【実施例】
【0032】
以下に記載の実施例は本発明を更によく理解するためのものであって、本発明の範囲をいかなる形でも限定しない。
【0033】
実施例1
材料
平均分子量25kDaの分岐ポリエチレンイミン(PEI)、エチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)及びメタニルイエローをAldrich Chemical社(ミルウォーキー、ウィスコンシン州(Aldrich社))から購入した。PANエレクトロスパン膜を、ストーニーブルックで製造した。モノマーであるエトキシ化(9)トリメチロールプロパントリアクリレート(EOTMTA)をPolysciences社(ワレントン、ペンシルバニア州)から購入し、阻害剤を使用前に除去した。熱開始剤である過硫酸カリウム(K
2S
2O
8)をFluka社(スイス)から得た。エレクトロスパンポリアクリロニトリル(PAN)(M
w約150kDa、Aldrich社から購入)ナノファイバスキャフォールドを、エレクトロスピニングによりアルミホイル上に堆積させた。ポリビードミクロスフィア粒子懸濁液(約2.6wt%、0.20μm)を購入し、脱イオン(DI)水で100ppmにまで水系細菌のモデル供給溶液として希釈した。ウシ血清アルブミン(BSA)をSigma−Aldrich社から購入した。大腸菌は、アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)から購入し、MS2を発展させた手順に従ってインキュベートした。
【0034】
実施例2
VEVIMIBrの調製
18.8g(0.20mol)の1−ビニルイミダゾール及び18.8g(0.20mol)の1,2−ジブロモエタンを150mLのアセトニトリルに溶解させた。混合物を60℃で48時間にわたって加熱し、続いて室温にまで冷却した。得られた固体試料を沈殿させ、エチルエーテルで3回洗浄した。真空オーブンで乾燥させると、VEVIMIBrが白色の粉末として得られた。この反応での収率は約95%であった。VEVIMIBrの1H NMR(溶媒としてDMSO−d6、δ、ppm)のスペクトルは9.638(N−CH−N、s、2H)、8.266(N−CH−CH、s、2H)、7.894(N−CH−CH、s、2H)、7.306〜7.387(N−CH=、tetra、2H)、5.949〜6.009及び5.413〜5.450(N−CH=CH2、d、4H)、4.822(N−CH2、s、4H)であった。
【0035】
実施例3
モノマー水溶液の調製
モノマー水溶液を、室温で1時間にわたって撹拌することで既定量のモノマー及び開始剤(K
2S
2O
8)を脱イオン水に溶解させて調製した。表1に、使用した溶液の組成を挙げる。
【0036】
【表1】
【0037】
実施例4
PANエレクトロスパン膜(実施例1)を、VEVIMIBr組成を有するモノマー水溶液II(実施例3)に浸した。過剰な溶液を高速ドローダウンツールで排出した。膜を110℃で30分間にわたって加熱し、水で徹底的に洗浄して未反応モノマーを除去してから使用した。
【0038】
実施例5
マルチビニルモノマーのフリーラジカル重合により形成する超薄コーティング層
モノマーEOTMTA及びVEVIMIBr(それぞれ(I)、(II)とする)の構造を以下に示す。
【化1】
コーティング工程において、PANエレクトロスパンナノファイバの表面を、水溶液のモノマー及び熱開始剤の薄層で被覆した。フリーラジカルを発生させる熱開始剤は、ナノファイバの表面上に存在するEOTMTA(又はVEVIMIBr)の重合を引き起こした。最終的に、超薄ポリマーネットワークが乾燥工程で形成された。3個のビニル基を有するEOTMTAモノマーは、表面、特にはエレクトロスパンナノファイバの交差点でポリマーネットワークを形成する「架橋剤」としての役割を果たした。エレクトロスパンナノスキャフォールドの機械的性質は重合後に大幅に改善され、これは引張実験によって確認された(実施例10)。このようにして、ポリ(EOTMTA)修飾PANエレクトロスパン膜は、精密ろ過用の自立型の膜としての使用に適していると判断された。
【0039】
実施例6
使用するコーティングポリマーの厚さは、式(1):
【数1】
(式中、L
0はエレクトロスパンナノファイバの長さであり、m
0(g)はPANエレクトロスパンナノファイバの質量であり、r
