(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130825
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】上流体積質量流量検証システムおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01F 1/00 20060101AFI20170508BHJP
G01F 15/04 20060101ALI20170508BHJP
G01F 25/00 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
G01F1/00 W
G01F1/00 X
G01F15/04
G01F25/00 R
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-250652(P2014-250652)
(22)【出願日】2014年12月11日
(62)【分割の表示】特願2012-521683(P2012-521683)の分割
【原出願日】2010年7月15日
(65)【公開番号】特開2015-92168(P2015-92168A)
(43)【公開日】2015年5月14日
【審査請求日】2014年12月11日
(31)【優先権主張番号】12/508,799
(32)【優先日】2009年7月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】592053963
【氏名又は名称】エム ケー エス インストルメンツ インコーポレーテッド
【氏名又は名称原語表記】MKS INSTRUMENTS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】ディング,ユンフワ
(72)【発明者】
【氏名】ザーカー,カヴェ
【審査官】
山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5667184(JP,B2)
【文献】
特表2005−531069(JP,A)
【文献】
特開2006−038832(JP,A)
【文献】
米国特許第06763731(US,B1)
【文献】
特表2005−534110(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01F 1/00 − 15/18
G01F 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量流量コントローラの挙動を検査するための上流質量流量検証システムであって、
検査流体を貯蔵することができる質量流量コントローラの上流にある上流容積であって、前記質量流量コントローラは検査対象であり所与の隙間容積を有する、上流容積と、
前記上流容積内の温度を検知するよう構成された温度センサと、
前記上流容積内の流体圧力を検知するよう構成された圧力センサと、
前記温度センサと前記圧力センサからの温度および圧力の信号を受信し、前記システムが安定するのを待ち、前記受信された温度および圧力の信号に基づいて圧力の減衰率及び温度を決定し、該圧力を該温度で除した値(P/T)の減衰率に基づき前記質量流量コントローラを通過する検査流体の流量を決定し、前記質量流量コントローラ内部にある前記所与の隙間容積によって生ずる誤差を補償するように構成されているプロセッサと、
を備え、前記プロセッサは、前記質量流量コントローラを通過する前記検査流体の流量を決定する際に、(i)前記質量流量コントローラが圧力不感応である場合、または(ii)前記質量流量コントローラが圧力感応である場合のいずれかに対しても、前記所与の隙間容積を補償するよう構成されていることを特徴とする上流質量流量検証システム。
【請求項2】
前記プロセッサは、さらに、次の式
【数1】
にしたがって圧力の減衰率及
び温度を決定するよう構成され、
Qは、測定流量であり、
V
tは、前記質量流量検証システムの総容積であり、
V
dは、検査対象の質量流量コントローラの前記隙間容積を表し、
Rは、一般気体定数であり、
PおよびTは、それぞれ、気体の圧力および温度の測定値であり、
P
stpおよびT
stpは、それぞれ、標準圧力(1.01325e5 Pa)および標準温度(273.15K)定数であることを特徴とする請求項1記載の上流質量流量検証システム。
【請求項3】
前記プロセッサにより前記隙間容積がゼロに設定されていることを特徴とする請求項1に記載の上流質量流量検証システム。
【請求項4】
前記隙間容積が、前記システムのユーザによって入力されることを特徴とする請求項1に記載の上流質量流量検証システム。
【請求項5】
検査流体の前記容積への流入を制御する入力弁と、
前記容積から前記質量流量コントローラを通って流出する流体を制御する出力弁と、
をさらに備え、
測定可能な圧力レベルに達するまで前記容積を満たすように前記出力弁を閉じ、前記入力弁を開き、次いで、流体が前記容積から前記質量流量コントローラを通過して流出することを可能にするように、前記入力弁を閉じ前記出力弁を開くことを特徴とする請求項1に記載の上流質量流量検証システム。
【請求項6】
質量流量測定デバイスの挙動を検証する質量流量検証システムにより実行される方法であって、
