(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被測定電流からの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子で構成され、2つの磁気抵抗効果素子間の出力を備える磁界検出ブリッジ回路を有する電流センサの製造方法であって、
前記4つの磁気抵抗効果素子は、抵抗変化率が同じであり、反平行結合膜を介して第1の強磁性膜と第2の強磁性膜とを反強磁性的に結合させてなるセルフピン止め型の強磁性固定層と、非磁性中間層と、軟磁性自由層とを有し、前記出力を与える2つの磁気抵抗効果素子の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であり、前記磁気検出ブリッジ回路は、電源供給点に対して対称である配線を有しており、
それぞれの前記磁気抵抗効果素子は、帯状の長尺パターンが折り返されたミアンダ形状で、前記軟磁性自由層を帯状の長尺パターンに沿って形成し、全ての前記磁気抵抗効果素子は、前記軟磁性自由層の前記長尺パターンの長手方向を、直線的に流れる被測定電流の向きと平行に配置し、前記軟磁性自由層は、その成膜中に磁場を印加して前記長尺パターンの長手方向に誘導磁気異方性を付与しており、前記強磁性固定層の磁化方向を前記長尺パターンの長手方向に対して垂直に向けることを特徴とする電流センサの製造方法。
【背景技術】
【0002】
電気自動車においては、エンジンで発電した電気を用いてモータを駆動しており、このモータ駆動用の電流の大きさは、例えば電流センサにより検出される。この電流センサとしては、導体の周囲に、一部に切り欠き(コアギャップ)を有する磁気コアを配置し、このコアギャップ内に磁気検出素子を配置してなるものである。
【0003】
電流センサの磁気検出素子として、磁化方向が固定された固定磁性層、非磁性層、及び磁化方向が外部磁界に対して変動するフリー磁性層の積層構造を備える磁気抵抗効果素子(GMR素子、TMR素子)などが用いられている。このような電流センサにおいては、磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子とでフルブリッジ回路を構成している(特許文献1)。
【0004】
磁気抵抗効果素子と固定抵抗素子とで磁気検出ブリッジ回路(磁界検出ブリッジ回路)を構成した電流センサとしては、例えば、
図16及び
図17に示す磁気平衡式電流センサがある。磁気平衡式電流センサは、磁気検出ブリッジ回路2で得られる電圧差によりフィードバックコイルに通電して、導体1を通電する被測定電流Iにより発生する誘導磁界とフィードバックコイルにより発生するキャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときのフィードバックコイルに流れる電流に基づいて被測定電流を測定するものである。
【0005】
図16に示す電流センサの磁気検出ブリッジ回路2は、1つの磁気抵抗効果素子201と、3つの固定抵抗素子202a〜202cとで構成されている。この磁気検出ブリッジ回路2において、ゼロ磁場での磁気抵抗効果素子201の抵抗値と、固定抵抗素子202a〜202cの抵抗値とは同じである(R
com)。また、固定抵抗素子202b,202c間の出力をOut1とし、磁気抵抗効果素子201と固定抵抗素子202aとの間の出力をOut2とする。また、固定抵抗素子202bの抵抗値をR1とし、固定抵抗素子202aの抵抗値をR2とし、固定抵抗素子202cの抵抗値をR3とし、磁気抵抗効果素子201の抵抗値をR4とする。
【0006】
ここで、被測定電流Iにより発生する誘導磁界による磁気抵抗効果素子21の抵抗変化量をΔRとしたときに、ブリッジ中点電位差(Out1−Out2)を求めると、次のようになる。
Vdd−Gnd1間抵抗=R1+R3=2×R
com
Vdd−Gnd2間抵抗=R2+(R4−ΔR)=2×R
com−ΔR
Out1電位=(R
com)/(2×R
com)×Vdd
Out2電位=(R
com−ΔR)/(2×R
com−ΔR)×Vdd
Out1−Out2電位差=ΔR/{2×(2×R
com−ΔR)}×Vdd
【0007】
図17に示す電流センサの磁気検出ブリッジ回路2は、2つの磁気抵抗効果素子201a,201bと、2つの固定抵抗素子202a,202bとで構成されている。この磁気検出ブリッジ回路2において、ゼロ磁場での磁気抵抗効果素子201a,201bの抵抗値と、固定抵抗素子202a,201bの抵抗値とは同じである(R
com)。また、磁気抵抗効果素子201a,201bの抵抗変化率は同じである。また、磁気抵抗効果素子201bと固定抵抗素子202bとの間の出力をOut1とし、磁気抵抗効果素子201aと固定抵抗素子202aとの間の出力をOut2とする。また、磁気抵抗効果素子201bの抵抗値をR1とし、固定抵抗素子202aの抵抗値をR2とし、固定抵抗素子202bの抵抗値をR3とし、磁気抵抗効果素子201aの抵抗値をR4とする。
【0008】
ここで、被測定電流Iにより発生する誘導磁界による磁気抵抗効果素子201a,201bの抵抗変化量をΔRとしたときに、ブリッジ中点電位差(Out1−Out2)を求めると、次のようになる。
Vdd−Gnd1間抵抗=(R1−ΔR)+R3=2×R
com−ΔR
Vdd−Gnd2間抵抗=R2+(R4−ΔR)=2×R
com−ΔR
Out1電位=(R
com)/(2×R
com−ΔR)×Vdd
Out2電位=(R
com−ΔR)/(2×R
com−ΔR)×Vdd
Out1−Out2電位差=ΔR/(2×R
com−ΔR)×Vdd
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。まず、本発明に係る電流センサが磁気平衡式電流センサである場合について説明する。
【0022】
図1及び
図2は、本発明の実施の形態に係る磁気平衡式電流センサを示す図である。本実施の形態においては、
図1及び
図2に示す磁気平衡式電流センサは、被測定電流Iが流れる導体11の近傍に配設される。この磁気平衡式電流センサは、導体11に流れる被測定電流Iによる誘導磁界を打ち消す磁界(キャンセル磁界)を生じさせるフィードバック回路12を備えている。このフィードバック回路12は、被測定電流Iによって発生する磁界を打ち消す方向に巻回されたフィードバックコイル121と、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dとを有する。
