特許第6130767号(P6130767)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ランデス株式会社の特許一覧

特許6130767高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法
<>
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000009
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000010
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000011
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000012
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000013
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000014
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000015
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000016
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000017
  • 特許6130767-高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130767
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20170508BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20170508BHJP
   C04B 40/02 20060101ALI20170508BHJP
   C04B 111/76 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/14 A
   C04B40/02
   C04B111:76
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-213973(P2013-213973)
(22)【出願日】2013年10月11日
(65)【公開番号】特開2015-74603(P2015-74603A)
(43)【公開日】2015年4月20日
【審査請求日】2015年9月3日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211237
【氏名又は名称】ランデス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】綾野 克紀
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆史
(72)【発明者】
【氏名】細谷 多慶
【審査官】 岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−281057(JP,A)
【文献】 特開2012−116712(JP,A)
【文献】 特開2010−006662(JP,A)
【文献】 特開2010−001208(JP,A)
【文献】 特開2004−299923(JP,A)
【文献】 特開2012−197212(JP,A)
【文献】 特開2011−006305(JP,A)
【文献】 特開2014−159354(JP,A)
【文献】 特開2013−227179(JP,A)
【文献】 米国特許第05306344(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0137933(US,A1)
【文献】 齊籐和秀 他,論文 高炉スラグ細骨材を使用した耐久性向上コンクリートの性質,コンクリート工学年次論文集,日本,日本コンクリート工学会,2009年 6月15日,Vol.31,No.1,139-144
【文献】 小山田邦弘 他,各種リサイクル材料のコンクリートへの有効活用に関する研究,コンクリート工学年次論文集,日本,2009年,Vol.31/No.1,pp.1915-1920
【文献】 吉田泰 他,環境配慮型超高強度コンクリートに関する研究,堆積建設技術センター報,日本,2011年,第44号,第22-1頁〜第22-5頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないモルタルまたはコンクリート用組成物であって、
JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるモルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れることを特徴とするモルタルまたはコンクリート用組成物。
【請求項2】
前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形してなる成形品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする請求項1に記載のモルタルまたはコンクリート用組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモルタルまたはコンクリート用組成物を成形してなる成形品。
【請求項4】
請求項1または2に記載のモルタルまたはコンクリート用組成物に空気を連行する性能を有する剤を添加せずに成形して成形品を製造することを特徴とする成形品の製造方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載のモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートの耐凍害対策として、普通コンクリートの荷卸し地点での空気量およびその許容差を4.5%±1.5%とすることが知られている(例えば、JIS A 5308「レディーミクストコンクリート」を参照)。また、独立行政法人土木研究所による実験でも、AE剤を用いて空気を連行したコンクリートは耐凍害性を有することが確認されている。
