特許第6131016号(P6131016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6131016
(24)【登録日】2017年4月21日
(45)【発行日】2017年5月17日
(54)【発明の名称】生体インピーダンス測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/05 20060101AFI20170508BHJP
   A61B 5/0402 20060101ALN20170508BHJP
【FI】
   A61B5/05 B
   !A61B5/04 310N
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-211148(P2012-211148)
(22)【出願日】2012年9月25日
(65)【公開番号】特開2014-64668(P2014-64668A)
(43)【公開日】2014年4月17日
【審査請求日】2015年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510094724
【氏名又は名称】国立研究開発法人国立循環器病研究センター
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 正司
(72)【発明者】
【氏名】上村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】杉町 勝
(72)【発明者】
【氏名】福岡 宗明
【審査官】 松本 隆彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−168120(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B5/02−5/0295
A61B5/042
A61B5/053
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胸壁に植え込まれるカン電極を備える筐体と、
該筐体から延び冠静脈に挿入されるリードの先端側に設けられ互いに絶縁された一対の電極と、
該一対の電極の一方と前記カン電極との間に定電流を供給する定電流供給部と、
前記一対の電極の他方と前記カン電極との間の電圧を測定する電圧測定部と、
前記定電流供給部によって一対の電極の前記一方と前記カン電極との間に供給された定電流と前記電圧測定部によって測定された電圧とを用いてインピーダンスを算出するインピーダンス算出部とを備え、
前記一対の電極は、これら両方の電極が前記冠静脈内に収容可能な長さ寸法を前記リードの長手方向に有するとともに、
前記一対の電極のうち少なくとも1つは、肺への血流が通常の状態と低下している状態とにおいて前記インピーダンス算出部によってそれぞれ算出される前記インピーダンスの振幅の、肺の血流量以外のノイズ成分の変動に起因するばらつきの範囲が互いに重ならないような前記長さ寸法であって、15mm以上150mm以下の前記長さ寸法を有する生体インピーダンス測定装置。
【請求項2】
前記一対の電極のうち少なくとも1つが、1.52mm以上5mm以下の外径寸法を有する請求項1に記載の生体インピーダンス測定装置。
【請求項3】
前記一対の電極のうち少なくとも1つは、導線が前記リードの周方向に螺旋状に巻かれてなる請求項1または請求項2に記載の生体インピーダンス測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体インピーダンス測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、肺を間に挟んで冠静脈と左側胸壁とに植え込まれた電極を用いて生体の肺インピーダンスを測定する装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。肺インピーダンスは、肺の血液量の情報を含み、心臓の拍動に伴う肺の血液量の増減に応じて周期的に変化する。すなわち、肺インピーダンスの振幅は心拍出量を反映しているので、肺インピーダンスを経時的にモニタすることで心機能を評価することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−168120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際に測定して得られる肺インピーダンスには、肺の血液量の他に呼吸や心臓の拍動の変化に由来する成分が含まれ、この肺の血液量以外に由来する成分が肺の血液量に由来する成分に対して大きいと、肺の血液量の変化を正確に解析することが難しい。その結果、心機能を正確に評価することができないという問題がある。