(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述したような制御では、負荷が大きく変動したときに、ノッキング出現率の遅れ演算値が目標出現率に対して大きく下回ることがある。この場合には、予め定められた進角率のために点火時期がゆっくりとしか進角されず、点火時期が最適化されるまでに長時間を要する。換言すれば、効率の悪い運転が長時間に亘って継続されることになる。なお、進角率は、安定的な運転を実現するために、比較的に小さく設定される。
【0007】
そこで、本発明は、点火時期が最適化されるまでにかかる時間を短縮することができるガスエンジンシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のガスエンジンシステムは、内部で燃料ガスと空気の混合気を燃焼させる少なくとも1つのシリンダを含むガスエンジンと、前記シリンダに設けられた点火装置と、前記シリンダ内の圧力を検出する圧力計と、前記点火装置を制御する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記圧力計で検出される前記シリンダ内の圧力に基づいて
、所定のサイクル数に対する許容ノッキングが出現したサイクル数の割合であるノッキング出現率の遅れ演算値を算出し、目標出現率から前記ノッキング出現率の遅れ演算値を差し引いた出現率
差に基づいて
、前記出現率差が正の場合は点火時期を進角し、前記出現率差が負の場合は点火時期を遅角するように一次目標点火時期を決定し、前記出現率
差が正の場合であって、前記一次目標点火時期
から前回点火時期
を差し引いた点火時期
差が第1進角率
の換算値を超えない場合は、前記一次目標点火時期を今回点火時期とし、前記出現率
差が正の場合であって、前記一次目標点火時期
から前回点火時期
を差し引いた点火時期
差が第1進角率
の換算値を超える場合は、急速進角条件を満たすか否かを判定し、前記急速進角条件を満たさない場合は、
前回点火時期に前記第1進角率
の換算値を加えた二次目標点火時期を今回点火時期とし、前記急速進角条件を満たす場合には、前記第1進角率よりも大きな第2進角率となるように今回点火時期を決定し、前記今回点火時期で前記点火装置が前記混合気に点火するように前記点火装置を制御する
とともに、リセット条件を満たすか否かを判定し、前記リセット条件を満たす場合には、少なくとも前記第1進角率で進角した場合に対する前記第2進角率による進角量をリセットするように今回点火時期を補正する、ことを特徴とする。
【0009】
上記の構成によれば、急速進角条件を満たす場合には、第1進角率よりも大きな第2進角率で点火時期が進角される。従って、点火時期が急速に進角され、点火時期が最適化されるまでにかかる時間を短縮することができる。
また、点火時期を急速に進角した後にリセット条件を満たす場合には、点火時期を瞬時に遅角することができる。例えば、リセット条件を負荷が急上昇したときとすれば、点火時期の急速進角後に負荷が急上昇しても、許容不可ノッキングの発生を防ぐことができる。
【0010】
前記急速進角条件は、以下の条件(a)〜(c)の少なくとも1つであってもよい。
(a)現在から所定時間前の間の許容ノッキングの発生回数が所定回数よりも小さい。
(b)目標回転数と実回転数との
差の絶対値が所定回転数よりも小さい。
(c)燃料ガス噴射期間の時間変化率の絶対値が所定変化率よりも小さい。
この構成によれば、点火時期を急速に進角しても、許容ノッキングが多発したり許容不可ノッキングが発生したりすることを防止することができる。
【0011】
前記制御装置は、前記急速進角条件を満たす場合には、
前回点火時期に前記第1進角率
の換算値を加えた二次目標点火時期に、予め定められた加算率から算出される加算量を加算することによって、今回点火時期を決定
し、かつ、前記リセット条件を満たす場合には、今回点火時期から前記加算量の累積値以上を減算することによって今回点火時期を補正してもよい。この構成によれば、第2進角率に由来する進角量のうちで第1進角率に由来する進角量の割合を履歴として残すことができる。
【0012】
例えば、前記リセット条件は、以下の条件(d)および(e)の少なくとも1つであってもよい。
(d)目標回転数と実回転数との
差の絶対値が所定回転数よりも大きい。
(e)燃料ガス噴射期間の時間変化率の絶対値が所定変化率よりも大きい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、点火時期が最適化されるまでにかかる時間を短縮することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(