【0023】
フィードバックコイル121は平面コイルで構成されている。この構成においては、磁気コアを有しないので、低コストでフィードバックコイルを作製することができる。また、トロイダルコイルの場合に比べて、フィードバックコイルから生じるキャンセル磁界が広範囲に拡がることを防止でき、周辺回路に影響を与えることを回避できる。さらに、トロイダルコイルの場合に比べて、被測定電流が交流の場合に、フィードバックコイルによるキャンセル磁界の制御が容易であり、制御のために流す電流もそれほど大きくならない。これらの効果については、被測定電流が交流で高周波になるほど大きくなる。フィードバックコイル121は平面コイルで構成する場合において、平面コイルの形成面と平行な面内で誘導磁界とキャンセル磁界の両方が生じるように平面コイルが設けられていることが好ましい。
【0024】
磁気抵抗効果素子122a〜122dは、被測定電流Iからの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する。この4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dにより磁界検出ブリッジ回路を構成している。このように磁気抵抗効果素子を有する磁界検出ブリッジ回路を用いることにより、高感度の磁気平衡式電流センサを実現することができる。
【0025】
この磁界検出ブリッジ回路は、被測定電流Iにより生じた誘導磁界に応じた電圧差を生じる2つの出力を備える。
図2に示す磁界検出ブリッジ回路においては、磁気抵抗効果素子122bと磁気抵抗効果素子122cとの間の接続点に電源Vddが接続されており、磁気抵抗効果素子122aと磁気抵抗効果素子122dとの間の接続点にグランド(GND)が接続されている。さらに、この磁界検出ブリッジ回路においては、磁気抵抗効果素子122a,122b間の接続点から一つの出力(Out1)を取り出し、磁気抵抗効果素子122c,122d間の接続点からもう一つの出力(Out2)を取り出している。これらの2つの出力は増幅器124で増幅され、フィードバックコイル121に電流(フィードバック電流)として与えられる。このフィードバック電流は、誘導磁界に応じた電圧差に対応する。このとき、フィードバックコイル121には、誘導磁界を相殺するキャンセル磁界が発生する。そして、誘導磁界とキャンセル磁界とが相殺される平衡状態となったときのフィードバックコイル121に流れる電流に基づいて検出部(検出抵抗R)で被測定電流を測定する。
【0026】
図3は、
図1に示す磁気平衡式電流センサを示す断面図である。
図3に示すように、本実施の形態に係る磁気平衡式電流センサにおいては、フィードバックコイル、磁気シールド及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板21上に形成されている。
図3に示す構成においては、フィードバックコイルが、磁気シールドと磁界検出ブリッジ回路の間に配置され、磁気シールドが被測定電流Iに近い側に配置されている。すなわち、導体11に近い側から磁気シールド、フィードバックコイル、磁気抵抗効果素子の順に配置する。これにより、磁気抵抗効果素子を導体11から最も遠ざけることができ、被測定電流Iから磁気抵抗効果素子に印加される誘導磁界を小さくすることができる。また、磁気シールドを最も導体11に近づけることができるので、誘導磁界の減衰効果をより高めることができる。したがって、フィードバックコイルからのキャンセル磁界を小さくすることができる。
【0027】
図3に示す層構成について詳細に説明する。
図3に示す磁気平衡式電流センサにおいては、基板21上に絶縁層である熱シリコン酸化膜22が形成されている。熱シリコン酸化膜22上には、アルミニウム酸化膜23が形成されている。アルミニウム酸化膜23は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。また、基板21としては、シリコン基板などが用いられる。
【0028】
アルミニウム酸化膜23上には、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されており、磁界検出ブリッジ回路が作り込まれる。磁気抵抗効果素子122a〜122dとしては、TMR素子(トンネル型磁気抵抗効果素子)、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)などを用いることができる。本発明に係る磁気平衡式電流センサにおいて用いられる磁気抵抗効果素子の膜構成については後述する。
【0029】
磁気抵抗効果素子としては、
図2の拡大図に示すように、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン(ストライプ)が折り返してなる形状(ミアンダ形状)を有するGMR素子であることが好ましい。このミアンダ形状において、感度軸方向(Pin方向)は、長尺パターンの長手方向(ストライプ長手方向)に対して直交する方向(ストライプ幅方向)である。このミアンダ形状においては、誘導磁界及びキャンセル磁界がストライプ長手方向に直交する方向(ストライプ幅方向)に沿うように印加される。
【0030】
このミアンダ形状においては、リニアリティを考慮すると、ピン(Pin)方向の幅が1μm〜10μmであることが好ましい。この場合において、リニアリティを考慮すると、長手方向が誘導磁界の方向及びキャンセル磁界の方向に対して共に垂直になることが望ましい。このようなミアンダ形状にすることにより、ホール素子よりも少ない端子数(2端子)で磁気抵抗効果素子の出力を採ることができる。
【0031】
また、アルミニウム酸化膜23上には、電極24が形成されている。電極24は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
【0032】
磁気抵抗効果素子122a〜122d及び電極24を形成したアルミニウム酸化膜23上には、絶縁層としてポリイミド層25が形成されている。ポリイミド層25は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
【0033】
