特許第6130805号(P6130805)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130805
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】距離測定装置および方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/00 20060101AFI20170508BHJP
   G01B 9/02 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   G01B11/00 G
   G01B9/02
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-71085(P2014-71085)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-194347(P2015-194347A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2016年3月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 久利
【審査官】 岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−28977(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0149691(US,A1)
【文献】 特開平10−141912(JP,A)
【文献】 特開平8−61920(JP,A)
【文献】 特開平7−73502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 9/00−11/30
G01C 3/00− 3/32
G01S17/00−17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定装置であって、
前記物体からの前記反射光を回折させる回折格子と、
前記回折格子からの回折光を結像面に集光させる集光レンズと、
前記結像面上に配置されて、前記回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断するスペイシアルフィルタと、
前記スペイシアルフィルタを通過した異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出素子と、
前記光検出素子で得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出部と
を備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の距離測定装置において、
前記集光レンズの焦点距離をfとし、前記集光レンズから前記検出面までの距離をLとし、前記回折格子の回折格子間隔をdとし、前記スペイシアルフィルタを通過する回折光の次数差をmとし、前記干渉縞のピッチをpとした場合、前記集光レンズから前記物体までの対物距離aは、次の式
【数1】
で求められることを特徴とする距離測定装置。
【請求項3】
物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定装置であって、
前記物体からの前記反射光を結像面に集光させる集光レンズと、
前記集光レンズで集光された前記反射光を回折させる回折格子と、
前記結像面上に配置されて、前記回折格子からの回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断するスペイシアルフィルタと、
前記スペイシアルフィルタを通過した異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出素子と、
前記光検出素子で得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出部と
を備えることを特徴とする距離測定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の距離測定装置において、
前記物体からの前記反射光を平行光とする対物レンズをさらに備え、
前記回折格子は、前記対物レンズからの前記平行光を回折させる
ことを特徴とする距離測定装置。
【請求項5】
物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定方法であって、
前記物体からの前記反射光を回折格子により回折させる回折ステップと、
前記回折格子からの回折光を集光レンズにより結像面に集光させる集光ステップと、
前記結像面上に集光した前記回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断する回折光選択ステップと、
選択された前記異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出ステップと、
前記光検出ステップにより得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出ステップと
を備えることを特徴とする距離測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、距離測定技術に関し、特に物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて物体までの対物距離を測定する光学的距離測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザー光等の光を用いて、物体までの対物距離を非接触で測定できる光学的測定装置が知られている。このような光学的測定装置は、単に物体までの対物距離を測定するだけではなく、物体の表面形状測定や、薄膜の厚さ測定等、様々な用途への応用が考えられている。