0(cm)はエレクトロスパンナノファイバの半径であり、d
0(g/cm
3)はPANの密度であり、rは修飾したナノファイバの半径であり、S(cm
2)は表面積である)を使用して計算できる修飾したナノファイバの表面積に左右される。ナノファイバ表面に沿ったコーティング層が均一であると仮定すると、コーティングしたポリマーの体積(V、cm
3)と修飾したナノファイバの半径(r、cm)との関係は式(2):
【数2】
で表わすことができる。
【0040】
このため、コーティング層の厚さ(r−r
0)は、
【数3】
を用いてポリマーの配合体積(V)によって制御することができる。コーティング層の厚さはファイバ直径(r
0)及びモノマー溶液の濃度に比例する。約0.8〜約1.0wt%のモノマー水溶液を使用して比較的均一なコーティング層が得られることが判明している。ファイバ直径が150±30nmの1gのPANエレクトロスパンナノファイバの場合、コーティング層の厚さは約15nmである。
【0041】
モノマーで繋ぎとめた正に帯電したイミダゾリウムカチオンであるVEVIMIBrを合成し、正に帯電したMF膜の作製に使用した。このため、この膜は負に帯電した種(典型的には水系ウイルスのモデルと見なされるバクテリオファージMS2等)に対する高い吸着容量を有すると期待された。
【0042】
実施例7
図1は、PANエレクトロスパンナノファイバ及びポリ(VEVIMIBr)でコーティングしたナノファイバ(実施例4)のSEM画像である。PANエレクトロスパンナノファイバの直径は150±30nmであり、
図1(a)から、ストーニーブルックで開発されたLeikaソフトウェアで推測された。
図1(b)は、ナノファイバがポリ(VEVIMIBr)に、特にはナノファイバの交差点で包まれたことを示し、これは実施例10で論じる改善された機械的性質の良い証拠である。
【0043】
実施例8
試料の熱重量分析(TGA)走査を10℃/分で60℃から800℃まで空気流下、Perkin−Elmer社のTGA7装置を使用して行った。PANエレクトロスパンナノファイバの分解温度は、
図2に示すように、317.2℃で開始し、5℃の降下中にその質量の41.8%を急速に失った。しかしながら、ポリ(EOTMTA)で架橋したPANは324.6℃で急速に分解を開始し、2.4℃以内に39.1%を失い、一方、ポリ(VEVIMIBr)は急速に334.8℃から分解し、2.4℃以内に36.4%を失った。この変化は、ナノファイバの微分質量%からはっきりと観察することができた。最大ナノファイバ質量低下率は、ポリ(EOTMTA)及びポリ(VEVIMIBr)での官能化後、319.0℃から325.6及び336.0℃にそれぞれ上昇した。PANエレクトロスパンナノファイバの分解温度は、ポリ(VEVIMIBr)の試料ではポリ(EOTMTA)の試料より高い温度で安定した。これは異なる配合量に起因し得た:前者は41.8±4.0mg/cm
3であり、後者は9.5±1.9mg/cm
3であり、約4.4倍低い(実施例3)。
【0044】
実施例9
実施例8の結論を更に、
図3に示すDSCの結果で確認した。PAN系MF膜の酸化環化中の温度は、ポリ(EOTMTA)及びポリ(VEVIMIBr)のコーティング後、292.7℃からそれぞれ299.7℃及び317.3℃に大きく上昇した。これは恐らく環化を遅延させる表面コーティング層のせいであり、これが温度上昇につながった。ポリ(VEVIMIBr)/PANはポリ(EOTMTA)/PAN膜より高い安定性を保持し、これはTGAの結果とぴったり一致した。これらの発見は、表面修飾が成功であったろうことも示唆している。
【0045】
実施例10
実施例4の試料を室温で改良型INSTRON(登録商標)4442引張装置(Instron Industrial Products Group、グローブシティ、ペンシルバニア州)を使用して一軸延伸することによって対称変形を行った。INSTRON(登録商標)の顎部間の初期の距離は10mmであり、選択した延伸率は5mm/分であった。ポリ(EOTMTA)及びポリ(VEVIMIBr)修飾PANナノファイバ膜の機械的性質は、
