(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
セメント硬化体と鋼板とからなる複合構造体に対して打撃手段により振動を加え、前記複合構造体内からの反響音に基づいて前記複合構造体の界面の健全状態を判定する工程により界面に付着切れまたは空洞があると判定された第1の異音発生部に対して、前記打撃手段により打撃を加え、前記複合構造体内を伝搬する振動を集音手段により採取して信号波形を取得する工程と、
取得した信号波形に対して包絡線検波を行い、包絡線を取得する工程と、
取得した包絡線において、減衰が開始する時点から減衰が終了するまでの間に含まれる包絡線を減衰曲線とし、前記減衰曲線における減衰特性を表す減衰係数を演算し、その減衰係数に基づいて前記第1の異音発生部の滞水状態を判定する工程と、
前記滞水状態を判定する工程で滞水の可能性があると判定された第2の異音発生部に対して、超音波発生手段により超音波を発生させて送信用探触子から前記複合構造体内に超音波を伝搬させ、受信用探触子で受信し、信号波形を取得する工程と、
取得した信号波形を信号処理し、周波数に対する信号の振幅特性を取得する工程と、
信号処理された信号波形における、前記複合構造体固有の周波数帯域の振幅に基づいて、前記複合構造体の第2の異音発生部における滞水の有無を判定する工程と、
を有することを特徴とする複合構造体の界面検査方法。
前記包絡線を取得する工程は、前記打撃手段により加えられた振動に相当する信号波形を前記包絡線から除去する工程を含むことを特徴とする請求項1の記載の複合構造体の界面検査方法。
前記減衰係数は、前記減衰曲線の振幅が、前記包絡線での減衰が開始する時間以降における前記減衰曲線の振幅となる第1の振幅から、前記第1の振幅よりも小さい前記減衰曲線における第2の振幅になるまでの時間幅であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の複合構造体の界面検査方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る界面検査方法のたたき調査の概略図、
図2は、本発明の実施形態に係る界面検査方法の打音検査を示す概略図、
図4は、本発明の実施形態に係る界面検査方法の超音波探傷による検査を示す概略図である。
【0018】
本発明に係る実施形態では、例えば橋梁の桁上部に設けられた複合構造体としての合成床版2の界面5の状態を検査する。合成床版2は、セメント硬化体としてのコンクリート3と、底鋼板4とからなり、検査対象となるのはコンクリート3と底鋼板4との界面5の状態である。コンクリート3は、硬化したコンクリートである。本発明で底鋼板4として用いる鋼板の厚さDは、1〜100mmが好ましく、5〜25mmであるのがより好ましい。
【0019】
本発明に係る界面検査方法におけるたたき調査では、打撃手段としてのハンマー10を用いて行う。ハンマー10は、底鋼板4の外側面4a側から打撃を加えて合成床版2に振動を与えることができればよく、例えば鉄ハンマー、プラスチックハンマー、ゴムハンマー、木ハンマー等が挙げられる。
【0020】
界面5に付着切れまたは空洞が存在しない場合には、ハンマー10で底鋼板4を叩くと、コンクリート3と底鋼板4とが密着しているため、ハンマー10での打撃による反響音は高い音になる。一方、界面5の状態が付着切れまたは空洞である場合には、ハンマー10で底鋼板4を叩くと、ハンマー10での打撃による反響音は低い音になる。このようなたたき調査では、界面5が密着しているか否かを容易に識別することが可能となる。なお、本実施形態では、界面5の状態が付着切れまたは空洞である場合の反響音を異音とする。
【0021】
