【文献】
Anand Prabhu Subramanian et al.,Topology Control Protocol Using Sectorized Antennas in Dense 802.11 Wireless Networks,Network Protocols, 2009. ICNP 2009. 17th IEEE International Conference on,2009年11月,pp.1-10
【文献】
Tae Hyun Kim et al.,MIMO Wireless Networks with Directional Antennas in Indoor Environments,The 31st Annual IEEE International Conference on Computer Communications: Mini-Conference,2012年 3月30日,pp.2941-2945
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
送信機と受信機との間でリンクが確立され、前記送信機または前記受信機は、どのリンクアンテナパターンを選択するかを前記それぞれの受信機または送信機に知らせる、請求項1に記載の方法。
マイクロプロセッサと、プログラムメモリと、データメモリと、少なくとも2つのアンテナを有しMIMO方式で動作するように適合されたワイヤレス送信機および/または受信機と、を備える装置であって、前記アンテナは区分型指向性アンテナであり、前記プログラムメモリは、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法を実行するように適合されたプログラム命令を保持する、前記装置。
【背景技術】
【0002】
家庭および企業でユニファイドコミュニケーション、IPTV、コラボレーティブアプリケーションへの傾向が高まり、またそれに対応して高スループットワイヤレス通信に対する需要が増加するのに伴って、多入力多出力(MIMO)が、将来のワイヤレスネットワークのための重要な技術の1つになってきた。MIMOは、複数の全方向性アンテナを信号処理技法と組み合わせて、利用可能な無線リソースの次元を、時間、周波数、および空間に拡張する。MIMOは、多くの標準プロトコル、例えばIEEE802.11nパート11で採用されており、高スループットを必要とするストリーミングされる音声および高解像度ビデオトラフィックを搬送するのに、広く展開されてきた。
【0003】
長く関心を持たれてきた別のワイヤレス技術は、指向性アンテナである。指向性アンテナは、所定の狭ビームを使用して、RFエネルギーの焦点を所望の受信機に向ける。これにより、スループット利得が達成され、干渉が低減される。さらに、アンテナの指向性は、見通し線経路を可能にする屋外環境では特に、アンテナの正しい配向を決定するのを容易にする。最近では、屋内環境での指向性アンテナが、見通し線経路がなくてもノード間で少数の強力な経路を提供することが示された。
【0004】
MIMOと指向性アンテナとの組合せが論じられた(例えば、非特許文献1参照)。しかし、結果は指向性アンテナの固定配向に基づき、これにより、指向性アンテナを使用する利益がせいぜいわずかであるという結論に至った。
【0005】
MIMOと指向性アンテナとを散乱の少ない環境で使用することが論じられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
MIMOと指向性アンテナとを使用する関連分野では、複数のアンテナの配向を決定するためにパケット誤り率を収集することが論じられている(例えば、非特許文献3参照)。関連するレート適応アルゴリズムが論じられている(例えば、非特許文献4参照)。
【0007】
複数のセクタを有する無線アクセスネットワークであって、移動局にデータを送信するためにそれぞれのセクタにサービスする2つ以上のセクタ送信機を備える無線アクセスネットワークが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
達成可能なレートを改善しながら、アンテナ選択を使用して複数プライマリユーザ環境における干渉制約を合同で満たすことが論じられている(例えば、非特許文献5参照)。
【0009】
コグニティブ無線設定における周波数再利用のためのアンテナ選択アルゴリズムが論じられている(例えば、非特許文献6参照)。
【0010】
