【実施例】
【0117】
実施例1
トーホールドリボレギュレーターおよびレポータータンパク質/GOI
図1の例示的リボレギュレーターを実験的に試験した。GOIは、半減期を約110分に設定するASV分解シグナルによりタグ化されたEGFPバリアントGFPmut3bであった。crRNAにコグネートのtaRNAは、最小の二次構造およびcrRNAの30nt長の標的結合部位に対して完全な相補性を有するようにソフトウェアパッケージNUPACKを使用して設計した。
【0118】
リボレギュレーターは、大腸菌(E.coli)BL21 DE3 star、T7RNAポリメラーゼを担持するラムダファージ溶原菌を含有するRNアーゼE欠損株中で、IPTG誘導性lacUV5プロモーターの制御下で試験した。crRNAおよびtaRNA構築物を別個のプラスミドから発現させてcrRNAと、コグネートおよび非コグネートtaRNA配列との相互作用の迅速な特性決定を可能とした。crRNAおよびtaRNAの両方について、転写を上流T7プロモーターから開始させ、T7RNAポリメラーゼ終結シグナルを使用して転写を終結させた。crRNA−GFP転写物は、中コピー数colA起点を有するプラスミドから生成した一方、taRNA転写物は、colE1起点を有する高コピー数プラスミドから生成した。プラスミドコピー数のこれらの変動は、完全誘導細胞内部のcrRNAと比較して推定で7倍過剰のtaRNAをもたらした。この比は、従来の研究およびと類似し、典型的なコピー数の差はアンチセンスRNAおよびその標的について観察される。
【0119】
インビボ試験を、crRNAおよびそのコグネートtaRNA標的(オン状態株)ならびにcrRNAおよび非コグネートtaRNA(オフ状態株)により形質転換された大腸菌(E.coli)中で実施し、1mLの選択LB培地中で37℃において気体透過性シールにより覆われた深ウェル96ウェルプレート中で一晩増殖させた。オンおよびオフ状態リボレギュレーターの条件の両方における2つのプラスミドによる大腸菌(E.coli)の形質転換により、転写されている少なくとも外因性RNAの数に関して両方の株を類似の代謝負荷に供することを確保した。一晩培養物を100倍希釈し、37℃において深ウェルプレート中で80分間増殖させた。次いで、初期対数期の細胞を0.1mMのIPTGにより誘導し、フローサイトメトリーを介する特性決定のためにアリコートを1時間ごとの時点において採取した。試料間のGFP蛍光強度の比較のため、モードGFP強度をフローサイトメトリーデータから作成された蛍光強度ヒストグラムから計算した。
【0120】
リボレギュレーター性能の第1の尺度として、crRNA−GFP構築物の蛍光強度を、同一BL21 DE3 star大腸菌(E.coli)株中で同一レベルのIPTGにおいて誘導された非シス抑制GFP構築物からの蛍光と比較した。これらの計測は、6つの試験リボレギュレーターcrRNAについて極端に高いレベルの翻訳抑制を実証し、蛍光出力を99.5%以上だけ低減させた(
図2参照)。リボレギュレーターのトランス活性化の有効性を計算するため、コグネートtaRNAの存在下のcrRNA−GFPのモードGFP蛍光を、非コグネートtaRNAの存在下のcrRNA−GFPの蛍光と比較した。これら2つの数字を割ることにより、オン/オフ比を試験リボレギュレーター全てについて計算した。
図3は、高性能トーホールドリボレギュレーターについて1時間ごとの時点において採取されたこのオン/オフ比を提示する。エラーバーは、3つの生物学的レプリケートから計算されたオン/オフ比における標準偏差である。これらのデータから、トーホールドリボレギュレーターは標的RNAによる強力なトランス活性化を示し得、誘導からわずか2から3時間後に蛍光が200倍超だけ増加することが明確である。
【0121】
同一の計測を、追加の60個のトーホールドリボレギュレーター設計に対してインビボで実施し、オン/オフ比を
図4に示す。試験されたリボレギュレーターのほぼ三分の一が、GFP出力をそれらのコグネート標的の存在下で50倍以上だけ増加させる。
【0122】
実施例2
ビーコンリボレギュレーター
トーホールドリボレギュレーターに使用されたものと同一の条件を使用してビーコンリボレギュレーター、例えば、
図5に示される構造を有するものを試験した。
図6は、6つのビーコンリボレギュレーターについて得られたオン/オフ蛍光強度比中央値を示す。デバイスの4つは、10を超過するオン/オフ比を示し、1つの設計は200倍を超過する。
【0123】
実施例3
内因性RNAセンシング
本明細書に記載の新規リボレギュレーターは、内因性RNAの検出に使用することができる。概念実証として、大腸菌(E.coli)中で小型RNA ryhBによりトリガーすることができるビーコンリボレギュレーターを設計および生成した。ryhBは、大腸菌(E.coli)中で鉄レベルが低い場合に上方調節される90nt長の非コードRNAである。このRNAは、培養培地への鉄キレーター2,2’−ジピリジルの添加を通して誘導することができる。
【0124】
この内因性センサーを試験するため、GFPレポーターの上流にビーコンリボレギュレーターを含有するプラスミドを構築した。crRNA転写物の発現は、IPTG誘導性PllacO−1プロモーターを使用して制御した。リボレギュレーターセンサープラスミドにより形質転換されたMG1655大腸菌(E.coli)細胞を、1mMのIPTGにより初期対数期において誘導した。同時に、鉄キレーターの添加を通してryhB発現を誘導した。2時間後に回収された細胞から採取されたフローサイトメトリー計測は、2,2’−ジピリジルにより誘導されなかった対照集団と比較してryhB含有細胞についてGFP蛍光強度の5倍増加を実証した(
図7)。さらに、PllacO−1プロモーター下の非シス抑制GFPレポーターを含有する対照細胞は、IPTG単独で誘導されたものと比較してIPTGおよび2,2’−ジピリジルの両方により誘導された場合、蛍光強度の減少を示した。この追加の対照は、センサーからのGFP出力が、鉄キレーターの添加により引き起こされる転写レベルの増加により引き起こされなかったことを実証する。
【0125】
実施例4
リボレギュレーターを使用する複合OR論理演算の遺伝子コード化
本発明者らは、リボレギュレーターライブラリーのメンバーを使用して複数の論理OR演算をインビボで良好に実施した。最も単純なOR演算は、入力のいずれかが存在する場合に論理ゲートを活性化する2つの入力AおよびBを含む。本発明者らは、2つの高性能リボレギュレーターを選び、それらをGFPのためのコード配列の上流に同一のmRNAに沿って順次配置することにより、このシステムをインビボで簡単に実行した(
図11a)。インビボでのこのゲートの意図される演算を
図11bに示す。いずれかの入力RNA分子が細胞中に存在する場合、それはその対応するcrRNAモジュールに結合し、そのステムを巻き戻すことによりモジュールを脱抑制する。タンパク質翻訳に関与するリボソームは強力RNAヘリカーゼ活性を有するため、それは下流crRNAをそのパスで巻き戻し得、翻訳は妨げられないままである。2入力ORゲートのフローサイトメトリーにより、いずれかのプログラミングされたtaRNA入力が転写された場合にGFP発現の強力な活性化が明らかになった(
図11c)。さらに、crRNAの位置を交換した並行実験は、類似のシステム性能を示した。
【0126】
2入力ゲートの良好な実装により端を発し、本発明者らは、GFPの上流に配置された6つのcrRNAモジュールを特徴とする6入力OR論理システムを追求した(
図12)。OR論理システム中の親crRNAの3つがストップコドンを含有するため、本発明者らは、それらの不所望なコドンを排除するようにそれらの配列を改変し、それらを個々に試験してストップコドン不含バリアントがそれらの親の活性を保持することを確保した。これらの試験に続き、遺伝子集積を使用して474bpの6crRNA構築物を合成し、異なるtaRNAエレメントを発現するプラスミドとともに大腸菌(E.coli)中に形質転換した。6入力ORmRNAおよびコグネートtaRNAの1つの両方を発現する細胞は、誘導物質IPTGを含有するプレート上で計測した場合、強力なGFP蛍光を示す。しかしながら、4つの非コグネートtaRNAのセットは、GFPの顕著な発現を活性化せず、本発明者らのインビボ論理的枠組みの優れたオルソゴナル性を強調した。これらの形質転換体からのフローサイトメトリー計測も、良好なORゲート演算を裏付け、6つ全ての入力は、4つの非コグネートtaRNAのセットと比較して少なくとも5倍高いGFP出力を提供した。
【0127】
実施例5
リボレギュレーターを使用する複合AND論理演算の遺伝子コード化
本発明者らは、トーホールドリボレギュレーターを使用するAND論理演算を実施するための一般化可能なシステムを開発した。