参照形態)
図1に、本発明の
参照形態に係るガスエンジンシステム10を示す。このガスエンジンシステム10は、ガスエンジン1と制御装置3を含む。
【0016】
ガスエンジン1は、燃料ガス(例えば、天然ガス)のみを燃焼させるガス専焼エンジンであってもよいし、燃料ガスと燃料油の一方または双方を燃焼させる二元燃料エンジンであってもよい。本実施形態では、ガスエンジン1が4ストロークエンジンであるが、ガスエンジン1は2ストロークエンジンであってもよい。
【0017】
ガスエンジン1は、複数のシリンダ21を有する(
図1では1つのシリンダ21のみを図示)。全てのシリンダ21の構成は同じであるため、以下では1つのシリンダ21のみについて説明する。
【0018】
シリンダ21内にはピストン22が往復動自在に配設されており、シリンダ21およびピストン22によって燃焼室2が形成されている。ピストン22は、図略の連接棒により図略のクランク軸と連結されている。
【0019】
4ストロークエンジンの場合、シリンダ21において、ピストン22が二往復することにより、ガスエンジン1の1サイクル(給気、圧縮、膨張、排気)が行われる。シリンダ21における1サイクルの間のガスエンジン1の位相角(0〜720度)は、位相角検出器62により検出される。位相角としては、クランク軸の回転角(クランク角)やピストン22の位置などを用いることができる。例えば、位相角検出器62は、電磁ピックアップ、近接スイッチまたはロータリーエンコーダである。また、位相角検出器62からは、ガスエンジン1の実回転数N(単位:rpm)も検出される。
【0020】
燃焼室2へは、給気路41を通じて空気が供給され、燃焼室2からは、排気路42を通じて排気が排出される。給気路41には、燃焼室2へ供給される空気中に燃料ガスを噴射する主燃料噴射弁51が設けられている。
【0021】
シリンダ21には、給気路41の燃焼室2に対する開口である給気ポートを開閉する給気弁23と、排気路42の燃焼室2に対する開口である排気ポートを開閉する排気弁24が設けられている。また、シリンダ21には、燃焼室2内で燃料ガスと空気の混合気に点火するための点火プラグ(点火装置の一例)55が設けられている。つまり、シリンダ21の内部では、混合気が燃焼される。
【0022】
本実施形態では、燃焼室2が、給気路41および排気路42と連通する主燃焼室2Aと、連通孔が設けられた隔壁25により主燃焼室2Aと隔てられた副燃焼室2Bとからなる。点火プラグ55は副燃焼室2Bに配置されており、副燃焼室2B内には副燃料噴射弁52から燃料ガスが噴射される。副燃料噴射弁52からの燃料ガスの噴射により副燃焼室2B内にはリッチな混合気が形成され、この混合気が点火プラグ55により点火される。これにより副燃焼室2B内に火炎が発生し、その火炎が隔壁25の連通孔を通じて主燃焼室2A内に伝播することにより主燃焼室2A内のリーンな混合気にも点火される。シリンダ21には、当該シリンダ21内の圧力P(主燃焼室2A内の圧力)を検出する圧力計61が設けられている。
【0023】
ただし、点火装置は、副燃焼室2B内の混合気に点火する点火プラグ55に限られない。例えば、点火装置としては、主燃焼室2A内に高圧のパイロット燃料(オイルや燃料ガス)を直接的に噴射することにより当該パイロット燃料を自己発火させるパイロット燃料噴射弁を採用することも可能である(この場合、副燃焼室2Bはなくてもよい)。
【0024】
燃料噴射弁51,52および点火プラグ55は、位相角検出器62で検出される位相角などに基づいて制御装置3により制御される。制御装置3は、ノッキング出現率Krの遅れ演算値が目標出現率Kt(例えば、7.5%)となるように、1サイクルごとに点火時期を調整する。
【0025】
ノッキング出現率Krは、所定のサイクル数Cyに対する許容ノッキングが出現したサイクル数Ckの割合である(Kr=Ck/Cy)。所定のサイクル数Cyは、例えば50サイクルなどと予め定められてもよいし、例えば5〜15秒などと予め定められる時間内に計測されるサイクル数であってもよい。本実施形態では、ノッキング出現率Krの遅れ演算値が、ノッキング出現率Krの移動平均値である。ただし、遅れ演算値は、一次遅れ演算値であってもよい。
【0026】
以下、
図2のフローチャートを参照して、制御装置3が行う制御について詳しく説明する。
【0027】
制御装置3は、圧力計61で検出されるシリンダ21内の圧力Pに基づいて、1サイクルごとに、燃焼状態が、許容不可ノック(D)、許容ノック(C)、通常(A)、失火(B)のいずれであったかを判定する(ステップS1)。
【0028】