図4に示すように、PANエレクトロスパン膜の機械的性質より大幅に向上していると判明した。修飾PANナノファイバ膜での引張実験からは降伏点が観察されなかった。しかしながら、極限引張強度は約3〜4倍上昇した。これらの結果はPANナノファイバの表面上、特にはナノファイバ間の交差点でポリマーネットワーク層が形成されたことの証拠であり、すなわちEOTMTA及びVEVIMIBrの重合は成功裡にエレクトロスパンナノファイバを「架橋」し、また交差点同士を「結合(solder)」した。更に、破断点伸び及びヤング率がほぼ変化しなかったという実験から得られた証拠は、修飾したナノファイバ膜を自立型フィルタとして使用できることを実証している。
【0046】
実施例11
実施例4における試料のバブルポイント、平均細孔径及び細孔径分布を、キャピラリフローポロメータ(FPA−1500A)(Porous Materials社、イサカ、ニューヨーク州)を使用して測定した。表面張力15.9ダイン/cmの濡れ流体(wetting fluid)GALWICK(登録商標)を膜を濡らすのに使用した。
図5は、PANエレクトロスパン膜、ポリ(EOTMTA)/PAN及びポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜の細孔径及び細孔径分布を示す。PANエレクトロスパンナノスキャフォールドの平均細孔径は0.41μmであり、広い細孔径分布が観察された。ポリ(EOTMTA)及びポリ(VEVIMIBr)での表面修飾後、膜の平均細孔径は約0.21μm及び約0.27μmにまでそれぞれ低下し、細孔径分布ははるかに狭くなり、このことは0.2μm粒子捕捉率の結果によっても示唆されている。
【0047】
実施例12
流束及び粒子捕捉性についてカスタム設計した装置で負荷試験を行い、細孔径分布をキャピラリフローポロメータ(FPA−1500A)でGALWICK(登録商標)を流体として使用して測定した。セルロースナノウィスカ精密ろ過膜の粒子ろ過を、流量1.0mL/分で全部で10mLの懸濁液について行い、透過物の粒子濃度及び供給溶液の粒子濃度を、全有機炭素分析計(TOC−5000、Shimadzu Scientific Instruments社、コロンビア、メリーランド州)で測定した。全てのデータを収集し、3重の試料を使用して測定を繰り返した。ナノファイバ膜及び入手可能な市販のMF膜GS0.22の最大細孔径、平均細孔径、透水性及び0.2μm粒子捕捉率を表2に示す。
【0048】
【表2】
【0049】
PANエレクトロスパン膜の最大細孔径及び平均細孔径の両方が、架橋されたポリマーネットワーク層での表面修飾後に低下した。平均細孔径は0.21μmにまで低下し、これはポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜が水系細菌の殆どを排除できたことを含意し、これは0.2μm粒子懸濁液の捕捉によって確認された。修飾後、粒子の捕捉率は13.7%から96.5%にまで上昇し、透水性は55%低下したが、依然として市販のGS0.22膜の値より2.5倍高い。更に、ポリ(EOTMTA)/PAN及びポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜の水接触角は、元々のPANエレクトロスパン膜の50.6°と比較すると、大幅にそれぞれ22.4°及び18.0°に低下した。ナノファイバ膜の超親水性表面はその防汚性を改善するはずである。
【0050】
実施例13
ポリ(VEVIMIBr)、ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜に繋ぎとめられたイミダゾリウムカチオンにより、膜は、向上した機械的性質及び細孔径/細孔径分布に加えて、ウイルスに対する高い吸着容量を示すと予測された。ウシ血清アルブミン(BSA)は等電点(pI)4.7のモデルタンパク質であり、pH7.2で負に帯電するはずである。1.0mg/mLのリン酸緩衝液(PBS、pH7.2)中のBSAを、ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜及びニトロセルロースから37℃で作製されるGS0.22市販膜の両方の負荷試験に使用した(本明細書において、「等電点」又は「pI」とは、特定の分子又は表面が正味の電荷を帯びないpHである)。ナノファイバMF膜におけるBSAの吸着容量をバッチで測定した。0.03gのナノファイバ膜を、振動ベッド上で、PBS(pH=7.2)中の10mLのBSA溶液(1.0mg/mL)に約0〜約9時間にわたって浸漬させた。膜上に吸着されたBSAの量を、279.9nmでの光吸収での測定による吸着前後でのBSA溶液の濃度変化から計算した。最大吸着容量を、1.0、0.5、0.25及び0.1mg/mLの様々な濃度のBSAを用いた場合のラングミュア吸着等温式を用いることで求めた。2.5時間後、BSAの濃度は平衡に達したと考えられ、ナノファイバ膜へのBSAの吸着は完了した。