一定容積内に検査流体の圧力を確定するステップと、
前記容積から所与の隙間容積を有する検査用質量流量測定デバイスを通過して検査流体を移送するために弁を開くステップと、
前記システムが安定するのを待って、前記圧力の減衰率及び温度をプロセッサにより決定するステップと、
前記検査流体の温度と、前記検査流体における前記確定された圧力からの該圧力を該温度で除した値(P/T)の減衰率とに応じて、検査対象の前記質量流量測定デバイスを通る質量流量(mass flow rate)をプロセッサにより決定するステップであって、前記決定は、前記検査対象の質量流量測定デバイス内にある前記所与の隙間容積によって生ずる誤差を補償する、ステップと、
を備え、
前記質量流量測定デバイスを通過する前記検査流体の流量を判定する際に、(i)前記質量流量測定デバイスが圧力不感応である場合、または(ii)前記質量流量測定デバイスが圧力感応である場合のいずれかに対しても、前記所与の隙間容積は前記プロセッサによって補償されることを特徴とする、方法。
【請求項7】
前記質量流量(mass flow rate)を決定するステップが、以下の式
【数2】
にしたがって前記流量を計算するステップを含み、
Qは、測定される流量であり、
V
tは、前記質量流量検証システムの総容積であり、
V
dは、検査対象の質量流量測定デバイスの前記所与の隙間容量を表し、
Rは、一般気体定数であり、
PおよびTは、それぞれ、気体の圧力および温度であり、
P
stpおよびT
stpは、それぞれ、標準圧力(1.01325e5 Pa)および標準温度(273.15K)定数であり、
前記プロセッサが、さらに、上記式にしたがい圧力の減衰率及
び温度を決定するよう構成されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記検査対象の質量流量測定デバイスの製造業者から受け取った前記所与の隙間容積の値を入力するステップをさらに備えることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記入力した値がゼロであることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記温度が安定した後に、前記流量を計算することを特徴とする請求項6に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2009年7月24日に出願された米国特許出願第12/508,799号の優先権を主張する。上述の出願をここで引用したことにより、その教示全体が本願にも含まれるものとする。
【0002】
[0001] 本開示は、質量流量の測定および制御の分野に関する。更に特定すれば、本開示は、質量流量メータおよびコントローラの精度検証に関する。
【背景技術】
【0003】
[0002] 材料処理には、多数の精密な(high-precision)質量流量測定システムが有用である。これらの精密質量流量測定システムは、質量流量コントローラ(MFC:mass flow controller)および質量流量メータ(MFM:mass flow meter)を含むことができるが、これらに限定されるのではない。本開示は全ての質量流量測定システムおよび方法に該当するが、以後、限定としてではなく例示を目的とするために限って、MFCのみに言及することとする。
【0004】
[0003] MFCの精度を検査または検証することは望ましく、場合によっては必要となることもあり得る。MFCの精度を検証する方法の1つは、検査対象MFCの上流に配置された質量流量検証装置(MFV)の減衰率を使用することによって行われる。
【0005】
[0004] しかしながら、場合によっては、流路の構造的な面のために測定誤差が発生することもあり、MFVおよびMFCの測定に影響を及ぼす望ましくない圧力変動を発生させる。例えば、MFCは、流量センサと制御弁との間に、「隙間容積」(dead volume)と呼ばれる、流路の一部を有し、特に、非圧力不感応(即ち、圧力に感応する)MFCであり当該MFCの内側に圧力センサを有していないMFCである場合に、この隙間容積が流量測定に誤差を混入させる可能性がある。非圧力不感応MFCは、圧力変動によって生ずる流量(flow rate)を補償することができない。流体が流路に沿って流量検証装置から隙間容積を通過してMFCの外部に流出すると、隙間容積は圧力測定値および最終的な流量検証における誤りを引き起こす原因になり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0006] したがって、本開示では、非圧力不感応MFCにおいて隙間容積によって生ずる誤差を補償する質量流量検証装置(MFV)について記載する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