燃焼状態の判定の仕方としては、例えば次のような方法がある。制御装置3は、
図3に示すシリンダ21内の圧力波形をフィルタに通して、ピストン22が上死点に達してから所定時間ΔT内の高周波成分を抽出する。さらに、制御装置3は、抽出した高周波成分のうちから複数個の高周波成分をサンプリングし、サンプリングされた高周波成分の平均値PAを算出する。平均値PAが第1閾値T1以上の場合(T1≦PA)は燃焼状態が許容不可ノックであったと判定され、平均値PAが第1閾値T1未満かつ第2閾値T2以上の場合(T2≦PA<T1)は燃焼状態が許容ノックであったと判定される。また、制御装置3は、上死点前後のシリンダ21内の圧力Pの
差ΔPを算出する。
差ΔPが第3閾値T3未満の場合(ΔP<T3)には燃焼状態が失火であったと判定される。
差ΔPが第3閾値T3以上であって上述した平均値PAが第2閾値T2未満の場合(T3≦ΔP、PA<T2)には燃焼状態が通常であったと判定される。
【0029】
図4に示すように、現在のサイクルをn回目とすると、制御装置3は、現在のサイクルからCy回前までの燃焼状態を記憶している。制御装置3は、現在のサイクルからCy回前までで許容ノッキング(C)が出現したサイクル数Ckを求め、CkをCyで割ることによって、現在のサイクルにおけるノッキング出現率Kr
nを算出する(ステップS2)。なお、算出されたノッキング出現率Krは、
図4に示すように、現在のサイクルから所定サイクル数H分だけ制御装置3に格納される。
【0030】
ガスエンジン1が例えば発電設備などの負荷の変動があまり頻繁ではない用途に用いられる場合、Hは比較的に多いことが望ましい(例えば、1500〜2000サイクル)。一方、ガスエンジン1が例えば船舶の主機などの負荷が頻繁に変動する用途に用いられる場合、Hは比較的に少ないことが望ましい(例えば、100〜500サイクル)。
【0031】
次に、制御装置3は、ノッキング出現率Krの移動平均値Kr(AVE)を算出する(ステップS3)。より詳しくは、
図4に示すように、現在のサイクルをn回目とすると、制御装置は、現在のサイクルとH回前のサイクルとの間でノッキング出現率Krを平均化する(Kr(AVE)=(Kr
n+Kr
n-1+・・・+Kr
n-N+1)/H)。
【0032】
次に、制御装置3は、目標出現率Ktからノッキング出現率Krの移動平均Kr(AVE)を差し引いた出現率
差ΔK(=Kt−Kr(AVE))を算出する(ステップS4)。出現率
差ΔKが正の場合は点火時期は進角されるべきであり、出現率
差ΔKが負の場合は点火時期は遅角されるべきである。その後、制御装置3は、出現率
差ΔKに基づいて一次目標点火時期ITfを決定する。一次目標点火時期ITfの決定方法は、例えば、特許文献1に開示された通りである。
【0033】
次に、制御装置3は、前回点火時期IT
n-1から一次目標点火時期ITfまで点火時期を変化させる速度が許容範囲内にあるか否かを判定する。上述した出現率
差ΔKが正の場合は、一次目標点火時期ITfと前回点火時期との点火時期
差ΔIT(=ITf−IT
n-1)も正となり、出現率
差ΔKが負の場合は、点火時期
差ΔITも負となる。
【0034】
具体的に、制御装置3には、予め定められた第1進角率α(単位:deg/sec)と遅角率β(単位:deg/sec)が格納されている。例えば、第1進角率は0.01〜0.05[deg/sec]であり、遅角率は−0.2〜−0.05[deg/sec]である。そして、制御装置3は、点火時期
差ΔITをα/Kと比較するとともに(ステップS6)、点火時期
差ΔITをβ/Kと比較する(ステップS7)。ここで、Kは進角率または遅角率の単位をdeg/secからdeg/cycleに換算するための係数である。本実施形態では、4サイクルエンジンであるため、K=N/120[cycle/sec]である。なお、ステップS6とステップS7の順番は、どちらが先であってもよい。
【0035】
点火時期
差ΔITがα/Kよりも小さくかつβ/Kよりも大きい場合(ステップS6でYESおよびステップS7でYES)、換言すれば点火時期
差ΔITが第1進角率αおよび遅角率βを超えない場合は、制御装置3は、一次目標点火時期ITfを二次目標点火時期ITsとする(ステップS8)。一方、点火時期
差ΔITがβ/Kよりも小さい場合、換言すれば点火時期
差ΔITが遅角率βを超える場合は、制御装置3は、遅角率βから二次目標点火時期ITsを決定する。具体的には、制御装置3は、ITs=IT
n-1+β/Kとする。
【0036】
逆に、点火時期
差ΔITがα/Kよりも大きい場合、換言すれば点火時期