図9は、GFPレポーター配列の上流のcrRNA配列を特徴とする2入力ANDゲートを示す。システム中の2つの入力は、crRNAゲートのコグネートtaRNA配列の半分を含有する2つのRNA配列AおよびBである(
図9A)。2つの入力RNAは、それらが細胞内部に存在する場合に両方のRNAの互いの結合を可能とするハイブリダイゼーションドメイン(u−u
*)も有する。このハイブリダイゼーションイベントが生じる場合、2つのtaRNAの半分が近接し、ゲートcrRNAを巻き戻してGFPの翻訳をトリガーし得る配列を提供する。入力RNAのそれぞれは、そのままで発現される場合、そのcrRNAを脱抑制し得ない。それというのも、それらは、(1)crRNAステムの十分に長い領域を巻き戻し得ないため(入力Bについてのケースである)、または(2)それらは、動力学的および熱力学的にcrRNAへの結合が損なわれるためである(入力Aについてのケースである)。2入力AND論理システムについてのフローサイトメトリー計測は、大腸菌(E.coli)中のその演算を検証する(
図9B)。GFP出力は、システム中の3つ全てのRNAが細胞内部で発現される場合にのみ活性化される一方、それは全ての他のケースにおいて低い。
【0128】
トーホールドリボレギュレーターをベースとするANDゲートは、6ビット演算に良好に拡張された。
図13Aに示されるとおり、このシステム中のゲートは、6つの検証トーホールドリボレギュレーターcrRNAのステム配列および最底crRNAからのトーホールド配列からなる伸長ステムを有するヘアピンからなる。したがって、入力RNAは、対応するtaRNA配列を含有し、それらの隣接入力鎖に対するハイブリダイゼーション配列も有する。所与の入力のハイブリダイゼーション配列は、次の入力RNAのトーホールド結合ドメインに相補的である。例えば、入力Aは、入力Bが結合する12から15nt配列を含有し、この配列は、入力BのコグネートcrRNAのためのトーホールドである。結果的に、ゲートへの入力Aの結合が、そのステムのボトム塩基を巻き戻し、入力Bの結合のための新たなトーホールドも提供する。このステム巻き戻し/トーホールド提示プロセスは、全ての入力がゲートに結合するまで反復する。全ての入力の結合時、RBSおよびスタートコドンは脱抑制され、それによりGFPまたは別の目的タンパク質の産生がトリガーされる。本発明者らは、ゲートmRNAも発現する大腸菌(E.coli)中で入力RNAの異なる組合せを発現させることにより、このゲートを検証した。
図13Bは、LBプレート上で誘導されたコロニーから計測されたGFP強度を示す。強力なGFP蛍光は、6つ全ての入力が細胞中で発現される場合にのみ可視的である。GFP発現は6つの他の入力の組合せ、例として、入力RNAの1つを除き全てが発現されるストリンジェントな試験において低い。
【0129】
実施例6
リボレギュレータートーホールドリプレッサー
本発明者らは、44個のトーホールドリプレッサー(デバイス/システム)のライブラリーを構築し、それらの機能を大腸菌(E.coli)BL21 Star DE3中で試験した。本発明者らは、フローサイトメトリーを使用してシステムの性能を試験し、オフ状態(すなわち、コグネートトリガーの存在下);およびオン状態(すなわち、コグネートトリガーの不存在下)のスイッチからモードGFP蛍光を計算した。次いで、本発明者らは、式:
%抑制=1−[オフ状態モード蛍光÷オン状態モード蛍光]
を使用して抑制レベルパーセントを計算した。
【0130】
図15Bは、ライブラリー中の44個のリプレッサーについて得られた%抑制レベルを示す。リプレッサー40から44は、高度に変動する性能を有する。本発明者らは、それらの挙動が、スイッチRNAのフォールディングの不安定性に起因し、それがトリガーRNAが存在しない場合であってもスイッチRNAのオン状態立体構造とオフ状態立体構造との間の上下を引き起こすことを仮定する。デバイス/システムの残りは、平均してかなり十分に機能する。全ライブラリーの73%が、少なくとも80%の抑制レベルを有する。さらに、ライブラリーの50%が、90%よりも高い抑制を示す。この優れた90%の抑制レベルは、ほぼ全ての従来報告された翻訳リプレッサー(Mutalik et al.,Nat.Chem.Biol.8:447-454,2012参照)の性能を超過する。追加の計測も、最大性能トーホールドスイッチが1時間以内に95%超の翻訳抑制を達成し、後続の時点においてレベルを99%超まで増加させ得ることを実証した(
図16)。
【0131】
実施例7
トーホールドスイッチ
本明細書に記載のとおり、本発明は、新たなクラスの、公知の天然相当物を有さないいわゆるトーホールドスイッチにおける遺伝子発現の転写後リボレギュレーターを提供する。トーホールドスイッチは、トランス作用トリガーRNAに応答して調節される遺伝子を活性化する。生細胞中のこれらの演算は、2つの新規機序により促進される:インビトロ試験において開発されたトーホールドベース直鎖−直鎖RNA相互作用および開始コドンを包囲する領域中の塩基対形成を介する効率的な翻訳抑制。本発明者らは、トーホールドスイッチが100倍超だけタンパク質発現のモジュレーションを定型的に可能とすることを実証し、最良のスイッチは、タンパク質ベースレギュレーターのダイナミックレンジに匹敵する。本発明者らは、オルソゴナルコンポーネントの大型セット、例として、2%未満のシステムクロストークレベルを示し、これまで報告されたタンパク質またはRNAベースのオルソゴナル調節エレメントの最大および最もストリンジェントなファミリーを構成する18個のトーホールドスイッチのライブラリーを検証した。次いで、本発明者らは、406の平均オン/オフ蛍光比を有する13個のトーホールドスイッチのセットをフォワードエンジニアリングした。本発明者らは、熱力学的分析をさらに適用してシステム性能の変動を予測した。さらに、本発明者らは、機能mRNA分子から効率的にトリガーし得るトーホールドスイッチのセットを実証する。これらのトーホールドスイッチの高いダイナミックレンジ、オルソゴナル性、プログラマブル性、および多用途性は、それらが合成生物学のための強力な新ツールであることを示唆する。
【0132】
方法
株、プラスミド、および増殖条件。以下の大腸菌(E.coli)株を本試験において使用した:BL21 Star DE3(F
−ompT hsdS
B(r
B−m
B−)gal dcm rne131(DE3);Invitrogen)、BL21 DE3(F
−ompT hsdS
B(r
B−m
B−)gal dcm(DE3);Invitrogen)、MG1655Pro(F
−λ
−ilvG−rfb−50 rph−1 Sp
R lacR tetR)、およびDH5α(endA1 recA1 gyrA96 thi−1 glnV44 relA1 hsdR17(r
K−m
K+)λ
−)。全ての株を、適切な抗生物質を有するLB培地中で増殖させた。抗生物質は、以下の濃度において使用した:アンピシリン(50μg mL
−1)、カナマイシン(30μg mL
−1)、およびクロラムフェニコール(34μg mL
−1)。
【0133】
トーホールドスイッチを特性決定するため、化学コンピテント大腸菌(E.coli)を、トーホールドスイッチおよびトリガープラスミドの望ましい組合せにより形質転換し、抗生物質の適切なペアを含有するLB/寒天プレート上にスプレッドした。コロニーGFP蛍光計測のため、LB/寒天プレートに0.1mMのイソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を補給してRNA発現を誘導した。フローサイトメトリー計測のため、抗生物質を含有するLB培地に、個々のコロニーからピックされた細胞を播種し、それを37℃において振とうさせながら一晩インキュベートした。次いで、細胞を新鮮な選択LB培地中に100倍希釈し、再び96ウェルプレート中で37℃において振とうさせた。BL21 Star DE3およびBL21 DE3中のT7RNAポリメラーゼ推進発現のため、細胞を、0.1mMのIPTGにより、増殖80分後の0.2〜0.3のOD600において誘導した。特に記載のない限り、細胞培養物に対する計測をIPTGの添加3時間後に行った。構成的PN25プロモーターを使用する発現のため、一晩培養物を選択LB培地中に100倍希釈した。この希釈の時間は、後続の計測のためにt=0として定義した。
【0134】