【0003】
一方、コンクリートの耐凍害対策に関連する技術として、例えば特許文献1に記載の硬化体が知られている。この特許文献1の硬化体は、耐凍害性が著しく劣る鉄鋼スラグ水和固化体の耐凍害性を向上させたものである。
【0004】
なお、本出願人はこうしたモルタルまたはコンクリート用組成物に関連し、既に特許文献2の技術、ならびに、特願2012−209747号および特願2013−031409号の技術を提案している。特許文献2は、非晶質な高炉スラグ細骨材、ならびに比表面積がブレーン値で2500〜7000cm/gの高炉スラグ微粉末およびポルトランドセメントを含む結合材を含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、結合材に対するポルトランドセメントの質量比が0.3〜0.9のものである。このモルタルまたはコンクリート用組成物は、下水道施設等の硫酸性雰囲気に晒される環境で使用した場合に、表面に二水石こう層が形成されるので耐硫酸性に優れるという特長がある。
【0005】
また、上記の特願2012−209747号の技術は、高炉スラグ細骨材、ならびに高炉スラグ微粉末およびポルトランドセメントを含む結合材を含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、全細骨材に対する高炉スラグ細骨材の含有率が質量比で66.7%以上であるものである。このモルタルまたはコンクリート用組成物は、細骨材に高炉スラグ細骨材を使用することによりモルタルまたはコンクリートが緻密化し、高強度となることで塩化物イオンの浸透を抑制するので、耐塩害性能に優れるという特長がある。
【0006】
また、上記の特願2013−031409号の技術は、細骨材と、セメントを含む結合材と、水とを含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、細骨材または結合材の少なくとも一方に高炉スラグからなる材料を含むものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−299923号公報
【特許文献2】特開2010−001208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、凍害対策が必要となるコンクリートでは、上記のレディーミクストコンクリートのJIS規格を準用し、AE剤を用いて4.5%±1.5%の空気量を連行することで耐凍害対策としている。しかしながら、AE剤を用いて空気量を4.5%±1.5%の範囲内に調整することは容易でなく、コンクリートの品質管理における最大の手間となっている。もし、凍害対策のためにAE剤を用いなくても良いことになれば、コンクリートの製造管理において大きなコストダウンとなるメリットがある。
【0009】
そこで、本発明者がコンクリートの耐凍害性に関して鋭意研究したところ、骨材として高炉スラグ細骨材を多く含有する組成物は、十分な耐凍害性を有していることが判明した。すなわち、高炉スラグ細骨材を多く含む場合にはAE剤を用いなくても耐凍害性が向上することが判明した。本発明者は以上のような知見に基づき、耐凍害性に優れた以下の本発明に至った。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高炉スラグ細骨材を用いて耐凍害性を向上したモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物は、高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、結合材と、水とを含有し、乾燥収縮低減剤および平均粒径6μm以下の高炉急冷スラグ微粉末を含まないモルタルまたはコンクリート用組成物であって、JIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験であって供試体を浸漬させる溶液の濃度が質量比で10%の塩水である凍結融解試験による、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、前記モルタルまたはコンクリート用組成物とは細骨材が砕砂を含み高炉スラグ細骨材を含まないことのみが異なるモルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れることを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のモルタルまたはコンクリート用組成物は、上述した発明において、前記モルタルまたはコンクリート用組成物を成形してなる成形品が、塩分環境下の凍害に対する抵抗性を有するものであることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る成形品は、上述したモルタルまたはコンクリート用組成物を成形してなる成形品である。
【0014】
また、本発明に係る成形品の製造方法は、上述したモルタルまたはコンクリート用組成物に空気を連行する性能を有する剤を添加せずに成形して成形品を製造することを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係る他の成形品の製造方法は、上述したモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、蒸気養生して成形品を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物によれば、高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、セメントを含む結合材と、水とを含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対するJIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、高炉スラグ細骨材を含まない細骨材と、セメントを含む結合材と、水とからなる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対する前記凍結融解試験における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れている。したがって、耐凍害性に優れたモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=25%、細骨材:硬質砂岩砕砂100%とした場合の図である。