差ΔITが第1進角率αを超える場合は、制御装置3は、急速進角条件を満たすか否かを判定する(ステップS10)。本実施形態では、急速進角条件は、以下の条件(a)〜(c)の全てである。ただし、急速進角条件は、条件(a)〜(c)の少なくとも1つであればよい。急速進角条件が条件(a)〜(c)の少なくとも1つであれば、点火時期を急速に進角しても、許容ノッキングが多発したり許容不可ノッキングが発生したりすることを防止することができる。
(a)現在から所定時間(例えば、60 sec)前の間の許容ノッキングの発生回数が所定回数(例えば、ゼロまたは数回)よりも小さい。
(b)目標回転数Ntと実回転数Nとの
差の絶対値|ΔN|が所定回転数(例えば、2〜10[rpm])よりも小さい。
(c)燃料ガス噴射期間の時間変化率の絶対値|dD|が所定変化率(例えば、0.1〜1[deg/sec])よりも小さい。
【0037】
条件(a)は、燃焼状態が適正な範囲内で安定していることを判定するための条件であり、条件(b)および(c)は、負荷がほぼ一定になったことを判定するための条件である。なお、負荷がほぼ一定になったことを判定するための条件としては、条件(b)および(c)の代わりに、例えば、以下の条件(M1)〜(M4)の少なくとも1つを採用することができる。
(M1)燃料ガスの必要噴射量の時間変化率の絶対値が閾値よりも小さい。
(M2)ガスエンジン1の出力軸に設けられたトルク計で検出されるトルクの時間変化率の絶対値が閾値よりも小さい。
(M3)圧縮機およびタービンを含む過給機がガスエンジン1と接続される場合、実過給圧と目標過給圧との
差の絶対値が閾値よりも小さい。
【0038】
急速進角条件を満たさない場合(ステップS10でNO)、制御装置3は、第1進角率αから二次目標点火時期ITsを決定する(ステップS11)。具体的には、制御装置3は、ITs=IT
n-1+α/Kとする。一方、急速進角条件を満たす場合(ステップS10でYES)、制御装置3は、第1進角率αよりも大きな第2進角率γとなるように二次目標点火時期ITsを決定する(ステップS12)。第2進角率γは、予め定められて制御装置3に格納されており、例えば0.1〜0.5[deg/sec]である。具体的には、制御装置3は、ITs=IT
n-1+γ/Kとする。
【0039】
ステップS8,S9,S11,S12のいずれかで二次目標時期ITsが決定されると、制御装置3は、二次目標点火時期ITsを今回点火時期IT
nとし(ステップS14)、今回点火時期IT
nで点火プラグ55が混合気に点火するように点火プラグ55を制御する(ステップS14)。その後、制御装置3は、ステップS1に戻る。
【0040】
以上説明したように、本
参照形態のガスエンジンシステム10では、急速進角条件を満たす場合には、第1進角率αよりも大きな第2進角率γで点火時期が進角される。従って、点火時期が急速に進角され、点火時期が最適化されるまでにかかる時間を短縮することができる。例えば、
図5に示すように、一次目標点火時期ITfが最大点火時期ITmの近傍まで大きくなれる場合には、今回点火時期ITnを一次目標点火時期ITfに早期に近づけることができる。
【0041】
(実施形態)
次に、
図6および
図7を参照して、本発明の
一実施形態に係るガスエンジンシステムを説明する。ただし、本実施形態では、制御装置3が行う制御のみが
参照形態と異なり、ガスエンジンシステムの構成は
図1に示す通りである。
【0042】
また、本実施形態のフローチャートは、ステップS1からステップS9までは
図2に示すフローチャートと同じであり、ステップS6でNOから先が
図2に示すフローチャートと異なる。
【0043】
本実施形態でも、制御装置3は、点火時期
差ΔIT(=ITf−IT
n-1)が第1進角率αを超えたときに急速進角条件を満たす場合には、第1進角率αよりも大きな第2進角率γとなるように今回点火時期IT
nを決定する。具体的に、点火時期
差ΔITがα/Kよりも大きい場合(ステップS6でNO)、制御装置3は、まず第1進角率αから二次目標点火時期ITsを決定し(ステップS21)、ついで急速進角条件を満たすか否かを判定する(ステップS22)。
【0044】
急速進角条件を満たさない場合(ステップS22でNO)、ステップS31へ進み、二次目標点火時期ITsを今回点火時期ITnとする。ステップS31へは、ステップS8およびステップS9からも進む。一方、急速進角条件を満たす場合(ステップS22でYES)、予め定められた加算率ε(単位:deg/sec)から加算量ΔA(単位:deg/cycle)を算出する(ステップS23)。具体的には、制御装置3は、ΔA=ε/Kとする。
【0045】
