(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに説明する。実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、軸受に好適に用いることができ、特に流体軸受に好適に用いることができる。本実施の形態の潤滑油組成物は、下記式(1)で表されるエーテル結合含有エステル化合物(以下では適宜、このエーテル結合含有エステル化合物を「化合物1」と称する)を含有する潤滑油基油(A)を含む。
【0013】
【化2】
[式(1)中、Xは炭素数3〜9の直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基であり、R
1は炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、R
2は炭素数1〜12の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。]
【0014】
潤滑油基油(A)は、アルコール(R
1−OH)と、炭素主鎖に酸素原子を含む、すなわちエーテル結合を有するカルボン酸(R
2−O−X−COOH)とを出発物質とし、これらが脱水縮合してなる化合物1を主成分とするものである。
【0015】
化合物1の一方の出発物質であるアルコール(R
1−OH)において、R
1は、炭素数1〜20、好ましくは8〜20の直鎖状又は1つ以上の側鎖を有する分岐鎖状のアルキル基である。R
1の炭素数を20以下とすることで、潤滑油基油(A)の製造コストの増大を抑制することができる。また、R
1の炭素数を8以上とすることで、潤滑油基油(A)及びこれを含む潤滑油組成物の蒸発量をより低減することができる。また、後述する化合物1の炭素数の範囲を満たす上で必要となるXやR
2の炭素数が増加して、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の粘度や製造コストが過大になることをより抑制することができる。
【0016】
当該アルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノール、n−ヘプタノール、n−オクタノール、n−ノナノール、n−デカノール、n−ウンデカノール、n−ドデカノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール等の直鎖アルコールや、2−ヘキシルデシルアルコール等の分岐鎖アルコール等を挙げることができる。化合物1の出発物質としてのアルコールは、飽和アルコールが好ましく、また直鎖アルコールが好ましい。
【0017】
化合物1の他方の出発物質であるエーテル含有カルボン酸(R
2−O−X−COOH)において、Xは、炭素数3〜9の直鎖状又は1つ以上の側鎖を有する分岐鎖状のアルキレン基である。Xの炭素数を3以上とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の蒸発量を抑制することができる。また、Xの炭素数を9以下とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の製造時間の冗長化を抑制することができる。Xとしては、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基が好ましく、n−ペンチル基がより好ましい。
【0018】
当該エーテル含有カルボン酸におけるR
2は、炭素数1〜12の直鎖状又は1つ以上の側鎖を有する分岐鎖状のアルキル基である。R
2の炭素数を12以下とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の粘度や製造コストが過大になることを抑制することができる。R
2としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
【0019】
化合物1の炭素数、すなわちX、R
1及びR
2の炭素数の合計は、22〜34であることが好ましい。化合物1の炭素数を22以上とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の粘度が過小となることと蒸発量の増大とをより抑制することができる。また、化合物1の炭素数を34以下とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の粘度が過大になることをより抑制することができる。化合物1中の側鎖の数は、1以下であることが好ましく、1がより好ましい。化合物1の分岐(側鎖)を1以下とすることで、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の粘度指数の低下をより抑制することができる。また、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の蒸発量の増大をより抑制することができる。また、化合物1の分岐(側鎖)を1とした場合には、流動点の上昇を抑制することができ、潤滑油基油(A)が常温で固体になることをより確実に回避することができる。また、Xは、分岐が1以下であることが好ましく、分岐が0、すなわち直鎖であることがより好ましい。
【0020】