図2に示すように、本発明に係る界面検査方法における打音検査では、界面検査装置としての打音検査装置11を用いて検査を行う。打音検査装置11は、ハンマー10と、集音手段としてのマイクロホン12と、アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器という)16と、制御部としての演算装置14と、表示器15とを備えている。マイクロホン12は、底鋼板4の外側面4a側に、ハンマー10から離れた位置に配置され、合成床版2内を伝搬する振動を音として採取する。マイクロホン12は、フード13で覆われており、フード13を底鋼板4に接触させることにより、外部からの音を遮断してノイズを低減することができる。マイクロホン12で採取された音は、A/D変換器16によってデジタル信号に変換され、演算装置14に入力される。
【0022】
演算装置14は、図示しないがCPU(Central Processing Unit)や、ROM、RAM等のメモリを含んで構成されている。演算装置14は、包絡線取得部141、減衰パラメータ演算部142及び判定部143を有している。メモリには各種プログラムが記憶されており、CPUで各種プログラムを実行することによって、包絡線取得部141、減衰パラメータ演算部142及び判定部143の機能が発揮される。なお、演算装置14は、包絡線取得部141、減衰パラメータ演算部142及び判定部143以外の機能も有しているが、本実施形態では説明を省略する。
【0023】
包絡線取得部141は、マイクロホン12で採取した音を信号処理して信号波形を取得し、その信号波形に対して包絡線検波を行い、包絡線を取得する。減衰パラメータ演算部142は、取得した包絡線を曲線近似して減衰曲線とし、減衰曲線における減衰係数としての減衰パラメータを演算する。判定部143では、求めた減衰パラメータに基づいて、界面5の異音発生部6の状態を判定する。また、包絡線を周波数解析して、振幅が現れている周波数帯域に基づいて界面5の異音発生部6の状態を判定する。判定部143で行う異音発生部6の判定では、第1の異音発生部としての異音発生部6の滞水状態、つまり滞水している付着切れと、空洞と、付着切れ或いは滞水している空洞との3種類を識別する。
【0024】
演算装置14には、出力装置として表示器15が接続されている。表示器15には、例えばマイクロホン12で取得した信号波形を表示してもよいし、包絡線取得部141で取得した包絡線や、減衰パラメータ演算部142で曲線近似した減衰曲線等を表示するようにしてもよい。図示しないが、演算装置14は、キーボード等の入力装置を有していてもよく、例えばパーソナルコンピュータであってもよい。
ところで、上記において、界面検査装置としての打音検査装置11をハンマー10で自動的に打音を発生させる装置を含んで構成するようにしてもよく、さらにハンマー10とマイクロホン12を一体に備えて構成するようにしてもよい。即ち、例えば、
図3に示すような、ハンマー10とマイクロホン12とを一体にしたような界面検査ユニット110を用いるようにしてもよい。
【0025】
界面検査ユニット110は、自動的に底鋼板4に打撃を加えて打音を発生させるソレノイドハンマーユニット(打撃手段)112、マイクロホン(集音手段)114、ソレノイドハンマーユニット112の作動を制御する打撃制御ユニット113、マイクロホン114で採取した音をデジタル信号に変換するA/D変換器115、バッテリ119、打撃制御ユニット113及びA/D変換器115と演算装置14との電気信号の入出力を行う通信コネクタ117、打撃を実施するための打撃スイッチ120を備えて構成されている。
【0026】
ソレノイドハンマーユニット112は、電磁ソレノイド112bに通電することでハンマー本体112aを電磁ソレノイド112b内でハンマー本体112aの軸線方向に振動させて底鋼板4に打撃を加えるよう構成されており、例えば演算装置14から打撃制御ユニット113へ送信する指令信号に応じて打撃力や打撃回数等が可変操作される。
なお、ハンマー本体112aの先端部は対象物に応じて取り替えることが可能で、例えば通常プラスチックハンマーを使用する場合に対して本装置を使用する場合には、樹脂部材112cを取り付ける。
【0027】
マイクロホン114はフード116で覆われており、フード116についても、底鋼板4に接触させることで、外部の音を遮断してノイズを低減可能である。
