特許第6130879号(P6130879)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6130879改質PVA層を含有するセルロース繊維ベースの支持体、並びに、その製造及び使用の方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6130879
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】改質PVA層を含有するセルロース繊維ベースの支持体、並びに、その製造及び使用の方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/12 20060101AFI20170508BHJP
【FI】
   D21H19/12
【請求項の数】21
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-126324(P2015-126324)
(22)【出願日】2015年6月24日
(62)【分割の表示】特願2012-554382(P2012-554382)の分割
【原出願日】2011年1月19日
(65)【公開番号】特開2015-180792(P2015-180792A)
(43)【公開日】2015年10月15日
【審査請求日】2015年7月10日
(31)【優先権主張番号】1051283
(32)【優先日】2010年2月23日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513235784
【氏名又は名称】ムンクスイェ オーワイジェイ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】デュフュール、メンノ
(72)【発明者】
【氏名】ファンティーニ、ディエゴ
(72)【発明者】
【氏名】ゴーティエ、ジル
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5815567(JP,B2)
【文献】 特開平09−030113(JP,A)
【文献】 特開2002−049130(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/071161(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00〜D21J7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一表面がヒドロキシル官能基を有する少なくとも1種の水溶性ポリマーを含有する層で被覆されており、該ヒドロキシル官能基の少なくともいくつかと、少なくとも1個のビニル官能基を含有する少なくとも1種の有機分子とが前もって反応しているセルロース繊維ベースの支持体であって、前記有機分子が、以下の式:
CH=CH−(R)−CH=O
(式中、Rは、1〜11個の炭素原子を有する線状の炭素鎖である。)
を有することを特徴とする支持体。
【請求項2】
前記有機分子のアルデヒド官能基が、ヘミアセタール又はアセタールの形態をしていることを特徴とする、請求項1記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項3】
ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーが、澱粉、アルギン酸塩、CMC、並びに、エチレン・酢酸ビニル(EVA)又は塩化ビニル・酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン・酢酸ビニル、及び無水マレイン酸・酢酸ビニルコポリマーをヒドロキシル基を形成するように加水分解することにより得ることができる、加水分解又は部分加水分解された酢酸ビニルのコポリマーを含む群から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項4】
ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーが、PVAであることを特徴とする、請求項1又は2に記載のセルロース繊維ベースの支持体(但し前記有機分子がウンデシレンアルデヒドではない)。
【請求項5】
前記有機分子が、ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーの重量で0.1%と5%の間に相当することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項6】
前記有機分子が、ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーの重量で1%に相当することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項7】
ヒドロキシル官能基を有する該官能化水溶性ポリマーが、該セルロース繊維ベースの支持体上に塗布された最上層の重量で少なくとも10%を構成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項8】
ヒドロキシル官能基を有する該官能化水溶性ポリマーが、該セルロース繊維ベースの支持体上に塗布された最上層の重量で20%と100%の間を構成することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項9】
該セルロース繊維ベースの支持体上に塗布された最上層が、0.2〜20g/mの量でデポジットされていることを特徴とする、請求項7又は8に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項10】
該セルロース繊維ベースの支持体上に塗布された最上層が、1g/mの量でデポジットされていることを特徴とする、請求項7又は8に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項11】
該セルロース繊維の質量が、30〜160g/mの範囲であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項12】
該セルロース繊維の質量が、55〜140g/mの範囲であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項13】