潤滑油基油(A)には、1種類の化合物1が単独で用いられてもよいし、2種類以上の化合物1が組み合わせで用いられてもよい。また、潤滑油組成物には、1種類の潤滑油基油(A)が単独で用いられてもよいし、2種類以上の潤滑油基油(A)が組み合わせで用いられてもよい。潤滑油基油(A)における化合物1の含有量は、潤滑油基油(A)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。潤滑油基油(A)及び化合物1は、従来公知の方法により調製することができ、これは当業者であれば容易に理解できることである。
【0021】
上述のように、本実施の形態に係る潤滑油基油(A)は、エーテル結合含有エステル化合物1を含む。このように、モノアルコールと、エーテル結合を主鎖に有する脂肪酸とからなるモノエステルを用いることで、潤滑油基油(A)、ひいてはこれを含む潤滑油組成物の所望の粘度を維持しながら、良好な粘度指数、流動点及び蒸発量を達成することができる。このため、潤滑油組成物の温度特性と寿命とを高い次元でバランスさせることができる。これは、エーテル結合の酸素原子同士の相互作用によって、潤滑油基油(A)中の化合物1同士の結合が阻害され、潤滑油基油(A)の流動点が低下するためであると考えられる。
【0022】
潤滑油組成物は、好ましくは40℃における動粘度が7〜20mm
2/sであり、流動点が−20℃以下であり、粘度指数が140以上である。また、潤滑油組成物は、温度120℃でSUS304製の容器内に120時間放置したときの質量減少量(蒸発量)が、40℃における動粘度が9.0付近(例えば9.0〜9.4)の場合に、好ましくは0.80質量%以下であり、40℃における動粘度が8.5付近(例えば8.4〜8.7)の場合に、好ましくは4.00質量%以下であり、40℃における動粘度が12.0付近(例えば11.8〜12.4)の場合に、好ましくは0.40質量%以下である。また、温度120℃でSUS304製の容器内に500時間放置したときの質量減少量(蒸発量)が、40℃における動粘度が9.0付近の場合に、好ましくは1.80質量%以下であり、40℃における動粘度が8.5付近の場合に、好ましくは10.00質量%以下であり、40℃における動粘度が12.0付近の場合に、好ましくは0.90質量%以下である。
【0023】
本実施の形態に係る潤滑油組成物は、潤滑油基油(A)に加えて、下記式(2)で表されるエーテル結合非含有エステル化合物(以下では適宜、このエーテル結合非含有エステル化合物を「化合物2」と称する)を含有する潤滑油基油(B)をさらに含んでもよい。
【0024】
【化3】
[式(2)中、R
3は炭素数1〜20の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基であり、R
4は炭素数5〜19の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。]
【0025】
潤滑油基油(B)は、アルコール(R
3−OH)と、炭素主鎖に酸素原子を含まない、すなわちエーテル結合を有しないカルボン酸(R
4−COOH)とを出発物質とし、これらが脱水縮合してなる化合物2を主成分とするものである。アルコールにおけるR
3は、化合物1におけるR
1と同様に定義される。なお、化合物1のR
1と化合物2のR
3とは、同一でも異なってもよい。カルボン酸におけるR
4は、炭素数5〜19の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基である。エーテル結合を有しない化合物2を含有する潤滑油基油(B)を含む潤滑油組成物に、エーテル結合を有する化合物1を含む潤滑油基油(A)を添加することで、所望の粘度を保持しながら、潤滑油組成物に良好な温度特性と寿命とを付与することができる。潤滑油基油(B)における化合物2の含有量は、潤滑油基油(B)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0026】
潤滑油組成物は、下記潤滑油基油(C)〜(G)からなる群より選択される1種類以上の潤滑油基油をさらに含んでもよい。
アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸からなる群より選択される1種類以上のジカルボン酸と、炭素数6〜12のアルコールとの二塩基酸エステルを含有する潤滑油基油(C)
炭素数8〜20の飽和または不飽和カルボン酸と、炭素数6〜20のアルコールとのモノエステルを含有する潤滑油基油(D)
炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、トリメチロールプロパンとのトリエステルを含有する潤滑油基油(E)
炭素数3〜10の飽和または不飽和カルボン酸と、ペンタエリスリトールとのテトラエステルを含有する潤滑油基油(F)
鉱物油又は合成炭化水素油を含有する潤滑油基油(G)
【0027】
潤滑油基油(C)に含まれる二塩基酸エステル(ジエステル)の好ましい例としては、アジピン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アジピン酸ジ(3,5,5−トリメチルヘキシル)、アジピン酸ジイソドデシル、スベリン酸ジ(2−エチルヘキシル)、アゼライン酸ジ(2−エチルヘキシル)、セバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)等を挙げることができる。潤滑油基油(C)におけるジエステルの含有量は、潤滑油基油(C)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0028】
