特許第6130846号(P6130846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6130846皮膚の色素沈着の誘導並びに皮膚の色素異常及び白斑の治療のためのNGFを含有する局所用製剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130846
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】皮膚の色素沈着の誘導並びに皮膚の色素異常及び白斑の治療のためのNGFを含有する局所用製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/22 20060101AFI20170508BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 31/56 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 31/59 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 31/593 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20170508BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20170508BHJP
【FI】
   A61K37/24
   A61P17/00
   A61K31/56
   A61K31/59
   A61K31/593
   A61K9/08
   A61K9/10
   A61K9/107
   A61K9/12
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-539469(P2014-539469)
(86)(22)【出願日】2012年11月2日
(65)【公表番号】特表2014-532694(P2014-532694A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】IT2012000336
(87)【国際公開番号】WO2013065078
(87)【国際公開日】20130510
【審査請求日】2015年10月9日
(31)【優先権主張番号】RM2011A000574
(32)【優先日】2011年11月2日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】514112190
【氏名又は名称】バイオメド ベンチャー エッセ.エッレ.エッレ. ソシエタ ウニペルソナーレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リオッタ、シルヴァナ
【審査官】 馬場 亮人
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第99/039728(WO,A1)
【文献】 Acta. Derm. Venereol.,2006年,vol.86,p.498-502
【文献】 J. Invest. Dermatol.,2003年,vol.120, no.1,p.56-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/22
A61K 9/08
A61K 9/10
A61K 9/107
A61K 9/12
A61K 31/56
A61K 31/59
A61K 31/593
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白斑、両側性白斑、指趾顔面型白斑、汎発型白斑、限局性白斑、分節型白斑、全身型白斑、母斑周囲性白斑又はサットン母斑、白斑、皮膚色素異常症、限局性白皮症、白色びこう疹、でん風、特発性及び炎症後滴状メラニン減少症、色素欠如性又は色素脱失性母斑、進行性斑状メラニン減少症、代謝性又は栄養的又は内分泌性疾患に起因するメラニン減少症、化学的、物理的又は薬理学的薬剤に起因するメラニン減少症、感染性及び感染後メラニン減少症、並びに炎症性メラニン減少症から成る群から選択される、色素異常性皮膚疾患の治療及び/又は予防のための神経成長因子(NGF)を10〜1000μg/ml含有する局所用皮膚用製剤。
【請求項2】
前記NGFが、ヒト由来のタンパク質若しくはマウス由来のタンパク質であるか、又はヒト組換えNGFである、請求項1に記載の局所用製剤。
【請求項3】
活性成分としてのNGFを医薬品に許容されるキャリア中に含有する、水性、油性若しくはアルコール性の溶液若しくは懸濁液、エマルション、スプレー、ローション、リニメント剤、クリーム、軟膏、若しくはジェルの形態、又は活性成分としてのNGFを医薬品に許容されるキャリア中に含有する、表皮に配置される膜「リザーバー」システムの形態、又は皮内的適用、経皮的適用若しくは皮下的適用に適した形態である、請求項1又は2項に記載の局所用製剤。
【請求項4】
50から500μg/mlのNGFを含有する、請求項3に記載の局所用製剤。
【請求項5】
NGFが、処置される皮膚科学的疾患の治療及び/若しくは予防に必要とされる1つ若しくは複数の他の活性成分と組み合せられているか、又はキャリア分子と共役している、請求項1又は4に記載の局所用製剤。
【請求項6】
セルフタンニング製剤と組み合せる、活性成分として神経成長因子(NGF)を10〜1000μg/ml含有する、皮膚科学的に健常な対象者における皮膚色素沈着を誘導、増強又は加速するための局所用皮膚用製剤。
【請求項7】
サンタン製剤と組み合せる、活性成分として神経成長因子(NGF)を10〜1000μg/ml含有する、皮膚科学的に健常な対象者における皮膚色素沈着を誘導、増強又は加速するための局所用皮膚用製剤。
【請求項8】
皮膚の色素沈着を誘導又は増強するための神経成長因子(NGF)を10〜1000μg/ml含有する医薬製剤であって、処置される皮膚区域に適用される上記医薬製剤。
【請求項9】
前記製剤の適用をUV照射又は太陽光照射への暴露と組み合せる、請求項8に記載の医薬製剤
【請求項10】
ルフタンニング製剤と組み合せる、請求項8に記載の医薬製剤
【請求項11】
ンタン製剤と組み合せる、請求項8に記載の医薬製剤
【請求項12】
白斑、両側性白斑、指趾顔面型白斑、汎発型白斑、限局性白斑、分節型白斑、全身型白斑、母斑周囲性白斑又はサットン母斑、白斑、皮膚色素異常症、限局性白皮症、白色びこう疹、でん風、特発性及び炎症後滴状メラニン減少症、色素欠如性又は色素脱失性母斑、進行性斑状メラニン減少症、代謝性又は栄養的又は内分泌性疾患に起因するメラニン減少症、化学的、物理的又は薬理学的薬剤に起因するメラニン減少症、感染性及び感染後メラニン減少症、並びに炎症性メラニン減少症から成る群から選択される色素異常性皮膚疾患の治療及び/又は予防のための、請求項8に記載の医薬製剤