また、界面検査ユニット110には、界面検査ユニット110を底鋼板4に押し当てるべくハンドル111が設けられている。
底鋼板4に対向する面には、マグネット122を設けるのがよく、マグネット122で界面検査ユニット110を底鋼板4に固定することで作業性の向上を図ることが可能である。
【0028】
図4に示すように、本発明の実施形態に係る界面検査方法における超音波探傷による検査では、界面検査装置としての超音波探傷装置20を用いて検査を行う。超音波探傷装置20は、送信用探触子21、受信用探触子22、超音波発生手段としてのパルサー/レシーバ23、アナログ/デジタル変換器(以下、A/D変換器という)24、制御部としての演算装置25、及び表示器15を備えている。
【0029】
送信用探触子21及び受信用探触子22は、底鋼板4の外側面4aに当接して配置される。送信用探触子21は、所定の周波数の超音波を送受信するパルサー/レシーバ23に接続され、パルサー/レシーバ23から送信された超音波を底鋼板に送信する。パルサー/レシーバ23は、20kHz〜1MHzの範囲で設定された周波数の超音波を送信用探触子21に入力する。
【0030】
受信用探触子22は、パルサー/レシーバ23に接続されており、底鋼板4内を反射する反射波を受信する。受信用探触子22で受信した反射波は、パルサー/レシーバ23で電気信号に変換される。電気信号に変換された反射波は、A/D変換器24でデジタル信号に変換され、演算装置25で信号処理される。
【0031】
演算装置25は、図示しないがCPU(Central Processing Unit)や、ROM、RAM等のメモリを含んで構成されている。信号処理部250及び判定部251を有している。メモリには各種プログラムが記憶されており、CPUで各種プログラムを実行することによって、信号処理部250及び判定部251の機能が発揮される。なお、演算装置25は、信号処理部250及び判定部251以外の機能も有しているが、本実施形態では説明を省略する。
【0032】
信号処理部250では、反射波の信号波形に対して周波数解析を行い、解析結果を表示器15に表示する。判定部251では、信号処理部250で解析処理して得られた周波数特性から、コンクリート3と底鋼板4との界面5に存在する第2の異音発生部としての異音発生部6の滞水状態を判定する。判定部251で判定する異音発生部6の滞水状態とは、付着切れの状態、または滞水している空洞である。
【0033】
以下、本発明の実施形態に係る複合構造体の界面検査方法について説明する。
図5は、合成床版2のたたき調査を含む界面5の状態検査を示すフローチャート、
図6は、本発明の実施形態に係る複合構造体の界面検査方法を示すフローチャート、
図7(A)は、合成床版2内を伝搬した振動をマイクロホンで採取した音の信号波形、
図7(B)は、
図7(A)で取得した信号波形から取得した包絡線の信号波形、
図7(C)は、
図7(B)の包絡線から打撃音に相当する信号を除去した包絡線と、その包絡線を曲線近似して得た減衰曲線とを示す図、
図7(D)は、
図7(C)を時間軸方向に拡大した図、
図8(A)は、異音発生部6が付着切れの場合の超音波探傷の概略図、
図8(B)は、異音発生部6が滞水している空洞である場合の超音波探傷の概略図である。以下、
図5〜
図8に基づいて説明する。なお、後述するステップS31〜S38の各処理は演算装置14で行われ、後述するステップS40〜S44の各処理は演算装置25で行われる。
【0034】
ステップS1では、底鋼板4のたたき調査を実施する。詳しくは、ハンマー10を用いて底鋼板4に打撃を加え、界面5の健全状態の調査を行う。
ステップS2では、ハンマー10の打撃により異音が発生したか否かを判定する。当該判定結果が真(Yes)と判定された場合には、界面5の状態が異音発生部、つまり付着切れまたは空洞が形成されているとして、例えばマーキングする等して異音発生部6の位置を識別可能な状態にしてステップS3へ進む。当該判定結果が偽(No)と判定された場合には、異音発生部6は形成されていないとして本フローチャートを終了する。なお、ステップS1、S2のたたき調査は底鋼板4全体に対して行い、界面5の異音発生部6の位置を抽出する。