【0003】
このような光学的測定装置としては、例えば、レーザー光を物体の表面に対して斜めに照射し、その反射光が到達した位置に基づいて、表面までの距離を三角測量の原理で算出するものが知られている。このような方式の光学的測定装置は装置構成が比較的単純であるため、安価な測定装置として広く普及している。しかしながら、反射面の傾きが距離の測定値に直接影響してしまう方式であるため、測定対象である物体の表面が平坦でない場合には測定誤差が大きくなる。
【0004】
これに対し、物体の表面が平坦でない場合にも適用できる距離測定装置として、光の干渉を利用する方式の光学的測定装置が提案されている。例えば、下記特許文献1に記載された光学的測定装置では、物体の被測定点に光を照射して反射させ、その反射光が、干渉縞の検出面であるCCDイメージセンサに到達するような構成となっている。
【0005】
被測定点とCCDイメージセンサとの間には光学レンズ系が配置されており、反射光は当該光学レンズ系を通ってCCDイメージセンサに到達する。光学レンズ系は、被測定点からの反射光が複数の光路をそれぞれ通過した後、CCDイメージセンサに重ねて照射されるように構成されたものである。それぞれの光路の光路長は互いに異なっているため、CCDイメージセンサ上には光路差に起因して干渉縞が生じる。
【0006】
当該干渉縞の縞間隔は、被測定点とCCDイメージセンサとの対物距離に応じて変化する。従って、この光学的測定装置では、CCDイメージセンサの出力から得られた縞間隔に基づいて、被測定点までの対物距離が算出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−28977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来技術では、互いに光路長の異なる複数の光路を生じさせるため、光学レンズ系を配置する必要があるが、このような光学レンズ系は、精密な研磨加工を要する多重焦点レンズや球体レンズ等によって構成される。したがって、このような光学レンズ系は、一般に高価となり、また精密な組み立てを必要とする。このため、距離測定装置のコストが増大するという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、簡素な構成の光学レンズ系により、物体までの対物距離を正確に測定することができる距離測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明にかかる距離測定装置は、物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定装置であって、前記物体からの前記反射光を回折させる回折格子と、前記回折格子からの前記回折光を結像面に集光させる集光レンズと、前記結像面上に配置されて、前記回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断するスペイシアルフィルタと、前記スペイシアルフィルタを通過した異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出素子と、前記光検出素子で得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出部とを備えている。
【0011】
また、本発明にかかる上記距離測定装置の一構成例は、前記集光レンズの焦点距離をfとし、前記集光レンズから前記検出面までの距離をLとし、前記回折格子の回折格子間隔をdとし、前記スペイシアルフィルタを通過する回折光の次数差をmとした場合、前記集光レンズから前記物体までの対物距離aは、後述する式(12)で求めるようにしたものである。
【0012】
また、本発明にかかる他の距離測定装置は、物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定装置であって、前記物体からの前記反射光を結像面に集光させる集光レンズと、前記集光レンズで集光された前記反射光を回折させる回折格子と、前記結像面上に配置されて、前記回折格子からの回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断するスペイシアルフィルタと、前記スペイシアルフィルタを通過した異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出素子と、前記光検出素子で得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出部とを備えている。
【0013】
また、本発明にかかる上記距離測定装置の一構成例は、前記物体からの前記反射光を平行光とする対物レンズをさらに備え、前記回折格子は、前記対物レンズからの前記平行光を回折させるようにしたものである。
【0014】
