(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の多孔質層を形成する樹脂材料製のファイバーは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド及びこれらの共重合体の高分子物質から選択された少なくとも1種からなる請求項1又は2に記載のセパレータ一体形電極。
前記第1の多孔質層に含まれる無機材料製の粒子は、チタニア(アナターゼ構造のものを除く)、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアから選択された少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載のセパレータ一体形電極。
請求項1〜5のいずれかに記載のセパレータ一体形電極と、前記セパレータ一体形電極と対になる対向電極と、を備えた非水電解質二次電池であって、前記対向電極は集電体の表面に形成された対向電極合剤層を有し、前記対向電極合剤層は前記セパレータ一体形電極の前記第2の多孔質層と接触するように対向配置され、前記セパレータ一体形電極の第1の多孔質層及び前記第2の多孔質層には非水電解液が含浸されている非水電解質二次電池。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノートパソコン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池には更なる高容量化が要求されている。二次電池の中でも高エネルギー密度であるリチウム(Li)イオン電池に代表される非水電解質二次電池の高容量化は年々進んでいるが、現状ではその要求に十分に応えきれていない。最近では、非水電解質二次電池の特徴を利用して、携帯電話機、携帯型コンピュータ、PDA、携帯型音楽プレイヤー等のモバイル用途に限らず、電動工具や、電動自転車、電気自動車(EV)やハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)の動力用、バックアップ電源や電力貯蔵用等の蓄電用に至る中型から大型電池用途についても展開が進みつつあり、その用途が多様化してきている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池の用途に応じて非水電解質二次電池の構造も多様化してきており、電極とセパレータとを渦巻き状に巻いた巻回電極体を用いた円筒形電池や、その巻回電極体をプレス成型して角形外装缶に挿入ないしラミネート外装体で被覆した角形電池、電極とセパレータとを積層した電極体を角形外装缶に挿入ないしラミネート外装体で被覆した角形電池、ボタン形電池等が開発されている。
【0004】
非水電解質二次電池の形状の多様化により非水電解質二次電池の製造プロセスも複雑化してきているが、これによって非水電解質二次電池の製造コストの増加やリードタイムの増加等といった生産性の悪化が生じてしまう。このため、多様化する非水電解質二次電池の製造において、非水電解質二次電池の製造プロセスを簡略化する技術の開発が不可欠となっている。
【0005】
非水電解質二次電池のセパレータとして用いられているポリオレフィン製微多孔膜は、電池の材料コストの増加を招くとともに、電極との巻き取りや積層工程が製造プロセスの複雑化やリードタイムの増加を招く。そのため、本発明者らは、従来のポリオレフィン製微多孔膜を用いない、セパレータレス電池の技術開発を種々試みてきた。
【0006】
従来の非水電解質二次電池では、正極極板と負極極板の間にリチウムイオンを透過する絶縁性の多孔質材料をセパレータとして用いており、このセパレータとしては、ポリオレフィン製、例えばポリエチレンやポリプロピレン製の微多孔膜が用いられている。非水電解質二次電池において、このセパレータを備えていないセパレータレス電池とするには、ポリオレフィン製の微多孔膜に代わる低コスト材料からなる多孔質層を電極表面に直接形成することが必要となる。
【0007】
