【実施例】
【0052】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0053】
[試験1:空隙を有する触媒コート層を一層有する触媒の調製および評価]
1.触媒の調製
(1)実施例1
先ず、イオン交換水500gに、Al
2O
3粉末(サソール社製:比表面積100m
2/g、平均粒子径30μm)150gとCeO
2−ZrO
2固溶体の粉末(第一稀元素化学工業社製:CeO
2含有量20質量%、ZrO
2含有量25質量%、比表面積100m
2/g、平均粒子径10nm)300gとを添加し混合して得られた溶液に対し、ビーズミル(アズワン社製、商品名「アルミナボール」、使用ビーズ:直径5000μmアルミナ製マイクロビーズ)を用い、処理時間:25分間、攪拌速度400rpmの条件で撹拌処理を施し、CeO
2−ZrO
2固溶体とAl
2O
3粉末との混合物(複合金属酸化物)からなる金属酸化物粒子を含む分散液を準備した。なお、レーザ回折式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、商品名「LA−920」)を用いてレーザ回折法により金属酸化物粒子の粒径を測定したところ、面積基準の累積粒度分布における累積50%径の値が3.2μmであった。
【0054】
次に、得られた分散液に、貴金属原料として白金(Pt)を金属換算で4g含むジニトロジアンミン白金溶液0.05L及び繊維状有機物として有機繊維(PET繊維、平均直径:3μm×長さ:42μm、平均アスペクト比:14)を金属酸化物粒子100質量部に対して1.0質量部をそれぞれ添加して撹拌速度400rpmの条件で30分間混合し、触媒スラリーを調製した。
【0055】
次いで、得られた触媒スラリーを、基材としての六角セルコージェライトモノリスハニカム基材(デンソー社製、商品名「D60H/3−9R−08EK」、直径:103mm、長さ:105mm、容積:875ml、セル密度:600cell/inch
2)にウォッシュコート(塗布)し、大気中、100℃の温度条件で0.5時間乾燥した後、更に、このような触媒スラリーのウォッシュコート、乾燥及び仮焼を基材に対する被覆量が基材1Lあたり100g(100g/L)となるまで繰り返し行うことにより、前記基材に触媒スラリー層を形成せしめた。
【0056】
その後、大気中、500℃の温度条件で2時間焼成せしめて、ハニカム形状のコージェライトモノリス基材からなる基材表面に触媒粒子からなる触媒コート層が形成された排ガス浄化用触媒(触媒試料)を得た。
【0057】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物の原料種、平均繊維径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
(2)実施例2〜42
ビーズミルによる処理時間を表1〜表2に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表1〜表2の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、繊維状有機物として表1〜表2に示した原料種、平均繊維径、平均アスペクト比及び混合量の繊維状有機物を用いた以外は、実施例1と同様にして触媒スラリーを得た。次に、得られた触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、排ガス浄化用触媒(触媒試料)を得た。
【0060】
なお、実施例31〜39で用いた繊維状有機物は、イソプロパノールにチタンイソプロポキシド(Ti(OPri)
4)とポリエチレングリコール(PEG)とポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)粒子(平均直径3μm)とを添加し、蒸留水中に放射することにより、所定形状の有機繊維を調製したものを用いた。
【0061】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物の原料種、平均繊維径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表1〜表2に示す。
【0062】
【表2】
【0063】
(3)比較例1〜7
ビーズミルによる処理時間を表3に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表3の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、有機物(繊維状有機物)を用いなかった以外は、実施例1と同様にして比較用触媒スラリーを得た。次に、得られた比較用触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)を得た。
【0064】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表3に示す。
【0065】
【表3】
【0066】
(4)比較例8〜133
ビーズミルによる処理時間を表3〜表8に示した時間とし金属酸化物粒子の粒径が体積基準の累積粒度分布における累積50%径の値で表3〜表8の値となるようにビーズミルにて撹拌処理を行い、繊維状有機物又は有機物として表3〜表8に示した原料種、平均繊維径又は平均直径、平均アスペクト比及び混合量の繊維状有機物又は有機物を用いた以外は、実施例1と同様にして比較用触媒スラリーを得た。次に、得られた比較用触媒スラリーを、実施例1と同様にしてコージェライトモノリスハニカム基材に塗布(コート)し、焼成せしめて、比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)を得た。