また、本発明にかかる上記距離測定方法は、物体に光を照射して反射させ、その反射光に基づいて当該物体までの対物距離を測定する距離測定方法であって、前記物体からの前記反射光を回折格子により回折させる回折ステップと、前記回折格子からの前記回折光を集光レンズにより結像面に集光させる集光ステップと、前記結像面上に集光した前記回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断する回折光選択ステップと、選択された前記異なる2つの次数の回折光により検出面に生じた干渉縞を検出する光検出ステップと、前記光検出ステップにより得られた検出結果を演算処理して前記干渉縞のピッチを抽出し、このピッチに基づいて前記集光レンズから前記物体までの対物距離を算出する距離算出ステップとを備えている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、回折格子とスペイシアルフィルタという極めて簡素な光学要素で、物体からの反射光から異なる2つの次数の回折光が選択されて、対物距離に応じて干渉縞ピッチが変化する干渉縞が、検出面上に発生する。
したがって、従来の精密な研磨加工を要する多重焦点レンズや球体レンズを用いる必要がなくなり、高価な光学系レンズやその精密な組み立てを省くことができる。このため、比較的安価なコストで、物体までの距離を正確に測定することができる距離測定装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態にかかる距離測定装置の構成を示す説明図である。
図2】スペイシアルフィルタの構成例である。
図3】本発明にかかる距離計測原理を示す説明図である。
図4】回折格子での回折を示す説明図である。
図5】異なる次数の回折光と光スポット間隔との関係を示す説明図である。
図6】光スポット間隔と光路差との関係を示す説明図である。
図7】検出面に生じた干渉縞を示す画像例である。
図8】光検出素子で得られた検出結果の解析例である。
図9】第2の実施の形態にかかる距離測定装置の構成を示す説明図である。
図10】対物距離と干渉縞ピッチとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる距離測定装置10について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる距離測定装置の構成を示す説明図である。
【0018】
この距離測定装置10は、距離の測定対象となる物体Tに光を照射して反射させ、その反射光に基づいて物体Tまでの対物距離を測定する機能を有している。
図1に示すように、距離測定装置10には、主な構成として、光源11、光源レンズ12、ビームスプリッタ13、回折格子14、集光レンズ15、スペイシアルフィルタ16、光検出素子17、および距離算出部18が設けられており、これらがケーシング(図示せず)内部に収納されている。
【0019】
光源11は、距離測定に用いる単一波長の光(単色光)を発する装置である。光源11としては、半導体レーザー装置、ナトリウムランプのような単色光や、白色光源と狭帯域バンドパスフィルタにより単一波長化された光を発する装置を用いることができる。
光源レンズ12は、光源11から発せられた光を集光してビームスプリッタ13へ出力する機能を有している。
【0020】
ビームスプリッタ13は、集光学系の光路O上に配置されて、光源レンズ12で集光された光源11からの光を反射して、光路Oに沿って物体Tの光スポットAに照射する機能と、光スポットAで拡散反射された反射光のうち、光路O方向に反射された反射光を集光レンズ15へ透過させる機能を有している。
【0021】
回折格子14は、光路O上に配置されて、ビームスプリッタ13を透過した物体Tからの反射光を回折する機能を有している。
集光レンズ15は、例えば凸レンズからなり、光路O上に配置されて、ビームスプリッタ13を透過した物体Tからの反射光または回折格子14からの回折光を結像面Qに集光する機能を有している。
【0022】
集光レンズ15の位置については、ビームスプリッタ13から結像面Qまでの範囲であれば、集光レンズ15の前後、いずれの位置に配置してもよい。例えば、回折格子14がビームスプリッタ13と集光レンズ15との間に配置されている場合、回折格子14からの回折光が集光レンズ15を介して結像面Qに結像される。また、回折格子14が集光レンズ15とスペイシアルフィルタ16との間に配置されている場合、集光レンズ15で集光された反射光が回折格子14で回折された後、結像面Qに結像される。
【0023】
スペイシアルフィルタ16は、結像面Q上に配置されて、回折格子14からの回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを選択的に通過させ、他の次数の回折光を遮断する機能を有している。
【0024】
図2は、スペイシアルフィルタの構成例である。回折格子14からの回折光は、集光レンズ15により結像面Q上にそれぞれの次数に応じた光スポットSPに結像する。スペイシアルフィルタ16は、全体として光を遮光する平板形状の遮光板からなり、結像面Q上の光スポットSPを利用して、予め設定された異なる2つの次数に応じた光スポットSPの位置にそれぞれ透光穴H1,H2を設けたものである。
【0025】
これら透光穴H1,H2は、測定可能な対物距離aの範囲を示す測定スパンに基づいて、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させる位置および大きさで形成されている。これにより、予め設定された異なる2つの次数の回折光だけがスペイシアルフィルタ16の透光穴を通過し、他の次数の回折光が遮断されることになる。
【0026】
光検出素子17は、検出面Iに生じた、スペイシアルフィルタ16を通過した2つの次数の回折光からなる干渉縞を検出し、検出結果を出力する機能を有している。光検出素子17としては、例えば、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)リニアイメージセンサや、フォトダイオードアレイなどの一次元上に配置した受光素子が利用できる。