ネットワーク干渉を最小化しネットワーク容量を最大化するための、測定ベースの最適化フレームワークが提示されている(例えば、非特許文献7参照)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による例示的な装置には、少なくとも2つのマルチセクタアンテナが備わり、各マルチセクタアンテナは4つのアンテナ素子を有する。一実施形態では、アンテナ素子は、指向性利得を提供しない。装置はさらに、プロセッサーと、プログラム情報の実行中にプログラム情報を記憶するように適合されたプログラムメモリと、プログラム情報の実行中にデータを記憶するように適合されたデータメモリとを有する。装置はさらに、プログラム情報の実行中に使用されるプログラム情報および/またはデータを非一時的に記憶するために、不揮発性記憶メモリ(例えばフラッシュメモリタイプまたは電気的消去可能プログラム可能ROM(EEPROM)タイプのもの)を有してよい。光学または磁気記憶装置、およびクライアント/サーバデータ記憶装置を含めた、他のタイプの不揮発性記憶メモリも考えられる。装置にはさらに、例えばLANまたはホストデバイスに接続するために、データ送受信用の有線インタフェースが装備されてよい。有線インタフェースは、例えば、USBタイプまたはIEEE802.3タイプのものとすることができる。他のタイプの有線インタフェースも考えられる。指向性利得は、全方向性放射パターンと比較した、1方向に向けた指向性アンテナの追加アンテナ利得を示すのに使用される。例示的な一実施形態では、アンテナ素子は、プリント回路基板またはPCB上にプリントされ、IEEE802.11nの5GHz中の水平面全体をカバーする。送信または受信のために給電ネットワークを介してセクタの任意の組合せをアクティブ化することができ、以下ではこれらの組合せを、セクタアクティブ化パターンまたは単にセクタパターンと呼ぶ。この結果、2
4−1=15個の異なるアクティブ化パターンが得られる。これらのうちの1つは、「4つのセクタ全てがアクティブ化され」、全方向性パターンとなり、以下ではこれをオムニモード(omni-mode)と呼ぶ。
図1(a)および1(b)に、アクティブ化されるセクタが1つおよび4つの場合の放射パターンをそれぞれ示す。表1に、パターンごとのアンテナ指向性利得が、アクティブ化されるセクタの数と、アクティブ化されるセクタが2つの場合にそれらが対向(2対向)するか隣接(2隣接)するかと、の両方に依存することを示す。
【0026】
アクティブ化されるセクタが少ないアンテナパターンほど指向性利得が高いことは、直ちに明らかである。しかし、アンテナ給電ネットワークは、全てのアンテナパターンがほぼ等しいピーク利得を示すような給電損失を導入するように設計されている。この設計の決定は、マルチホップメッシュネットワーク中の指向性端末の問題を低減するために行われたものである。
【0027】
図2に示すように、例示的なテストセットアップが、典型的な研究室空間の単一フロアで展開される。これは、キュービクルと、ブースと、ガラスの壁で分離されたオフィスとからなる、典型的なオフィス環境である。マルチセクタアンテナが利用可能なので、4つのノードしか必要でない。送信電力またはTx電力制御によって、異なるトポロジをエミュレートすることができる。
【0028】
本明細書で提示する例示的な測定結果は、UDPスループットをリンク性能測定基準として使用して得られた。マルチセクタアンテナを使用するMIMOリンクの最大スループットを測定するために、多数のアクティブ化パターン、および可能性ある時間的変動を考慮する必要がある。
【0029】
それぞれs個のセクタのマルチセクタアンテナを送信機Txと受信機Rxの両方が使用する、K個のMCSデータレートを伴うM×M MIMOシステム中では、全ての組合せをテストするにはK×(2
8−1)
2M回のスループット測定が必要である。これは、M=2、s=4、およびK=16の場合の例示的なシステム中では、810,000回のスループット測定に対応する。本発明では、この問題が2つの方法で対処された。第1に、リンクごとに検討されるアクティブ化パターンの数が制限される。具体的には、リンクの他方の端をオムニモードにして、TxとRxすなわち送信機と受信機のいずれかで、セクタアクティブ化が実施される。現在の802.11n WLANでは、アクセスポイント(AP)でTxビームフォーミングのみが実施され、クライアントは全方向性アンテナを有することに留意されたい。さらに、アクティブなセクタの数は、各アンテナにつき同数に維持される。これにより、検討されるアンテナパターンの数は、この特殊なケースでは、(2
8−1)
2Mから、
【0031】
に削減される。パターンセットは、TxまたはRxの選択、および1アンテナ当たりのアクティブなセクタの数として言及される。第2に、UDPスループットと、SNRすなわち信号対雑音比とのマッピングを使用して、複数のMCSレートが対処される。例示的なセットアップで使用されるハードウェアは、ほとんどの802.11ワイヤレスデバイスによって提供される受信信号強度すなわちRSSに加えて、受信パケットごとのSNR情報も記憶する。パケットがSDMモードで符号化される場合は、1対のSNR値(空間ストリームごとのSNR)が利用可能であり、STBCモードで符号化される場合は、単一のSNR値が利用可能である。
【0032】