【請求項13】
記の1つ又は複数:
(i)局所用ステロイド製剤の投与;
(ii)活性化ビタミンD及び/又は活性化ビタミンDをベースとする局所用製剤の投与;
(iii)光線療法単独、又は光増感剤、特にソラレンの使用と組み合せた光線療法
と組み合せる、請求項12に記載の医薬製剤
【請求項14】
0から500μg/mlのNGFを含有する、請求項8〜13のいずれか一項に記載の医薬製剤
【請求項15】
前記NGFが、ヒト由来のタンパク質若しくはマウス由来のタンパク質であるか、又はヒト組換えNGFである、請求項8に記載の医薬製剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、皮膚の色素沈着の誘導並びに皮膚の色素異常及び白斑の治療のための局所用製剤に関する。より詳細には、本発明は、白斑又は他の色素沈着不全性の皮膚疾患のために色素脱失した皮膚区域の皮膚色の増強又は再色素沈着を達成するように、純粋な美容的目的及び治療的目的の両方で、皮膚色素沈着を増大するための方法に関する。この方法は、NGF(神経成長因子)を含有する局所用製品の適用に基づくものである。
【背景技術】
【0002】
皮膚の色は、メラノサイトによって産生されるメラニンの量によって決定される。メラノサイトの数は、皮膚の色に関係なくあらゆる症例において同等であり、遺伝学的に決定されているため、皮膚色の強度の違いは、解剖学的要因ではなく機能上の要因によるものであることはよく知られている(Summa Gallicana Vol. 2, Chapter 27)。メラニンは、顆粒の形態で産生され、活発なメカニズムにより放出されて表皮に到達し、表皮において皮膚の色を生ずる。メラニンの産生及び放出のメカニズムにおける変化は、皮膚のメラニン性色素沈着の障害に関係する。したがって、前記のメカニズムを修正することによって、皮膚の色素沈着を刺激することが可能である(Fistarol S, Itin P., Disorders of Pigmentation, J. Dtsch. Dermatol. Ges. 2010; 8(3):187-201)。
【0003】
日光に暴露せずにタンニング効果によって、より濃い肌の色を得るために、又は少ない暴露によって達成される自然のタンニングを強化し又はより長く持続させるために、一般に「セルフタンニング」製品として知られている、皮膚に塗布する製品が使用されている。セルフタンニング製品は、日焼け、早期皮膚老化及び皮膚癌のリスクの増大などの過剰な日光暴露に関連する影響を避けるために、従来の日光暴露の代替として、しばしば使用される。
【0004】
日光への暴露なしのタンニングのために現在使用されている製品は、製品中に存在する活性化学薬剤と皮膚のアミノ酸との反応を起点としている。このタイプの種々の化合物が知られており、中でもジヒドロキシアセトン(DHA)は最も汎用されているものの1つである。塗布すると、DHAは表皮角質層の死細胞と相互に作用し、タンニングと同様の効果によって表面層の色に変化を引き起こす。表面層の色の変化は、塗布後2から4時間に発生し、一般に最初の塗布後5から7日間継続する。
【0005】
DHAなどのセルフタンニング剤は、直接的な太陽光放射又はUV照射よりも安全な代替物としての使用は推奨されるものの、衣類を着色する可能性、皮膚に不均一な色を着ける可能性及び通常は典型的な不快臭などのいくつかの欠点を有する。
【0006】
皮膚を効果的に濃色化できる治療が必要とされる別の分野は、色素沈着不全性の皮膚疾患であり、中でも白斑が最もよく知られた皮膚疾患である。
【0007】
白斑は、非常に不定性な形及びサイズを有し、その中では皮膚が色素脱失している不規則で縁がはっきりとした斑点の出現として発現する、皮膚色素沈着不全を特徴とするかなり一般的な非伝染性の皮膚疾患である。色素脱失は、時間経過と共に広がって身体のより広い面積を侵す斑点(macula)と称される薄い色の斑の形成を伴う、皮膚の天然色素(メラニン)の喪失によって起こる。
【0008】
色素脱失した斑点は、身体のあらゆる箇所に現れる可能性があるが、最も一般的に発生する部位は手、腕、肛門性器の皮膚、口周辺及び眼窩周辺部位である。斑点の縁部は、しばしば色素沈着過剰を起こしており、正常に色素沈着した周辺の皮膚の色とのコントラストを明示している。白斑の開始は、罹患者の性別及び皮膚の色には無関係であり、したがって白斑の出現は、罹患者の肌の色が濃いほど、より明白である。色の変化を除いては、罹患した区域の皮膚は全く正常である。
【0009】
斑点は、時間経過と共に次第に広がることがあり、時としてそうではなくて、一定の状態を保つが、後退することは稀である。疾患の経過は、心的外傷及び不安によって悪化することがある。
【0010】
白斑は20から40歳まででより頻繁に発生するように思われるが、小児期にも発生し、その発生率は、先進国においてより高い(人口の3〜4%に達することもある)ことが判明しており、それに対して世界的発生率は1%であろうとされる。
【0011】
白斑の原因は分かっていないが、自己免疫因子及び/又は遺伝的素因が疑われる。種々の発症理論が構築されており、最も信憑性の高いものは、自己免疫理論、自己細胞障害性理論及び神経又は神経原性理論である。これら理論の中で、色素脱失された典型的な皮膚斑の出現を申し分なく説明できるものはこれまでのところ全くない。唯一の確かな構成要素は、色素欠如区域から採取した皮膚断片の顕微鏡下での検査によって、メラノサイトの低減及びメラニンの欠乏が観察されることがあり、メラニンは皮膚の色を引き起こす色素であるということである(Kim YC et al., Histopathologic features in vitiligo, Am. J. Dermatopathol., 2008)。
【0012】
したがって、これまでに実際のところ知られていない原因によって、メラノサイトがメラニンを合成できず、数値的に低減するか又は他の細胞によって置換されることがあり、この場合、表皮基底層から上層に向かって移動する細胞にメラニンが欠けているということになる。これらの細胞は、表面に現れると色素欠如性の斑点の出現を引き起こすことになる。
【0013】
白斑などの皮膚色素異常症に対処するための最も迅速で最も使用されている審美的選択肢は、色素脱失した区域を覆い隠すことができる化粧品の塗布である。特に大きな色素脱失の場合、ハイドロキノン又はモノベンゾンなどの局所用色素脱失用製品が使用され、これら製品は、皮膚の色の均一性を作り出すために色素欠如斑に隣接する有色素区域を除去するので、問題を回避するのに役立つ。
【0014】