プラスミド構築。全てのDNAオリゴヌクレオチドは、Integrated DNA Technologies,Incから購入した。二本鎖トリガーおよびスイッチDNAは、ユニバーサルプライマーを使用して増幅された単一の>100ntオリゴヌクレオチドから、またはgene2oligo(Rouillard et al.,Nucleic Acids Res 32:W176-180,2004)を使用してセグメント化された短い<50ntオリゴヌクレオチドからの遺伝子集積を使用して産生した。次いで、30bp重複領域を用いるGibsonアセンブリー(Gibson et al.,Nat.Methods 6:343-345,2009)を使用してこれらのPCR産物をベクター骨格中に挿入した。ユニバーサル骨格プライマーを使用してベクター骨格をPCR増幅させ、消化してからDpnI(New England Biolabs,Inc.)を使用して集積した。骨格は、T7ベース発現プラスミドpET15b、pCOLADuet、およびpACYCDuet(EMD Millipore)から生成した。pET15b、pCOLADuet、およびpACYCDuetプラスミドは全て、構成的に発現されるlacI遺伝子、T7RNAポリメラーゼプロモーターおよびターミネーターペア、ならびに以下のそれぞれの耐性マーカー/複製起点:アンピシリン/ColE1、カナマイシン/ColA、およびクロラムフェニコール/P15Aを含有する。pET15b骨格を使用して本明細書に提示される全てのトリガーRNAを発現させ、pCOLADuetまたはpACYCDuet骨格のいずれかを使用してスイッチmRNAを発現させた。骨格のためのリバースプライマーを、T7プロモーターの上流の領域に結合するように設計した。トリガー骨格のためのフォワードプライマーを、T7プロモーターの先頭から増幅させた。スイッチ骨格のためのフォワードプライマーを、GFPmut3b−ASVまたはmCherryのいずれかの5’末端のプライミングをオフにし、Gibsonアセンブリーのためのリンカーを含有する30nt配列を付加するように設計した。構築物をDH5α内部でクローニングし、配列決定して全てのトーホールドスイッチコンポーネントが正確に合成されたことを確保した。全ての形質転換は、確立された化学形質転換プロトコル(Inoue et al.,Gene,96:23-28,1990)を使用して実施した。
【0135】
フローサイトメトリー計測および分析。フローサイトメトリーは、ハイスループットサンプラーを備えるBD LSRFortessa細胞分析装置を使用して実施した。GFP蛍光強度は、488nmの励起レーザーおよび530/30nmフィルターを使用して計測した。mCherry蛍光強度は、561nmレーザーおよび610/20nm発光フィルターを使用して計測した。典型的な実験において、細胞をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中に約65倍だけ希釈し、96ウェルプレートからサンプリングした。前方散乱(FSC)をトリガーに使用し、約30,000個の個々の細胞を分析した。
【0136】
オン状態およびオフ状態細胞の蛍光計測についての誤差レベルは、少なくとも3つの生物学的レプリケートからの計測の標準偏差から計算した。次いで、オン/オフ蛍光比についての相対誤差レベルを、オンおよびオフ状態蛍光の相対誤差を四重で付加することにより決定した。インビボシステムクロストークの計測のため、676個の形質転換細胞の株のそれぞれの単一コロニーを、フローサイトメトリーを使用して計測した。これらの株についてのGFP出力のコロニー間の変動を推定するため、本発明者らは、ランダムに選択された18個の形質転換体のサブセットを計測し、それらを六重で計測した。これらの計測についての相対不確実性は、平均して12%であり、それはライブラリーコンポーネントについてのオン/オフ蛍光比を決定するために使用されたフローサイトメトリー実験について得られた不確実性と同等である。
【0137】
コロニー蛍光イメージング。大腸菌(E.coli)コロニーからの蛍光の画像は、Typhoon FLA 9000生体分子イメージングシステムを使用して得た。全ての画像は、同一のPMT電圧、0.1mmのイメージング分解能、473nmのレーザー励起、およびGFPの検出のためのLPB(>510nm長パス)フィルターを使用して得た。誘導細胞を、それらをプレーティングして約18時間後にイメージングした。IPTGはGFPと同一のチャネルで低レベルの蛍光を示すため、プレート中のLB/寒天の厚さの変動は、バックグラウンド蛍光レベルの変動をもたらす。この効果を補うため、それぞれのプレート上で計測された最小のGFP強度を、プレート全体の強度レベルから差し引き、それによりほとんどのバックグラウンドIPTG蛍光を除去した。
【0138】
結果
本明細書において、タンパク質翻訳の転写後活性化を可能とする新たなリボレギュレーターのシステムが提供される。従来のリボレギュレーターとは異なり、本発明の合成リボレギュレーターは、トーホールド媒介直鎖−直鎖相互作用を利用してRNA−RNA鎖置換相互作用を開始させる。さらに、これらはスタートコドン周囲の領域の封鎖に依存してタンパク質翻訳を抑制し、翻訳を妨害するRBSまたはスタートコドン自体へのいかなる塩基対形成も回避される。結果として、これらのリボレギュレーターは、実質的に任意の配列を有するトリガーRNAに応答してタンパク質翻訳を活性化するように設計することができ、コンポーネントオルソゴナル性のかなりの改善を可能とする。RBSへの結合の不存在および熱力学的に好ましい直鎖−直鎖相互作用の使用は、RBSエンジニアリングを介する翻訳効率の容易な調整も可能とする。結果的に、これらのシステムは、2桁を超えるタンパク質発現のモジュレーションを定型的に可能とする。これらの相互作用機序の準デジタルシグナルプロセシング挙動に基づき、それらのリボレギュレーターシステムは本明細書においてトーホールドスイッチと称される。
【0139】
本開示は、規定のトリガーRNAに応答してタンパク質産生を100倍超だけ増加させる多数の翻訳アクチベーターを大腸菌(E.coli)中で検証することにより、トーホールドスイッチの有用性をさらに実証する。さらに、本発明者らは、新規リボレギュレーター設計により提供される拡大RNA配列スペースを利用して前例のない部分オルソゴナル性を有するコンポーネントのライブラリー、例として、セット全体にわたり12%未満のクロストークを示す26個のシステムのセットを構築し、それは全ての従来のオルソゴナルレギュレーターライブラリーのサイズを3倍超だけ超過する。トーホールドスイッチの配列および熱力学的分析は、新たなリボレギュレーターをフォワードエンジニアリングするために使用することができる設計原理のセットを生じさせる。これらのフォワードエンジニアリング型部分は、平均して、純粋な合理的設計枠組みから構築されるコンポーネントを使用してタンパク質ベース遺伝子ネットワークについて典型的に確保されるダイナミックレンジである400を超過するオン/オフ比を示す。
【0140】
トーホールドスイッチ設計。トーホールドスイッチシステムは、スイッチおよびトリガーと称される2つのプログラミングされたRNA鎖から構成される(
図17B)。スイッチmRNAは、調節される遺伝子のコード配列を含有する。このコード配列の上流に、強力なリボソーム結合部位およびスタートコドンの両方に続き、目的遺伝子のN末端に付加されるアミノ酸をコードする短いリンカー配列を含有するヘアピンベースプロセシングモジュールが存在する。ヘアピンモジュールの5’末端における一本鎖トーホールド配列は、トリガーRNA鎖のための初期結合部位を提供する。このトリガーモジュールは、RBSおよび開始コドンを露出するヘアピンとの分岐点移動プロセスを完了させ、それにより目的遺伝子の翻訳の活性化を引き起こす一本鎖RNAである。
【0141】
ヘアピンプロセシングユニットは、トリガー鎖の不存在下で翻訳のリプレッサーとして機能する。従来のリボレギュレーターとは異なり、RBS配列は、ヘアピンの11ntループ内で完全に対形成しないままである。代わりに、開始コドンの直前および直後の塩基が、それぞれ6および9塩基対長であるRNA二本鎖内で封鎖される。スタートコドン自体は、本発明者らが試験したスイッチ中で対形成しないままであり、18ntヘアピンステムの中間点付近で3ntのバルジを残す。抑制ドメインb(
図17B)はスタートコドンに相補的な塩基を有さないため、次いでコグネートトリガー鎖が対応するスタートコドン塩基を含有する必要がなく、それにより潜在的なトリガー配列の数を増加させる。スタートコドン後に付加されるヘアピン配列の配列を、ストップコドンの存在についてもスクリーニングした。それというのも、それらは、リボレギュレーターが活性化される場合に目的遺伝子の翻訳を早期に終結させるためである。抑制トーホールドスイッチmRNAからのGFP発現の試験により、未抑制GFPmRNAと比較して98%以上の典型的な抑制レベルが明らかになった。この設計による良好な翻訳抑制を裏付けた後、本発明者らは、ヘアピンの5’末端において12ntトーホールドドメインを用いてそれとコグネートトリガー鎖との相互作用を開始させた。トリガー鎖は、スイッチmRNA中の初期塩基に完全に相補的な30nt一本鎖RNAを担持する。