下記特許文献1には、集電体に負極活物質塗布層を積層してなる負極と、集電体に正極活物質塗布層を積層してなる正極と、セパレータと、非水電解液とを有する非水電解液二次電池において、負極活物質塗布層ないし正極活物質塗布層の表面に、樹脂結着材と、粒径が0.1〜50μmの範囲にあるアルミナ粉末又はシリカ粉末からなる固体微粒子とを含む多孔性保護膜を、厚さ0.1〜200μmの範囲となるように形成した非水電解質二次電池の発明が開示されている。下記特許文献2には、セパレータを電極表面に接合一体化してなる電気化学素子用セパレータ電極一体形蓄電素子において、セパレータとしてエレクトロスピニング法により形成されたファイバーを含有した多孔質層によって形成した電気化学素子用セパレータ一体形蓄電素子の発明が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1に開示されている発明によれば、負極活物質塗布層ないし正極活物質塗布層の表面に形成された多孔性保護膜によって、脱落活物質による内部短絡が抑制された非水電解質二次電池が得られるようになる。また、上記特許文献2に開示されている発明によれば、電極の活物質合剤層表面にファイバーを含有した多孔質層を形成することで、機械的強度を損なうことなく多孔質層を薄層化することができ、内部抵抗の低減が可能な電気化学素子用セパレータ一体形蓄電素子が得られるようになる。
【0010】
しかしながら、本発明者の実験結果によると、負極活物質合剤層ないし正極活物質合剤層の表面に固体粒子からなる多孔質層又は径が1μm未満のファイバーを含有する多孔質層を形成した電極を用いてセパレータレス非水電解質二次電池を作製した場合、初回充電時に活物質合剤層の表面にデンドライト(樹枝)状のリチウム金属が析出し、内部短絡を引き起こすことが見出された。
【0011】
これは、固体粒子からなる多孔質層又は径が1μm未満のファイバーを含有する多孔質層のみでは、数十μmの薄い層を形成した場合、微細形状の不均一化が生じ易く、リチウムイオンの透過に対する低抵抗部分の分布が発生してしまうことを意味している。これにより、初回充電時において、リチウムイオンの透過に対する低抵抗部分のリチウムイオン濃度が増加し、活物質合剤層表面にデンドライト状のリチウム金属が析出することで、正極と負極との間に物理的短絡が生じることになる。
【0012】
本発明によれば、正極合剤層ないし負極合剤層の表面に、リチウム金属の析出が抑制され、正極と負極との間の短絡の発生を抑制することができる多孔質層を形成したセパレータ一体形電極及びこのセパレータ一体形電極を用いた非水電解質二次電池を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のセパレータ一体形電極は、集電体と、前記集電体の上に形成された電極合剤層と、前記電極合剤層の上に形成された多孔質層とを備え、前記多孔質層が無機材料製の粒子と、樹脂材料製のファイバーと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明のセパレータ一体形電極においては、電極合剤層の表面に形成された多孔質層が、無機材料製の粒子と、樹脂材料製のファイバーと、を含むもので形成されているので、従来技術のような多孔質層の微細形状の不均一化が生じ難くなり、リチウムイオンの透過に対する低抵抗部分の発生が抑制される。これにより、本発明のセパレータ一体形電極によれば、低抵抗部分においてリチウムイオン濃度が増加することに起因するデンドライト状のリチウム金属の析出が抑止される。そのため、本発明のセパレータ一体形電極を用いて非水電解質二次電池を形成すると、電極間における短絡の発生が抑制され、信頼性及び電気化学特性が向上した非水電解質二次電池が得られるようになる。
【0015】
本発明のセパレータ一体形電極を形成する樹脂材料製のファイバーとは、直径が1〜数100nmの繊維状樹脂材料が好ましいが、数μm程度のものも使用し得る。本発明のセパレータ一体形電極は、正極集電体の表面に正極活物質合剤層を形成した正極に対しても、負極集電体の表面に負極活物質合剤層を形成した負極に対しても、同様に適用することができる。
【0016】
係る態様のセパレータ一体形電極においては、前記多孔質層が、前記電極合剤層の上に形成された無機材料製の粒子を含む第1の多孔質層と、前記第1の多孔質層の上に形成された樹脂材料製のファイバーを含む第2の多孔質層と、を含むことが好ましい。
【0017】
このような構成を備えていると、電極合剤層の表面に無機材料製の粒子を含む第1多孔質層及び樹脂材料製のファイバーによって形成される第2の多孔質層が形成されているので、それぞれの多孔質層の形成材料の相違に基づく特性が良好に奏されるようになる。
【0018】
係る態様のセパレータ一体形電極においては、前記第2の多孔質層の平均厚みをx、前記第1の多孔質層の平均厚みをy、とした場合、0.5≦x/(x+y)≦0.95とすることが好ましい。
【0019】