図2図2は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=25%、高炉スラグ細骨材100%とした場合の図である。
図3図3は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=40%、細骨材:硬質砂岩砕砂100%とした場合の図である。
図4図4は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=25%、高炉スラグ細骨材100%、消泡剤添加によるnonAEとした場合の図である。
図5図5は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=40%、高炉スラグ細骨材100%、消泡剤添加によるnonAEとした場合の図である。
図6図6は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=25%、蒸気養生、AE剤を用いないとした場合の図である。
図7図7は、供試体を浸漬させる溶液に濃度が質量比で10%の塩水を用いた凍結融解試験結果の図であり、W/B=40%、蒸気養生、AE剤を用いないとした場合の図である。
図8図8は、JIS A 1148に記載のA法に従い淡水に供試体を浸漬させた凍結融解試験結果の図であり、W/B=50%、AE剤を用いないとした場合の図である。
図9図9は、JIS A 1148に記載のA法に従い淡水に供試体を浸漬させた凍結融解試験結果の図であり、W/B=65%、AE剤を用いないとした場合の図である。
図10図10は、JIS A 1148に記載のA法に従い淡水に供試体を浸漬させた凍結融解試験結果の図であり、W/B=80%、AE剤を用いないとした場合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物は、高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、セメントを含む結合材と、水とを含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対するJIS A 1148:2010「コンクリートの凍結融解試験方法」に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験における所定の凍結融解サイクル(例えば、凍結融解サイクル300回)での相対動弾性係数または耐久性指数は、高炉スラグ細骨材を含まない細骨材と、セメントを含む結合材と、水とからなる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対する前記凍結融解試験における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、凍結融解抵抗性(耐凍害性)に優れるものである。
【0020】
ここで、高炉スラグは、高炉で銑鉄を製造する際に副生されるものであり、その主成分はCaO、SiO2、Al2O3、MgOである。この高炉スラグは、高炉スラグ微粉末あるいは高炉スラグ細骨材の形態で用いることができる。本発明では、高炉スラグ細骨材を細骨材として用いる。
【0021】
高炉スラグ細骨材は、非晶質な高炉スラグ細骨材である。非晶質な高炉スラグ細骨材としては、例えば、高炉スラグを水で急冷した高炉水砕スラグを軽破砕し、固結防止剤を添加したものを用いることができる。高炉水砕スラグの製造において急冷される直前の溶融高炉スラグの温度は1400度〜1500度であり、急冷することにより結晶への原子配列が行われないまま固結してガラス質(非結晶)となる。高炉スラグ細骨材の品質は、JIS A 5011-1に規定されている。
【0022】
また、本発明で用いられるセメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメントおよび高炉セメント、フライアッシュセメントおよびシリカフューム等の混合セメントが挙げられるが、中でも普通ポルトランドセメントを用いることが好ましい。
【0023】
本発明のモルタルまたはコンクリート用組成物のうち、コンクリート用組成物は通常さらに粗骨材を含むものであり、モルタルまたはコンクリート用組成物が硬化することで、成形品としてのモルタルまたはコンクリートが得られることとなる。ここで、モルタルまたはコンクリート用組成物における水の使用量(W)としては、結合材(B)に対する水(W)の質量比(W/B)が0.25〜0.80であること、つまり結合材(B)100質量部に対して、水(W)が25〜80質量部であることが好ましい。また、本発明のモルタルまたはコンクリート用組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、さらにその他の成分を含有しても構わない。
【0024】
本発明のモルタルまたはコンクリート用組成物は、凍害に対する抵抗性に優れていることから、耐凍害性が要求されるダムなどの建造物等の施工や、冬季に融雪剤が散布される山間部の高速道路等といった凍害が生じ得る場所に対して有効である。また、こうした用途以外にも例えば、寒冷地域における海岸構造物、海洋構造物、水路構造物、道路構造物、擁壁構造物、河川構造物、砂防構造物等の耐凍害性が要求される現場で好適に用いられる。このとき、予め本発明のモルタルまたはコンクリート用組成物を成形し、成形品(プレキャストコンクリート製品)として施工してもよいし、本発明のモルタルまたはコンクリート用組成物を用いてモルタル表面またはコンクリート表面を補修する使用態様であっても構わない。
【0025】
次に、本発明の作用効果の一例について、本発明に係るコンクリート用組成物により作製したコンクリート供試体に対する凍結融解試験結果を用いて図1図10を参照しながら説明する。なお、下記の試験結果は、コンクリート供試体から粗骨材を除いて成るモルタル供試体においても同様になると考えられる。
【0026】
図1図7は、本発明のコンクリート用組成物が、凍害および塩害、さらにはこれらの複合劣化に対する抵抗性に優れることを確認するために、凍結融解させる水としては真水ではなく塩水(質量パーセント濃度で10%の塩化ナトリウム水溶液)を用いて、JIS A 1148:2010に記載のA法(水中凍結融解試験方法)に準拠した試験を行った結果について示したものである。一般的には、塩水を用いて凍結融解試験を行った方が、真水で行うよりも過酷な条件下での試験となる。また、図8図10は、JIS A 1148:2010に記載のA法(水中凍結融解試験方法)に従い、真水(淡水)に供試体を浸漬させて行った凍結融解試験結果について示したものである。