距離算出部18は、CPUを用いた演算処理回路からなり、光検出素子17で得られた検出結果を演算処理して干渉縞の周期長を抽出し、得られた周期長に基づいて集光レンズ15から物体Tまでの対物距離を算出する機能を有している。
【0027】
[距離計測の原理]
次に、図3図6を参照して、本発明にかかる距離計測装置10で用いる距離計測の原理について説明する。図3は、本発明にかかる距離計測原理を示す説明図である。図4は、回折格子での回折を示す説明図である。図5は、異なる次数の回折光と光スポット間隔との関係を示す説明図である。図6は、光スポット間隔と光路差との関係を示す説明図である。
【0028】
なお、図3では、距離計測装置10のうち、集光学系のみを要部として示し、投影光学系については省略してある。また、図3図6において、回折格子14における格子の長手方向(紙面垂直方向)をX方向とし、格子の周期方向(紙面上下方向)をY方向とし、格子面に垂直な方向(紙面左右方向)をZ方向とする。
また、本来、レンズには光の入射方向に応じて2つの主点があり、それぞれの位置が異なるが、以下では、数式の複雑化を避けるため、集光レンズ15が薄肉単レンズからなり、主点がレンズ中心に1つだけ存在すると仮定して、各式を導出した。
【0029】
図3に示すように、物体Tから主点Mすなわち集光レンズ15の位置までの対物距離をaとし、主点から結像面Qすなわちスペイシアルフィルタ16までの距離をbとし、集光レンズ15の焦点距離をfとした場合、これらの関係は、結像の公式(レンズの公式)により、次の式(1)で表される。
【数1】
【0030】
この式(1)からも分かるように、集光レンズ15から物体Tまでの対物距離aの変化に応じて、結像面Qの位置も変化するものとなる。
また、図4に示すように、回折格子14の回折格子間隔をdとし、回折次数をn(n=0,±1,±2,…)とし、光源波長をλとし、各回折光の回折角θnとした場合、隣接する回折光間の光路差ΔLは、次の式(2)で表される。
【数2】
【0031】
さらに、図5に示すように、格子により回折を受けた回折光は、集光レンズ15により、結像面Q上のY方向に複数の光スポットを形成する。ここで、異なる2つの次数n,n’の回折光の回折角をθn,θn’とし、これら回折光による光スポットをAn,An‘とし、結像面Q上における次数0の回折光による光スポットA0から光スポットAn,An‘までのY方向に沿った距離をW1,W2とした場合、これら光スポットAn,An‘のY方向のずれ幅Wは、次の式(3)で表される。
【数3】
【0032】
ここで、式(3)において、実際の回折格子間隔dはnλ,n’ λに比べて十分大きく、nλ/dおよびn‘λ/dが十分小さい値となるため、式(3)は次の式(4)のように近似される。
【数4】
【0033】
一方、図6に示すように、結像面Q上の光スポットAn,An‘の光スポット間隔をWとし、光スポットAn,An‘からの回折光が光検出素子17の検出面I上に到達した到達点をVとし、光スポットAn,An‘の中間点からZ方向に伸ばした線と検出面Iとが交わる点をV0とし、検出面I上でY方向に沿ったV0からVまでの距離をPとし、結像面Qから検出面Iまでの距離をcとした場合、光スポットAnから到達点Vへの回折光の光路長Lnは三平方の定理により求められるが、距離cに比較して光スポット間隔Wと距離Pとが十分小さいため、次の式(5)のように近似できる。
【数5】
【0034】
また、光スポットAnから到達点Vへの回折光の光路長Ln‘も、光路長Lnと同様にして、次の式(6)のように近似できる。
【数6】
【0035】
したがって、これら光路長Ln,Ln’の光路差ΔLは、次の式(7)で求められる。検出面I上では、この光路差ΔLにより干渉縞が生じ、具体的には、光路差ΔLが光の波長λの整数m(mは、0以上の整数)倍となる場合、検出面Iにおいて明線が生じる。
【数7】
【0036】
ここで、検出面I上に生じた各明線のうち、隣接する明線の間隔が干渉縞ピッチpとなり、式(7)のm=1の場合に相当する。よって、検出面I上に生じた干渉縞の干渉縞ピッチpは、式(7)を変形することにより、次の式(8)で求められる。
【数8】
【0037】
この際、光スポット間隔Wは式(4)で求められているため、これを式(8)に代入すれば、式(9)となる。
【数9】
【0038】
さらに、回折次数n,n’の次数差をmとし、集光レンズ15の主点から結像面Qまでの距離bと、結像面Qから検出面Iまでの距離cを、集光レンズ15の主点から検出面Iまでの距離Lで置換した場合、式(9)は、次の式(10)となる。
【数10】
【0039】
したがって、干渉縞ピッチpは、集光レンズ15の主点から検出面Iまでの距離Lに依存する関数で求められることが分かる。
この際、集光レンズ15の主点から結像面Qまでの距離bは、前述した式(1)に示したように、物体Tから主点Mすなわち集光レンズ15の位置までの対物距離aと、集光レンズ15の焦点距離fとで表され、式(10)は式(11)のように変形できる。
【数11】
【0040】
ここで、集光レンズ15の焦点距離f、集光レンズ15の主点から検出面Iまでの距離L、および回折次数n,n’の次数差mは、それぞれ既知の値であることから、結果として、干渉縞ピッチpは、物体Tから主点Mすなわち集光レンズ15の位置までの対物距離aの関数となることが分かる。このため、検出面Iに生じた干渉縞のピッチpを測定することにより、次の式(12)により、物体Tまでの対物距離aを求めることができる。
【数12】
【0041】
図7は、検出面に生じた干渉縞を示す画像例である。干渉縞は、輝度の高い明線と輝度の低い暗線とが縞状に繰り返されて形成されている。したがって、互いに隣接する明線(または暗線)の間隔が干渉縞ピッチpに相当する。
【0042】