ポリイミド層25上には、シリコン酸化膜27が形成されている。シリコン酸化膜27は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。
【0034】
シリコン酸化膜27上には、フィードバックコイル121が形成されている。フィードバックコイル121は、コイル材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。あるいは、フィードバックコイル121は、下地材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
【0035】
また、シリコン酸化膜27上には、フィードバックコイル121の近傍にコイル電極28が形成されている。コイル電極28は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
【0036】
フィードバックコイル121及びコイル電極28を形成したシリコン酸化膜27上には、絶縁層としてポリイミド層29が形成されている。ポリイミド層29は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
【0037】
ポリイミド層29上には、磁気シールド30が形成されている。磁気シールド30を構成する材料としては、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、又は鉄系微結晶材料等の高透磁率材料を用いることができる。
【0038】
ポリイミド層29上には、シリコン酸化膜31が形成されている。シリコン酸化膜31は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。ポリイミド層29及びシリコン酸化膜31の所定の領域(コイル電極28の領域及び電極24の領域)にコンタクトホールが形成され、そのコンタクトホールに電極パッド32,26がそれぞれ形成されている。コンタクトホールの形成には、フォトリソグラフィ及びエッチングなどが用いられる。電極パッド32,26は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
【0039】
このような構成を有する磁気平衡式電流センサにおいては、
図3に示すように、被測定電流Iから発生した誘導磁界Aを磁気抵抗効果素子で受け、その誘導磁界をフィードバックしてフィードバックコイル121からキャンセル磁界Bを発生し、2つの磁界(誘導磁界A、キャンセル磁界B)を相殺して磁気抵抗効果素子122a〜122dに印加する磁場が零になるように適宜調整する。
【0040】
本発明の磁気平衡式電流センサにおいては、
図3に示すように、フィードバックコイル121に隣接して磁気シールド30を有する。磁気シールド30は、被測定電流Iから生じ磁気抵抗効果素子122a〜122dに印加される誘導磁界を減衰させる(磁気抵抗効果素子122a〜122dにおいては誘導磁界Aの方向とキャンセル磁界Bの方向が逆方向)と共に、フィードバックコイル121からのキャンセル磁界Bをエンハンスする(磁気シールド30においては誘導磁界Aの方向とキャンセル磁界Bの方向が同方向)ことができる。したがって、磁気シールド30が磁気ヨークとして機能するため、フィードバックコイル121に流す電流を小さくすることができ、省電力化を図ることができる。また、この磁気シールド30により、外部磁界の影響を低減させることができる。
【0041】
上記構成を有する磁気平衡式電流センサは、磁気検出素子として磁気抵抗効果素子、特にGMR素子やTMR素子を有する磁界検出ブリッジ回路を用いる。これにより、高感度の磁気平衡式電流センサを実現することができる。また、この磁気平衡式電流センサは、磁気検出ブリッジ回路が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されている。また、上記構成を有する磁気平衡式電流センサは、フィードバックコイル121、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板上に形成されてなるので、小型化を図ることができる。さらに、この磁気平衡式電流センサは、磁気コアを有しない構成であるので、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0042】
本発明において使用する磁気抵抗効果素子の膜構成は、例えば、
図10(a)に示すものである。すなわち、磁気抵抗効果素子は、
図10(a)に示すように、基板41に設けられた積層構造を有する。なお、
図10(a)においては、説明を簡単にするために、基板41には磁気抵抗効果素子以外の下地層などは省略して図示している。磁気抵抗効果素子は、シード層42a、第1の強磁性膜43a、反平行結合膜44a、第2の強磁性膜45a、非磁性中間層46a、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48a、及び保護層49aを含む。
【0043】
シード層42aは、NiFeCrあるいはCrなどで構成される。保護層49aは、Taなどで構成される。なお、上記積層構造において、基板41とシード層42aとの間に、例えば、Ta,Hf,Nb,Zr,Ti,Mo,Wのうち少なくとも1つの元素などの非磁性材料で構成される下地層を設けても良い。
【0044】
この磁気抵抗効果素子においては、反平行結合膜44aを介して第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45aとを反強磁性的に結合させており、いわゆるセルフピン止め型の強磁性固定層(SFP:Synthetic Ferri Pinned層)が構成されている。
【0045】
この強磁性固定層において、反平行結合膜44aの厚さを0.3nm〜0.45nm、もしくは、0.75nm〜0.95nmにすることにより、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45aとの間に強い反強磁性結合をもたらすことができる。
【0046】
また、第1の強磁性膜43aの磁化量(Ms・t)と第2の強磁性膜45aの磁化量(Ms・t)が実質的に同じである。すなわち、第1の強磁性膜43aと第2の強磁性膜45a間で磁化量の差が実質的にゼロである。このため、SFP層の実効的な異方性磁界が大きい。したがって、反強磁性材料を用いなくても、強磁性固定層(Pin層)の磁化安定性を十分に確保できる。これは、第1の強磁性膜の膜厚をt