【0027】
ここで、図1図10においては、AE剤を添加したコンクリート供試体を「AEコンクリート」と表記し、AE剤を添加しないコンクリート供試体を「AE剤なし」あるいは「nonAE」と表記している。また、養生方式により蒸気養生と常温養生(水中養生)とに区別している。また、「B」は結合材を、「BFS」は高炉スラグ細骨材を、「S」は細骨材を意味している。「BFS/S」は高炉スラグ細骨材量/全細骨材量を、「W/B」は水結合材比(水量/結合材量)を意味している。なお、「細骨材=砕砂100%」または「砕砂100%」という表記は、細骨材として硬質砂岩砕砂を100%用いたことを意味している。「細骨材=BFS」または「BFS100%」という表記は、細骨材として高炉スラグ細骨材を100%用いたことを意味している。
【0028】
表1の供試体番号1〜10に、この凍結融解試験で使用したコンクリート供試体の配合を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
図1に示すように、高炉スラグ細骨材を含まないW/B=25%の場合では、AE剤を添加したものについては、凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であり、十分な凍害劣化に対する抵抗性を有していることが分かる。しかしながら、AE剤を添加していないものについては、いずれも相対動弾性係数が60%以下となり、凍害劣化に対する抵抗性が低いことが分かる。
【0031】
図2に示すように、高炉スラグ細骨材を100%用いたW/B=25%の場合では、AE剤を添加したものは当然のことながら、添加していないものも凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であり、十分な凍害劣化に対する抵抗性を有していることが分かる。
【0032】
図3に示すように、高炉スラグ細骨材を含まないW/B=40%の場合では、AE剤を添加し、常温養生したものについては、凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であり、十分な凍害劣化に対する抵抗性を有していることが分かる。しかしながら、AE剤を使用しても蒸気養生したものや、AE剤を添加していないものについては、いずれも相対動弾性係数が60%以下となり、凍害劣化に対する抵抗性が低いことが分かる。
【0033】
図4に示すように、高炉スラグ細骨材を100%用いるとともに消泡剤を添加して完全にnonAE(AE剤なし)としたW/B=25%の場合では、常温養生、蒸気養生の養生方法に関わらず凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であり、十分な凍害劣化に対する抵抗性を有していることが分かる。このように、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、AE剤を用いなくとも、かつ、蒸気養生を行っても十分な凍害劣化に対する抵抗性を発揮することが分かる。
【0034】
図5に示すように、高炉スラグ細骨材を100%用いるとともに消泡剤を添加して完全にnonAE(AE剤なし)としたW/B=40%の場合では、常温養生のものでは、凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であり、十分な凍害劣化に対する抵抗性を有していることが分かる。このように、常温養生のものでは、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、AE剤を用いなくとも、十分な凍害劣化に対する抵抗性を発揮することが分かる。ただし、蒸気養生のものでは、サイクル300回以前で相対動弾性係数90%以下となる。
【0035】
図6に示すように、AE剤を用いないで蒸気養生としたW/B=25%の場合で比較すると、高炉スラグ細骨材を100%用いたものは、凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であるのに対し、高炉スラグ細骨材を含まないものは、早期に相対動弾性係数が60%以下となることが分かる。このように、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、AE剤を用いなくとも、かつ、蒸気養生を行っても十分な凍害劣化に対する抵抗性を発揮するので、高炉スラグ細骨材を含まないものに比べて耐凍害性に優れている。
【0036】
図7に示すように、AE剤を用いないで蒸気養生としたW/B=40%の場合で比較すると、高炉スラグ細骨材を100%用いたものは、凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が90%以上であるのに対し、高炉スラグ細骨材を含まないものは、早期に相対動弾性係数が60%以下となることが分かる。このように、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、AE剤を用いなくとも、かつ、蒸気養生を行っても十分な凍害劣化に対する抵抗性を発揮するので、高炉スラグ細骨材を含まないものに比べて耐凍害性に優れている。
【0037】
次に、図8図10の凍結融解試験結果について説明する。
図8図10は、W/B=50%、65%、80%についての凍結融解試験結果である。これらの試験は、上述したように、JIS A 1148に記載のA法に従い真水に供試体を浸漬させて行っている。これらの試験は、砕砂100%(BFS/S=0%)、BFS100%(BFS/S=100%)の各場合において、原則として養生方式を蒸気養生に加え水中養生したものと、標準養生したものとについて行っている。なお、各図中の「蒸気養生」の表示は、蒸気養生に加え水中養生したものを意味している。
【0038】
図8は、W/B=50%の場合の凍結融解試験結果である。表2−1および表2−2は、各凍結融解サイクルで測定した相対動弾性係数と、これに基づいて算出した耐久性指数を示したものである。この試験で用いた供試体番号5、6の配合については、上記の表1に示してある。
【0039】
【表2-1】
【0040】