【0035】
ステップS3では、合成床版2の界面5の状態を検査する。詳しくは、
図6に示すフローチャートに基づいて説明する。
ステップS31では、ステップS2で抽出された異音発生部6に対して打音検査を行う。詳しくは、ハンマー10を用いて底鋼板4に打撃を加え、合成床版2内を伝搬した振動を音としてマイクロホン12で採取する。マイクロホン12で採取した音は、電気信号に変換され、例えば
図7(A)に示すような測定波形として演算装置14に入力される。
【0036】
ステップS32では、取得した測定波形の包絡線検波を行い、包絡線を取り出す。取り出された包絡線は、例えば
図7(B)に示すような信号波形になる。
ステップS33では、この取り出された包絡線から、ハンマー10による打撃音に相当する信号波形を除去する。
図7(B)に示すように、打撃音に相当する信号波形は、時間軸方向で見て、測定を開始してから最初に現れる最大振幅を有する信号波形として現れる。そこで、測定開始時間、即ち0秒から最大振幅が現れる測定時間までの時間幅dtに含まれる信号波形を除去する。これにより、打撃音の影響を包絡線から除去できるので、検査精度をより向上させることが可能になる。
【0037】
ステップS34では、打撃音の影響を除去した包絡線に対して曲線近似を行い、減衰曲線を取得する。そしてこの減衰曲線から減衰係数としての減衰パラメータを演算する。減衰パラメータとは、後述する減衰曲線の減衰特性を表すパラメータである。詳しくは
図7(C)に示すように、包絡線の減衰開始から減衰終了までの間に含まれる包絡線を指数関数で曲線近似する。この近似した曲線を、減衰曲線とする。この減衰曲線は、以下の式(1)のように定義される。
y=Ae
-(x-x0)/t ・・・(1)
【0038】
上記式(1)では、A:指数関数の係数、x:音の採取を開始してからの変化量、t:時間をそれぞれ表している。この時間tは、指数関数の変化量xに対する係数であり、上記式(1)の減衰曲線の減衰特性を表している。従って時間tを減衰パラメータとする。x
0は音の採取を開始してから減衰開始位置までの変化量であるのがよいが、x
0は上記時間幅dT相当量で代用してもよい。なお、包絡線における減衰開始とは、減衰が終了している時点から包絡線を時間軸方向に溯っていくと包絡線の振幅は略等増幅していくが、この略等増幅していく等増幅線の変曲点となる時点のことを示している。
【0039】
ステップS35では、ステップS34で求めた減衰パラメータtが第1の閾値未満か否かを判定する。ここで第1の閾値とは、界面5の異音発生部6の状態が、滞水している付着切れか、それ以外の状態かを区別可能な値である。当該判定結果が真(Yes)の場合には、減衰パラメータtは第1の閾値未満であるとしてステップS35へ進む。
【0040】
ステップS36では、減衰パラメータtは第1の閾値未満であったので、界面5の異音発生部6の状態は滞水している付着切れであると判定して、本フローチャートを終了する。
一方、ステップS35の判定結果が偽(No)の場合には、減衰パラメータtは第1の閾値以上であり、異音発生部6は空洞か、滞水している空洞または付着切れかとしてステップS37へ進む。
【0041】
ステップS37では、減衰パラメータtが第2の閾値未満であるか否かを判定する。ここで第2の閾値とは、界面5の異音発生部6の状態が、空洞か、滞水している空洞または付着切れかを区別可能な値である。当該判定結果が偽(No)の場合には、減衰パラメータtは第2の閾値以上であるとしてステップS38へ進む。なお、第2の閾値は、第1の閾値より大きい値である。
ステップS38では、減衰パラメータtは第2の閾値以上であったので、界面5の異音発生部6の状態は空洞であると判定して、本フローチャートを終了する。
【0042】