1とし、第2の強磁性膜の膜厚をt
2とし、両層の単位体積あたりの磁化及び誘導磁気異方性定数をそれぞれMs,Kとすると、SFP層の実効的な異方性磁界が次式(1)で示されるためである。
式(1)
eff Hk=2(K・t
1+K・t
2)/(Ms・t
1−Ms・t
2)
したがって、本発明の磁気平衡式電流センサに用いる磁気抵抗効果素子は、反強磁性層を有しない膜構成を有する。
【0047】
第1の強磁性膜43aのキュリー温度(Tc)と第2の強磁性膜45aのキュリー温度(Tc)とは、略同じである。これにより、高温環境においても両膜43a,45aの磁化量(Ms・t)差が略ゼロとなり、高い磁化安定性を維持することができる。
【0048】
第1の強磁性膜43aは、40原子%〜80原子%のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が、大きな保磁力を有し、外部磁場に対して磁化を安定に維持できるからである。また、第2の強磁性膜45aは、
0原子%より多くかつ40原子%以下のFeを含むCoFe合金で構成されていることが好ましい。これは、この組成範囲のCoFe合金が小さな保磁力を有し、第1の強磁性膜43aが優先的に磁化する方向に対して反平行方向(180°異なる方向)に磁化し易くなるためである。この結果、Hkをより大きくすることが可能となる。また、第2の強磁性膜45aをこの組成範囲に限定することで、磁気抵抗効果素子の抵抗変化率を大きくすることができる。
【0049】
第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aは、その成膜中にミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場が印加され、成膜後の第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aに誘導磁気異方性が付与されることが好ましい。これにより、両膜43a,45aはストライプ幅方向に反平行に磁化することになる。また、第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aの磁化方向は、第1の強磁性膜43aの成膜時の磁場印加方向で決まるため、第1の強磁性膜43aの成膜時の磁場印加方向を変えることにより、同一基板上に磁化方向が異なる強磁性固定層を持つ複数の磁気抵抗効果素子を形成することが可能である。
【0050】
強磁性固定層の反平行結合膜44aは、Ruなどにより構成される。また、軟磁性自由層(フリー層)47a,48aは、CoFe合金、NiFe合金、CoFeNi合金などの磁性材料で構成される。また、非磁性中間層46aは、Cuなどにより構成される。また、軟磁性自由層47a,48aは、その成膜中にミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場が印加され、成膜後の軟磁性自由層47a,48aには誘導磁気異方性が付与されることが好ましい。これにより、磁気抵抗効果素子においては、ストライプ幅方向の外部磁場(被測定電流からの磁場)に対して線形的に抵抗変化し、ヒステリシスを小さくすることができる。このような磁気抵抗効果素子においては、強磁性固定層、非磁性中間層及び軟磁性自由層により、スピンバルブ構成を採っている。
【0051】
本発明の磁気平衡式電流センサで用いる磁気抵抗効果素子の膜構成の例としては、例えば、NiFeCr(シード層:5nm)/Fe
70Co
30(第1の強磁性膜:1.65nm)/Ru(反平行結合膜:0.4nm)/Co
90Fe
10(第2の強磁性膜:2nm)/Cu(非磁性中間層:2.2nm)/Co
90Fe
10(軟磁性自由層:1nm)/NiFe(軟磁性自由層:7nm)/Ta(保護層:5nm)である。
【0052】
本発明の磁気平衡式電流センサにおいては、
図4に示すように、中点電位(Out1)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122b,122dの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっており(反平行)、中点電位(Out2)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122a,122cの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっている(反平行)。また、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。磁気抵抗効果素子122a〜122dは、強磁性固定層に対する印加磁界の角度が同一である場合、同一磁界強度で同一の抵抗変化率を示すことが好ましい。
【0053】
このように配置された4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dを有する磁気平衡式電流センサにおいて、磁気検出ブリッジ回路の2つの出力(Out1、Out2)の電圧差がゼロになるようにフィードバックコイル121から磁気抵抗効果素子にキャンセル磁界を印加し、その際にフィードバックコイル121に流れる電流値を検出することにより、被測定電流を測定する。このとき、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dのうち、磁気抵抗効果素子122a,122bは磁気抵抗効果素子として機能し、磁気抵抗効果素子122c,122dは固定抵抗素子として機能する。
【0054】
図4に示すように、矢印方向に被測定電流Iが流れると、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dには、それぞれ誘導磁界A及びキャンセル磁界Bが印加される。このとき、被測定電流により発生する誘導磁界とキャンセル磁界の合成磁界強度がゼロとなる時に、磁気検出ブリッジ回路の中点電位差がゼロとなる。
【0055】
このような磁気検出ブリッジ回路において、ゼロ磁場での磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗値は同じである(R