該セルロース繊維の質量が、58g/m程度であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体。
【請求項14】
以下の工程:
該セルロース繊維ベースの箔を形成すること;
ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーのヒドロキシル官能価と共有結合を形成することが出来る少なくとも1個のビニル官能基と1個のアルデヒド官能基を有する、少なくとも1種の有機分子をグラフトさせることによって、ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーを官能化させること;
該セルロース支持体を、少なくとも、ヒドロキシル官能基を有する該官能化水溶性ポリマーで被覆すること;
必要なら、該支持体をカレンダーに掛けるか又はスーパーカレンダーに掛けること;
からなる、請求項1〜13のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体を製造する方法。
【請求項15】
パーチメント化処理と共に、又はそれなしで、該セルロース繊維ベースの箔を形成することを特徴とする、請求項14記載の方法。
【請求項16】
ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーを、水性媒体中且つ酸性状態を達成するための有機酸又は無機酸の存在下、20℃と95℃の間の温度で官能化させることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
ヒドロキシル官能基を有する該水溶性ポリマーを、水性媒体中且つ酸性状態を達成するための有機酸又は無機酸の存在下、80℃と95℃の間の温度で官能化させることを特徴とする、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項18】
使用される被覆技術が、サイズ・プレス、計量サイズ・プレス、フーラード塗工、ロッド塗工、「チャンピオン」バー塗工、「マイアー」バー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、スクレーパー・ブレード塗工、スライディング・ブレード塗工、単層及び多層カーテン塗工、リバースロール塗工、スプレー塗装、噴霧塗装、液体塗布システム(LAS)被覆、キス塗装、フォーム塗装、又は任意の表面被覆塗布方法を含むことを特徴とする、請求項14〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
該セルロース支持体の被覆が、20℃と80℃の間の温度で行われることを特徴とする、請求項14〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
該セルロース支持体の被覆が、65℃の温度で行われることを特徴とする、請求項14〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のセルロース繊維ベースの支持体の、シリコーン処理のための使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維をベースとする新規な支持体及びその製造方法に関する。それは、更に該支持体のシリコナイジング(siliconizing)のための使用に関する。
【0002】
本発明の応用分野は、感圧性のラベル又は接着テープの様なあらゆる自動接着性(self−adhesive)の製品用の、封筒産業、重量/価格用備品(weight/price equipment)、女性生理用製品又はグラフィック用途の、限定されない用途選択を意味する硫酸紙及び耐油紙用の、シリコナイジングを対象とした支持体に関する。
【背景技術】
【0003】
シリコーン処理されるべき支持体は、それらが対象としている最終用途により前もって定義される或る性質を所有しなければならない。かくして、一旦それらがシリコーン処理されると、かかる支持体は二つの主要な機能を保証しなければならない、即ち、それらは自動接着性の製品が使用される前にその製品を保護しなければならず、且つ、それらは除去により完全な接着剤移動を可能にしなければならない。
【0004】
これらの支持体は一般に、水溶性結合剤及びラテックス、及び顔料の層で被覆されたセルロースベース基体から成る。それらは、被覆、サイズ・プレス、又は計量サイズ・プレス法により製造することができる。これらの種々の沈着法はすべて当業者によく知られており、その後にカレンダー又はスーパーカレンダーに掛ける(calendering or supercalendering)工程が続く。
【0005】
かかるセルロース繊維ベースの支持体を製造する際に必要とされる主要な性質には、機械的強度、シリコーン固定、シリコーン・ホールドアウト(hold−out)及び透明性が含まれる。
【0006】
特に的にされている市場に依っては、該支持体の透明性に多少重点が置かれるかもしれない。例えば、重量/価格市場は、封筒用市場よりも透明な支持体を必要としている。
【0007】
シリコーン・ホ−ルドアウトは、良好な表面付着(surface coverage)を提供し、均一な保護を与えるに違いない。この目的は一般に、1〜2g/m程度のシリコーン量で達成される。しかしながら、可能性がある追加費用のリスクを避ける様に、その付着能のロスなしに必要とされるシリコーン量を制限できることが重要である。
【0008】
シリコーンの価格及び反応性は、それらが塗布される支持体が或る数の基準を満たすことを必要としている。
【0009】
第一に、該支持体の化学構造は、シリコーンシステムの架橋、即ち、シリコーン樹脂のビニル官能基と架橋剤のシロキサン水素官能基との間の重付加反応を妨げてはならない。次に、該支持体は、その表面へのシリコーンの完全な固定を提供することが必要である。更に、シリコーンの高価格を考慮すると、支持体上へのシリコーンの沈着量は出来るだけ少ないことが重要である。これを達成するため、支持体は、障壁を形成して、それにより支持体中へのシリコーンの浸透をできるだけ制限しなければならない。同様に、支持体の表面は、シリコーンの均質な塗布を可能にするように、できるだけ規則正しくなければならない。
【0010】
換言すれば、最初の課題は、前記シリコーンの支持体自体中への浸透をできるだけさらに減少させながら、シリコーンの効率的な固定と最適化された架橋を同時に可能にする支持体を如何にして開発するかである。
【0011】