樹脂材料製のファイバーによって構成される多孔質層の厚みxを、無機材料製の粒子を含む多孔質層及びファイバーによって構成される多孔質層の厚みの合計(x+y)で除したx/(x+y)の値が0.5未満であると、無機材料製の粒子を含む多孔質層とファイバーによって構成される多孔質層との抵抗分布の不均一化が生じるようになり、内部短絡が生じ易くなる。x/(x+y)の値が0.95を超えると、樹脂材料製のファイバーによって構成される多孔質層におけるリチウムイオンの透過に対する低抵抗部分の分布の発生がより抑制されるが、内部抵抗が大きくなるので好ましくない。
【0020】
係る態様のセパレータ一体形電極においては、前記第2の多孔質層を形成する樹脂材料製のファイバーは、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド及びこれらの共重合体の高分子物質から選択された少なくとも1種からなることが好ましい。
【0021】
これらの樹脂材料製のファイバーを用いて作製された第2の多孔質層は、良好な電気絶縁性及び多孔質性を備えたものが得られるので、非水電解質二次電池を形成した場合には、よりリチウムのデンドライトが発生し難くなり、内部短絡が生じ難い非水電解質二次電池を得ることできるようになる。
【0022】
係る態様のセパレータ一体形電極においては、前記第1の多孔質層に含まれる無機材料製の粒子は、チタニア(アナターゼ構造のものを除く)、アルミナ、ジルコニア及びマグネシアから選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0023】
これらの無機材料製の粒子は、電気絶縁性が良好であり、しかも、凝集性が小さく、溶媒中への分散性が良好であるので、均質な第1の多孔質層を容易に形成することができるようになる。
【0024】
係る態様のセパレータ一体形電極においては、前記第2の多孔質層を形成する樹脂材料のファイバーは、エレクトロスピニング法によって形成されたものであることが好ましい。
【0025】
エレクトロスピニング法によれば、他の方法と比較して、形成されるファイバーの形状制御を行い易く、繊維長を長くし易く、また、使用し得る樹脂材料の制限が少なくなる。加えて、静電力によってファイバーが絶縁性の第1の多孔質層の孔内に進入し易くなるので、第2の多孔質層をより安定的に形成することができるとともに、第2の多孔質層と第1の多孔質層との間の付着強度が強くなる。
【0026】
本発明の非水電解質二次電池は、上記いずれかに記載のセパレータ一体形電極と、前記セパレータ一体形電極と対になる対向電極と、を備えた非水電解質二次電池であって、前記対向電極は集電体の表面に形成された対向電極合剤層を有し、前記対向電極合剤層は前記セパレータ一体形電極の前記第2の多孔質層と接触するように対向配置され、前記セパレータ一体形電極の第1の多孔質層及び前記第2の多孔質層には非水電解液が含浸されていることを特徴とする。なお、非水電解質二次電池は、別体のセパレータを備えていてもよい。
【0027】
本発明の非水電解質二次電池によれば、電極間における短絡の発生が抑制され、信頼性が高い非水電解質二次電池が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の一の局面の技術思想を理解するために例示するものであって、本発明をこの実施形態に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。本発明に係るセパレータ一体形電極は、正極及び負極のいずれに対しても適用可能であるので、以下では正極に代表させて説明することとする。
【0030】
実施形態に係る非水電解質二次電池10を、
図1を用いて説明する。実施形態に係る非水電解質二次電池10においては、正極12がセパレータ一体形電極とされており、このセパレータ一体形電極である正極12と負極14とが積層された構成を有している。
【0031】
正極12は、正極集電体22と、正極合剤層24と、無機材料製の粒子を含む第1の多孔質層26と、樹脂材料を含む第2の多孔質層28とが積層された構成を有している。負極14は、負極集電体32と、負極合剤層34とが積層された構成となっている。
【0032】
正極12は、具体的には、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる正極集電体22と、この正極集電体22の表面に形成された正極合剤層24と、この正極合剤層24の正極集電体22とは反対側の面に形成された第1の多孔質層26と、この第1の多孔質層26の正極合剤層24とは反対側の面に形成された第2の多孔質層28とを有する。