com)。また、磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。また、磁気抵抗効果素子122b,122d間の出力をOut1とし、磁気抵抗効果素子122a,122c間の出力をOut2とする。また、磁気抵抗効果素子122bの抵抗値をR1とし、磁気抵抗効果素子122cの抵抗値をR2とし、磁気抵抗効果素子122dの抵抗値をR3とし、磁気抵抗効果素子122aの抵抗値をR4とする。
【0056】
ここで、被測定電流Iにより発生する誘導磁界による磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化量をΔRとしたときに、ブリッジ中点電位差(Out1−Out2)を求めると、次のようになる。
Vdd−Gnd1間抵抗=(R1−ΔR)+(R3+ΔR)=R1+R3=2×R
com
Vdd−Gnd2間抵抗=(R2+ΔR)+(R4−ΔR)=R2+R4=2×R
com
Out1電位=(R3+ΔR)/(R1+R3)×Vdd
=(R
com+ΔR)/(2×R
com)×Vdd
Out2電位=(R4−ΔR)/(R2+R4)×Vdd
=(R
com−ΔR)/(2×R
com)×Vdd
Out1−Out2電位差=(2×ΔR)/(2×R
com)×Vdd
=ΔR/R
com×Vdd
【0057】
上記のように、本発明の磁気平衡式電流センサにおいては、ブリッジ中点電位差の式の分母にΔRの項を含んでいない。このため、被測定電流Iにより発生する誘導磁界に対して中点電位差の出力が比例変化を示す。その結果、高精度で電流測定を行うことができる。
【0058】
図5(a)は、本発明の実施の形態に係る磁気平衡式電流センサにおける磁気検出ブリッジ回路の配線パターンを説明するための図であり、
図5(b)は、
図5(a)におけるVB−VB線に沿う断面図である。本発明に係る磁気平衡式電流センサの磁気検出ブリッジ回路は、
図5(a)に示すように、電源供給点に対して対称である配線を有する。
図5(a)に示すように、フィードバックコイル121のコイルパターンの延在方向(フィードバック電流の通電方向)とミアンダのストライプ長手方向とが沿うように、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されている。ここでは、
図5(b)に示すように、磁気抵抗効果素子上にフィードバックコイルが配設されている。
【0059】
また、この磁気抵抗効果素子122a〜122dを接続するとともに、電源供給点(Vdd)やGndに接続する配線パターン60が形成されている。この配線パターン60は、電源供給点に対して対称である。これにより、電源供給点の両側で配線の長さがほぼ同じとなるので、電源供給点の両側で配線抵抗の差がなくなる。その結果、配線抵抗の差による中点電位のずれがなくなり、より高精度に電流測定を行うことができる。
【0060】
図6(a)は、本発明の実施の形態に係る磁気平衡式電流センサにおける磁気検出ブリッジ回路の配線パターンを説明するための図であり、
図6(b)は、
図6(a)におけるVIB−VIB線に沿う断面図である。本発明に係る磁気平衡式電流センサの磁気検出ブリッジ回路は、
図6(a)に示すように、電源供給点に対して対称である配線を有する。
図6(a)に示すように、フィードバックコイル121のスパイラルパターン61の延在方向(フィードバック電流の通電方向)とミアンダのストライプ長手方向とが沿うように、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されている。ここでは、
図6(b)に示すように、磁気抵抗効果素子上にフィードバックコイル121のスパイラルパターン61が配設されている。
【0061】
この磁気抵抗効果素子122a〜122dを接続するとともに、電源供給点(Vdd)やGndに接続する配線パターン60が形成されている。この配線パターン60は、電源供給点に対して対称である。これにより、電源供給点の両側で配線の長さがほぼ同じとなるので、電源供給点の両側で配線抵抗の差がなくなる。その結果、配線抵抗の差による中点電位のずれがなくなり、より高精度に電流測定を行うことができる。さらに、このスパイラルパターン61を用いることにより、フィードバックコイル121における磁気抵抗効果素子を設けない領域を省略することができるので、フィードバックコイルの面積を少なくすることができる。
【0062】
図7(a)は、本発明の実施の形態に係る磁気平衡式電流センサにおける磁気検出ブリッジ回路の配線パターンを説明するための図であり、
図7(b)は、
図7(a)におけるVIIB−VIIB線に沿う断面図である。本発明に係る磁気平衡式電流センサの磁気検出ブリッジ回路は、
図7(a)に示すように、電源供給点に対して対称である配線を有する。
図7(a)に示すように、フィードバックコイル121の延在方向(フィードバック電流の通電方向)とミアンダのストライプ長手方向とが沿うように、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されている。ここでは、
図7(b)に示すように、2つの磁気抵抗効果素子122a,122d上にフィードバックコイル121が配設され、2つの磁気抵抗効果素子122b,122c下にフィードバックコイル121が配設されている。
【0063】
この磁気抵抗効果素子122a〜122dを接続するとともに、電源供給点(Vdd)やGndに接続する配線パターン60が形成されている。この配線パターン60は、電源供給点に対して対称である。これにより、電源供給点の両側で配線の長さがほぼ同じとなるので、電源供給点の両側で配線抵抗の差がなくなる。その結果、配線抵抗の差による中点電位のずれがなくなり、より高精度に電流測定を行うことができる。さらに、
図7に示すコイルパターンを用いることにより、4つの磁気抵抗効果素子を並設させずに、2つの磁気抵抗効果素子を並設して、2つのフィードバックコイル121の延在領域に設けることができるので、磁気検出ブリッジ回路の幅方向(フィードバック電流の通電方向)の長さを短くすることができる。
【0064】