【0067】
なお、比較例127〜131で用いた有機物(繊維状有機物)は、イソプロパノールにチタンイソプロポキシド(Ti(OPri)
4)とポリエチレングリコール(PEG)とポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)粒子(平均直径3μm)とを添加し、蒸留水中に放射することにより、所定形状の有機繊維を調製したものを用いた。
【0068】
酸化物粒子準備工程における撹拌処理の処理時間[分]及び得られた金属酸化物粒子の粒径(体積基準の累積50%径の値)[μm]、触媒スラリー調製工程で用いた繊維状有機物又は有機物の原料種、平均繊維径又は平均直径[μm]、平均アスペクト比及び混合量[質量部]、触媒コート層の被覆量[g/L]を表3〜表8に示す。
【0069】
【表4】
【0070】
【表5】
【0071】
【表6】
【0072】
【表7】
【0073】
【表8】
【0074】
2.評価
実施例1〜42で得られた排ガス浄化用触媒(触媒試料)及び比較例1〜133で得られた比較用排ガス浄化用触媒(比較用触媒試料)について、触媒コート層の平均厚さ[μm]、触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)[μm]、触媒コート層の空隙率[容量%]、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合[%]及び高アスペクト比細孔の配向角[度(°)](累積80%角度の値)を測定した。
【0075】
(1)触媒コート層の平均厚さの測定試験
触媒試料及び比較用触媒試料をエポキシ樹脂で包埋し、基材(ハニカム形状の基材)の径方向に切断し、断面を研磨したものを用い、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:700倍)により触媒コート層の平均厚さを測定した。なお、平均厚さは、無作為に10箇所の触媒コート層を抽出し、これら触媒コート層の層厚さを測定して平均することによって求めた。得られた結果を表1〜表8に示す。
【0076】
(2)触媒粒子の粒径の測定試験
触媒試料及び比較用触媒試料をエポキシ樹脂で包埋し、基材(ハニカム形状の基材)の径方向に切断し、断面を研磨したものを測定し、走査型電子顕微鏡(SEM)観察(倍率:700倍)を行い、触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径の値を算出した。なお、触媒粒子の粒径の断積基準の累積15%径の値は、触媒コート層の基材平坦部に対して水平方向に200μm以上、かつ、基材平坦部に対して垂直方向に25μm以上からなる四角形の領域の触媒粒子を抽出し、これら触媒粒子の触媒粒子サイズ(断面積)の大きいものから触媒粒子の断面積をカウントしたときに、触媒粒子の断面積の和が断面積0.3mm
2未満の細孔を除いた触媒コート層の断面積全体の15%に相当するときの触媒粒子の粒径の値を測定することによって求めた。得られた結果を表1〜表8に示す。
【0077】
(3)触媒コート層の空隙率の測定試験
触媒試料の空隙率を、JIS R 2205に従い、水中重量法により下記の式により測定した。なお、脱気は真空脱気とした。
空隙率(気孔率)(容量%)=(W3−W1)/(W3−W2)×100
W1:乾燥質量(120℃×60分)
W2:水中質量
W3:飽水質量
得られた結果を表1〜表8に示す。
【0078】
(4)触媒コート層中の細孔の測定試験1:細孔の円相当径
触媒試料及び比較用触媒試料の触媒コート層中の細孔について、FIB−SEM分析を行った。
先ず、触媒試料及び比較用触媒試料を、
図1の(A)に示す点線の位置で軸方向に切断し、
図2(B)に示す形状の試験片を得た。次に、
図1の(B)の四角枠点線で示した範囲をFIB(収束イオンビーム加工装置、日立ハイテクノロジーズ社製、商品名「NB5000」)で削りながら、
図1の(C)に示すように奥行き0.28μmピッチでSEM(走査型電子顕微鏡、日立ハイテクノロジーズ社製、商品名「NB5000」)像を撮影した。なお、FIB−SEM分析の条件は、SEM像は縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上、撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした。
図1は、FIB−SEMの測定方法の一例を示す概略図で、(A)は本発明の排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の一部を示す概略図、(B)は排ガス浄化用触媒を(A)に示す点線の位置で軸方向に切断した試験片を示す概略図、(C)はFIB−SEM測定方法により得られたSEM像の概略図を示す。FIB−SEM分析による観察結果の一例として、実施例5の触媒試料について測定した連続断面SEM像のうち一枚を
図2に示す。
図2の黒い部分が細孔である。
図2は、実施例5で得られた排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の走査型電子顕微鏡写真(SEM写真)である。なお、