潤滑油基油(D)に含まれるモノエステルの好ましい例としては、2−エチルヘキサン酸ステアリル、2−エチルヘキサン酸パルミチル、2−エチルヘキサン酸ミリスチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ミリスチン酸2−エチルヘキシル、オレイン酸2−エチルヘキシル等を挙げることができる。潤滑油基油(D)におけるモノエステルの含有量は、潤滑油基油(D)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0029】
潤滑油基油(E)に含まれるトリエステルの好ましい例としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸及びn−デカン酸の1種類以上とトリメチロールプロパンとのトリエステル等を挙げることができる。潤滑油基油(E)におけるトリエステルの含有量は、潤滑油基油(E)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0030】
潤滑油基油(F)に含まれるテトラエステルの好ましい例としては、n−ペンタン酸、n−ヘキサン酸、n−ヘプタン酸、n−オクタン酸、n−ノナン酸及びn−デカン酸の1種類以上とペンタエリスリトールとのテトラエステル等を挙げることができる。潤滑油基油(F)におけるテトラエステルの含有量は、潤滑油基油(F)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。
【0031】
潤滑油基油(G)に含まれる鉱物油及び合成炭化水素油としては、従来公知のものを用いることができる。潤滑油基油(G)における鉱物油及び合成炭化水素油の合計の含有量は、潤滑油基油(G)の全質量に対して90〜100質量%であり、好ましくは95〜100質量%である。潤滑油基油(G)は、鉱物油及び合成炭化水素油の一方のみを含んでもよい。
【0032】
潤滑油組成物における潤滑油基油(A)の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して10質量%以上100質量%以下であることが好ましい。潤滑油基油(A)の含有量を10質量%以上とすることで、潤滑油基油(A)による良好な温度特性と寿命を付与する効果をより確実に発揮させることができる。潤滑油組成物中の潤滑油基油(B)〜(G)の含有量は、潤滑油基油(A)の含有量が上述した範囲を満たすことを条件に、任意の値に設定することができる。
【0033】
潤滑油組成物は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤及びヒンダードアミン系酸化防止剤の少なくとも一方をさらに含んでもよい。これにより、潤滑油組成物の酸化を防止して、潤滑油組成物の長寿命化を図ることができる。これらの酸化防止剤の含有量は、潤滑油組成物の全質量に対して0.1質量%以上、10.0質量%以下であることが好ましい。
【0034】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、n−オクタデシル−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のモノフェノール系、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)等のジフェノール系、または、2,6−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ構造を3つ以上有するフェノール系の酸化防止剤等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は、単独で用いられてもよく、2種類以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0035】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えばジアルキル化ジフェニルアミン、ジオクチルジフェニルアミン、または、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン等が挙げられる。これらのアミン系酸化防止剤は単独で用いられてもよく、2種類以上の組み合わせで用いられてもよい。
【0036】
以上説明したように、本実施の形態に係る潤滑油基油(A)は、上記式(1)で表されるエーテル結合含有エステル化合物1を含む。また、本実施の形態に係る潤滑油組成物は、この潤滑油基油(A)を含む。このため、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の所望の粘度を維持しながら、良好な温度特性と寿命とを実現することができる。また、このような高性能の潤滑油組成物を流体軸受等の軸受に用いることで、回転体と軸受との間の抵抗をより長期間、またより低温の環境下において小さくすることができ、さらには抵抗の小さい状態を外部環境の温度変化に対して安定的に維持することができる。よって、本実施の形態の潤滑油組成物を用いた軸受を搭載した電子機器の低消費電力化を図ることができる。
【0037】