一方、ステップS37の判定結果が真(Yes)の場合には、減衰パラメータtは第2の閾値未満であるので、滞水の可能性があるとして、ステップS39へ進む。
ステップS39では、第2の閾値未満であると判定された異音発生部6に対して、超音波探傷を実施する。詳しくは第2の閾値未満であると判定された異音発生部6の位置に相当する底鋼板4の外側面4aに送信用探触子21及び受信用探触子22を配置し、送信用探触子21から底鋼板4に向けて超音波を送信し、底鋼板4からの反射波を受信用探触子22で受信する。使用される超音波の周波数は、底鋼板4の厚さに応じて適宜選択される。
【0043】
ステップS40では、ステップS39で受信した反射波の信号波形に対して周波数解析を行う。詳しくはステップS39で取得した信号波形に対して高速フーリエ変換(Fast Fourier Transform、以下FFTという)を行い、周波数と振幅との特性、つまり周波数に対する振幅特性をグラフ化する。
【0044】
ステップS41では、グラフから底鋼板4固有の周波数成分を取得する。後述する
図12(C)、
図12(D)に示すように、このグラフにおける特定の周波数帯域での振幅の大きさから、異音発生部6の状態を識別することができる。この特定の周波数帯域が、底鋼板4固有の周波数帯域である。
【0045】
図8(A)に示すように、界面5の異音発生部6が付着切れである場合に超音波探傷を行うと、送信用探触子21から送信された超音波は、底鋼板4からコンクリート3内へ抜けていかずに底鋼板4内で多重反射する。このため、受信用探触子22で受信された信号波形に対してFFTを行うことによって、多重反射した反射波は底鋼板4固有の周波数帯域の振幅として現れる。底鋼板4固有の周波数帯域は、以下の式(2)により求められる。
f=v/(2×D) ・・・(2)
ここで、f:底鋼板4固有の周波数帯域、v:底鋼板4を伝搬する超音波の音速、D:底鋼板4の板厚をそれぞれ示している。
【0046】
一方で
図8(B)に示すように、異音発生部6が滞水している空洞である場合に超音波探傷を行うと、送信用探触子21から送信された超音波の一部が水中に抜けていってしまう。このため、受信用探触子22で受信される反射波は、異音発生部6が付着切れである場合に比べて小さくなる。この反射波の信号波形には底鋼板4内で多重反射した成分も含まれており、この信号波形に対してFFTを行うことによって底鋼板4固有の周波数帯域の振幅として現れる。この振幅の大きさは、送信用探触子から送信された超音波の一部が水中に抜けていってしまっているため、異音発生部6が付着切れの場合と比べて小さくなる。
【0047】
ステップS42では、特定の周波数帯域における振幅の大きさが第3の閾値未満であるか否かを判定する。第3の閾値とは、滞水している空洞と付着切れとを区別可能な値である。異音発生部6の状態が滞水している空洞である場合、底鋼板4固有の周波数帯域における信号波形の振幅の大きさは異音発生部6が付着切れである場合に比べて小さくなる。従って第3の閾値にこの2つの状態を識別可能な値を設定することによって、滞水している空洞と付着切れとを識別することが可能となる。当該判定結果が真(Yes)の場合には、振幅の大きさが第3の閾値未満であるとしてステップS43へ進む。
【0048】
ステップS43では、特定の周波数帯域における振幅の大きさが第3の閾値未満であったので、異音発生部6の状態は滞水している空洞であると判定する。
一方、ステップS42の判定結果が偽(No)と判定された場合には、特定の周波数帯域における振幅の大きさが第3の閾値以上であるとしてステップS44へ進む。
ステップS44では、特定の周波数帯域における振幅の大きさが第3の閾値以上であったので、異音発生部6の状態は付着切れであると判定する。
【0049】
このように本実施形態では、合成床版2の底鋼板4全体に対してたたき調査を行って異音発生部6の位置を抽出し、抽出された異音発生部6に対して打音検査を行い、取得した信号波形から演算した減衰パラメータtに基づいて異音発生部6の状態が滞水している付着切れ、空洞、または滞水している空洞若しくは付着切れかを識別する。この打音検査で滞水している空洞または付着切れと判定された異音発生部6に対して超音波探傷を行い、周波数解析を行った信号波形の振幅の大きさに基づいて、異音発生部6の状態が滞水している空洞か、付着切れかを識別する。