4つの磁気抵抗効果素子を用いた磁気平衡式電流センサは、反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子でも作製することができる。この場合、2つの磁気抵抗効果素子のうち1つの磁気抵抗効果素子の固定磁性層(Pin層)の交換結合方向を他の磁気抵抗効果素子の固定磁性層の交換結合方向と反平行方向にするために、レーザ局所アニールを適用するか、あるいは、磁気抵抗効果素子に隣接して磁界印加用コイルを設置する必要がある。このような方法は、磁気抵抗効果素子がチップ最表面付近にあるセンサやデバイスを作製する場合には適用することができるが、本発明の磁気平衡式電流センサのように、磁気抵抗効果素子上に厚い有機絶縁膜、厚いフィードバックコイル、厚い磁気シールド膜を設置したデバイスの作製には適用することはできない。このため、本発明に係る磁気平衡式電流センサにおいては、本発明の構成が特に有用である。
【0065】
本発明に係る磁気平衡式電流センサのように、磁気検出ブリッジ回路とフィードバックコイルを同一基板上に一体形成する場合には、両者を完全に絶縁する必要があるため、ポリイミド膜などの有機絶縁膜で両者を分離することになる。有機絶縁膜は、一般にスピンコートなどで塗布した後に、200℃以上の加熱処理を施すことにより形成される。この有機絶縁膜は磁気検出ブリッジ回路形成の後工程で形成されるため、磁気抵抗効果素子も一緒に加熱されてしまう。反強磁性膜で固定磁性層の磁化を固定するタイプの磁気抵抗効果素子の製造工程においては、この有機絶縁膜の形成工程の熱履歴により固定磁性層の特性が劣化しないように、磁場を印加しながら加熱処理する必要がある。本発明に係る磁気平衡式電流センサでは、反強磁性膜を用いていないため、磁場を印加しながら加熱処理を行わなくても固定磁性層の特性を維持することが可能である。したがって、軟磁性自由層のヒステリシスの劣化を抑えることができる。
【0066】
また、本発明に係る磁気平衡式電流センサの磁気抵抗効果素子は反強磁性材料を含まないため、材料コストや、製造コストを抑制することもできる。
【0067】
ここで、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
図4に示す磁気検出ブリッジ回路を有する磁気平衡式電流センサ(本発明)について、被測定電流による誘導磁界(被測定電流磁界)と磁気検出ブリッジ回路の中点電位差との間の関係を調べた。その結果を
図8に示す。また、
図16に示す磁気検出ブリッジ回路を有する磁気平衡式電流センサ(従来(GMR×1))と、
図17に示す磁気検出ブリッジ回路を有する磁気平衡式電流センサ(従来(GMR×2))とについても同様に被測定電流による誘導磁界(被測定電流磁界)と磁気検出ブリッジ回路の中点電位差との間の関係を調べた。その結果を
図8に併記する。
【0068】
図8から分かるように、本発明の磁気平衡式電流センサ(本発明)は、被測定電流による誘導磁界に対して中点電位差が直線状に変化しており、高精度に電流測定を行うことができる。特に、4つの磁気抵抗効果素子を用いているので、高感度の電流センサを実現することができる。一方、従来の磁気平衡式電流センサ(従来(GMR×1)、従来(GMR×2))は、被測定電流による誘導磁界に対して中点電位差が曲線状に変化しており、高精度に電流測定を行うことができない。
【0069】
本発明は、磁気平衡式電流センサだけでなく、誘導磁界に比例した2つの磁気抵抗効果素子の出力により被測定電流を測定する磁気比例式電流センサにも同様に適用することができる。この磁気比例式電流センサは、
図9に示すように、
図5(a)に示す構成からフィードバックコイルを除いた構成を有する。また、磁気比例式電流センサの磁気検出ブリッジ回路は、
図9に示すように、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dを有し、
図5〜
図7に示す構成と同様に、電源供給点に対して対称である配線を有する。また、中点電位(Out1)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122b,122dの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっており(反平行)、中点電位(Out2)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122a,122cの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっている(反平行)。また、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。
【0070】
以下、本発明に係る電流センサが磁気比例式電流センサである場合についてより詳細に説明する。
【0071】
図12及び
図13は、本発明の実施の形態に係る磁気比例式電流センサを示す図である。本実施の形態においては、
図12及び
図13に示す磁気比例式電流センサは、被測定電流Iが流れる導体11の近傍に配設される。この磁気比例式電流センサは、導体11に流れる被測定電流Iによる誘導磁界を検出する磁界検出ブリッジ回路(磁気検出ブリッジ回路)13を有する。磁界検出ブリッジ回路13は、被測定電流Iからの誘導磁界の印加により抵抗値が変化する4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dを有する。
【0072】
この磁界検出ブリッジ回路13は、被測定電流Iにより生じた誘導磁界に応じた電圧差を生じる2つの出力を備える。
図13に示す磁界検出ブリッジ回路13においては、磁気抵抗効果素子122bと磁気抵抗効果素子122cとの間の接続点に電源Vddが接続されており、磁気抵抗効果素子122aと磁気抵抗効果素子122dとの間の接続点にグランド(GND)が接続されている。さらに、この磁界検出ブリッジ回路13においては、磁気抵抗効果素子122a,122b間の接続点から一つの出力(Out1)を取り出し、磁気抵抗効果素子122c,122d間の接続点からもう一つの出力(Out2)を取り出している。これら二つの出力の電圧差から、磁気比例式電流センサは被測定電流Iを算出する。
【0073】
図14は、
図12に示す磁気比例式電流センサを示す断面図である。
図14に示すように、本実施の形態に係る磁気比例式電流センサにおいては、磁気シールド及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板21上に形成されている。