【0033】
正極合剤層24に含有されているリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な正極活物質としては、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO
2)、リチウムマンガン複合酸化物(LiMn
2O
4、LiMnO
2)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO
2)、リチウムニッケルコバルト複合酸化物(LiNi
xCo
1-xO
2(x=0.01〜0.99))、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi
xMn
yCo
zO
2(x+y+z=1))又は鉄酸リチウム(LiFePO
4)等が一種単独もしくは複数種を混合して用いられる。リチウムコバルト複合酸化物にジルコニウムやマグネシウム、アルミニウム等の異種金属元素を添加したものも使用し得る。
【0034】
第1の多孔質層26は、例えば、無機材料製の粒子と樹脂系材料とにより構成される。無機材料製の粒子としては、チタニア(TiO
2)、アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア(ZrO
2)及びマグネシア(MgO)等を用いることができる。ルチル構造のチタニアは、アナターゼ構造のものと比較して、リチウムイオンの脱挿入が生じ難く、環境雰囲気(電位)によるリチウムイオンの吸蔵や電子伝導性の発現等が起こり難い。このため、容量の低下や短絡の発生がより抑制されるため、チタニアはルチル構造であることが好ましい。また、これら無機材料製の粒子は、平均粒径が1μm以下のものが好ましく、スラリーの分散性を考慮すると、アルミニウム(Al)やシリコン(Si)、チタン(Ti)等で表面処理されているものが特に好ましい。
【0035】
第1の多孔質層26を構成する樹脂系材料としては、非水溶性樹脂や水溶性樹脂を用いることができる。非水溶性樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。水溶性樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリビニルメチルエーテル、ポリエチレングリコール等を用いることができる。
【0036】
第1の多孔質層26を構成する樹脂系材料は、正極合剤層を形成するための正極合剤スラリーに用いられる溶媒とは異なる溶媒に溶解することが好ましい。そのため、溶媒をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とした正極合剤スラリーによって正極活物質合剤層を形成し、この表面に第1の多孔質層26を形成する場合、第1の多孔質層26を構成する樹脂系材料を溶解する溶媒は水とするのが好ましい。
【0037】
第1の多孔質層26を形成するために無機材料製の粒子を分散させるとともに樹脂系材料を溶解する溶剤としては、有機溶媒系であれば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、リン酸ヘキサメチルトリアミド(HMPA)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これら無機材料製の粒子を分散させるとともに樹脂系材料を溶解する溶剤としては、樹脂系材料の溶解性に合わせて適宜選すればよく、これらのものに限定されるものではない。
【0038】
第1の多孔質層26を正極合剤層24の表面に形成する方法としては、無機材料系の粒子と樹脂系材料とを溶媒中で分散及び溶解させたスラリーを正極合剤24の表面に塗工する方法や、グラビアコート法、スプレーコート法、ダイコート法、ロールコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法等を利用することができる。
【0039】
第2の多孔質層28は、ファイバーによって構成される。ファイバーを構成する樹脂材料としては、ポリプロピレンや、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ(テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン)共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等及びこれらの共重合体等の高分子物質を用いることができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在していてもよい。なお、上記の樹脂材料は例示であり、ファイバーを構成する樹脂材料としてはこれらに限定されるものではない。