かくしてシリコナイジング工程は、支持体に依存し、使用されるシリコーン及び架橋剤にも依存する。シリコナイジング方法は、シリコーン架橋様式により定義され、これらは二つの範疇に分割される、即ち、第一のものは紫外線又は電子線の下で架橋するシリコーンであり、第二のものは「熱架橋性」シリコーンである。第一の範疇は技術的及び金銭的観点の両方から開発し難いので、熱架橋性シリコーンの方がより大きな市場を占める。
【0012】
シリコーンは、前もってシリコーンで被覆された支持体を窯に通すことにより熱的に架橋する。窯温度は、支持体の表面がシリコーン架橋を引起こす温度に到達するようでなければならない。比較的低い温度での架橋を可能にするように、シリコーンが開発されており、「LTC(低温硬化性)シリコーン」と呼ばれている。現在、新シリコーンシステム、即ち、比較的低含量の触媒(即ち、白金)を有する速硬化性システムが市場に出ている。自動接着性事業に関与する人々は、シリコーンの架橋反応について議論しながら、「硬化」(“curing”)という用語を使用している。LTCシリコーンで架橋が起こる温度範囲は、従来のシリコーンに関して、110〜150℃よりもむしろ60〜100℃である。しかしながら、LTCシリコーンを使用する主要な不利点は、架橋したシリコーンが支持体上への非常に低い固定を提供したということである。
【0013】
シリコナイジングに役立つ支持体には本質的に四種のタイプがあり、これらは「コーテッド」紙(“coated” paper)、硫酸紙、グラシン紙及び耐油紙である。
【0014】
「コーテッド」紙、所謂CCK(クレイ被覆クラフト紙)は、顔料(クレイ、例えば、炭酸カルシウム)及び結合剤(澱粉、ポリビニルアルコール、ラテックス)を含有する混合物の少なくとも一つの被覆層を、セルロース繊維ベースの支持体上に沈着させることにより得られる。満足なシリコーン・ホールドアウトを得るためには、典型的に5〜12g/mの量で該被覆層を作る。次に該支持体をカレンダーに掛ける。一般に、コーテッド紙は、特に、封筒、事務ラベル、衛生用品の用途、及びグラフィック用に設計されている。
【0015】
硫酸紙は、化学的木材パルプから作った水漉紙(耐水性の低い完全無サイズ紙)を時間、温度等の確立した条件下で、硫酸又は(時々)塩化亜鉛の浴に通すことにより作られる紙である。次に、該酸又は亜鉛塩を除去するように、該処理紙を充分に洗浄してから、それを乾燥する。該化学薬品は該紙を部分的に溶解又はゼラチン化するが、該化学薬品が該洗浄により希釈されると、該紙はそれから再生される。これが、本物の羊皮紙(parchment)にやや似た外観を有する非常に強靭で堅い紙を形成する。このようにして処理された紙は脆くなり乾燥で皺がよる傾向があるので、それは頻繁に可塑剤、通常グリセリン又はグルコースで処理される。
【0016】
かかる硫酸紙は次に、片面又は両面にシリコーン(一般に水ベースのシリコーン系)で被覆することができる。シリコーン被覆はパーチメント化ライン上又はオフライン・コーター上で起こり、剥離硫酸紙を製造することができる。かかる剥離紙は、包装、貯蔵及び修復において、複合材料工業において、乾燥取り付けプレスにおいて、そして印刷用間紙(slip sheets)として、種々の用途を有している。それは熱に耐える。何もそれにくっ付かない。
【0017】
グラシン紙はクレイ被覆紙よりも精製された支持体である。それが製造される方法は、該被覆を形成するのに使用される方法においても異なる。実際、該皮膜はサイズ・プレス又は計量サイズ・プレス被覆法で形成され、最終工程ではカレンダー掛けがスーパーカレンダー掛けにより置き換えられている。その結果、得られる生成物はより密度が高い。それはまた、クレイ被覆紙よりも大きな機械抵抗及び透明性を有する。グラシン紙はクレイ被覆紙よりも寸法的に安定していない。セルロース支持体を被覆するのに使用される混合物は、皮膜形成性を有する水溶性結合剤(例えば、澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)及びカルボキシメチルセルロース(CMC))、及びたびたび増粘剤(CMC)から構成されている。該被覆の重量は各表面で1〜2g/mの程度である。
【0018】
シリコーンの水ベース乳濁液を用いてシリコーン層を抄紙機上で塗布することができることを除いて、耐油紙は機械処理過程の点でグラシン紙と同様である。最終用途は包装、貯蔵及び修復である。
【0019】
公知技術で遭遇した技術的問題は、主に支持体の透明性、支持体上へのシリコーンの固定、及びシリコーンの架橋と関連している。シリコナイジング工程で使用されるシリコーン及び触媒(即ち、白金)の量は、これら物質の高価格の故に、やはり制限されなければならない。
【0020】
過去において、特に、使用される触媒(即ち、白金)の量を減少させることによるか又はLTCシリコーンを使用することによる、シリコナイジング法への変化は、シリコーンの固定に関する困難を招いた。
【0021】
文献WO2005/071161は、大部分PVAから成るコンパウンドで被覆されているグラシン紙を記載している。このセルロースベースの支持体は次に、その上にビニル官能基及び酸ハライド官能基を含有する有機分子をグラフト化することにより官能化されている。該基体のヒドロキシル官能価は該有機分子の酸ハライド官能基と反応して、それらの間に共有結合を生成する。鎖末端のビニル官能基は、該支持体とシリコーンとの間の共有結合の形成により、シリコーンの良好な固定及び優れた架橋を可能にする。このグラシン紙のシリコナイジング工程は、LTCシリコーンでも行うことができる。得られた結果は、該支持体上へのシリコーンの固定の改善を示している。
【0022】
前の段落で提示されたグラフト化反応は、溶剤ベースの処理で、又は純粋な反応体を該基体上に塗布することにより、行うことができると考えられる。酸ハライド官能基は水と反応して該基体とはもはや反応しない官能価を形成するので、このタイプの有機分子は水に非常に敏感であるという事により、水ベースの処理でグラフト化反応を行うことはできない。従って、かかるタイプの分子は、大部分水ベースである従来の表面紙処理では使用することができない。もう一つの欠点は、工業的用途について非魅力的にする副産物としての塩酸の生成である。
【0023】
溶剤ベースの処理を使用することは検討できたが、安全及び環境問題の点で非常に大きな問題に直面している。
【0024】
現在まで、非常に少量のかかる純粋な有機分子を抄紙機上に塗布する技術はまだ確定されていない。
【0025】