[0007] 更に特定すれば、本開示は、非圧力不感応MFCを通過する質量流量を測定および検証する上流検証システムおよび方法について記載する。上流に配置されたMFVは、通例、一定容積を画成するチェンバと、流体源から流体を受けてチェンバに流入する流体の流れを制御する入力弁、およびチェンバから流出し検査MFCに流入する流体の流れを制御する出力弁を含む。入力弁を開き出力弁を閉じることによって、決定されたレベルまで圧力を上昇させるように、チェンバは流体源から流体を受ける。一旦決定されたレベルになると、流体がチェンバから検査対象MFCに流入するように、入力弁を閉じ、出力弁を開くことができる。チェンバにおける流体の温度を測定することによって、そしてチェンバからの圧力の減衰率を測定することによって、MFCを通過する流量を独立して測定することができるので、MFCの挙動を独立して測定し検証することができる。計算された流量は、非圧力感応質量流量コントローラ内部におけるいずれの隙間容積による誤差をも考慮するように補償される。
【0008】
[0008] 検査質量流量コントローラが圧力不感応のコントローラである場合、上流MFVによる流量の計算は、隙間容積がゼロであることを想定して行うことができる。隙間容積の値は、質量流量コントローラの製造業者によって提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一態様によるブロック図である。
【
図2】
図2は、本開示において取り組む誤差を特定するシミュレーション結果を示す。
【
図3】
図3は、非圧力不感応質量流量コントローラの一例の、部分的に切除した、側面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[0012] MFCの精度を検証する方法の1つは、検査対象のMFCの上流において質量流量検証装置によって行われる。既に述べたように、流体がMFVチェンバから検査対象MFCに流れるときの圧力の減衰率および温度変化を測定することによって、検査対象MFCを通過する流量を測定し検証することができる。しかしながら、特にMFCが非圧力不感応である場合、測定誤差は、検査MFCの中にある隙間容積によって生ずることもある。これらの測定誤差を補償することが、本開示の主題である。
【0011】
[0013]
図1は、検査MFC90の挙動を検証するための上流MFVシステム100の一実施形態を示す。典型的な上流流量検証装置は、既知の容積(V
c)110を画成するチェンバ、圧力変換器(P)120、温度センサ(T)130、および2つの隔離制御弁を含み、2つの隔離制御弁の内、1つは容積V
cの上流側(140)にあり、他の1つは容積の下流側(150)にある。
【0012】
[0014] 図示したMFVの実施形態は、温度センサ130および圧力変換器120を含む。図示のように、上流入力弁140が、検査気体の気体源または供給源から流れる流体を制御するために用いられ、一方下流弁150は、容積110から検査MFC90への流体の流れを制御するために用いられる。コントローラ160は、弁140および150を動作させるため、そして容積110の温度(温度センサ130によって測定する)、および容積110内部の圧力(圧力変換器120によって測定する)を表すデータを受信するために用いられる。更に、このコントローラは、検査MFCの流量を設定することもできる(しかし、MFCを制御するために別個のコントローラを用いてもよい)。入力弁140を開き出力弁150を閉じることによって、変換器120によって測定された圧力を、決定されたレベルまで上昇させるように、チェンバ容積110は、流体源から流体を受け入れる。一旦決定レベルに達したなら、入力弁140を閉じることができる。ここで、MFC90を検査することができる。入力弁140を閉じたままにしておいて、流体がチェンバ110から検査対象MFC90に流入するように、出力弁150を開く。温度センサ130によって、チェンバ容積110における流体の温度を測定し、変換器120によってチェンバ容積110からの圧力の減衰率を測定することによって、MFCを通過する流量を独立して測定することができるので、MFCの挙動を独立して測定し(検査MFCの設定流量をMFV100によって決定された実際の流量とを比較することによって)検証することができる。
【0013】
[0015] このように、上流MFVはMFCの挙動を検証することができる。1つの可能な挙動の測定は、一定体積の気体をMFCに通過させたときにおけるMFCによる圧力の減衰率を測定することである。これは、次の式において特定される。
【0015】
ここで、Q
0は、実際の出力流量のMFVが測定した流量であり、
V
tは、次の節で説明するMFVシステムの全容積であり、
Rは、一般気体定数であり、
PおよびTは、それぞれ、気体の圧力および温度の測定値であり、
P
stpおよびT
stpは、それぞれ、標準圧力(1.01325e5 Pa)および標準温度(273.15K)定数である。
【0016】
[0016] MFCシステムの全容積V
tは、既知のMFVチェンバ容積V
c、およびMFV下流弁150とMFC制御弁340との間の外部容積V
eを含み、次のように表すことができる。
【0018】
外部容積V
eは、システムの測定構成(plumbing configuration)および検査対象MFCの関数として変化する。外部容積は、上流MFVの流量検証を実行する前に、正確に較正しなければならない。例えば、外部容積の較正は、理想気体の法則および質量保存の法則、ならびに MFVチェンバの容積(V