【0040】
ファイバーによって構成される第2の多孔質層28を第1の多孔質層26の表面に形成する方法としては、周知のエレクトロスピニング法や、セルフアッセンブリー法、フェイズ・セパレーション法等を用いることができる。生産性や安定性の観点からはエレクトロスピニング法が好ましい。エレクトロスピニング法は、容器に収容された紡糸溶液と対象物側のコレクタ電極との間に高電圧を印加することで、この紡糸溶液を容器から押し出し、電荷を帯び細かな繊維として対象物に付着させる方法である。ここでは正極集電体22をコレクタ電極として第2の多孔質層28を第1の多孔質層26の表面に形成すればよい。
【0041】
エレクトロスピニング法による第2の多孔質層28の形成としては、まず、溶剤に樹脂材料を混合分散して紡糸溶液を調製する。溶剤に樹脂材料を混合分散する方法は特に限定されないが、プラネタリーミキサーや、ホモミキサー、ピンミキサー、ニーダー、ホモジナイザー等を用いることができる。溶剤に樹脂材料を混合分散する際、各種無機粒子や、分散剤、界面活性剤、安定剤、架橋剤等を、必要に応じて添加するようにしてもよい。
【0042】
この紡糸溶液をノズルへ供給し、ノズルから押し出すとともに、押し出した紡糸溶液に電界を作用させることにより、紡糸溶液に静電荷が蓄積され、捕集体側の電極によって電気的に引っ張られ、引き伸ばされて繊維化される。エレクトロスピニング法では、押出されて形成された繊維は、電気的に引き伸ばされているため、コレクタに近づくにしたがって電界により速度が加速され、繊維径のより小さいファイバーとなる。その間に、溶媒の蒸発によってさらに細くなり、静電気密度が高まり、その電気的反発力によって分裂し、さらに繊維径の小さいファイバーになる。この電界を作用させるために印加する電圧は、特に限定されないが、5〜50kV程度とするのが好ましい。印加する電圧の極性は、プラス及びマイナスのいずれとしてもよい。また、形成されたファイバーの層の空隙率を調整するため、形成されたファイバー層をプレスするようにしてもよい。
【0043】
紡糸溶液に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を用いることができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在するようにしてもよい。なお、これらの紡糸溶液に用いられる溶媒は、例示であり、これらに限定されるものではない。
【0044】
紡糸溶液に添加する無機材料としては、酸化物や、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を用いることができる。製造されるファイバーの耐熱性や加工性等の観点から、紡糸溶液に添加する無機材料としては、酸化物を用いることが好ましい。
【0045】
紡糸溶液に添加する酸化物としては、Al
2O
3や、SiO
2、TiO
2、Li
2O、Na
2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B
2O
3、P
2O
5、SnO
2、ZrO
2、K
2O、Cs
2O、ZnO、Sb
2O
3、As
2O
3、CeO
2、V
2O
5、Cr
2O
3、MnO、Fe
2O
3、CoO、NiO、Y
2O
3、Lu
2O
3、Yb
2O
3、HfO
2、Nb
2O
5等を用いることができる。上記より選ばれる一種でもよく、複数種類が混在してもかまわない。これらの紡糸溶液に添加する酸化物は、例示であり、これらに限定されるものではない。
【0046】
紡糸溶液における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は約60質量%から98質量%とするのが好ましく、溶質は2〜40質量%とするのが好ましい。
【0047】
負極14は、銅又は銅合金からなる負極集電体32と、負極合剤層34とが積層された構成となっている。負極合剤層34に含有されているリチウムイオンの吸蔵・放出が可能な負極活物質としては、黒鉛、難黒鉛化性炭素及び易黒鉛化性炭素などの炭素原料、LiTiO
2及びTiO
2などのチタン酸化物、ケイ素及びスズなどの半金属元素、酸化ケイ素(SiOx,0.5≦x<1.6)又はSn−Co合金等を使用し得る。