その後、制御装置3は、ITs+ΔAを急速進角限界値ITLと比較する(ステップS24)。急速進角限界値ITLは、固定値であってもよいし、急速進角条件を満たしたときの負荷に応じた変動値であってもよい。ITs+ΔAが急速進角限界値ITLよりも大きい場合(ステップS24でNO)、制御装置3は、ステップS31へ進み、二次目標点火時期ITsを今回点火時期ITnとする。換言すれば、急速進角条件を満たしていても、点火時期の急速進角は行わない。
【0046】
逆に、ITs+ΔAが急速進角限界値ITLよりも小さい場合(ステップS24でYES)、制御装置3は、二次目標点火時期ITsに加算量ΔAを加算することによって今回点火時期IT
nを決定する(ステップS25)。換言すれば、制御装置3は、ITs+ΔAを今回点火時期IT
nとする。つまり、本実施形態では、第2進角率γは、第1進角率αと加算率εの和である。
【0047】
ステップS31またはステップS25で今回点火時期IT
nが決定されると、制御装置3は、リセット条件を満たすか否かを判定する(ステップS32)。例えば、リセット条件は、負荷が急上昇したことを判定するための条件として、以下の条件(d)および(e)の少なくとも1つとすることができる。
(d)目標回転数Ntと実回転数Nとの
差の絶対値|ΔN|が所定回転数よりも大きい(所定回転数は、条件(b)の所定回転数と同じであっても異なっていてもよい)。
(e)燃料ガス噴射期間の時間変化率の絶対値|dD|が所定変化率よりも大きい(所定変化率は、条件(c)の所定変化率と同じであっても異なっていてもよい)。
【0048】
リセット条件を満たさない場合(ステップS32でNO)、制御装置3は、今回点火時期IT
nを補正しない。逆に、リセット条件を満たす場合(ステップS32でYES)、制御装置3は、今回点火時期IT
nから所定量θを減算することによって、今回点火時期IT
nを補正する。所定量θは、固定値であってもよいし、状況に応じた変動値であってもよい。例えば、所定量θは、加算量ΔAの累積値A以上であってもよい。この場合には、
図8に示すように、点火時期の急速進角後にリセット条件を満たしたときに、今回点火時期IT
nを第1進角率αに基づく直線上またはその直線よりも下方にシフトさせることができる。あるいは、所定量θは、累積値Aよりも小さくてもよい。
【0049】
その後、制御装置3は、今回点火時期ITnで点火プラグ55が混合気に点火するように点火プラグ55を制御し(ステップS34)、ステップS1に戻る。
【0050】
本実施形態でも、
参照形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態では、ステップS25で二次目標点火時期ITsに加算量ΔAが加算されるので、第2進角率γに由来する進角量のうちで第1進角率αに由来する進角量の割合を履歴として残すことができる。
【0051】
さらに、本実施形態では、点火時期を急速に進角した後にリセット条件を満たす場合には、点火時期を瞬時に遅角することができる。例えば、リセット条件を負荷が急上昇したときとすれば、点火時期の急速進角後に負荷が急上昇しても、許容不可ノッキングの発生を防ぐことができる。さらに、今回点火時期IT
nから減産される所定量θが加算量Aの累積値A以上であれば、許容不可ノッキングの発生を防ぐという効果を顕著に得ることができる。
【0052】
(その他の実施形態)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0053】
例えば
、実施形態のステップS32およびステップS34は、
参照形態のステップS13とステップS14の間で実行されてもよい。
【0054】
また、
参照形態において、ステップS12の後に、二次目標点火時期ITsを点火時期限界値ITLと比較するステップを設け、ITs>ITLのときはステップS11へ進むようにしてもよい。
【解決手段】ガスエンジンシステムの制御装置は、シリンダ内の圧力に基づいてノッキング出現率の遅れ演算値を算出し、目標出現率からノッキング出現率の遅れ演算値を差し引いた出現率偏差に基づいて一次目標点火時期を決定し、出現率偏差が正の場合であって、一次目標点火時期と前回点火時期との点火時期偏差が第1進角率を超えない場合は、一次目標点火時期を今回点火時期とし、出現率偏差が正の場合であって、一次目標点火時期と前回点火時期との点火時期偏差が第1進角率を超える場合は、急速進角条件を満たすか否かを判定し、急速進角条件を満たさない場合は、第1進角率から決定される二次目標点火時期を今回点火時期とし、急速進角条件を満たす場合には、第1進角率よりも大きな第2進角率となるように今回点火時期を決定する。