図1の(c)に示すような連続画像はX線CT等でも撮影することが可能である。
【0079】
次に、FIB−SEM分析により得られた連続断面画像(SEM像)を、細孔と触媒の輝度の差を利用して市販の画像解析ソフトウェア(三谷商事社製、「二次元画像解析ソフトWinROOF」)を用いて画像解析を行い、二値化処理して細孔を抽出した。得られた結果の一例として、
図2のSEM写真を二値化処理したものを
図3に示す。
図3中、黒色部分が触媒、白色部分が細孔をそれぞれ示す。なお、前記細孔の解析においては、前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析対象とした。また、このように輝度の差を利用して対象を抽出する機能はWinROOFに限定されるものではなく、一般的な解析ソフトに標準的に搭載されているもの(例えば、株式会社プラネトロン社製のimage−Pro Plus)を利用することができる。
このような画像解析により、細孔の輪郭内の面積を求め、細孔の円相当径を計算し、前記細孔の粒径としての円相当径を得た。
【0080】
(5)触媒コート層中の細孔の測定試験2:高アスペクト比細孔の平均アスペクト比
次に、上記方法で得られた連続断面画像を解析し、細孔の三次元情報を抽出した。ここで、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比の測定方法は、前述の
図4及び
図5を用いて説明した方法と同様であり、前記高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は、前述の
図4及び
図5に相当する細孔の三次元情報を例示する二次元投影図及び細孔の断面画像を作成し、SEM像:縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上の範囲内の高アスペクト比細孔(撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした)を解析することにより求めた。なお、実施例5で得られる排ガス浄化用触媒の基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の連続断面画像を解析して得た細孔の三次元情報を例示する二次元投影図は、
図4に示される前記細孔の三次元情報を例示する二次元投影図と同様のものである。その結果、実施例5の高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は18.9であった。また、実施例5以外の実施例及び比較例の測定結果(高アスペクト比細孔の平均アスペクト比)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0081】
(6)触媒コート層中の細孔の測定試験3:高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合
次に、前記高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は、高アスペクト比細孔の空隙率を触媒コート層の空隙率で除することにより求めた。
【0082】
なお、高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)は、先ず、SEM像:縦25μm以上、横500μm以上、測定奥行きは500μm以上の範囲内の高アスペクト比細孔(撮影視野数は3以上、撮影倍率は2000倍とした)を抽出し、それぞれの容積を次に示す方法で算出した。すなわち、FIB−SEMで得られた断面画像における高アスペクト比細孔の断面の面積に連続断面画像のピッチ0.28μmを乗じ、それらの値を積算することにより高アスペクト比細孔の容積を算出した。次に、得られた「高アスペクト比細孔の容積」の値を、FIB−SEMを撮影した範囲(前記SEM像の範囲)の体積で除することにより、高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)を得た。
【0083】
次に、得られた高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)を、前記「触媒コート層の空隙率の測定試験」で得られた触媒コート層の空隙率(容量%)で除することにより、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(容量%)を求めた(「高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(%)」=「高アスペクト比細孔の空隙率(容量%)」/「触媒コート層の空隙率(容量%)」×100)。
【0084】
その結果、実施例5の高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合は11.1%容量%であった。また、実施例5以外の実施例及び比較例の測定結果(高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0085】
(7)触媒コート層中の細孔の測定試験4:高アスペクト比細孔の配向角
次に、前記高アスペクト比細孔の配向角として、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルとがなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を求めた。ここで、高アスペクト比細孔の配向角(累積80%角度の値)の測定方法は、前述の