自己免疫に起因すると思われる局所的炎症の結果として、メラノサイトが変性を起こすことは一般に認められているため、白斑の主な治療は、局所的免疫調節剤(特に、コルチコステロイド)に基づくものである。コルチコステロイドは、色素脱失区域に、通常、紫外線(UV)照射と組み合せて塗布される。他の既知の治療には、活性化したビタミンD又は光増感剤(ソラレン(psoralens))の、これもまた紫外線(UV)照射と組み合せての適用が、含まれる。
【0015】
白斑の治療のために現在許容され、現時点で広く行き渡っている治療的アプローチは、UV−A範囲に限定した紫外線の照射と組み合せたソラレン療法で、PUVA療法又はPUVAセラピーとして知られているものである。この療法は約50%の症例において皮膚変色の状態を効果的に改善できることが示されているが、これに対してステロイドは、急速伝搬性の白斑の症例においてのみ適度に有効であり、治療を中止した後にしばしば疾患が再び発生する。
【0016】
他の治療法が全て無効又は不適切である場合、治療の最後の手段は、健常皮膚の移植による外科的治療に代表される。
【0017】
皮膚の色素沈着を潜在的に増大できることが見出されている物質の中で、カプサイシン、クルクミン及びピペリンは特に研究されてきた。これらの物質は、それぞれ、チリ、カレー及びブラックペッパーに含有され、白斑の進行制御に有効であることがある。疾患の治療を目的としてのこれら天然の抗酸化剤の使用は、特に、ケラチノサイトの初代培養物についてin vitroで実施された生化学的調査から明らかになっている。
【0018】
ピペリン及びその合成誘導体のいくつかを、紫外線による光線療法と組み合せて又は組み合せずに実験用マウスの皮膚に塗布したとき、このげっ歯類の皮膚が6週間で濃い色になった例もあることが実験的に見出されている。この効果は、UV照射との組合せ治療においてより明白であり持続性がある。ピペリンのこのような治療的使用はまた、国際特許出願公開第00/02544号(BTG International Ltd.の名で出願)に記載されており、その一方で、米国特許第7361685号(Oregon Health and Science Universityに譲渡)は、このような用途をピペリン誘導体群に拡大している。したがって、バニロイド皮膚受容体TRPV1アゴニスト並びにメラニン形成のモジュレータとしてピペリン又は、カプサイシンをも含有するクリームは、皮膚色素欠如症及び低色素症、例えば白斑などの治療に提案されてきた。
【0019】
PUVAによる白斑の治療において得られた治療的結果を分析して仮説とされてきたメカニズムの一つは、神経成長因子(NGF)の局所レベルでの低下である。90年代頃に、NGF受容体の発現の増大は、皮膚のメラノサイトの破壊と関連する可能性があり(Yaar M. et al., J. Clin. Invest., 1994)、したがって皮膚の色素脱失をもたらすことが既に示唆されていた。
【0020】
皮膚色素沈着に対する局所神経メディエータの負の影響に一致して、局所感受性の低減は白斑を伴う皮膚斑によって、並びに変性状態における神経終末の存在によって立証されている(Breathnach A., et al., J. Invest. Dermatol., 1992)。in vitro研究もまた、ニューロテンシンと称される別の神経伝達物質が局所炎症を増大し、メラノサイトによるTNF−α(腫瘍壊死因子−α)の誘導によって白斑における皮膚色素沈着を悪化させることを示している(Kovacs SO. J. Am. Acad. Dermatol., 1998)。
【0021】
知られているように、神経成長因子はニューロトロフィンの複合体ファミリーの第一の構成要素であり、中枢神経系のコリン作動性ニューロン及び末梢交感神経系に対するその栄養、向性及び分化作用がよく知られている。NGFは、人をはじめ、多くの哺乳類の組織において産生され、神経系が成長し分化する間により高レベルで血流中に放出される。in vitroの細胞系について実施された生物学的、生化学的及び分子的研究は、マウスNGFとヒトNGFとの間の高度な配列相同性を示した。さらに、他の動物種においてと同様、ヒトにおいて、NGFは通常、脳脊髄液中及び血流中の両方に、10から15pg/mlまでの範囲の濃度で存在し、濃度はいくつかの炎症性病態(自己免疫性疾患、アレルギー性疾患など)において増大し、他の病態(糖尿病)においては減少する。
【0022】
NGFは、ワシントン大学(セントルイス)の動物学研究所(Zoology Institute of the Washington University of St. Louis)のリタ・レヴィモンタルチーニ(Rita Levi−Montalcini)教授によって発見され(Levi-Montalcini R., Harvey Lect., 60:217, 1966)、その発見は、NGFがニューロンの生物学的機能の発達及び維持並びに再生に影響を与えることができることから、神経細胞の成長及び分化のメカニズムの研究において目覚ましい進歩を代表するものであった。この分子を発見したこと並びに末梢神経系及び中枢神経系の両方におけるその生物学的機能を特徴付けたことに対して、1986年にリタ・レヴィモンタルチーニ教授はノーベル医学生理学賞を受賞した。
【0023】
外科的、化学的、機械的及び虚血性の神経障害の防止におけるNGFの病態生理学的重要性は、多くのin vitro及びin vivo研究によって実証されており、NGFは末梢神経系及び中枢神経系のいくつかの疾患の治療での使用において理想的な候補とされている(Hefti F., J. Neurobiol., 25:1418, 1994; Fricker J., Lancet, 349:480, 1997)。実際、何年も前から、マウスNGFの脳内投与による、パーキンソン病及びアルツハイマー病の罹患者での臨床試験が実施されている(例えば、Olson L. et al., J. Neural Trans.: Parkinson’s Disease and Dementia Section, 4: 79, 1992を参照)。これら研究の結果により、動物モデルにおける観察結果が確認され、マウスNGFの投与が引き起こす副作用の可能性はないことが示された。この特徴は、続いて、ヒト組換えNGFについて確認された(Petty B.G. et al., Annals of Neurology, 36:244-246, 1994)。
【0024】
NGFの生物学的、生化学的、分子的、前臨床的及び臨床的効果の特徴付けに関する研究は、ほとんど成体げっ歯類の顎下腺から単離したNGFのみを用いて行われてきた。したがって、取得されたデータの大部分が、現在のところマウスNGFに関するものである。マウスNGFの生化学的特性は、特に、1968年に遡った研究(Levi-Montalcini R. e Angeletti P.U., Physiological Reviews, 48:534, 1968)に記載されている。