また、本実施の形態の潤滑油基油(A)に含まれる化合物1は、アルコール(R
1−OH)と、主鎖にエーテル結合を有するカルボン酸(R
2−O−X−COOH)とから合成される化合物である。化合物1の一方の出発物質であるエーテル含有カルボン酸は、アルコール(R
2−OH)とヒドロキシ酸(HO−X−COOH)との脱水縮合により合成することができる。ヒドロキシ酸(HO−X−COOH)は2つの異なる官能基、すなわちヒドロキシ基とカルボキシ基とを有する。このため、2つの官能基がともにヒドロキシ基である場合に比べて、アルコール(R
2−OH)とヒドロキシ酸(HO−X−COOH)とを一対一で結合させやすい。したがって、化合物1を簡単に合成することができる。その結果、潤滑油基油(A)及び潤滑油組成物の製造工程の簡略化や製造コストの低減が可能である。
【0038】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更などの変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例を説明するが、これら実施例は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例1
、参考例2及び比較例1,2)
実施例1
、参考例2及び比較例1,2に係る潤滑油組成物を用意した。潤滑油組成物は、従来公知の方法により調製することができる。各潤滑油組成物の組成は、下記表1に示すとおりである。実施例1
、参考例2は、基油として上述したエーテル結合含有エステル化合物(化合物1)を含む潤滑油組成物である。比較例1,2は、基油として上述したエーテル結合非含有エステル化合物(化合物2)を含む潤滑油組成物である。また、実施例1
、参考例2及び比較例1,2の各潤滑油組成物は、40℃における動粘度が9.0付近に調整された潤滑油である。
【0041】
なお、各実施例
、参考例及
び比較例の潤滑油組成物には、潤滑油組成物の全質量を100質量%としたときに、酸化防止剤(IRGANOX L57:BASF社製)を1.0質量%、極圧剤(一般的な極圧剤であるTCP(トリクレジルホスフェート))を0.5質量%、金属不活性化剤(IRGAMET 39:BASF社))を0.1質量%、防錆剤を0.05質量%、それぞれ添加剤として使用した。また、潤滑油組成物100質量%から添加剤の質量%を差し引いた残部の量を、全て基油の含有量とした。
【0042】
【表1】
【0043】
(動粘度測定及び粘度指数算出)
各実施例
、参考例及
び比較例の潤滑油組成物について、0℃、40℃、100℃における動粘度(mm
2/s)を測定した。動粘度は、JIS K 2283に準じて、キャノン−フェンスケ粘度計を用いて測定した。また、JIS K 2283に準じて、40℃及び100℃の動粘度から粘度指数を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
(蒸発量測定)
各実施例
、参考例及
び比較例の潤滑油組成物について、120時間及び500時間経過時の蒸発量(質量%)を測定した。SUS304製の容器に各潤滑油組成物を入れて温度120℃で放置し、120時間及び500時間経過時の質量減少量を蒸発量とした。結果を表1に示す。
【0045】
(摩擦係数測定)
各実施例
、参考例及
び比較例の潤滑油組成物について、曽田式振子型試験機により摩擦係数を測定した。この試験は、振子支点の摩擦部分に各潤滑油組成物を与え、振子を振動させ、振動の減衰から摩擦係数を求めるものである。摩擦係数の測定は室温で行った。結果を表1に示す。
【0046】
(流動点測定)
各実施例
、参考例及
び比較例の潤滑油組成物について、JIS K2269に準じて流動点を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
表1に示すように、比較例1の潤滑油組成物は、流動点は−20℃以下で良好であったが、粘度指数が140を下回り、120時間及び500時間の蒸発量がそれぞれ0.80質量%、1.80質量%を超え、不良であった。また、比較例2の潤滑油組成物は、流動点は−20℃以下、粘度指数は140以上でそれぞれ良好であったが、120時間及び500時間の蒸発量がそれぞれ0.80質量%、1.80質量%を超え、不良であった。これに対し、実施例1
、参考例2の潤滑油組成物は、流動点は−20℃以下、粘度指数は140以上、120時間及び500時間の蒸発量はそれぞれ0.80質量%以下、1.80質量%以下であり、流動点、粘度指数及び蒸発量の全てにおいて良好であった。特に、実施例1の潤滑油組成物は、比較例1,2の潤滑油組成物に比べて、顕著に低い流動点を示した。
【0048】
したがって、実施例1
、参考例2の潤滑油組成物は、その粘度指数と流動点とから、良好な温度特性を有し温度変化に対して安定でより広い温度範囲で使用できることが確認された。また、その蒸発量から、耐熱性に優れより長寿命であることが確認された。さらに、実施例1
、参考例2の潤滑油組成物では、比較例1,2の潤滑油組成物に比べて摩擦係数が向上した。よって、実施例1
、参考例2の潤滑油組成物は、優れた潤滑性を備えることが確認された。以上より、実施例1
、参考例2の潤滑油組成物が、低温における流動性能に優れ、温度変化に対する安定性を有し、小型モータ等に搭載される軸受用の潤滑油に要求される低粘度、耐熱性、潤滑性等の性能を具備することが示された。