例示的な一連の測定では、ハードウェア特有のSNR情報がUDPスループットにマッピングされる。各MCSレートのUDPスループットは、iperfおよびtcpdumpツールを使用して、制限されたパターンセットの各々で5秒間測定される。5秒の測定の継続時間は、テストによって十分であると識別されたものである。トラフィック負荷は、各MCSレートよりも高く設定される。SNR値は、平均化され、スループットにマッピングされる。SDMモードのパケットの場合は、スループットへの1対1マッピングのために、SNR値の各対が、単一の実効SNRに結合される。したがって、実効SNRは、1対のSDMモードSNR値に対する単一の代表SNRである。
【0033】
前述のように、異なるアクティブ化パターンの測定結果は、ワイヤレスチャネルの時間変動に影響される場合がある。この影響を定量化するために、長期平均の±δdB範囲に含まれるSDM実効SNRサンプルの割合が測定される。
図3に、異なるδの場合のこれらの結果を示す。夜間は、200秒までの時間間隔でも、サンプルの10%のみが長期平均から2dB外れる(
図3(a)参照)。日中(
図3(b)参照)は、20秒の時間間隔で、サンプルの約15%が長期平均に対して2dB外れ、これは、使用される802.11nデバイスの1dB粒度に近い。外れ値の影響をさらに最小限に抑えるために、全ての測定は別段の指定がない限り夜間に実施され、各アクティブ化パターンおよびオムニモードのバックツーバックのスループットが測定され、それぞれの差のみが検討された。
【0034】
図4に、例示的なワイヤレスデバイスの、平均化されたスループットサンプル、および対応するSNRまたは実効SNR値を、例示的に示す。マッピングを生成するために、一般化されたシグモイド関数が、同じMCSレートのスループットサンプルの各セットに適合される。あるアンテナパターンを使用するリンクのスループットは、STBC SNR値およびSDM実効SNR値を測定し、マッピングを使用してこれらの2つのSNR値をスループットにマッピングし、これらの2つのスループット値の最大値を選ぶことによって、推定される。
【0035】
オムニモード伝送を介したMIMOセクタアクティブ化のスループット利得を定量化するために、前と同じ例示的なテストセットアップが使用される。やはり、前と同じマッピングを使用して、スループット利得を得るためにオムニモードのSNRがバックツーバック方式で測定される。信頼できる結果を得るために、各測定が5回繰り返され、結果が平均化される。様々なセクタパターンについて、RSS、アクティブ化されるセクタの数、Txセクタアクティブ化であるかRxセクタアクティブ化であるか、デバイスの位置、指向性利得、および時間的スループット変動、の影響が決定される。
【0036】
図5に、Txセクタアクティブ化とRxセクタアクティブ化の両方によるアンテナパターンのスループット利得を示す。
図5の各灰色バーは、1アンテナ当たりのアクティブ化されるセクタが1つ、2つ、または3つの場合のメジアン利得を示す。エラーバーは、最大および最小スループット利得を表す。黒いバーは、最高のRSSを有するパターンのスループット利得を表す。ほとんどのリンクは、オムニモードと比較して正の最大スループット利得を達成し、1アンテナ当たり2つのRxセクタを使用するリンク1−3上では最大で130%、また全てのリンクの平均で21%である。これは、直観に反するように見える。というのは、前述のように、例示的なテストセットアップで使用されるマルチセクタアンテナは、オムニモードと比較してアンテナ指向性利得を提供しないからである。マルチセクタアンテナは等しいかまたはより少ない信号電力で送信または受信し、TxとRxとの間の様々な経路のいくつかは抑制されるので、正のスループット利得を観察することは不可能なはずだと主張するかもしれない。正のスループット利得は、角領域中の信号のクラスタ化された伝搬によるものである。屋内環境での伝搬測定は、発射角AoDと到来角AoAとが、相関する信号クラスタを形成することを示した。さらに、2つから4つのクラスタのみが受信信号に寄与する。正のスループット利得を達成するアンテナパターンは、これらの優勢な信号クラスタと同相に整合し、したがって負の利得を回避するが、これらのアンテナパターンはまた、アンテナ入力における信号相関を誘発する他のクラスタとは整合しない。この不整合により、受信信号相関が低減し、MIMOチャネル行列が非相関に見える。したがって、指向性利得のないセクタアクティブ化が、MIMOチャネルを構造的に変更することによってスループット利得を生み出すことができる。高い正の最大スループット利得の可能性にもかかわらず、
図5はまた、ほとんどのリンクが負のメジアンスループット利得、すなわち平均−9,3%を達成し、最小利得が−100%もの低さに達しうることも示す(例えば、1アンテナ当たり2つのRxセクタの場合のリンク1−3)。したがって、正の利得を提供するアンテナパターンは半分未満であり、セクタアクティブ化パターンが慎重に選ばれなければ、スループット性能に対する高いペナルティが生じるであろう。