図6(a)は、時間の関数としての吸着容量を示す。
【0051】
膜は、2.5時間にわたる1mg/mLのBSA緩衝液における吸着後に飽和した。ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜の吸着容量は22.9mg/gであり、市販のGS0.22精密ろ過膜の吸着容量より65%高かった。BSAのpIは4.7であり、pH7.2でほぼ負に帯電する。したがって、正に帯電したポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜は、静電的相互作用により高い吸着容量を有する。最大吸着容量は、式(4)においてラングミュア吸着等温式にフィットさせることで得られる。
〔数4〕
1/q
e=1/q
m+k
d/q
m×(1/c
e) (4)
式中、q
mは単層被覆での最大吸着(mg/g)であり、k
dはラングミュア吸着平衡定数(mL/mg)であり、これは膜結合部位の親和性を反映する。
図6(b)及び式(4)から、ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜によるBSAの最大吸着は35.1mg/gであり、これは18.5mg/gのGS0.22膜のものより約2倍高く、ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜を高効率MFフィルタとして応用できる可能性を示唆している。
【0052】
実施例14
細菌負荷試験を、デッドエンドろ過撹拌セル(Millipore 8050−5122、300rpmで撹拌)において室温で、10mLの大腸菌懸濁液(約10
6cfu/mL)を使用して行った。10mLの懸濁液を膜に一定流量(192L/m
2h)で通してろ過し、その間、0.2psiの低圧力降下が観察された。透過流束及び圧力降下を試験中にモニタした。バクテリアファージMS2をモデルウイルス粒子として使用してセルロースナノウィスカMF膜の吸着容量を20℃で評価した。約10
6プラーク形成単位(pfu)/mLの初期濃度のMS2ファージをリン酸緩衝液(pH=7.2)に懸濁させた。10mLの懸濁液を膜に一定流量(192L/m
2h)で通してろ過し、その間、0.2psiの低圧力降下が観察された。透過物をオートクレーブで処理したバイアルに回収し、ウイルス濃度をpfu法で求めた。pfu測定に関して、大腸菌(アメリカ培養細胞系統保存機関(ATCC)15597−B1)をウイルス宿主細菌として使用し、トリプチケースソイ寒天培地プレート(Teknova社)を使用して10〜100pfu/プレートを様々な透過物希釈比で得た。全ての実験を最低3回繰り返した。
【0053】
【表3】
【0054】
表3の全てのMF膜が比較的低い圧力降下(<2psi)及び大腸菌に対する高い捕捉率を有する。しかしながら、帯電した表面を有さないPANエレクトロスパン及びポリ(EOTMTA)/PAN膜はMS2捕捉率がゼロであった。対照的に、正に帯電した膜であるポリ(VEVIMIBr)/PANは4LRVにもなる完全捕捉性を有した。市販のGS0.22は1LRV捕捉率と、ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜のものと比較した場合に比較的高い圧力降下を有した。ポリ(VEVIMIBr)/PANナノファイバ膜の耐久性は、膜を純水で14日間にわたって洗浄し、また膜を10
6pfu/mLのMS2懸濁液での負荷試験に再度供することで判定されているが、MS2に対する3LRVより高い値は、膜ではいまだに達成されていない。
【0055】
実施例15
PEI/EGdGEでのPAN/AWA基体の修飾
連続エレクトロスピニング工程から得られたPAN/AWAフィルタを、PEI(1.0wt%)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)(架橋剤、0.2wt%)の混合物でコーティングした。詳細には、有効面積100cm