図4〜
図6を用いて説明した方法と同様である。なお、実施例5で得られる二次元投影図は
図4に例示される二次元投影図と同様のものであり、
図6は実施例5で得られる二次元投影図において高アスペクト比細孔の円錐角を示す概略図と同様である。
図6の概略図に示すように、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトル(Y)と前記基材の排ガスの流れ方向(ハニカムの軸方向)ベクトル(X)とがなす角(円錐角)を求め、上記三次元画像の画像解析により、前記円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を算出した。なお、高アスペクト比細孔の配向角(累積80%角度の値)は、無作為に20個の高アスペクト比細孔を抽出し、これら高アスペクト比細孔の円錐角の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値を測定して平均することによって求めた。得られた結果(累積80%角度の値)を表1〜表8にそれぞれ示す。
【0086】
(8)触媒性能評価試験
実施例1〜42及び比較例1〜133で得られた触媒試料について、以下のようにして、それぞれNOx浄化率測定試験を行い、各触媒の触媒性能を評価した。
【0087】
(NOx浄化率測定試験)
実施例1〜42及び比較例1〜133で得られた触媒試料について、以下のようにしてそれぞれ過渡時の過渡変動雰囲気におけるNOx浄化率を測定した。
すなわち、先ず、直列4気筒2.4Lエンジンを用いて、14.1、15.1を目標にA/Fフィードバック制御を行い、A/F切り替え時の平均NOx排出量からNOx浄化率を算出した。その際の吸入空気量を40(g/sec)、触媒への流入ガス温度を750℃となるようにエンジン運転条件、配管のセットアップを調整した。
【0088】
3.結果
(1)触媒コート層の被覆量と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の被覆量とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図7に示す。
図7及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の被覆量が50〜300g/Lの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0089】
(2)触媒コート層の平均厚さと触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の平均厚さとNOx浄化率との関係を示すグラフを
図8に示す。
図8及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の平均厚さが25〜160μmの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0090】
(3)触媒粒子の粒径と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒粒子の粒径(触媒粒子の断面積基準の累積粒度分布における累積15%径の値)とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図9に示す。
図9及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒粒子の粒径(断面積基準の累積15%径の値)が3〜10μmの範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0091】
(4)触媒コート層の空隙率と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、触媒コート層の空隙率(水中重量法により測定した空隙率)とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図10に示す。
図10及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、触媒コート層の空隙率が50〜80容量%の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0092】
(5)高アスペクト比細孔の平均アスペクト比と触媒性能の関係
先ず、実施例5により得られた触媒の高アスペクト比細孔のアスペクト比(前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析して求められる、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔のアスペクト比)と頻度(%)との関係を示すグラフを
図11に示す。なお、比較例4により得られた触媒の細孔におけるアスペクト比と頻度(%)との関係を、
図11に併せて示す。
図11に示した実施例5の結果と比較例4の結果との比較から、比較例4の比較用排ガス浄化用触媒は高アスペクト比細孔が非常に少ないことが確認された。
【0093】