図5に表される測定結果は、最大スループット利得が、アクティブ化されるセクタの数、またはTxアクティブ化が使用されるかRxアクティブ化が使用されるかに依存しないことを、はっきりと示す。
【0037】
図5のほとんどのノード対(x,y)では、Txアクティブ化を用いたリンクx−yの性能は、Rxアクティブ化を用いた相反的なリンクy−xの性能とは徹底的に異なる可能性がある。したがって一般に、リンクは対称ではなく、リンク相反性を活用して測定オーバヘッドを低減することはできない。これは、
図5(a)および5(b)のそれぞれのTxアクティブ化とRxアクティブ化の両方に当てはまる。したがって、アンテナ指向性利得がない場合、RSSは十分な精度でスループット利得を予測することはできない。
【0038】
図5はまた、同じ場所に位置するリンクが、徹底的に異なる性能を示すことも示す。例えば、ノード2を共有するリンク2−3および5−2を考えてみる。リンク2−3は、Txアクティブ化とRxアクティブ化の両方で正の最大スループット利得を達成し、Rxアクティブ化で正のメジアンスループット利得を達成し、RSSベースのスループット利得は、Rxアクティブ化では最大スループット利得に近い。対照的に、リンク5−2は、Txアクティブ化でのみ正の最大スループット利得を達成し、負のメジアンスループット利得を有し、RSSベースのスループット利得は全てメジアンスループット利得に近い。以上の観察に基づくと、スループット利得は「任意」に見える。しかし、本発明者らは、信号散乱の点から見て「任意」なのは環境であり、セクタアクティブ化がMIMOチャネル(これらは周囲環境に大きく依存する)の構造を変更することを見出した。M×N MIMOチャネルにおけるTxアンテナ信号とRxアンテナ信号との関係は、y=γ・Hxであり、ここで、xは、1×M入力ベクトルまたはTxシンボルベクトルであり、γは、スカラ経路損失ベースチャネル利得であり、Hは、M×N MIMOチャネル行列であり、yは、1×N出力ベクトルまたはTxシンボルベクトルである。RSSがスループット利得の良いインジケータでないという前の観察は、スループット利得に対する主要な寄与要因が、スカラ利得γではなく、MIMOチャネル行列Hの構造であることを意味する。
【0039】
既存の研究は、Hの構造が、リンクの周囲環境および結果的な経路に大きく依存すると述べている。特に屋内環境では、各リンクの周囲は、顕著に異なり、アクティブ化パターンにまたがって異なるスループット利得特性につながる。
【0040】
前述のように、オムニモードで送信電力を低減することによってアンテナ指向性利得を生み出すことができる。例示的なテストセットアップで使用されるネットワークインタフェースカードすなわちNICは、3dBインクリメントの送信電力制御をサポートし、これにより、アクティブなセクタの数が1または2であるときにマルチセクタアンテナの給電損失を補償することが可能となる(表1参照)。アクティブなセクタが3つの場合の給電損失は1.25dBなので、アクティブなセクタが3つであるパターンセットは以下では検討されない。
【0041】
図6に、リンクの他方の端に向けたアクティブ化されるセクタの地理的方向によって分類されたアンテナパターン配向の関数として、全てのリンクにわたる平均スループット利得を示す。TX1およびTX3は、1つのTxセクタおよび3つのTxセクタのアクティブ化パターンをそれぞれ示す。RX1およびRX3は、Rxアクティブ化に対応する。F、L、R、およびBは、前、左、右、および後ろの配向をそれぞれ示す。例えば、TX1(またはTX3)におけるF/Fでは、2アンテナMIMOシステム中の両方のアンテナが、受信機に面したアクティブなTxセクタを有する。1ノードにつき単一のセクタ化アンテナがある場合とは異なり、地理的関係は、アクティブなセクタの数およびRxアクティブ化であるかTxアクティブ化であるかにやはりかかわらず、スループット利得と相関しない。
【0042】
図7に、アンテナ指向性利得がある場合の1リンク当たりのスループット利得を示す。最大およびメジアンスループット利得は、それぞれ71%および14%である。セクタアクティブ化パターンセットを慎重に選ぶと、1−2および3−2のようないくつかのリンクは、100%を超える最大利得を示す。また、リンク1−3、2−3、および3−2のメジアン利得は、50%を超える。全体的に、メジアン利得は、80個のうち11個のパターンセットにおいて正であり、このことは、各パターンセット中の半分よりも多いアクティブ化パターンが、オムニモードよりも高いスループットを提供する可能性が高いことを含意する。したがって、エミュレートされた指向性利得は、MIMOを使用しても、γによって表されるRx信号レベルを増加させる。この効果は、以前は単一アンテナシステムについてしか確認されなかった。
【0043】
図7では、アクティブ化されるセクタの数は、スループット利得にあまり影響しない。10個のリンク全てで、5つのリンクは、Txアクティブ化かRxアクティブ化かにかかわらず、1アクティブ化と2アクティブ化の両方の競合的なスループット利得を示す。指向性利得のない場合と同様、