【0142】
この塩基トーホールドスイッチ設計から、本発明者らは、NUPACK核酸配列設計パッケージ(Zadeh et al.,J.Comput.Chem.32:170-173,2011)を使用して翻訳アクチベーターのライブラリーを生成した。共通の21nt配列を使用してスイッチmRNAのヘアピンモジュールを目的遺伝子のコード配列に結合させた。このリンカー配列は、この場合、GFPレポーターであるように選択される目的遺伝子のフォールディングに対するその影響を最小化するために低分子量アミノ酸をコードするようにプログラミングした。計算負荷を低減させるため、GFPの最初の29ntのみを二次構造分析のために考慮した。しかしながら、完全なトリガー転写物は、設計プロセスの間にシミュレートした。この転写物は、T7RNAポリメラーゼプロモーターからの効率的な転写を促進するためのGGGリーダー配列、RNA安定性を増加させるための5’ヘアピンドメイン、および転写物の3’末端における47ntT7RNAポリメラーゼターミネーターを含んだ。NUPACKを使用し、規定の二次構造を満たし、特定のRBSおよびターミネーター配列を有するトーホールドスイッチ設計を生成した。設計中の未特定塩基はランダムであり、したがって、4つのRNA塩基のいずれかであることを可能とし、一部の配列制約をNUPACKに適用して同一塩基のランの伸長を除外した。本発明者らは、インビボ性能を測るために24個のトーホールドスイッチのセットを設計し、それらを方法の項に記載のとおり構築した。多数のこれらのスイッチが高いダイナミックレンジを示すことを裏付けた後、本発明者らは最初に、ライブラリーの残りとの低いクロストークについて選択されるエレメントを含有するトーホールドスイッチの拡張ライブラリーの設計に着手した。
【0143】
このライブラリーを生成するため、ランダム化配列を有する合計672個のトーホールドスイッチ設計を、NUPACKを使用して生成した。得られた設計のうち、25個がスタートコドン後のヘアピン領域中でストップコドンをコードすることが見出された。残りのシステムにおいて、1つの二重設計が見出され、646個の特有のリボレギュレーター設計がライブラリー中で残った。
【0144】
次に、本発明者らは、大腸菌(E.coli)中の試験のため、最低レベルの意図されないリボレギュレーター−トリガークロストークを示すこれらのトーホールドスイッチ設計の144個のサブセットを選択した。クロストークについてのインシリコスクリーニングは、2つの目的を果たした。第1に、得られたオルソゴナルレギュレーターのライブラリーは、インビボ翻訳を独立して調節するためのコンポーネントの大型セットを提供し得た。第2に、オルソゴナル性についてスクリーニングされたシステムは、考えられるトーホールドスイッチの配列スペースの大部分に必然的に及び、将来的なシステムの設計を与える。本発明者らは、417,316個のRNA−RNA相互作用に対応する646個の完全なセットについてのリボレギュレーターとトリガー鎖との間のペアワイズ相互作用をシミュレートした。これらのシミュレーションは、任意の得られたリボレギュレーター−トリガー複合体の濃度およびそれらの二次構造を決定した。これらのリボレギュレーター−トリガー複合体中のトーホールドスイッチステムのインテグリティを使用して意図されないトリガー活性化の可能性を決定した。それというのも、スタートコドン付近の二本鎖領域の破壊は、目的遺伝子の翻訳をもたらすためである。このステムインテグリティメトリックを通して、本発明者らは、モンテカルロアルゴリズムを使用して予測される最低の正味システムクロストークを有する144個のトーホールドスイッチ設計を選択した。これは、同一の二次構造制約に従うランダム配列を有する168個の異なるコンポーネントから構成されるトーホールドスイッチライブラリーをもたらした。
【0145】
コンポーネント検証。トーホールドスイッチを大腸菌(E.coli)BL21 Star DE3中で試験し、スイッチmRNAを中コピープラスミド(ColA起点)から発現させ、トリガーRNAを高コピープラスミド(ColE1起点)から発現させた。両方の鎖の発現は、IPTGを使用して誘導し、T7RNAポリメラーゼを通して両方のRNA種の産生をトリガーした。スイッチ性能の定量的評価を可能とするため、本発明者らは、110分の半減期が報告されているASVタグ化GFPmut3b(Andersen et al.,Appl.Environ.Microbiol.64:2240-2246,1998)を蛍光レポーターとして使用した。これらの実験的条件において、スイッチおよびトリガーRNAを発現するプラスミドのコピー数の差は、それぞれのプラスミドから別個に発現されたGFPmut3b−ASVの蛍光計測により決定されたとおり、スイッチ分子と比較して6〜8倍過剰のトリガーをもたらした。
【0146】
フローサイトメトリーを使用してトーホールドスイッチの性能を特性決定した。細胞を、IPTGの誘導後1時間の間隔において計測した。オン蛍光は、リボレギュレーターおよびそのコグネートトリガーにより形質転換された細胞について計測された一方、オフ蛍光は、リボレギュレーターおよびランダムに選択された非コグネートトリガーを含有する細胞から測定された。活性化および抑制トーホールドスイッチの両方からの蛍光ヒストグラムは、ほぼ完全に単一モードであり、細胞デジタル論理におけるそれらの潜在的な使用を強調する(データ示さず)。ヒストグラムからのモード蛍光値を使用してそれぞれのリボレギュレーター設計のオン/オフ比を計算した。
図17Cは、オンおよびオフ状態の3つのトーホールドスイッチ(番号2、3および5)から計測されたモードGFP蛍光を示す(スイッチのみが第1のバーであり、スイッチおよびトリガーが第2のバーであり、陽性対照が第3のバーである)。比較のため、GFPレポーターのための同一配列を含有するそれぞれのスイッチmRNAの未抑制バージョンも陽性対照として評価した。スイッチのオフ状態蛍光は、GFPを発現しない誘導細胞について計測されるほぼバックグラウンド蛍光レベルである。活性化トーホールドスイッチについてのオン状態蛍光は、陽性対照と同等であり、ほぼ全てのスイッチmRNAがそれらのトリガーRNAにより結合したことを示す。
【0147】
システムの活性化は、誘導1時間以内に観察され、経時的に増加し、GFPが蓄積した(
図17D、挿入図)。
図17Dは、ランダム配列ライブラリー中の168個全てのスイッチについて誘導3時間後に決定されたオン/オフモードGFP蛍光比を提示する。試験されたシステムのうち、20個が100を超過するオン/オフ比を示し、ほぼ三分の二が少なくとも10を超えるオン/オフを示す。比較において、本発明者らは、広く使用されるエンジニアリング型リボレギュレーターcrRNA10および12(Isaacs et al.,Nat.Biotechnol.22:841-847,2004により記載)も同一条件において特性決定した。これらの早期のリボレギュレーションシステムは、顕著に低いダイナミックレンジを示し、crRNAシステム10および12についてそれぞれ11±2および13±4のオン/オフ値であった。
【0148】
トーホールドスイッチオルソゴナル性の評価。翻訳アクチベーターのオルソゴナル性を評価するため、本発明者らは、144個のオルソゴナルコンポーネントライブラリーから上位35個のリボレギュレーターを選択し、追加のインシリコスクリーニングを実施し、ステムインテグリティおよび非コグネートトリガー鎖とスイッチ鎖との不所望な結合の両方に関して極端に低いレベルのクロストークを示す26個のサブセットを単離した。次いで、26個のリボレギュレーター間のペアワイズ相互作用を、大腸菌(E.coli)中で、細胞をリボレギュレーターおよびトリガープラスミドの676個全ての組合せにより形質転換することによりアッセイした。
図18Aは、LBプレート上で誘導された大腸菌(E.coli)のコロニーからのGFP蛍光の画像を示す。オルソゴナルスイッチのセットを、
図17Dにおいて計測された減少するオン/オフ蛍光比の順に示す。コグネートスイッチおよびトリガーペアからの強力な発光が格子の対角線に沿って明確に可視的であり、指数26における最後のスイッチは、その低いオン/オフ比の結果としてより低い蛍光を示す。対照的に、非コグネートトリガー/スイッチRNAペアを特徴とする非対角エレメントについては低い蛍光レベルが観察される。
【0149】
定量的情報を得るため、本発明者らは、フローサイトメトリーを使用して全てのペアワイズトリガー−スイッチ相互作用からのGFP出力を計測した。クロストークは、非コグネートトリガーおよび所与のスイッチmRNAから得られたGFP蛍光をトリガーされた状態のスイッチの蛍光により割ることにより計算した。得られたクロストーク相互作用のマトリックスを