【0025】
マウス唾液腺に含有されるNGFは、7Sの沈降係数を有する140キロダルトンの分子複合体であり、3つのサブユニット、α、β及びγから成り、このうちβが実際に活性な形態を示す。これは、βNGFと称され、2.5Sの沈降係数を有し、通常、3つのそれほど異なってはいない手法に基づき抽出及び精製される(Bocchini V., Angeletti P.U., Biochemistry, 64:787-793, 1969; Varon S. et al., Methods in Neurochemistry, 203-229, 1972; Mobley W.C. et al., Molecular Brain Research, 387: 53-62, 1986)。結果として、このようにして得られたβNGFは、118アミノ酸の2本の同一鎖から成る二量体であり、約26,000ダルトンの全分子量を有する。個々の単鎖は、3本のジスルフィド架橋によって安定化され、同時に非共有結合が二量体構造の形成を確実にする。この分子は、非常に安定であり、水性溶媒、油性溶媒のいずれでも、ほとんど全ての溶媒に可溶であり、その生化学的特徴及び生物学的活性を変化させることなく維持する。この分子の構造、物理的及び生化学的特性に関する更なる詳については、Greene, L.A. e Shooter, E.M., Ann. Rev. Neurosci. 3:353, 1980に報告されている。
【0026】
最近、βNGFの構造は、結晶学的解析によって、より明白になっている。この解析により、β−タイプの二次構造を有し、2本の鎖がそれに加わって平坦な表面を形成して活性な二量体を生成することが可能な3つの逆平行フィラメント対の存在が明らかになっている。これらのβNGF鎖上には、多種多様なアミノ酸が配置された4本の「ループ」領域の存在が立証されている。受容体による認識の特異性もおそらく同一の領域に起因するであろう。
【0027】
NGFの生物学的効果は対応する標的細胞の表面に存在する2個の受容体、すなわち高親和性受容体TrkA(チロシンキナーゼA)及び低親和性受容体p75によって仲介されることが知られている。NGFの生物学的効果を選択的に阻害するいくつかの抗体があり、その存在が細胞系及びin vivoの両方におけるNGFの作用の正確な特徴付け及び調節を可能にした。
【0028】
より最近、遺伝子工学の手法を用いることにより、ヒトNGFを合成することが可能になっており(Iwane, M. et al., Biochem. Biophys. Res. Commun., 171:116, 1990)、また少量のヒトNGFは市販されるようにもなった。しかし、直接の経験によって、ヒトNGFの生物学的活性は、マウスNGFの活性と比較して非常に低いことが見出されている。さらに、現在入手可能なヒトにおけるデータのほとんど全てが、in vitro及びin vivoの両方ともに、マウスNGFを使用して得られていること、並びに分子がマウス由来であることに起因する望ましくない影響は知られていないことに、留意すべきである。
【0029】
神経成長因子が皮膚の色素性疾患に関与する可能性について、前記のように、NGFが引用の神経原性炎症に関与でき、結果として種々の皮膚疾患の発病に関与していることは、長い間、推測されてきた(Pincelli C., Eur. J. Dermatol., 2000)。この仮程から出発して、専門的皮膚科学分野において発表されたいくつかの科学的報告が、皮膚の色素沈着不全性疾患の治療におけるNGFアンタゴニストの使用の可能性に言及している(El-Samad ZA. et al., Egypt. J. Derm. & Androl. Vol. 27, No. 3,4, 2006; Lee MH. et al., Korean J. Physiol. Pharmacol., 2002)。特に、PUVA療法が皮膚の神経終末の密度を減少させることが見出されている(Tominaga M. et al., J Dermatol. Sci, 2009)が、その一方でNGFの局所適用が反対の効果を生じるであろうことが知られている。
【0030】
白斑治療においてNGFアンタゴニストを使用するという引用した著者らの提案に沿って、他の研究は、NGFの皮膚中レベルを低減することを目的とする療法が白斑の色素沈着不全性皮膚損傷に恩恵をもたらすことができるであろうことを示唆している(Rateb A. et al., J. Egypt. Wom Derma-tol. Soc, 2004)。この研究において、色素沈着不全性皮膚斑においてNGFの発現増大が起こること、及びメラノサイト上に配置されたNGF受容体の活性化が白斑におけるその変性/破壊にとって決定的であること、及び、したがって理論的にはNGFアンタゴニストは、白斑の将来の治療法である可能性があることが示唆されている。
【0031】
白斑の治療に関して、繊維芽細胞成長因子(FGF)として知られる天然由来の生物学的に活性な分子のファミリー、特に塩基性繊維芽細胞成長因子(bFGF)、及びbFGF由来のポリペプチド配列を使用することもまた提案されている。特に、米国特許第6143723号及び、欧州特許出願公開第1754489号及び米国特許出願公開第2007/0027080号(全てAbburi、Ramaiahの名で出願)において、白斑治療を目的とする皮膚への局所適用のためにbFGFの部分配列を含有する製剤を、単独で又は白斑の治療法として既知の他の療法との組合せて、使用することが提案されている。
【0032】
最近、米国特許出願公開第2010/0222275号(Tamaki他)は、表皮に対する濃色化活性を有する薬剤をベースとする白斑の治療のための局所用製剤を提案した。前記特許出願は、このような活性を有する薬剤として、繊維芽細胞成長因子(FGF)−酸性FGF(aFGF)及び塩基性FGF(bFGF)の両方−、上皮成長因子(EGF)、血管内皮成長因子(VEGF)及び血小板由来成長因子(PDGF)の群に属する薬剤を列挙していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0033】
本発明の目的の一つは、健常な皮膚にセルフタンニング剤として、又は白斑及び/若しくは他の色素沈着不全性の皮膚疾患に罹っている患者の色素脱失した皮膚に、治療及び/若しくはこのような疾患の予防のために、適用される局所用皮膚科学的製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0034】
本発明によれば、前記に引用した文献によって示唆されることに反して、神経成長因子(NGF)を含有する製剤の皮膚への局所適用は、白斑の場合においては、皮膚色素欠如症又は低色素症を含む皮膚科学的疾患の改善に有効であるのみならず、皮膚色素異常症に罹患していない健常皮膚においては、色素沈着の増大となる皮膚色の増強を達成するのに有効であることが見出された。