2のPAN/AWA膜片をPEI(1.0wt%)及びEGdGE(0.2wt%)の溶液に30秒間にわたって浸漬させた。膜をガラスプレート上に置き、両側をSealast Vibacテープでテープ止めした(このテープの厚さは0.04mmであり、両側を2層でテープ止めした)。余分な溶液をガラス棒を使用して排出させ、膜において17.5mg/cm
2のPEI及びEGdGE溶液で維持した。膜を、110℃で20分間にわたって加熱することで乾燥させた。0.2mg/cm
2のPEIをPAN/AWA膜上にこの方法でロードした。
【0056】
実施例16
PEI/EGdGEでのPET基体の修飾
ドイツ製のポリエチレンテレフタレート(PET)Novatexx 2413を、PEI(1.0wt%)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)(架橋剤、0.2wt%)の混合物でコーティングした。詳細には、有効面積140.5cm
2のPET片をPEI(1.0wt%)及びEGdGE(0.2wt%)の溶液に30秒間にわたって浸漬させた。余分な溶液をガラス棒を使用して排出させ、膜において18.5mg/cm
2のPEI及びEGdGE溶液で維持した。膜を、110℃で20分間にわたって加熱することで乾燥させた。0.2mg/cm
2のPEIをPET膜上にこの方法でロードした。
【0057】
実施例17
PEI/GTMACl/EGdGEでのPAN/PET基体の修飾
PAN/PETを、PEI、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMACl)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)の混合物でコーティングした。詳細には、有効面積140.5cm
2のPET片をPEI、GTMACl及びEGdGEの溶液に30秒間にわたって浸漬させた。余分な溶液をガラス棒で排出させ、膜において18.6mg/cm
2のPEI及びEGdGE溶液を維持した。膜を、110℃で25分間にわたって加熱することで乾燥させた。0.15mg/cm
2のGTMAClをPET膜上にこの方法でロードした。
【0058】
実施例18
メタニルイエローを吸着した試料(実施例15〜17)の試験手順
25mmの試料ディスクを蒸留水で10分間にわたって3.0mL/分又は60分間にわたって3.0mL/分でそれぞれ洗浄した。47mmの試料ディスクを純水で10分間にわたって10分/mLで洗浄した。直径25mmの市販のCUNO(登録商標)膜(Cuno社、メリデン、コネチカット州)を対照試料として使用し、同じ手順で処理した。メタニルイエロー(1.5ppm又は10ppm)を使用し、溶液流量を、25mm試料ディスクについては3.0mL/分、47mm試料ディスクについては10mL/分で維持した。透過物を0分から最高180分の異なるタイミングで回収した。測定を新しい膜を使用して少なくとも2回繰り返し、再現性があることが判明した。紫外・可視分光法を用いて透過物のメタニルイエロー濃度を434.2nmで測定した。
【0059】
実施例19
図7は、PEI/PAN/AWA及びCUNO(登録商標)試料の吸着容量を示す。3mLの透過物を各時間間隔後に回収し、メタニルイエローの量を上述したようにUVを使用して測定した。試験前に、PEI/PAN/AWA及びCUNO(登録商標)膜を純水で10分間にわたって3mL/分で洗浄した。20分間の吸着で、CUNO(登録商標)試料の捕捉率は0であり、一方、PEI/PAN/AWAは依然として93.8%±0.2%の捕捉率を有した。既に最初の5分で値は変動し始め、これはCUNO(登録商標)試料が染料をあまり迅速には吸着できず、またその容量を約10分後にはすぐに失ったことを示す。CUNO(登録商標)試料は約20分後に機能しなくなり、残りの染料は膜を通過した。PEI/PAN/AWA膜(2回繰り返された値)は90分後も吸着に効果的でありつづけ、これはCUNO(登録商標)試料のものより4〜5倍高い。
【0060】
実施例20
図8は実施例19の回収された透過物を示す。5分後、CUNO(登録商標)フィルタが機能しなくなりつつあることが観察された。しかしながら、PEI/PAN/AWA膜は、捕捉性を大きく失うことなく90分後も使用できた。
