【実施例】
【0026】
図1乃至
図4において、図示の人形用肢体分離折曲装置1は、人形の任意箇所、この例では
図4に示すように大腿部2の長さ方向途中の輪切切断部3の一方の大腿部下部側の輪切面31側に埋設された略短筒状の受部4と、この受部4に対して引っ張りコイルばね51を介して接離自在且つ傾動自在に当接された略筒状の傾動部5と、前記の輪切切断部3の他方の大腿部上部側の輪切面32側に埋設されて前記の傾動部5に対して相対的に当該傾動部5の筒軸方向に摺動自在で且つ筒周り方向に回動自在に嵌合された嵌合部6とを備えている。
【0027】
図4及び
図5において、受部4は、筒の短い有底の略短筒状(以下、単に短筒ともいう)としているが、
図5に示すように静止状態において、当該短筒の全体で傾動部5を受けるのではなく、短筒の上端口縁部即ち輪切面31側の口縁部を受口41とし、この受口41の縁(受口縁)で筒状の傾動部5の下端側を浅く嵌合させて受ける部材である。
【0028】
図示の受部4の例では、
図2に示すように受部4の受口41が円の一部を直線状とした形状、譬えて言うならば半月状或いは輪切された板蒲鉾状(以下、このような円形でない口形を異形口ともいう)の短筒とされているが、単純な円形状の短筒であってもよい。
【0029】
後述するように、傾動部5の下端側を前記異形口に嵌合する相補形状の異形嵌口とすることによって、受部4と傾動部5とが常に所定の状態で嵌合し当接し合うように位置決めすることができる。この位置決めによって、受部4に傾動部5が嵌合して当接した状態では、輪切された肢体、この例では大腿部が、常に、当初人形に当初から与えられていた形態の大腿部の形状に維持される。
尚、受部4を単純な円形状の短筒とする場合には、他の適当な位置決め手段を用いればよい。
【0030】
傾動部5は、有底の筒状体(以下、略有底筒状体或いは単に筒体ともいう)であって、当該筒状体5の一方端側が前記受部4の受口41の縁(以下、受口縁ともいう)に、当該筒状体5の筒軸を中心に略すりこぎ運動状に傾動するよう傾動可能に当接される部材である。
【0031】
傾動部5の主体をなす筒状体(5)の内部には、引っ張りコイルばね51が筒軸方向に張設されている。この引っ張りコイルばね51の一端は前記受部4の受口底側に係止され、他端は当該筒状体5の他方端側に係止されており、この引っ張りコイルばね51の引っ張り力で、当該筒状体5は、その一方端側が前記受口41の縁に接離自在且つ傾動自在に浅く嵌合して、当該受部4の受口41の縁に、筒軸が一致して当接された状態に維持されている。
【0032】
この傾動部5の底外側には、筒状体5の径方向に挿脱自在に貫通してコイルばね51の一端を係止する係止ピン52を挿脱自在に貫通支持する支持突起53が筒軸方向に突設されている。この係止ピン52は、当該傾動部5の筒外径よりは短く、従って支持突起53の筒の径方向の長さは係止ピン52よりも更に短く形成されている。
これは、後述の嵌合部6が、前記傾動部5の底外に、前記支持突起5に支持された係止ピン51が貫通支持された状態のままでも筒軸方向に摺動自在で、筒周り方向にも回動自在に嵌合させるためである。
【0033】
嵌合部6は、傾動部5を当該傾動部5の前記他端側の外側から二重筒状に覆って、筒軸方向に摺動自在で当該筒周り方向に回動可能に嵌合されるもので、これもまた有底の筒状をした部材(以下、有底筒状体或いは有底外筒ともいう)である。
この嵌合部6の底には、前記傾動部5の底外の支持突起53に貫通支持されたままの係止ピン52が、相対的に所定の筒径方向に向いた状態において(係止ピン52と係止孔61との一致)、前記支持突起53と共に通過可能(以下、この相対的な筒径方向の所定の位置を解錠位置ともいう)な係止孔61を有する(分離自在)。
【0034】
従って、この嵌合部6の係止孔61は、当該嵌合部6を前記傾動部5に対して相対的に筒周り方向に回動して周方向嵌合位置を前記の所定の解錠位置以外(以下、この位置を施錠位置ともいう)に変えると(係止ピン52と係止孔61の不一致)、当該嵌合部6を前記傾動部5に対して筒軸方向に嵌合させる方向或いは嵌合を外す方向に摺動させようとしても、前記係止ピン52が当該係止孔61の孔縁即ち底面62に衝突して通過不能とさせる(分離或いは嵌合不能)機能を有する。
【0035】
従って、嵌合部6と傾動部5とは、両部の二重筒状の嵌合状態において、
図5に示す傾動部5との係合状態と
図4に示す傾動部5との係合解除状態との状態変化を、傾動部5と嵌合部6との相対的な回動位置操作(実際には受部4が埋設された人形部材側と嵌合部6が埋設された人形部材側との相対的回動操作)によって、容易に実現させることができる。