図7はまた、様々なリンク位置および相反的構成についてスループット利得が任意に見えることを明らかにする。地理的関係は、スループット利得のどのような指示も提供しない(グラフは示さず)。やはり、これらの観察も、周囲環境間の差の結果と解釈することができる。
【0044】
図5と同様、
図7でも、黒いバーは、RSSベースのスループット利得を表す。RSSベースのアクティブ化の結果、40個のうち34個のパターンセットにおいて、メジアンよりも高いスループットとなる。さらに、10個のパターンセットは、最大スループット利得の10%以内である。したがって、屋内環境の任意の周囲にかかわらず、RSS値は、アンテナ指向性利得があるときにスループット利得をうまく表すと結論づけられる。
【0045】
アンテナ指向性がある場合にRSSがスループット利得の良い測定基準であることはわかったが、パターンセット中の全てのパターンのRSSをプロービングすることは依然として必要かもしれない。このように予想されるはずなのは、上で検討された他の空間的測定基準がどのような相関も示さなかったからである。しかし、本発明者らは、時間的プロパティを利用することによって、常に全てのパターンをプロービングする必要はないことを見出した。
【0046】
例示的なテストでは、後続のオムニモード測定なしで、アクティブ化パターンに対するSNR測定が、1Tx、1Rx、3Tx、および3Rxアクティブ化パターンセット中のパターンから実施された。リンク2−1、2−3、および2−5が、アンテナ指向性利得なしで検討される。13:30から17:30までの4時間にわたり、各セットの全てのパターンがプロービングされ、プロービングが40回繰り返された。次いで、上にさらに論じたマッピングを使用して、スループットが得られた。
【0047】
図8に、セクタアクティブ化を介したスループットの時間的変動を示す。所与の時間について最大値(最大)が全てのパターンにわたってとられ、時間経過の中で1番目(1位)および2番目(2位)に大きい数字の最大スループットを示すパターンのスループットが、経時的に追跡される。太いラインは、3Txセクタアクティブ化の全てのパターンからのスループットのうちの最大スループットの変動であり、「最大」の符号が付けられている。パターンが最大スループットをもたらす回数を計数することによって、最も頻繁に最大値を達成する2つのパターン(「1位」および「2位」の符号が付けられている)が選ばれ、経時的に追跡された。2つのサブフィギュアは、2つの極端な傾向を実証する。
図8(a)では、1位および2位は、40回のうち38回、すなわちほとんどの時間、最大スループットに合致する。しかし、
図8(b)では、ほとんどの時間、最大スループットと、1位および2位にランクされたアクティブ化パターンのスループットとの間に隔たりがある。2つのパターンは、最大スループットの40%しかカバーしない。この場合でも、16から24までの時間インデックスの間の期間(おおよそ45分に対応する)中は、1位または2位のパターンは、最大スループットに近いスループットを達成する。
【0048】
何個のパターンが時間経過の中で最大スループットを達成するかをさらに見るために、パターンが最大スループットを何回達成するかが記録された。次いで、90%および95%の時間にわたって最大スループットを共にカバーするパターンの最小サブセットが識別される。これを表2に要約する。
【0050】
平均して、16個のうち5.4個および6.3個のパターンが、それぞれ90%および95%の時間にわたって最大スループットを達成すると考える必要がある。2つの観察が行われた。第1に、
図8の2つの極端なケースは、少数のパターンのみが、最大スループットを達成すると考えるに値することを示す。第2に、
図8(a)から、スループットは変動することもあるが、少数のパターンは依然として最大スループットを提供している。最大スループットを提供するパターンの安定性は、屋内環境の周囲の要素の静止しているという性質によるものであるはずだと推論される。反対に、
図8(b)に示す、小さい時間尺度での比較的速いスループットの変動は、人々が動き回っていることによるものであるはずである。
【0051】
以下のセクションでは、干渉低減および空間再利用について検討する。前と同様の連続的リンクアクティブ化の実験的方法を使用して、Txアクティブ化セット中の各パターンについてSNRおよびRSSが測定され、その後すぐにオムニモード測定が行われた。差RSS
diff=RSS
x−RSS
omniが、干渉測定基準として使用される。負の値は、セクタアクティブ化パターンxが、オムニモードと比較して干渉を低減し、空間再利用を増大させることを意味する。安定し静止した環境を有するために、全ての測定は夜間に実施され、結果は5回の反復の平均である。上記の実験は、アンテナ指向性利得ありとなしの両方の場合について実施される。
【0052】