【0061】
実施例21
様々な洗浄時間でのPEI/PAN/AWA膜(実施例15で作製)の吸着容量を
図9に示す。それぞれ10分及び60分の予洗後、試料の吸着結果に明らかな差異は観察されなかった。
図9は、透過物の濃度についてスケールを拡大したPEI/PAN/AWA膜及びCUNO(登録商標)フィルタの吸着容量を示す。別の膜を使用しての10分の結果は
図7のものと同様であり、試料についての結果の再現性を示している。この結果は、架橋したPEIがPANナノファイバを包み、また恒久的なポリマーネットワークを形成し得たことを示し、このポリマーネットワークは予洗後も長期にわたって膜に保持することができる。
【0062】
実施例22
2つの異なるろ過ディスク面積(実施例15で作製)を用いることによるPEI/PAN/AWA膜(実施例15から)の吸着容量を
図10に示す。直径47mmの試料ディスクを負荷試験に供した。膜を10分間にわたって10mL/分で予洗し、吸着実験を60分間にわたって1.5ppmのメタニルイエロー10mL/分で行った。結果を、直径25mmのPEI/PAN/AWA試料で得られたものと比較した。
【0063】
実施例23
1.70x10
5pfu/mLのMS2(最大LRVは5.2であった)を使用してPEI/PAN/AWA試料ディスク(実施例15の直径47mmのディスク)を9mL/分の流量、pH=6.5及び室温で負荷試験に供した。結果を表4に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
PEI/PAN/AWAは両方の市販膜、特にはそれなりの高い圧力降下を示すCUNO(登録商標)試料のものより高い使用性を有した。市販のフィルタと比較した場合の、PEI/PAN/AWAの約2〜3倍長い使用性を表4に示す。PEI/PAN/AWAの圧力降下は、フィルタの細孔にウイルスが詰まることで、試験中に上昇した。PEI/PAN/AWAフィルタはウイルス吸着だけに使用されたわけではなく、細菌(大腸菌、B.ジミヌタを含む)に対しても高い捕捉性(>6LRV)を有し得る。しかしながら、CUNO(登録商標)及びAHLSTROM(登録商標)フィルタは、これらの膜の細孔径がより大きいことからウイルスにのみ使用された。
【0066】
実施例24
実施例15のPEI/PAN/AWA膜を更に、最高180分間にわたる1.5ppmのメタニルイエロー溶液でのそれぞれ90分、180分の異なる試験時間の負荷試験に供した。結果を
図11に示す。供給溶液の流量は、直径25mmのフィルタを使用して3mL/分であった。膜の圧力降下を試験工程中にモニタした。
【0067】
メタニルイエローの捕捉率は、180分間の吸着後、90%を超えて維持されることが観察された。圧力降下は、90分間の試験後、3.5psiであった。しかしながら、180分間の試験後、圧力降下は1.2から14psiに増大し、これはPEI/PAN/AWA膜が長時間にわたる吸着後(1.5ppmの染料で最高3時間)に詰まったことを示した。この問題に対処するために、実施例25に示すように、PETを、架橋PEI修飾精密ろ過膜を作製するための支持体として利用した。
【0068】
実施例25
直径25mmの実施例16の架橋PEI/PET膜ディスクを純水で10分間にわたって3mL/分で洗浄し、
図12に示すように、異なる濃度及び異なる流量でのメタニルイエロー溶液の吸着について負荷試験に供した。PEI/PET膜を、異なる濃度のメタニルイエロー水溶液での負荷試験に供した。PEI/PET膜は1.5ppm溶液でたちまち機能しなくなった。しかしながら、流量を1mL/分にまで低下させると又は染料溶液の濃度を0.5ppmにまで低下させると最高90分までかなり高い捕捉率が観察された。より重要なことに、圧力降下はろ過工程中、約0psiであった。この結果は、大きな細孔径を有する基体を、本発明の表面修飾剤での処理後に低圧フィルタとして使用できることを示す。
【0069】
実施例26