【実施例1】
【0048】
実施例1に係る非水電解質二次電池の作製について説明する。
[セパレータ一体形電極の作製]
セパレータ一体形電極は、以下のようにして作製した。
(正極合剤層の形成)
正極活物質としてのコバルト酸リチウム(LiCoO
2)と、導電材としてのアセチレンブラックと、結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)とをそれぞれ質量比で95:2.5:2.5となるように秤量し、分散媒としてのN−メチル2−ピロリドン(NMP)と混合して正極合剤スラリーを調製した。そして、この正極合剤スラリーを正極導電体としてのアルミニウム箔の表面にダイコーターによって塗布し、次いで、乾燥させて有機溶媒となるNMPを除去し、ロールプレスによって所定厚さとなるように圧縮し、所定サイズに切り出すことによって、正極を得た。
【0049】
(第1の多孔質層の形成)
無機材料製の粒子としての酸化チタン(日本チタン工業社製:KR−380)とアクリル系樹脂とをそれぞれ、3.75:96.25となるように秤量し、固形分濃度で30質量%となるように分散媒としての水と混合した。この混合物をフィルミックス(特殊機化工業製フィルミックス社製)で混合分散して、酸化チタン分散スラリーを調製した。そして、この酸化チタン分散スラリーを正極合剤層の表面にグラビアコート方式で塗工し、分散剤を乾燥・除去して、厚み8μmの第1の多孔質層を形成した。
【0050】
(第2の多孔質層の形成)
ポリビニルアルコール系樹脂(PVA)を10質量%となるように水と混合し、これをT・Kロボミックス(田島化学機械社製)で混合分散して、紡糸溶液を調製した。この紡糸溶液を、エレクトロスピニング法を用い印加電圧30kVの条件で紡糸を行い、その後プレスして第2の多孔質層を目付10g/m
2、厚み23μmとなるように形成した。これにより、実施形態のセパレータ一体形電極を作製した。
【0051】
[負極の作製]
負極は、以下のようにして調製した。
負極活物質としての炭素材(黒鉛)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC)と、結着剤としてのスチレンブタジエンゴム(SBR)とをそれぞれ質量比で98:1:1となるように秤量し、これらを水に分散させて負極合剤スラリーを調製した。この負極合剤スラリーを負極集電体としての銅箔の表面にダイコーターによって塗布し、乾燥して負極集電体の両面に負極活物質合剤層を形成し、次いで、圧縮ローラーを用いて所定厚さに圧縮し、所定寸法に切り出して負極を得た。
【0052】
[非水電解液の調製]
非水電解液は、以下のようにして調製した。エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボーネト(DEC)とをそれぞれ体積比(1気圧、25℃)で3:7の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としてヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF
6)を1.0mol/Lの割合で溶解させた。
【0053】
[非水電解質二次電池の組み立て]
セパレータレス電池である非水電解質二次電池は、以下のようにして作製した。セパレータ一体形電極及び負極それぞれにリード端子(図示省略)を取り付けて積層した電極体を、アルミニウムラミネート製の電池外装体に挿入し、この電池外装体に非水電解液を注入したのち封止した。
【実施例2】
【0054】
実施例2に係る非水電解質二次電池は、セパレータ一体形電極の作製において、第1の多孔質層を厚みが13μm、第2の多孔質層を厚みが17μmとなるように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0055】
[比較例1]
比較例1に係る非水電解質二次電池は、セパレータ一体形電極の作製において、第1の多孔質層を形成せず、第2の多孔質層を厚さ24μmとなるように形成した以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0056】
[比較例2]
比較例2に係る非水電解質二次電池は、セパレータ一体形電極の作製において、第1の多孔質層を厚さ30μmとなるように形成し、第2の多孔質層を形成しないようにした以外は、実施例1と同様にして作製した。
【0057】
[内部短絡試験]