図9(a)に、アンテナ指向性利得がない場合の、各リンクの近傍におけるオムニモードの平均RSS
diffを示す。例えば、「リンク1−2、1セクタ」ポイントの場合、平均は、リンク1−2の全ての1セクタアクティブ化について得られた全てのリンク1−3および1−
5のRSS
diff値を含む。アクティブなセクタの数が減少するにつれて、RSS
diff値は減少する。1つのセクタ化アンテナ当たり1つのTxセクタがある場合、オムニモードと比較した干渉は、最大で12dB(リンク2−1)および平均で8dB(リンク2−5)まで低減することができる。セクタアクティブ化は、干渉レベルを低減するが、必ずしもスループット利得を増大させるとは限らない。
【0053】
図9(b)に、全てのアンテナパターンにわたるRSS
diff値を、スループット利得が高い順に示す。各リンクにつき、パターンはまず、スループット利得が高い順に分類され、次いで、同じランキングのRSS
diff値が平均化される。アクティブ化されるセクタの数ごとに、RSS
diff値がスループット利得と関係しないことを観察することができる。特に、最高スループット利得については、これらは一定のままである。したがって、アクティブ化されるセクタの数を選択することによって、一定の干渉レベルを被るスループット利得を最大化することが可能であり、干渉レベルは、1Txセクタアクティブ化パターンが検討されるときに最小である。要約すると、アンテナ指向性利得がない場合の干渉レベルは、アクティブ化されるセクタの数に比例し、最大スループット利得とはほとんど相関がない。
【0054】
図10に、アンテナ指向性
利得があるときの、各リンクの近傍におけるオムニモードの平均RSS
diff値を示す。アンテナ指向性利得がない場合(
図9(a)の議論を参照されたい)とは対照的に、全てのリンクおよびTxセクタアクティブ化セットにわたり、平均RSS
diff値は、せいぜい3dBであり、オムニモードの7dB範囲内である。平均3dBの干渉低減は、802.11nキャリアセンシングをディセーブルしてそれにより空間再利用を増大させるには、低すぎることがある。また、干渉低減は、アクティブ化されるセクタの数に依存しない。2セクタアクティブ化は、単一セクタアクティブ化よりも2.3dB低いアンテナ指向性利得を有するが(表1参照)、その角度カバー範囲は単一アクティブ化セクタの2倍である。加えて、MIMOシステム中で複数のアンテナを使用することは、受信機が単一アンテナ受信機よりも多くの信号経路を捕捉して、したがってより強い信号を受信するより多くの機会をもたらす。このように、アンテナ指向性
利得があるとき、干渉低減は小さく、アクティブなセクタの数に依存しない。
【0055】
上記の知見に基づき、2つの実装形態を考えることができる。すなわち、(1)MIMOがスループット利得および空間再利用を利用するための、指向性利得なしのマルチセクタアンテナと、(2)MIMOがスループット利得を増大させるための、指向性利得ありのマルチセクタアンテナである。
【0056】
実装形態(1)は、スループット利得に加えて空間再利用を活用して、ネットワーク全体にわたる性能を向上させることができる。しかし、空間再利用は、異なるリンク間の調整機構を必要とする隠れた端末を犠牲にしてもたらされる。さらに、上でさらに論じたように、SNR情報が実際のハードウェアから入手可能でない場合に、大きいまたは正のスループット利得を有するパターンをどのように見つけるかは、まだはっきりしていない。
【0057】
実装形態(2)は、控えめな空間再利用を伴うが、より高いスループット利得およびより単純なプロトコル設計をもたらす。それは、セクタアクティブ化のために異なるリンク間の調整を必要としない。さらに、RSSさえも使用して、良いアクティブ化パターンを見つけることもでき、IEEE802.11nとの逆方向互換性をもたらす。
【0058】
以下のセクションでは、本発明による、セクタを自動的に選択およびアクティブ化する方法を提示する。本発明の方法は、前の段落で提示した実装形態(2)に基づく。本質的に、本発明の方法は以下のステップを含む。
【0059】
− まず、標準または通常動作の前に、候補アクティブ化パターンセット(Pとして示される)が選択される。パターンの品質を推定するための測定基準もまた選ばれる。候補測定基準は、例えば、SNRやRSSなどの、明示的なフィードバックベースの測定基準、および、通常のパケット伝送によって測定されるパケット誤り率(PER)などの、明示的でないフィードバックベースの測定基準である。次いで、P中の全てのパターンがプロービングされランク付けされる。初期設定が実施されると、標準動作中に以下のステップが実行される。
【0060】
− 時間にわたる測定基準履歴に基づいて、N個のパターンがPから選択される。
− N個のパターンがプロービングされて、T時間間隔中の測定基準値が得られる。
− N個のパターン全てがプロービングされると、全てのパターンがそれらの平均測定基準値に基づいて分類され、次いで、最良の平均ランクを有するパターンが選択される。