【0050】
これにより、異音発生部6の状態を段階的に且つ詳細に識別していくことができるので、検査精度を向上させることができる。また、合成床版2全体に対してたたき調査を行って異音発生部6を抽出し、抽出した異音発生部6に対して打音検査を行い、打音検査で識別できなかった異音発生部6に対して超音波探傷による検査を行い、検査範囲を段階的に狭めていく。従って、超音波探傷による検査は局所的な検査となり、超音波探傷に要する作業を低減することができるので、作業効率を向上させることができる。
【0051】
<変形例>
次に、上記実施形態の変形例について以下に説明する。本変形例は、上記実施形態に対して、打音検査における減衰パラメータtとして減衰時間を用いる点が異なっており、その他の構成については共通している。従って、共通点については説明を省略する。
【0052】
図9は、打撃音に相当する信号波形を除去した包絡線を指数関数で曲線近似した減衰曲線を示す図である。この減衰曲線における減衰パラメータtは、振幅の大きさが、包絡線における最大振幅Amの第1の振幅としての1/α
1から第2の振幅としての1/α
2(α
1、α
2は1以上の実数であり、α
1<α
2である)に減衰するまでに要する減衰時間Tで表される。減衰パラメータtとして減衰時間Tを用いる場合、ステップS35の判定に利用する第1の閾値は、異音発生部6の状態が滞水している付着切れまたはそれ以外の状態を判定可能な長さの減衰時間となり、ステップS37で利用する第2の閾値は、異音発生部6の状態が空洞またはそれ以外の状態を判定可能な長さの減衰時間になる。
【0053】
合成床版2に打撃を加えてからこの打撃による振動が減衰し始めるまでには、若干の時間を要する。このため、ステップS33で打撃音に相当する信号波形を包絡線から除去しても、減衰か開始するまでの間の信号波形がその包絡線に残ってしまう場合がある。そこで、包絡線における最大振幅Amの1/α
1となる振幅が、合成床版2に加えられた振動の減衰開始以降の時間における減衰曲線の振幅となるような値をα
1に設定するのが好ましい。またα
2は、α
1より大きければよいが、最大振幅Amの1/α
2となる振幅が、減衰が終了する近傍における振幅となるような値に設定するのが好ましい。
これにより、上記実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0054】
なお、上記実施形態では、打音法としてハンマー10を用いて底鋼板4に打撃を加えることについて説明したが、これに限られず、外部より発せられた弾性波や鉄球等により振動を加える手段を用いてもよい。
また、上記実施形態では、コンクリート3と底鋼板4とからなる合成床版2を例として説明しているが、コンクリート3をセメント硬化体、例えばモルタルとしても、本発明の界面検査方法を適用可能である。
【0055】
さらに、上記実施形態では、受信用探触子22で受信した信号波形に対してFFTによる周波数解析を行っているが、周波数解析の代わりに、受信した信号波形の特定の周波数のみを通過させるバンドパスフィルタや、周波数解析の1つであるウェーブレット変換を行うようにしてもよい。特にウェーブレット変換では、超音波探傷で得られた受信信号を変換した後も、周波数と振幅との特性に加えて時間軸の情報が残るので、任意の成分同士の和、積等の解析方法を用いることが可能となるので好ましい。
【0056】
また、上記実施形態では、打音検査で用いる演算装置14と、超音波探傷の検査で用いる演算装置25とを分けて説明したが、包絡線取得部141、減衰パラメータ演算部142、判定部143、信号処理部250、及び判定部251を1つの演算装置に機能として持たせてもよい。
【実施例】
【0057】
上述した実施形態で説明した界面検査方法を利用して、合成床版2の界面5に形成された異音発生部6の状態の検査を行った。