【0035】
実際、驚くべきことに、多数の分離した区域が白斑に罹っている6名のボランティア患者(3名の男性及び3名の女性)において、50から500μg/mlまでのマウスNGFを含有する局所用ベースクリーム製剤の1日2から4回までの塗布による、2から8週間の治療後に、色素脱失した区域の再色素沈着が観察されている。
【0036】
これらの患者において、Cochet−Bonnet接触エステシオメータを用いて、色素脱失斑の範囲内の1点と、周囲の健常皮膚範囲内のもう1点の2地点間での皮膚感受性の差を検出することによって、治療後の白斑部分における接触に対する感受性の増大もまた観察されている。
【0037】
本発明によって提案される治療の作用メカニズムとして考えられるものは、正常ヒト表皮メラノサイトの初代細胞培養物についてin vitroで、及びNGF製剤で処置したモルモットにおいてin vivoで、媒体(ベースクリーム)単独での適用(プラセボ)と比較して、予備的に研究されている。NGFの添加は、メラニンの増加を引き起こし、細胞の生存能力を向上させ、UV光線の照射後にメラノサイトの広がりをもたらしたことが見出された。
【0038】
さらにより顕著には、実験に供され、NGFによって処置されたモルモットの皮膚色素沈着の増大は、実験の全期間を通じてUV光への暴露又は太陽光への暴露がなくても観察されており、これによりNGFベースの製品に関してタンニング又はセルフタンニング製剤としての潜在的な実用性が示唆される。
【0039】
処置後に、動物は屠殺され、組織学的検査によって、NGFにより処置を受けた皮膚におけるメラノサイト、メラニン濃度及び神経終末の増加が明らかになった。
【0040】
さらに、本発明に関連する他の研究において、NGF及びその受容体の存在が、真皮及び表皮について、前記のin vitro及びin vivo実験の両方で、及びヒト生検から得られた組織について研究されている。前記に引用の以前の文献と一致して、NGF並びに高親和性受容体(TrkA)及び低親和性受容体(p75)の両方がメラノサイト及び線維芽細胞上のケラチノサイト上に配置されていることが観察された。
【0041】
健常な正常皮膚におけるNGF及びその受容体の存在は、免疫組織化学的及び分子的手法によって証明されているが、その生物学的活性、及びしたがって治療的効果をもまた示すことができることから根本的な必須条件を示している。この点に関して、白斑を有する未処置のボランティアの色素欠如斑からの2個の生検組織において、免疫組織化学的手法を用いて検査したところ、NGFの存在は検知されなかったことは注目すべきである。
【0042】
本発明によれば、前記に引用した文献によって示唆されることに反して、白斑の部類である色素沈着不全性の病態において、組織の完全性を確実にすることができる閾値を下回ってのNGFの局所レベルの低下は、病態メカニズムを示す可能性があるということ、及び当該組織への外因性NGFの投与のプラスの効果は、およそ生理学的濃度のNGF濃度(数μg/ml)で既に現れている可能性があることが想定される。処置動物の表皮におけるメラニン、及び患者における皮膚の色素沈着の増大から明らかなように、NGFの治療的効果は、細胞のメラニン形成メカニズムの逆転によるものである。
【0043】
したがって、本発明は、皮膚のタンニング又は濃色化、並びに白斑及び他の色素沈着不全性の皮膚疾患の治療を目的として皮膚の色素沈着を増大することができる局所適用のための製品を提供する。本製品は、皮膚の感覚的神経支配の増大及びメラノサイトの刺激によって色素沈着又は再色素沈着を促進又は加速するために、局所的に適用されるためのものである。
【0044】
特に、神経成長因子が皮膚表面への局所適用の後で生物学的作用を示したという可能性は、前記のようにNGFは複雑な構造をもつかなりのサイズ(26,800 ダルトン)の分子であるという事実を考えると、ほとんど予測することができなかった。このような分子をより深い皮膚組織のレベルにおいて作用できるようにする目的では、このような分子は皮膚表面に塗布されたら、角質層を通過して浸透する必要がある。現在の慣行において、皮膚への局所適用のための活性成分(特に、コルチゾンなどのステロイド)は、既に知られており、これらは表皮に浸透して治療的に有効な濃度でより深層に到達するが、その分子サイズはNGFのサイズよりもかなり小さい。実際、NGFは、複雑な構造及び大きな分子量を有するが、親水基及び親油基の両方を含むことが、この分子が相同性の構造のバリア(親水性及び親油性)を通過することを可能にしている。
【0045】
さらに、NGFの基本的特性は、NGFが、たとえ最小濃度であっても、しかし依然として生物学的に活性な濃度で、標的組織に到達すると、組織による同じNGFの外因性産生を刺激することができるという事実を本質とする。
【発明を実施するための形態】
【0046】
したがって、本発明は、色素異常性皮膚疾患の治療及び/又は予防のための、神経成長因子(NGF)を10から1000μg/ml含有する局所用皮膚用製剤を特に提供する。具体的には、本発明のNGFによる治療を使用することができる皮膚疾患には、白斑、両側性白斑、指趾顔面型白斑、汎発型白斑、限局性白斑、分節型白斑、全身型白斑、母斑周囲性(perinevic)白斑すなわちサットン(Sutton)母斑、白斑(leucoderma)、皮膚色素異常症、限局性白皮症、白色びこう疹、でん風、特発性及び炎症後滴状メラニン減少症、色素欠如性又は色素脱失性母斑、進行性斑状メラニン減少症、代謝性又は栄養的又は内分泌性疾患に起因するメラニン減少症、化学的、物理的薬剤又は医薬品に起因するメラニン減少症、感染性及び感染後メラニン減少症、炎症性メラニン減少症、から成る群に列挙された皮膚疾患が含まれる。
本発明の別の実施態様によれば、本発明は特に皮膚科学的に健常な対象者における皮膚色素沈着を誘導、増強又は加速するための、神経成長因子(NGF)を10から1000μg/ml含有する局所用皮膚用製剤の使用を提供する。
【0047】
特に、本発明に基づいて提案される製剤は、活性物質自体に対して皮膚科学的に耐性があり、且つ相容性があり医薬品に又は化粧品に許容されるキャリア中に、活性成分として、有効な量の神経成長因子(NGF)と称されるニューロトロフィンを含有する。提案の処方物で使用されるNGFは、ヒト由来のタンパク質質又はマウス由来のタンパク質であってもよく、或いはヒト組換えNGFであるか、或いはまたNGF受容体と結合することによりNGFと類似の役割を果たす物質、すなわちアゴニスト又はNGF−模倣物質であってもよい。
【0048】