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、心機能の変化による肺インピーダンスの振幅の変化を顕著に捉えることができる生体インピーダンス測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、胸壁に植え込まれるカン電極を備える筐体と、該筐体から延び冠静脈に挿入されるリードの先端側に設けられ互いに絶縁された一対の電極と、該一対の電極の一方と前記カン電極との間に定電流を供給する定電流供給部と、前記一対の電極の他方と前記カン電極との間の電圧を測定する電圧測定部と、前記定電流供給部によって一対の電極の前記一方と前記カン電極との間に供給された定電流と前記電圧測定部によって測定された電圧とを用いてインピーダンスを算出するインピーダンス算出部とを備え、前記一対の電極は、これら両方の電極が前記冠静脈内に収容可能な長さ寸法を前記リードの長手方向に有するとともに、前記一対の電極のうち少なくとも1つは、肺への血流が通常の状態と低下している状態とにおいて前記インピーダンス算出部によってそれぞれ算出される前記インピーダンスの振幅の、肺の血流量以外のノイズ成分の変動に起因するばらつきの範囲が互いに重ならないような前記長さ寸法であって、15mm以上150mm以下の前記長さ寸法を有する生体インピーダンス測定装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、生体内において肺を挟んで対向配置されたカン電極と一方の電極との間に電流供給部が定電流を供給し、肺を挟んで発生するカン電極と他方の電極との間の電圧を電圧測定部が測定することにより、インピーダンス算出部は肺のインピーダンスを算出することができる。
【0007】
この場合に、インピーダンス算出部によって算出されるインピーダンスには、肺の血液量以外の、呼吸や心臓の拍動、電気的な雑音などに由来する成分(以下、これらをまとめてノイズ成分という。)が含まれ、インピーダンスの振幅にもノイズ成分によるばらつきが生じる。本発明によれば、心機能が正常である通常状態と心機能が低下している心不全状態とにおいて得られる2つのインピーダンスの振幅の差異が、ノイズ成分の変動に起因するインピーダンスの振幅のばらつきよりも大きくなるような長さ寸法の電極を使用している。これにより、インピーダンス算出部によって算出された肺のインピーダンスの波形において心機能の変化による振幅の変化を顕著に捉えることができる。
【0008】
上記発明においては、前記一対の電極のうち少なくとも1つが、1.52mm以上5mm以下の外径寸法を有することとしてもよい。
このようにすることで、通常状態と心不全状態とにおいて得られる肺のインピーダンスの振幅の差異をさらに十分に大きなものとすることができる。
【0009】
また、上記発明においては、前記一対の電極のうち少なくとも1つは、導線が前記リードの周方向に螺旋状に巻かれてなることとしてもよい。
このようにすることで、電極を可撓性を有する構造とし、冠静脈内において電極を冠静脈の形状に沿って容易に湾曲させることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、心機能の変化による肺インピーダンスの振幅の変化を顕著に捉えることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る生体インピーダンス測定装置の全体構成図である。
図2図1の生体インピーダンス測定装置の機能を示すブロック図である。
図3】異なる長さ寸法のリング電極を使用して測定された通常状態(肺血流遮断前)および心不全状態(肺血流遮断後)における肺インピーダンスを示すグラフである。
図4】リング電極の長さ寸法と肺インピーダンスの振幅との関係を示すグラフである。
図5】リング電極の長さ寸法と、通常状態および心不全状態における肺インピーダンスの振幅の変化率との関係を示すグラフである。
図6図2の生体インピーダンス測定装置の変形例を示すブロック図である。
図7図6の心拍数アダプティブフィルタによる呼吸性の変動成分の(a)除去前と(b)除去後の肺インピーダンスを示すグラフである。
図8】カン電極の変形例を示す構成図である。
図9】交流定電流の供給と電圧の測定とに異なる組み合わせの電極を使用して測定された通常状態および心不全状態における肺インピーダンス(上段)および心電信号(下段)を示すグラフである。
図10】チップ電極およびリング電極の変形例を示す構成図である。
図11】チップ電極およびリング電極のもう1つの変形例を示す構成図である。
図12】3つの電極を備える図1の生体インピーダンス測定装置の変形例を示す図である。
図13】3つの電極を備える図1の生体インピーダンス測定装置のもう1つの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る生体インピーダンス測定装置1について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る生体インピーダンス測定装置1は、例えば、心臓Aに高電圧のパルスや拍動をペーシングするためのペーシングパルスを供給することにより、細動や頻脈などの心不全を治療する心臓治療装置であり、図1に示されるように、左側胸壁に植え込まれる筐体2と、該筐体2から延び上大静脈、右心房および冠静脈洞を介して冠静脈に挿入されるリード3とを備えている。