図14に示す構成においては、磁気シールドが被測定電流Iに近い側に配置されている。すなわち、導体11に近い側から磁気シールド、磁気抵抗効果素子の順に配置する。これにより、磁気抵抗効果素子を導体11から遠ざけることができ、被測定電流Iから磁気抵抗効果素子に印加される誘導磁界を小さくすることができる。このため、広い範囲の電流測定が可能になる。
【0074】
図14に示す層構成について詳細に説明する。
図14に示す磁気比例式電流センサにおいては、基板21上に絶縁層である熱シリコン酸化膜22が形成されている。熱シリコン酸化膜22上には、アルミニウム酸化膜23が形成されている。アルミニウム酸化膜23は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。また、基板21としては、シリコン基板などが用いられる。
【0075】
アルミニウム酸化膜23上には、磁気抵抗効果素子122a〜122dが形成されており、磁界検出ブリッジ回路が作り込まれる。磁気抵抗効果素子122a〜122dとしては、TMR素子(トンネル型磁気抵抗効果素子)、GMR素子(巨大磁気抵抗効果素子)などを用いることができる。本発明に係る磁気比例式電流センサにおいて用いられる磁気抵抗効果素子の膜構成は、例えば、
図10に示すものである。詳細は前述の通りであるから、ここでは省略する。
【0076】
磁気抵抗効果素子としては、
図13の拡大図に示すように、その長手方向が互いに平行になるように配置された複数の帯状の長尺パターン(ストライプ)が折り返してなる形状(ミアンダ形状)を有するGMR素子であることが好ましい。このミアンダ形状において、感度軸方向(Pin方向)は、長尺パターンの長手方向(ストライプ長手方向)に対して直交する方向(ストライプ幅方向)である。このミアンダ形状においては、誘導磁界がストライプ長手方向に直交する方向(ストライプ幅方向)に沿うように印加される。
【0077】
このミアンダ形状においては、リニアリティを考慮すると、ピン(Pin)方向の幅が1μm〜10μmであることが好ましい。この場合において、リニアリティを考慮すると、長手方向が誘導磁界の方向に対して垂直になることが望ましい。このようなミアンダ形状にすることにより、ホール素子よりも少ない端子数(2端子)で磁気抵抗効果素子の出力を採ることができる。
【0078】
また、アルミニウム酸化膜23上には、電極24が形成されている。電極24は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びエッチングにより形成することができる。
【0079】
磁気抵抗効果素子122a〜122d及び電極24を形成したアルミニウム酸化膜23上には、絶縁層としてポリイミド層25が形成されている。ポリイミド層25は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。
【0080】
ポリイミド層25上には、シリコン酸化膜27が形成されている。シリコン酸化膜27は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。シリコン酸化膜27上には、絶縁層としてポリイミド層29が形成されている。ポリイミド層29は、ポリイミド材料を塗布し、硬化することにより形成することができる。なお、シリコン酸化膜27およびポリイミド層29は、適宜省略しても良い。
【0081】
ポリイミド層29上には、磁気シールド30が形成されている。磁気シールド30を構成する材料としては、アモルファス磁性材料、パーマロイ系磁性材料、又は鉄系微結晶材料等の高透磁率材料を用いることができる。なお、磁気シールド30は、適宜省略しても良い。
【0082】
ポリイミド層29上には、シリコン酸化膜31が形成されている。シリコン酸化膜31は、例えば、スパッタリングなどの方法により成膜することができる。ポリイミド層29及びシリコン酸化膜31の所定の領域(電極24の領域)にコンタクトホールが形成され、そのコンタクトホールに電極パッド26が形成されている。コンタクトホールの形成には、フォトリソグラフィ及びエッチングなどが用いられる。電極パッド26は、電極材料を成膜した後に、フォトリソグラフィ及びめっきにより形成することができる。
【0083】
このような構成を有する磁気比例式電流センサにおいては、
図14に示すように、被測定電流Iから発生した誘導磁界Aを磁気抵抗効果素子で受け、その抵抗変化に応じた電圧が出力される。
【0084】
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、
図14に示すように磁気シールド30を有する。磁気シールド30は、被測定電流Iから生じ磁気抵抗効果素子に印加される誘導磁界を減衰させることができる。したがって、誘導磁界Aが大きい場合でも電流測定が可能である。つまり、広い範囲の電流測定が可能である。また、この磁気シールド30により、外部磁界の影響を低減させることができる。
【0085】
上記構成を有する磁気比例式電流センサは、磁気検出素子として磁気抵抗効果素子、特にGMR素子やTMR素子を有する磁界検出ブリッジ回路を用いる。これにより、高感度の磁気比例式電流センサを実現することができる。また、この磁気比例式電流センサは、磁気検出ブリッジ回路が膜構成の同じ4つの磁気抵抗効果素子で構成されている。また、上記構成を有する磁気比例式電流センサは、磁気シールド30及び磁界検出ブリッジ回路が同一基板上に形成されてなるので、小型化を図ることができる。さらに、この磁気比例式電流センサは、磁気コアを有しない構成であるので、小型化、低コスト化を図ることができる。
【0086】
本発明の磁気比例式電流センサにおいては、
図15に示すように、中点電位(Out1)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122b,122dの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっており(反平行)、中点電位(Out2)を出力する2つの磁気抵抗効果素子122a,122cの強磁性固定層の磁化方向(第2の強磁性膜の磁化方向:Pin2)が互いに180°異なっている(反平行)。また、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。磁気抵抗効果素子122a〜122dは、強磁性固定層に対する印加磁界の角度が同一である場合、同一磁界強度で同一の抵抗変化率を示すことが好ましい。