換言すれば、本発明が解決しようとする課題は、前の段落で記載した欠点の少なくとも一つ以上に苦しむ程度のより少ない改良された支持体である。
【0026】
本発明は、ヒドロキシル官能価を含有する水溶性ポリマーをビニル官能価で官能化することを提案する。この官能化は、該水溶性ポリマーがセルロース支持体上にデポジット(沈着)される前に、水ベース処理で行うことができる。本発明では、使用される有機分子は、所望によりヘミアセタール又はアセタールの形状をしたアルデヒド官能基、及び少なくとも一つのビニル官能価を提示する。水溶性ポリマーと有機分子との間の結合は、水溶性ポリマーの2個のヒドロキシル官能基と有機分子からのアルデヒド官能価との間のアセタール化反応を生ずる。この反応の生成物はアセタールであることが従来技術から知られている。
【0027】
PVAとビニル官能基を含有するアルデヒドとの間のアセタール化反応は、文献JP2007269673に開示されている。PVAとウンデシレンアルデヒドとの間の反応生成物の用途は、口腔及び歯科衛生の分野における用途に対して記載されている。
【0028】
本発明で報告された方法で官能化された水溶性ポリマーは次に、製紙業における任意の種類の表面処理を用いて、セルロース繊維をベースとする支持体上に被覆することができる。
【0029】
官能化された水溶性ポリマーが該紙上に塗布されるや否や、ビニル官能基は該紙表面上に存在する。ビニル官能基の存在は、シリコナイジング段階でシリコーンを該基体と反応させ、該シリコーン層と該基体との間に共有結合を生成する。
【0030】
本発明は、シリコーン処理される基体に改善されたシリコーン固定を提供し、従って技術的及び工業的解決のための研究にかなりの貢献を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】WO2005/071161
【特許文献2】JP2007269673
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0032】
従って、本発明は、シリコーン皮膜を被覆しようとするセルロース繊維ベースの支持体を改良するための新しいやり方を示す。本発明の種々の態様により得られる生成物は、シリコーン処理工程で使用される触媒(即ち、白金)及びシリコーンの量における減少を可能にしながら、改良された架橋及びシリコーン固定性と同様に一つ以上の機能強化された性質を示す。
【0033】
一般に、本発明は、水溶性結合剤を含有するコンパウンドで被覆されたセルロース支持体上に有機分子をグラフト化することから成る従来技術とは対照的に、ヒドロキシル官能基を含有する水溶性ポリマーを、皮膜がセルロース支持体上に形成される前に、官能化することから成り、該官能化は水ベース処理で行うことができるのである。
【0034】
用語、セルロース繊維ベースの支持体は、80〜99重量%の範囲の割合で望ましい特性(密度、透明性、機械的性質)の目的に多かれ少なかれ適合している
セルロース繊維を含有する支持体を意味すると理解される。
【0035】
より正確には、本発明の有利な一態様の一目的は、少なくとも一表面が、該表面に障壁性を与えるように設計されている層で被覆されているセルロース繊維ベースの支持体であり、そこにおいて該被覆層はヒドロキシル官能基を有する水溶性ポリマーを含有し、該ヒドロキシル官能基の少なくともいくつかは少なくとも1個のビニル官能基及び1個のアルデヒド官能基(場合によりヘミアセタール又はアセタールの形をしている)を含有する少なくとも1種の有機分子と前もって反応している。該水溶性ポリマーと該有機分子との間の結合は、アセタール又はヘミアセタール官能価によりなされる。
【0036】
なお、該水溶性ポリマーベースを有する被覆層は、前もって官能化されているヒドロキシル官能基を含有する少なくとも1種の水溶性ポリマー、及び官能化されていないヒドロキシル官能基を含有する少なくとも1種の水溶性ポリマーから構成されていてもよい。官能化及び未官能化ヒドロキシル官能基は同じ水溶性ポリマー中に含有されていてもよいし、或いはそれらは異なるヒドロキシル官能基を含む少なくとも2種の水溶性ポリマーの混合物中に含有されていてもよい。
【0037】
更に、官能化された水溶性ポリマーを含有する被覆層はまた、他の水溶性結合剤、伝統的な添加剤、顔料及びラテックスを含有してもよい。
【0038】
ヒドロキシル官能基を含有するこの水溶性ポリマーは、PVA、澱粉、アルギン酸塩、CMC、並びに、例えば、エチレン・酢酸ビニル(EVA)又は塩化ビニル・酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン・酢酸ビニル、及び無水マレイン酸・酢酸ビニルコポリマーを加水分解することにより得ることができる、加水分解又は部分加水分解された酢酸ビニルのコポリマーを含む群から有利に選択される。ヒドロキシル官能基を含有するこの水溶性ポリマーは、有利には、分子量が好ましくは1,000a.m.u.と1,000,000a.m.u.の間、有利には50,000a.m.u.と150,000a.m.u.の間であるPVAである。
【0039】
この有機分子は、典型的に、C、H、N、O、ハロゲンのような非金属、Si、S、P、及び、Na、Li、K、Mg、Pb等のような金属の群からの少なくとも1種の元素を含有する分子を表す。
【0040】
該有機分子は少なくとも1個のビニル官能基(−CH=CH官能価)、及びヒドロキシル官能基を含有する水溶性ポリマー上に該有機分子をアセタール化反応によりグラフト化させる1個のアルデヒド官能基(−CH=O官能価)を含有する。該アセタール化反応は酸性状態により触媒作用が及ぼされ、それは当業者に非常によく知られている。
【0041】
かかる官能化水溶性ポリマーは、次に、セルロース繊維をベースとする支持体上に、製紙業からの任意の種類の表面処理を用いて被覆することができる。
【0042】
従って、上述の処理過程により製造された紙は、該ウェブ表面に、その後のシリコナイジング工程中にシリコーンのより良い固定を可能にするビニル官能価を付与する。
【0043】
従って、ヒドロキシル官能基を含有する水溶性ポリマーは、該被覆層がセルロース支持体上に形成される前に官能化され、それにより、鎖長がシリコーンとセルロースの間の障壁を制限することのできる分子を含むセルロース支持体を、単一の急速工程で生成する。
【0044】
簡略のために、ヒドロキシル官能基を含有する水溶性ポリマーは、以下、略語「PH」により言及する。用語、「官能化PVA」及び「官能化PH」は、PVA及びPHと前述の有機分子との間の反応生成物を示すのに使用する。