筐体2は、金属からなり、筐体2そのものがカン電極4として機能するようになっている。
【0013】
リード3は、先端部分に一対の電極5,6を備えている。一方の電極は、リード3の先端に設けられたチップ電極5であり、他方の電極はチップ電極5の基端側に設けられたリング電極6である。チップ電極5およびリング電極6は、互いに絶縁されている。
【0014】
チップ電極5は、リード3の外周面を覆う円筒形状を有している。チップ電極5の外径寸法は、1.5mm以上、かつ、適用される冠静脈の内径(例えば、ヒトの場合、5mm)以下の寸法とされている。また、チップ電極5の長さ寸法(リード3の長手方向に沿う方向の寸法)は、例えば、1mmとされている。
【0015】
リング電極6は、導線がリード3の周方向に螺旋状に巻かれてなるコイル電極である。リング電極6の外径寸法は、チップ電極5と同じく、1.52mm以上、かつ、適用される冠静脈の内径以下の寸法とされている。リング電極6の隣り合う導線同士の中心間隔(ピッチ)は、より狭いことが好ましく、導線が隙間なく密巻されていることがより好ましい。
【0016】
また、リング電極6の長さ寸法は、後で詳述するように、心機能が正常であるとき(通常状態)に測定される肺インピーダンスの振幅のばらつきの範囲と、心機能が低下しているとき(心不全状態)に測定される肺インピーダンスの振幅のばらつきの範囲とが分離される寸法以上であり、冠静脈内に収容可能な長さ以下とされている。具体的には、リング電極6の長さ寸法は、15mm以上150mm以下とされている。
【0017】
このように、冠静脈の長さに対してリング電極6の長さを十分に大きくしても、コイル電極からなるリング電極6は可撓性を有するので、冠静脈の形状に沿って容易に湾曲することができる。なお、リング電極6の構造としては、冠静脈の形状に沿って湾曲可能な可撓性を有する構造であれば、コイル電極以外の構造を採用することとしてもよい。
【0018】
図2は、生体インピーダンス測定装置1の詳細な構成を示す図である。
図2に示されるように、生体インピーダンス測定装置1は、カン電極4とリング電極6との間に接続される高周波定電流回路(定電流供給部)7と、カン電極4とチップ電極5との間に接続される差動増幅器8と、該差動増幅器8に接続される帯域通過フィルタ9と、肺インピーダンスを算出するインピーダンス算出部10とを筐体2の内部に備えている。カン電極4およびチップ電極5と差動増幅器8との間に、各電極4,5によって検出された信号を増幅する図示しない増幅器が備えられていてもよい。
【0019】
高周波定電流回路7は、2kHZ〜20kHzの交流定電流をカン電極4とリング電極6との間に供給する。交流定電流の供給によりカン電極4とチップ電極5との間に発生した電圧は、差動増幅器8からの出力電圧となって帯域通過フィルタ9に入力され、帯域通過フィルタ9により交流定電流に相当する周波数帯域以外を除去された後に、交流定電流に相当する周波数帯域の電圧がインピーダンス算出部10に送られる。このようにしてインピーダンス算出部10に入力された電圧は、カン電極4とチップ電極5とに挟まれた肺Bのインピーダンスに線形相関する。
【0020】
インピーダンス算出部10は、帯域通過フィルタ9から入力された電圧の値と、高周波定電流回路7によりカン電極4とリング電極6との間に供給された交流定電流の値とを用いて肺インピーダンスを算出する。算出された肺インピーダンスは、例えば、図示しない記憶装置に一定の期間にわたって時系列で記憶され、その後に体外の装置に読み出されて心臓Aの機能の評価に用いられる。
【0021】
次に、このように構成された生体インピーダンス測定装置1の作用について説明する。
本実施形態に係る生体インピーダンス測定装置1は、肺Bを挟んで対向配置されたカン電極4と一対の電極5,6とにより肺インピーダンスを測定する。具体的には、高周波定電流回路7からカン電極4とリング電極6との間に交流定電流を供給し、カン電極4とチップ電極5との間の電圧を差動増幅器8の出力電圧として得る。差動増幅器8によって得られた電圧は、帯域通過フィルタ9を介してインピーダンス算出部10に送られ、該インピーダンス算出部10において肺インピーダンスの算出に用いられる。
【0022】
ここで、肺インピーダンスは、肺Bの血液量の増減に伴って周期的に変化する。このときの肺インピーダンスの振幅は心拍出量を反映したものとなる。すなわち、心臓Aのポンプ機能が正常である通常状態においては肺インピーダンスの振幅が大きくなり、心臓Aのポンプ機能が低下している心不全状態においては肺インピーダンスの振幅が小さくなる。したがって、医師などのユーザは、肺インピーダンスの振幅に着目し、該振幅の推移を連続して観察することにより、生体インピーダンス測定装置1が植え込まれている生体の心機能を評価することができる。