図18Bに示す。定義により、対角線に沿ったクロストークレベルは100%である一方、非対角線のものは、コロニー画像からの定量的出力レベルと一致する。これらのデータに基づき、トーホールドスイッチは、前例のないオルソゴナル性の程度を示し、試験された26個のレギュレーターのフルセットは、12%未満のクロストークを示す。オルソゴナルセットにおけるレギュレーターの数は、その閾値クロストークレベルにより定義されるため、本発明者らは、異なるクロストーク閾値の範囲についてのオルソゴナルサブセットを同定した。例えば、トーホールドスイッチの18個のサブセットは、2%未満のサブセット広域クロストークを示す。
【0150】
所与の用途についてトーホールドスイッチを選択する場合、それらの性能を評価するための潜在的により関連するメトリックは、閾値クロストークレベルの逆数である。翻訳アクチベーターについて、このパラメータは、スイッチのセットを使用して本発明者らのGFPmut3b−ASVレポーターと類似の出力特性を有するタンパク質を調節する場合、その間で予測すべき最小の倍数変化を表す。
図18Cは、トーホールドスイッチおよびいくらかの他のRNAベースレギュレーターについての最大オルソゴナルサブセットサイズに対するこのライブラリーダイナミックレンジメトリックをプロットする。最大の従来報告されるオルソゴナルリボレギュレーターセットは、7つの転写アテニュエーターからなるものであり、20%のクロストークを示す(Takahashi et al.,Nucleic Acids Res.,2013)。そのライブラリーについて、20%のクロストークは、5のその全ダイナミックレンジの上限をもたらす(
図18C)。より早期のオルソゴナル翻訳アクチベーターおよびリプレッサーは、20%のクロストークにおいてそれぞれ4つ(Callura et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109:5850-5855,2012)および5つ(Mutalik et al.,Nat.Chem.Biol.8:447-454,2012)のセットに限定されている。タンパク質について、約30%の5つのオルソゴナル真核転写因子クロストークのエンジニアリング型ライブラリーも報告された(Khalil et al.,Cell 150:647-658,2012)。本発明者らの認識によれば、本明細書において提供されるスイッチは、これまで報告されたRNAまたはタンパク質ベースのオルソゴナル調節エレメントの最大のセットを構成する。さらに、従来報告されたライブラリーと同等サイズのオルソゴナルトーホールドスイッチのサブセットは、従来報告されたシステムよりも一桁超大きい最小のダイナミックレンジを示す。
【0151】
コンポーネント分析およびフォワードエンジニアリング。トーホールドスイッチからのフローサイトメトリーデータは、リボレギュレーター性能の配列依存性変動を決定する実質的なデータセットを提供した。配列依存性効果について粗いスクリーンの結果、本発明者らは、リボレギュレーター鎖のステム中のトップおよびボトムにおける塩基対形成に応じたトーホールドスイッチ出力の調査に着手した(
図19A)。本発明者らは、これらの領域中の塩基対形成の強度が、ヘアピンの抑制強度に対する強力な効果を有することを仮定した。それというのも、それらはスタートコドンの封鎖に不可欠であり、それらはリボレギュレーターが活性化されるとRBSおよびmRNA領域の二次構造にも影響し得、次いで翻訳効率に影響するためである(Kudla et al.,Science 324:255-258,2009)。ヘアピンモジュール中のトップおよびボトムの3塩基対の分析により、それらの領域中のG−C塩基対含量に応じたリボレギュレーターのオン/オフ比の顕著な変動が明らかになった。
図19Bは、2つのステム領域中のG−C含量の考えられる16個全ての順列について得られた平均オン/オフ蛍光、および特定のG−C条件を満たすそれぞれのトーホールドスイッチについて得られたオン/オフ値を示す。ライブラリーのサイズおよびインシリコ設計の間に課される二次構造制約に基づき、いくらかのG−C順列が1つのみまたは2つの代表的なトーホールドスイッチを有した。ステムのトップおよびボトム領域においてそれぞれ0および2つのG−C塩基対を含有するトーホールドスイッチは、154の平均オン/オフ蛍光比を示し、次に高い順列よりも3倍超高かった。平均オン/オフレベルは、G−C組合せがこの組合せから離れて逸脱するにつれて安定して減少する傾向もあった。
【0152】
リボレギュレーターステムのトップにおける低いG−C含量への偏りは、結合リボソームと、活性化リボレギュレーター−トリガー複合体中のその付近のRNA二本鎖との間の潜在的な相互作用を示唆した。特に、RNA二本鎖の末端における弱い塩基対形成は、二本鎖の開放を可能とし得、RBSの上流の塩基を自然にフリーにし、リボソーム結合を促進する。この効果を調査するため、本発明者らは、RNA二本鎖と、RBS配列の開始点との間のヌクレオチドとして定義されるプレRBS領域(
図19A)のサイズを調整するために異なるヘアピンループサイズを有する一連のリボレギュレーターを試験した。ループバリアントリボレギュレーターの計測は、プレRBS領域をAリッチ配列の付加を通してサイズを3ntから19ntに増加させた場合にオン状態蛍光出力の定常増加を実証した(データ示さず)。特に、オン状態発現のこれらの増加は、プレRBS配列が、21ntのループに対応する13nt長になるまでシステムのオフ状態の対応する増加をもたらさなかった。これらの観察は、RBSのすぐ上流に配置されたA/U塩基を通しての翻訳向上を実証した従来の研究と一致する(Vimberg et al.,BMC Mol.Biol.8:1-13,2007)。さらに、これらは、ヘアピンループの長さを増加させることにより、トーホールドスイッチダイナミックレンジを増加させる容易な手段を提供した。トリガーRNA長に応じたトーホールドスイッチ挙動の体系的試験も実施した。これらの試験は、システムのオン/オフ比と、トーホールドドメインの長さとの間の強い正の相関を明らかにし(データ示さず)、スイッチ出力は、スイッチのステムを部分的に巻き戻すことのみにより増加させることができることを実証した(データ示さず)。
【0153】
従来のリボレギュレーターは、その都度設計されており(Isaacs et al.,Nat.Biotechnol.22:841-847,2004;およびCallura et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109:5850-5855,2012)、コンピュータ支援設計を利用するものは、一貫して高いオン/オフレベルを実証していない(Rodrigo et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109:15271-15276,2012)。インビボで高い性能を示すようにフォワードエンジニアリングされるインシリコ設計リボレギュレーターは、新たな遺伝子回路の生成に要求される時間を顕著に低減させる潜在性を有し、次いでより複合的な細胞論理の実現を可能とする。結果的に、本発明者らは、上記知見を、高いダイナミックレンジのためにフォワードエンジニアリングされるトーホールドスイッチのセットについての設計に統合した。本発明者らのフォワードエンジニアリング型システムは、同一の一般二次構造および相互作用機序の168個のトーホールドスイッチのライブラリーを保持するが、それらのダイナミックレンジを顕著に改善するために上記見識のいくつかを採用する。第1に、本発明者らは、
図19Bにおいて明らかにされたスイッチmRNA配列制約の組合せを取り込んだ。具体的には、ヘアピンステムのトップ3塩基を弱いA−U塩基対に制限した。ステムのボトム3塩基対を、2つの強力なG−C塩基対および1つのA−U塩基対を含有するように特定した。第2に、本発明者らは、スイッチトーホールドの長さを12ntから15ntに増加させた。この変化は、トリガーとスイッチとの間の初期結合を強化した。第3に、本発明者らは、ヘアピンループのサイズを11ntから15ntに増加させてスイッチ活性化時の出力タンパク質の翻訳を向上させた。本発明者らは、かなり保存的な15ntのループサイズを選択してオフ状態のシステムからのリークを低いままであることを確保した。最後に、本発明者らは、スイッチステム中の18塩基の最初の15塩基のみを巻き戻すコグネートトリガーを活用した。この設計変化は、多数の利益を生じさせた。それは、全てAおよびU塩基に特定されるヘアピンステム中のトップ3塩基へのトリガーRNAの結合を回避することを可能とし、それによりトリガーについての対応する配列制約を排除し、その長さを30ntにおいて不変のままとする。さらに、ステムのトップの3つの弱い塩基対の破壊の回避は、ステム中のより下方の塩基が巻き戻された後にそれらが自然に開放することを可能とする。この設計変化は、オフ状態リークを同時に増加させずに3ntA/Uエンハンサーエレメントを付加することによりプレRBS領域のサイズを効率的に増加させた。
