、L.プランタルムLP01、およびL.デルブリュッキ亜種デルブリュッキLDD01の組合せの投与は、10日間の経口補給後に、胃および十二指腸のレベルで細菌増殖を有意に減少させ、腸内細菌叢中のグラム陰性細菌、エンテロコッカス属、酵母およびカビを減少させ、よってその組成のバランスを迅速に取り戻し、有害細菌に対する防御障壁を、特に胃レベルで修復することができる。
【0111】
N-アセチルシステイン(NAC)を、考えうる細菌性バイオフィルムの形成を機械的に防止するというその能力ゆえに使用したところ、胃液でも、十二指腸の擦過によって得た試料でも、乳酸桿菌以外のさまざまな細菌の濃度が有意に低下したので、有効であることが明らかになった。
【0112】
この試験において使用したプロバイオティック株は全て、以前に、大腸菌の特定株(これには腸管出血性の血清型O157:H7も含まれる)に対するインビトロでの有意な拮抗作用を示しており、それゆえに、これら有害微生物または病原性微生物が媒介する感染症を効果的に予防するために使用することができるだろう。
【0113】
PPIの使用が現実にさらに拡がっていることを考えると、パイロット試験において使用したようなプロバイオティクスおよびNACの併用経口補給は、正常な胃障壁効果を少なくとも部分的には修復し、よって、胃内酸度が低下している集団の大部分における食物起源の胃腸感染症の危険を低減することができる、画期的戦略である。
[表3]
【表6】