【0049】
(
参考例3及び比較例3)
参考例3及び比較例3に係る潤滑油組成物を用意した。各潤滑油組成物の組成は、下記表2に示すとおりである。
参考例3は、基油として化合物1を含む潤滑油組成物である。比較例3は、基油として化合物2を含む潤滑油組成物である。また、
参考例3及び比較例3の各潤滑油組成物は、40℃における動粘度が8.5付近に調整された潤滑油である。また、実施例1
、参考例2及び比較例1,2と同じ方法で、
参考例3及び比較例3の潤滑油組成物における動粘度、粘度指数、蒸発量、摩擦係数及び流動点を測定した。結果を表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
表2に示すように、比較例3の潤滑油組成物は、粘度指数が140以上で良好であったが、流動点が−20℃を超え、120時間及び500時間の蒸発量がそれぞれ4.00質量%、10.00質量%を超え、不良であった。これに対し、
参考例3の潤滑油組成物は、流動点は−20℃以下、粘度指数は140以上、120時間及び500時間の蒸発量はそれぞれ4.00質量%以下、10.00質量%以下であり、流動点、粘度指数及び蒸発量の全てにおいて良好であった。
【0052】
したがって、
参考例3の潤滑油組成物は、その粘度指数と流動点とから、良好な温度特性を有し温度変化に対して安定でより広い温度範囲で使用できることが確認された。また、その蒸発量から、耐熱性に優れより長寿命であることが確認された。さらに、
参考例3の潤滑油組成物では、比較例3の潤滑油組成物に比べて摩擦係数が向上した。よって、
参考例3の潤滑油組成物は、優れた潤滑性を備えることが確認された。以上より、
参考例3の潤滑油組成物が、低温における流動性能に優れ、温度変化に対する安定性を有し、小型モータ等に搭載される軸受用の潤滑油に要求される低粘度、耐熱性、潤滑性等の性能を具備することが示された。
【0053】
(
参考例4及び比較例4)
参考例4及び比較例4に係る潤滑油組成物を用意した。各潤滑油組成物の組成は、下記表3に示すとおりである。
参考例4は、基油として化合物1を含む潤滑油組成物である。比較例4は、基油としてセバシン酸ジ(2−エチルヘキシル)(DOS)を含む潤滑油組成物である。また、
参考例4及び比較例4の各潤滑油組成物は、40℃における動粘度が12.0付近に調整された潤滑油である。また、実施例1
、参考例2及び比較例1,2と同じ方法で、
参考例4及び比較例4の潤滑油組成物における動粘度、粘度指数、蒸発量、摩擦係数及び流動点を測定した。結果を表3に示す。
【0054】
【表3】
【0055】
表3に示すように、比較例4の潤滑油組成物は、流動点が−20℃以下、粘度指数が140以上でそれぞれ良好であったが、120時間及び500時間の蒸発量がそれぞれ0.40質量%、0.90質量%を超え、不良であった。これに対し、
参考例4の潤滑油組成物は、流動点は−20℃以下、粘度指数は140以上、120時間及び500時間の蒸発量はそれぞれ0.40質量%以下、0.90質量%以下であり、流動点、粘度指数及び蒸発量の全てにおいて良好であった。
【0056】
したがって、
参考例4の潤滑油組成物は、その粘度指数と流動点とから、良好な温度特性を有し温度変化に対して安定でより広い温度範囲で使用できることが確認された。また、その蒸発量から、耐熱性に優れより長寿命であることが確認された。さらに、
参考例4の潤滑油組成物では、比較例4の潤滑油組成物に比べて摩擦係数が向上した。よって、
参考例4の潤滑油組成物は、優れた潤滑性を備えることが確認された。以上より、
参考例4の潤滑油組成物が、低温における流動性能に優れ、温度変化に対する安定性を有し、小型モータ等に搭載される軸受用の潤滑油に要求される低粘度、耐熱性、潤滑性等の性能を具備することが示された。
【0057】
(
参考例5)
参考例5に係る潤滑油組成物を用意した。潤滑油組成物の組成は、下記表4に示すとおりである。
参考例5は、基油として化合物1を含む潤滑油組成物である。また、
参考例5の潤滑油組成物は、R
1がn−テトラデシル基、Xがn−ペンチレン基、R
2が2−エチルヘキシル基である第1の化合物1と、R
1がn−ドデシル基、Xがn−ペンチレン基、R
2が2−エチルヘキシル基である第2の化合物1とを、3:7の質量比で混合して調製された組成物である。実施例1
、参考例2及び比較例1,2と同じ方法で、
参考例5の潤滑油組成物における動粘度、粘度指数、蒸発量、摩擦係数及び流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】
【0059】
表4に示すように、
参考例5の潤滑油組成物は、40℃における動粘度が10.80mm
2/sで、流動点は−20℃以下、粘度指数は140以上、120時間及び500時間の蒸発量はそれぞれ0.54質量%、0.91質量%と低い値であり、流動点、粘度指数及び蒸発量の全てにおいて良好であった。したがって、
参考例5の潤滑油組成物は、その粘度指数と流動点とから、良好な温度特性を有し温度変化に対して安定でより広い温度範囲で使用できることが確認された。また、その蒸発量から、耐熱性に優れより長寿命であることが確認された。以上より、
参考例5の潤滑油組成物が、低温における流動性能に優れ、温度変化に対する安定性を有し、小型モータ等に搭載される軸受用の潤滑油に要求される低粘度、耐熱性、潤滑性等の性能を具備することが示された。