【0154】
本発明者らは、NUPACKを用いて上記の4つのシステム改変を有する13個のフォワードエンジニアリング型トーホールドスイッチを設計した。
図19Cは、誘導3時間後にGFPを調節するフォワードエンジニアリング型翻訳アクチベーターについてのオン/オフモード蛍光比を提示する。試験されたほぼ全てのシステムについてオン/オフ蛍光の大幅な増加が存在し、13個のうち12個が、初期ライブラリーからの最大性能トーホールドスイッチと同等のまたはそれよりも高いダイナミックレンジを示す。これらのフォワードエンジニアリング型システムは、初期トーホールドスイッチ設計についての43と比較して406の平均オン/オフ比を示す。この平均オン/オフ比は、高度にプログラマブルなシステム設計を使用し、いかなる進化も大規模スクリーニング実験も要求せずにタンパク質ベースの調節システムのダイナミックレンジに匹敵する。さらに、最低性能を示す最適化トーホールドスイッチでさえ、多くの細胞運命決定演算に依然として十分な33±4のオン/オフ比を示した。時間単位の経時的計測により、誘導1または2時間後のフォワードエンジニアリング型スイッチの活性化が明らかになった(
図19C、挿入図)。さらに、オン状態蛍光は、4時間にわたり着実に増加し、両方のスイッチについて600超ものオン/オフレベルを生じさせた。
【0155】
本発明者らは、所与の最小レベルを超過するオン/オフ比を有するフォワードエンジニアリング型設計の割合を計算し、それらをランダム配列を有する168個のトーホールドスイッチのライブラリーに対して実施された同一の計算と比較することにより、本発明者らのフォワードエンジニアリング方針の有効性を定量した(
図19D)。高性能スイッチの収穫は、試験された全てのオン/オフ比についてフォワードエンジニアリング型スイッチが高い。例えば、フォワードエンジニアリング型設計の92%が、ランダム配列ライブラリーの168個からの単一のスイッチと比較して少なくとも287のオン/オフGFP蛍光を有した。
【0156】
システム性能の熱力学的分析。本発明者らのフォワードエンジニアリングは、92%の高いダイナミックレンジの可能性を有するリボレギュレーターをもたらした。リボレギュレーター活性の予測モデルを開発するため、ランダム配列を有する168個の初期スイッチのオン/オフ比を、6つの異なるカテゴリーに分類される多数の熱力学的パラメータに関して分析した(
図20A)。オンおよびオフ状態単独における蛍光出力とは対照的なオン/オフ比を、定量分析に使用した。それというのも、蛍光オフ状態は、ライブラリーにわたり相対的にほとんど変動せず、オン/オフ比が本質的にオン状態蛍光の尺度のままであるためである。Salis et al.,Nat.Biotechnol.27:946-950,2009による処理後、発現タンパク質pの量は、式p∝exp(−kΔG)(式中、kは、フィッティングパラメータである)を通して熱力学的自由エネルギーに関連付けることができる。結果的に、熱力学的パラメータとリボレギュレーターオン/オフ値との間の関係は、自由エネルギー対オン/オフ比の片対数プロットに適用される線形回帰の決定係数R
2により評価することができる。しかしながら、熱力学的パラメータのそれぞれは、フルコンポーネントライブラリーに適用された場合、リボレギュレーター出力特性とのいかなる有意な相関も実証し得なかった。
【0157】
図19Bにおいて観察された配列依存性効果に基づき、本発明者らは、熱力学的パラメータと、類似配列特性を共有するトーホールドスイッチのサブセットとの間の関係の探索に着手した(
図20A、データ示さず)。多数のスイッチサブセットについてのR
2値を調査することにより、本発明者らは、システム出力との明確な相関を示す単一パラメータΔGRBS−リンカーを同定した。ΔG RBS−リンカーは、リボレギュレーター−トリガー複合体のRNA二本鎖のすぐ下流から開始し、ヘアピンモジュール後に付加された共通の21ntリンカーの末端に続く領域の二次構造に伴う自由エネルギーである(
図20B)。これは、リボソームが結合し、出力遺伝子の翻訳を開始する場合にRBS/初期mRNA領域を巻き戻すためにリボソームにより要求されるエネルギーの量を反映する。翻訳効率の変動は、mRNA中の初期二次構造に既に関連付けられており、類似の熱力学的因子を用いて原核RBSの強度が計算されている(Salis et al.,Nat.Biotechnol.27:946-950,2009)。
図20Cは、ステムのトップにおける弱いA−U塩基対をそれぞれ含有する68個のリボレギュレーターのサブセットについてのΔGRBS−リンカーとオン/オフ比との間の関係の一例を提供する。ライブラリーからのこのリボレギュレーターのセットは、ΔGRBS−リンカーとの相関がR2≧0.4で同定された最大のものであった。対照的に、ステムのトップにおける強力なGC塩基対を含有する100個のリボレギュレーターの相補的サブセットは、ΔGRBS−リンカーとの相関をR2=0.024で示さず、待機部位におけるリボソームとの配列依存性相互作用の結果と考えられる。
【0158】
ΔGRBS−リンカーの重要性を同定したため、本発明者らは次に、フォワードエンジニアリング型システムからのオン/オフレベルとのその関係を調査した。本発明者らは、ΔGRBS−リンカーがオン/オフレベルとのかなり強い相関を示すことを見出し、R
2=0.79であった(
図20D)。最も重要なことに、本発明者らは、この単一の熱力学的用語が、単一の低性能フォワードエンジニアリング型トーホールドスイッチを説明するために十分であることを見出した。この特定のトーホールドスイッチは、活性化されたスイッチmRNAの翻訳効率を顕著に減少させるRBS−リンカー中の比較的高度な二次構造を有した。
【0159】
多重調節。トーホールドスイッチのオルソゴナル性は、それらが細胞内部で複数のタンパク質を同時に独立して調節することを可能とし得る。この能力を実証するため、本発明者らは、細胞を、それぞれA
*およびB
*により示される、スペクトルにより区別される蛍光タンパク質GFPおよびmCherryを発現する2つのオルソゴナルトーホールドスイッチmRNAを発現するプラスミドにより形質転換した(
図21A)。次いで、これらのトーホールドスイッチのこれらのRNAのコグネートトリガーRNAを、レポーター発現との考えられる4つ全ての組合せにおいて発現させ、フローサイトメトリーを使用して定量した(
図21B)。AまたはBトリガーいずれか単独の転写時、GFPおよびmCherry蛍光はそれぞれ1桁超だけ増加する一方、オルソゴナルチャネルにおける蛍光レベルは実質的に不変である。AおよびBトリガーRNA両方の同時発現は、この2つのトーホールドスイッチについて予測されるとおり、両方の蛍光団の発現の強力な増加を生じさせる。
【0160】
機能mRNAによりトリガーされるトーホールドスイッチ。トーホールドスイッチ設計により提供される配列スペースは、それらが機能mRNAによりトリガーされることを可能とする(
図21C)。しかしながら、これらのmRNAトリガーの固定配列は、効率的なシステム活性化について顕著な困難を提示する。完全に一本鎖であるように設計された合成トリガーRNAとは異なり、強力な二次構造がmRNA内に富み、トーホールド結合を妨害し、分岐点移動プロセスを推進するサーモダイナミクスを減少させる。トリガーmRNAにより定義されるトーホールド配列は、内部で、およびヘアピンモジュールの下流配列との両方で塩基対形成も示し、したがって、スイッチ活性化への類似の困難を提起し得る。これらの効果を克服するため、本発明者らは、mRNA応答スイッチのトーホールドドメイン長を12ntから≧24ntに増加させた。この改変は、トリガーmRNAからトーホールドスイッチ自体への結合開始のための一本鎖領域の重要性のシフトを支援し、スイッチ中の下流配列のみが、結合領域とハイブリダイズし得る。さらに、本発明者らは、168システムライブラリーからの最大性能トーホールドスイッチの詳細な試験の間に同定された多数の設計特徴を活用した。トーホールドスイッチ番号1は、その完全な30ntコグネートトリガーRNAと対形成した場合、290±20のオン/オフ比を有した。本発明者らは、5’末端からトランケートされた短縮トリガーRNAを使用することによりオン/オフ比が急激に増加することを見出した。特に、本発明者らは、トーホールドスイッチ番号1は、そのステムのボトム5塩基のみを巻き戻すことが意図されるトリガーRNAに応答して1900±200のオン/オフ蛍光を提供し得ることを観察した。トーホールドスイッチ番号1システムの二次構造および熱力学的分析は、この極端なダイナミックレンジが2つの要因に起因することを示した。第1に、スイッチ番号1のステムは、相対的に高い比率の弱いA−U塩基対を含有し、ステム中のG−C塩基対は、ステムのボトムに濃縮された。結果的に、トリガーはボトム5塩基対を破壊し、ステム中のG−C塩基対の半数が排除され、リボソーム結合に利用可能な主としてA−U塩基対を含有する弱いステムが残った。さらに、ステム中の下方塩基のみへのトリガー結合は、活性化スイッチのプレRBS領域を増加させ、翻訳の追加の向上を提供した。第2に、トリガー結合時にステムからフリーになった塩基は、スイッチリンカー領域中の下流塩基と相互作用し、弱いステムループを形成することが示された(データ示さず)。このリフォールディング機序は、破壊されるステムの追加の塩基をもたらし、それがその抑制強度をさらに弱め、トリガー結合へのエネルギー障壁を減少させた。