高pH溶液を、実施例15の架橋PEI/PAN/AWA膜及び市販のCUNO(登録商標)精密ろ過フィルタの負荷試験に使用した。直径25mmの膜ディスクを純水で10分間にわたって3mL/分で洗浄した。pH9の1.5ppmのメタニルイエロー溶液を試験に使用し、流量は3mL/分であった。CUNO(登録商標)フィルタの厚さは約300μmであり、PEI/PAN/AWA膜の厚さは約150μmであった。架橋PEI/PAN/AWA膜のPAN基体の厚さは約50μmであった。全ての膜が約5分後に吸着試験に失敗した。CUNO(登録商標)フィルタの圧力降下は、ろ過後、約0.3psiであった。pH9でのPEI/PAN/PET膜及びCUNO(登録商標)フィルタの吸着容量を
図13に示す。これらの結果は、PEI/PAN/PET膜のpH耐性を上昇させるために第四級アミノ種を使用し得たことを示す。
【0070】
実施例27
直径25mmの、異なる量の3つの構成成分(それぞれEGdGE/GTMACl/PEI=0.2%/0.8%/1.0%、0.1%/1.6%/0.5%及び0.05%/2.0%/0.25%)で作製したEGGE/GTMACl/PEI膜ディスクを、Milli−Q水(25℃で18.2MΩcm
-1を有する)で10分間にわたって3mL/分で洗浄した。pH=9.1の1.5ppmのメタニルイエロー溶液を使用して、膜を流量3mL/分の負荷試験に供した。GTMAClの濃度を1.6wt%より高く上昇させた場合、高メタニルイエロー染料(pH9)捕捉率が、最高40分間にわたって達成され、これは同じ条件下のCUNO(登録商標)MFフィルタのものより8倍高い。試験後の圧力降下はそれぞれ2.5、2.0及び2.3psiであった。(EGGE/GMACl/PEI)/PAN/PET及びCUNO(登録商標)MFフィルタのpH9での吸着容量を
図14に示す。EGGE/GTMACl/PEI膜を、PAN/PETにPEI、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMACl)及びエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)の混合物をEGGE/GTMACl/PEI比=0.1wt%/1.6wt%/0.5wt%でコーティングすることによって作製した。様々なpH値(それぞれ3.1、7.0及び9.2)のメタニルイエロー溶液(1.5ppm)を使用して膜を負荷試験に供した。異なるpH値での(EGGE/GMACl/PEI)/PAN/PET膜の吸着容量を
図15に示す。少なくとも30分間にわたって試験した場合、膜は3つのpH値(3.1、7.0及び9.2)のそれぞれについて>60%の捕捉率を有した。これは、50%の捕捉率を閾値と定義した場合に、膜が確固たる吸着容量を有することを示した。
【0071】
したがって、本発明の好ましい実施形態について説明してきたが、当業者ならば、本発明の趣旨から逸脱することなく他の実施形態を作りだし得ることを理解する。また、全てのそのような更なる改変及び変更を本明細書に記載の請求項の真の範囲内に含むものとする。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕高流速で低圧力降下の精密ろ過膜を形成する方法であって、
ナノファイバ構造体を準備すること、及び
前記ナノファイバ構造体の表面を表面修飾剤で修飾することを含み、
前記表面修飾剤が、グルタルアルデヒド(GA)又はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)/グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMACl)で架橋したポリエチレンイミン(PEI)及びポリビニルアミン(Lupamin)、又はポリ(1−(1−ビニルイミダゾリウム)エチル−3−ビニルイミダゾリウムジブロミド(ポリ(VEVIMIBr))を含む、前記方法。
〔2〕前記ナノファイバ構造体が、エレクトロスパンナノファイバスキャフォールド又はグラスマイクロファイバスキャフォールド又はこれらの混合物を含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔3〕前記エレクトロスパンナノファイバスキャフォールドが、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリエーテルスルホン(PES)/ポリエチレンテレフタレート(PET)又はこれらの混合物を含む、前記〔2〕に記載の方法。