【0087】
このように配置された4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dを有する磁気比例式電流センサにおいて、磁界検出ブリッジ回路13の2つの出力(Out1、Out2)の電圧差から、被測定電流を算出する。
【0088】
図15に示すように、矢印方向に被測定電流が流れると、4つの磁気抵抗効果素子122a〜122dには、それぞれ誘導磁界Aが印加される。このような磁界検出ブリッジ回路13において、ゼロ磁場での磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗値は同じである(R
com)。また、磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化率は同じである。また、磁気抵抗効果素子122b,122d間の出力をOut1とし、磁気抵抗効果素子122a,122c間の出力をOut2とする。また、磁気抵抗効果素子122bの抵抗値をR1とし、磁気抵抗効果素子122cの抵抗値をR2とし、磁気抵抗効果素子122dの抵抗値をR3とし、磁気抵抗効果素子122aの抵抗値をR4とする。
【0089】
ここで、被測定電流Iにより発生する誘導磁界による磁気抵抗効果素子122a〜122dの抵抗変化量をΔRとしたときに、ブリッジ中点電位差(Out1−Out2)を求めると、次のようになる。
Vdd−Gnd1間抵抗=(R1−ΔR)+(R3+ΔR)=R1+R3=2×R
com
Vdd−Gnd2間抵抗=(R2+ΔR)+(R4−ΔR)=R2+R4=2×R
com
Out1電位=(R3+ΔR)/(R1+R3)×Vdd
=(R
com+ΔR)/(2×R
com)×Vdd
Out2電位=(R4−ΔR)/(R2+R4)×Vdd
=(R
com−ΔR)/(2×R
com)×Vdd
Out1−Out2電位差=(2×ΔR)/(2×R
com)×Vdd
=ΔR/R
com×Vdd
【0090】
上記のように、磁気検出ブリッジ回路を有する磁気比例式電流センサにおいても、Out1−Out2電位差を求める式に、ブリッジ中点電位差の式の分母にΔRの項を含んでいない。このため、被測定電流Iにより発生する誘導磁界に対して中点電位差の出力が比例変化を示す。その結果、高精度で電流測定を行うことができる。また、電源供給点に対して対称である配線を有するので、電源供給点の両側で配線抵抗の差がなくなる。その結果、配線抵抗の差による中点電位のずれがなくなり、より高精度に電流測定を行うことができる。本発明は、磁気比例式電流センサにおいて特に有用である。
【0091】
図10(a)〜(c)及び
図11(a)〜(c)は、本発明の実施の形態に係る電流センサにおける磁気抵抗効果素子の製造方法を説明するための図である。まず、
図10(a)に示すように、基板41上に、シード層42a、第1の強磁性膜43a、反平行結合膜44a、第2の強磁性膜45a、非磁性中間層46a、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48a、及び保護層49aを順次形成する。第1の強磁性膜43a及び第2の強磁性膜45aの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場を印加する。
図10において、第1の強磁性膜43aについては、印加磁場方向は紙面奥側から手前側に向かう方向であり、第2の強磁性膜45aについては、印加磁場方向は紙面手前側から奥側に向かう方向である。また、軟磁性自由層(フリー磁性層)47a,48aの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場を印加する。
【0092】
次いで、
図10(b)に示すように、保護層49a上にレジスト層50を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、磁気抵抗効果素子122a側の領域上にレジスト層50を残存させる。次いで、
図10(c)に示すように、イオンミリングなどにより、露出した積層膜を除去して、磁気抵抗効果素子122bを設ける領域の基板41を露出させる。
【0093】
次いで、
図11(a)に示すように、露出した基板41上に、シード層42b、第1の強磁性膜43b、反平行結合膜44b、第2の強磁性膜45b、非磁性中間層46b、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48b、及び保護層49bを順次形成する。第1の強磁性膜43b及び第2の強磁性膜45bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ幅方向に磁場を印加する。
図11において、第1の強磁性膜43bについては、印加磁場方向は紙面手前側から奥側に向かう方向であり、第2の強磁性膜45bについては、印加磁場方向は紙面奥側から手前側に向かう方向である。また、軟磁性自由層(フリー磁性層)47b,48bの成膜中には、ミアンダ形状のストライプ長手方向に磁場を印加する。
【0094】
次いで、
図11(b)に示すように、保護層49a,49b上にレジスト層50を形成し、フォトリソグラフィ及びエッチングにより、磁気抵抗効果素子122a〜122dの形成領域上にレジスト層50を残存させる。次いで、
図11(c)に示すように、イオンミリングなどにより、露出した積層膜を除去して、磁気抵抗効果素子122a〜122dを形成する。
【0095】
このように、本発明の電流センサによれば、磁気検出ブリッジ回路において中点電位を出力する2つの磁気抵抗効果素子のセルフピン止め型の強磁性固定層の磁化方向が互いに180°異なる方向であるので、被測定電流により発生する誘導磁界に対して中点電位差の出力が比例変化を示し、さらに、磁気検出ブリッジ回路内で配線抵抗の差がなく、高精度に電流測定を行うことができる。
【0096】
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。例えば、上記実施の形態における材料、各素子の接続関係、厚さ、大きさ、製法などは適宜変更して実施することが可能である。その他、本発明は、本発明の範囲を逸脱しないで適宜変更して実施することができる。