【0061】
最初のステップは、良い初期状態からの開始を可能にし、良いサブセットに収束するまでの時間を短縮する。標準動作中に実施されるステップは、最大スループットパターンをできるだけ多くの回数含むことになるPのサブセットを見つけることを狙いとする。これらのステップは、サブセットを短時間で評価および選択し、サブセットをスループットの点から漸進的に精緻化する。これは例えば、それまでに収集された値の測定基準平均、例えばSNR、RSS、またはPERをとることによって行われる。しかし、即時の測定結果を使用するのではなく、時間にわたって平均化された測定基準が使用されるが、サブセットは最終的に、時間平均化されたランクに基づいて選択される。このようにして、本発明の方法は、測定基準の実際の値を重視するのではなく、調べられているパターンの順序を重み付けする。プロービングは、選択されたサブセットNのセクタに制限される。最後に、最良のパターンが選択される。ランクは、時間にわたって平均化されたリンク性能を測定することによって決定され、選択は、平均化されたランクに従って行われる。
【0062】
本発明によれば、3つのパラメータP、T、およびNを決定する必要がある。Pは、パターンセット全体の任意のサブセットとすることができる。例えば、Pは、単一のアクティブなセクタを使用するTxアクティブ化からのパターンのセットとすることができ、これらは総計16個である。しかし、この種類のパターンに限定されない。セットが大きいほど、プロービングのための良いサブセットを見つけるのは困難であることに留意されたい。同時に、より多くのスループット利得を予想することができる。大きい候補セットが決定された後は、時間平均化されたランクを利用してセットのサイズが縮小されることになり、プローブの数が削減される。Tの選択は、P中の最高スループットを有するパターンがどれくらいの頻度で変化するかに依存する。さらに、チャネル変動がどれくらい正確に経時的に追跡されるかにも依存する。上でさらに論じたように、最高スループットを有するパターンは、典型的な屋内環境におけるチャネル特性に従い、小さい時間尺度で変化する。したがって、チャネル変動を最も正確に追跡するには、Tは、コヒーレンス時間(通常は約1秒)よりもかなり短くすべきである。他方、正確さの劣る追跡を受け入れるのをいとわないが経時的なプロービングオーバヘッドを低減して、数秒または数十秒のTを選ぶこともできる。
【0063】
選ばれたTおよびNについて、Nが決定されたときの追加のプロービングオーバヘッドの量を考慮すべきである。オーバヘッド量は、使用される物理またはMACプロトコルに非常に特有なので、実際の実装形態に依存する。例えば、プロービング動作は、追加のパケット交換動作として、または既存の通常のパケット転送スケジュールに便乗させるものとして、実際のプロトコルに統合することができる。その後、スループット利得がプロービングオーバヘッドによるスループット損失に勝るように、Nを選ぶことができる。
【0064】
Txセクタアクティブ化の場合のパターンが、Pと呼ばれる。評価のために全てのPについてのSNRおよびRSSが収集され、公平な比較のために、収集されたデータセットに対してランク付けが実施される。このデータセットを収集するために、あるパターンとオムニモードの両方で、同じSNR測定がバックツーバック方式で実施される。測定は、十分な回数、例えば40回繰り返され、また、様々な日時および曜日について繰り返される。測定は、全てのリンクについて繰り返される。
図11に、選択元となる異なる数のリンクアンテナパターンについてのスループット利得を例示的に示す。
【0065】
図12に、N=8の場合に、全てのリンクにわたって、かつ時間にわたって平均化されたスループット利得を示す。2つの測定基準、すなわち、それぞれ
図12(a)および
図12(b)のSNRおよびRSSが検討される。図において、「最大」は、最大の測定基準値を有するパターンが各時間ごとに選択されるときのスループット利得である。「ランクあり」は、サブセット選択のためにパターンのランクを使用することに対応し、「ランクなし」は、単純にSNRまたはRSS値の時間平均を使用することに対応する。
図12(a)と12(b)の両方から、本発明の方法が、正のスループット利得をもたらすアクティブ化パターンをうまく選択することが明らかである。特に、SNRを用いたランクベースの選択は、検討されるパターンの数が半分に削減されたときでも、50%よりも大きい利得を提供し、最大は62%である。本発明の方法がRSSに従って選択するとき、最大利得は23%であり、これはSNRに従った選択よりもずっと小さい。したがって、SNRの使用が有利である。Nが増大するのに伴って両方の変量は最大に近づくが、ランクベースの選択の急峻さは、時間平均ベースの急峻さよりもずっと急である。これもやはり、結局は、チャネルは頻繁に変化するが、少数のパターンが最大スループット利得に近い利得の達成に成功し続けることを示す。