神経成長因子などの、ニューロトロフィンのファミリーに属する他の生物学的に活性な分子、具体的にはニューロトロフィン−3(NT−3)、ニューロトロフィン−4(NT−4)及び脳由来神経栄養因子(BDNF)は、本発明に基づく同様な治療用又は美容的使用の妥当な候補に相当することができる。
【0049】
本発明の特定の側面よれば、単に肌の色を濃色化するため及び太陽光線への暴露を通じて得られるのと同等なタンニング効果を提供するために、提案されたNGF含有の局所用製剤が、皮膚科学的に健常な、すなわち皮膚疾患に罹っていない対象者の皮膚表面に適用されてもよい。したがって、NGFベースの製品は、活性成分として、単独で又は当業界において既知であり、相容性のある他の活性成分との組合せで、セルフタンニング化粧用処方において並びに添加剤として従来の日焼け防止製品においての両方で、自然のタンニングを増強し、又はそれを持続させるために、使用することができる。
【0050】
に指摘されているように、前記局所用製剤は、色素脱失性の及び/又は色素沈着不全性の皮膚疾患、又は皮膚のメラニン性色素沈着、例えば栄養性、神経栄養性、外傷後、感染後、手術後、自己免疫性、遺伝性、代謝性、栄養的、内分泌性、化学的、物理的、異栄養性、変性又は炎症後由来の特定の病態など、の治療及び/又は予防に適する。
【0051】
これら疾患のうちの多くが、治療が困難であるか又は有効な療法が全くないと考えられる。色素欠如性又は低色素性皮膚を伴って発現する他の疾患で、本発明のNGF製剤によって、少なくとも皮膚科学的外観に関しては、治療が可能であるものは、白皮症、先天性白化疾患(albiniod disorders)、白髪、色素失調症、伊藤メラニン減少症、色素性モザイク現象、硬化性萎縮性苔癬、白斑黒皮症、チェディアック−東症候群、Rozycki症候群、ワールデンブルヒメラニン減少症、Fisch症候群、Bourneville結節硬化症、Ziprkowski−Margolisのメラニン減少症、メンケズ症候群、Westerhof症候群、フォークト−小柳−原田症候群、アレザンドリニ症候群、遺伝性硬化性多形皮膚萎縮症、Dohiの肢端色素沈着症である。
【0052】
特に、本発明は、神経成長因子(NGF)と称されるニューロトロフィンのNGFを、活性成分として医薬品に許容されるキャリア中に含有する、水性、アルコール性又は油性溶液又は懸濁液、エマルション、スプレー、ローション、リニメント剤、クリーム、軟膏又はジェルの形態での使用に関する。皮膚への適用に加えて、特定の投与経路、例えば、イオン導入のメカニズムによって、又は表皮に適用される膜「リザーバー(reservoir)」システム(例えば、ポリマー膜)の形態で、或いは経皮的(percutaneous)、経皮的(transcutaneous)又は皮下送達に適した形態で、NGFを活性成分として医薬品に許容されるキャリア中に含有して、提供することもまた可能である。さらなる代替法として、NGF、又はNGFを含有する製剤を色素脱失した皮膚区域に適用する局所包帯材に添加することもまた可能である。
【0053】
本発明の製剤を完成するために、NGFの抽出及び精製の適切な手順が、前記に引用の参照文献に報告されている。下記に簡潔に報告するBocchini及びAngelettiによる手法は、当該製品の製造に使用されてきた。成体雄性マウスから顎下腺を無菌的に摘出し、組織をホモジナイズして、遠心分離にかけ、透析する。次いで、懸濁液をセルロース連続カラムに通すと、カラムにNGFが吸着されて残る。次いで、0.4M塩化ナトリウムを含有する緩衝液を用いて、NGFをカラムから溶出させる。こうして得られたサンプルを分光光度計により、波長280nmで測定し、分画物を含むNGFを同定する。分画物を透析し、こうして得られたNGFを無菌条件下で凍結乾燥し、フリーザー中、−20℃で保管する。
【0054】
皮膚表面への適用に適する本発明の医薬用製品は、好ましくは、単独で又は1つ又は複数の他の活性成分との組合せで、10から1000μg/mlのNGFを、好ましくは10から500μg/mlのNGFを、さらにより好ましくは50から500μg/mlのNGFを含有していてもよい。
【0055】
既に言及したように、本発明の局所用製剤において、NGFは、処置される皮膚科学的疾患の治療及び/又は予防に使用される1つ又は複数の他の活性成分との組合せで、存在してもよく、或いはキャリア分子と共役していてもよい。
【0056】
局所適用に適した特定の処方には、例えば、0.9%の生理食塩水又は平衡塩類溶液(BSS)に再懸濁した凍結乾燥精製マウスNGFが、皮膚への局所適用のための200μg/mlのNGFを含有する最終混合物が得られるように、最終的にベースのクリーム又はベースの軟膏の製剤と混合して含まれてもよい。
【0057】
NGFをベースとする処方の他の非限定的な例には、スプレー、軟膏、ジェル、クリーム又はリニメント剤の形態で、ポリエチレングリコール又は酸化ポリエチレン、ポリアクリラート、カルボキシメチルセルロース、脂肪酸及び脂肪アルコール、ラノリン、セトマクロゴール、パラフィンなどの適切なキャリアを含む処方が含まれる。
【0058】
本発明のNGFを含有する溶液、懸濁液又はエマルションは、生物学的に活性な種々の追加の成分を含んでもよく、及び/又はNGFはキャリア分子と、表皮の透過を促進することが知られている分子と、又は化粧品に許容される媒体(すなわち、化粧品用途に適した媒体)と共役してもよく、且つ当技術分野で周知であって、医薬品及び化粧品業界において従来使用されている成分、例えば、酸化剤、アルカリ化剤、防腐剤及び抗菌剤、抗酸化剤、緩衝剤、キレート剤、分散剤、エモリエント剤、湿潤剤、香料、サンスクリーン剤、皮膚科学的薬剤及び他の成分などから選択される、他の任意の成分を含有していてもよい。前記処方のこのようなカテゴリーの添加剤及びコアジュバントの非限定的な例を下記に列挙する。
【0059】
所望のpHを得るために添加することができる酸化剤の例には、クエン酸、乳酸、グリコール酸、酢酸、リンゴ酸及びプロピオン酸が含まれ、アルカリ化剤の例には、エデトール(edetol)、炭酸カリウム、水酸化カリウム又は水酸化ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、グリコール酸ナトリウムが含まれる。
【0060】
抗菌剤及び防腐剤は、皮膚に適用される製品が微生物感染を受けやすい場合及び/又は製品を劣化から守るために使用されてもよい。適切な防腐剤の例には、フェノキシエタノール、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルアラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、安息香酸、安息香酸ナトリウム、ベンジルアルコール、酢酸フェニル水銀、ソルビン酸カリウム、ソルビン酸及びこれらの混合物、例えばLiquaPar(登録商標)オイルが含まれる。