【0161】
本発明者らは、上記の全ての設計特徴を取り込み、mRNAに応答性のトーホールドスイッチを生成した。スイッチヘアピンモジュールは、トーホールドスイッチ番号1配列に由来した。具体的には、スイッチ番号1ステムのトップ12塩基およびループを、全てのmRNAセンサー中で使用した(
図21C)。さらに、センサーループのサイズを11ntから18ntに増加させてレポーター発現を増加させた。トーホールドおよびセンサーステムのボトム6塩基対は、トリガーmRNAと相互作用するようにプログラミングされた可変塩基を有した。24ntおよび30ntトーホールドを初期mRNA結合に使用し、ボトム6塩基対がトリガーにより巻き戻されるように特定した。トリガーmRNAによるステム巻き戻しへのエネルギー障壁を減少させるため、本発明者らは、上記の下流RNAリフォールディング機序もセンサー中に明確にコードした。これらのRNAリフォールディングエレメントは、スイッチステムのボトム4塩基対の破壊後に6bpステムループの形成を誘導し、次いでスイッチステム中の2つの追加塩基の破壊を強制した。この塩基トーホールドスイッチmRNAセンサー設計を使用して、本発明者らは、トリガーmRNAの全長に沿って考えられる全てのセンサーの二次構造およびサーモダイナミクスをシミュレートした。次いで、本発明者らは、インシリコスクリーニングを使用してセンサー二次構造およびmRNA結合部位利用可能性の最良の組合せを提供するトーホールドスイッチを同定した。
【0162】
得られたmRNAセンサーを上記実験と同一の様式で試験し、トリガーmRNAは高コピーColE1起点ベクターから発現させ、GFPを調節するトーホールドスイッチは中コピーColA起点ベクターから発現させた。本発明者らは、外因性mRNAトリガーのmCherry、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(cat、クロラムフェニコール耐性を付与)、およびaadA(スペクチノマイシン耐性を付与)の三つ組をセンシング実験のために選択して内因性RNAによるスイッチ活性化の可能性を最小化した。mCherryトリガーRNAは、効率的な翻訳を可能とするためのRBS領域を特徴とした一方、2つの抗生物質耐性を付与するmRNAは、リボソームによる翻訳がトーホールドスイッチの認識および結合を妨害し得たため、RBSを欠いた。
図21Dは、5つのトーホールドスイッチから計測されたオン/オフGFP蛍光を提示する。翻訳可能なmCherry mRNAによりトリガーされた3つのセンサーは、最も強力な活性化を提供し、設計Aは、57±10の最良のオン/オフ比を示す。非翻訳可能mRNAによりトリガーされたトーホールドスイッチは、より小程度の約7倍の活性化レベルを示した。
【0163】
トリガーmRNAからの翻訳に対するトーホールドスイッチ結合の効果を確立するため、本発明者らは、mCherryセンサーの存在または不存在下でmCherry出力を計測する実験も実施した。
図21Eは、活性化細胞から計測されたmCherry蛍光に加え、活性および抑制状態の3つのmCherry応答性スイッチについて計測されたGFPの蛍光を含有する。比較のため、対照実験から得られた蛍光計測も提示し、それは非誘導細胞から計測されたバックグラウンドGFP蛍光ならびにそれぞれColAおよびColE1起点ベクターからのGFPおよびmCherryの非調節発現から計測された蛍光を示す。mCherryの発現は、トーホールドスイッチRNAの転写により強力に影響を受けない。このことは、トリガーとスイッチとの間の結合が、リボソームによる翻訳を阻害しないことを示唆するが、本発明者らの実験においてスイッチと比較してモル過剰のトリガーRNAがこの効果の強度を減衰させる。活性化スイッチからのGFP発現レベルは、2.5倍のみの範囲内で変動する一方、抑制スイッチからのリークは、約5倍だけ変動する。このリークの変動は、mCherryセンサーのオン/オフレベルの変動を説明する決定因子であり、mRNAセンサーのための親設計のように高度に感受性の親トーホールドスイッチの使用に起因する。
【0164】
考察
トーホールドスイッチは、転写後レベルにおいて翻訳を調節するための多用途および強力な新たなプラットフォームを表す。これらは、前例のないコンポーネントオルソゴナル性の程度と、広く使用されるタンパク質ベース調節エレメント22と同等のシステムダイナミックレンジとを組み合わせる。インビボスイッチ−トリガーペアワイズ相互作用の包括的評価は、12%未満のクロストークレベルを有する26個のトーホールドスイッチのセットをもたらした。本発明者らの認識によれば、このことは、これまで報告されたオルソゴナル調節エレメントの最大ライブラリーを表し、従来のライブラリーをサイズにおいて3倍超だけ超過する(Takahashi et al.,Nucleic Acids Res.,2013)。現時点において、トーホールドスイッチのオルソゴナルセットの最終的なサイズは、本発明者らのクロストークアッセイのスループットにより限定され、リボレギュレーター固有の設計特徴によっては限定されない。さらに、13個のトーホールドスイッチシステムのフォワードエンジニアリングは、406の平均オン/オフ蛍光比を示す12個の新たな高性能コンポーネントのサブセットを生じさせ、完全セットの性能は2パラメータ熱力学的モデルにより予測される。
【0165】
インビボでの翻訳抑制およびRNA−RNA相互作用の開始についての新たな機序の採用は、これらの前進に不可欠であった。トーホールドスイッチは、RBSおよび一部の場合においてスタートコドンへの接近を遮断することにより抑制する従来のリボレギュレーター(Isaacs et al.,Nat.Biotechnol.22:841-847,2004;Rodrigo et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109:15271-15276, 2012;およびMutalik et al.,Nat.Chem.Biol.8:447-454,2012)とは対照的に、それらのオフ状態で、RNA二本鎖内の調節される遺伝子の開始コドン付近の配列を封鎖することにより翻訳を強力に抑制する。早期のリボレギュレーターがループ−直鎖(Isaacs et al.,Nat.Biotechnol.22:841-847,2004;およびMutalik et al.,Nat.Chem.Biol.8:447-454,2012)およびループ−ループ(Lucks et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 108:8617-8622,2011;Rodrigo et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 109:15271-15276,2012;およびTakahashi et al.,Nucleic Acids Res.2013)相互作用に依存している一方、トーホールドスイッチは、トーホールド媒介直鎖−直鎖RNA相互作用を活用してリボレギュレーターmRNAとトリガーRNAとの間の結合を開始させる。まとめると、これらの演算機序は、トーホールドスイッチがほぼ任意の配列を有するトリガーRNAを受容することを可能とし、オルソゴナル演算のための配列スペースを大幅に拡大し、それらは12から15nt長の伸長トーホールドドメインを使用することによりRNA−RNA相互作用を高反応キネティクスで促進する。早期の報告とは対照的に、トーホールドスイッチ性能の熱力学的分析は、リボレギュレーターオン/オフレベルと、リボレギュレーター−トリガー相互作用の自由エネルギー、トーホールド−トリガー結合の自由エネルギーとの間の有意な相関を明らかにしなかったMutalik et al.,Nat.Chem.Biol.8:447-454,2012)。これらの観察は、トーホールドスイッチについてのRNA−RNA相互作用が熱力学的および動力学的に強く好ましいことを示唆する。