図8は、光検出素子で得られた検出結果の解析例である。ここでは、横軸が干渉縞に直行するX方向に沿った画像のピクセル位置[pic]を示し、縦軸が各ピクセル位置における光強度(無単位)である。得られた検出結果は、ほぼ正弦波形状をなしており、そのピーク位置が明線に相当している。したがって、ピーク位置間に存在するピクセル数から干渉縞ピッチpを示す実際の距離を算出できる。
【0043】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、物体Tからの反射光を回折格子14で回折させた後、集光レンズ15によりその回折光を結像面Qに集光させ、結像面Q上に配置されたスペイシアルフィルタ16で、これら回折光のうち、予め設定された異なる2つの次数の回折光のみを通過させ、他の次数の回折光を遮断し、スペイシアルフィルタ16を通過した異なる2つの次数の回折光の重ね合わせにより検出面Iに生じた干渉縞を光検出素子17で検出し、得られた検出結果を演算処理して干渉縞のピッチを抽出し、距離算出部18でこのピッチに基づいて集光レンズ15から物体Tまでの対物距離aを算出するようにしたものである。
【0044】
これにより、回折格子14とスペイシアルフィルタ16という極めて簡素な光学要素で、物体Tからの反射光から異なる2つの次数の回折光が選択されて、対物距離aに応じて干渉縞ピッチpが変化する干渉縞が、検出面I上に発生する。
したがって、従来の精密な研磨加工を要する多重焦点レンズや球体レンズを用いる必要がなくなり、高価な光学系レンズやその精密な組み立てを省くことができる。このため、比較的安価なコストで、物体Tまでの対物距離aを正確に測定することができる距離測定装置を実現することができる。
【0045】
この際、異なる2つの次数の回折光の選択にスペイシアルフィルタ16を用いたので、回折格子14の透過率分布が矩形状でも干渉縞は正弦波形状となるため、干渉縞ピッチpの測定が容易となるとともに、回折格子14の製作も容易となる。また、干渉縞の局在化、すなわち周期的な特定の距離近辺にのみ干渉縞が現れる現象が発生しないため、対物距離aの測定スパンを広くすることができる。さらに、干渉縞ピッチpが検出面I上で一定となるため、光検出素子17の検出結果を補正する必要がなく、演算処理を簡素化できるとともに干渉縞ピッチpの測定誤差を低減できる。
【0046】
[第2の実施の形態]
次に、図9を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる距離測定装置10について説明する。図9は、第2の実施の形態にかかる距離測定装置の構成を示す説明図である。
本実施の形態では、前述した第1の実施の形態において、集光光学系に対物レンズ20を設け、対物レンズ20と集光レンズ15との間の区間において、物体Tからの反射光を平行光に変換する場合について説明する。
【0047】
本実施の形態において、対物レンズ20は、物体Tからの反射光を平行光に変換して、集光レンズ15に出力する機能を有している。
図9の例では、対物レンズ20と集光レンズ15との間にビームスプリッタ13および回折格子14が配置されている。これにより、光源11から発せられた光は、光源レンズ12で平行光に変換された後、ビームスプリッタ13で反射され、この後、対物レンズ20により集光されて物体Tに照射される。
【0048】
また、物体Tからの反射光は、対物レンズ20で平行光に変換された後、ビームスプリッタ13を通過して回折格子14で回折される。回折格子14からの回折光は、第1の実施の形態と同様に、集光レンズ15により結像面Q上に集光された後、結像面Q上のスペイシアルフィルタ16で予め設定された異なる2つの次数の回折光だけが選択されて、検出面Iに照射される。
【0049】
これにより、第1の実施の形態と同様、対物レンズ20から物体Tまでの対物距離に応じてピッチが変化する干渉縞が検出面I上に生じるため、このピッチから対物距離を算出することができる。
【0050】
図10は、対物距離と干渉縞ピッチとの関係を示すグラフである。本実施の形態に基づいて、対物距離aと干渉縞ピッチpとの関係をシミュレーションにより求めた。この際、対物レンズ20の焦点距離をf‘=30mmとし、集光レンズ15の焦点距離をf=9mmとし、集光レンズ15から光検出素子17までの距離をL=60mmとし、回折格子14の回折格子間隔をd=0.02mmとした。
図10のグラフによれば、対物距離aの増加に応じて干渉縞ピッチpが単調増加していることがわかる。
【0051】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、集光光学系に対物レンズ20を設け、対物レンズ20と集光レンズ15との間の区間において、物体Tからの反射光を平行光に変換するようにしたので、物体Tまでの対物距離aが変化しても、その対物距離aに応じた焦点距離を持つ対物レンズ20に取り換えることにより、対物レンズ20から検出面Iまでの区間においては、光路が一定となる。
このため、広範囲の対物距離aに対応することができ、測定レンジを大幅に拡大することが可能となる。
【0052】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。また、各実施形態については、矛盾しない範囲で任意に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0053】
10…距離測定装置、11…光源、12…光源レンズ、13…ビームスプリッタ、14…回折格子、15…集光レンズ、16…スペイシアルフィルタ、17…光検出素子、18…距離算出部、20…対物レンズ、T…物体、Q…結像面、I…検出面、a…対物距離、p…干渉縞ピッチ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10