【0045】
ヒドロキシル官能基を含有する水溶性ポリマーを官能化するのに選択される有機分子の式は、有利には、以下の通りである:CH=CH−(R)−CH=O(式中、Rはヘテロ原子を含有してもよい線状、分岐状又は環状炭素鎖である。)
【0046】
本発明によるセルロース繊維ベースの支持体は、好ましくは、前記有機分子がウンデシレンアルデヒド、CH=CH−(C16)−CH=Oであることを特徴としている。この化合物は、一端にアルデヒド官能基を他端にビニル官能基を有する、11個の炭素原子の直鎖を含有している。
【0047】
好ましい態様において、前記有機分子は該PHの0.1重量%と5重量%の間を構成する。より有利には、該有機分子は該PHの1重量%を構成する。該グラフト化割合の制御は、かくしてその後のシリコーン固定の制御を可能にし、これはビニル官能基の存在により援助される。
【0048】
官能化PHは、好ましくは、セルロース繊維ベースの支持体上に塗布された最上層の少なくとも10重量%、有利には20%と100%の間を構成する。
【0049】
本発明による支持体を形成するセルロース層は、典型的に、30g/mと160g/mの間、好ましくは55g/mと140g/mの間の範囲、最も有利には58g/mの程度の質量を有する。この支持体の少なくとも一表面が、前述の混合物により0.2〜20g/m、好ましくは1g/mの量で被覆される。
【0050】
本発明の一態様による支持体は、以下の方法、即ち、
− 該セルロース繊維ベースの箔を、パーチメント化処理(parchementizing)と共に又はなしで、形成すること、
− 該PHのヒドロキシル官能価と共有結合を形成することが出来る少なくとも1個のビニル官能基と1個のアルデヒド官能基を有する少なくとも1種の有機分子をグラフトさせることにより、該PHを官能化させること、
− 該セルロース支持体を、当業者に公知の方法により、少なくとも、該官能化PHで被覆することであって、この工程は20℃と80℃の間の温度、好ましくは65℃で有利に行うこと、
− 必要なら、該支持体をカレンダーに掛けるか又はスーパーカレンダーに掛けること
により製造することができる。
【0051】
好ましい方法によると、該官能化PHは、20℃と100℃の間、好ましくは、80℃と95℃の間の温度で、水性相中で製造される。
【0052】
当業者に公知の被覆技術には、更に、サイズ・プレス、計量サイズ・プレス、フーラード塗工(foulard coating)、ロッド塗工、「チャンピオン」バー塗工、「マイアー」バー塗工、エアナイフ塗工、グラビア塗工、スクレーパー・ブレード塗工、スライディング・ブレード塗工、単層及び多層カーテン塗工、リバースロール塗工、スプレー塗装、噴霧塗装、液体塗布システム(LAS)被覆、キス塗装、フォーム塗装、及び任意の表面被覆塗布方法が含まれる。
【0053】
一般に、本発明によるセルロース繊維ベースの支持体は、例えば、自動接着性ラベル、接着テープ及び硫酸紙用の支持体に使用するため、シリコナイジング工程で処理される。それは、当業者に公知の任意の方法によりシリコーン処理される。
【0054】
本発明の例示的態様、及び本発明の詳細な説明
本発明とそれによってもたらされる利点は、以下の例示的態様の説明において、及び以下の図面を参照して、十分詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】ヒドロキシル官能価を含有する水溶性ポリマー、この特定の場合、PVAと、一般式: CH=CH−(R)−CH=O、又は場合により、 CH=CH−(R)−CH(OR(式中、Rは、ヘテロ原子を含有してもよい、線状、分岐状及び(又は)環状の炭素鎖であり、Rは、独立に、水素原子、又は、場合によりN、O又はSヘテロ原子により中断された、1〜12個の炭素原子を有する、場合により分岐状、飽和状又は不飽和状の、場合により置換されたアルキル基である。)を有するアルデヒドとの間の水性酸性媒体中におけるアセタール化反応を表す。
図2】グラシン紙上にデポジットされたシリコーン量に対してプロットされたマラカイトグリーン(Green Malachite)試薬の針入度指数を示す。二つのタイプのグラシン紙、即ち、標準グラシン紙及び本発明による技術により得られるグラシン紙が比較されている。これらの試験は、シリコーン・ホールドアウトを評価するように設計されており、グラシン紙が良好なシリコーン付着を生成することができる程度を測定するのに用いられる。
図3】グラシン紙上にデポジットされたシリコーン量に対してプロットされたマラカイトグリーン(Green Malachite)試薬の針入度指数を示す。二つのタイプのグラシン紙、即ち、標準グラシン紙及び本発明による技術により得られるグラシン紙が比較されている。これらの試験は、シリコーン・ホールドアウトを評価するように設計されており、グラシン紙が良好なシリコーン付着を生成することができる程度を測定するのに用いられる。
図4】ポリ試験(シリコーンの架橋割合)及び「こすり落とし」(“rub off”)試験(シリコーン固定の評価)の結果を図解している。標準グラシン紙及び本発明のグラシン紙上におけるLTCシリコーンの架橋並びに該固定が比較されている。
図5】使用される触媒(即ち、白金)量の減少のシリコーン固定に対する影響を示す。シリコーン処理された標準グラシン紙が本発明によるシリコーン処理グラシン紙と比較されている。かくして二つの系列のこすり落とし試験で得られた結果が、シリコナイジング工程で使用される白金量の関数として表現されている。
図6】シリコーン処理された標準グラシン紙及び本発明によるシリコーン処理グラシン紙のサンプルについて行った「後こすり落とし」(“post rub off”)試験の結果を表す。該こすり落としパーセントが、温度50℃相対湿度70%の人工気象室に該グラシン紙を置いた露出時間に対して、そして該グラシン紙をシリコーン処理するのに用いた触媒(即ち、白金)量によりプロットされている。
図7】シリコーン処理された標準グラシン紙及び本発明によるシリコーン処理グラシン紙のサンプルについて行った「後こすり落とし」試験の結果を表す。該こすり落としパーセントが、温度50℃相対湿度70%の人工気象室に該グラシン紙を置いた露出時間に対して、そして該グラシン紙をシリコーン処理するのに用いた触媒(即ち、白金)量によりプロットされている。
【発明を実施するための形態】
【0056】
〔本発明の一態様によるグラシン紙を製造する方法〕