即ち、嵌合部6と傾動部5とを実際的には受部4と嵌合部6とを、嵌合させた状態で筒軸方向の回動位置即ち解錠位置を探るように回動操作して、前記解錠位置に合わせることによって、受部4が埋設された人形部材側と嵌合部6が埋設された人形部材側とを極めて容易に一体化(係合)させたり、完全分離(離脱)させたりすることができる(係脱自在)。
【0036】
図4において、支持突起53は、当該支持突起53が支持する係止ピン52と当該支持突起53が立設する当該嵌合部6の底面62の外側との間の係合間隔Sが、係止孔61を有する嵌合部6の底面62の厚さに対して同等か同等以上即ち同等及び/又は大としてある。
【0037】
上記の係合間隔Sは次のように機能する。
先ず、
図3に図示の状態から
図4に図示の状態へと嵌合部6を傾動部5に嵌めて行き、傾動部5の支持突起53に貫通支持されている係止ピン52に対して、嵌合部6の係止孔61との長手方向の向きが筒径方向において一致するように、即ち、係止孔61の孔縁即ち嵌合部6の底面62が係止ピン52と衝突しないよう傾動部5と嵌合部6とを相対的に回動操作して、周方向嵌合位置を前記の所定の解錠位置とする。
すると、嵌合部6はその底面62が、係止ピン52と接触することなく通過して、更に深く嵌入し、係合間隔Sに達して収まり、嵌合部6が傾動部5に対して二重筒状になって嵌合した状態となる。
【0038】
次に、嵌合部6の底面62が係合間隔Sに収まった嵌合状態の下で、嵌合部6を傾動部5に対して相対的に筒軸周り方向即ち筒周り方向に回動して周方向嵌合位置を前記の所定の解錠位置以外、即ち、施錠位置に変えた状態(
図5の状態)にすると、係止ピン52と係止孔61との向き(方向)が不一致となるため、嵌合部6を傾動部5に対して筒軸方向に嵌合を外す方向に摺動させようとしても、係止ピン52が該係止孔61の孔縁即ち底面62に衝突して通過不能となる。
これによって、受部4にコイルばね51を介して分離不能に連結されている傾動部5と嵌合部6とが分離不能に係合し一体化される。
尚、この一体化(係合)を解いて、傾動部5と嵌合部6とを分離するには上記手順を逆に行えばよい。
【0039】
こうして一体化された傾動部5と嵌合部6とは、一本のコイルばね51を介して受部4の底側(図において受部の下方側)と連結された状態で、傾動部5の下端側が受部4の受口41にコイルばね51を介して接離自在に当接する。
受部4と傾動部5との間に介装するこのコイルばね51は、着せ替え従事者の手力が加えられない状態即ち常時では、引っ張り力が作用して傾動部5と受部4との当接状態が維持され、着せ替え作業時に従事者の手力が引き延ばし方向や傾動方向に加えられると、
図5に示すように比較的容易に伸張して自在に屈曲する程度の張力で張設しておく。
【0040】
以下、本装置1のその他の構成を、本装置の組み立て及び人形に埋設(装置)する説明と共に説明する。
先ず、
図2及び
図4において、受部4を説明する。
実施例の受部4は、上述のように口形が板蒲鉾状の無底の短筒状に形成されており、当該開口縁即ち受口41の縁(口縁)には当該受部4の本体である筒状体を人形部材の輪切面31に穿った埋め込み用穴(図示せず)に埋め込んだ状態に固定するための埋設固定用フランジ43が輪状に設けられており、当該埋設固定用フランジ43には止着ビス42用のビス穴44が適当数配設されている。
【0041】
この受部4は
図4に示すようにフランジ43の表面が輪切面31と同一平面をなすように埋設される。
又、受部4の下端側即ち埋設状態における底側には、コイルばね51の一方端(図において下端側)を係止する係止具として当該筒状体(4)を径方向に貫通するネジ45とナット46とを備えている。
【0042】
図2乃至
図4において、埋設される前の受部4は、上記のように傾動部5と一体的となるよう予め組み立てられている。この組み立てを
図2及び
図4に基づいて説明する。
先ず、コイルばね51の下端側をネジ45が貫通する位置に落とし込み、落とし込んだ状態のままでネジ45を、コイルばね51の下端の係止孔54に通すよう筒状体即ち受部4の本体にネジ止め固定する(
図4参照)。
【0043】
次に、コイルばね51の上端側から傾動部5を被せて行き、コイルばね51の上端の係止孔55(
図2)が傾動部5の支持突起53の内部に相対的に侵入させ、侵入させた状態のままで、当該係止孔55を通るように係止ピン53を支持突起53に貫通させる。
貫通させる際、コイルばね51は上記のような引っ張り力が与えられているので、
支持突起53の頂面側に設けてある開口56から適当な引っかけ具(図示せず)を挿し込んで、コイルばね51の上端側を引っ張り上げて置く必要がある。
【0044】