【表2-2】
【0041】
ここで、表中の耐久性指数は、JIS A 1148:2010に記載の方法、すなわち、DF=P×N/Mという関係式を用いて算出している。ただし、DPは耐久性指数、PはNサイクルのときの相対動弾性係数(%)、Nは相対動弾性係数が60%になるサイクル数、または300サイクルのいずれか小さいもの、Mは300サイクルである。
【0042】
図9は、W/B=65%の場合の凍結融解試験結果である。表3−1および表3−2は、各凍結融解サイクルで測定した相対動弾性係数と、これに基づいて算出した耐久性指数を示したものである。この試験で用いた供試体番号7、8の配合については、上記の表1に示してある。
【0043】
【表3-1】
【0044】
【表3-2】
【0045】
図10は、W/B=80%の場合の凍結融解試験結果である。表4は、各凍結融解サイクルで測定した相対動弾性係数と、これに基づいて算出した耐久性指数を示したものである。なお、この試験では、標準養生の場合のみを示している。この試験で用いた供試体番号9、10の配合については、上記の表1に示してある。
【0046】
【表4】
【0047】
表5は、上記の表2−1〜表4に示した耐久性指数を抽出したものである。
【0048】
【表5】
【0049】
表5に示すように、W/B=50%の場合では、高炉スラグ細骨材を100%用いたもの(BFS/S=100%)は、養生方法に関わらず、耐久性指数が90%以上であるのに対し、高炉スラグ細骨材を含まないもの(BFS/S=0%)は、耐久性指数が32%以下となることが分かる。このように、W/B=50%のときでも、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、AE剤を用いることなく、蒸気養生を行っても十分な凍害劣化に対する抵抗性を発揮するので、高炉スラグ細骨材を含まないものに比べて耐凍害性に優れていることが分かる。
【0050】
また、W/B=65%の場合では、高炉スラグ細骨材を100%用いたもの(BFS/S=100%)は、養生方法に関わらず、耐久性指数が46%以上であるのに対し、高炉スラグ細骨材を含まないもの(BFS/S=0%)は、10%以下となることが分かる。このように、W/B=65%のときでも、細骨材として高炉スラグ細骨材を使用した場合には、高炉スラグ細骨材を含まないものに比べて耐凍害性に優れていることが分かる。
【0051】
また、W/B=80%の場合においても、細骨材に高炉スラブ細骨材を用いたものは、砕砂を用いたものに比べて耐久性指数が7倍となっており、高炉スラグ細骨材を用いたものの耐凍害性が優れていることが分かる。
【0052】
ここで、上記の作用効果の例においては、コンクリート供試体に対する凍結融解試験結果を例にとり説明したが、コンクリート供試体から粗骨材を除いて成るモルタル供試体(本発明に係るモルタル用組成物により作製したモルタル供試体に相当)においても同様の凍結融解試験結果が得られると考えられる。
【0053】
したがって、本発明に係る高炉スラグ細骨材を含有するモルタルまたはコンクリート用組成物によれば、水結合材比(W/B)が所定範囲の配合のものにおいて、AE剤を用いることなく凍害劣化に対する抵抗性を発揮することができ、凍害劣化に対する抵抗性に優れたモルタルまたはコンクリート用組成物および成形品を提供することができる。また、AE剤を添加しないで得られた成形品も、蒸気養生を行って得られた成形品も、耐凍害性に優れていることから、本発明は、プレキャストコンクリート製品の耐凍害対策として有効である。
【0054】
ここで、本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物の水結合材比(W/B)は、80%以下であることが好ましい。特に、水結合材比(W/B)が25%〜65%の範囲であれば、耐凍害性により一層優れたモルタルまたはコンクリートが得られる。水結合材比(W/B)がこのような範囲にあることで、モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対する上記のA法に基づく凍結融解試験における凍結融解サイクル300回での相対動弾性係数が60%以上、すなわち耐久性指数が60%以上となり、耐凍害性に優れたモルタルまたはコンクリートが得られる。
【0055】
なお、上記の作用効果の例においては、JIS A 1148:2010に記載の凍結融解試験方法としてA法(水中凍結融解試験方法)に従った場合の凍結融解試験結果を例にとり説明したが、JIS A 1148:2010に記載のB法(気中凍結水中融解試験方法)の場合でも同様の結果が得られることは言うまでもない。
【0056】
以上説明したように、本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物によれば、高炉スラグ細骨材を含む細骨材と、セメントを含む結合材と、水とを含有するモルタルまたはコンクリート用組成物であって、前記モルタルまたはコンクリート用組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対するJIS A 1148に記載の凍結融解試験方法に基づく凍結融解試験における所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数は、高炉スラグ細骨材を含まない細骨材と、セメントを含む結合材と、水とからなる組成物により作製したモルタルまたはコンクリート供試体に対する前記凍結融解試験における前記所定の凍結融解サイクルでの相対動弾性係数または耐久性指数に比べて大きく、耐凍害性に優れている。したがって、耐凍害性に優れたモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品を提供することができるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上のように、本発明に係るモルタルまたはコンクリート用組成物およびそれを成形してなる成形品ならびに成形品の製造方法は、AE剤を用いないで蒸気養生したモルタルやコンクリート製品に有用であり、特に、塩分環境下の凍害に対する抵抗性に優れることから、凍害のおそれのある寒冷地域や、冬季に凍結防止のために塩が散布される場所で使用するモルタルやコンクリートおよびそれを用いた製品に適している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10