【0061】
処方中に含まれるか或いは製品の使用時又は貯蔵中に接触する可能性がある酸化性物質から製品の成分を守るために、抗酸化剤を使用することができる。適切な抗酸化剤の例には、アスコルビン酸、亜硫酸水素ナトリウム、二亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドスルホキシ酸ナトリウム、アスコルビン酸、イソアスコルビン酸、システイン塩酸塩、1,4−ジアザビシクロ(2.2.2)オクタン及びこれらの混合物などの水溶性抗酸化剤が含まれる。油溶性抗酸化剤の例には、パルミチン酸アスコルビル、ブチルヒドロキシアニソール、ブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピルカリウム塩、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル、フェニル−アルファ−ナフチルアミン、及びアルファ−トコフェロールなどのトコフェロールが含まれる。
【0062】
製品の表皮への浸透を促進するために、他の添加剤を添加してもよく、これらの添加剤は、医薬品技術分野で従来使用されている添加剤、例えば、溶液、懸濁液又はエマルションを緩衝するもの、活性成分を安定化するもの及び/又は製剤の耐性をより高めるもの、から選択される。適切な緩衝剤は、pHを4から8までに維持しなければならない。皮膚への使用に適した緩衝剤の例には、酢酸カルシウム、亜メタリン酸カリウム、リン酸二水素カリウム及び酒石酸が含まれる。
【0063】
製品のイオン強度を維持し及び/又は製品中に含まれているか又は製品が接触する分解性成分及び金属を束縛するために使用されることがあるキレート剤には、エチレンジアミノ四酢酸(EDTA)及びその塩、例えばエデト酸二カリウム、エデト酸二ナトリウム、テトラナトリウムEDTAなど、が含まれる。
【0064】
本発明のNGFをベースとする局所用皮膚用処方に適した分散剤には、カラギーナン、ケイ酸マグネシウム及びケイ酸アルミニウム、キサンタンガム及び二酸化ケイ素が含まれる。
エモリエント剤は、表皮を柔軟且つ滑らかにし、したがって製品が角質層を通過するのを容易にする薬剤である。活性成分の浸透を促進する化合物、例えばジメチルスルホキシド、タウロコラート、膜リン脂質及び皮膚科学的使用に適した種々の界面活性剤など、を使用することによって、NGFの皮膚での生物学的利用能をさらに高めることが可能である。エモリエント剤の例には、油及びマイクロクリスタリンワックスなどのワックス、ヒマシ油、サフラワー油、トウモロコシ油、オリーブ油、タラ肝油、アーモンド油、パーム油、大豆油、カカオバター、スクワランなどのトリグリセリドエステル、アセチル化モノグリセリド、エエトキシル化グリセリド、脂肪酸、脂肪酸アルキルエステル、脂肪酸アルケニルエステル、脂肪アルコール、脂肪アルコールエステル、ラノリン及びその誘導体、ポリヒドロキシアルコールエステル、ミツロウ、植物ワックスなどのワックスのエステル、パルミチン酸イソプロピル及びステアリン酸グリセリルが含まれる。
【0065】
湿潤剤は、典型的に水分保持を促進する薬剤、例えば保湿剤である。湿潤剤の例には、シロキサン、ソルビトール、グリセリン、グリセレス−5−ラクタート、グリセレス−7−トリアセタート、グリセレス−7−イソノナノアート、ヘキサンチオール、グリコール、例えばメチルプロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール及びプロピレングリコールなど、アルコキシル化グルコース、D−パンテノール及びその誘導体、ヒアルロン酸が含まれる。
【0066】
本発明の局所用皮膚用製品に添加することができる香料の例は、ペパーミント、ローズ水、アロエベラ、丁子油、メントール、カンファー、ユーカリ油及び他の植物抽出物である。製品のある種のにおいを除去するために、マスキング剤、例えばエチレンブラシラートを使用してもよい。
【0067】
サンスクリーン剤は、典型的に、(例えば、紫外線の吸収、散乱又は反射によって)皮膚を侵す紫外線照射を遮断するか又はその量を低減するために使用する。非常に多くのサンスクリーン剤の例が、文献において知られており、その中で、例えば有機化合物及びその塩、例えばブチルメトキシジベンゾイルメタン、ジエチルヘキシルブタミドトリアゾン、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、エチルヘキシルトリアゾン、bis−エチルヘキシルオキシフェノールメトキシフェニルトリアジン、メチレンbis−ベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、サリチル酸エチルヘキシル、ベンゾフェノン−3、オクトクリレン、アボベンゾン、メンチルアントラニラート、2−エチルヘキシル−p−メトキシシンナマート、並びに無機微粒子物質、例えば酸化亜鉛、シリカ、酸化鉄、二酸化チタン、などの両方が知られている。一般に、製品は、0重量%から50重量%のサンスクリーン剤を含有することができる。正確な量は、使用される薬剤及び所望のサン・プロテクション・ファクター(SPF)によって異なることになる。
【0068】
本発明のNGFベースの製品に添加してもよい皮膚科学的に活性な成分には、低色素性又は色素欠如性皮膚、特に白斑の治療のため既に記載した活性成分、並びに随伴する可能性があるか又はタンニング処理の間に防がなくてはなら他の皮膚科学的疾患の治療用に許可された薬剤、例えばレチノイン酸、が含まれる。
【0069】
その更なる側面によれば、本発明は、神経成長因子(NGF)を含有する製剤を治療される皮膚区域に適用することによって、皮膚の色素沈着を誘導又は増強するための方法に関し、前記製剤は、10から1000μg/mlのNGFを含有する。特に好ましいNGFの濃度は、50から500μg/mlまでで変化してもよい。この方法は、純粋な美容目的並びに皮膚疾患及び白斑などの色素沈着不全性疾患の治療目的の両方で、皮膚の色素沈着を刺激及び/又は加速することを可能にする。
【0070】
処置のタンニングの方法で製剤を使用する場合には、既に言及したように、NGFベースの局所用製品は、セルフタンニング製剤と一緒に処方されるか又は同時に使用されてもよく、或いはサンタン製剤と組み合せてもよく、前記製剤の適用はUV照射又は太陽光への暴露と組み合せてもよい。
【0071】
本発明の製剤を治療目的で使用する場合、本発明によれば、神経成長因子の色素脱失した皮膚への局所適用は、色素脱失性又は色素沈着不全性の組織に神経栄養性作用を及ぼすことによって、皮膚神経支配を増大することが実験的に見出されている。この効果は、皮膚メラノサイトを刺激するという成果を達成し、したがって色素沈着の病理学的な低減を被っている区域の再色素沈着を可能にする。
【0072】