100%セルロース繊維から成る箔(58g/m)を、特に該繊維の精製工程を含んで、当業者に公知の方法により製造する。
【0057】
同時に、344kgのPVAを、pH=1.5でT=90℃の2500Lの水中で、5kgのウンデシレンアルデヒドと反応させる。該反応の終りに、典型的に20〜25分後に、水酸化ナトリウムを添加することにより該pHを7に調整する。
【0058】
次に、該官能化PVAを含有する混合物を、好ましくは65℃で計量サイズ・プレスにより被覆することにより該セルロース支持体の一表面に塗布する(1g/m)。
【0059】
次に、該支持体を乾燥し、再び湿らせ、そしてスーパーカレンダーに掛ける。
【0060】
特に明記しない限り、以下の実施例は以下の条件で行った。
【0061】
〔使用した支持体〕
− 上記の、本発明によるグラシン紙。
− 標準グラシン紙:Silca Classic Yellow 59g/m
【0062】
〔シリコーン〕
Blue Star 槽:
ポリマー:11367−50g
架橋剤:12031−2.9g
触媒(60ppmの白金):12070−1.56g
通風乾燥キルン中150℃で30秒間架橋
【0063】
Wacker LTC 槽:
ポリマー:D920−18.07g
架橋剤:XV525−1.43g
触媒(即ち、白金ベース):C05−2.14g
通風乾燥キルン中80℃で30秒間架橋
【0064】
簡略のために、以下において本発明によるグラシン紙は「グラシン紙INV」と言及する。
【0065】
実施例1:シリコーン量の減少−シリコーン・ホールドアウト(即ち、シリコーン付着)の有効性試験
図2及び3により図解されている本実施例においては、グラシン紙中へのマラカイトグリーンによる針入度指数が、グラシン紙上にデポジットされたシリコーン量に従って詳細に調べられる。
【0066】
使用されたグラシン紙は、標準グラシン紙及び本発明によるグラシン紙であり、両方共同じ機械で製造されたものである。シリコナイジング工程でデポジットされたシリコーン量(即ち、シリコーン被膜重量)に対してプロットされたマラカイトグリーンによる針入度指数が、表1に再現されている。
【0067】
【表1】
【0068】
マラカイトグリーンによる高い針入度指数は、該シリコーン層が十分良好ではないことを示す。従って、該自動接着性複合体の剥離力に関して固有の安定性の困難性が存在するであろう。
【0069】
行われた試験は、5%より低いマラカイトグリーンによる針入度指数は、少なくとも0.79g/mの層を目的としてシリコーン処理されたグラシン紙INVで得られることを示した。対照的に、標準グラシン紙では、0.97g/mより多い層が必要である。この値は、1〜1.2g/mの範囲のシリコーン層を備え付けた、普通の工業的用途に使用されるグラシン紙の値に近い。
【0070】
本発明による技術は、かくして、対応する標準グラシン紙と比較して、シリコーンの「障壁」性を何らロスすることなく、シリコーンのデポジット量において18.5%の減少を可能にする。この技術的改良は、より少ないシリコーンの使用だけでなく、実施例3で示されるように必要な触媒(即ち、白金)量の減少をも可能にするかもしれない。
【0071】
実施例2:低温硬化性(LTC)シリコーンの固定−「こすり落とし」試験及びポリ試験
本実施例では、該シリコーン層の架橋割合(即ち、ポリ試験)及び固定(即ち、こすり試験)を調査した。該LTCシリコーンを、80℃で標準グラシン紙及び本発明によるグラシン紙上にデポジットした。
【0072】
二つの試験を行ったが、両者の結果は図4に要約されている。最初のポリ試験は、シリコーン処理紙のサンプルを未架橋シリコーン用の有機溶剤(トルエン又はMIBK)中に浸漬させた後、その上に残るシリコーン量を測定するように設計した。95%より高い割合が満足な架橋を示すことは、一般に認められている。
【0073】
結果が示しているように、両方のグラシン紙は95%より高いポリ試験値を有し、かくして支持体上における良好なシリコーン架橋の証拠を表している。
【0074】
第二の試験、こすり落とし試験(rub off test)は、該シリコーンの該紙への固定を分析するように設計された磨耗試験(abrasion test:擦り減り試験)である。それは、重量下、織物上における磨耗試験後に残るシリコーン層を測定する。90%を超える割合は、一般に良好な固定を示している。もし該ポリ試験が95%より高いならば、値は意義深い。
【0075】
この磨耗試験は、LTCシリコーンが、標準グラシン紙上では80℃のシリコナイジング温度で満足に非常に低い固定を有することを示している。架橋シリコーンの12.6%だけが該支持体上に残った。他方、グラシン紙INVに対する割合は満足な97.7%であり、それは該シリコーンの固定が官能化PVAのお陰で正確であることを示した。
【0076】
このように、本発明による支持体は、標準グラシン紙よりもかなり低い温度でLTCシリコーンを用いて、シリコーン固定におけるロスを生ずることなく、満足な架橋でシリコナイジング工程が行われることを可能にする。
【0077】
実施例3:触媒(即ち、白金)の使用量に依存するシリコーン固定
本発明に関連するもう一つの利点は、シリコナイジング工程中必要な触媒(即ち、白金)の量を減少させることである。現在では白金がシリコナイジングで使用される材料の全原価の約30%を占めることを考慮すると、より少量の触媒(即ち、白金)を使用してシリコーン処理されたグラシン紙を得ることができるということは、極めて魅力的である。
【0078】
図5は、標準グラシン紙及びINVグラシン紙のシリコーン処理された試料に関して得られたこすり落とし試験の結果を示している。これらのグラシン紙は、30又は60ppmの白金の存在下、125℃に加熱された窯に入れて、30秒間シリコーン処理された。
【0079】
60ppmの白金で、グラシン紙INVは、第一及び第二の磨耗試験に関して90%を超えるこすり落としの割合を示す。他方、標準グラシン紙に対して得られた割合は、第一試験で85%を僅かに超え、第二試験で75%を下回っている。従って、これらの結果は、これらの条件で製造された標準グラシン紙が品質基準、即ち、90%より高い割合を満足していないことを示している。
【0080】
30ppmの白金で製造されたシリコーン処理されたグラシン紙は、前記のグラシン紙よりも低いこすり落とし割合を有する。この場合、シリコーン処理された標準グラシン紙について得られたこすり落とし割合は、グラシン紙INVについてのものよりもやはり低い。両試験における結果は80%よりも低い。第二のこすり落とし試験では、65.9%の割合さえ得られた。