【0166】
本発明者らは、本発明者らのトーホールドスイッチのダイナミックレンジの増加が3つの主因によると考える。第1に、トリガー−スイッチ相互作用を推進するキネティクスおよび熱力学的自由エネルギーの増加は、細胞中に存在するより高い割合の全スイッチmRNAがトリガーされて出力産生を産生することを引き起こす。本発明者らは、活性化スイッチmRNAの率が、スイッチmRNAの非抑制バージョンによる比較計測に基づき約100%であることを見出した(
図17C)。第2に、RBSの塩基をステム内で封入しないトーホールドスイッチの設計は、調節される遺伝子の最適な発現のためにRBSおよびその包囲塩基をエンジニアリングするかなり良好なプラットフォームを提供する。トーホールドスイッチmRNAのループサイズを変動させる実験は、スイッチのオン状態蛍光と、RBSの上流のより長いAリッチ領域の存在との間の極めて強力な依存性を実証した(データ示さず)。重要なことに、このRBS向上は、ループ領域に付加すべき追加の塩基のみを要求し、トリガーRNAの配列の対応する変化を要求しなかった。対照的に、多くの従来のリボレギュレーターシステムについては、類似のRBSエンジニアリングは、リボレギュレーターRNAの両方のペアに改変を行うことを要求し、設計を複雑化し、結果を適切に解釈するためのRBSおよびRNA−RNA相互作用からの効果の解析を要求する。最後に、トーホールドスイッチは、インシリコで設計してほとんど二次構造を有さないRBSおよび初期mRNA領域を提供して調節される遺伝子の効率的な翻訳を促進した。これは、追加の塩基およびリンカーを出力遺伝子のN末端に付加することにより達成したが、mRNA二次構造に関する最適なコドンを選択するためのアルゴリズムを使用してN末端塩基の付加なしでトーホールドスイッチを産生することができる。同義語コドンも、スイッチの制限されるこのようなN末端の大型オルソゴナルセットの構築を可能とするはずである。
【0167】
本明細書に記載の種々のリボレギュレーターについての配列:
【0168】
【表1】
【0169】
【表2】
【0170】
【表3】
【0171】
【表4】
【0172】
【表5】
【0173】
【表6】
【0174】
均等物
いくつかの本発明の実施形態を本明細書に記載および説明したが、当業者はその機能を実施し、および/または本明細書に記載の結果および/または1つ以上の利点を得るための種々の他の手段および/または構造の構想を容易に想定し、そのような変形または改変のそれぞれが、本明細書に記載の本発明の実施形態の範囲内であると考えられる。より一般的には、当業者は、本明細書に記載の全てのパラメータ、寸法、材料、および構成が例示的であることを意味し、実際のパラメータ、寸法、材料、および/または構成が本発明の教示が使用される1つまたは複数の特定の出願に依存することを容易に認識する。当業者は、定型実験を超えないものを使用して、本明細書に記載の特定の本発明の実施形態に対する多くの均等物を認識し、または確認することができる。したがって、上記の実施形態が例示によってのみ提示され、添付の特許請求の範囲およびその均等物の範囲内で、本発明の実施形態は、具体的に記載され、特許請求された以外に実施することができることを理解されたい。本開示の本発明の実施形態は、本明細書に記載のそれぞれの個々の特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法に指向される。さらに、2つ以上のこのような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法の任意の組合せも、このような特徴、システム、物品、材料、キット、および/または方法が相互に不一致でない場合、本開示の本発明の範囲内に含まれる。
【0175】
本明細書において定義および使用される全ての定義は、辞書の定義、参照文献により取り込まれる文書中の定義および/または定義される用語の通常の意味に関して優先すると理解すべきである。
【0176】
本明細書に開示の全ての参照文献、特許および特許出願は、それぞれが引用され、一部の場合において、文書の全体を包含し得る主題に関して参照により取り込まれる。
【0177】
本明細書および特許請求の範囲において使用される不定冠詞「a」および「an」は、反対に明白に示されない限り、「少なくとも1つ」を意味すると理解されるべきである。
【0178】
本明細書および特許請求の範囲において使用される語句「および/または」は、そのように等位接続される要素の「いずれかまたは両方」、すなわち、ある場合には接続して存在し、他の場合には分離して存在する要素を意味すると理解されるべきである。「および/または」により列記される複数の要素は、同一様式、すなわち、そのように等位接続される要素の「1つ以上」で解釈されるべきである。他の要素は、場合により、「および/または」節により具体的に同定される要素以外で、具体的に同定されるそれらの要素に関係してまたは無関係に存在し得る。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への参照は、オープンエンド型の語、例えば、「含む」とともに用いた場合、一実施形態において、Aのみ(場合により、B以外の要素を含む);別の実施形態において、Bのみ(場合により、A以外の要素を含む);さらに別の実施形態において、AおよびBの両方(場合により、他の要素を含む)などを指し得る。
【0179】
本明細書および特許請求の範囲において使用される「または」は、上記定義の「および/または」と同一の意味を有すると理解されるべきである。例えば、列記中の項目を分離する場合、「または」または「および/または」は包括的、すなわち、多数の要素または要素の列記の少なくとも1つ(しかし、2つ以上も含む)および場合により、列記されていない追加の項目の包含であると解釈されるものとする。反対に明白に示された用語のみ、例えば、「〜の1つのみ」または「〜の正確に1つ」、または特許請求の範囲において使用される場合、「〜からなる」が、多数の要素または要素リストの列記の正確に1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書において使用される用語「または」は、排除性の用語、例えば、「いずれか」、「〜の1つ」、「〜の1つのみ」、または「〜の正確に1つ」により先行された場合に単に排他的な選択肢(すなわち、「一方または他方であるが両方でない」)のみを示すと解釈されるものとする。特許請求の範囲において使用される場合の「本質的に〜からなる」は、特許法の分野において使用されるその通常の意味を有するものとする。
【0180】
本明細書および特許請求の範囲において使用される1つ以上の要素の列記に関する語句「少なくとも1つ」は、要素の列記における要素のいずれか1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味するが、必ずしも、要素の列記内で具体的に列記されるそれぞれおよび全ての要素の少なくとも1つを含むとは限らず、要素の列記における要素の任意の組合せを排除しないと理解されるべきである。この定義は、具体的に同定されるそれらの要素に関連してまたは無関係に、語句「少なくとも1つ」が指す要素の列記内で具体的に同定される要素以外の要素が場合により存在し得ることも可能とする。したがって、非限定的な例として、「AおよびBの少なくとも1つ」(または、同義で「AまたはBの少なくとも1つ」、または同義で「Aおよび/またはBの少なくとも1つ」)は、一実施形態において、場合により、Bが存在しない(および場合により、B以外の要素を含む)2つ以上を含む少なくとも1つのA;別の実施形態において、場合により、Aが存在しない(および場合により、A以外の要素を含む)2つ以上を含む少なくとも1つのB;さらに別の実施形態において、場合により2つ以上を含む少なくとも1つのAおよび場合により2つ以上を含む少なくとも1つのB(場合により、他の要素を含む)などを指し得る。
【0181】
反対に明白に示されない限り、2つ以上のステップまたは動作を含む本明細書において特許請求されるいずれかの方法において、方法のステップまたは動作の順序は、必ずしも、方法のステップまたは動作が示される順序に限定されるものではないことも理解されるべきである。
【0182】
特許請求の範囲および上記の本明細書において、全ての移行句は、例えば、「含む(comprising)」「含む(including)」「保有する」「有する」「含有する」「含む(involving)」、「保持する」「〜から構成される」などは、オープンエンド、すなわち、限定されるものではないが、含むを意味すると理解されたい。移行句「〜からなる」および「本質的に〜からなる」のみ、それぞれ、米国特許庁特許審査便覧、第2111.03項に記載のクローズドまたはセミクローズドの移行句であるものとする。