したがって、本発明のいくつかの好ましい実施形態によれば、皮膚色素異常症を伴う皮膚疾患の治療及び/又は予防のための本発明で提案の方法において、NGFベースの製剤の適用は、好ましくは下記の1つ又は複数と組み合わされる:
(i)局所使用のためのステロイド製剤の適用;
(ii)活性化ビタミンD及び/又は活性化ビタミンDをベースとする局所使用のための製剤の適用;
(iii)単独で又は光増感剤、特にソラレンの使用と組み合せた光線療法。
【0073】
既に言及したように、治療される前記皮膚疾患は、白斑、両側性白斑、指趾顔面型白斑、汎発型白斑、限局性白斑、分節型白斑、全身型白斑、母斑周囲性(perinevic)白斑すなわちサットン(Sutton)母斑、白斑(leucoderma)、皮膚色素異常症、限局性白皮症、白色びこう疹、でん風、特発性及び炎症後滴状メラニン減少症、色素欠如性又は色素脱失性母斑、進行性斑状メラニン減少症、代謝性又は栄養的又は内分泌性疾患に起因するメラニン減少症、化学的、物理的又は薬理学的薬剤に起因するメラニン減少症、感染性及び感染後メラニン減少症、炎症性メラニン減少症、から成る群から選択される。
【0074】
既に言及したように、本発明が提案する方法に使用するための処方中に含まれる神経成長因子は、ヒト由来のNGF又はマウス由来のNGF、或いはヒト組換えNGFであってもよく、或いはまたNGFのアゴニストであってもよい。
【0075】
例及び実験結果
本発明の治療のいくつかの特定の実施形態を、非限定的な例として、実施された臨床試験の結果と共に、下記に記載する。
【0076】
in vitro試験
正常ヒト表皮メラノサイトの初代細胞培養物をペトリ皿に播種し、培地中、種々の濃度のNGFの存在下及び非存在下で標準プロトコールに従って1週間培養した。酵素免疫測定法イライザ(ELISA)(酵素関連免疫吸着体測定法)によって測定したメラニン含有量は、NGFを豊富に含む培養物において有意に増加した。メラノサイトの増殖及び広がりには、有意な差はなかった。しかし、NGFを豊富に含む細胞培養物に紫外線照射をしたとき、メラノサイトの拡散は、有意により急速化し、アポトーシス細胞数の減少が観察された。
【0077】
動物モデルでのin vivo試験
予め1週間馴化させた4週齢の色素沈着モルモットの背側部の約6cm×6cmの区域を電気剃刀で週2回剃毛した。適用は、正中線の両側から離して配置した剃毛区域の2部位に対して行った;左側にはベースクリームの媒体中に200μg/mlのマウスNGFを含有する局所用製剤を適用し、右側にはベースクリームのみを適用した。
【0078】
適用は、剃毛区域の中央部の約2cm×2cmの範囲に、均一に1日2回、6週間行った。第2日目に開始してそれ以降も、試験に供している製剤を適用する前に皮膚を拭き取ることにより適用部位を清浄にした。動物に対する紫外線のいかなる暴露をも回避するよう注意を払った。皮膚の色を、最初の適用の前(時間0)及び処置終了時に比色計を用いて測定した。
【0079】
試験した全ての処置動物において、NGFで処置した側の肌の色は、媒体のみで処置した区域の色と比較したとき、時間0に比べて有意に増加していた。
【0080】
さらに組織学的検査を行うために、処置後に、動物を屠殺し、各動物の処置区域及び未処置区域の両方から皮膚サンプルを採取した。メラノサイト及びメラニン含有量及び神経終末の密度は、媒体のみで処置した区域と比較してNGFの製剤で処置した皮膚区域において有意に増加した。
【0081】
臨床実験
下記に報告する実験は、例として、本発明の方法の使用によって達成された成果を例証している。
【0082】
白斑の患者の治療
a)50μg/mlのNGFを含有するクリーム
ベースクリーム中に50μg/mlのマウスNGFを含有する製剤による局所治療を、白斑に罹っている2名のボランティア患者(1名の男性及び1名の女性)において、色素脱失した皮膚表面の斑点に1日4回、8週間、行った。
【0083】
各患者において、治療を受ける皮膚の斑点の色を治療自体の前後に比色計により測定して、同一の患者の近傍皮膚区域の健常に色素沈着した皮膚の色と比較し、並びに治療後の治療を受けた斑点の色と比較した。
【0084】
Cochet−Bonnet接触エステシオメータを用いて接触皮膚感受性を測定し、目盛り付きコンパスを用いて、色素脱失斑と近傍の健常皮膚区域の2点間での皮膚感受性の差を評価した。
【0085】
同一患者での色素異常症に罹った皮膚の班点と健常皮膚区域との比較において、治療終了時に斑点の色の有意な改善が観察された。治療終了時には、皮膚の接触感受性の有意な改善もまた観察され、Cochet−Bonnet接触エステシオメータで測定して5mm、及び2点間での皮膚感受性の差で測定して3mmの平均改善であった。
【0086】
副作用については、局所的副作用、全身的副作用のいずれも、被験者からの報告は全く無かった。
【0087】
b)200μg/mlのNGFを含有するクリーム
ベースクリーム中に200μg/mlのマウスNGFを含有する製剤による局所治療を、白斑に罹っている2名のボランティア患者(1名の男性及び1名の女性)において、色素脱失した皮膚表面の斑点に1日3回、4週間、行った。
【0088】
結果の評価及び関連のモダリティは例3においてと同様であった。
【0089】
治療終了時には、治療前の同一の斑点との比較でも、同一患者の白斑に罹っていない皮膚区域との比較でも、白斑に罹った斑の色素沈着に有意な改善が観察された。皮膚の接触感受性の有意な改善もまた観察され、Cochet−Bonnet接触エステシオメータで測定して8mm、及び2点間での皮膚感受性の差で測定して5mmの平均改善であった。
【0090】
副作用については、局所的副作用、全身的副作用のいずれも、被験者からの報告は全く無かった。
【0091】
c)500μg/mlのNGFを含有するクリーム
ベースクリーム中に500μg/mlのマウスNGFを含有する製剤による局所治療を、白斑に罹っている2名の患者(1名の男性及び1名の女性)において1日2回、2週間、行った。
【0092】
結果の評価及び関連のモダリティは例3においてと同様であった。
【0093】
治療終了時には、治療前の同一の斑点との比較でも、同一患者の白斑に罹っていない皮膚区域との比較でも、白斑に罹った斑点の色素沈着に有意な改善が観察された。皮膚の接触感受性の有意な改善もまた観察され、Cochet−Bonnet接触エステシオメータで測定して1cm、及び2点間での皮膚感受性の差で測定して5mmの平均改善であった。
【0094】
副作用については、局所的副作用、全身的副作用のいずれも、被験者からの報告は全く無かった。
【0095】
本発明は、そのいくつかの特定の実施形態に特に関連して開示されているが、当業者によって、添付の請求項に規定される本発明の範囲から逸脱することなく、修正及び変更がなされてもよいことが理解されよう。