〔4〕前記ナノファイバ構造体が、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリエーテルスルホン(PES)/ポリエチレンテレフタレート(PET)又はこれらの混合物を含むエレクトロスパンナノファイバスキャフォールドを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔5〕前記ナノファイバ構造体が、約50nm〜約5ミクロンの直径を有するファイバを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔6〕前記ナノファイバ構造体が、約50〜約500nmの直径を有するファイバを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔7〕前記表面修飾剤が、インシチュ重合で生成される、前記〔1〕に記載の方法。
〔8〕前記表面修飾剤が前記ナノファイバ構造体の表面上でコーティングを形成し、前記コーティングが約5〜30nmの厚さを有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔9〕前記表面修飾剤が前記ナノファイバ構造体の表面上でコーティングを形成し、前記コーティングが約10〜20nmの厚さを有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔10〕高流速で低圧力降下の精密ろ過膜を形成する方法であって、
エレクトロスパンナノファイバスキャフォールド又はグラスファイバスキャフォールド又はこれらの混合物を含むナノファイバ構造体を準備すること、及び
前記ナノファイバ構造体の表面を表面修飾剤で修飾することを含み、
前記表面修飾剤が、グルタルアルデヒド(GA)又はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)/グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMACl)で架橋したポリエチレンイミン(PEI)及びポリビニルアミン(Lupamin)、又はポリ(1−(1−ビニルイミダゾリウム)エチル−3−ビニルイミダゾリウムジブロミド(VEVIMIBr)を含み、前記表面修飾剤がインシチュ重合で生成される、前記方法。
〔11〕前記エレクトロスパンナノファイバスキャフォールドが、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリエーテルスルホン(PES)/ポリエチレンテレフタレート(PET)又はこれらの混合物を含む、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記ナノファイバ構造体が、約50nm〜約5ミクロンの直径を有するナノファイバを含む、前記〔1〕に記載の方法。
〔13〕前記表面修飾剤が前記ナノファイバ構造体の表面上でコーティングを形成し、前記コーティングが約50〜500nmの厚さを有する、前記〔1〕に記載の方法。
〔14〕浄水用の精密ろ過膜であって、
エレクトロスパンナノファイバスキャフォールド又はグラスファイバスキャフォールド又はこれらの混合物を含むナノファイバ構造体と、
表面修飾剤を含む、前記ナノファイバ構造体に適用されたコーティングとを備え、
前記表面修飾剤が、グルタルアルデヒド(GA)又はエチレングリコールジグリシジルエーテル(EGdGE)/グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド(GTMACl)で架橋したポリエチレンイミン(PEI)及びポリビニルアミン(Lupamin)、又はポリ(1−(1−ビニルイミダゾリウム)エチル−3−ビニルイミダゾリウムジブロミド(VEVIMIBr)を含み、前記表面修飾剤がインシチュ重合で生成される、前記精密ろ過膜。
〔15〕前記エレクトロスパンナノファイバスキャフォールドが、ポリアクリロニトリル(PAN)又はポリエーテルスルホン(PES)/ポリエチレンテレフタレート(PET)又はこれらの混合物を含む、前記〔14〕に記載の精密ろ過膜。
〔16〕前記ナノファイバ構造体が、約50〜約5000nmの直径を有するナノファイバを含む、前記〔14〕に記載の精密ろ過膜。
〔17〕前記表面修飾剤が前記ナノファイバ構造体の表面上でコーティングを形成し、前記コーティングが約5〜30nmの厚さを有する、前記〔14〕に記載の精密ろ過膜。