【0081】
30ppmの白金の存在下でシリコーン処理されたグラシン紙INVに関しては、第一試験は大体92%の値を生じているが、第二試験は87.5%を示している。これらの結果は実際、60ppmの白金、即ち、2倍の触媒(即ち、白金)量を用いて製造された標準グラシン紙に関して得られる値よりも高い。
【0082】
一般に、触媒(即ち、白金)の量を減少させると、グラシン紙上への良好なシリコーン固定を得ることが難しくなる。これらのこすり落とし問題は、INV技術の助けで除去された。それらの数字は、グラシン紙INVに関する30ppmの白金を用いた試験についての方が、60ppmの白金の存在下でシリコーン処理された標準グラシン紙に関する同じ試験についての数字よりも更に高い。グラシン紙INVの固定特性は、標準グラシン紙のものよりも著しく良い。
【0083】
実施例4:白金の使用量に対してプロットされた剥離力
シリコナイジング中に使用された白金の量に関して剥離力を測定した。比較中のグラシン紙(標準グラシン紙及びグラシン紙INV)の両方が、行った試験のすべてについて同じ値、即ち、83,60及び30ppmの白金について夫々88、119及び138cN/5cmを示していることに気付いて意外であった。それらの試験は、70℃で押圧後1時間してそれらのグラシン紙とTESA4970接着剤について剥離力を測定することにあった。
【0084】
実施例5:後こすり落とし現象(50℃、70%湿度)
本実施例は、特定の条件下における、標準グラシン紙と比較したグラシン紙INVの耐用寿命を説明する。図6及び7は本実施例を図解している。
【0085】
後こすり落とし現象は、大気の温度及び湿度と関連している。暑い多湿の条件で時間が経過すると、水分子はグラシン紙/シリコーンの界面に浸透することができる。それらは次に、シリコーン処理された支持体を劣化させて該シリコーンと該セルロースを結ぶ結合を破壊する。その結果として、シリコーン固定のロスが観察され、これが最初の結果よりも低いこすり落とし割合に反映される。
【0086】
それらの試験は、温度50℃、相対湿度70%の人工気象室で行われる。それらのこすり落とし試験は、t=0で、そしてそれらのグラシン紙を該人工気象室に48時間放置した後に行った。二つの磨耗試験を、各々の場合において、標準グラシン紙及びグラシン紙INVに関して行った。それらの試験は、60及び30ppmの白金の存在下で製造された両グラシン紙タイプのサンプルについて繰返した。
【0087】
簡略のために、以下において、用語「グラシン紙X−30」及び「グラシン紙X−60」(X=標準又はINV)は、夫々30及び60ppmの白金の存在下でシリコーン処理されたグラシン紙を表すのに使用する。
【0088】
48時間露出後、グラシン紙INV−60は第一の後こすり落とし試験に対して90%に近い割合を示している。これは、t=0で行われた最初の試験に関して丁度5%を越す減少を表す。しかしながら、該割合は標準グラシン紙−60についての割合(62%)より依然として著しく高い。
【0089】
第二磨耗試験は80%より高い値を示しているが、これは、該値が同じ条件下で45%であった標準グラシン紙と比較して並外れている。
【0090】
シリコナイジング工程で使用される白金量を60ppmから30ppmに減少させることは、グラシン紙INVに関して得られる結果に対しては何の影響も有さない。他方、標準グラシン紙に関して観察される磨耗の問題は悪化している。
【0091】
実際、48時間露出後、グラシン紙INV−30についての第一磨耗試験は約90%の値を示しているが、第二試験は依然として80%を超えている。対照的に、標準グラシン紙−30は第一磨耗試験について50%を下回る値を、そして第二試験について約38%を生じている。
【0092】
どのような意図、目的から見ても、グラシン紙INV−30に関するシリコーン固定性は、特に第二こすり落とし試験中、グラシン紙INV−60について観察されるものと同じである。グラシン紙INV−30について得られる結果は、標準グラシン紙−60について得られるものよりも高い。後こすり落とし試験の結果はこすり落とし試験のものに匹敵するので、本発明による支持体については広い範囲の可能性がある用途が示される。従って、本発明による支持体の性質は、それらをアジア諸国のような高温多湿諸国における使用に適したものとしている。
【0093】
グラシン紙INV−30について得られた結果、即ち、90%より高いこすり落とし割合は、125℃に加熱された釜中で30秒の処理後83ppmの白金を用いてシリコーン処理された標準グラシン紙について得られたものに匹敵する。
【0094】
実施例6:パイロット規模でのシリコナイジング処理における機械速度の増加及びシリコーン配合中触媒(即ち、白金)の減少
標準グラシン紙及びグラシン紙INVをパイロット機械でシリコーン処理した。工業的窯構造を有して、パイロット機械幅は1.3メートルで最大機械速度は1610m/minである。
使用したシリコーンは、Dow Corning SL 161(高速度でシリコナイジング処理を可能にするため曇り防止剤を添加した標準SL 160シリコーンと類似している)であった。
【0095】
標準グラシン紙及びグラシン紙INVを、標準シリコーンタイプ:SL 161を用いて1g/mのシリコーン被膜重量でシリコーン処理した。該機械の速度を900m/minと1200m/minの間に設定し、該ウェブ温度を140℃に設定した。ポリ試験(シリコーンの架橋割合)、こすり試験(シリコーン固定)及び多湿条件−50℃/70%HR48時間における後こすり落とし(多湿条件に対するシリコーン固定の抵抗性)を、異なる機械速度及びシリコーン配合中異なる触媒(即ち、白金)含量で測定した。結果は表2に報告されている。
【0096】
【表2】
【0097】
最初、標準グラシン紙は900m/min及び1000m/minの速度でシリコーン架橋について何ら問題を示さなかった。それにも拘らず、それは標準条件(白金含量50ppmで機械速度900m/min)でもシリコーン固定についていくらかの問題(即ち、こすり落とし値:82%)を示した。機械速度が増加する(即ち、1000m/min)や否や、シリコーン固定は62%こすり落としまで減少し始めた。
【0098】
グラシン紙INVの場合、我々はシリコーン架橋(ポリ試験>95%)及びシリコーン固定(こすり試験>90%)について何ら問題なく1200m/minで行うことが出来た。触媒含量も、何ら問題なく20ppm白金の低い値まで減少された。