【0066】
図12は、本発明の方法が、特定のリンク2−3においてN=8のときに最高スループットを有するパターンをどれだけうまく経時的に追跡するかを明らかにする。SNRを使用すると、ランクベースの選択は、ほぼ全ての時間で最高のスループットを有するパターンをうまく見つける。しかし、時間平均ベースの選択は、SNRを使用しても、相対的に性能が低い。16個のうち8個のパターンがSNRについてプロービングされるので、低い性能は、生の時間平均ベースの選択が、チャネルの小さい時間尺度の変動の影響をより受け、良いパターンサブセットの長期定常性による影響をあまり受けないことを示す。
【0067】
本発明は、アンテナアクティブ化パターンの限られたサブセットを使用してスループット利得を有することができるという知見を使用する。サブセットは、RxおよびTxの全てのアクティブ化パターンについてSNRを収集し、ある時間にわたるSNRの安定性を決定し、パターンをそれらの長期安定性に従ってランク付けすることによって、決定される。スループットが閾値を下回る場合は、所定の閾値よりも高い長期SNRを有することがわかったパターンのみが検討される。SNRの決定は、環境の変化を補償するために、定期的に繰り返すことができる。本発明は有利にも、スループットが低下した場合に適切なアンテナパターンを見つけるために、過剰なパケット情報追跡と共に全ての可能性あるアンテナパターンのブルートフォーステストを行う必要性を回避する。
本発明は以下の態様を含む。
(付記1)
セクタ化された指向性アンテナを使用するMIMOワイヤレス伝送システムにおいて送信および/または受信のためのアンテナセグメントを選択する方法であって、
ランク付けされたリンクアンテナパターンの初期セットから、最良の平均ランクを有するリンクアンテナパターンを選択するステップであって、前記リンクアンテナパターンは、アクティブ化されるアンテナセグメントの異なる選択に対応し、それらの平均リンク性能に従ってランク付けされている、前記ステップと、
所定の時間間隔で、前記最良の平均ランクに対して所定の範囲内にある平均ランクを有するリンクアンテナパターンのサブセットを連続的に選択するステップと、
前記選択するステップで選択された前記リンクアンテナパターンの平均リンク性能を決定するステップと、
前記決定するステップで前記平均リンク性能が決定された前記リンクアンテナパターンの、平均ランクを決定するステップと、
前記最良の平均ランクを有する前記リンクアンテナパターンに対応する、送信および/または受信のためのアンテナセグメントを選択するステップと、
次の前記所定の時間間隔で前記プロセスを繰り返すステップと、
を含む、前記方法。
(付記2)
前記サブセットの一部として選択されなかった前記リンク性能パターンの前記平均ランクは前と同じのままである、付記1に記載の方法。
(付記3)
前記リンクアンテナパターンランクが平均化され
る期間は移動ウィンド
ウ期間であるか、または、前記平均ランクは指数平均として決定される、付記1に記載の方法。
(付記4)
ある日時または曜日にリンクアンテナパターンの異なるサブセットが提供される、付記1に記載の方法。
(付記5)
送信機と受信機との間でリンクが確立され、前記送信機または前記受信機は、どのリンクアンテナパターンを選択するかを前記それぞれの受信機または送信機に知らせる、付記1に記載の方法。
(付記6)
リンクアンテナパターンの前記サブセットの一部でない新しいリンクアンテナパターンを選択し、リンク性能測定およびランク付けを実行するステップと、
前記新しいリンクアンテナパターンよりも低いランクを有する、リンクアンテナパターンの前記サブセット中のリンクアンテナパターンを置き換えるステップと、
をさらに含む、付記1に記載の方法。
(付記7)
前記所定の時間間隔は、最良のランクを有する前記リンクアンテナパターンがどれくらいの頻度で変化するかに応じて動的に適応する、付記1に記載の方法。
(付記8)
前記所定の時間間隔は、日時および/または曜日に応じて動的に適合される、付記1に記載の方法。
(付記9)
マイクロプロセッサと、プログラムメモリと、データメモリと、少なくとも2つのアンテナを有しMIMO方式で動作するように適合されたワイヤレス送信機および/または受信機と、を備える装置であって、前記アンテナは区分型指向性アンテナであり、前記プログラムメモリは、付記1から8のいずれか一つに記載の方法を実行するように適合されたプログラム命令を保持する、前記装置。
(付記10)
プログラム情報の非一時的記憶に適合されたコンピュータ読取可能媒体であって、プログラム情報を記憶し、前記プログラム情報は、マイクロプロセッサと、プログラムと、データメモリと、ワイヤレス送信機および/または受信機と、少なくとも2つの区分型指向性アンテナと、を有するデバイスによって実行されたとき、付記1から8のいずれか一つに記載の方法を前記デバイスが実施できるようにする、前記コンピュータ読取可能媒体。