次に、実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比(前記基材の排ガスの流れ方向に垂直な触媒コート層断面の断面画像における細孔の円相当径が2μm以上である細孔を解析して求められる、前記細孔のうち5以上のアスペクト比を有する高アスペクト比細孔の平均アスペクト比)とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図12に示す。
図12及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の平均アスペクト比が10〜50の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0094】
(6)高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合と触媒性能の関係
実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合(高アスペクト比細孔の占める割合)とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図13に示す。
図13及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の空隙全体に占める割合が0.5〜50%の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0095】
(7)高アスペクト比細孔の累積80%角度の値と触媒性能の関係
先ず、実施例16により得られた触媒の高アスペクト比細孔の円錐角(度(°)、前記高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルYと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルXと
がなす角)と累積割合(%)との関係を示すグラフを
図14に示す。
図14から、円錐角が分布を持つことが確認された。
【0096】
次に、実施例1〜42及び比較例1〜133により得られた触媒の触媒性能評価試験の結果を示すグラフとして、高アスペクト比細孔の累積80%角度の値(高アスペクト比細孔の長径方向ベクトルYと前記基材の排ガスの流れ方向ベクトルXと
がなす角(円錐角)の角度基準の累積角度分布における累積80%角度の値)とNOx浄化率との関係を示すグラフを
図15に示す。
図15及び表1〜表8に示した実施例1〜42の結果と比較例1〜133の結果との比較から明らかなように、実施例1〜42の排ガス浄化用触媒は、高アスペクト比細孔の配向角(角度基準の累積80%角度の値)が0〜45度(°)の範囲内において、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが確認された。
【0097】
以上の結果より、本発明の排ガス浄化用触媒は、高ガス流量の高負荷領域においても優れた触媒性能を発揮することが可能な排ガス浄化用触媒であることが確認された。
【0098】
[試験2:二層の触媒コート層を有する触媒の調製および評価]
1.触媒の調製
(1)比較例1:造孔材を使用せず調製した二層触媒
(a)下層Pd層(Pd(1.0)/CZ(50)+Al
2O
3(75))
貴金属含有量8.8重量%の硝酸パラジウム水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、Pdをセリア−ジルコニア複合酸化物材(30重量%のCeO
2、60重量%のZrO
2、5重量%のY
2O
3および5重量%のLa
2O
3からなる複合酸化物:以下CZ材と称する)に担持させたPd/CZ材を調製した。次に、そのPd/CZ材と、1重量%のLa
2O
3を含有する複合化Al
2O
3担体、およびAl
2O
3系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー1を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.3μmであった。
【0099】
容量875ccのコージェライト製のハニカム構造基材(600H/3−9R−08、デンソー社製)にスラリー1を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してPdが1.0g/L、複合化Al
2O
3担体が75g/L、およびPd/CZ材が50g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは35μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は73%であった。
【0100】
(b)上層Rh層(Rh(0.2)/CZ(60)+Al
2O
3(40))
貴金属含有量2.8wt%の塩酸ロジウム水溶液(キャタラー社製)を用い、含浸法により、RhをCZ材に担持させたRh/CZ材を調製した。次に、そのRh/CZ材と、1重量%のLa
2O
3を含有する複合化Al
2O
3担体、およびAl
2O
3系バインダーを蒸留水に撹拌しながら加えて懸濁し、スラリー2を調製した。スラリーに含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.2μmであった。
【0101】
スラリー1をコーティングしたハニカム構造基材にスラリー2を流し込み、次いでブロアーで不要分を吹き払い、基材壁面をコーティングした。コーティングには、基材容量に対してRhが0.2g/L、複合化Al