c)、MFVチェンバにおける測定圧力および気体温度という既知の事実に基づくことができる。この手順は、次のように説明することができる。
【0019】
1.MFVの上流弁を閉じ、MFVの下流弁および検査対象MFCの制御弁の双方を開く。
2.システムを所定の圧力レベルまで下げて、検査対象MFCの制御弁を閉じる。
【0020】
3.チェンバ圧力および気体温度が安定するまで待ち、チェンバ圧力をP
0、気体温度をT
0として記録する。
4.MFVの下流弁を閉じ、MFVの上流弁を開いて、気体流をMFVチェンバに流入させる。
【0021】
5.MFVのチェンバ圧力が所定のレベルに達したときに、MFVの上流弁を閉じる。
6.チェンバ圧力および気体温度が安定するまで待ち、チェンバ圧力をP
1、気体温度をT
1として記録する。
【0022】
7.MFVの下流弁を開き、気体流を外部容積に流入させる。
8.チェンバ圧力および気体温度が安定するまで待ち、チェンバ圧力をP
2、気体温度をT
2として記録する。
【0023】
9.以下の式にしたがって、外部容積を計算する。
【0025】
[0017] 検査対象MFC(
図3では全体的に300で示す)における隙間容積350、V
dは、流量センサ310(層流エレメント330で示す)と制御弁340との間にある流路の一部である。この隙間容積は、検査対象MFCの一特性であり、流通業者や種類によって異なる。明らかに、隙間容積は外部容積(V
e)の一部であるが、以上で説明した外部容積較正方法によって別個に測定することはできない。
【0026】
[0018] 上流MFVは、式(1)に基づいて、検査対象MFVの実際の流量出力を測定する。しかしながら、上流MFVによって測定される流量(Q
0)は、圧力が変化しているときにMFC流量センサによって測定された流量(Q
s)ではない。隙間容積における圧力が変化しているときには、流量測定誤差(ΔQ)が発生する。
【0028】
[0019] マサチューセッツ州、ウィルミントン(Wilmington, MA)のMKS Instruments(本譲受人)(MKSインストルメンツ社)が製造および販売するπMFCのような、圧力不感応MFCでは、これらのデバイスは流路内に圧力センサを有し、隙間容積内の圧力変化を測定することができる。したがって、圧力不感応MFCは、隙間容積における圧力変動によって生ずる流量誤差を補償することができる。この場合、上流MFVによって測定される流量(Q
0)は、圧力不感応MFCが双方とも精度が高いのであれば、これらによって制御される流量と一致する。
【0029】
[0020] 非圧力不感応MFCでは、このMFCは圧力センサを有していないので、隙間容積における圧力変動によって生ずる流量誤差は、MFC自体によって補償することはできない。その結果、式(4)によれば、MFCが通常の一定圧力動作状態において精度が高くても、上流MFV測定値とMFCによって制御される流量との間には、流量測定の不一致が常に起こる。
【0030】
[0021]
図2に表されている時間グラフでは、気体のN
2を用いて、MFCおよび非圧力不感応MFCの典型的な応答をシミュレートしたのであり、初期測定温度および圧力は、それぞれ22°Cおよび50psia、流量設定点は2000sscm、実行時間は30秒、MFVの容積は200cc、隙間容積は5ccであった。報告されたMFVからの測定流量210は、MFC流量設定点220およびMFC230から流出する実際の流量双方とも異なる。MFC230から流出する実際の流量と、MFC210に流入するMFV測定流量との間の不一致を補正することが、本開示の主題である。予期したように、誤差は、隙間容積のMFV容積に対する割合と同等であった(〜50sccm/2000sccm=5cc/200cc)。
【0031】
[0022] この流量測定誤差を補償するために、補正測定流量Qを上流MFVによって測定するときに、隙間容積を考慮に入れなければならない。
【0033】
[0023] 本開示によれば、V
dの値は、MFCの製造業者によって提供することができ、または実際の流量、予期される流量、および誤差に基づいてテスタによって推定することができる。製造業者がこの情報を提供する場合、MFVのユーザはこの値を、コントローラ160を含む処理機器に入力することができるので、流量は、測定圧力および/または温度値から精度高く計算することができる。
【0034】
[0024] 更に、本開示はリアル・タイムで圧力の減衰率および/または温度を測定および推定すること、あるいはシステムが安定するまで待つことによって圧力の減衰率および/または温度を測定および推定することも想定している。安定するまで待つことによって、対応する温度変化を補償することなく圧力測定が可能になるという効果も追加される。
【0035】
[0025] また、本明細書において開示した検証装置の態様にしたがって圧力不感応MFCを測定するとき、V
d値をゼロに設定することができる。何故なら、MFCは既に隙間容積における圧力降下を考慮に入れているからである。
【0036】
[0026] 以上、本開示の特定的な実施形態について図示し説明したが、当業者には多数の変更および修正が想起されることは認められよう。したがって、添付した特許請求の範囲は、本開示の主旨および範囲に該当する変更および修正全てを包含することを意図することとする。