【0023】
図3は、異なる長さ寸法のリング電極6を用いて測定した肺インピーダンスを示している。上段には、肺Bに血流が循環している通常状態において測定された肺インピーダンスが示されている。下段には、擬似的な心不全状態を作り出すために肺動脈を遮断して肺Bへの血流の循環を停止した状態において測定された肺インピーダンスが示されている。また、上段および下段の肺インピーダンスはともに、呼吸を停止した状態で測定されたものである。図3に示されるように、測定された肺インピーダンスには、肺Bの血流量に由来する成分の他に、心臓Aの拍動や電気的なノイズなどに由来するノイズ成分が含まれる。
【0024】
なお、図3に示される肺インピーダンスの測定条件は、次の通りである。リング電極6は、導線の線径が0.1mm〜0.5mm、外径寸法が1.56mmであり、導線が隙間なく密巻きされているものを用いた。カン電極4は、縦寸法が約50mm、横寸法が約40mm、厚さ寸法が約8mmの略直方体のものを用いた。高周波定電流回路7によりカン電極4とチップ電極5との間に供給する交流定電流は300μAとした。
【0025】
図4は、図3の測定により得られた肺インピーダンスの振幅とリング電極6の長さ寸法との関係を示したグラフである。図4に示されるように、肺インピーダンスの振幅には、エラーバーによって示される誤差範囲のばらつきが生じる。この誤差範囲は、平均±8%である。肺インピーダンスの振幅から心機能を評価するためには、通常状態において測定される肺インピーダンスの振幅のばらつきの範囲と、心不全状態において測定される肺インピーダンスの振幅のばらつきの範囲とが重ならないことが必要となる。
【0026】
図4において、長さ寸法が9mmのリング電極6を用いた場合には、両者のエラーバーの一部が重なる。これは、通常状態と心不全状態とを正確に区別できない場合があることを意味する。一方、長さ寸法が28mm、38mm、47mmおよび55mmのリング電極6を用いた場合には、両者のエラーバーが重なることなく分離している。これは、測定される肺インピーダンスに含まれるノイズ成分を加味したとしても、通常状態と心不全状態とを肺インピーダンスの振幅から確実に識別できることを意味している。
【0027】
図5は、図4に示される通常状態および心不全状態における肺インピーダンスの振幅から、通常状態と心不全状態との間での肺インピーダンスの振幅の変化率を算出し、算出された変化率とリング電極6の長さ寸法との関係を示したグラフである。図5に示されるように、リング電極6と肺インピーダンスの振幅の変化率とは、線形相関する。
【0028】
ここで、図4においてエラーバーが重ならないようにするには、上記変化率が16%以上であればよく、上記変化率を16%以上とするためには、図5に示されるリング電極6と肺インピーダンスの振幅との関係からリング電極6の長さ寸法を15mm以上とすればよいことが導かれる。
このように、本実施形態によれば、リング電極6の長さ寸法を15mm以上とすることにより、通常状態と心不全状態とにおける肺インピーダンスの振幅の変化を顕著に捉えることができ、心機能を高精度に評価することができるという利点を有する。
【0029】
なお、本実施形態においては、図6に示されるように、インピーダンス算出部10の後段に、該インピーダンス算出部10により算出された肺インピーダンスから呼吸性の変動成分を除去する心拍数アダプティブフィルタ11が備えられていてもよい。この場合、生体インピーダンス測定装置1が植え込まれている生体の心拍数を検出する心拍検出部12も備えられる。心拍検出部12は、例えば、チップ電極5およびリング電極6により検出された心電信号の波形から心拍数を算出する。心拍数アダプティブフィルタ11は、インピーダンス算出部10から受け取った肺インピーダンスから、心拍の周波数と対応する周波数帯域の成分を抽出する。この心拍の周波数と対応する周波数帯域は、心拍検出部12によって検出された心拍数を用いて決定され、例えば、心拍数の平均を中心として該平均から±50%の範囲に含まれる周波数帯域に設定される。
【0030】
図7(a)は、呼吸性の変動成分を含む肺インピーダンスの一例を示し、図7(b)は、図7(a)の肺インピーダンスから呼吸性の変動成分が除去された肺インピーダンスを示している。このように、生体インピーダンス測定装置1’が植え込まれている生体の呼吸に同期して変動する肺インピーダンスの成分を除去し、肺Bの血液量の変動にさらに正確に由来する肺インピーダンスの成分を得ることができ、通常状態と心不全状態とにおける肺インピーダンスの振幅の変化をさらに顕著に捉えることができる。これにより、例えば、心拍数アダプティブフィルタ11の後段に備えられた心不全診断部13において、肺Bの血液量の変動に正確に由来する肺インピーダンスを用いた心不全の診断をより正確に行うことがきる。
【0031】