2O
3担体が40g/L、およびRh/CZ材が60g/L含まれるようにした。コーティング後、120℃の乾燥機で2時間水分を除去した後、500℃の電気炉で2時間の焼成を行った。SEM観察に基づくコーティングの厚さは27μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は68%であった。
【0102】
(2)比較例2:下層にのみ造孔材を使用して調製した二層触媒
スラリー1の調製時に造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。スラリー1に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.4μmであった。また、造孔材を加えたスラリー1を用いて形成した下層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが39μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は76%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は9%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は41であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。
【0103】
(3)比較例3:上下層に造孔材を使用して調製した二層触媒
スラリー1およびスラリー2のいずれの調製時においても、造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。スラリー2に含まれる粒子の、断面積基準の累積粒度分布における累積15%径は3.0μmであった。また、造孔材を加えたスラリー2を用いて形成した上層コーティングは、SEM観察に基づくコーティングの厚さが30μmであり、水中重量法に基づくコーティングの空隙率は71%であった。コーティング中の全空隙に対するアスペクト比が5以上の高アスペクト比細孔の体積比率は9%であり、該高アスペクト比細孔の平均アスペクト比は40であった(いずれもFIB−SEMによる3D測定に基づく)。なお、造孔材を加えたスラリー1を用いて形成した下層コーティングの各データについては、上記(2)と同様であった。
【0104】
(4)実施例1:上層にのみ造孔材を使用して調製した二層触媒
スラリー2の調製時に造孔材として直径(φ)2μm、長さ(L)80μmのPET繊維を金属酸化物粒子の重量に対して3重量%さらに加えた以外は、比較例1と同様にして触媒を調製した。造孔材を加えたスラリー2を用いて形成した上層コーティングの各データについては、上記(3)と同様であった。また、造孔材を加えていないスラリー1を用いて形成した下層コーティングの各データについては上記(1)と同様であった。
【0105】
2.評価
(1)高Ga条件下での酸素貯蔵能(OSC)評価
2AR−FEエンジン(トヨタ社製)に触媒を装着し、高吸入空気量(高Ga)条件で、14.1と15.1を目標にA/Fフィードバック制御を行った。ストイキ点とA/Fセンサ出力の差分より、酸素の過不足を以下の式から算出し、最大酸素吸蔵量(C
max)をOSC値として評価した。吸入空気量は40g/s以上となるようにした。
C
max(g)=0.23×ΔA/F×噴射燃料量
【0106】
(2)高Ga条件下でのNOx浄化性能評価
2AR−FEエンジン(トヨタ社製)に触媒を装着し、A/Fをストイキフィードバック制御し、高吸入空気量(高Ga)条件でNOx浄化性能を評価した。吸入空気量は40g/s以上となるようにした。
【0107】
(3)耐久試験
1UR−FEエンジン(トヨタ社製)に触媒を装着し、1000℃(触媒床温)で25時間の劣化促進試験を実施した。その際の排ガス組成については、スロットル開度とエンジン負荷を調整し、リッチ域〜ストイキ〜リーン域を一定サイクルで繰り返すことにより、劣化を促進させた。耐久試験後の触媒に、ストイキ雰囲気(空燃比A/F=14.6)の排ガスを供給し、500℃まで昇温させた際に、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を計測した。
【0108】
3.結果
図16は高Ga条件下での最大酸素吸蔵量(C
max)の測定結果を示すグラフであり、
図17は高Ga条件下でのNOx浄化率の測定結果を示すグラフである。上層にのみ造孔材を使用して調製した実施例1の触媒は、酸素貯蔵能およびNOx浄化性能のいずれにおいても、高Ga条件下において、比較例1〜3の触媒よりも優れていた。このことから、ガス拡散における律速段階は上層コーティングであり、比較例2のように下層コーティングのみガス拡散性を向上させても十分な効果が得られないこと、また、比較例3のように上下層コーティングの両方のガス拡散性を向上させると、ガスが下層に透過しやすくなる代わりに上層での浄化作用を受けにくくなり、耐熱性を考慮して上層を高活性なRh層とした場合には、その浄化性能を十分に活かすことができないことが推察された。
【0109】
図18は耐久試験後の触媒において、NOx浄化率が50%となる温度(T50−NOx)を測定した結果を示すグラフである。上層にのみ造孔材を使用して調製した実施例1の触媒は、造孔材を使用せずに調製した比較例1の触媒と比較しても耐熱性には大差がないと判断された。