上述のようにして作製された実施例1、2及び比較例1、2に係る非水電解質二次電池のそれぞれについて、内部短絡試験を行った。内部短絡試験の概要は以下のとおりである。
【0058】
実施例1、2及び比較例1、2のそれぞれの非水電解質二次電池について、0.2Itの定電流値で電池電圧が4.4Vとなるまで充電したときの充電挙動を観測した。電池電圧が4.4Vとなるまで充電した場合の電池の設計容量まで充電された際、電池電圧が4.4Vに達しない場合は内部短絡が発生したものとし、電池電圧が4.4Vに達した場合は内部短絡が発生していないものとして、内部短絡発生の有無を判断した。これは、非水電解質二次電池内で内部短絡が生じた場合、正極と負極との間で微小な短絡電流が流れるため、設計容量まで充電しても正常に電池電圧が上昇しないことに基くものである。
【0059】
実施例1、2及び比較例1、2に係る非水電解質二次電池のそれぞれの内部短絡試験の結果を、第1の多孔質層の厚みy、第2の多孔質層の厚みx及びx/(x+y)の値とともにまとめて表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
表1に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、第1の多孔質層及び第2の多孔質層がともに形成された実施例1、2においては、内部短絡が発生しなかった。これに対し、第1の多孔質層及び第2の多孔質層いずれかが形成されていない比較例1、2においては、内部短絡が発生した。
【0062】
また、第1の多孔質層の厚みをyとし、第2の多孔質層の厚みをxとした場合に、第2の多孔質層の厚みを第1の多孔質層及び第2の多孔質層の厚みの合計で除したx/(x+y)の値が0.5以上0.9以下(すなわち、0.5≦x/(x+y)≦0.95)である場合、この範囲にない場合と比較して、電極への電解液への浸透を維持しつつ内部短絡を抑制する効果がより大きく発揮された。
【0063】
なお、正極集電体22の両面に正極合剤層24を形成し、これら両面に形成された正極合剤層24に対してそれぞれ第1の多孔質層26及び第2の多孔質層28を形成し、両側に負極14を対向配置するようにしてもよい。
【0064】
<変形例>
実施形態の非水電解質二次電池10は、セパレータ一体形電極として正極に適用した例を示したが、変形例の非水電解質二次電池10Aとして負極に適用した例を
図2を用いて説明する。なお、
図2においては、実施形態の非水電解質二次電池10と同一の構成部分には同一の参照符号を付与してその詳細な説明は省略する。
【0065】
変形例の非水電解質二次電池10Aにおいては、負極42がセパレータ一体形電極として形成されており、セパレータ一体形電極である負極42と正極44とが積層された構成を有している。
【0066】
負極42は、負極集電体32と、負極合剤層34と、無機材料製の粒子を含む第1の多孔質層26と、樹脂材料を含む第2の多孔質層28とが積層された構成を有している。正極44は、正極集電体32と、正極合剤層24とが積層された構成となっている。
【0067】
負極42の負極集電体32及び負極合剤層34の構成は実施形態の非水電解質二次電池10におけるものと同一とすることができ、正極44の正極集電体22及び正極合剤層24の構成も実施形態の非水電解質二次電池10におけるものと同一とすることができる。
【0068】
また、負極42の負極合剤層34の表面に形成される第1の多孔質層26の構成は、実施形態の非水電解質二次電池10におけるものと同一である。さらに、負極42の第1の多孔質層26の表面に形成される第2の多孔質層28の構成も実施形態の非水電解質二次電池10におけるものと同一である。
【0069】
ただ、負極合剤層34は、水を溶媒とする負極合剤スラリーを用いて作製されているので、第1の多孔質層26を構成する樹脂系材料は、有機溶媒系のものを用いることが好ましい。この第1の多孔質層26の組成及び形成方法、第1の多孔質層26上に形成される第2の多孔質層28の組成及び形成方法も、実施形態の非水電解質二次電池10におけるものと同一とすることができる。このような構成の変形例の非水電解質二次電池10Aにおいても、実施形態の非水電解質二次電池10の場合と同様の作用効果を奏する。
【0070】
なお、変形例の非水電解質二次電池10Aにおいても、負極集電体32の両面に負極合剤層34を形成し、これら両面に形成された負極合剤層34に対してそれぞれ第1の多孔質層26及び第2の多孔質層28を形成し、両側に正極44を対向配置するようにしてもよい。