また、本実施形態においては、カン電極4とチップ電極5との間に交流定電流を供給し、カン電極4とリング電極6との間の電圧を測定することとしたが、交流定電流の供給および電圧の測定に用いられる電極の組み合わせはこれに限定されるものではない。
【0032】
例えば、カン電極4とリング電極6との間に交流定電流を供給し、カン電極4とチップ電極5との間の電圧を測定することとしてもよい。また、図8に示されるように、カン電極が双極である場合、チップ電極5およびリング電極6のいずれか一方と、カン−ベース電極4aおよびカン−チップ電極4bのいずれか一方との間に交流定電流を供給し、チップ電極5およびリング電極6の他方と、カン−ベース電極4aおよびカン−チップ電極4bの他方との間の電圧を測定することとしてもよい。カン−ベース電極4aは、筐体2からなる電極であり、カン−チップ電極4bは、筐体2に設けられ該筐体2とは絶縁された電極である。
【0033】
図9は、交流定電流の供給と電圧の測定とに異なる組み合わせの電極を用いて測定された肺インピーダンス(上段)および心内心電信号(下段)を示している。図9に示されるように、交流定電流の供給にチップ電極5とカン−チップ電極4bの組み合わせ、および、リング電極6とカン−ベース電極4aの組み合わせを用い、電圧測定にリング電極6とカン−ベース電極4aの組み合わせ、および、チップ電極5とカン−チップ電極4bの組み合わせを用いた場合においても、通常状態および心不全状態における肺インピーダンスの振幅に明らかな差異が認められる。
【0034】
このように、15mm以上の長さ寸法を有するリング電極6を、交流定電流の供給および電圧の測定のいずれで用いた場合でも、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、本実施形態においては、リング電極6が、15mm以上の長さ寸法を有することとしたが、これに代えて、図10に示されるように、チップ電極5が15mm以上の長さ寸法を有することとしてもよい。また、図11に示されるように、チップ電極5およびリング電極6の両方が15mm以上の長さ寸法を有することとしてもよい。
このように、冠静脈内に配置されるチップ電極5およびリング電極6のうち少なくとも一方が15mm以上の長さ寸法を有することにより、上述した実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、本実施形態においては、リード3が2つの電極5,6を備えることとしたが、これに代えて3つの電極を備えていてもよい。この場合、3つの電極のうち2つを交流低電流の供給用として用い、残りの1つを電圧測定用として用いてもよく、または、3つの電極のうち2つを電圧測定用として用い、残りの1つを交流低電流の供給用として用いてもよい。また、3つの電極のうちの一部を、ペーシングパルスの心臓Aへの供給に用いてもよい。
【0037】
図12および図13は、3つの電極の例を示している。
図12においては、リード3の先端から順に、ショート電極51、ショート電極52およびロング電極61が備えられている。ショート電極51,52は、上述したチップ電極5のように十分に短い電極であり、ロング電極61は、上述したリング電極6のようにチップ電極5に比べて十分に長い電極である。
【0038】
この場合、ロング電極61とカン電極4との間に交流定電流が供給され、カン電極4と一方のショート電極51/52との間の電圧が測定される。また、2つのショート電極51,52を用いて、心電信号の検出と、心臓Aへのペーシングパルスの供給とが行われる。
このようにすることで、肺インピーダンスの高精度の測定と心電信号の検出およびペーシングとを両立することができる。すなわち、十分に小さな表面積を有するショート電極51,52を心電信号の測定およびペーシングに用いることにより、ノイズの少ない心電信号を取得することができ、また、エネルギの低いペーシングパルスで十分なペーシング効果を得ることができる。
【0039】
図13においては、リード3の先端から順に、ロング電極62、ショート電極53およびロング電極63が備えられている。この場合、一方のロング電極62/63とカン電極4との間に交流定電流が供給され、カン電極4とショート電極53との間の電圧が測定される。また、ショート電極53をマイナス電極として用いて、心臓Aへのペーシングパルスの供給が行われる。
一部の患者においては、ショート電極53の位置の近傍においてペーシングパルスの高い効果が得られる。したがって、このような患者に対して、ペーシングをより有効に行うことができる。
【符号の説明】
【0040】
1,1’ 生体インピーダンス測定装置
2 筐体
3 リード
4 カン電極
4a カン−ベース電極
4b カン−チップ電極
5 チップ電極
6 リング電極
7 高周波定電流回路(電流供給部)
8 差動増幅器(電圧測定部)
9 帯域通過フィルタ
10 インピーダンス算出部
11 心拍数アダプティブフィルタ
12 心拍検出部
13 心不全診断部
A 心臓
B 肺
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13