このようにコイルばね51を伸張させた状態で係止ピン53を貫通させた後、引っかけ具(図示せず)を外すと、コイルばね51の引っ張り力で、
図4に示すように、受部4の受口41に傾動部5の下端側が接離自在に当接する。即ち
図3に示すように、受部4と傾動部5とがコイルばね51を介して一体的に連結された状態となる。即ち、本装置1は受部4と傾動部5とが連結された一体と嵌合部6の一体との二組となる。
【0045】
このようにして、一体的に連結された受部4と傾動部5とは、コイルばね51の引っ張り力による縮小(当接)と、当該張力に抗する着せ替え作業者の手力による伸張や折り曲げによる分離(不完全分離)がされる毎に、受部4の受口41と傾動部5の下端(側)との当接や分離が繰り返えされることになる。
【0046】
この当接と分離とを円滑に行わせるために、一方の受部4の受口41の口縁はRを付けた曲面としてある。
他方の傾動部5の下端側の筒口縁には、即ち、受部4の受口41の縁(受口縁)に当接される傾動部5の端側(図において下端側)には、当該受口縁(41)に若干嵌入するように受口縁41と相補形状の嵌入突起57とすると共に、当該受口縁(41)への無用の嵌入を阻止する阻止フランジ58とを設け、前記の嵌入突起57の突起頂点側から阻止フランジ58のフランジ外周縁側までを、当該受口4の本体である筒状体の筒軸方向断面において略弧状としてある。
【0047】
次に、嵌合部6について説明する。
嵌合部6は上述の通りその本体たる筒状体は有底の筒であり、図において上端側の底部62には傾動部5の支持突起53と当該支持突起53に貫通支持されている係止ピン52とが通過可能な貫通孔61が設けられている。
又、図において下端側の筒口開口部縁には当該嵌合部6が埋設される輪切面32に当接される埋設固定用フランジ65が輪状に設けられており、当該埋設固定用フランジ65には止着ビス66用のビス穴67が適当数配設されている。
【0048】
この嵌合部6もまた上記の受部4と同様に、
図4に示すようにフランジ65の表面が輪切面32と同一平面をなすように埋設されるのであるが、
図1の施錠状態(嵌合部6の貫通孔61に対する係止ピン52の図において90度のズレに着目)で輪切面32に埋設される必要がある。これは、90度のズレで埋設された状態における大腿部の形状が人形の肢体姿として当該人形に当初から与えられている肢体形状となるからである。
【0049】
この施錠状態(係合状態)においては、この実施例において、大腿部の途中を輪切して相対する両輪切面31、32に埋設された本装置1を用いて両輪切面31、32側の人形の肢体部分を完全に分離させることはできないが、
図5に示すように、係止ピン52を介して一体化された傾動部5と嵌合部6とを、受部4との当接状態を引き離して不完全分離させた状態にして、或いは不完全分離状態にさせながら、当該輪切切断部3における両輪切面31、32の相対間隔を開かせたり、開かせた状態で360度任意の方向に折り曲げたりすることができる。
【0050】
他方、この施錠状態(係合状態)から、大腿部の途中を輪切して相対する両輪切面31、32に埋設された本装置1を用いて両輪切面31、32側の人形の肢体部分を完全に分離させるには、
図1の状態から図中の係止ピンと係止孔61とを一致させるようこの実施例では90度、嵌合部6を傾動部5に対して相対的に回動操作する必要がある。
図2は本装置1の分解斜視図であるが、係止ピン52と係止孔61とを一致させた状態で図示してある。
【0051】
要するに、この実施例では、両輪切面31、32側の人形の肢体部分を完全に分離させるには、90度の相対回動操作を必要とするものであり、解除状態にて嵌合部6と傾動部5とを一体的に嵌合させて、確実な一体化を維持させるために解除状態から90度の回動位置にて、係止ピン52が回動し難く安定化即ち施錠状態を維持させるように、係止ピン52に対する回動阻止突起としてのストッパー用突起68を嵌合部6の底面の外面に係止ピン52の外周面を2点で回動困難に阻止する一対の係止部として突設している。
【0052】
従って、一方の輪切面31に埋設された受部4ひいては傾動部5に対して、嵌合部6を他方の輪切面32に埋設する際には、上記のように、相対的に90度回動させた状態で埋設する必要があるのである。
従って、勿論、施錠状態を安定化させるために、この実施例の手法によらず、別途の適宜な安定化手段を採用した場合には、それに応じた埋設を行う必要があること当然である。
【0053】
この実施例では、大腿部に本装置を設置したマネキン人形を例にして説明したが、片足立ちの下肢の一方に拘わらず、下肢の双方や、上肢或いは胴部等、何れの部分においても本装置を装着(装置)することができる。