【0099】
本発明によれば、多湿条件はシリコーン固定を破壊していない(即ち、後こすり落とし値>90%)が、一方標準グラシン紙では多湿条件がシリコーン固定を破壊している(即ち、41%のこすり試験)。
【0100】
実施例7:パイロット規模でのシリコナイジング処理におけるシリコーン配合中の低触媒(即ち、白金)含量
グラシン紙INVをパイロット機械でシリコーン処理した。工業的窯構造を有して、パイロット機械幅は1.3メートルで最大機械速度は1610m/minである。触媒含量をできるだけ減少させるため、次の特定シリコーン系(速硬化系シリコーン)を使用した:Dow Corning SL 400(速硬化性シリコーン系:SL 160について50ppm白金の代りに35ppm白金)。
【0101】
グラシン紙INVを、低触媒シリコーン系タイプ:SL 400を用いて1g/mのシリコーン被膜重量でシリコーン処理した。該機械の速度を1200m/minとし、該ウェブ温度を140℃に設定した。ポリ試験(シリコーンの架橋割合)、こすり試験(シリコーン固定)及び多湿条件−50℃/70%HR48時間における後こすり落とし(多湿条件におけるシリコーン固定の抵抗性)を測定した。触媒は10ppmの白金に設定した。結果は表3に報告されている。
【0102】
【表3】
【0103】
この試験において、シリコーン架橋(即ち、ポリ試験=95%)及びシリコーン固定(即ち、こすり試験は、900m/minでSL 161シリコーンを用いて50ppmの白金でシリコーン処理された標準グラシン紙(実施例6参照)より高い、85%である)は、かかる低触媒含量:10ppmの白金で本発明によるグラシン紙を用いて行うことができたことを意味する肯定的限界にある。多湿条件における48時間後、こすり落とし値は79%にあるので、シリコーン固定は変化しなかった。
【0104】
実施例8:クレイコーテッド紙配合におけるかかる官能化PVAの使用−LTCシリコーンによるシリコーン固定への影響
実験室規模で95℃において1リッターの水に80gのPVAを溶解させた。次にそれを、酸性条件(硫酸でpH=1.5)において90℃で1時間1.3gのウンデセナールと反応させた。該反応の終りに、水酸化ナトリウムを使用してpHを7に調節した。
【0105】
次に、かかる官能化PVAを以下の異なる量の官能化PVAでクレイ顔料と混合した:
− 16%の官能化PVAと84%のクレイ顔料(即ち、低官能化PVA配合:LFP配合)
− 28%の官能化PVAと72%のクレイ顔料(即ち、高官能化PVA配合:HFP配合)。
【0106】
両配合物を、AHLSTROM商業グレード(即ち、Silco)からの135g/mの工業的プリコーテッド紙から作製されたA4ハンドシート上に、実験室ハンドコーターを用いて、10g/mの乾燥層で被覆した。次にA4ハンドシートを、実験室カレンダーを用いて、カレンダー掛けした。LMP配合及びHMP配合を用いて作製したこのような実験室紙を、次に、80℃において実験室規模でWacker LTCシリコーンを用いて、1g/mのシリコーンデポジット量でシリコーン処理した。
【0107】
それらの結果を比較するために、AHLSTROM、Silco、135g/mからの工業的クレイコーテッド紙(即ち、標準クレイコーテッド紙:Stand CCP)を、本発明からの二つの他の紙(LFP及びHFPを用いた本発明からのクレイコーテッド紙、即ち、INV−CCP−LFP及びINV−CCP−HFP)と同様にシリコーン処理した。
【0108】
それら三つの試料に関してポリ試験(シリコーンの架橋)及びこすり試験(紙上へのシリコーン固定)を測定し、結果を表4に提示してある。
【0109】
【表4】
【0110】
すべてのポリ試験は>95%であったので、すべての場合LTCシリコーンの架橋は良好であった。他方、こすり試験は標準クレイコーテッド紙について非常に低い(即ち、47%)ので、シリコーン固定の点では異なる紙から相違が見られた。該こすり試験は、INV−CCP−LFPについての62%からINV−CCP−HFPについての93%へと、クレイコーテッド配合中の官能化PVAの量と共に増加しているので、LTCシリコーンの固定は本発明により改良されている。
【0111】
標準クレイコーテッド紙は、ラテックス(即ち、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリレート、ポリ(スチレン−ブタジエン)等)及び水溶性ポリマー(即ち、例えば、澱粉、PVA等)のような結合剤を用いて製造されている。かかる等級のLTCシリコーンの固定は非常に低い(即ち、47%)。標準結合剤を本発明の官能化PVAで置き換えることにより、クレイコーテッド紙上へのLTCシリコーンの固定を改良することができる(即ち、93%のこすり試験)。
【0112】
本発明のグラシン紙に関して、LTCシリコーンでシリコーン接着性を改良することにより標準シリコーンで以下のような他の利点を改良できることが、過去において示されている:
− 変換機でシリコナイジング速度を増加させる、
− シリコーン配合中の触媒(即ち、白金)含量を減少させる、
− 多湿条件においてシリコーン固定を改良する、
− シリコーン消耗を減少させる。
LTCシリコーンを使用することにより得られた予備的な結果のお陰で、今度は本発明の官能化PVAを用いて製造されたクレイコーテッド紙に関して、このようなパラメーターが改良されるかも知れない。
【0113】
このように、本発明による技術は、標準グラシン紙に対して、シリコナイジングに使用される触媒(即ち、白金)の量を60%より多く減少させることを可能にする。同じ条件下で行われた実験において、官能化PVA上へのシリコーンの固定は、使用されたシリコーンが標準シリコーンであろうとLTCシリコーンであろうと、白金触媒を用いて従来法でシリコーン処理されたすべての標準グラシン紙について得られたものよりも優れていることが観察された。このかなりの改良は、該グラシン紙と該シリコーンの間における共有結合の形成によるものである。
【0114】
要約すれば、本発明によるセルロース繊維ベースの支持体は、改良されたシリコーン・ホールドアウト及び高温多湿条件への長期の露出後でもより良いシリコーン固定の形成を可能にする。更に本発明は、シリコーン処理で使用されるシリコーン及び白金触媒の量を減少させることを可能にする。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7