本実施例で行う界面検査方法の概略図を
図10に示す。
図10(A)は界面5に形成された異音発生部6に対する打音検査の概略図、
図10(B)は界面5に形成された異音発生部6に対する超音波探傷による検査の概略図である。
【0058】
図10(A)、
図10(B)に示すように、合成床版2の界面5に異音発生部6を形成した。この異音発生部6として、広範囲にわたる付着切れを形成した。また、異音発生部6として、1辺の長さWが200mm、高さhが3mmの模擬空洞を形成した。また、図示しないが空洞及び付着切れに対して、それぞれが滞水している状態の異音発生部6も作製した。底鋼板4の厚さDは8mmとした。また、
図10(B)における超音波探傷で使用する超音波の周波数は、250kHzとした。
【0059】
図10(A)に示すように、異音発生部6が形成されている位置を打撃位置とし、打撃位置から離間した位置にマイクロホン12を配置し、ハンマー10で打撃を与えて界面5の検査を行った。この打音検査は、滞水している付着切れ、付着切れ、及び空洞の3種類の異音発生部6に対して実施した。その結果を
図11(A)〜
図11(C)に示す。
【0060】
その後、付着切れ及び滞水している空洞の2種類の異音発生部6に対して、
図10(B)に示すように異音発生部6が形成されている位置に送信用探触子21及び受信用探触子22を配置して、超音波探傷による検査を実施した。その結果を
図12(A)〜
図12(D)に示す。
【0061】
図11(A)は滞水した付着切れに対して打音検査を行って取得した包絡線及び減衰曲線のグラフ、
図11(B)は付着切れに対して打音検査を行って取得した包絡線及び減衰曲線のグラフ、
図11(C)は空洞に対して打音検査を行って取得した包絡線及び減衰曲線のグラフである。なお、減衰パラメータtの単位は[ms]である。また、x
0については、ここでは音の採取を開始してから減衰開始位置までの変化量を省略して便宜上0として示してある。
【0062】
図11(A)に示すように、滞水している付着切れにおける減衰曲線では、
図11(B)に示す付着切れの減衰曲線及び
図11(C)に示す空洞における減衰曲線よりも減衰する速度が速いことが判る。減衰パラメータtは、滞水している付着切れの場合が最も小さく、約1.24msであり、付着切れの場合には約5.04ms、空洞の場合には17.15msであった。このように、包絡線を曲線近似した減衰曲線の減衰パラメータtは、異音発生部6が滞水している付着切れの場合に最も小さく、異音発生部6が空洞である場合に最も大きくなる。本実施例では、例えば第1の閾値を2msとし、第2の閾値を15msとすることで、異音発生部6の状態、つまり付着切れ、滞水している付着切れ、及び空洞の状態を識別することが可能となる。
【0063】
図12(A)は滞水した空洞に対して超音波探傷を行って得られた信号波形のグラフ、
図12(B)は
図12(A)の信号波形に対して周波数解析を行って得られた周波数特性を示すグラフ、
図12(C)は付着切れに対して超音波探傷を行って得られた信号波形のグラフ、
図12(D)は
図12(C)の信号波形に対して周波数解析を行って得られた周波数特性を示すグラフである。
【0064】
図12(B)に示すように、滞水した空洞に対して超音波探傷を行って得られた周波数特性では、300〜450kHzの周波数帯域に振幅が現れているものの、目立った大きさの振幅ではない。送信用探触子21から底鋼板4に送信された超音波の振幅を1とすると、底鋼板4固有の周波数帯域の振幅の大きさは約0.2〜0.3である。
図12(D)に示すように、付着切れに対して超音波探傷を行って得られた周波数特性では、300〜450kHzの周波数帯域に大きな振幅が現れている。送信用探触子21から底鋼板4に送信された超音波の振幅を1とすると、底鋼板4固有の周波数帯域における振幅の大きさは約0.7である。本実施例では、例えば第3の閾値を0.6に設定することによって、滞水した空洞と付着切れとを識別することが可能となる。